乾 坤容我静 名利任人忙
(旧)教育基本法(1947〜2006) 改正に反対した文化人129 名の声明 憲法改正反対(九 条の会こちら

また眞理を知らん、而して眞理は汝らに自由を得さすべし。ヨ ハネによる福音書8章32節)

メ ディアはコミュニケーションの道具という素朴なイメージがあるが、もっともこの言葉は「中間」という意味であり、二つのものの間を取り次ぐという意味で はコミュニケーションの道具となるが、同時に最初は一つであったものを二つに分けるという効果ももたらす。メディアは、それがもたらす情報を共有し仲間意 識を持つグループと、そうしたものに無関心、あるいは反発するグループとの分裂をもたらす。メディアが発達すればするほどこの分化は進む。だから、メディ アの発達がコミュニケーションを豊かにするというのは幻想にすぎない。(佐藤卓己)

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■ 「はてな」の富柏村日剰・香港日記(テキストのみ)はこ ちらを ご覧 ください。

■最近のブログ化のご時世に敢へてブログ化せぬ日記を。の 心づもりでをります。敢へて全て讀むこと強ゐる日剩あつてもいゝのでは?と。
讀みにくいこと間違ひなきサイト乍ら今後とも御贔屓の程宜しくお願ひ申し上げます。
■香港の高級紙「蘋果日報」からの紙面、寫眞の無斷借用多し。同紙社主・黎智英氏自ら同紙の無斷借用轉用大歡迎と公言ゆゑ、それに甘えてをります。
2000 年11月24日からおそらくあなたは番目の閲覧者です。

四月卅日(水)写真雑誌の頁ぱらぱらと捲る。田中長徳さんが凄いのは(朝日カメラ5月号)ライカM2で巴里とリスボンの「ベタな」都市風景の写真が何枚か あり「こんな写真ならアタシだって」と思ったりさせておいて次の頁を捲ると「なんでっ?」と驚くリスボンの坂の街並み。見開きにどかーんと「なぜ50mm でこれが撮れるの」と。それが凄い。それにしても写真専門雑誌が朝日カメラにせよ日本カメラにせよ「デジタルでのプリント技術」の特集が結局はレタッチだ の色の補正だったりするのが悲しい時代。そのなかで前者に今どきマニュアル露出特集があったのは立派。だがふと考えればマニュアル露出という数十年前なら 当然のことが特集になることじたい隔世の感あり。
▼昨晩のロンバール指揮のロワール管弦楽団でピアノを弾いた宋思衡は数ヶ月前の香港フィルの「のだめカンタービレ」コンサートでラフマニノフを弾いた人、 とZ嬢が思い出す。去年のこのFrench Mayはリール国立管弦楽団(指揮はJean-Claude Casadesus氏)。ベルリオーズの「夏の夜」、ラヴェルのTzigane(ツィガーヌ)や円舞曲(La Valse)であったが、やはりS席800ドルと強気で4割程度の入り。香港で知名度低いが「いかにもフランス」の楽団来港は大歓迎だがエッシェンバッハ 指揮のパリ管弦楽団でもないかぎり、この値段じゃ香港では客集めは無理。小屋を満員御礼にすることが胴元の最も大切なことだと思うのだが……フランス総領 事館はせっかくの恒例なるFrench Mayなのだから熟慮すべき。
▼昨日読んでいた信報で、名前失念の書き手曰く、中国は義和団にせよ五四運動にせよ海外列強が中国に圧力かけ中国の国力が脆弱で対抗し得ぬ時に民衆が、殊 に若者が排外主義掲げ蜂起する伝統がある、と語り始め、今回の北京五輪に向う民族主義高揚について。今回の中国国内での仏貨不買や海外での聖火擁護など運 動の主体は八〇年代生まれの若者。中国の貧困を知らぬ世代のはずで、なぜ豊かな若者が、なぜまるで中国国歌=義勇軍行進曲の「起ちあがれ! 奴隷となることを望まぬ人びとよ!」の如く盛り上がるのか。それはこの若い世代の中国人にとって、殊に大都市や海外に留学するような世代の若者にとって 「中国は経済成長甚だしくすっかり大国になった」それなのになぜ欧米諸国が19世紀のように中国に干渉するのか、それじゃ中国は依然として弱小な立場に置 かれている事に対するフラストレーションの表れ、と。御意。だがその中国の経済大国ぶりについて昨日の信報は社説で「経済環境大変「世界工廠」不保」(経 済環境の激変で「世界の工場」の地位維持も危うい)と説く。すでに中国の製造業は人件費や物価の高騰やインフラ整備の遅れ、通運の問題(とくに内地)など で製造業が中国から更に第三国に移る傾向少なからず、と。日本は少なくとも数十年間、高度経済成長謳歌できたが、それも製造業に技術開発や技術水準維持と いった背景があったから。単に人海戦術と安い賃金、では魅力は十年ちょい、なのか。

四月廿九日(火)尖沙咀に渡らうと中環からスターフェリー。米国海軍のキティホーク号来港にて海軍兵が目立つ。キティホーク号は建造から41年でもうすぐ退役。41年と聞き アジアの平和のため「戦後ずつと」と思つたが数へてみれば60年代後半のベトナム戦争から、の「つい最近」の話。アタシもすつかり年をとつた。 Harbour Cityにて写真家・本城直季氏の“small planet”の写真展。本日開幕セレモニーあり招きあり。この人は大判カメラで所謂「アオリ」を利用することで鳥瞰からの現実の光景がまるでジオラマ模 型の如く映る写真で一昨年の木村伊兵衛賞を受賞。香港でもその撮影行はれ今回展示あり。朝日カメラで初めて見た時はそのジオラマ的な世界に驚いたが今日そ れを「全倍」に近い大きなサイズで至近距離から眺めると「アオリ」が目立たず普通の写真に見えることに気づく。早晩に久々にFCCのバー。数日分の新聞読 む。夕飯にサラダ頼んだがサラダでもポーション大のため半分残してお持ち帰り。尖沙咀。少し時間ありペニンスラホテルのバーに寄る。ホテルのアーケードの シャネル商店で白薔薇モチーフにした面白い首輪あり値段だけでも知りたいもの、と店内に入らうとせば入 り口の守衛がドアを遮二無二押へてアタシの入店を拒む。どうやら閉店時間の由。店内に客がまだ居るから施錠せぬのはわかるが「閉店」と掲げるなり、シャネ ルほどの店ならドアを恭しく開けて客に「申し訳ございません。本日はすでに閉店でございまして」と慇懃に言へばよからうに、それを守衛君に諭す。ペニの バー は旧正月以来久々。なぜ覚えてゐるか、といへば旧知のバーテンダーP君に「今日はだいぶ静かだね」と言ふと「旧正月の中日ですからね」と答へられた記憶あ り。でも今晩も閑か。理想的だが。ドライマティーニ二杯。有名ホテルには奇妙は常連客はつきものだが、先日も今晩も見かけたのが「酒を取りに来る客」。カ ジュアルな格好の中年の白人客、バーに現れジントニックなど注文し出来上がるとグラスを受取りバーを出てゆく。宿泊客ならルームサービスもあるのに。バー テンダーも手慣れたもので伝票にサインも求めず記録するのみ。かなりの常連。居住者かしら。それにしても酒代だけでも馬鹿になるまい。香港文化中心。Z嬢 と五月恒例の“Le France May”で 仏蘭西の国立ロワール管弦楽団の演奏会。客は六分の入りの悪さは中国全土席巻の反仏感の煽りか(笑)。Alain Lombardの指揮。ビゼーの「アルルの女」序曲。いきなり「オーケストラがやつて来た」の公開録画のようだがロンバールの指揮するこのロワール管弦楽 団が「オケとしてのチューニングが合つてゐる」第一印象。ロンバール氏の椅子に坐つたままの指揮者として最小限の動きは怠慢でなく「これだけでオケが響 く」凄さ(歌劇の演奏指揮が長いこともこの指揮法に関係あらうが)。ロワールの楽団は「どこか突出して凄い」わけぢやないがフランスのオケらしひ「滑ら か」さ。ビゼーに続き陳怡なる中国の作曲家の「多耶」なる小曲。ショスタコーヴィッチ以降の現代音楽が武満すら理解できない私。続いてドビュッシーの 「海」。いつ聴いても、これが北斎の冨嶽三十六景「神奈川沖浪裏」ぢやないのは確かにしても、この曲のどこか「海」なのか、波の折り合ひといへばさう聴こ えるが、いかにもフランスの印象派つぽい作品といふ以外、アタシの乏しい想像力では無理。中入後、宋思衡といふピアニストでラヴェルのピアノ協奏曲ト長 調。演奏前にZ嬢に第三楽章つて……と尋ねるとZ嬢曰く「ほら、ゴジラ、ゴジラ、ゴジラとメカゴジラ、つてフレーズの曲」と歌詞つけて歌つてくれる。あり がたいといふか、何といふか。ワーグナーの「大地の歌」が李白の世界なら、まるで中華拉麺の絵柄のやうな印象の第1楽章、第2楽章はもしこの私のほか誰も ゐないペニンスラホテルのバーでこの楽章の最初のピアノソロの部分流れてゐたら……どうしよう。おカネを出して借り切つてツィメルマンを招いて演奏しても らへたら。で、そしてほんとに「ゴジラ、ゴジラ、ゴジラとメカゴジラ」が耳に馴染んでしまつて笑ひ堪へるのが辛い第3楽章。……が全般を通じ今晩のピアノ 奏者の宋思衡はこのオケに応へてをらず。踊りきれてゐない、といふか。で最後はストラヴィンスキの「火の鳥」組曲版。曲を聴いててふと思ひ出したが「火の 鳥」を最初に聴いたのは冨田勲のシンセサイザーなのだ。ついでに言へば「ダフニスとクロエ」も。ずつと坐つて指揮してゐたロンバール氏がだんだん高揚し指 揮も大袈裟になり顔も高揚し……最後にタキシードの糸を一本引き抜くと深紅のタキシード に大変身か、と思つたのは火の鳥といふとアタシは2年前だかにベジャールのバレエ團の香港公演で那須野圭右なる踊り手の火の鳥を見た のが最後。溌剌とした踊りであつた。予想以上に素敵なロンバール指揮のロワールの楽団。でもS席800ドルは香港では高い。私らも不確定要素多すぎ安い周 辺席にしたがロンバールの指揮を斜めから眺められたのは儲けもの。ちなみにアンコール曲はカルメンと「アルルの女」序曲のアンコール仕立て、に曲目不明の ブラームス?(とZ嬢)、アタシはメンデルスゾーンか、と思ふ弦のソナタを静かに1曲。
▼日本でガソリン値上げで160円。香港はHK$16.4(214円)と比べれば、まだ安からう。米国だの豪州の田舎ならまだしも、あんな狭い島国での自 動車社会ぶり、あらためて考へ直しては如何。
▼中国山東省の鉄道事故は結局、人災。高速列車に対する時速制限措置を地元鉄道管理当局が徹底してをらず。省の鉄道局の幹部更迭は当然として同局党委書記 も更迭といふのがお国柄か。
▼新銀行石原に1,400億円の公金投入。都知事選での石原氏への投票が300万票なら石原慎太郎に投票した都民1人あたり46,670円。
▼信報の今日の連載で劉健威兄が料理店情報誌Zagat香港版の近々の出版について書いてをられるが、その中で米国のTimes誌が香港の或る老舗洋食屋 をbest of Asiaと評してゐるのを嗤つたが、健威兄はその食肆の名前こそ明らかにしてをらぬが隣のコラムで唯靈兄が自らを肉食獣と称し好物のSteak and Kidney Puddingを讃めてゐたのがjimmy's Kitchenで何たる偶然。唯靈氏はJKが大のお気に入りだが劉健威兄は「今更あの肆が何なのか……」といふところ。アタシ的には本来であれば小川軒、 たいめい軒レベルで残れる肆だが中環の肆のサービスの横柄さに呆れ「まだマシ」であつた尖沙咀店も緊張感に欠けるきらひあり、と思へてならず。偶然で並ん だ、といへば商務印書館の中環の店をちよいと覗いたら平積みの書籍で黎智英氏の人生論語る本と李小鵬のビジネス成功本が並んでゐて大いに嗤ふ。偶然なのか 意図的なのか……。黎智英といへば反中国独裁、反権力の蘋果日報社主だが、天安門事件で時の首相・李鵬を「バカ」と罵つたのがつとに有名。その電力皇帝・ 李鵬の娘が李小鵬なのだから。

