乾 坤容我静 名利任人忙
(旧)教育基本法(1947〜2006) 改正に反対した文化人129 名の声明 憲法改正反対(九 条の会こちら

また眞理を知らん、而して眞理は汝らに自由を得さすべし。ヨ ハネによる福音書8章32節)

メ ディアはコミュニケーションの道具という素朴なイメージがあるが、もっともこの言葉は「中間」という意味であり、二つのものの間を取り次ぐという意味で はコミュニケーションの道具となるが、同時に最初は一つであったものを二つに分けるという効果ももたらす。メディアは、それがもたらす情報を共有し仲間意 識を持つグループと、そうしたものに無関心、あるいは反発するグループとの分裂をもたらす。メディアが発達すればするほどこの分化は進む。だから、メディ アの発達がコミュニケーションを豊かにするというのは幻想にすぎない。(佐藤卓己)

■ 富柏村の一連の写真画像はこちらで ご覧になれます。
■ 「はてな」の富柏村日剰・香港日記(テキストのみ)はこ ちらを ご覧 ください。

■最近のブログ化のご時世に敢へてブログ化せぬ日記を。の 心づもりでをります。敢へて全て讀むこと強ゐる日剩あつてもいゝのでは?と。
讀みにくいこと間違ひなきサイト乍ら今後とも御贔屓の程宜しくお願ひ申し上げます。
■香港の高級紙「蘋果日報」からの紙面、寫眞の無斷借用多し。同紙社主・黎智英氏自ら同紙の無斷借用轉用大歡迎と公言ゆゑ、それに甘えてをります。
2000 年11月24日からおそらくあなたは番目の閲覧者です。

五月卅一日(土)東京愛宕より来港中で今日の午前便でバンコクに発つT氏とお会ひする時間とれず朝の七時にT氏投宿のホテル日航香港に伺ひ朝食をご一緒し て情報交換。銀行の用事済ませ一昨日よりの喉の痛み で昨日はかなりガラガラ声、陋宅近隣のC医師の診断請ひ医薬いただく。週末なのになんだかんだと打合せだの用事済ませ早晩に太古城。一時間半ほどDeli Franceで週末の新聞読み。Z嬢とUA戯院で珍しくも大型娯楽映画『インディ=ジョーンズ』の新作“the Kingdom of the Crystal Skull”看る。相変はらず「米国人つて凄いな」の一言に尽きる。他者なる文明、宗教の冒瀆、偏見に基づく大騒 ぎ。でも、それも古代文明の誇大神話に基づきアクション巨編も電力以前のクラシックさに基づくところがインディ=ジョーンズの娯楽映画としての面白さ、と 思つてゐたが、この新作は1950年代後半で敵はスターリンのソ連、インディ=ジョーンズの世界も電化されたが、まさか(……以下、映画の終盤のネタ晴ら しあり)人類学者の古代文明探索冒険に宇宙人とUFOが登場しようとは……。で最後は数十年前の恋人との再会と冒険供にした青年がジョーンズ教授の実の息 子で教会で結婚式を挙げてのハッピーエンド。海外で勝手に大騒ぎして最後は小市民的な家庭愛に落ち着く、といふ実にブッシュ的な世界。娯楽商業映画ゆゑ観 衆の不躾は覚悟してゐたが背後の家族連れのガキが五月蝿いのは娯楽映画ゆゑ問題ないが家族の座る列を歩き回り鬱陶しい。それを他の客に迷惑と注意せぬ親の 道徳観の欠如。映画跳ね「食の孤島」太古城ゆゑ回転寿司に食し帰宅。
▼先日のFT紙に続き今度はロイター電で“Waiting in the wings to be Japan's first female PM”と小池百合子首相待望論の記事あり(SCMP紙)。着 々と外電で外堀埋め外ウケ悪い麻生君への対抗か。それにしても小池先生の
I don't have money and I'm not a thoroughbred. I'm not the grandchild of a prime minister.
つてコメント。ないない尽くしで消去法で「アタシだけ」つてアッピールは鳥渡、ねぇ……。なにせ“Japanese economy slowing”(FT紙週末版一面トップ)と沈みゆく経済大国日本で保守党の指導者としてサッチャー的な役割が出来る器かどう か。
▼中国側の対台湾対応窓口の国務院台湾事務弁公室(国台弁)の主任に外交部副部長(外務副大臣)兼外交部党委書記の王毅氏が就任の由。知日家の駐日前大使 なら台湾人とも息が合へば、の期待かしら。

五月卅日(金)昨日のホテルで本日は午後に会合あり。客と朝ほんの十数分の用事あり自動車を鳥渡、停めさせておくれ、と請ふたら会合担当者曰く「有料で す」。「会合時間内なら」数台なら無料の優待あり、は 先刻承知だが午後は駐車の予定もなく、朝のホテルの車寄せが混むのは解るが、これくらひ良からうものを。ホテルは基本的にホテル施設利用なら駐車無料。料 金は「ホテルをタダで駐車場代はりに使ふ」輩への対策とアタシは理解。強要たら上司と相談します、で結果OK。客だから多少の無理を言はせてもらふが、 サービスの温度の低下は悲しいもの。昨日よりの雨依然激し。午後に昨日に続き高座に上がるが喉の痛み甚し。晩に尖沙咀星光行金島燕窩潮州酒樓にて宴会あり末席汚す。この食肆の日本語も巧みなL経 理は既に十数年の、氏が未だ上環の肆に勤務の頃からの知己だが氏もかなり老けたがお互ひ様。潮州の料理も美味いが若い給仕まで慇懃で且つ機敏で客あしらひ が見事。敬服。
▼ブッシュ政権で03〜06年に大統領府報道官であつたマクマランさんが近日発刊の自著で曰く
イラク戦争は大統領による政治的なプロパガンダで米国民に売り込ま れた。(略、政権は)常に選挙を念頭に動き、大統領に有利になるやう世論操作してゐた。戦争は必要な時だけ遂行されるべきだと思ふが、イラク戦争は必要で はなかつた。
と(朝日新聞)。米国のイラク征伐の当初からアタシだつてわかつてゐたことだが当時の報道官であつた氏が指摘することに大きな意義あり。

五月廿九日(木)午前中、大雨雷雨。本日、某ホテルでの会合に寄り、懇意のホテルゆゑ原稿の手直しなど個人的に会合前後のエグゼクティヴラウンジアクセス を請ふ。本 来はエグゼクティヴフロアの宿泊客のための施設でバンケット利用者に利用資格ないが、これまでも何度か、過去には先方より「どうぞご利用ください」と勧め られ、今回もこちらのリクエストに気軽に応じていただく。するとラウンジでスタッフに「お飲み物もどうぞ」と勧められserved by yourselfでオレンジジュース飲んだらHK$55請求され驚くばかり。世知辛し。空港やホテルのエグゼクティヴラウンジで飲み物代請求された経験は 今まで一切なし。常識的に考へて、ご厚意に甘えておいてなんだが、高い飲み物代請求されるなら態々ラウンジなど使はぬわひ。晩に尖沙咀山林道の太湖海 鮮城にて会合の宴会あり末席を汚す。今様に言へば「ベタな」粤菜。客人をホテルに送り帰宅。
▼FT紙の一面トップに“Japan's LDP looks to put off election”とあり自民党は現時点での総選挙は民主党有利で自民下野の可能性高く出来る限り総選挙引き延ばし……とまぁ事実だが特段、FTが一面 トップにする程の価値なきネタで当然かういふ記事には思惑あり何かと思へば結局のところ“one of the ruling party's most prominent politicians”がFT紙相手に語つたさうで、それが Yuriko Koike, former defence minister, who is considered an outside candidate to succeed Yasuo Fukuda as prime minister, said...で、要するに意図は小池先生の宣伝に他ならず。報道として「阿呆らしい」が小池先生が「ちよつと、オタクの新聞で持ち上げてよ」と頼めるほ どなのか、記者が懇意か、FT紙東京支局の大新聞にありがちな(ナベツネを見るまでもなく)記事で政局動かす悪趣味か、いづれにせよ小池先生贔屓。だが現 実には先生が麻生君らに比べoutside candidateであるのは事実で、日本初の女性首相誕生には前提として自民党の下野、政権奪回には麻生君ら既存の自民党のオトーサンたちでは有権者の 再支持を得られず起爆剤としての小池党首待望論にならねばならず。さういふ意味ではこの記事はどうであれ小池先生には有利か。

五月廿八日(水)早晩にFCCのラウンジで書類整理。そごふの旭屋で受領してきたカメラ雑誌二冊読む。最近、アサヒカメラに比べ日本カ メラの方が(後者の編集部に知人がゐるから褒める訳ぢやないが)アタシのやうな古典派には圧倒的に面白いと思ふ。それにしても写真はカメラもさうだがフィ ルムの時代に比べデジタルになり雑誌もつまらなくなつた、と感じる。Z嬢来てナシゴレンを半分づつの夕食。市大会堂に赴きStephen Houghのピアノ独奏を聴く。メンデルスゾーン の「厳格」変奏曲(作品54)に続きベートーヴェンの第32番ハ短調Op.111と知的に攻めて来たStephen Houghさん。演奏はちと固い。後者はベートーヴェンの最後のソナタ、もつと悟つて昇天が欲しいところ。中入り後はウェーバーの舞踏への勧誘変ニ長調、 ショパンのワルツ作品64の2嬰ハ短調、華麗なる円舞曲変ニ長調とこのへんは普通のピアノリサイタルつぽかつたが、ここから一気にサンサーンスの呑気なワ ルツ、シャブリエの気まぐれなブーレ、ドビッシーのレントより遅く、でリストの忘れられたワルツから「無調のバガテル」とメフィストワルツ1番までノンス トップ!で一気に「踊られた」。アンコールは中国風のダンス曲とカプースチン、Federico MompouのCançons i dansesの7番(なんて珍しい曲は会場でStephen Houghの弾く、このMompouのCDを買つて帰宅後聴いて知つたのだが)。それにしても後半のサンサーンスからシャブリエ、ドビッシーから殊にリス トの2曲は圧巻。Stephen Houghは当世のとても重要なピアニストである、と実感。
▼中国の国民党と共産党を一言で定義すれば「国民党は悪筆」で「共産党は達筆」。共産党の達筆は毛沢東、周恩来、鄧小平、江澤民と続き(例外は李鵬)昨日 紹介の温家宝と名筆が続く。それに対して国民党。情けないくらゐ字が下手なのは畏れながら孫文に始まり(蒋介石は悪筆といふほどひどくないが)05年4月 に歴史的大陸訪問果たした連戦さん(当時、党主席)の「中山美陵」の凄さは記憶に新しいが今回、大陸訪問の新任の党主席の呉伯雄さんも勝るとも劣らぬ拙筆 ぶり。中国人といふと(台湾人も含むが)毛筆で達筆といふ印象ぢたひがステレオタイプなわけで何処にでも達筆と悪筆がゐて当然なのだが、やはり国を代表す るやうな政治家たるもの、字が上手いに越したことはない。

五月廿七日(火)散髪。FCCにて智利はViña Montesの葡萄酒品評会あり参加。白は07年の若過ぎるSau Bと(以下、全てMonte Alphaの)06年のChard、赤は05年のCab Sauv、06年のPinot Noir(06年)、Melrot、Syrah、そ れにMontes Purple Angel 05年、Motes Alpha "M" 05年と高値まで。Cab Sauvが安定した風味、個人的には燻香の強いSyrahが料理に合はせにくいがクセが面白いと思つたが帰宅してHugh Johnson'sを眺めたら評価が同じ。Purple Angelは葱の香り、で多少甘め。トップエンドの"M"はよくは出来てゐるがブレンドで、どこまでMontes産で安定供給できるのか微妙。微酔ひで帰 宅して餃子茹で食す。五糧液を杯に一杯。五糧液も四川省の産品だが地震被害は如何に。四川大地震といへば地震直後に現地にて指揮の温家宝首相が四川省綿陽 市の中学で学生を前に講じられた際の板書書きを学校が消さずに保存を決定。「多難興邦」と人柄を好く表す字の美しさ。
▼「安くて美味しい」ことはいい。が「安くて美味しい」のは、ちよつと散歩がてら気軽に食べられるとか、その程度のことで、わざはざ行列に並んだり遠出し たり何人もで会食したり、はいくら「安くて美味しい」でも対費用効果が悪いのぢやないか、と。それにラーメンとか寿司とか、或いは高級食材でも果たして 「並んでまで食べる」ものなのか、がアタシには理解できぬ。

