2000 年11月24日からおそらくあなたは 番目の閲覧者です。


十一月三十日(土)的士にて上環、フェリー波止場。依頼せし切符代理店にて受取り上環街市横の場外にて馬券 購入。11時のフェリーにてマカオ。雨本降り。マカオ到着し波止場前のPizzeria Toscanaにて昼食。ワインはCasal Garcia。蟹肉とトマトのペンネがお気に入り。プティングは秀逸。Hyatt Regency Macauに投宿。が代理店より予約入っておらず、と。ホテルは満室のようで代理店に連絡し交渉を依頼するが予断を許さず。いずれにせよすぐに解決する様 子もなく澳門運動場にて明日のレースの登録済ませホテルに戻りようやく部屋確保され部屋に入る。明日のレースに出場する客多く昼すぎまでの滞在を要望する が明日も満室と断られる中HyattのGold Passportあったが故に明日14時のlate check out叶う。香港の競馬中継見るとすでにR5(芝1200m)終わっており電話にて確認するとDashing Winner陥没の模様。夕方Z嬢と市街に遊びRua Do Campoの坤記にて茶を一服。Rua Pedro Nolasco Da Silvaの坂にかつて見たことなき立派な洋館あり何かと思えば旧宗主国ポルトガルの総領事館、納得。石畳の坂の裏道を歩く。雨もまた好し。 Avenida Da Praia GrandeのPavilionsにて食材、マカオ地麦酒など購いホテルに戻る。晩はランニングクラブの面々と路環市区に赴き華記にて炭水化物多めに晩 餐。この華記、カラオケあり。露店のカラオケなるものも珍し。Lord Stow's Bakeryにてエッグタルト購いホテルに戻る。風邪ひどく湯治。橋本治『三島由紀夫とはなにものだたのか』ようやく読了。三島先生が何故に松本清張を拒 絶したかといふ論考において三島の『禁色』の作家檜俊輔のモデルを橋本治は15歳にてこれを読んだ時に川端康成と思ったそうな。実は余は17だかで今は草 間彌生女史の制作に携わるT君の影響にて三島由紀夫のこの本を読んだ時にその老作家で川上宗薫を想像……今となってその下世話な想像を恥じ入るものなり。 この檜先生のモデルが川端康成であるのはほぼ間違いなく川端先生は愛弟子の市ケ谷での自衛隊蜂起失敗と割腹自殺のあと政治に目覚め突然に都知事選の応援演 説なる「愚行」演じそれを恥じるかのように自殺。この本の最後が「恋すべき処女−六世中村歌右衛門」で終わっていることの意味。この本の第一章「豊饒の 海」論もいいが実はこの歌右衛門論はこの本が三島論の本であるにもかかわらず立派に歌右衛門論として自立してしまうほどの価値あり。前近代のものを克服し ようとした点は三島も成駒屋も同じだが三島にとっては近代は自己といっしょに消えてしまふのに対して成駒屋の場合は前近代の気に入らぬものを「私は納得が ゆきませんのでこのように演じますがこれで如何ご覧遊ばしました?」と克服した点。なるほど。ところで読後ふと「橋本治とはなにものだったのか」は橋本治 の死後に誰が書くのか、と思う。Hyattの客室にてこの日記記し網上す。