四月廿八日(月)なんだか涼しい日が続く。例年、この四月のQE II Cupの時はもう汗だくで競馬観戦してると日焼けしちまふくらいなのが昨日もずつとジャケット着たままでも肌寒いくらゐ。さすがにここ数日ヘヴィな飲食続 き今晩くらゐ胃を休ませようか、と思つたが蛤を「ためしてガッテン」レシピで焼いて食べることとなり、つい少しだけ菊正宗。蘇曼殊の『断鴻零雁記』続き読 む。
▼中国山東省での鉄道列車事故。香港のニュースが大きく取り上げるので、ふと中央電視台の午後7時のニュース眺めると、冒頭は中共中央政治局会議で政治改 革が焦点に、といふニュースから始まり杭州湾にかかる自動車専用大橋の開通、平壌での友好的な!聖火リレー等々「明るい」ニュース続き、この鉄道事故の ニュースはなんとニュース開始から16分後。しかも「山東省で発生の鉄道事故対して胡錦涛国家主席は迅速で重要な指示を出し、それに呼応して関係機関が対 処、と政府の対応の良さをさんざん讃めたあと、やうやく「今回の事故の死傷者は……」と事故の内容に触れる。さすが……呆れて言葉もなし。ついでなので珍 しく一党独裁国家の晩7時のテレビニュース眺めれば、ラサでの暴動についての続報もあり。参加したチベット系住民が涙ながらに「自分たちはつい悪い連中に 煽動され国家や社会に重大な破損を与へる暴動に参加してしまつた。心から反省してゐる。もし政府が自分にもう一度立ち直る機会を与へてくれるなら……」と 政府の寛容な措置を求める。それに温かく応じる政府……嗚呼、なんて美しい世界かしら。
▼五月二日の北京五輪聖火リレーで沙田の経路付近では団地で当日は洗濯物を目立つところに干さぬやうに、だの路上の清涼飲料の自動販売機撤去求められるだ の当局の動き活発。尖沙咀の重慶マンションでは昨晩、警察により出入りの者の身元確認実施されチベット独立など訴へ聖火リレー撹乱の怖れある者の取締り実 施。結果、居留ビザ失効や不法入境、窃盗犯容疑者や麻薬保持者など「とばつちり」で警察のお縄にかかる。
▼昨日の競馬関連の忘備録。チャンピョンマイルの覇者、Good Ba Baは安田記念と米国ブリーダーズカップ参戦に意欲見せ、同レース二着のArmadaもSize調教師が安田記念に言及なら、その二頭は当然として、と Bullish Luckも9歳の老馬ながら三着と健闘し先月のドバイDuty Freeで13着の汚名返上、さすが05年〜06年と同レース二連覇で昨年のドバイワールドカップ三着の駿馬と思ひ起こさせてくれたが、その Bullish Luckも安田記念に呼んでくれないかね、と。QE II Cup優勝のArchipenkoはde Kock調教師が「つぎはRoyal Ascotだ」と気勢あげる。ちなみに馬主のシェイク・モハンマド・ビン・カリファ・アル・マクトゥーム様はドバイ首長のシェイク・マクトゥーム・アー ル・マクトゥームの筆頭従弟の由。de Kock調教師は05年にGreys Innで同レース二着(優勝は香港のVengeance of Rain)で、いつだつたか南アフリカ国家聞いた記憶が、と思へば翌年の同レースではWeichong Marwing騎手のIrridescenceで優勝、と常連でした。お見逸れ。同レースで奮はず、のアタシの押したHelene Mascotはレース後故障発覚の由、このまま引退かしら。

四月廿七日(日)午前十一時に長野から来港のI氏とI氏投宿のシェラトンホテルで落ち合ひ競馬に行く前に腹拵へ、と重慶マンションに入ればSwagatインド料理店がOpenと表示出てゐるが、中を覗くとまだ 準備中。でも入れてくれて朝から印度料理……だが印度人は朝から印度料理なのだよな。八幡屋礒五郎の七味いただく。ANAの深夜便開航でI氏は昨晩午後五 時に長野出て新幹線で東京、羽田に八時にチェックインすれば手荷物なしなら45分後で出発で、香港に深夜24:30到着。オンタイムに到着で手荷物だけな ら空港からのエアポートエクスプレスの終電(24:48)にも乗車可の由。沙田競馬場。競馬場に来たのが昨年の12月の香港国際つて長野在住のI氏と同じ(笑)。 こんな久々で勘も戻らぬまま(つて元来、勘も乏しいが)第4レースで70倍近い連複を当て、どうにか今日は地味に賭けてゐれば損はない、と思つて安堵して ゐるやうではダメ。香港競馬満漢全席の土屋さんにご挨拶。国際G1の チャンピョンマイルは昨年12月の香港マイルの覇者で敵なしの香港のGood Ba Ba(Schutz厩舎、Doleuze騎手)が余裕の勝利。一馬身差でArmada(Size厩舎、Whyte騎手)、三位はドバイ帰りの Bullish LuckでアタシはFloral Pegasusから流して、負け(6着)。QE II Cupは日本からマツリダゴッホ(昨年末の有馬記念で優勝)が参戦で人気高。これとドバイ帰りで体調イマイチのViva Pataca(ドバイではシーマクラシック二着)外すまでは出来たがHelen Mascotを軸にして8着。優勝はドバイのDuty Freeで3着のArchipenkoで、結果論だがこの単勝HK$148はおいしい。なぜArchipenkoを連複では入れてゐて単勝(せめて複勝で も)買へないのか、の馬券下手。斎藤さんはちやんと単勝押へつ。さすがドバイからの視点は違ふ。最終レース終はる頃に小雨。先日のマカオ競馬で地場G1の マカオ香港トロフィーを12番人気(単勝70倍)で優勝の内田利雄騎手をお見かけ。Iさんとお仕事終はつた斎藤さんと三人でタクシーで深井。Z嬢合流しワ インを4本仕入れ裕記大飯店。豪州のHardyのSir Jamesなる発泡酒、オイスターベイ(シャルドネ、07年)、亜爾然丁のEtchart Rio de Plata(Mendoza、04年)とWolf BlassのPresidentsセレクションだつたか(もう酔つてゐる)のShirazを飲む。裕記は日曜晩でかなりの混雑。場内放送で「鹵水鵝が売り 切れ〜」とか流れ焼鵝もいつもなら、まづ注文するが葡萄酒の順番で注文せずにゐたが「深井まで来て焼鵝が売り切れで食べれず」ぢやお客人にあまりに失礼な ので注文して、つい白葡萄酒飲み干し赤になるまで食べずにゐたら、美味しい焼鵝がすつかり冷めて油が固くなつてしまつたのは反省。上湯瀬粉誂へどうにか復 帰。かなり酔ひミニバスで爆睡のうちに佐敦。

四月廿六日(土)晴れのち曇り。朝、長野の聖火リレーをNHKの中継で眺める。東京五輪の時の「聖火を迎へる国民の笑顔」のあの時代のわかりやすい明る さ。今回の五星紅旗溢れる中の長野の態は、いかに五輪が政治的なものか、愛国心とは 何か、の怖さ正に見せつけられた思ひ。五星紅旗掲げ中国国歌謳ふ在日の中国人のうち89年に天安門にゐた者 も少なからず。政治は右も左もなく精神の高揚と何かの超克であるだけのこと。聖火リレー禁参の善光寺も聖火リレーの合はせラサ動乱での被害者追悼法会と は、これも政治的。午前中自宅にて机に凭り昼にZ嬢と湾仔。アルデンテ伊料理店にてパスタ食す。香港芸術中心に赴き地場のFabrikなる蒐集団にによるBanksyの展示会=作品即売会を観る。キース=ヘリングなど他の路上系 の作品も数点あり。Banksyの作風はアタシは好きだが「どこまでが自由だつた」のか、が気になるところ。作品がどれだけ政治的風刺や反権力の姿勢を帯 びてゐようと既に作品が数百万円で取引きされる中どれだけ、なのか……下手すると電通とか絡んでたりとかね。所用済ませ早晩に湾仔の某ホテルロビーで斎藤さんと待ち合はせ。葡萄酒仕入れてタ クシーで中環。鏞記酒家でZ嬢と三人で夕食。発泡酒 Greenpointで皮蛋と生薑漬け、海月、白切鶏を食し中入りは豆腐。それから魚香茄子煲と通菜の炒め物でCloudy BayのPinot Noir(06年)飲む。いい感じ。斎藤さんから月本さんが 生前編集されたゐたレーシングポスト紙いただく。1月の月本さんの告別式で余の弔電が読まれたことを知る。