五月廿六日(月)曇。早晩に驟雨あり。
▼NY Times紙の“Chinese Are Left to Ask Why Schools Crumbled”は四川大地震の学校被害について、必読。学校教育が近代国家にとつ て国の政策の根幹するならば(明治政府の学校教育整備を見よ)、殊に一党独裁の共産主義国家にとつて国民教育の重要性を考へれば、学校建物崩壊は「あつて はならない」こと。而も手抜き工事が地方党政府の小役人と建設業者の癒着によるものとすれば尚更。ところで信報社説によれば、今回の地震の被害は 5,000億元に達する見込みで(個人財産の損失含まず)中国のGDPの3%に相当。四川省内に本部をもつ国営企業は3社(下部組織数で50余社)。中央 傘下企業の自身での被害だけで300億元。大規模な自然災害による株価暴落を見ると1995年1月17日の阪神大地震で地震発生当日から23日までの4日 (交易日数)で日経平均株価は7.6%下落したが、その後回復(といつても長期的な株価下落は云ふに及ばず)。1999年9月21日の台湾地震では地震発 生後株式取引停止で27日の再開で5日(交易日数)で5.2%下落。と考へると大規模な自然災害が株価には短期的負荷で済むことは明白。今回の四川大地震 も四川省内に「四川路橋」や「重慶路橋」といつた重建系ははじめ63社の一部上場会社があるが半数以上が地震被害が比較的小さい成都にあり、具体的な地震 被害被つた「東方電気」など除く9割の上場企業の株取引が再開されてをり、さういつた視点からは市場的には被害は小さいといふ見方も出来る。が今後の課題 は少なからず。まづ四川省が中国西部で最も富み今後の開発の潜在力の高い地域であること。中国政府は1950年代から四川省に重建系や核開発の企業を設け 90年代にも改めて西部開発構想を発表。その四川が地震帯にあることが明らかなら、この西部開発構想も再検討すべきではないか、と。阪神大地震を例にとれ ば再建の投入資金は地震被害総額の3倍に当り、四川地震の被害が5千億元なら再建費用が15千億元に達するとした場合、国務院の700億元の拠出がいかに 小さいか。
▼成田空港での麻薬犬訓練での大麻124g(末端価格約百万円也)の紛失。大麻所持してしまつたのは香港発のCX520便の旅客で、香港にそのまま持ち帰 り発覚すれば因みに(情状酌量は当然あらうが)終身刑で罰金は最大HK$500万。香港ならまだマシでシンガポール筆頭に東南アジア各国で麻薬絡みは最高 罰は死刑が殆ど。南無阿弥。
▼FT紙に訪欧中のダ ライラマ14世のインタビュー掲載あり。チベット亡命政府の対中国政府との柔軟路線に対して進捗が見られぬと非難する強硬派も多し、と。続けて中 国指導部に対して
Sometimes I really feel sympathy for President Hu Jintao and Prime Minister Wen Jiabao. The country, over 1bn human beings, has a lot of complications. There’re still some wounds from the Cultural Revolution to some people, some generations. And for another generation, the wounds of the Tiananmen event are still there. Then there are a lot of complaints about corruption, such large scale corruptions. So, a very complicated country. All sorts of Chinese traditions are much damaged. It’s a very difficult period, very difficult period. And I think the leadership is following a more cautious path. That I think is very realistic and understandable.
と理解と同情すら見せる、さすがの老獪ぶり。敬服。

五月廿五日(日)曇。先考生誕は昭和七年本日。朝五時前に目覚め茶を煎れ新聞読み(毎日のことだが)。この年になると肩凝り、神経痛、耳鳴り、眩暈、瞼の 痙攣……と身体の節々の不調が不愉快で、どうにかそれを回避せねば生きてゐるのも不愉快なほど。で適度に運動し、薬に頼り健康に留意し……と結果、長生 き。人間の身体など千古の昔より寿命は四、五十年なのだ。当然それを越えれば不自然な長生きなわけで而も本当に若者と全く遜色なき身体機能で長生きの老人 など化け物で、じつは多くは身体機能のガタがきても行き続ける、謂わば「死に損なひ」。……と考へるとだんがん暗くなるので多少、楽しく生きようとする。 それがまた長生きにつながる。やはり「死に損なひ」か。午前中ぼんやりとRTHKチャンネル4で音楽聞いてゐると毎週日曜午前10時からの「早期音 楽」といふ番組でパーソナリティの名前にハタと膝を打つ。この番組の司会のPerry So Pak-hin(蘇柏軒)君こそ今年の国際プロコフィエフコンペティションで優勝の若手指揮者。先週だかのSCMP紙の記事に大学はYale大学で比較文 化など学んだ彼は指揮者としての尋常のコースとは程遠く大卒後に音楽の研鑽積んだ後は香港に戻り地場で指揮活動の他にFM番組で司会務め……とあり。それ がこの人。毎週日曜朝に独特のしつくりとした喋りでのバロック音楽など語るこの人が指揮者だつたとは。ぜひ大成してもらひたいと願ふ。香港での指揮お披露 目が楽しみなところ。晝まで陋屋にて寛ぎ午後早くZ嬢と中環埠頭。K氏と待ち合はせフェリーでランタオ島の梅窩へ。原油高騰の話題となるが中東が儲けてゐ るやうで実は退任近いブッシュが米国の原油産出メジャーの代理人として大統領退任前に米国石油メジャーの権益確保が真実よね、とK氏と意見が一致。梅窩よ りバスで長沙下村。I氏、K氏とS嬢と合流。両氏は午前中、粉嶺の香港ゴルフ倶楽部でのプレイで大雨と落雷で後半のプレイ中止の由。新界の粉嶺でゴルフし てランタオ島まで午後の食事は遠さうだが粉嶺のゴルフ場から高速で青衣経由でランタオ島の東涌まで運転手に送らせタクシーに乗り換へランタオ島の峠越えす ると意外と遠からず。6名で上長沙海岸に面した南アフリカ野蛮料理店Stoepに 食す。Springfield EstateのSau Bの07年“Life from Stone”飲みチーズたっぷりのサラダ、馬鈴薯、鰯の燻製。Klein Contantia EstateのCab Sauの03年 KCでビフテキとタンドリーチキンの丸焼き。後者の葡萄酒はすぐに空いてしまい2本目に。日暮れ前にバスで東涌経由でMTRで戻り。寛ぎの日曜日。

五月廿四日(土)昨晩は少し宵つ張りで三更半夜に寝入つたのに今朝も四時半過ぎに目覚めちまふ。土曜は信報に「理性消費」と張建雄氏の世界漫遊と美食の随 筆、それにFT紙の週末版のLife & Artsの一折と金曜日に届くThe Economistがあれば週末は楽し。朝から机に凭り今週済ませきれずの雑事幾つか片づけ昼前に少し走らうと外に出れば酷暑猛々しく思はず近隣のジムに 逃げ込みトレッドミルで走る。午後お出掛けで一つ用事済ませ帰宅して晩にお好み焼き。何故かお好み焼きにLos Vascosのレゼルヴァ06年。お好み焼きは豚肉の薄切りを焼き大量のキャベツに擂つた山芋に小麦粉をつなぎで少し加へるだけ、で見た目より軽くソース も辛口のを少しつけて食べる程度でお好み焼き食す間に使ふソースは大さじ一杯ほど。カロリーも胃の負担も心配なし、の老人向け。陋宅の階上の住人の子が飛 び跳ね走り回り興奮して叫び「賑やか」通り越し近所迷惑甚だし。苦情告げに参ると親が幼子に「ほら、謝りなさい」と。幼子が騒ぐのは当然で、それをマン ションでどう自粛するか或いは厚手のカーペット敷くとか考慮すべき、謝るのは幼子にあらず親=あなた本人だらう、と諭す。即効で安静。騒ぐと迷惑、と相手 が理解したか、と察すのは甘い。けふ日、アタシのやうな「危険な隣人」の意に背けば幼児が危害被るとでも思ひ狂気人を怒らせまいとする自らの安全対策に他 ならず……それで静かなら好いのだが。ところで今晩、NHK特集「中国・四川大地震」看てゐたら番組の最後の方で「今回の地震では中国各地から自主的に集 つたボランティアの人たちの活動も目立つてゐます」と取り上げ(事実であるが)、一例として官方の救援活動も未だ施されぬ震源地に近き山奥の村に分け入る ボランティアを映す。行き止まりの山道で山中より罹災の村人が何人か下り現れるが怯えた表情。それに声をかけるボランティア……のはずが、カメラマイクの 拾つた山人への語りかけが「我們,日本廣播電台!」(日本のNHKです)と聞こえたのはアタシだけかしら。「役所の救援が地震から全然来なくて、私らずつ と何も食べてないんだよ」と老婆の叫びは耳に残る。がボランティアが主導でNHKは取材で同行、のはずだが、この「我們,日本廣播電台!」一言でどうもそ れが怪しい。
▼シドニーのRoslyn Oxley9 Galleryで開催予定の豪州の映像作家Bill Hensonの 個展、少年少女の裸体モチーフにした画像を当局が押収(The Australian紙記事)。ラッド首相は“no artistic merit”と指摘。BH氏の作品の猥褻性如何より、その作品に犯罪性を看る周囲の「まなざし」の方がアタシは怖い。
▼同じくFT紙週末版よりLunch with the FT: Henry Kissingerでキッシンジャー博士が中国について。
Let me tell you how I see China. China is a country with a record of continuous self-government going back 4,000 years, the only society that has achieved this. One must start with the assumption that they must have learnt something about the requirements for survival, and it is not always to be assumed that we know it better than they do.
政権が王朝だらうが封建制であらうが春秋戦国の時代があり現在の一党独裁も含め、いづれにせよ中国が四千年にわたり自治国家たることへの畏敬をキ博士に云 はれると含蓄があるが「元」や「清」の異民族支配はどう看るのかしら。
▼FT紙の週末版より“Japan's goodwill diplo-cat in China”の 紹介。題名だけでも興味深いが日本の中国・香港向けの名誉観光大使にハローキティ猫が選ばれたこと取り上げ「話をせぬキティちやんなら過去の歴史に心から 追悼の意を表す必要も逆に靖国参拝する意地もなく、大使には最適」としてサミットに集る各国もそれぞれの国のキャラを遣つてはどうか、と英仏独……と例に 挙げ最後にPerhaps Washington could simply dispatch a lame duck.と米国ならさながらディズニーでドナルルドダックだらうが、実は華盛頓にlame dackが一羽、とブッシュへの皮肉。

五月廿三日(金)晴。猛暑。在北京のDazhao氏より「こんなもの造つてをります」と届いた画像。1920年代のモダン建築か、と思つてよく看れば香港のトラムの電車模型。相変らず 精巧な手作業だが、やつぱりかう並べられると、どう看ても20年代のモダン建築として秀逸。トラム建築、と勝手に名づける。中環に出掛けプリンスビルヂン グの画廊Alisan Fine Artsに寄 り高行健(Gao Xingjian)の水墨画看る。Gao Xingjianはノーベル文学賞受賞の巴里在住の華人作家にて水墨の絵も好し。帰りがけにHMWにてショスタコーヴィッチの7番「レニングラード」 (バーンスタインで市俄古)のCD入手。ふと同じくシカゴ響でアバド指揮でシュロモ=ミンツのヴァイオリンでベタだがメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏 曲のCD見つける。LPでの発売当時に話題となつたのがつい昨日のやうだが1981年の発売でもう27年前とは。LPも何処にしまつたままか、懐かしく CD購ふ。それと数日前に畏友William鄧達智君が信報に書いてゐたMary HopkinsのThose were the days「悲しき天使」なんてアタシらには1970年の大阪万博に合 せた彼女の来日公演の記憶。このCDも探すがポップスで見つからず。店員に尋ねると若い彼はMaryなんて知らず検索の結果、クラシック&ジャズの隔離 コーナーでジャズの隅にイージーリスニングの棚に在り。達智君がMary Hopkinsから蕭芳芳を語り、アニタ=ムイ、レスリー陳國榮に至るのが「人人都要做女妖」と表す。御意。帰宅してCDを聴きつつ赤葡萄酒をよく飲む。
▼四川省の地震被害多大なる小城市にて配給物資めぐり市職員が知己に優先配給だかで普段から小役人らの自私行為に不満募らせる群衆が暴れパトカー倒し付近 の商店に打ち壊し行為あり。NHKのニュースで日本から派遣の医療チームが成都で通訳の水準の高さに驚いてゐたが四川省の外語熱の高さは清末からの伝統。 成都の大学の日本語指導の高水準、四川省の英語レベルの高さは全国でも有数のもの。沿海州に対して、この山奥での外語熱と海外志向は巴里留学の鄧小平少年 の例を挙げるでもなく興味深きもの。
▼ANAの香港支店が中環より尖沙咀に移転の由。その移転先がJAL香港支店と同じビルで「殴り込み」とか、更には「実は原油高でコスト削減のためJAL とANAが大同団結で支店統合」など根も葉もない噂もあり。ANAといへば李嘉誠の次男リチャード皇子がANAと合弁で香港で航空会社設立といふ噂も巷に あり(バジェット航空か)。長兄のビクター皇子は地場のバジェット航空Oasis Airlines倒産で同社の経営者に資金融資。通信事業で父と長兄がハチソンテレコム、次男がPCCW経営、といふ家族で業界独占の再来か。李嘉誠とい へば昨日の李嘉誠財閥の年次決算報告で話題は会社業績より蘋果日報への苦言つらつら。孫娘狙つた幼稚園での様々な手口での盗撮、亡妻の墓に参れば新聞社が 日雇ひした気の触れた女に「私は李嘉誠の娘!」と叫ばせ話題づくり……激怒し続けたが最近では余りの低レベルのニュース作りが寧ろ笑へる、それほど李嘉誠 の話題で新聞のトップ記事欲しいなら出演料を払へ、と李嘉誠。当然、蘋果日報には李嘉誠財閥系の一切の企業(長江実業、黄埔、Park'n ShopからWatsonsなどなど)一切の広告掲載なし。だが蘋果日報側にしてみれば中国政府批判は出来ても広告収入減が怖く李嘉誠に噛みつけぬ中、脇 の甘さなど皆無の李嘉誠であるからこそ東スポ的に話題づくりの意義あり、といふところか。