十一月廿九日(金)曇。朝、ミニバスにてむやみに流れ邪魔、不快以外の何ものでもなきテレビ放送にて ワンポイント英会話の類の番組あり。Have a ball といふ表現が今日の勉強にて、これは「球を持つ」に非ず意味は「楽しい時を過ごす」で"Last night, I had a ball!" のように使う、と。そこまではよいのだが先生曰く「子供の頃にボールを持っていると楽しかったでしょう、あの気持ちです」と。爆笑。この ball はホテルのホテルのボールルームの ball にて社交舞踏会の意味なり。The Ball in Anjos で安城家の舞踏会。 ふと、「安城家の舞踏会」は A Ball か The Ball か、と気になったが A Ball のほうがきれいだがそれじゃ年柄年中開かれている舞踏会での或る晩の出来事になっちまって、ありゃ没落貴族の平民化を前にした最後の舞踏会なのだから (……とこういう映画表現は快楽亭ブラック師匠みたいだね、って いっても師匠は英語が苦手)やはり The Ball か、と思い調べたら正式な英題は The Ball at the Anjo House 、確かにね。M君とICQにてシャープのZaurusなど小さ くなりすぎて鍵盤は片手入力、もはや使い難いものと語っていて「片手で便利なのは算盤くらい」と言って、ふと算盤を文字入力に応用し「さ」なら3行3段で 33と入力、「ち」なら42、で変換は算盤の上珠の5を降ろす、とか、Zaurus開けると10桁ほどの算盤がついていて計算はそのまま、文字入力に共用 とか面白いのではないか、と話す。ふと魔が差して両切りのキャメル吸って懐かしき煙草の味満喫するもののニコチンの量に眩暈甚だし。馬主C氏より電話あり 明日の沙田に招かれる。Dashing WinnerとDashing Championの二頭がそれぞれ参戦。DCは一着濃厚にてDWは雪辱戦、前回に比べると強敵ない中での復活を期待。残念ながら明日は参れずまことに残 念。かういふ日にかぎってDWもDCも勝ってしまったりするもの。晩遅く北角の蕃薯苗にて上海風味の水餃と回鍋肉菜飯。調理の迅きこと取柄の香港の一杯飯 屋にて一人ふらりと入りじっくりと料理されると新聞読みつつなかなか辛きものあり。そこそこ美味し。わざわざ遠方より来るほどでなきにしも廉食の店並ぶ北 角道にあれば訪れるに値す。野坂昭如の旅の 果て日記しみじみと読む。さすが、いい日記なり。酒への依存症、他人事に思えず。PrinceのPurple Rain聴く。このCDも確か20年ほど前。当時カフェバーが流行りモニタにてPrinceよく見聴きしたもの。カフェバーでありながらカティサークなど ボトルキープありズブロッカなど飲むのがお洒落。酒に強きを気取りロンリコなどショットで飲む。小金あればI.W. ハーパーとか。明日の競馬予想済ます。
▼築地H君作で榊原玲奈(つまり橋本治)が桃尻語訳したら、の『ライ麦畑でつかまえて』届く。
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大きな声じゃ言えないけど、あたし、こんな話ホントはしたくなかったって思うの。あたしがどこで生まれたと か、ちっちゃい頃どんなだったとか、あたしの生まれる前にパパやママが何やってたかとかサ、そんな「デビッド・カッパーフィールド」みたいなつまんないお 話をよ、聞きたいなんて思ってる連中がいるわけ?まずそんなタイクツなことあたしはやってらんないし、それにパパもママも自分たちの身の回りのことを誰か に言われるのが、ホント大嫌いなワケ。それこそ脳溢血をそれも2回ずつ起こしちゃうくらい嫌い。特にパパなんかそりゃあもう大変なもんなんだけど、まあ悪 い人間というほどでもない。マ、とにかくそんな調子。
あたしは何もここで自叙伝とかサ、そんな大それたこと書くつもりはないのよ。ただ、去年のクリスマスの頃に あたしすっかり弱気になっちゃって、西部のこのチンケな町で静養しなくちゃいけなくなったワケ。で、そのクリスマスの前ってのがそれはもうイカレタ目に いっぱいあったっていう、その話をしようと思うの。まア、D.Bに話したことと同じ話になるかもしんないけど。あ、D.Bってのはあたしの兄貴で、いまハ リウッドにいるんだ。