四月廿五日(金)雨。朝日新聞に『マカオぴあ』なる「ぴあ」の出した マカオ観光のmook本がついて届けられた。創刊号の由。アタシの世代だ とmook本と聞くと、どうもすぐゾッキ本彷彿するが、「刻々と変化するマカオ」の最新情報満載といふがカジノ産業と世界遺産だけでは発行が隔月でも新ネ タ乏しからう。だが500円と価格表示こそあるが一見さん相手の観光ガイド雑誌と思へばマカオ観光局とのタイアップで採算は十分。それにしても、わたせせ いぞうの描くオシャレなタイパのカジノホテル界隈が実際にはいかに殺伐としたものか、香港からタイパ行きのフェリーが「コタイ・ジェットはブルーの船体が 印象的な、新しくてラグジュアリーな高速船。船内は落ち着いた、ラグジュアリーな空間となっており、船内で優雅な時間を過ごすことができる」なんて紹介も 現実にフェリーなど田舎観光客と博徒の喧騒で「なにがラグジュアリーか」と嗤ふばかり。マカオと言へば国家主席胡錦涛君の勅命にてマカオの賭場開設制限。 着工中、批准済み以外これ以上認めず。中国の田舎漢らの賭事狂ひ、どこまでが個人の遊び金か怪しい人民資産ドブに捨てるが如き態、需要上回るカジノ建設 ラッシュ沈静化……等々、理由も様々あれ共産党主導の国家で賭場は原理的にいけません。晩に銅鑼湾の某「京川滬」食肆にて宴会あり末席を汚す。京川滬つて のは美味くないものの代名詞のはずが物凄い店の盛況で香港人にとつて京川滬=ファミレスなのだ、と思ふ。
▼加藤周一氏が「随筆」について(朝日新聞)。日本の随筆は枕草子や徒然草のやうな「日本文芸の伝統において」「全巻を通じての概念の建築的構築を欠く」 「各章各節の間にほとんど関係がない」もの。周一さんが随筆の定義として挙げるものは
・随筆は原則として現実の出来事を扱ふ。出来事とそれに対する作家の反応。
・定義が可能なのは、表現の形式及び内容の特徴を組み合はせた場合である。
・「随筆」とは日本国で発達した文学的表現形式の一つ。(なぜ「日本」でなく「日本国」としたのか周一さんに尋ねたいが)
・現実の環境に関心を集中し、空想の世界に遊ばない(一種のレアリスム)。
・表現は概念的建築の全体ではなく、細部に向かふ(茶室の美学)。
・随筆の全体を貫くものが全くないわけではない。それは作者であり、文体にまであらはれる彼または彼女の個性。
等々。なるほど、と思はされるが大いに疑問なのは
昔は日本の伝統的造形美術において非構造的空間は最大の弱点だと考 えていた。文章においてさえ随筆における強烈な説得力の欠如は、その限界だと感じていた。
といふ言ひ分。この言ひ分は「だが違ふ」といふ方に論は進むのだが、この言ひ分の「考へていた」「感じていた」のは誰のことか。一般論としてなのか周一さ ん自身なのか。かういつた「日本は非構造的、非論理的」といつた概念こそ(本多勝一の「日本語は論理的ぢやない、といつた誤謬」といふ指摘の通り)身贔屓 な勝手な「日本は特異」観念の温床ぢやないかしら。いづれにせよ周一さんは、さういつた「この国の言語表現の自由も、ついに、過去をふり返るのが勇気の問 題になるところまできたのか、と思う」として良書に挙げるのが、なだいなだ著『ふり返る勇気』。これは是非読んでみたい。
▼国立民族学博物館館長の佐々木高明・元館長のチベット問題に関する「問われる「先進国の品格」」(朝日新聞・私の視点)が秀逸。佐々木さんは一般的に近 代国家なるものが18世紀以降に西欧で「一国・一民族・一言語」を標榜して建設されたもの、として、それが政治権力を握つた主要民族が他の民族を抑圧し、 優等と劣等に民族を差別するものとなつた。20世紀になり「知のあり方」が変はり観察者と観察される側の立場の見直しなどが行はれたことは民俗学や文化人 類学では周知の事実。さういつた視点から佐々木さんはチベット問題について、昨年9月に国連の「先住民族の権利に関する国連宣言」を採択した日本がは、こ の夏には北海道洞爺湖サミットでチベットなど民族問題に話題が及んだ時、サミット議長国としてどう対応するのか、と。これに対応できてこそ「先進国の品 格」ぢやないか、と言ふ。まさに御意。「品格」といふ言葉を使つたのが実にスマート。何だか国家の品格だか女性の品格と最近「嫌な使ひ方」ばかりされ変な 本がベストセラーになつてゐるが、「国家の品格」なんて感覚じたいがいかに馬鹿げたことか、と思はされる。

四月廿四日(木)蘋果日報に「老董理髮店最後一剪」といふ記事あり(こ ちら)。中環はヱリントン街の上海新文華理髪店が創業四十五年で明日閉業の由。経営者の理髪師が前行政長官・董建華君の理髪を長年し続けて ゐることで記事の見出しが「老董理髮店最後一剪」。アタシもミッドレベルに住み始めた十数年前にこの理容店に通ふやうになり、構へた手が多少震へる老齢の 理髪師にお世話になること五、六年。その後、坊主頭で自分で刈るやうになり、この理容店の扉を開くこともなくなつたが昨年、また髪を伸ばし始めての再訪。 昔は五人ほどいた老理容師も三名となり洗髪師が一人。黄昏の様子。再訪も一度で終はる。今回の閉業、アタシがいつも刈つて貰つてゐた師傳が86歳の最高齢 で、1つ下と経営者が72歳と理髪師の加齢も大きいが家賃高騰凄まじく月HK$2万がHK$8万(約100万円)に。上海理髪で日曜休で25日営業として 洗髪込みHK$95の商売では家賃払ふだけで日に34人の客が要る。理容師も高齢なら客も中年以上ばかりで客の数も先細りではとても営業続けられず。記事 によれば40年前の賑はひなど一人の理容師で農歴正月前の晦日は128名の髪を刈つたこともありと言ふ。
▼李嘉誠財閥の給与。香港で最高所得のサラリーマンは李嘉誠率ゐるHutchison WhampoaのMDであるCanning Fok君で年収HK$1.5億(約20億円)也。日収がHK$40万(約520万)。日本のサラリーマンの平均年収以上を1日で稼ぐ。換算すれば時給が HK$1.7万(22万円)で1分に3640円稼ぐ。で李嘉誠先生ご自身は、と言へば給与こそ大卒程度の月給しか得てをらぬのは巨大な株式配当があるから で、昨年のその総額HK$23億(約300億円)也。日収が8千万円で時給が340万円。1秒で1000円以上稼ぐ。

四月廿三日(水)クレジットカード利用で最も重要なのはマイレージ特典。ユナイテッド航空はじめ曾て平和な時代はUS$1=1哩で香港もUS$1等価のHK$8=1哩踏襲したが マイレージ普及で今更これが客引きにもならず原油高での航空運賃値上げで当然、信販会社が航空会社から購入するマイレージの負担高となり最近はHK$12 =1哩が普通。アタシ自身はマイレージ換算ではかなり優遇のアメックス利用してきたがアメックスの高ピーさに呆れ数ヶ月前に今だにHK$8=1哩を維持す るキャセイパシフィック航空の「1ランク上の」クレジットカード(Citibankが発行元)をゲット。でマイレージ稼ごうと思ったら数週間前より 「Citibankがキャセイのカード発行中止」という噂あり。但し同カードの発行は今後せぬが既存メンバーについては「1ランク上」の者はそのまま Citibankのプラチナ(Amexならゴールド程度だが)に移行措置とる、と新聞に記事あり。マイレージ換算率がいいことで、このカードは香港で人気 だがCitibankがキャセイに払うポイント手数料が原油高もあり年間3千万ドルに達するそうでカード発行の銀行としてはカード利用客が増えるほど消費 が伸びるほど支出大。で結局、提携決裂。結果、本日、郵送でご案内が届く。Citibankのプラチナカードでマイレージ換算はHK$8=1哩を維持。移 行期間特典で(客の乖離防止で)3ヶ月はHK$6=1だそうな。安泰のようだが先行きはどうも怪し。苦渋の選択で、マイレージ換算が良いアメックスへの復 帰とする。アメックス社に電話すると前回アタシが三行半つきつけた担当者が「おかえりなさいませ」とばかりな慇懃ぶり。

四月廿二日(火)かつてTrailwalkerで100kmの山歩きなど一緒にしたI君が横浜より仕事で来港。晩に渣甸山の益新美食館でI君、K氏、Z嬢と会食。葡萄酒持込みで料理より葡萄酒の 方が高値では食肆に申し訳ないが上湯(火局)蝦、セ ロリと烏賊の炒め物で豪州はDog Pointの03年のシャルドネ、梅菜(扌口)肉と紅焼豆 腐で豪州のThe Lodge HillはJim Barryのシラーズ06年とCh.nuef du papeの03年。少しづつワインと広東料理が合せられるやうになつた。I君の通勤、自宅は横浜の東横線は菊名近くで仕事場は品川。で在来線通勤だと1時 間かかるため新横浜から品川まで新幹線通勤(笑)。新幹線の乗車時間は10分で便意など催すとトイレに入つて出てくると到着の由。食後、中環に行きFCC のジャズバーで一飲。トイレの壁にかかつた新聞で今日のFT紙のトップ記事は訪日してゐるEUの経済担当コミッショナーが日本市場の閉鎖性を指摘。The Economist誌による「ビ ジネス環境」ランキングではデンマーク、フィンランド、シンガポールに続き香港は7位。台湾が18位で智利が20位でで日本は26位といふ。経済 停滞、少子化など様々な問題をかかへ閉鎖したままでいつたいどうするのかしら。K氏曰く(ビジネス環境や閉鎖性など別にすれば)日本の経済力は身分相応で 身の丈の豊かさ。オイルマネーや金融投資といつた謂わば「虚業」が世界を跋扈するが、例へば原油価格高騰も、航空運賃でみれば運賃は多少値上がりしてゐる とはいへ25年前とほぼ変はらず、ただ燃料は高騰してゐるのだから、つまり燃料供給商以外は確実に減益。オイルマネーが肥える以外は明らかに利潤のない世 の中になつてゐるつてことか。
▼偶然に親の逝去や疾病について2つの話を聞き考へさせられる。一つは米国在住の日本人女性。米国の永住権申請中に日本で母親が亡くなつたが2年だかの申 請期間中であつたため日本に戻りたくても戻れず親の死に際に立ち合へなかつたといふ話。もう一つは香港在住の三十代の、所謂「働き盛り」の男子が豪州在住 の父親の癌が重いため父と暮すために(介護もあるが介護以上に親子として「一緒の時間を過ごすため」)仕事を辞め豪州に戻る、といふ話。自分が先考逝去の 際に何をしたか、できたか……と思ふと自省するばかり。