五月廿二日(木)「川一震、天下動」と普段は冷静な陳雲さんでも四川大震災では中国の今週の三日の喪で国民が地震発生時刻に黙祷捧げた時を「これぞ現代中 国の誕生」と宣はれる。
中国は開放改革、資本主義、工業化、都市圏への労働人口の大規模な 移住、情報化、社会開放、中産階級の登場、個人主義などここ数十年でかなり変容を見たが反面、利己主義や走貪、物質至上感などもあり、それが今回の地震で 国民の心が一つとなり我を忘れ援助の手を差し伸べ警察や軍、医療機関など一致団結して災難救助に当り、我々は現代中国の4つの条件、即ち成熟、自発心、動 員力と開放性並びに組織性をここに見ることができたのだ。
確かに評価すべき点もあらうが、陶傑さんは
人間性と云ふのは易しいがアジア通貨危機で香港株価や地産暴落した 1998年に富豪筆頭に「獅子山下」を歌つて一致団結また頑張らうと涙したり地震で死者が四、五万人になつた時の義援など、極端な状況悪化にならねば人間 性の素晴らしさが見えぬとしたら、あまりにも代償が大きすぎやせぬか。人間の生命はそれほどチープなのかしら。人間性が普遍なら、なんで豆腐で家を建てよ うか(今回の地震での学校など建築のいい加減さを皮肉つたもの)。災難になれば何か騒ぎ、では虚妄と云えなくもなし。
晩遅くマーラーの1番(オーマンディ/フィアデルフィア)を聴いてゐて秀和さんのマーラーに関する記述読みたくなり吉田秀和全集の第2巻のマーラーを読 む。この全集本、1975年に初版が2月に出て僅か八ヶ月後で第四刷。当時の「教養」に対する勢ひのやうなもの感じる。秀和さんによれば当時、まだマー ラーの交響曲の演奏はオケにとつてかなり消化の難しいもので1番、9番とやうやくモノにするオケが出てきた……云々。それが1973年の記述、今から25 年前はさういふ状況だつたのか。
▼台湾では総統退任の阿扁君、公費横領だけでなく2004年3月の二期目選挙投票前日の狙撃の疑惑の銃弾も再調査の由。余の日剰紐解けば
連戦君が多少有利といはれてゐたなかこの狙撃事件で浮動票が亜扁に 流れて仮に亜扁再選となつてもさつぱりとせぬ結果齎すばかり。(3月19日)
数発の銃弾が土断場で選挙の流れ変へる。八時には大勢判明と言はれ てゐたが七時五十分に民進党が勝利宣言。これで何が確定したかといへば亜扁総統の続投で国民党の連戦はもはや政治生命断たれ国民党のホープ台北市長・馬英 九君が次期総統選挙で国民党候補となり当確といふこと。下手に今回、連戦が勝てば副総統候補に甘んじた宗楚瑜との間で国民党への候補統一の条件として将来 の禅譲といふ約束があつた可能性があり、さうなると馬英九の出番が狂ふ懸念あり。今回の国民党の敗北でもう国民党には馬英九以外の候補なし。(3月20日)
と我ながら「その通り」の結果に。だがかうして辿れば1998年の台北市長選挙で現職の阿扁vs英九君の一騎打ちがあり台北市民が英九君選んだことが結果 的に阿扁を総統選挙に担ぎ出したやうなもので、結果論だが98年に台北市民が阿扁の市長続投を支持してゐれば2000年の李登輝総統引退で英九君が国民党 の総統候補であれば当時は勢ひのあつた民進党も有力候補なし、で英九君の総統就任が8年早まつてゐたの鴨。また2004年に疑惑の銃弾の最大の受益者は今 回の選挙で英九君と明らかに。いづれにせよ首都の市長選挙に落ちた現職市長が (いくら南部の支持があつたとはいへ)元首となつたことぢたひ今にして思へば大きな矛盾。
▼スペインの女性国防相が妊娠から出産へ。朝日新聞の記事に
就任後、同国軍が駐留するアフガニスタン訪問などをこなしたが、 20日の国会国防委員会への出席は急きょ、キャンセルされた。
とあり。何気なく読み進みさうだが、文法的にはヘン。主語はこの「国防相」だから文章の前半が「訪問をこなした」なら自然な文体では後半も主語は同国防相 のはず、となると「キャンセルされた」は意地悪く読むと「尊敬」の表現のやう。当然、「出席がキャンセルされた」の受け身表現なのだが、主語の一致の原則 で、産気づき自分や周囲の意志で参加取り消したのだから「出席は急きょ、キャンセルした」とすべき。このやうな本多勝一が叱りさうな非論理的な日本語が記 事の中で散見されるのが朝日新聞(に限らぬが)。
▼天災があると新聞に「浩劫」といふ言葉が見出しなどに多し。一瞬、なにか「明るい」言葉に思へたが、これは英語ならdisasterで大災害を意味す る。がどうもピンと来ずにゐたが昨日の蘋果日報の随筆で陶傑氏がピシャリッと言ひ放つ……「浩劫」といふ語の多用が安易すぎる、と。「劫」といふ字はそも そも仏教の観念。時空は無限にて世俗の年月日で測れず、この無窮無尽の時間の一つの単位が「一小劫」、八十小劫が「一大劫」。大劫は四節あり「成、住、 壊、空」それぞれが二十小劫毎。台風、津波と地震は「壊劫」の中の「大三災」で、つまりは「災ひ」も諸行無常、仏教的な時空の中では「永劫の時間」に比べ れば小さなこと。ちなみに恐怖襲撃・戦争と飢饉は「成劫」の中で「小三災」とされる(ほど小さな扱ひ)。……であるから「劫」のいふ字は中立(ニュートラ ル)で、例へば隋書に
大水大火大風之災、一切除去之、而更立、生人又帰淳樸、謂之小劫。 毎一小劫、即一佛出世。
にあるさうで、あらゆる厳しい天災を経て、それが収まり人が淳樸に戻る、この長い時間が小劫で、その一小劫に佛様が世にお出ましになる、と。ありがたい 話。詳しくは原文(こ ちら)。

農暦四月十七。小満。甚だ涼し。自宅の扉鍵を持たぬまま外出したこと気づき国際救助隊(Z嬢だが)の到着待つまでQuarry BayでEast Endは満員御礼で近隣の酒場で麦酒一飲。 ハッピーアワー でEast Endなら黙つてゐても一杯目飲み干す頃にいい具体で二杯目が供されカウンターのレシート入れのコップに百ドル札いれるとさつと勘定済まされるのに、この 酒場は給仕の機転が全くきかず。朝早起きで新聞も夕方迄に読み終へ手持ち無沙汰で酒場に向ふ途中買つた「撮影雑誌」誌5月號でJustin Jinなる写真家を識る。ドキュメンタリータッチだが独特 の艶つぽさ格別。帰宅して晩のテレビニュース眺めれば北京の天安門広場にtens of thoundの群衆が鳩まり「中国加油〜!、中国万歳〜!」と大躍進や文革での死者の数は今回の地震の数百倍なのに天安門の毛沢東の肖像画に向つてのシュ プレヒコール。劇的すぎ。挽肉のトマトソースのパスタにQuarry Bayの葡萄酒店にて今晩購つた豪州のSaltramエステートのMetala、05年のShiraz Cabを合せる。我ながら感心する取り合はせにかなり満足して早寝。
▼香港政府が問責制拡充がため(無駄だが)8名の副局長任命。内1名を除き官庁外からの器用で自称政治家・文革曽行政長官子飼ひの行政長官弁公室主任の陳 德霖が集めたお友だちサークルと専らの噂。教育局の副局長に任命された陳某は香港ジョッキークラブで馬場事務部の部長からの抜擢。教育は競馬馬の調教 か……。
▼四川大震災の喪に服し月曜より三日間、香港ジョッキークラブは今晩のHappy Valley競馬場での競馬競技中止。月曜日の朝に出走馬最終決定し、その後の中止決定。すでに競馬新聞など刷り終はり損害大。せめて日曜日の決定であれ ば。蘋果日報で左丁山氏が知人の弁として曰く、哀悼の意を表し競馬中止もいいが、どうせなら開催で競技前に黙祷捧げ今晩のジョッキークラブの売上げのうち 配当の上前(約2割)と優勝から5位までの賞金も全額義援金に拠出すればHK$2億になるはずで、それを四川省の罹災民に贈つたはうが実利あり、と。
▼中華料理と葡萄酒について。唯靈さんが信報の連載で書いてゐる。経緯は省くが唯靈さんがテイスティングに選んだ料理は「薑葱炒牛肉」「梅菜排肉」と「乾 葱原粒豆鼓爆鶏」といふ、もうそのまま順徳のやうなベタな地場料理。さすが。でテイスティングの結果、Cuvée Armonioつて「高級だから良い、のではなく」グルナッシュノワールが40%、メルロー30%、カベルネが30%といふバランスがいいのだ……つて言 はれても世界でも入手困難な葡萄酒と薑葱炒牛肉、梅菜排肉と言はれてもねぇ……(汗)。寧ろHugh Johnsonの葡萄酒ガイド本が中華料理の際の提案としてSt-Emilonか南半球のPinot Noirを挙げ、またChateauneuf-du-Papeが広東料理の鴨に合ふとするのはアタシの選択のままなので嬉しいかぎり。ついでに綴つておけ ば四川料理に合ふ葡萄酒として(そんなもの存在するのが不思議だが)BerdicchioやAlsace Pinot Blancを挙げたのが自棄で「でもやつぱり冷たいビール」とのコメントに笑ふ。
▼テレビなど地震の「被害者」を「被害者の方々」といふ言ひ換へが耳障り。相手を思ひやるなら「被害に遭つた方々」とすべきで「者」といふ呼び方に高慢さ も偏見差別もないのだから。NHKで神南のスタジオと四川省の現場との遣り取りでスタジオのキャスターの方が「被害者の方々」と云ふのに現場の記者の方は 「被害者」と呼び捨てなのが好対照。現場の切実さとスタジオの温度差。「中国人の方々」も同じ。またNHKなど「大地震」を「おおぢしん」呼ぶのも耳障り なのだが「地震」は漢語といふ意識は薄いため大雨(おゝあめ)や大鳥(おゝとり)など和語的に「おおぢしん」にも違和感がない、といふ見解の由。個人的に は「だいじしん」のはうが音の並びが良いと思ふが、ふと思つたのは地震は漢語だが和製漢語ぢやないか?と。「地が震へる」といふ漢字の主+述の並びが日本 語的発想。詳しく調べてをらぬが「地震」は「地震、雷、火事、親父」の例出が平安末期の伊呂波字類抄に見られ「雷」以下の火事、親父が漢字和語であること からしても地震もかなり和製漢語か、と思ひ大槻博士の大言海引くと地震は「國語」とあり納得。
▼親の離婚時期で生まれた子どもに戸籍が設けられぬ=出席届けも受け付けられぬ問題。戸籍ぢたひが百害あつて一利なし、住民票に統一すべき話、国民として の権利喪失の重大なる憲法違反。ところで「出生届」も「しゅっしょう」届といふ読みが普及。「しゅっせい」は戦前に「出征」と紛らはしいので「しゅっしょ う」としたといふ説もあり。漢語でどちらでも良ささうだがアタシは個人的には「しゅっせい」好み。理屈としては「しゅ」が漢音なので同じ漢音の「せい」が 好聴、「しょう」は呉音で「しゅつ」の後には耳障り。「生」を「しょう」と読む例は「生類」など甚だ少なし。
▼先週、香港証券取引所(HKEx)の理事辞任のDavid Webb君が自身のブログにて自らの後任にドナルド=ラムズフェルド米国前国防長官は如何か、と揶揄(こちら)。
There are thins we know that we know. There are known unknowns.There is to say, there are things that we now know, we don't know.But there are also unknown unknowns. There are things we do not know, we don't know. So when we do the best we can, and we pull all this information together, and we then say well that's basically what we see as the situation, that is really only the known knowns, and the known unknowns.
の迷言などでわけのわからん大賞受賞のわけのわかならさ、がHKExに適任、と。