……と。さすが、なかなかの出来。余はこれに野坂昭如なら、と即興で応える。
嘘は述べぬと実なる事をば語り申せば俺は斯々然々此の様な事他言するのも論外にて君がどうせ俺の生み落とさ れた場所であるとか俺が焼け跡でどれ程惨めな餓鬼の頃過ごしたとか俺が生み落とされる前に俺の父と母が何を生業にしていたとかそういう「デーヴィッド・カ パーーフィールド」の如き詰らぬ話をどうせ聞きたいねぇと所望するのだろうが本当に君が俺の詰らぬ話など心底聞きたいと思うのか俺にはついぞ解せずまずそ んな俺の餓鬼の頃の話など退屈この上なきものにてそれに俺は俺を捨てざるを得ずの両親のことなど彼らは彼らでけして悪人ではなきものながらも俺は語ること を欲せずかりにそんなことなどしようものなら脳溢血でも起しかねぬこととは申せ其れを欲する輩もあり俺の親は父親ことに気が短きもの。いま俺が語ることな るは俺がこの西部の町にてご静養などするハメになる去年の聖誕節前のかの奇妙なる経験のこと是すでにわが奇っ怪なる兄DBに語ったことの焼き直し。DBい まは加州聖林に。
築地H君と白水社に手紙書き、村上春樹「らい麦」出版これを機に「永遠のベストセラーを人気作家が競訳!あ なたはどのホールデンが好き?」を提案しては?と。白水社、これで食ってける。大阪を舞台に宮本輝、とか、柳美里の在日のホールデン編、長嶋茂雄が「英語 の単語の説明が全部書かれている便利な本」=辞書みながら訳したのとか。この長嶋神話は 有名なものにて今さら説明も要らぬかと思いつつ、この逸話、立教大学に入学した長嶋茂雄、大学故に一般教養の英語の授業に出て辞書を引いていた学生に「キ ミ、英語がそんなに出てるなんていい本もってるね、それ何っていう本?」と言ったとか、「立教大学時代の長嶋が友達がフランス語の辞書を買いにいくという のでつきあって曰く『英語にもこういうのがあったら便利なのになぁ』」とか。でも長嶋茂雄ならやはり本人による朗読テープか、とH君。

十一月二十八日(木)雨模様。早朝に今和次郎『新版東京案内』少し読む。社会科学に走る学生の項に
 昔恋しいワセダの自由
 今の暴圧だれが知ろ
 モガと踊つてビラ振つて更けて
 明けりゃ処分の涙雨
といふ当時学生に流行った替え歌あり。原曲はご承知の通り、西条八十の銀座行進曲。朝早いバスの車中で雨空 にふと香港を唄えば
 昔恋しい港の栄え
 今の不況をだれが知ろ
 株で儲けて土地売って稼ぎ
 明けりゃ負債の涙雨
ってなところか。
昨晩遅くに少し読んだ橋本治『三島由紀夫とは』(いつも以上に橋本文は詳 密にて冗舌にて読み進まず)に興味深き記述あり。『仮面の告白』にて「私」が汚穢屋の若者や聖セバスチャンにクラクラしていた子供の頃、女 奇術師の松旭齊天勝に憧れ女装して扮する筋あり。これにはっきり書かれてはおらぬが治ちゃん曰くこの松旭齊天勝がきっとオスカー=ワイルドの『サロメ』を 演じたものではないか、と。と思うのは治ちゃんが子供の頃に新派にて水谷八重子(先代)が松旭齊天勝演じ 劇中劇にてこのサロメに扮した場面あり、その舞台が治ちゃんの脳裏に焼き付く。八重子の演じる松旭齊天勝のサロメとは!想像するだけでも素晴らしきもの。 夕刻にジム。帰宅してタイ風の鶏肉と茄子のカレー食す。