四月廿一日(月)晩にジムで一時間の有酸素運動。蘇曼殊の『断鴻零雁記』読む。
▼マカオの賭場産業について。マカオの労働人口の14%が直接、賭場産業に従事。そのうち3.2万人が賭場でもディーラーであるとか直接、賭事に関はる仕 事。学歴は中卒でも英語か中国語(普通話)が話せればディーラーになれ、その収入は平均で月収13,266パタカ(約18.5万円)でマカオの平均賃金の 1.7倍と高収入の由。
▼中国各地でのフランス系小売店(Carrefour)での不買運動や世界各地での中国系市民の北京五輪支持運動の激化。辛亥革命か五四運動の如し。中国 政府は冷静な五輪成功支持など訴へるが、信報の社説曰く、中国の現体制下では(直接か間接か別として)官方の支持がなければ広範な民族情緒や排外運動の高 揚は能はず、と。林行止専欄も社説に続けて、世界各地での北京五輪支持運動は、その主体が各地の華人ビジネスマンや留学生、駐在の中国政府系職員らによる もので各地で「黄禍」感を生む点で将来に後遺症を残すであらう、と指摘。日本や韓国など五輪開催を契機に国際社会で確実な地位を得たが中国にとつては寧ろ 北京五輪後に多くの国家との関係改善がまづ先決で、五輪開催=とても各国と同等の資格での地位は得られぬもの。中国政府は海外の反中国勢力台頭の背景には 経済成長続ける中国への反感といふ見方があるが、中国の経済成長と巨額の外貨備蓄を可能にするのは人民の、殊に貧困な地方から都市に流入した労働者たちの 労力にあり(労働者に還元されるべき利潤が経済成長と外貨備蓄にかなり回されてゐる、といふこと)、已に高度な科学技術と資本集約型の経済体制である西側 先進諸国にとつて、その中国が警戒されるほどの地位にあるか、冷静に見るべきと言ふ。中国はチベット問題を含む内政の様々な課題の対処を一歩間違へば、今 は五輪で高揚する「愛国と統一」の勢ひが、いつ「不愛国と分裂」に転化するかも知れず、とする。

農歴三月十五。穀雨。夜半に雨歇む。昨日の雨は春雨とは言ひ難き豪雨にて穀雨どころか農作物の被害甚大の由。昨日の降水量は237.4mmで4月の1日の降水量としては過去最高、黒雨 警報発 令も4月は初。今朝は薄日もさすが香港ジョッキークラブは昨晩のうちに本日の競馬開催取り消し決定。沙田競馬場での来週の国際重賞QE II Cup開催控へ芝養育のため本日の週末競馬はハッピーバレー競馬場。後者は馬場の水はけ悪しく本日も大雨ありとの天文台の予報参考にしての判断。結果的に は天気好転にて天文台がまた嗤はれジョッキークラブの迅速な判断も徒となる。朝から机に凭り天気好転で久々に裏山に入り一時間半走る。ジムで一時間の筋力 運動。午後遅く湾仔。永華麺家で薑葱撈麺食す。メニューでは「蠔油薑葱撈麺」で蠔油=オイスターソースかかつてゐるが蠔油で折角の生薑と葱の旨味が負けて しまひ蠔油なしで注文した方が断然美味い。食肆によつては蠔油のついた料理を蠔油なしにすると嘘でも1ドルくらゐ引くが永華麺家は蠔油なしでも値段は一 緒。肆がセコゐのかアタシがセコゐのか。星巴で珈琲キメてから香港アートセンター。まだまだ地味に5月まで続く香港国際映画祭(第二部)で若松孝二監督の 『壁 の中の秘事』看る。1965年に東京郊外の団地を舞台に、悶々とする浪人生と淫蕩な主婦を主人公とし、日常に潜む狂気を描いただけでも着目に値 す。かういふ映画を看ると市井で狂気がけして昨日今日に高まつてゐるのではなく昭和40年の東京も狂気が潜み、高校生が近所の主婦を衝動的に殺害すること が「けして 2008年の社会問題ではない」と冷静になれる。さういふ意味で1965年のこの映画は大切。で1965年だから団地妻は実は旦那と浮気相手が60年安保 の同志で、革命運動も虚構の愛情も「一時の情熱によるあやまち」なんて語つたりする。だがブラック師匠曰く
この時代、若松だけでなく、渡辺護も山本晋也も精力的に映画を撮っ ていたし、黒澤明のプロデューサーだった本木荘二郎もピンク映画を撮っていたからピンク黄金時代だったのかもしれない。ただはっきり言えるのは、あっしは こんな政治色の強い映画は苦手だということだ。同じ政治色が強くても山本薩夫作品は見事なエンタテイメントになっていたんだから、若松孝二は不器用だった んだろう。
と。 それにしても、1965年の若松孝二の75分のこの映画に香港で80人くらゐの観衆が日曜夕方に鳩まることが凄い。隧道巴士で尖沙咀東。どうでもいい茶餐 庁で夕飯。羅漢齋飯を注文したのは蘇曼殊の『断鴻零雁記』をさつきから読んでゐたからかしら。科学館で先頃亡くなつた楊徳昌監督の『牯 嶺街少年殺人事件』看る。1991年のこの映画、香港首映当時と、そのあと映画祭で1度、さらにVCDでも看てゐるが今回再看は楊徳昌監督の追悼 感もあるが、アタシが看てゐるのが「3時間」作品なのに対して今回の作品が「4時間」の所謂Director's Cutだから。3時間作品に更に1時間は「長すぎ」のやうだが、今でこそ必要以上にスター然とした張震が演じる主人公「小四」の家族の物語、牯嶺街の横丁 のご近所のエピソードが語られ、小四の恋人となる小明の男友だちの変遷なども3時間作品ではかなり憶測であつたが明確に描かれ(殊に校医)、小四の悪友た ちも個性がはつきりとする。何度看ても飽きないのは、単に青春映画に非ず1960年代初頭の台湾の、殊に外省人の不安定な状態が楊徳昌といふ当事者の心情 吐露で描かれてゐるからで、今になつて思へば1991年といふ登輝4年だからこそ、かうした映画が撮られたことも歴史的(ちなみに侯孝賢監督の『非情城 市』は登輝2年=1989年)。映画撮影所が学校(全日制と夜の定時制が象徴的)、不良の少年少女が屯する小公園といふアイスパーラー(白先勇の『孽子』 は台北の新公園)と小四らの自宅と並び物語の重要な舞台となるのは楊徳昌の戦後台湾映画へのオマージュだが、小四が夜遅くの映画スタジオで盗んだ懐中電灯 が小四にとつての夜の生活に明かりを照らす重要な道具となる。長い長い物語の大詰めで小四が懐中電灯を映画スタジオに返す。その瞬間、明かりを失つた小四 が電灯の替はりに手にした刃物……とかうした「劇的」な演出はアタシ好み。楊徳昌がかなり舞台劇の演出を取り込んでゐること、また映像の天然色がかなり 「ライカ的」なこと、またいろいろこの映画で気づかされることあり。19時に見始めて映画跳ねると23時。帰宅途中に車窓から空を早く流れる黒雲の絶え間 に十五夜の月を看る。蘇曼殊の『断鴻零雁記』続き読む。

四月十九日(土)未明より雨。台風が多少香港に近づきシグナル3に騰る。多少宿酔あり昼前にジムのサウナに浴し來記にて叻沙でなく紫 菜四寶粉食す。雨強し。港安病院に入院の某氏見舞ふ。大雨は困るが着る機会の ないナイロンのレインコートやお気に入りの傘をさしたりは多少気分良し。所用済ませ無印でお買ひ物して帰宅。晩に雨強まり黒雨警報発令。昼間なら仕事も休 みの黒雨警報だが土曜晩とはまことに残念。香港電台Radio-4にて今月の毎土曜晩はカラヤン生誕百年の特番あり。今晩はワーグナーの9番。デジタル録 音とCD化に積極的に関はりしカラヤンが1982年に伯林フィルと録音の黎明期のCD盤。白先勇の『孽子』読了。様々な父子の物語がこの物語に登場する。 隠喩はまさに国民党の中華民国といふ象徴的な父性と、近代国家のもつホモフォビア、それと対峙する母性としての新公園の闇、か。「断背」を怒つた父から勘 当された<私>が父から享受できなかつた愛情を新公園に鳩る弟たちに授けること……主題はサリンジャーの『ライ麦』に通じるところ多し。

四月十八日(金)海南島に上陸の台風でシグナル発令。強風吹く。四月の台風警報発令は1949年以来初の由。本日献血。先月二十日には前回の 献血から四ヶ月経つてゐたが眩暈などフラフラでとても献血できず今日に至る。献血すると鬱血が抜けたやうに肩凝りなど失せる。散髪。鵝頸橋の和居和居にて F君とその友人2名と飲む。

四月十七日(木)アタシは自宅でカレーライス食す時はバーボンのソーダ割り、と決まつてゐる。おそらくカレーライスに合ふ酒としては最適。適度な甘味と ソーダの爽快感がカレーに合ふ。印度料理屋に行くとキングフィッシャーなど印度麦酒もあるがカレーにはアタシは麦酒が美味いと思へぬ。印度料理屋のバー コーナーにウイスキーが比較的充実してゐる。でカレーにはバーボンのソーダ割りなのだが飯がハヤシライスとなるとバーボンでは甘すぎて同じソーダ割りでも ウイスキーが良い。今日はハヤシライス食す。で我が家には貰ひ物で珍しくオールドパーがあるのでオールドパーのハイボール。バーSでハイボール注文した時 に如何です?と言はれたのがオールドパーで、これはどうも目白の田中角栄邸の水割りの印象強すぎ自分から飲まうといふウイスキーでなかつたが、なかなかキ レのいいハイボールとなる。食事の時にソーダ系を飲むなんてアタシにとつてはカレーライスとハヤシライスの時だけなのだ。寝しなに白先勇の『孽子』続き読 む。
▼国家統計局が今年第1四半期に中国のGDPは10.6%上昇、に対して消費者物価は8%増と発表。表面的には経済成長がインフレ率上回つたが昨年同期比 で経済成長は0.1%減に対してインフレ率は同比5.5%増。政治問題は敢へて二の次、三の次として党の末端幹部までの汚職、都市開発での強制立ち退きな ど民生問題に加へインフレでの生活難は中国にとつて今後の最大の問題。
▼北京五輪の聖火リレーは各地で妨害受けるが、その妨害活動が中国人の自尊心に触れシドニーでマスコミの反中報道に抗議する中国系市民のデモが1千人参加 の予想を大幅に超え5千人が参加し、各地で五星紅旗掲げ報道抗議や外国製品不買運動起きる。中国政府はCNNのキャスターの中国に対する発言を偏見的と正 式に抗議。昨日の信報社説は「没有民間言論 難抗西方傳媒」。民間のマスコミの報道での発言に政府が抗議すべきか。民間のマスコミがまだ認められる官方報道に徹する中国は西側の民間のマスコミに抗議 するには、まづ国内に自由な言論空間が必要、と述べる。御意。