五月廿日。未明に目覚めれば昨晩が十五夜、今日が満月のはずが大雨。月を愛でるくらゐしか人生に楽しきことなき老生に月の出ぬ雨は空し。昼に食事兼ねた講演会あり。拝聴するが朝四 時起きぢや昼の睡魔との戦ひは険し。粗呆區に今月開業のSundaram Tagore Gallery訪れる。千住博君の作品も数点あり。紐育と加州ビヴァリーが丘で大好評のこの画廊はその名の通り印度の文人ラビンド ラナート=タゴールの末裔たるSundaram氏によるもの、香港政府の中でも「最も不要千萬」「百害あつて一利なし」な香港投資推廣署が Sundaram氏に香港の芸術文化向上のためにと三顧の礼尽くし香港で開業。先日の信報にてSundaram氏曰く「伝統がけして全て良いわけでもな く、反面、現代化にも欠点がないわけでもなし。伝統はすでに静止したものに非ず伝統もまた時間に従ひ様態を変へる。ゆゑに個人の思惟もまた伝統と現代に対 峙していかなければ」と。御意。だが信報のこの記事で書き手(陳耀紅)曰く、文化は社会の多くの人々の整体表現の累積(の結果)であり、もし多くの人にそ の新しい世界に対峙する準備も経験もなければ、ただ口先で文化向上と云ふばかりで那就是堰苗助長、這個面目模糊的渾沌還是無從開竅(こんなのなんの打開策 にもならねぇよ)と。御意。HK Arts CentreにRoland Fisherの展示見ようと寄ると館長のA君と昇降機で遭遇。先週のART HK 08で草間彌生さんの今年の作品を看た話するとA君多忙にて“just money, money, money”の即売展示会には足を踏み入れてをらず、と。芸術品は公衆にあるべき、が信念のA君らしさ。HK Aarts 08といへば今朝のSCMP紙に盛況=多売、と記事あり。昨年サザビー競売にて中国モダンアート最高値(£290万ドル)で話題となりし「泣 き笑ひ」画家・岳敏君(Yue Mingjun)の作品が韓国の画廊から持ち込まれ150万ドルで売れた由。現物見たが「あれがHK$150万」と驚いたらUS$150万……ただ呆れる ばかり。
▼台湾総統に馬英九君就任。東京都知事石原君赴台祝賀の由。退任の阿扁総統、英九新総統の就任祝賀大会には当然?欠席。家族ぐるみの公費横領での追訴に怯 える日々の始まりは本日午後から街頭にて空き缶やペットボトルの資源ゴミ回収ボランティア活動に従事。ふとクスリや男娼監禁の軽犯罪で社会服務令に服し街 頭清掃中の英国芸人ボーイ=ジョージ君彷彿。英九新総統は台北での就任祝賀済まし新幹線の普通席に乗車し一路高雄へ。祝賀宴を高雄で開催は民進党基盤の南 部重視の狙ひ。地下鉄で高雄市街の漢来大酒店。漢来は高雄では高級ホテルとはいへ宴会予算は1人五千円程度で感覚的には首相就任パーティを品川のホテルパ シフィツク東京で開催のやうなもの。庶民派、南部重視といふ姿勢の見せ方が電通のやうな広告代理店の演出といふいふより地方都市の商店街の泉町振興会的な 発想が……いや、だからこそ庶民的か。総統官邸も総統「寓所」と改名の由。寓所と云ふには立派過ぎる日本の台湾総督官邸の建物よ。ところで台北での英九君 就任祝賀大会に李登輝君、当初「開催時間が早すぎ」で欠席の意向が突然の(予定通り?)出席で国民党にとつては李登輝君は「党史に残る千古罪人」の元・主 席ながら元総統として英九君、副総統に次ぎ首列第三席に座す。さすが。ちなみに李登輝君総統辞任の1996年の後任選挙で李登輝君の阿扁後援により敗北の 連戦氏夫人は李登輝君の前を通る際に会釈で済まし未だ怨念顕わ。
▼台湾政府は今回の四川大震災にNT$20億(66億年)義援金として拠出。そのほか民間で6億人民元。退任の阿扁総統はこの義援を「国際的」義務と称 し、それに抗するかの如く中国政府は海外各国からの支援金リストにこれを含めず。ちなみに1999年の台湾地震の際に中国は(あらためて小額だと思ふが) US$10万拠出し海外からの義援金や物資の台湾への支援に対して各国に対して「須く中国赤十字を通すこと」とクレームし台湾の反中感高めた由(蘋果日報 で李怡氏による)。

五月十九日(月)雨。四川大震災より一週間。中国は本日より三日間挙国同哀。香港含む各地で午後2時28分から三分間の黙祷。中国で初めて国民の犠牲に半旗掲げられる。犠牲者 に哀悼は当然だが多くの国民が天安門広場なので「中国加油、中国加油、加油!加油!加加油!」とシュプレヒコールで泣きながら拳を揚げ義勇軍行進曲(国 歌)を「起来、起来、起来!」と歌ふ態、「天災三分、人災三分」の災害が911の米国同様に愛国心の大規模な国民運動に転化した感あり。災害での救援やボ ランティアの活動に敬意表しつつ阪神淡路地震で田中康夫のボランティアは罹災者に少しでも真つ当な生活を!が目的(それだけ)でナショナリズムの国民運動 とは縁遠きものだつたことの重要性。テロや自然災害に遭ひ、まるで国家がなければ生きていけぬといふやうな認識に陥ることの誤謬(実はUNでも国際救助組 織でもサンダーバードでもいいのだが)。この大震災に関する論評多きなかFT紙に掲載のMichael Fullilove氏による“Chinese diaspora carries a torch for old country”は必読。
▼信報で崔小明氏が今回の四川大震災についていくつか指摘。先づ今回の地震で成都の被害者が1.2千人=都市人口の0.01%に済んだことの幸ひ。もしこ の地震が成都や人口3千万人の重慶に直撃したらどうなつてゐたか。また地震発生が午後であつたことの幸ひ。関東大震災が昼前で煮炊の火で各地で大火となつ たこと、或いは神戸が寝込み襲はれ家屋倒壊の被害の大きさなど思へば納得。三つ目として汶川は四川省のアバ蔵族羌族自治区とはいへ東南部の羌族地区が震源 地に近く蔵族(チベット族)多き北部の被害聞くに及ばず、もしチベット族に被害多かれば中央政府が全力で救援したにせよ三一四的なる反政府行為が発生して もをかしくない、と(これは偏見?)。最後にこの震災の一週間前にミャンマーのハリケーン被害あり、災害情報の未公開や外国援助受入れぬことの負の影響を 北京中央に「以人為本」と教へた幸ひ。

五月十八日(日)朝十時のジェットフィイルでZ嬢と一路、マカオ。澳門芸術節で今晩、浙江省の婺劇の芝居が永樂戯院であり、その参観。バスでのんびりとコ ロアネ島の路環に向ひRestaurante Espaco Lisboaに 昼食。ゆつくりと、のつもりが十人ほどの客の予約の大卓ありイヤ な予感、は的中で韓国からの写真撮影愛好家のご一行。写真撮影は良いんだけど「料理の撮影」が此処のテーマらしく、予め注文で運ばれてくる料理を撮る、撮 る、撮る。他の客の迷惑なんて論外での撮影。Z嬢が「樓下に移らない?」と呆れるが「文化人類学者としてこんなフィールドワークの機会はない」と愚行眺め ること暫し。フィリピン人の給仕らがタガログ語(あるいはフィリピンの何れかの土語)で「せつかくの料理を食べもしないで冷めちやつて残して……まつたく 勿体ない」とか話してゐるのをZ嬢が耳にして「さうよね」と合点して客と給仕とで含み笑ひ。この撮影隊、ほぼ全員がキャノンのEOS 5Dなるカメラ所有で「キャノンの回し者」かしら(それが余計に気にゐらない……笑)。撮影にレフ板持参してゐないのが不幸中の幸ひ、で撮影に熱中して他 の卓の客の料理まで望遠で撮影のやり たい放題。フラッシュびしばしつはZ嬢が独り言のやうに苦言したのが通じたらしく閃光だけは途中で止めたが。冷めた料理を食ひ散らかし大方の料理残し撮影 隊撤収。ただただ呆れるばかり。アタシらはシェリー酒、白のグラスワインで浅蜊のバター炒めと蛸サラダ。赤はQuinta do Crastoの05年で葡萄牙風牛肉ステーキの煮物……それだけをシェアといひつつ主菜の牛肉だけで14ozくらひ。ゆつくりと葡萄酒の杯を傾けつつデ ザートまで2時間半。まつたもつて暇。午後遅くバス乗り継ぎMuseu de Aerte de Macau(澳門芸術博物館)。巴里のルーヴル美術館より希臘の大理石彫刻、殊に裸体像の数々の展示。ルーヴルの大規模な内装工事で収蔵品 が世界に貸し出されてゐる由。夕方、荷蘭園の禮記でアイスク リーム。日暮れまで散歩して公園でのんびりのつもりが乗つたバス間違へ旧市街周遊して白鳩窼公園。鳥渡寛ぎ日暮れに散歩して永樂戯院にて晩の芝居の切符受取り戯院向 ひの安記麺家にて牛腩麺食す。芝居まで鳥渡、間があり劇場の 周辺ふらふらしてゐたらアタシの琴線に触れるカメラ店あり。鳥渡覗くと好事家にはたまらない新古の写真機やレンズなどづらり。一眼レフとコンパクトが主で レンジファインダー機なかつたのはアタシは幸ひ。ニコンのF2用のモータードライブMD−2はほぼ新品で強気のHK$7,988也。初めて入つた永樂戯院 は内装の模様替への直後かしら驚くほどきれい(ある面では期待外れ)。今晩の芝居は浙江省の婺劇で「白蛇前傳」。 字幕は中文だけで葡語は各幕開きの数行程度だが土着の葡萄牙人の老若男女少なからず。アタシの一列前にはラスタヘアのアフリカ系葡人の少年がヒューヒュー と指笛で舞台を喝采。それも「あり」だらう。浙江省の劇団は香港にもよく来るが婺 劇は芝居好きのアタシも未看。でわざはざ澳門まで芝居見物と相成つたが浙江省婺劇團は予想以上に楽団も西洋楽器多用で舞台前方のオーケストラボッ クスに陣取り音楽も現代風なら舞台の若い役者たちも演出も演技も現代風。最初はちよつと慣れなかつたが「これはこれであり」の判り易さ。主人公の白素貞演 じる女優も婺劇らしい高音が冴えるが契妹である小青役の楊霞雲が適役でトリックスター的な小青を上手く演ずる。この蛇の化身が恋する美男の許仙は前半は女 優(汪霞蓉)、後半は男優(樓勝)が演じ分け、前半の相思相愛から婚礼、酒に酔はされ蛇の化身とバレる急展開までを女優が演じることで艶つぽく、後半の騒 動は男優がコミカルの身体を張つてコミカルに、の演じ分けも見事。殊に後者(樓勝)はまだ若き役者だが器量も声も演技も三つが揃ひコミカルな味もさらりと 若い頃の孝夫さんのやうで「大詰め」の「断橋」は拍手喝采。芝居が撥ねると下町の賑やかな町に放り出される、この感じ。実に幸せ。午後十時半、まだ多くの 店が開いてをり芝居の後に劇場の近くで軽食だのお茶だの、と。路線バスで波止場。芝居が終はり遅くなること怖れ三更半夜のジェットフォイル予約してゐたが 23:15のフェリーに乗船出来て香港に戻る。