▼台湾の太魯閣渓谷にて開催されたマラソン、阿扁総統ま でかけつけ号砲を鳴らし自ら1500m走ったそうだが、日本からは間寛平ちゃんも参加し「いやーっ、ほんま最高……来年も来ます」とごく普通のランナーの コメントなのだが「……と、台湾の報道陣を前に得意の話芸を披露しながら話していた」と朝日(田村広嗣特派員)。気になるのは得意の話芸といふことはこの ごく普通のランナーのコメントの間に「アメマー」とか「アヘアヘアヘ」とか間の手が入り、突然「かいーの」とか仕種したり記者の質問に「なーぜじゃ!」と か答えて記者の笑いを誘ったのか。つまり本当は「いやーっ、ほんま最高アメマー、極端なコースで前半は坂を上って後半は下りばかりでアヘアヘアヘ、、ひざ が笑いました、なーぜじゃ!、山の上り下りを練習して来年もまた来ますのホイ、でもかいーのぉ」と。それともランナーの普通のコメントだったのだが「得意 の話芸を披露しながら」と記事が陳腐な表現をしただけなのか。どうでもいいことだが気になって仕方なし。
▼築地のH君より訳/村上春樹のサリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライのつぶやきを聴け』届く。
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本当のことを言おう。
僕はこんなことはしゃべりたくはなかった。
君はまず僕が生まれた場所とか、僕がどんなみじめな幼年期を過ごしたとか、僕が生まれる前に両親が何をして いたかとか、そんな「デーヴィッド・カパーーフィールド」式のつまらない話から聞きたがるかもしれない。
君は僕の話を心の底から聞きたいというだろうか?
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第一に僕にはそんな話は退屈なだけだった。
第二に、僕の両親は自分たちのことを語られるのが大嫌いだった。世の中にはそんなことになれば、それぞれが 2度ずつ脳溢血を起こしかねない種類の人間というのがいる。僕の両親がそれで(いい人間ではあるんだろうが)、特に父親の方は気が短かった。
  ☆ 
今、僕は語ろうと思う。
僕がこの西部の町で静養するはめになった去年のクリスマス前のあの奇妙な経験のことを。もっともそれは、僕 の奇妙な兄貴であるD.Bに語ったことの焼き直しにすぎないのではあるけれど。
D.Bは今、ハリウッドにいる。
……と。村上作品、20年ほど前に(……なんで我の歴史上の事象はほぼ全 て20年前で終っているのか!)『世界の終わりとハードボイルド(略)』読んだだけの我は 「いかにも」村上作品と。が、真摯なる村上ファンには「こんなの違う!」と言われるかも知れぬ。実はこれ、村上春樹を一度も読んだことなきH君の想像作品 なり。H君、冗舌なるホールデン少年の文体は橋本治の桃尻語でなければ野坂昭如、50年代風俗という点から見ても適任では、と。確かに。
▼昨晩NHK教育にて「自分史を語る」に美輪明宏先生登場、とH君。さすがに若き日のゲイボーイであり身も 晒した当時のことはNHKゆえに曖昧だったそうで、歌手デビューは「ある店で共演したある歌手の推薦で」とか。このへんの世界については森茉莉とか栗本薫 の世界か。そして圧巻は「ヨイトマケの唄」。「この唄にはメークも派手な衣装もいらない」という先生がノーメークで素顔をさらし普段着っぽい赤いセーター を着て絶唱。H君、ほんとうにナミダがでそうに、と。先生の語るこの唄の来歴によると、唄のモデルになった実在のエンジニア青年は両親を満州で失いバタ屋 の祖父に育てられる。本当は「じいちゃんの唄こそ世界一」だった、ということか。余は日本の歌でどれか一番の一曲を選べといわれればおそらく「ヨイトマケ の唄」を選ぶかと思う。