四月十六日(水)早晩に帰宅。「たるゐ」のでツェッペリンの1〜2枚目聴きながら、やり残しのご執務。ふと2枚目の“what is and what should never be”の歌詞で気になる節がありCDの歌詞カード見ようと開くと、中 に渋谷陽一氏のライナーノーツ「発見」す。香港で購入の輸入盤(懐かしい言葉)かと思つたが邦盤で、3枚目まで全て渋谷氏のノーツありとは。東都は恵比寿 に住まひし八十年代後半にCDデッキなるものを、恥づかしい話だが音楽業界に身を置きながらCDデッキ持つてゐなかつたアタシを不憫に思つたか母にプレー ヤー贈られ、やうやく渋谷川見下ろす六畳一間風呂なしのアパートでCD聴けるやうになり、確かまづ購入したCDがツェッペリンやテレンス=トレント=ダー ビーなどであつた。だが今にして思へばなぜ当時、渋谷陽一のライナーノーツ見てゐないのか。考へてみると、おそらく、中学生の頃から徹底的にLPで聴いて ゐたツェッペリンであるから、CD購入してもLPに比べ余りに貧弱なCDのジャケットを開きもしなかつたのだらう、きつと。思はず3枚分の渋谷陽一さんの 語るツェッペリンを読み耽る。
▼豪州首相ケヴィン=ラッド君、北京訪れ北京大学で講演は見事は説普通話(こちら)。「中国の格言に、天も怖れ ず地も怖れず、中国人が唯一驚くのは外国人が中国語を話すこと」と冗談まで中国語で。外国語が話せればいひ、といふわけぢやないが、日本でも加藤紘一先生 が首相だつたら英語でも中国語でも常識の範囲内で各国首脳とコミュニケーションできたのだらうが。
▼香港で百軒目の星巴珈琲(スタバ)開店の由。香港の面積(1,075平方キロ)で内7割が自然公園と思ふと実質的には3.2平方キロ(1.8km四方) に1軒。さらに出店場所は繁華街に限られると思へば5分歩く圏内に1軒かしら。星巴の前に太平洋珈琲開業までは銅鑼湾の食街に1軒の珈琲専門店と「そご ふ」地下のポッカコーヒーくらいだつた。
▼東京鼠楽園開業25周年。アタシは二度だけ訪れたことあり。一度目は地元の商店街の視察。当初、何時間も並んでまで……と思つたが台風接近の荒れた天気 の平日でガラガラ期待して訪れれば期待通りの閑古鳥でスペースマウンテンなど待ち時間なしでご満喫。二度目は中学の恩師K先生のお嬢さん二人(長女のR嬢 は去年だつたかRicoh GR Digitalの評判をネットで検索してゐて、この日剰でアタシを見つけたさうな)がまだ十代前半の頃にエスコート。その二度だけ、もう二十年前のこと。 で東京鼠楽園経営するオリエンタルランド社が東南アジアでの鼠楽園展開の将来展望。東京でのノウハウ持ち込まれたら、それでなくても経営多難な香港鼠楽園 にとつては東南アジアからの客を奪はれること危惧、とSCMP紙。鼠楽園本社にしてみれば香港鼠楽園の建設では香港政府に土地埋立から造成、交通機関整備 まで提供させ自らの資本投資抑へたが、運営での困難に直面し、それなら運営内容には十分な実績あるオリエンタルランド社に任せれば更にリスク回避、といふ ところか。さすがなもの。
▼アタシが尊敬する在独の知識人・關愚謙氏は信報で積極的にチベット問題に言及。昨日の信報で關氏曰く、チベットが中国領土であることは明白な事実、で問 題は中共の毛沢東による極左の少数民族政策が元凶で、その余波が今日までチベットの反中感になつてゐる、と。關氏ほどの碩学でも、この認識か、と驚いた が、ハンブルク大学漢学系(独逸は今だに中国学がSinologyで漢学つてのがいひねぇ)の会合で独逸人の漢学者らですらチベット支持派=反中感が多い ことに關氏は「そもそもマルクスが階級闘争論なんてものを提唱したから毛沢東がそれを実践したから問題が大きくなつたのであつて、マルクスが独逸人だとし たら少数民族問題が階級闘争論で撹乱されたことには独逸人にも責任があるのではないか」と指摘し關氏は自ら「阿Q的な」勝利で微笑んだ、と。嗚呼。

四月十五日(火)晴。春になると陋宅に西日さすやうになる。早晩に帰宅すると今までに見たことのない西日が廊下から燦々とさしてをり何 かと思へば(地軸でも狂つたか?)陋宅より1キロほど離れたところに建つた超高層ビルが全面鏡張りで、そのビルに反射した陽が直撃。アタシの大切な酒棚や 廊下の壁にかけた古地図など日に焼けちまふよ、まつたく。夕方なのにブラインド降ろした部屋でドライマティーニ二杯。
▼立川での防衛省宿舎でのビラ配り有罪判決。「住民の私生活の平穏を侵害する」とするが結局のところ防衛省宿舎で自衛隊イラク派遣反対のビラ配りといふ政 治的行為だから問題にされたわけで、これが逆に共産党員が多数を占める団地で(つてそんなもの存在しないだらうが)紀元節復活のチラシが配布されたことに 住民が訴訟起しても「住民の私生活の平穏を侵害する」と裁判所は考へないで、きつとそれは憲法が保障する政治的表現活動の一つ、で済んでしまふのだらう。 そんなもの。この判決に対して奥平康弘氏曰く
市民がプライバシーを守る手段を国家に委ね、平穏で小さな自分だけ の世界に閉じこもって生きてゆくことを「自由」だと考えてしまうことも問題だ。基本的な自由という基盤がない社会は、非常に危うい。「プライバシー」がも てはやされる中、国家が枠をはめた個人の自由に安住する「庶民感覚」では、国家にとって都合がよい管理社会の方向に流されてしまうのではないか。
と(朝日新聞、私の視点)。御意。ふと思ひ出したのは5年近く前になるが巴里の地下鉄での光景。かなり混雑した地下鉄の車内で、一人の中年の共産主義者が 延々と政治演説。フランス語はアタシは解さぬがprolétariatだとかparti communisteとか、たぶん東側共産圏が崩壊しても共産主義の理想は……といふやうな内容。ちよつとキテしまつてゐる、この共産主義者のアヂ演説は 迷惑なのだが地下鉄の車内の乗客はぢつと耐へる。何故か。政治的演説であるから騒音、迷惑と否定してしまつては「自由」の否定に繋がるから、だらう。2駅 ほど過ぎて共産主義者は“merci beaucoup”と演説を締め括り下車(実は隣の車両に映つて演説を再開したのだが)。この男が去ると、誰も不満、苦情を口にするでもなく何事もなかつ たかのやうな車内。駅の構内でのジャズミュージシャンの演奏やアフリカンダンスも一緒。表現の自由の確保。
▼左丁山氏が蘋果日報の随筆で九龍站の大型商場「圓方」について書いてゐる。圓方を初めて訪れた左氏、西苑での晩餐だつたが、晩餐終へて食肆出ると圓方の 小売店は晩の九時だといふのに営業中。早々と店終ゐする中環と比べ、左氏は驚くが、広い商場を右往左往してやうやくタクシー乗り場に行き着くと今度はタク シーが来ない。中環ならタクシーに乗る客が長蛇の列だといふのに。左氏の連れ曰く、圓方は週末なら賑はふが平日はこの閑散ぶり、でテナントがどうして店賃 を払へようか、と。今後、都市拡大と交通機関の乗り入れで、いつの日か九龍站が賑はふのかしら、と。
▼信報で古典音楽評論の劉偉霖氏が香港芸術祭でのアンドラーシュ=シフのピアノコンサートについて書いてゐるがシフさんの怠慢について多少の酷評。シフさ んが塩川悠子さん(奥様)のバイオリンとチェロ(Miklós Perényi)との三重奏の第一夜に続きアタシも聴いた第二夜のリサイタル。予定では演目はシューマンの蝶々12曲、ベートーヴェンのソ ナタ17番・テンペスト、で中入り。で後半がシューマンの幻想曲ハ長調とベートーヴェンのソナタ21番・ヴァルトシュタイン。の予定がシューマンの幻想曲 までが前半に入り、後半はヴァルトシュタインのみ。劉偉霖氏曰く、曲調からしてシューマンの幻想曲を前半に組み込みヴァルトシュタイン単独した意図はわか るが前半の70分は長すぎ、また曲の演奏の間のとり方にも疑問呈す。これについて第一夜の三重奏も聴いたZ嬢に話すと、第一夜の三重奏で、とにかく客のマ ナー悪く、楽章の曲間でまぁざはつくは必要以上に咳払ひするわ、で曲の流れを壊すこと甚だしく演奏者もかなり閉口の様子だつた、と。会場の市大会堂の老朽 化した空調を演奏中は止めさせたほどのシフ氏、第二夜で意識的に曲間を短くして演奏続けたことには、さういふ背景あり、とZ嬢。御意。