五月十七日(土)天気予報は昼は摂氏卅度と告げるが朝晩の涼しさ廿数度で山に隣接の陋宅は窓開けれると心地よき冷風あり。昼にかけZ嬢と香港会議展覧中心 にてHK Int'l Art Fair(ART HK 08)参観。香 港国際芸術展と銘打つがLehman Brothersがス ポンサーで折りからの現代アート「投資」ブームで香港に世界各地の現代美術扱ふ画廊百軒以上集め、の現代アート即売会。入場料もHK$150だかとお高め で「美術館ぢやございません」の姿勢、ゆゑに土曜昼でも閑か。個人的には倫敦のMarlborough画廊の、殊にスペインの画家Juan Genovésの絵画が素敵。草間彌生を扱ふ店子もいくつかあり、ふと昨年来港の大田ファインアーツのK嬢 思ひ出してゐたら同画廊も出展してをりK嬢に再会。 東京の現代アート界では著名なる同画廊の御主人・大田秀則氏を紹介いただき余も関はり今秋に香港で草間彌生さんのドキュメンタリー映画「みんな大好き」の 上映決めたことお伝へす。湾仔のSubwayにサンドヰチ食す。所用済ませ晩に陋宅にて餃子茹で食す。香港はかつて湾仔碼頭餃子が一番だつたが大量生産で 完全冷凍のうへ小振りになり味も落ち中国産の冷凍餃子の方が(日本では拒絶反応だらうが)美味。早寝。
▼香港証券取引所(HKEx)で殊に法令遵守につき歯に衣着せぬ発言続けしDavid Webb君が突如、理事の座から辞任。40代の元投資銀行家で殴り込みの形でHKExに加はり謂わば「鬼つ子」的存在。FT紙の記事曰く David君から見れば経験も知識も浅き役人が国家的背景で加はつたHKExの不健全さ。
▼四川大地震で李嘉誠さんの一筆HK$33.4m(4億円)の義援金には及ばぬが李嘉誠財閥の番頭のCanning Fok君もHK$5m(6500万円)で大したものだがSCMP紙のLai See曰く年収(HK$148m=19億円!)の3.4%に過ぎぬ、と。日本のサラリーマンMDでは考へられぬが。
▼孔在齊氏の「顧曲集」(信報に連載)で梅蘭芳について(続き)。日本の侵略で上海を逃れし梅蘭芳そして孔在齊氏家族も香港に逃れ幼き孔氏香港のスター フェリー上で梅蘭芳の尊顔に拝すばかりか挨拶していただく幸運。香港では当時、利舞台の戯院完成し梅蘭芳の舞台も期待されたが香港陥落で日本軍統治下で舞 台に立たぬと梅蘭芳は「もう四旬で今さら白塗りは」と髭を蓄へ隠遁の日々。南京の傀儡政府の手配で上海の要人らは日本の郵船で「平和裡に」上海に戻らされ 梅蘭芳もその一人。だが上海でも戦時中は一切舞台に立たぬ矜恃。戦後、晴れて舞台に戻つた梅蘭芳、七、八年のブランクを全く感じさせぬ艶つぽさ。戦時中こ こまで徹底して舞台に立たぬ俳優は梅蘭芳只一人、と孔氏。
▼Time Out誌の香港版刊行。無料情報誌氾濫の中でHK$18で「情報を買ふ」か、かなり微妙。香港の邦字紙老舗「香港ポスト」紙も今月より無料化。

五月十六日(金)晴。朝いくら夜明けが早からうと目覚めて茶でも飲んで、の老人暮らし。朝早い分には全く問題なし、で入江兄に誘はれ東京のJ-WAVE放送局のJK Radio Tokyo Unitedなる番組に電話で数分出演。ジョン=カビラ氏の司会でStar Flyer Tokyo Crossingといふコーナーは「世界各地の番組通信員と国際電話でマルチにコネクト。時事問題から生活実情まで、世 界中の視点を並列して探ります」といふ企画で今日の話題は「五月病のシーズンをどう乗り切りますか」。大学が6月卒業で就職など時期もてんでバラバラの香 港で五月病はそもそもない、と当たり障りのない話題で数分が終はるはずが通話数分前からのスタンバイの間に聴こえたカビラ氏の声が「四川の地震について」 云々。えつ……?で、電話の向かうで担当者が「あの……突然で申し訳ないんですが」と言ふのを「今、聞いてゐました」と答へつゝ慌てて頭の中で香港の災害 地支援体制だの李嘉誠が義援金で確かHK$30Mは日本円で4億円か……と情報整理。だうにか自分 的には無難にこなして終了。富柏村が香港在住のジャーナリストといふ紹介はをこがまし過ぎ。小学4年生頃から遠方の中波局や海外短波ラジオ受信のBCLに 嵌り小学校の卒業文集には将来の夢に「ラジオオーストラリアの日本語放送のアナウンサー」と書き、実際に数年は音楽・放送業界に在り局に出入り仕事のアタ シとしてはラジオは心のふるさと。テレビより断じて楽しい世界。後で昨晩のうちに入江さんから「明日は四川地震の話 題になるかも……」とメールあつたことを知る。早晩に寿司澄。帰宅前にちよいと一杯のつもりでもOyster Bayの04年の葡萄酒片手に熊本産の生牡蛎、生蛸の刺身。半冷凍のシャーベット状の蟹味噌を添へた蟹肉。たまらない。小柱。赤貝の貝柱。薄味の出汁で煮 た鯛のお頭までいただき神戸の「福壽」を正一合。帰宅してアピタのマグロ解体での中落ちで丼ぶり。幸せ。
▼ネット版のFT紙でMizuho hit by surprise subprime lossesとみづほ銀行のサブプライム融資6,450億円の損失と伝へる見出しニュースの 横に北斎の富士の絵でみづほコーポレート銀行の広告。洒落にならぬ。放送局ならスポンサーのマイナス報道は御法度だがネット上だと許容範囲なのかしら。

五月十五日(木)晴。台所に置かれた野菜が有機だからか、最近、高層マンションなのに居間にヤモリがゐたりする。家守だからそのまゝに、と思へば今日は台 所の窓際に前からあるミントの鉢植えに蝶の幼虫が。ミントにもと/\住まふはずもなく、どの野菜から引つ越してきたのかしら。香草のミントをそんな大食ひ して平気なのね。ここ数日過ごしやすい日が続き窓を開けて天井扇の風にヤモリと芋虫で、マンション住まひの生活が少し野性的。
▼知人が或る疾病で日本人にも人気の某私立総合病院で診察受けると或る病名を宣告され香港での治療にはかなり費用がかゝり本人も驚き念のため別の総合病院 で再検査すると疾病は単なる身体機能低下。前者は少なからず良からぬ噂も耳にするが、また下手なこと書くと誹謗中傷による損害賠償で1億円くらゐ請求され ると怖いので(笑)。
▼書評読み読んだつもりの本書かな。でジョン・C・ボーグル著『米国はどこで道を誤ったか 資本主義の魂を取り戻すための戦い』(東洋経済新聞社)で評者は久保文明(東大名誉教授)。著者は米国の有力投資会社バンガード=グループの創業者。最高 経営責任者が平均で一般従業員報酬の280倍もの平均報酬を手にする米国の大手企業。その米国資本主義に対する痛烈な批評。企業が経営者の利益のために経 営され株主(社主)が犠牲に。その責任は投資家を保護しなければならぬ公認会計士や取締役にある、とする。また投資のあり方の問題。株が今や、直接、株主 (依頼人)にではなく仲介者(代理人)に保有され、機関投資家の株式所有が株式全体の66%になる現実。受託者を代表する義務を負ふはずの投資期間が受益 者の正当な権利を無視し長期的投資を疎かにして短期的投資に走り利益相反行為にも手を出す。投資ファンドのマネージャーは投資家の利益より自らの利益を優 先し管理者でなく商売人の様相。そこで、資本主義の伝統的価値観である誠実や信頼といつた倫理観を取り戻す重要性。御意。
▼先週だか香港政府(といふ名の地方役場)の教育局主席教育主任の容某曰く
八月北京奧運、可讓學生理解國家擧辯奧運會的意義與國家發展狀況、 培養他們正面的價値觀和態度、以及増强他們的國民身份認同和民族自豪感、爲國家和世界作出貢獻。
中国政府はオリンピックの政治問題化への懸念など表明するが、この地方の小役人のコメント聞くだけで五輪がいかに政治的な行為か、は明白なところ。

五月十四日(水)快晴で湿度なく窓を開け天井扇の風も心地よし。体調回復。尖沙咀に所用の帰りがけに寄りし処に椿事あり。晩にNHK番組「ためしてガッテ ン」の焼ソバ特集で女性アナが「麺が煮られたら」といふ言ひ回し。文法的に間違ひではないが他動詞「煮る」の受け身の「煮られた」よりも自動詞の「煮え る」の「煮えた」のはうが自然なのでは、と思つたがgoogle検索では前者19.2万件に対して14.6千件。究極のヤキソバで「両面黄」といふのが紹 介されたが、これはgoogleで僅か9件、兩面黄で74件(銅鑼湾の金満庭「京川滬」菜館のそれが紹介あり……)、香港人二人に翌日尋ねたが二人とも両 面黄を知らず。ところヤキソバの調査で「NHKの国際放送で働く中国の人に尋ねてみました」といふ表現が耳障り。「中国人スタッフ」の方が寧ろ親近感あ り。テレビ等では「中国人」や「韓国人」がすつかり「中国の人」や「韓国の人」に置き換へられた感あり。黒人は「黒い人」に非ずイギリス人やアメリカ人は そのままなのに何故に中国人は「中国の人」か。中国人や韓国人が差別的?、或いはさういふ偏見が根底にあり、かしら。「函館の女(をんな)」も差別的なの で「函館の女(ひと)」か。

五月十三日(火)深更に体温摂氏38.5度。昨晩は夕方の麦酒と南京豆だけでさすがに空腹感ありenergy gel(100kcla)とリポD、それにQP興和ゴールド数粒摂り朦朧したまま夜明け。少し熱が退き近隣のC医師の診療所で診断請ふ。服薬し午後まで寝 ると平熱となり体調もどうにか回復。佐藤忠男『黒澤明の世界』読了。一昨日注文の天井扇が今日届き取付けは木曜日だか週末で技術者に連絡すると「これから 行くよ」と。突然だが当方もどうせ在宅だし一日で済むなら幸甚。香港らしい優柔さ。夕方、居間に天井扇がつく。唾玉集(東洋文庫)ほんの少し読む。バンコ クよりY氏来港、晩に炮台山の順寿司。昨日からの高熱でふらふらで今晩の招飲の約は辞退か、と思つたが体調よく軽く、軽く。Z嬢もご一緒。六、七年ぶりの 順寿司はかつて天后の「利休」で厨房を仕切られたK氏が利休が閉つてから移られたと聞き及び、の由。利休の頃にあれだけ食してをりながら厨房のK氏には今 回、板前で初めてご挨拶。
▼信報で王迪詩といふ書き手の隔週土曜の蘭開夏道といふ随筆が良い。過去の随筆はこちら。「紅色中環」と題した5月10日の随筆 は中環のオフィスでかなり大切な打合せの席上、北京から来てゐるマネージャーが突然「聖火リレーを見にいかう」と。中環の香港倶楽部前で突然、Louis Vuittonの鞄から大きな五星紅旗の旗が現れ……、中環は紅旗が舞ひ普通話ばかりが聞こえ筆者はこの狂歓の大陸人たちがこの土地(香港)の主人なの だ、と痛感と。また湾仔ではフリーチベットだのミャンマー軍事独裁反対のスローガン掲げた西洋人の青年に、五星紅旗掲げた女性が旗で青年を威嚇すれば、警 察は(これも身柄の安全確保か……で)青年を自動車に乗せて連れ去つた由。人を殴るにも武器は多からうに自分の国の旗で威嚇とは……と筆者の嘆き。
▼今回の北京五輪に係はるチベット問題や中国のナショナリズムで余が一番驚いたのは在ハンブルグの碩学・關愚謙氏の言動。信報に毎週のやうに積極的に発言 続けるが9日の文章でも(抄訳)
欧州の一連の反中報道もどうにか落ち着き中国の「平和的な聖火リレーの様子を正面から」報道するやうになつた。ハンブルグでの中国人留学生の抗議運動は報 道により独逸社会震撼させたやうだが、それは暴力に拠らず道理のあるもので、中国からの学生も台湾からの学生もチベットが中国の一部である、といふ認識は 一致。中国の二十年来の発展が欧州中心主義の西洋人から見れば「有褒有貶」で中国を問題視する。平和な祭典の年が欧米の意図的な偏向報道。中国の民族主義 を非難するが、民族主義と民族感情は異なるもので、真つ当な民族感情は非難されるべきに非ず、寧ろこの機会に冷静に西欧中心主義の実態を見据ゑ、現実の理 解の良き機会に。
……と在独の中国人留学生の若き血潮に訴へる。欧州中心主義があるのも事実だが中華思想もどつこいどつこい。自身がそのいづれからも自由でゐられることに ふと安堵。