十一月廿七日(水)晴。快活谷にて晩に競馬。最近競馬当らぬが常にて今晩ももはや諦め後半に突入。 R6(�班1200m)にて李格力君のHonour Supreme(伍調教師)三番人気5.5倍にて単勝、それに四番人気のDerek's Choice(Doleuze/告達理)とで連複当てて次の�班1650mガチガチ2.0倍包装福星(Mosse/何)当て最終レース(�班1000m) 李格力君は伍厩舎にてC氏の多利高と並ぶ�班馬Victory Warriorに騎乗、前レース29倍にてしかも快活谷1000m未勝ながら昨晩10倍が5.8倍まで上がり三番人気、返し馬にて李格力君余の目の前を通 りお祝いを言うと李格力君もThanks!と。結果Victory Warrior一着、パドックにて口取りに現われた調教師の伍氏と視線合いパドックの外よりお祝いを述べると伍氏に口取りに入れと誘われ知らぬ馬主と遠慮 したが馬主T氏は馬主C氏の親友にて余お会いしたことありと言われ恥ずかしながら口取りに参加。この日三番人気二頭にて二勝の李格力君も喜び至極、C氏と ともに祝福。T氏の子息日本語達者。終わって香港競馬場の超名物男譚氏に まで「後半全部勝ったね」と讃めら恥ずかしさ極まりなし。何故に譚氏に余の馬券全て見られているかといへばいちいち彼は余のレープロを覗く故。
▼昨日の朝日にいよいよ「ライ麦」噂にあった村上春樹の新訳で来春発売という記事あり、とH君より一報。記 事にはちゃんと250万部といふ白水社の金字塔なる野崎孝訳『ライ麦でつかまえて』(1964年)に先立つ、原作上梓の翌52年に出版された橋本福夫訳 『危険な年齢』のこともふれる。野崎訳についても「名訳も文体が古くなったという声が読者から出ていた」とあるのはH君指摘した「やっこさん」(笑)とか。しかしH君指摘するは「作品自体が1950年頃の風俗を切り取った口語体であることに意味がある」ので あり、それでは新しい文体にするのか?としたら「すっげーっ」とか「オレ、超むかついたっ」とかなってしまわないか。村上の邦訳の題は『キャッチャー・イ ン・ザ・ライ』だそうで、『ライ麦でつかまえて』でなされてしまふ誤解よかマシな気もしつつ The Catcher in the Rye のあたまの定冠詞Theがなくなっていることじたい英語では間違い、余は釈然とせず。やはり余は『ライ麦畑の捕まえ手』こそ原意に最も忠実なる邦題にて(ちょっと落語の粗忽な人物のようなのが玉に瑕だが)この異見を村上春樹氏と白水社にメールする。朝日の記事「69年に庄司薫さんの「赤頭巾 ちゃん気をつけて」が芥川賞を受賞すると、18歳の「ぼく」との類似性が注目されて売れ行きがのびた」とあり。18歳の「ぼく」が庄司薫の「赤頭巾」の主 人公であり、「売れ行きがのびた」のは『ライ麦』なのだがいつもの通り拙い文章、それはいいとして、この二作品の相関は庄司薫側にしてみたら「いつまでの それに触れないでほしい」ことであり(当然、後続の『赤頭巾』のほうが立場悪し)、それを朝日は文芸記事 でありながら「類似性」とは庄司側にしてみたら失礼千萬(笑)、せめて関連性とかにしてくれればよきもの を……。類似性では「パクった」と指摘しているようなもの。村上春樹が『ライ麦』の訳者として似合ってもいることは20年ほど前だか村上作品は最初で最後 『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』読んだ時にその数年前に読んでいた『ライ麦』を思いだし紐育のこの10代の男の子の物語を村上春樹語れ ば、と思ったことを彷彿。だが余は一人称小説の女王・橋本治訳『ライ麦畑の捕まえ手』を読みたいっ。ところで村上先生「日記をつけますか?」といふ紐育で の雑誌 New Yorker 主催した語りの会での質問に応えて曰く「いいえ。時間の無駄ですし、日記には誰も対価を払ってくれませんから」と。売文家=そりゃそうだ、生業か。対価な ど期待せず筆滑るまま綴るところに日記の真価あり。時間の無駄とは……。まぁ朝日の記事をそのまま信じてはいけないのか しら……。