四月十四日(月)復た朝三時頃目覚めてしまひ『少年への性的虐待』読み始め未明に読了。終日多忙。帰宅してドライマティーニ飲みさうになつたが清明節も過 ぎるとだいぶ日も長くなりジムまで走りジムでトレッドミルで走る。帰 宅して野菜主体の晩飯。米飯食さず、でこれで酒飲まなければ理想的なのだが。酒といへばジムの帰りにふと焼酎が切れてゐること思ひだし某日系スーパーに寄 つたが香港のスーパーで芋焼酎探すのは難儀で「いひちこ」売り切れで「いひちこスーパー」選んだが買つてから計算したら日本なら1,300円くらゐなのに HK$232つて3,000円とは……。なんか久々に「厚い本が読める」コンディションなので白先勇の『孽子』を国書刊行会発行の邦訳で読み始める。『少 年への』を昨晩読んでゐて、さういへば『孽子』の邦訳が未読のままであることを思ひ出したのだ。原本ではさらさらつと通読こそしたが漢語の細かい表現など 読みきれてをらず。この『孽子』は現代中国語文化圏の代表的作家の一人である白先勇の代表的な長編であり、それが翻訳大国日本で1983年の刊行から邦訳 刊行されずにゐたのは、原作の白先勇の散文の筆致を(日本語なら中上健次のやう)、しかも70年代の台北の公園を舞台に男娼に身を窶す十代の少年たちの世 界をどう日本語で描ききれるか、は容易ならず、だからか。それが陳 正醍氏(中央大学文学部教授)による邦訳で刊行は2006年。その訳は、会話の、とくに主人公の阿青の語る言葉が多少ぎこちなさが気になるが(他 の登場人物の生き生きした語りに比べ)、これも主人公の沈鬱感や戸惑ひの表現の一つなのか、とも思へ、この白先勇の小説が見事に和文で著された。面白いと は思つたが毎晩のことで十時すぎには睡魔に襲はれる。が深夜!十一時に携帯に電話かけてきた知人あり。それに起され眠れなくなり午前二時近くまで目が醒め たまま、この『孽子』を半分、250頁ほど読む。

四月十三日(日)昨晩十時半頃臥床とはいへ午前三時に目覚めてしまふ。永平寺の僧の如し。荷風散人日記大正十年読む。少し微睡み朝食。今朝は確か荃湾で 10キロのロードレース開催あり。だが「北京五輪記念」の冠つき、で「政治活動に加担しなくない」ので参加申込せず。午前中、中村紘子『アルゼンチンまで もぐりたい』読む。出来過ぎのやうな話が並ぶが華のある人が気取るところは気取りオッチョコチョイなところを見せて随筆を上手に書いてゐるから面白く読め る。アンナー=ビルスマのチェロでバッハの無伴奏(新)、カザルスのベートーヴェンのチェロソナタを聴きながら。昼にかけてジムで一時間の有酸素運動。帰 宅。自宅でゆつくり過ごすのなんてかなり久々。吉田健一『英國について』読了。健一さんが英國での酒について語るんだから読んでゐて飲まずにはひられな い。ドライマティーニ二杯。やはり大切なことは黄昏時の酒。シェリイ酒なんて人との待ち合はせ、
ドライのちつと河豚酒のやうな匂ひがする、どこか微かに苦いのと酸 つぱいのが一緒になつた味がするのを飲むのが、合ひの手に丁度いい。
……はシェリイ酒が河豚酒の味かどうかは別にして、夕食前の一杯には格好なわけで納得。それにしても英国旅行の旅のお供が河上徹太郎氏で、健一さんと河上 さんは二人で羽田を飛び立つた倫敦行きの飛行機で、持ち込んだ!新橋駅前の小川軒の酒の肴の折詰を広げウイスキーを飲み出す。なんて優雅な時代なのかし ら。ラジオからは日曜午後のオペラでムーティ指揮の維納フィルでドンジョバンニが流れてゐるのを聞きながら微睡。夕食前にアンドラーシュ=シフのピアノで ベートーヴェンのソナタを聴く。16番なんて聴き比べたバレンボイムさんのも凄いがシフさんのソナタはまるでジャズ。低音はまるでジャコ=パストリアスの ベースなのだ。晩は温野菜と青菜のサラダ。ソーセージ1本。パンとチーズ。葡萄酒はYellow TailのPinot Grigioの06年。今日は読書が進み夕方からリチャード=B=ガードナー著『少年への性的虐待 男性被害者の心的外傷と精神分析治療』といふ本を読み始め寝入るまでに二段組五百頁余の大著だが半分ほど=つまり心理治療士の専門的な学術的記述を端折り ながら読む。どこからが性的「虐待」なのか、が微妙。いづれにせよ若衆宿や薩摩の二才(にせ)も、旧姓中学の軟派も今の世なら立派な性虐待団体で、乱歩さ んも、山田吉彦(きだみのる)が薫陶を受けたアテネフランセ創設のジョゼフ=コット師も、先日亡くなつたアーサー=C=クラーク卿も変質者扱ひだらう。ア タシ自身がさういふ性的ハラスメントに遭つたことはない、が、ふとアタシが小学生の頃、郷里の町にゐた通称「セーラー」思ひ出す。なぜ「セーラー」なのか 解らぬが、セーラー氏は小学校高学年の男子ばかり狙ひ半ズボンの上からさつと触つてゆく「変質者」で書店だのデパート屋上の遊技場で被害に遭ふ。そのセー ラー氏の不健康さうな痩身で窪んだ目に始終怯えた表情は、いかにも「自らの大人になりきれない精神状態が性欲の対象として自分より権力の小さい児童に向 く」タイプ。今なら学校や保護者が警察を巻き込み変質者を捕まへろ、になるのだらうが当時はほんと長閑な時代。自分から「昨日、川又書店でセーラーに触ら れた」と自白する子もゐれば「○○君がセーラーに触られた」話がひそひそと友だちの間で流れる。被害なのだが照れる程度で、通過儀礼的なものと思ふと寧ろ 触られないことが社会から11〜12歳の少年として「認識されてゐない」やう。具体的に連行されてイタズラされるやうな被害がなかつたから、この程度の物 語化で終はつたのだらうが。

四月十二日(土)ご執務。北京よりO氏來港。早晚にO氏投宿の灣仔のホテルロビーで再開。カメラ談義。杭州酒家にてZ孃交へ晚餐。

四月十一日(金)燈刻に慌ててタクシー自動車に乗ると運転手は余の広東語の発音の悪さに大陸の田舎漢と思つたのか、頼んでもゐないのに流れてゐたラジオを わざはざ大陸からの普通話局へと変へてくれる。サービスのつもりかしら。ニュース解説番組で聖火リレーでの米 国桑港での妨害について。平和の祭典たる五輪でなぜ政治的妨害をするのか、チベットは中央政府の支援により画期的な経済発展を遂げてをり……と完ぺきなプ ロパガンダ放送だが聖火リレー妨害を報道するだけでも画期的な改善か。タクシーといへば一昨日は行き先を某マンションのB棟と告げたら運転手にH棟?と聞 き返され、どうすればBがHになるのかと悩みつつ(BとDの聞き違へは香港では屢々)“B for Boy”と指示すれば運転手はアタシにシンガポール人か?、とゾンザイに聞き返す。そこで「さうだ」答へれば運転手も満足なのだらうが、さう思つたので性 格の悪いアタシはわざと「米国人。米国の華僑」と返す。地下鉄で尖沙咀。コンビニに立ち寄り流動食?でウォッカ系瓶入り飲料を立ち飲み。科学館でZ嬢と待 ち合はせ若松孝二監督の映画『ゆ けゆけ二度目の処女』看る。1969年に、さすがにアタシもこの映画は看てをらず。香港でマイナー映画なのに観客は百五十名くらゐ。物語は屋上。 ロケ地のビルの屋上は、ありや神宮前か。意外と近くに見える代々木の体育館の屋根、遠くに見える出来立ての霞が関ビル、で表参道と明治通りの角、ラフォー レの向ひ。閉ざされた屋上でのレイプ、レイプ、レイプ。窒息しさうだが、どこか風通しの良さ。それにしてもアタシが感じたのは「レイプする時は男はまづ ジーパンならベルトと前ボタンを外すだろーがつ!」つてことに尽きる。レイプするのに、当時の若者風俗で腰回りはタイトなパンタロンのジーンズで、太い皮 ベルトして、輪姦のシーンで若者たちはみんなベルトと前ボタンも外さずレイプ、レイプ、レイプ。社会主義的リアリズムの欠 如。どこか御飯事的。それが若 松監督が若者たちの幼稚性を表現するための演出、と考へることも出来るが、たんなるリアリティの無さか。橋本治なら「1969年といふ時代で、まさに当時 の学生運動は、ベルトも外さずにレイプに及ばうとする行為なのだ」とか言ひさう。本当はそれぢや事に及べないんだけど及んだつもりになる、といふ錯覚、或 いはイメージ的には及んでしまつて、ズボンの上から擦つてゐるだけで、きついジーンズの中で揉まれての射精の如し。いづれにせよ1969年のこの若者の不 条理は、2008年にアタシから眺めるとそんな感じ。そんなことで社会が変はるといふ誤解がいけなかつた。この映画の後半の猟奇的殺人のシーン。当時は前 衛だつたのかしら。今みると最近の殺人事件のせゐかヘンに現実的。香港の観客はやはり主人公の少女の「私を殺して」で笑ふ。私を殺して=チーシン! 自分から「私を殺してつ!」がをかしい、のは精神的に香港市民が健全な証左か……近松なんて読めたもんぢやなからう。だがシェークスピアの芝居や歌劇『ア イーダ』なら笑はない。根つから、映画=娯楽、なのかしら。映画見終り久々に焼き鳥五味鳥に寄るが案の定、満席。居酒屋「兎に角」へ。この店のご主人をZ 嬢、15年くらい前に日本料理Kでお見かけしてる、と。尋ねると正解。鰹の叩き、と讃岐うどん。まるで大学生の新歓コンパの如き御一行あり。日本人のボ ス?に連れられた若い連中、一気飲みもいいけど溢したり一升瓶が割れたり、それが浦霞とは勿体ない。今晩は少し涼しく帰宅途中にヴィクトリア公園を歩む。 暗がりで人懐こい黒猫と戯る。
▼中環の擺花街のパン屋、泰昌餅家。何処にでもある間口一軒半の小さなパン屋の企業資産価値がHK$5百万也。泰昌餅家といへば英国統治最後の総督クリス =パッテン君が市街視察の折に立ち寄り、このパン屋のエッグタルト頬張り贔屓として度々立ち寄り訪港した独逸のコール首相(当時)まで連れて行き、で返還 当時に一躍、世界でも有名なパン屋に。その後、地価高騰で既存の店の賃貸難しく一旦は閉業決めたが某企業の資金参入受け近隣で営業継続。で今回は香港一部 上場の飲食企業・稲香集団が 食指伸ばし、たかだか間口一軒半のパン屋の経営権の2割をHK$1百万(1,400万円)で取得の由。