農暦四月初八。蒼天。佛誕。四月初八は伝説で嶺南の地に広く慕はれる譚公の生誕日でもあり筲箕灣の譚公廟も祝賀で大いに賑はふか。長洲島では太平清醮の幼 童の仮装山車行列と高き塔に組まれた饅頭奪ひ合ふ奇習・搶包山比賽に数万人の人出。本来この奉祝行事は長洲島の「北帝」のお告げで催事日決めるものを観光 行事として政府が佛誕の祝日に固定といふ暴挙。譚公も長洲島も余はその人出に怖れ一度も見た事もなし。終日悪寒あり冷房が酷。早晩にQuarry BayのEast Endにて近々帰邦のカメラマン兼編集者のM氏、編集者のS嬢の送別で一飲。編集者のY嬢とZ嬢とアタシの5人。Y嬢とS嬢は九十年代に余が香港の邦字紙 媒体に書いてゐた頃の担当者でその後もいくつかお仕事関連あり。M氏も『香港通信』誌の頃から十五年以上の知己。懐かしく多少ヤヴァゐネタで昏刻を笑ひ過 ごす。余の所用あり日暮れに散会。晩に風邪がひどく久々の発熱。
▼情報の流出。病院や銀行で職員がUSBメモリに患者・顧客情報を入れたものの紛失で情報流出。
▼四川省でM7.8級の大地震あり。死者一萬に至るといふ。32年前の唐山大地震以来の惨事ながら、1976年は周恩来先生逝去から半年、毛沢東病入膏肓 で華国鋒が後を襲ふが四人組実権掌握で唐山は夷為廃虚屍横遍野ながら「自力更生」掲げ24万人が死亡。04年のインド洋大津波で大量の死者は各国の広い地 域に及んだが唐山がほぼ一都市地区での参加と思へば被害の甚大さ。天災三分人災七分。昨今のミャンマーのハリケーン被害も人災過多。それに比べれば今日の この四川大地震、温家宝首相が主要関係者連れ専用機で現地入りし夜を徹しての災害救助作業の由。昨年八月卅日に「突破事件応対法」が全人代通過してから初 の同法対象となる惨事。

五月十一日(日)朝四時起床。机に凭り諸事済ます。読書。曇天の朝に聴くドビッシーの「ピアノのために」からサラバンドが素敵。Z嬢と海洋公園に行かうか とバスで遠足。朝九時半の開門直後の海洋公園は香港鼠楽園に少 し客の数分けてやりたい程の盛況。自分の名前にPANDAのADNPの何れかの文字含まれてゐれば入場料2割引きでHK$166.4也。パンダ舎に参れば 昨年来港の若い雄雌一対と古参一対の四頭が丁度、朝の餌時間で旺盛な食欲見せる。石原慎太郎のパンダなど「いるところに行って見てきたらいいじゃないです か」発言も記憶に新しいところ。園内の人出に比べ意外とパンダ舎は混んでをらず、やはり大陸からの客にとつてパンダより海月館、海豚ショウや気球だの断崖 絶壁のジェットコースターの方が珍しいか。パンダ舎では「撮影のフラッシュはご遠慮ください」の指示でもフラッシュの閃光燦きつぱなし。何が不自由つてデ ジカメで撮影者が初歩的な、フラッシュ光らぬやうにカメラを操作できぬ不幸。もともとジェットコースターだの急降下楽しむやうな遊戯施設が幼き頃から苦手 な上に耳の平衡器官の衰へか旋回なんて気分悪くなるのが必至で真っ平御免の余は海洋動物専門で、海驢の餌付けだの昼過ぎまで園内に遊びバスで香港仔 (Aberdeen)。舊大街の謝記に赴くが店内に涌く客の数にたじろぎ魚蛋粉食すは断念。路地裏の、フランチャイズ化し香港各地に店舗網広げてから客に 飽きられすつかり低調の泰国人海南飯に食す。日曜の昼に食肆不足の香港仔でゆつくり坐つてタイ麦酒など飲んでゐられるだけでも御の字。タクシーで鴨脷洲の 海怡工貿中心(Horizon Plaza)。人里離れし工業開発区の(といつても南Y島眺める絶好の景観だが)26階建ての倉庫ビルが家具や衣料品アウトレット、アウトドア用品や葡萄 酒など扱ふ店が並び不便な場所ながら週末は盛況。殊に住宅事情厳しき香港で「何処に置くのよ」みたいな大型家具が主で客は高級マンションや比較的郊外に住 む、殊にオリエント趣味の家具好きの毛唐多し。いぜんから陋宅の居間に天井扇(……と日本語で言ふと初めて知つた、Ceiling Fanのこと)を、とかねがね考へたのは冷房では涼しすぎ小さな扇風機では事足りず、で天井扇専門に扱ふ店で米国オーロラ社の地味な、何等装飾のないのを 誂へる。週明けに配達で数日以内に取付け工事は小一時間で終はる由。他に葡萄酒、雑貨など購入。帰宅途中に太古城のApitaの日本食フェアで旭川駅の駅 弁・蝦夷わつぱと鯖寿司購ひ帰宅して食す。
▼些細な事だが日本食フェアであるとかで来港の実演販売の人や農協の職員など「はい、いらっしゃーい。北海道の新鮮な生鮭だよ」等と販促はするが、いざ客 が買はうとすると香港の地場の者に「はい、こちらのお客さん」と売り買ひ(現金のやりとりを)任す。なんだか横柄、と思つてはならぬ。厳密には就労査証得 てをらぬから働いて収入得ては違法。であくまで「お手伝ひ」で個人所得はありません、といふ次第。
▼Z嬢が録画の昨日のフジコ=ヘミング女史のインタビューを看る。NHKの朝のバラエティで「この人にトキメキつ!」なるコーナー。確かに司会とご本人の チグハグぶり、ゲストの突飛なる個性の所為でもあるが、司会者の「他の人にはない、自分のテンポで音を自在に扱い」なんてベタなコメントに象徴される無味 乾燥がいけない。大阪のシンフォニーホールでの最近の映像など流れるが往年のホロヴィッツも真つ青の素人でも「えつ?」と思ふ重大なミスタッチも連続だ が、ご本人に「天才はミスする」、ミスタッチがあつても曲としていかに歌つてゐるかが大切、「国際コンクールでちよつとミスしただけで落とす。表現の素晴 らしさを見てゐない」つてと言はれてしまふと、もう御神託の域。自分はマリア=カラスが唄つてゐるやうにピアノを弾くんだけど他のピアニストはみんな機械 的にガチャガチャ弾くだけで、と言ひたい放題。一流の演奏家はツィメルマンのやうに寡黙でいいし、ヘミングさんはアルゲリッチよりもつと特異な存在でゐら れるのだから、NHKも彼女を「発掘」したのは良いが朝のバラエティにゲストで呼ぶのがよくない。

五月十日(土)ランニングクラブで数名集り曇空の朝、Bowen Roadを歩いたり走つたり。かつては毎週末のやうに走つたBowen Rdもかなり久々なのは華懋集團の総帥・龔如心女史逝去で遺産相続巡り「謎の風水師」の存在顕わとなり話題と なつたが昨年07年4月。Bowen Rd 16號にひつそりと位置する謎の豪邸はかねがねアタシも気にはなつてゐたが、それがその風水師・陳某邸。晩に緑と白のアスパラ、茄子のマリネ、ソーセージ とチーズで葡萄酒は新西蘭のMud HouseのSauv Blの06年。食後にアルフォンソ・マンゴー食す。
▼FT紙の週末版にKrystian Zimermanのインタビュー掲載あり(Shirley Apthorpによる、こ ちら)。健啖家でないツィメルマンであるから興味深く氏の語るところを読む。「良い音」が究極のやうに思はれるが良い音より寧ろ醜くとも、その時 の自分の感情に正直な音を、と。楽曲も全てが「美しさ」の追求に非ず。
Actually over the past few years, I have been moving away from sound. On one hand I'm very flattered that people like the sound of my piano. On the other hand I don't care about the sound. I'm looking for an adequate sound. If the piece is ugly, I want an ugly sound. I want the sound to do what I want, not to be beautiful. I've seen pianos like that. I sat down, the piano was beautiful, and the moment I wanted to change something, the piano was still beautiful, and I hated it - because the piano didn't listen to what I wanted to do. My piano is incredibility flexible. It almost dreams with me in the concert. I have an idea, and I don't even have to verbalise or to think how to do it. The piano reads it directly from my soul.
なんだか茶の作法の神髄のやうな、一期一会でピアノとの対峙か。ピアニストといへばNHKにフヂ子=ヘミングさんがインタビューに答へてゐたさうで(司会 者泣かせの)御神託の如き突然の発言続き「なかなか絶妙」とZ嬢。フジ子さんにしてみれば最近のピアニストはメロディーを歌つてゐない由。

五月九日(金)パナマ帽の要る快晴。日傘さす人多し。早晩に散髪。奈良からT君来港、晩に北角の鳳城酒家にZ嬢と食す。予約済みだが既に満席で十五分ほど待たされる。 かなりの盛況に何事か、と思へば箸袋が「」印で、何れの卓 も母親を囲む家族連れ。早くも母の日の宴席と知る。順徳の(といふ印象の)地場のベタな料理に合はせ葡萄酒はサンテミリオンの甘みあるCh. Corbin(1999年)持ち込んだのは正解。食後、北角道の翠苑に て喳喳を食す。

五月八日(木)五輪聖火がチョモランマ頂上へ。無感慨……言葉もなし。東都では中国胡錦涛主席の中曽根大勲位以下歴代首相との朝食会に小泉三世招かれず。 台湾で民進党の支持率僅か18%に下落。今回の外交機密費横領につき行政院副院長らの個人的犯罪で阿扁総統は関与なく免責と民進党。スターフェリーは中環 側の埠頭移転で利用客18%減。
▼信報で毎週水曜に連載続く孔在齊氏の京劇回顧談「願曲集」愉しく読む。今回(第22回)は思はず「待つてましたぁ!」と言ひたひ「童年初看梅蘭芳」。民 国24年の上海。当時、梅蘭芳の芝居となると入場料は四塊大洋(耶蘇暦1935年の上海はすでに仏租界のフラン通貨流通してをり、その通称)。この金額は 当時の女中の月給に相当。父親が所有したSPレコードで「探母坐宮」や「玉堂春」「霸王別姫」など、孔氏はまづ梅蘭芳の歌声を聴く。で芝居好きの孔在齊氏 とはいへ晩九時半に寝てゐた幼い子どもにとつて深夜に至る観劇で客席で寝てゐると、両親に「ほら!」と起され舞台を見上げると、舞台には若い女優が剣術を 舞ふ傍らで秀麗な「蚌殻の精」が企ち、それを孔氏はてつきり梅蘭芳だと思ひ眺めてゐたが、じつは、その剣術遣ひ(廉錦楓)が梅蘭芳。在齊君の芝居への入れ 込みは大したもので、ご本人の回顧によれば、幼い頃、祖母が購ひし食材の中に「見たこともないもの」あり。祖母曰く「それは海鼠だよ」。孔氏は直ぐに「海 鼠なら食べるよ。海鼠は陰虚を治す効力があるからね」と答へ(陰虚は漢方でいふ津液の滋潤作用の低下した虚弱)祖母と母は「なんでそんなこと知つてる の?」と驚いたが幼き在齊君にしてみれば聴き馴染んだ「廉錦楓」の中で梅蘭芳が「老娘親她得了陰虚之症、用海参療此病什麼什麼」つて歌つてるぢやないか、 と(海参は海鼠の意)。いひねぇかういふ話。久が原のT君やアタシ好み。ところで孔氏が梅蘭芳が何が立派か、と讃めるのは(芝居の見事さは言ふに及ばず) 1930年代といふ軍閥割拠内憂外患の混乱の時代で京劇の梨園もかなり社会的地位も低下し乱れてゐたが梅蘭芳はさういふ時代にあつても京劇の芝居の向上に 研鑽続け品行端正、汚れぬ矜恃あり、と。

五月七日(水)五月晴れ通り越して真夏の晴天の如し。とにかく麦酒が飲みたくて帰りしなに太古坊のEast Endに寄りハッピーアワーでエール二杯。白耳義のシメイ麦酒の3本&専用 グラスの箱入りあり購ふ。い い気分で帰宅して牛丼食す。Z嬢が湾仔鵝頸橋街市の印度食材店で収穫のアルフォンソ・マンゴー(印度マンゴー)頬張る。極めて美味。香港に輸入されるのは 毎年この時期だけ。
▼NHKのNW9、あの新キャスターら、だうにかならぬものか。男のキャスターは例へばマイクロソフト社のヤフー買収断念のニュースで「(原稿棒読 み)……とここ数年はフリーソフトが主流の時代なんですね」のやうに相手キャスターと「突つ込んだ話題にならぬ」コメントしか口に出来ず、いつも相手の女 性キャスターは「なるほど」で終はる(笑)。このスポーツニュースあがりの女性キャスターも「胡錦涛」と言ふのに噛んぢやうし。二人とも蝦ジョンイル肝煎 りの水郷潮来のケーブルテレビ局ぢやないんだから……困つたもの。
▼中国胡錦涛主席訪日。迎賓館改修中にて宮城にて歓迎式典。五月晴れの宮城に義勇軍行進曲。国賓出迎へる中で皇太子殿下の直立不動の姿勢の良さ。誰が書い てゐたか先帝大喪の礼での寒雨のなか浩宮様の微動だにせぬ姿勢に背後に坐したこの人(中曽根大勲位だつたか)が「皇族とはかふいふものか」と熟く感銘受け た、と。そして「この皇妃は誰よ?」と目立つたのが実は福田首相夫人。自民党の「ヅカ」ファン・故・櫻内義雄の孫。皇族に勝るとも劣らぬ存在感は大したも の。
▼今年九月の香港立法会選挙控へ泛民主派(現状26議席)は世論の反政府感情の「盛り下がり」で20議席維持も困難の由。殊に懸念されるのは看板議員不在 となる民主党で曾ての日本社会党の如く解党の噂すらあり。