▼NHKの制作者(この表現だけが一番似合ふ)秦正純さん が10月24日にパキスタンでの自動車事故で亡くなっていたことを朝日の惜別欄で知る。御年55歳の制作現役。新日本紀行ではどの作品が氏の制作だったの かは知らぬが「北極圏」だの「故宮」だの「街道をゆく」で秦作品を見て観賞に耐えうる映像を堪能。80年代末にNHKにて委託仕事していた折、局内で一度 だけ氏をお見かけする。
「NHKクルー死亡確認〜パキスタンの死亡事故」パキスタン北部で24日 午後、NHKの取材クルーとみられる一団が乗った四輪駆動車が転落した事故で、死亡した4人は、NHK取材クルーの日本人3人とパキスタン人運転手と確認 された。NHK広報部によると、死亡した日本人は、秦正純ディレクター(55)、本田清司カメラマン(35)、 外部プロダクション社員武内太郎さんの3人で、現地の警察がパスポートの番号などから確認した。一行は山岳地帯での取材を終えてギルギットから24日朝の 航空機でイスラマバードに向かう予定だったが、欠航になり、やむを得ず陸路に変更していたという。(「朝 日」10月25日付夕刊ほか)
▼NHKといへば大河ドラマ、和泉元彌の北条時宗や唐沢利家などとても大役には値せぬ若造続きさすがに NHKも猛省か来年は新之助の弁慶、80年の獅子の時代を最後に大河ドラマなど見なくなった余と築地H君も23年ぶりに大河ドラマか、と期待。歌舞伎役者 といえば勘九郎の内蔵助も数年前にあったが我にとっては79年の「草燃える」にて音羽屋親子の松緑の後白河上皇、辰之助(先 代)の後鳥羽上皇であり、1963年に松緑の井伊直弼(花の生涯)にて大河ドラマ始まり、 来年の新之助の弁慶は66年の菊之助(現・菊五郎)の源義経に対峙するもの。ただし若役者としては「66 年当時の」菊之助よか「この絶不調な時代の」新之助に何か期待する。
▼グールド没後20年だそうである(吉田秀和「音楽展望」26日朝日)。 20年前に50歳で亡くなっているのだがそれじゃ20年前にグールドが亡くなったという印象があるかというと20年ほど前に亡くなったのはジョン=レノン であって50歳のグールドといふのはもはや当時も余の中には存在しておらずグールドはジェームズ=ディーンの如く若いままピアノに凭りかかっている。吉田 秀和はその1957年のモスクワでの演奏のことを書いている。スターリンの時代が終ったばかりのソ連に北米の音楽家(グー ルドはカナダ人)として初めて招かれ、バッハの『フーガの技法』!を弾き奇跡が起きて、これがモスクワの観客に衝撃を与えている。吉田秀和 曰く、閉ざされた社会にありながらのグールドのバッハを聴いたそのモスクワの観客の質の高さ、判断力の確かさと感受性の鋭敏さ。御意。

十一月廿六日(火)晴。昨晩気持ち良く酒に酔い多少の睡眠不足除けば爽快なる朝を迎えたつもりが宿酔 いなきことはつまりまだ気持ち良く酔ったままだったようで金曜日に保存していたファイルに昨日の日記更新し揚上してしまひしつかり土、日曜の日記失う失 態。日曜の日記本文テキストにあり事無きを得るが土曜の日記本文も保存されておらず辛うじてキャッシュに残りし残映恐る恐る開くが忌まわしき Netscape7.0作動してしまい土曜の項コピーするが貼り付けると文字化けにて使えず。老いて数日前のことすら忘却の彼方、懸命に思いだし再び綴 る。