四月十日(木)世の中、中国、中国、中国。
▼篠山紀信氏曰く
写真は、時代の映し鏡なんですから、一番いい時に、一番いい場所に 行って、バンバン撮っちゃうのが一番いいカメラマンだと僕は思っているわけですよ。過去を振り返らない。今がすべて。だから、造っては壊す異常に新陳代謝 の激しい東京が大切で、面白いわけです。東京の下町の細い路地や裏町の写真を載せて、「まだこんな生活が残っている」とかを、しょっちゅうやってる雑誌が あるでしょう。大嫌きですよ。僕は、東京の今の都庁のすぐ近くの新宿の柏木というところのお寺の息子です(真言宗豊山派圓照寺、富柏村註)。寺の庫裡のす えた臭いとか墓地のひなびた不思議な感じなんてのも体にしみ込んで、骨肉化しゃってる。だから、新しいものにより敏感になってくることもあるんじゃないか な。
と(九日朝日衛星版)。さすが、かうでないと世界の篠山にはなれなかつたか、と思ひつつ、ふと川本三郎の名前が脳裏に浮かぶ。写真家ぢやないが川本三郎こ そ「東京の下町の細い路地や裏町」の人。すると偶然にも同じ紙面に川本三郎氏の文章。米国の俳優、チャールトン=ヘストンへの秀逸なる追悼の一篇。アタシ は旧守派。
▼マカオ隆盛について。昨年の香港・マカオ間のジェットフォイルの乗降客数は1日あたり平均3.5万人。昨年は年間1,280万人が利用(前年度比15% 増)。旧正月の繁忙期は日に356便、1時間あたり15便で4分毎だつた由。
▼中国の乳業大手、蒙牛乳業。07年の売上げは213.2億元(前年比31.22%増)。利益は9.35億元。中国は乳製品の需要伸び已に世界第三位の乳 業大国。蒙牛は中国国内市場の40.7%を占有。乳酸菌飲料ではディズニーと提携、中国のスタバ珈琲、国内に二千店舗網のケンチキも蒙牛と契約。香港でも 蒙牛は濃い牛乳の代名詞として定着の由。アタシは今では豆乳派で牛乳は一切飲まないが。
▼国際奢侈品協会によればLouis Vuitton、Gucci、Dior、Chanelといつた世界の高級ブランドの8割がすでに中国市場に進出。Louis Vuittonでは中国人が顧客として世界第三位。GUCCIの中国進出は1997年。すでに国内に18店舗。対象の高級ブランド品の18%が中国で消費 され2015年には日本を越える予測。

四月九日(水)気温は摂氏30度近くまで上昇。曇空で湿度95%だかで街中湿つぽいたらありやしない。極めて不快。早晩に中環。カラーシッ クス現像店にて写真焼き増し受領。商務印書館。劉潤和氏と畏友高添勉氏の共著『香港走過的道路』なる歴史写真集等購入。FCCのバーでハイボールをダブル で2杯。帰宅し好物の韮と豚肉の鍋。NHKのNW9眺めれば4月から新キャスター登場。まるで朝か昼のワイドショーの如き世間話口調。
▼前述の『香港走過的道路』は香港で最近流行の歴史写真集の一つで「路上」といふコンセプトに絞つただけが特徴か、と思つたが頁を捲ると劉潤和氏による 「歸程憙願」の記述がかなり興味深い。英国の香港占領と植民地化が、清末の華南の不安定に抗する香港「封鎖」から始まつたことや戦後の自由港化も国共内戦 で共産党と国民党の両勢力から香港を守るための活路の見出しによるものであるとか、(まだきちんと読んでゐないが)文革期や中英合意期についても分析は卓 見のやう。面白い本だが写真をぱらぱらと眺めてゐると戦時中(日軍占拠期)の中に一枚、余が日本の某団体より借用し参考までにと、この本の編者である高氏 に焼いてお渡しした画像がちやつかり掲載あり。本来であれば画像所有者の承認得るべきもの。余にも出版(昨年夏)以前に何ら連絡もなし。編者が知己でも筋 を通して出版社にクレームすべき事と判断。
▼国会での福田二世と小澤一郎君の与野党党首対決。日銀総裁選びについてはアタシは福田首相の言ひ分に納得。官僚主義排すため財務省出身者は断じて拒否と いふ民主党の姿勢はまるでかつての日本社会党に勝るとも劣らぬ拒絶党ぶり。福田二世の苦言をニヤニヤと聞き流す小澤君の態度はありや何かしら。官僚主導、 天下り人事は問題あるが有能な官僚は公僕として多いに国政に利用すべき。自民党も問題多いが烏合の衆・民主党がこれぢや政権交代の緊張感漂ふ二大政党制な どまだまだ無理か。
▼チベット問題。中国政府はオリンピックの政治的利用に嫌悪感示すが近代オリンピックが誕生から今日まで<政治>であることは明らか。朝日新聞は社説で 「五輪は政治とは切り離せないが、成功させるためには、政治に引きずり回されないやうにする知恵が必要」と指摘。それがいかに難しいか。信報の連載「仏國 通訊」で陳彦氏が指摘するのは
從進入世界的大前提看、在同國際社會接軌、衝撞的過程中、中國只有兩種選擇:要麼學會對話、妥協・走政治民主、尊重人權之路;要麼退回至閉關鎖國的愚昧時 代。
……と。御意。

四月八日(火)晩に尖沙咀に渡りインターコンチネンタルホテル香港。このホテルでアタシの不満は午後から夕方に開いてゐるバーがない こと。ロビーラウンジでは賑やか過ぎて観光客多く落ち着かぬ。だがスプーン、ステーキハウス、ノブといつた各レストランのアプローチにはなかなか洒落た バースペースがあることを今晩気づき、だがどれも晩餐の営業時間にならぬと開かぬのが残念。さすが一流ホテルでエントランスには著名億万長者C氏のシル バーのベントレー、に3桁ナンバーの赤のフェラーリがこれ見よがしに泊まりロビーには一見して馬主といふフェロモン醸し出す日本人団体あり中京馬主協会だ かのご一行で納得。今晩はY嬢のお招き受けK氏とZ嬢とアタシでス プーンに食す。所謂創作系に食す機会の殆どないアタシには貴重な機会。ずわひ蟹の前菜、人気のパスタ。ドライシェリー、名前失念の白ワインと赤は グラスで頼んだが、伊太利のAbrate Langhe Nebbiolo 03年がマグナムボトルで供されるあたり、いちいち奇を衒つてゐて可笑し。ほんと久々だが曾てのリージェント香港の頃はここがプラムなる西洋料理屋。上階 の創作日本料理のNobuにはYu(魚)といふ海鮮料理屋があつたがどちらもパツとせずインターコンチになり敢へて創作系でSpoonとNobuにしてス ノッブなお客様に好評の由。食後、ロビーラウンジにてアルマニャック一飲。K氏のショーファー自動車で陋屋まで送つていただく。

四月七日(月)忙殺されたまま晚に至る。晚にバンコク在住Y氏陋屋に來ら夕食。Y氏持參の薩摩白浪五合甁Z孃加はり鼎談で飮み干す。

農歴三月初一。天気良き日曜日だがご公務続く。といひつつちよつと空いた時間にバルナックライカ用のフィルムカッターガイド作りの工作。35mmフィルム装填をスムーズにする ためのカッターだがライカオリジナルは中古で12〜15千円もする由。松屋 銀座の中古カメラ市でクラシックカメラ価格ガイド本が出るが今年のはバルナックライカ特集で(昨年はライカM型特集)、この本の付録でフィルム カッターガイド手作りの頁あり。それを見ての工作。バルナックライカ所有してをらぬのに専用のフィルムカッターガイド作る我が不憫(涙)。当然、無性にバ ルナックライカが欲しくなるぜ。早晩にFCCのバーでハイボール1杯。湾仔の菜食インド料理Khana Khazanaにて所属するランニングクラブの定例会。末席を汚す。

四月五日(土)小春日和が午後になり雲ひとつなき青空。すつかり夏のやう。なのにアタシは終日ご公務。この週末で終はる香港国際映画祭(第1部)も今年は 20本弱看た程度。忙しかつた所為もあるが看たい映画多からず。晩 に映画帰りのZ嬢と北角の寿司加藤に食す。
▼週刊文春(4月10日号)に「子供4人が死亡 謎のインフルエンザ香港を浸食す!」と大袈裟な記事あり。「中国の厄介」得意とするジャーナリスト・富坂聰氏による1頁モノは「渾身スクープワイド」と銘 打つが噂話に毛の生えた程度、といふか噂話にマジックで陰毛を書いた程度。ネタ元は「北京の政府機関の元職員」と「北京で貿易会社を経営する会社オー ナー」、それに「香港在住の日本人」の三人。インフルエンザが原因で死亡した数名の子どものことに簡単に触れたあと、
いま『香港に出張する』っていうと、みなから『大丈夫か?』って心 配されるんだよ。香港でインフルエンザが爆発的に広がっていることはみな知っている。北京じゃ、ちょっとした騒ぎになっているからね。やっぱり、五年前の SARSの悪夢が誰の頭からも離れないだなって改めて感じたね。(北京で 貿易会社を経営する会社オーナー)
大人への被害がまだほとんどない状況なので、街全体は比較的落ち着 いているのですが、問題はやっぱり感染の拡大スピードが異様なほど速かったこと。そして原因が今一つはっきりしていないことですね。(香港在住の日本人)
香港では三月十二日、香港政府が全地域の幼稚園と小学校をすべて強 制的に二週間閉鎖する命令を出した。三月三十一日には再開されましたが、香港では地下鉄の中で誰かが咳をするとたちまち周囲の人が口を押さえるほどの神経 質。SARSのときのような大きな問題にならなければよいのですが……。(北京の政府機関の元職員)
香港のあらゆる薬局に、マスクが山のように積まれている。(前述の香港在住日本人)
……と。まぁ呆れるばかり。当然のやうに死亡した乳幼児が免疫系虚弱体質であつたことは触れられず、WHOが報告したやうに通常の季節性のインフルエンザ なのに「爆発的」だとか「異様なほど速い感染スピード」と言葉ばかり踊り、教育局はイースターの長期休暇(2週間)を2日早めただけなのに強制的閉鎖とさ れ、「地下鉄の中で誰かが咳をするとたちまち周囲の人が口を押さへ」「薬局にマスクが山積み」とまぁ書きたい放題(笑)。これがインフルエンザの猛威で死 亡者相次げば記事として良かつたが、さうもならず、最後は前述の北京の会社オーナーの
労働問題に雪害、テロ、少数民族問題……。オリンピックイヤーとい うこの年に限って、何でこんなに次々と問題が起きるのか。本当に嫌な空気が漂い始めている。
と「何となく不安」でまとめてしまつた。落とし所としては無難?だが、現実にはオリンピックイヤーに直接関係あるのは「この機に応じ」の少数民族問題だ け。インフルエンザは季節性のもの、労働問題は中国では恒常化の構造問題、雪害は自然災害でテロは具体的に何を指すのかしら。三月十三日前後の新聞の香港 特派員が台湾総統選挙取材中に書いた与太記事にも呆れたが國意たる天下の文藝春秋もこの程度とは……。