五月六日(火)ふと思ひ返せば我が母校の小学校の創立記念日。明治6年だかの開校で創立記念日=休校で他校より黄金週間の休日が1日長いのが嬉しかつたが 創立記念日(休校)といふのは関東地区には多いが西の方では(島根や高知など)公立学校の創立記念日といふのは余りない由。上環の嶢陽茶行で鉄観音の茶葉 購ふ。昔はこの時期だと福建省の鉄観音が主のこの肆でも龍井の新茶など勧められたが今ではすつかり。福建茶では馳名の老舗も見た目、商売はあまり賑やかで ない。時 代の流れ、か。早晩に帰宅しドライシェリー一杯。大蒜茎の回鍋肉など食す。紹興の「塔牌」の十年陳花雕酒。国宴用とラベルに記載があるが確かに上等。食後 にリリーの桃缶をいたゞく。リリーの桃缶とポートワインで幸せな気分。
▼数日前の信報で劉健威兄が都市情報誌のTime Outと食肆情報のZagatが香港で刊行、と書かれてゐる。たゞ世代若い読者対象の食評はもうアタシらの感覚とは違ふか、と健威兄も懸念。御意。例へば 香港の食肆情報のOpen Riceだ が、大好評の食肆は順に、澳門翠苑茶餐庁(旺角)、時新快餐店(紅磡)、再興焼臘飯店(湾仔)、維記珈琲粉麺(深水埗)……と続き所謂「B級グルメ」で、 逆に劣悪評価に天后の華姐清湯腩やPalki Indian Restaurantが挙がつてをり信じられぬ、と。御意。
▼CD系の記録媒体の寿命が10年であつたり19年であつたり幼き頃の思ひ出が大人になつて見られない事態が、と(NHKのNW9)。CDの発売当初、レ コードに比べ傷つかない点が好評だつたがプラスチックにコーティングされてゐても媒体である銀紙部分がプラスチック内の微量の水分や酸素でも錆びること指 摘されてをり今更このCD媒体が永久でない事に驚かぬが結果的にデータをアナログで残す音源ならレコード、画像ならフィルムのはうが長持ちとは……写真な んて慶喜や龍馬の肖像写真がガラス板(湿板)が現存するといふのに。それにしてもNHKのNW9の現任キャスター、ありや何だ。下手な暴言ない分、ベタな 喋りしか出来ず。NHKの21時のニュース番組のキャスターは交替する毎にレベル低下続く。
▼秋の立法会選挙控へ黄昏の民主党は票田たる港島区で李柱銘、楊森の元老級現職が引退受け跡目争ひの第二世代のうち党副主席の單仲偕君降りて甘乃威君(中 西区議会議員)有利。だがアンソン陳方安生議員の続投で有力候補数多抱へ勢ひ増す公民党の存在で民主党はもはや党単独では1議席確保も難しいとすら懸念さ れアンソン議員との統一候補化や公民党に呑まれる形での併合すら噂される始末。それに比べ公民党、区議会選挙にて山頂区で自由党候補破つたヒロインの陳淑 莊が立法会選挙で現職の党魁・余若薇と組むであらうばかりか若干三十歳の弁護士・郭榮鏗も立候補肯定せぬが同会司法界選出で引退表明の吳靄儀の後を襲ふの かアンソン候補と組み港島区で公民党として余裕の三議席目か。
▼台湾の外交機密費醜聞で行政院副院長(邱義仁)と外務大臣(黄志芳)が辞任。阿扁総統この醜聞とは無関係と逃げるが腹心の醜聞。台湾の民意受け国民党独 裁の台湾で政権につき「疑惑の銃弾」で僅差で再選されたが自らの家族の収賄もあり。阿篇は任期もあと半月だかの引責で総統辞任すべき。
▼中国のCoqinteau国家主席訪日。第一夜は福田康夫君との非公式晩餐会で食肆は日比谷の松本楼。日本で何処まで報道されたか知らぬが(蘋 果日報による)創業120年の松本楼の創業者梅屋荘吉氏は孫中山(孫文)と懇意で中山先生も宋慶齢と一緒に松本楼での食事を好み今も松本楼には宋 慶齢の弾いたピアノある由。現在の松本楼仕切る女将は荘吉の曾孫。福田康夫君の結婚披露宴が此処。この晩餐会には康夫君の母・故福田赳夫夫人や故大平元首 相の曾孫娘も出席。興味深きは共産党政府の国家主席が中華民国初代総統の国父・孫中山の縁に因つての松本楼。これも中共が曾ては対峙の国民党だが近代中国 としての正統性の維持として大切なところか。宿泊はホテルニューオータニ。ここも創業者からの中国縁ありか、と思つたが相撲力士上がりの大谷米次郎は確か に戦前は満州の鉄鋼王。その満州の製鉄インフラは確かに中共の国家資本となり戦後の東北の製鉄産業に大いに貢献といへば確かに縁もあるが、間接的すぎるか しら。北京五輪開催も近いがホテルニューオータニといへばアタシらの世代には東京五輪開催控へ東京のホテル不足に応じての開業……と胡錦涛主席投宿とは関 係ないか。

農暦四月初一。立春。新暦で節句祝ふ蛮習厭ひつゝ甘党のアタシは日本の柏餅頬張るには今日を外せず。本高砂屋の柏餅いただく。日が長引き帰宅してもまだ空 は明る くドライマティーニ二杯。甚雨。少し中 華風の夕飯で、農暦正月に鏞記で祝儀に頂いた太雕酒なる八年陳酒を飲む。かなり甘いが不思議と夕飯に合ふ。鏞記といへば今晩のおかずの一つは先週、鏞記で 残した梅菜に豚肉と野菜加へ炒め直したものだが鏞記がやはり大したものなのは「持ち帰り」の残り物でも多少の具を加へ調理し直すと見事な味覚を出すこと。 これが極み。佐藤忠男『黒澤明の世界』続き読む。
▼香港シンフォニエッタで一つ残念なこと。市大会堂での公演でもいつも感じる事だが「客より先に退勤するな」と。客の立場で会場出てバス停だの地下鉄站に 辿る頃にはすでに演奏の楽団員が、ヴァイオリンやフルートなど小楽器の演じ手ばかりだが客より先に会場アトにして帰宅の途。べつに演奏終はり何時迄も「お 疲れ〜!」と騒ぐが美徳とはけして思はぬが客より先にさつさと帰宅はいただけぬ。あなたたちの演奏で多少感動した客が醒めちまふよ。嘘でも大型の楽器、ア タシとZ嬢は真摯な演奏態度が好きだががティムパニーの日本人奏者Mさんなどまだ片づけ途中ぢやないの?
▼「子どもの日」の特集なのかNHK(衛星プレミア)で幼稚園児が芋掘りで体重19kgの子が「お母さんに喜んでほしい」と頑張つて10kgだかの収穫の 芋を畑から泣きながら30分、幼稚園まで戻る映像流す番組あり。画像見せ所詮、幼気な子どもの姿に「大人が感動」つてのが今様か。一昔前なら、こんな映像 流さうもんなら「なんだよ、この子は、まつたく……」と「欲張りつてのは良くないねぇ」とイソップの童話や昔話らしく教訓にならうところ。

五月四日(日)五四運動八十九周年。五四運動の発端は日本の対華廿一箇条要求で反日、反帝国主義の大衆運動だが九十年後に北京五輪とチベット問題でまた大 衆運動とならうとは。我が育ての祖母の誕生日。天気は雨の予報が薄日さす。昼すぎ出街。中環のダンヒル洋装店にて洋傘購入。折畳み傘も携帯には便利だが傘 はやつぱりステッキ代はりで長傘は荷風先生。丸善のお気に入りがあるが「失しさう」でよつぽどのことがないと持ち歩けず。カジュアルには千住リーガル靴店 の傘(靴屋だが傘)が意外と良い。失してもいい傘は何本かあるが雨も降つてをらぬのに洒落で「持つて歩かう」といふ気分にはならぬ。でお気に入りの三本目 になるこの傘は、紳士物然とした丸善とカジュアルなリーガルの間で洒落には気軽でいい感じ。商店出れば肌を灼く強い日差しとなり早速、買つたばかりの雨傘 を日傘代はり。パナマ帽被らうが雨傘で陽を避けようがパイプで煙草燻らせようが「老い」は老いで楽し。中 環の場外で本日の競馬、皇太后杯の馬券購ひ(結果は外れ)FCCで昨日飲んでとても美味かつたRiverside by Foppianoを二杯。半醒半酔で尖沙咀。香港文化中心のStudio Theatreで観劇。南京の京劇で牡丹亭を台本に『萬暦十五年』といふ題の歴史話劇といふ新聞記事の紹介に先日切符購へば切符に「進念二十面體」の印字 あり。進念二十面體は香港の実験劇団にて九十年代初葉に英国帰りの若い舞踊家の凱旋で立ち上げ公演から看た記憶あり。かなり久々。その進念廿面體と京劇? でよく解らぬまゝ幕開け。萬暦十五年は「長き年月」の意味で萬暦かと思つたら物語は明末に萬暦帝なる皇帝を据ゑ萬暦十五年(西暦1587年)舞台に宮廷の いくつかの物語の寄せ合はせ(原作は黄仁宇)。南京から招聘の役者が演ずる「牡丹亭」の場面の幾つかを挿して進念二十面體の役者が萬暦十五年の宮廷劇を話 劇として演ずる。これが予想以上の出来。まづ香港の広東語の話劇の見事さ。余は個人的に広東語の音韻を好まぬが話劇にせし時の広東語の音韻の弾みと滑舌の 見事さ! 而も進念二十面體の廿代の若く青かつた役者が好く歳をとり=まさに霜降り、四十代のこれがまぁ華のある良い役者に成り圧巻な滑舌で話劇の進む、進むで三時 間。徹底的に洗練された舞台道具。削ぐだけ削いだ照明。電子画像などの多様も嫌みなし。予想以上に素晴らしい舞台。今年のベストだよ、これは。見事な出来 ゆゑ敢へて難を指摘せば萬暦帝役の女役者(進念の内、今回唯一の女役者で帝=男役)に帝の役のニンなし(敢へて皇帝役を女の男役にしたアイデアは良い が)。舞台跳ね佐敦まで漫歩。Z嬢と待ち合はせ。渡船角に法式三文治食す打算が鳥渡忙しく佐敦は呉松街の咖喱皇に馳名の乾咖喱(ドライカレー)食す。地下 鉄で葵芳(それにしても葵景、葵芳、葵興……とこの荃湾線三站の、この「美しが丘」「緑が丘」が如き無味乾燥の站名はどうにかならぬか)。葵青劇院(この 劇場名とて「葵」地区と青衣島の二文字合せた、まるで国分寺と立川の間の「国立」の如き最悪の名づけ)。昨晩に続き香港シンフォニエッタと英国より招聘の Peter Donohoeはんによるラフマニノフの一番と三番の演奏会。一番はアタシはほとんど微睡。三番は期待したぶん正直、残念。昨日の二番の方が曲の解釈もし つかり。今晩の三番は流石に二晩で四曲のロングランでフルマラソンの「32km地点的な」(体感したから言へる……!)疲労感。曲の意図、意味が楽団とし て「解決」(消化と云つてもいいが)出来てをらず。Donohoeはんも巨漢で流石に38kmで快適に走れぬわひ。だが二晩でラフマニノフのピアノ協奏曲 全四曲なのだ、それだけでも十分、称賛に値す。
▼福田内閣、支持率2割を下回り死に体。自民党は強かゆゑ、社会党の村山富市君に首相の椅子譲れば自らが政権党では出来ぬ戦後五十年談話で戦争の反省を済 ませたやうに、内閣官房長官がニンの福田二世を首相に推す前提として「真面目な福田君だ、他の先生ぢや出来ない財政改革の懸案事項も、ひとつやつてもらお うぢやないか」で福田二世だから「やるべきことはやる」でガソリンだの高齢者医療だのを「ゐぢる」。当然、国民の反発。小泉三世は痛みを伴ふ改革と宣つた が実際に国民は痛みがピンと来ず、今回の福田改革で痛みにピンと来たが反応鈍感の極み。「まぁやるだけのことはやつてくれて、あとは麻生君ぢや困る日中関 係が済む胡錦涛来日、洞爺湖サミットまで続投してくれればいいか」が自民党。まるで鵺の如し。
▼Z嬢曰く、昨晩聴きしラフマニノフのピアノ協奏曲1番が映画『砂の器』で加藤剛演じる和賀英良の作曲、指揮する『宿命』にそつくり、と。云はれても『砂 の器』は何度か看たが『宿命』のフレーズまでは記憶になし。だが2番を「ゴジラ、ゴジラ、ゴジラとメカゴジラ」と歌はれたりZ嬢の楽曲のアナリーゼには多 少納得する処あり。