農歴二月廿八。清明節。胃腸風邪の具合悪しく朝、掛りつけのC医師の診断請ふ。C医師は年の休みは旧正月三が日で清明節の今日も午前中は開業。年老いた患 者の精算でHK$50だつたのは保険もきかぬ老婆への労りかしら。アタシも休日だといふのに終日ご公務。午後から看る予定の映画二本見逃す。晩に先月17 日以来で自宅で夕飯。鮭ご飯と鳥のスープ。具合悪い時に滋養たつぷりのスープ、といふのはすつかり中国人。百年ぶりの休肝日。かなりたまつた新聞、雑誌を 通し読み。
▼美貌の女優、若干19歳の梁洛施(イザベラ)を、彼女が所属する香港の芸能プロダクション大手英皇集団が契約不履行で訴訟、と今朝の蘋果日報報ず。マカ オ生まれで中葡混血の彼女、不遇の幼年時代過ごしたが12歳で英皇集団と契約。将来託され13年の契約で芸能の道に。マカオで煙草密売など黒社会と関係も つ刑事と娘を描いた彭浩翔監督の映画『伊莎貝拉』は彼女が主演。で暫く前に年老いて容体悪化の祖父だかの見舞ひに赴かうとしたイザベラに対して事務所がそ れを認めず、などと芸能ニュースとなつたが、実は昨年「李嘉誠の次男」リチャード李澤楷氏と相思相愛となりダクション側が「せつかくこれからの時に」と、 この恋愛に介入の由。香港筆頭の億万長者の次男坊と美貌の19歳の女優の、事務所巻き込む恋愛沙汰、で面白からぬ筈もなし。翌日の続報によれば実は最初に 訴訟おこしたのは彼女の方で事務所はそれへの応酬。当然、彼女の後ろ盾はリチャード氏だが更にリチャード氏が後ろについた芸能事務所がイザベラと契約期 待といつた背景もあり。李嘉誠氏にとつては、香港通信大手PCCWの経営など独立独歩しつつ香港での普選支持など鬼つ子的な次男坊が、今度はこの騒ぎ。
▼昨日のSCMP紙が10年後に深圳の経済規模は香港を凌駕と述べる。30年前は辺境の農村。ちなみに深圳の人口はあくまで登記上のもので臨時工や流民合 はせると実際には2倍近いはず。

人口(百万人) 面積(平方キロ) GDP(億米ドル)
GDP per capita(米ドル) 貿易(億米ドル)
深圳
8.62
1,952 96 10,628 287
香港
6.9
1,104
206
29,839
750
シンガポール 4.5 692 176 38,401
614
▼ドキュメンタリー映画『靖国』について。上映予定の映画館は実際の右翼団体の妨害でなく議員対象の試写会が判断に影響の由。矢面に立たされる自民党の稲 田朋美先生(記 者会見)。弁護士として靖国神社参拝関連訴訟の国側の弁護人であり、大江健三郎『沖縄ノート』訴へた沖縄戦裁判の原告側弁護人で「南京百人斬り競 争」名誉毀損裁判も原告側弁護人。自由主義史観研究会・日本「南京」学会会員、中国の抗日記念館から不当な写真の撤廃を求める国会議員の会事務局長、日本 会議国会議員懇談会事務局次長、国会議員懇談会「伝統と創造の会」会長、正しい日本を創る会会員、みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会、神道政治連盟 国会議員懇談会のメンバー……と多くの国民の目から見れば(通常の保守派からしても)稲田先生のウルトラ鷹派ぶりは凄いが(後援会の会長が渡部昇一先 生)、この稲田先生の衆院議員当選は05年の小泉郵政解散で懇意の山谷えり子先生介し当時自民党幹事長代理の安倍三世の出馬要請を受け郵政民営化反対の福 井1区松宮勲への「刺客」としてのもの、と考へれば、元凶は明らか。それにしても、名古屋で上映予定映画館に上映中止求めた右翼団体の者も上映中止をブロ グで訴へたブロガーも実際に映画見てをらず(朝日)。この上映中止が引き金となり結果的には全国で上映増える結果となりさうだが森達也氏曰く「過冷却社会 が圧力を増長」。冷却してゐながらバッシングとなるとファッショの如き世相なり。

四月三日(木)日々下雨。肌寒く風邪気味。多忙続き楽しき事もなし。
▼ドキュメンタリー映画『靖国』の上映中止に つき、なんと産経新聞の産経抄までが!「大変残念」と指摘(こ ちら)。
いやな風が吹いている。自分たちの主張にあわないものは認めない。 こんな圧力に屈して、東京と大阪の映画館が、靖国神社を題材にした中国人監督の「靖国 YASUKUNI」の上映中止を決めたのは、大変残念なことだ。
と指摘。多少、産経新聞見直したが、結局は産経抄らしく矛先は朝日新聞攻撃(笑)。朝日が社説で自民党の稲田先生らが試写会実施させたことに恰も上映中止 の責任があるやうな論調に対して「検証しようとしたのは、政治的に中立性が疑はれる映画に対して、政府出資法人から助成金が出されたことの是非」であり、 かうした詭弁は朝日のお家芸で……と3年前の中川、安倍両先生によるNHK番組への介入について朝日の「誤解」を批判。そして勢ひにのつて今度は最近の古 森NHK経営委員長の「国際放送で国益重視を」に朝日が否定的見解示したことを罵倒……産経の「自分たちの主張にあはないものは認めない」朝日嫌ひも社風 としてそれはそれで良いが折角、映画「靖国」の上映中止で「言論の自由」について述べたのだから一度くらい(笑)言論の自由を守る主張で最後まで書いてく れれば良かつたのに。
▼そのNHKの経営委員会での古森NHK経営委員長の「国際放送で国益重視を」に対する応酬の詳細はこちら。NHK の良識をこの委員会で代弁するのが今井副会長。『NHKニュースワイド』や『NHKニュースおはやう日本』のあの「キャスターの今井さん」。この今井さん の副会長就任(今年1月)も意外人事だつたが、そもそも古森重隆君が旧知の福地茂雄君(アサヒビール)を半ば無理矢理に20年ぶりの外様会長に抜擢。で経 営委員会委員長と会長が仲良しぢや、と非難もされたが、その福地君が副会長に抜擢したのが今井元キャスター。この任命はLFがホリエモンに買収されかかつ た時にLFの社長があの亀淵君だつたことを知つた時のやうに近い驚き。でその今井氏が報道の客観性を礎に、国益のプロパガンダ放送求める輩らに立ち向かふ ことにならうとは。委員会での発言の真摯さに敬服。

四月二日(水)小雨。極て多湿。晩に滑り込みで東涌線九龍站の「圓方」の映画館にて映画『烈 日當空』看る。曽志偉のプロデュースによ る「九降風」三部作の一つで当初、題は「九降風之香港篇」であつたが改題。九降風之内地篇は上映中止で三部作の体裁整はず。曽志偉や出演者の舞台挨拶あ り。舞台は深圳に近い新界の上水、粉嶺界隈。三流中学の5年生(F5)で統一試験(O-Level)間近の不良学生仲間。何でも楽しい馬鹿騒ぎの仲間だ が、その一人のH現場の画像流出や暴力、麻薬などで箍が外れ仲間も人格も崩壊寸前。「ありがち」といへばありがちな青春映画だが相変はらず香港のトーシ ローの若者の演技の上手さ。2007年の世相、風俗をよく描いてはゐる。が凝り過ぎた映像技術がアタシにはちよつと難。この作品も高校生がコカイン吸ふ程 度の場面があるだけ、で成人指定。映画見終りさすがに九時過ぎですつかり閑散とする陸の孤島の圓方を出て九龍の船渡角に至る。船渡角は文字通り、かつての 沿海の新開地、が今では埋立進みすつかり内陸。自動車修理工場や小さな工場、資材屋が並び楼上には集合住宅の雑多な街で所謂B級グルメの食肆も何軒か名を 馳せる。そのなかでもアタシがいぜんから是非一度、と思つても船渡角まで遠出も、と食すに能はずにゐたのがフランスパンのバケットに具をはさんだ法式三文 治で名を馳せる添記。晩九時半の渡船角の一角は歩く人もな し。ひつそりと鄙びた小店に老板が独り座しぼんやりとテレビドラマ眺めながらの客待ち。メニューは基本的には法式三文治の大か、小。で小を一つ注文。この サンドヰチ一筋で数十年、蔡瀾先生など著名食家も太鼓判。出来上がりを店を出て頬張る。美味至極。なんとも具の調合が良い。こりや美味い。貪り食ふ。あま りに美味いので、流石に昨晩の深酒で少し宿酔もあり今晩は休肝日と思つたがコンビニで缶麦酒購ひぐいつと立ち飲み。

四月朔日(火)小雨。忙しく、ただ忙しく晩に至り宴会あり。銅鑼湾の太湖海 鮮城。末席を汚す。客人をホテルに送りバーSにて独飲。旧知のN君と会ひ豪州の夜空の美しさなど語る。昭和が平成になる頃、パース郊外でハ イウェイをピンクフロイドなど聞きながらちよつと酔つぱらつて走つた晩のことなど彷彿。
▼今回のチベット動乱について。ダライ=ラマのチベット亡命政府が、北京中央が仕掛けたのか仕掛けられたのか。アタシの「読み」は北京五輪に合はせ何らか の叛乱で世界の目をチベットに向けようといふ前者の企図あり。それを事前に察知の北京中央は不発に抑へようとしたが無理と判り、それなら寧ろ暴動化でチ ベット側の印象悪くしよう、とチベット僧侶の格好させた要員まで数百名規模でラサに送り込み狼藉の暴民ぶり。これに煽動され騒動の規模拡大。で漢族の商店 など襲はれ被害者が出る。チベットの悪意を世界に伝へる北京中央と北京政府の悪意に反論するチベット勢力。……実に政治的。

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