五月三日(土)昨晩寝しなに蘇曼殊『断鴻零雁記』精緻なる解説迄読了。蘇曼殊の博識と感性、殊に漢文学への造詣など只々感嘆するばかり。だが断鴻零雁記一 篇読めば他の短編は読むにつけ食傷気味。自らの出自であるとか数奇なる流転の日々を語る此の物語が明治末年に書かれしことは(アタシは苦手だが)日本の私 小説史上特筆に値するか。本日、憲法記念日。昨日の香港の聖火リレーを如何報道するか、で興味深きは蘋果日報。立場的に北京五輪への共讃より「失ふもの」 の多さへの憂ひだらう。が流石に10数万人が見物の聖火リレーは先ず「成 功裏に終わる」で「但し異見者弾圧」になるところ蘋果日報は今朝の新聞で一面トップは一昨日のバス大破事故で悲しむ遺族。かういふ手に出たか、と。それは 卑屈にすら映るが新聞の大部分が「香港は歓迎一色」なんて誤報される世の中、一紙くらゐ懐疑の立場貫いてこそ世の中真っ当。それもそのリベラル紙が一、二 位を争ふ発行部数なのだから香港は未だ健全。日本に目を向ければ憲法記念日の今日、数年内に経営上の理由で歴史的な憲法改正容認なんて方向転換か?なんて 思へたりもする朝日新聞は、今年の憲法記念日は「読 売新聞の調査でも憲法改正反対が賛成を上回った」状況で、少し元気。僅か1年前に比べ憲法改正の語られぬ政治状況の中で改憲よりも多くの社会問題 の解決が先、として豊かになつた筈の社会の貧しさの解決を訴へる。現行憲法の下で保障された生存権として。
憲法は国民の権利を定めた基本法だ。その重みをいま一度かみしめた い。人々の暮らしをどう守るのか。みなが縮こまらない社会にするにはどうしたらいいか。現実と憲法の溝の深さにたじろいではいけない。憲法は現実を改革 し、すみよい社会をつくる手段なのだ。その視点があってこそ、本物の憲法論議が生まれる。
それに対して読売新聞は、昨年5月に憲法改正手続きを定めた国民投票法が成立し新しい憲法制定への基盤が整つたのに捩れ国会と民主党の非積極的な対応で憲 法調査会が全く機能しておらぬ事を嘆き
この国はこれで大丈夫なのか……日本政治が混迷し機能不全に陥って いる今こそ、活発な憲法論議を通じ、国家の骨組みを再点検したい。
と意気込むが例年の改憲音頭の謳ひ上げに比べると多少冷静。ぎりぎりのところで日本の良識が働いてゐる、と言ひたいが現実は疲弊しきつた社会が改憲どころ ぢゃない、といふこと。……ところで本日は、昼まで陋宅にて愚房の書籍片づけ。書架より溢れたる書籍床に侵蝕し始め「これはまづい」と所有しても一生二度 と頁捲らぬだらう書籍集め昼過ぎ尖沙咀の古書店に譲る。久 々にDavid Chan氏のカメラ店。富士フィルムのProvia100FとVelvia50を半ダースずつ購入。写真フィルムの購入も難儀の時代となりぬ。早晩に FCCのバー。ドライシェリーと白葡萄酒(Riverside by Foppiano)を各一杯。FT紙など読みつZ嬢来るを待つ。FCC隣りのFringe ClubにてFrench Mayの一環で本日より開催の『星の王子様』のサン=テグジュペリによるスケッチ展看てから久々に明珠越南餐庁に軽く食し東涌線にて葵芳。葵青劇院にて香港シンフォニ エッタの演奏会。本日と明晩、英国から招聘のPeter Donohoeなるピアニストと共演でラフマニノフのピアノ協奏曲全4曲の通し、シンフォニエッタの演奏は失礼ながら多少不安もありしが4曲通しなんて機 会も稀か、といふ次第。今晩は4番と2番。この楽団、芸術監督で指揮者の葉詠詩女史が演奏前に山本直純の如く曲目紹介などあり。今晩は彼女がその Donohoe氏とラフマニノフのピアノ協奏曲につき長舌二十数分に及び閉口す。ラフマニノフの4番は今更ながらアタシも初聴。「こんな曲だったのね」と 思ひたいがシンフォニエッタの演奏もなにぶんにも慣れてをらぬ曲を弾きこなすには至らず曲の感想は留保せざるを得ず。斜め前列に終始落ち着かぬ数名の不躾 な若者あり。本人たちの無節操より何故に周囲の客が叱らぬか、が不愉快。演奏会跳ね、この不躾な連中の会話耳にせばチャイニーズだがくちゃくちゃ汚い英語 で、だうやら地場の国際学校通う小金持ちの子女か。天真爛漫、まるでかつての太陽族の如し。中入後は2番。第1楽章始まれば客が少しざわついたのは「のだ め」効果か。Donohoe氏のピアノはそれなりに良いがシンフォニエッタは本来、もっと「歌える」楽団と信じるが葉女史の演出力に限界あり(だろう、た ぶん)、千秋先輩ぢゃないが「歌えっー!」と念じたいのはラフマニノフの2番など誰でも知ってる有名なフレーズの「うねり」に非ず寧ろ2楽章だの静かな旋 律で、今のこの楽団は歌えてをらず。普段はアンコールせぬシンフォニエッタながら今晩はDonohoeさんがピアノ小曲をさらり、と一つご披露。Z嬢によ ればラヴェルの「鏡」より海原の小舟(Une barque sur l'ocean)の由。美孚から香港島に向うトンネルバスに乗車。驟雨。バス車中と帰宅後、佐藤忠男氏の『黒澤明の世界』(朝日文庫)読み始める。忠男先 生、奥様と数年前まで香港国際映画祭に何度もいらっしゃり僭越ながら何度かご挨拶させていただいたが七旬も後半の先生を此処数年お見受けせず。三分の一も 読んでおらぬが、忠男先生、戦中から戦後にかけての黒澤明に留まらず戦争に対する映画人ばかりか市井の民の「緩さ」を確かに見据える。そして言い放つ。
黒澤明は、弱き者に同情はしないのである。黒澤明にとっては、弱き 者は、強くなろうと努力しないという罪をおかしているのであり、そのために、強い者のエサにされてしまうのである。同情はするが、けっして、甘やかしては ならないのである。(略)他の映画作家たちが、人間の弱さを尊重することによって、戦前と戦後の間に芸術上の一貫性を維持しようとしたのにたいして、黒澤 明は、人間の弱さに奴隷根性を発見してたたきのめすことによって、戦争中とはちがう新しい日本映画をつくり出したのである。(略)重要なことは、自分の意 思以外の何ものにも動かされまいとする人間を、黒澤明が描きつづけたことである。
忠男先生は黒澤明についてかう語るが忠男先生自身の訓として読む。
▼昨日の財界人、政治家、芸能人そして運動選手ら総勢120名による聖火リレー。このリレー中に二度「失火」あり。そのうち一度は偶然にも「64」番目の 走者にて誰が数えたか走者の名をABC順で表記すると89番目の由。1989年6月4日の暗喩か、とまで考へるか。が英国Financial Time紙も一面で香港の聖火リレーの写真載せたが(偶然か意図的か)写真はヴィクトリアハーバー渡る、この64番の聖火(運び手の胸に「64」のナン バーあり)。そのFT紙の記事読めば「いぜんは英国に憧れもあったが今は中国人であることに誇りを感じる」と20歳の香港の学生。税理大手のPwC社は昨 日を休日扱ひとして3,000人の雇用者を解放の由……電通も真つ青。
▼週末のFT紙ほどこの世に面白き新聞はないが、碩学Pico Iyer氏がダライ=ラマの人物像 に迫る“The ascent of a man”は秀逸。チベット仏教の指導者、と我々が spiritual に描くダライ=ラマ像だが、ダライ=ラマ14世の老獪なる政治家としての智慧と自らハイテク駆使しての情報収集等々。興味深し。
▼石原都知事曰く。
生きているものは必ず死ぬんだから、パンダだって死ぬだろう。別に それほどみんなが悲しむことじゃない。世界も狭くなったんだから、いるところに行って見てきたらいいじゃないですか。いてもいなくてもいいんじゃないの。 どうでも……。
都知事とて生き物として等し。
▼信報(四月卅日)に京都南座での大和屋による崑曲劇の記事あり。その牡丹亭の芝居に睡夢神役で出演の呂福海氏(蘇州崑劇院副院長)曰く今回の演出と近年 評判の青春版(白先勇らによる)との違ひは「夢中情」部分の本に重点当てたことでヒロイン・杜麗娘に重心が置かれ、つまりは当然、大和屋による大和屋の大 和屋のための芝居といふこと。この紙面に孔在齊氏の「願曲集」の京劇回顧録連載あり「伶界大王」として梅蘭芳を語る。蘭芳の前に「伶界大王」と言はれしは 譚派の大立者・譚鑫培(1847〜1917)只一人。ふとアタシは大和屋こそ梅蘭芳に続く伶界大王狙ひか、と思ふ。ところで南座の記事に戻るが「玉三郎の 祖父と梅蘭芳が昔、同じ舞台で」とあり。十三代目の勘弥のことか。

五月二日(金)午前中大雨も昼に歇む。北京五輪の聖火リレー香港席捲(と新聞は書くのだらう)。聖火リレーの沿線には確かに香港でこ れまで見たこともないほどの五星紅旗の旗、旗、旗。聖火一目見むと路傍に群がる群衆の「中国加油、中国加油」のシュプレヒコール。二歳くらいの言葉も辿々 しき幼な子が「我是中國人」と喋り周囲の大人の喝采。チベット擁護派の集団を五星紅旗の大旗と愛国的市民取り囲み少数派は揉みくちゃにされ警察は危険性重 視し少数の「国家の敵」を混乱の中から「救出」しパトカーで警察に護送(逮捕でないので事情聴取もなく釈放されやうが)。アタシは何れの旗にも與せぬ。早 晩に「食の不毛地帯」太古城。シティプラザのフードコートに功徳林の出店あり冷麺食す。コンビニで購ひし一合瓶の葡萄酒を飲みながら西湾河の電影資料館ま で漫歩。朱石麟の回顧展をさつと眺め故・楊徳昌監督の映画『青梅竹馬』(1985年、邦題は「台北ストーリー」か)看る。時代的にこれが邦画なら松田優 作、秋吉久美子の主演で決まり、だが1985年のこのエドワード監督の主演は「侯孝賢が主演してゐる」だけで椿事。四年後には『非情城市』で脚光浴びる侯 孝賢監督の若いこと。けして二枚目ぢゃないが渋い性格派俳優ぶり。1985 年といふ蒋経国時代末期、88年には経国総統逝去で副総統の李登輝が総統の位を襲ふ、結果論だが1985年のこの映画の台北は巨きな時代の翻りを前にした 何ともいへぬ停滞感。ふと余が初めて香港から高雄に入り台湾を北上し台北に辿着いたのが1985年であつたこと彷彿。ところで今晩のこの上映、実は本来は 若松孝二監督の浅間山荘映画のはずが上映取消しとなり(香港映画祭で件の映画上映されてをり日本の配給元との上映回数の契約上の問題か何か)、その代替が これ。今晩は22時すぎから同監督の『赤軍-PFLP・世界戦争宣言』の上映もあり切符も購入済みだつたが、だうにも疲労感甚だしく胃腸の具合も悪し。 『青梅竹馬』の終演のあと一時間半も時間潰し日本赤軍映画看る気合ひも失せて帰宅。
▼香港の不動産物件の誇大広告に今更驚かぬが実際にイメージイラストと現実を比べると妄想と現実の乖離にたゞ嗤ふばかり。

五月朔日(土)小雨。労働節。祝日だが所用多忙で晩に至る。ここ数日胃腸風邪気味。昨晩大根おろし汁で豚肉の鍋をした残り汁で「おじや」煮て食す。
▼新界西貢での貸切バス事故で大破。18人死亡。神慈秀明会(本部は滋賀だつたか)の宗教施設が西貢にあり、それに向ふ信者らが搭乗。神慈秀明会は 1960年に香港で布教始め現在は11ヶ所に3万人余の信者あり年間のお布施4千万ドルの由(2日の蘋果日報)。
▼昨日、香港に到着の北京五輪聖火。今日の朝日新聞(国際面)は香港支局電で「五輪に関して中国本土より冷静な香港も、この日は歓迎一色」と。疑問。昨日 少なくともアタシのまはりでは話題にもならず晩のニュースでも冒頭から15分後に漸く聖火到着がネタになつていたのだが。かうして話題は作れる、か。明日 の聖火リレーはスポーツ選手に比べ財界関係者多く香港らしさ。

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