晩に佐敦にお座敷かかり(今晩でハネ)ひとり呉松街の翠華餐廰にて海南鶏飯食す。翠華、中環や銅鑼湾にも店あるがこの佐敦の本店?「香港の茶餐廰にて 最も繁盛する店」に間違いなし。客引切りなし。だが不思議なることは例えばこの店の名物と云われる海南鶏飯、味も銅鑼湾の南亜餐廰や上環の新加坡餐廰ほど 美味いわけでもなく鶏も貧弱にて値段は例湯と油菜ついて、にしてもHK$45と安からず。店は雑多にて煙草の煙立ち込め落ち着かず。何故にこれほど繁盛す るかまことに不可思議。ちなみにこの店、メニューに「サービス料なし、但し浄飲清茶HK$12」とあり。高級な店だの伝統的な茶楼なら茶代もとるが茶餐廰 では珍しく而もHK$12は安からず。「ただ茶飲んだら」の意味はおそらくこれだけ賑わう店であれば場所柄、店に入って何も頼まずただ供された安茶だけ 啜って去ろうとするような愚客でもあり、それへの警戒か、と察す。吉川弘文館・街道の日本史14『常陸と水戸街道』読む。雪 村周継が常陸の人とは知らず。徳川光圀の少年時代、兄を差し置いて嫡子とされたことなどあり非行、「異様な姿で町を歩くかぶき者同様であり、弟や 身分の低い者と淫乱な話をする」などと養育掛小野言員が認めたそうだが、世は好事家・家光の時代、この光圀のかぶき具合も亦かなり意味深なり。

十一月廿五日(月)晴。昼すぎに携帯に電話あり誰かと思えばS氏は長年中環閣麟街にてRolexの骨 董時計など扱った人にて丁度余が半山区干徳道より引っ越した直後に店を畳む。引っ越して久しぶりに閣麟街を通りかかった折にシャッター降りて移転先の表示 もなく不景気にては骨董品の腕時計も売れぬかと思いそれまでたった一度だけ1956年製のローレックスを購っただけで修理からガラス磨きまで何でも無償に てやってくれていた主人ともこれで会えぬかと覚悟していたものをご主人電話にて不況にて店は畳んだものの時計修理の道具だの部品はきちんと保管しており 「景気がよくなってまた店を再開できるだろう頃までは」お得意や知古の客には電話一本もらえば自分が扱った時計の面倒を見る、と。ありがたきこと。何か手 伝えることがあればと尋ねれば日本人の15年来のお得意の女性がおり来港のたびに骨董時計を購ってくれ日本でも何度か会っているが言葉の不自由もあり代り に電話してくれぬか、とお易い御用にて電話すれば先方もこのS氏に電話したものの応答なく心配していた、とその女性も安堵。黄昏に昭和の初めに香港で生ま れ昭和16年まで湾仔に育ったNさんといふ方にお会いしてお話を聞く機会あり。偶然お会いしたが当時の湾仔の様子、Kennedy Rdにあった美しい洋館の国民学校(現在のSt. Paul小学校)への通学の様子、情勢悪化での湾仔に あった旅館千登勢での非難生活など。南京陥落にてこれで不安定で物騒な世の中は平和になる、と当時は思ったといふ一言が印象的。その南京陥落が引き金と なって更に泥沼の戦争に至ったのが現実。ただしN氏にしてみれば、どうして当時の香港にて日本人の子供までが狙われるほど反日感情が高ぶっていたのかは理 解できず。物騒であることの要因が日本にあったのではなく寧ろ日本人は被害者のように見えるのも、当時、その環境にあったからこその由か。晩に鵝頸橋近く の割烹遊喜にて旧知のF氏がZ嬢招かれ余は末席に与る。零余子(むかご)、牡蠣酢、生湯葉の山葵餡掛など で八海山、男山を酌す。上品な店では酒飲み三人でも六合と控えめにて一つ通りを隔てた居酒屋卯佐木。もう開業されて二年だが開業当時は失礼ながら単調だっ た味つけも煮込み、鳥肉の薩摩揚、酒盗など極めて佳き味にて菊正宗をコップ酒。珍しく深夜まで旨い酒を飲む。卯佐木にてF氏と懇意の方に会いジャパンカッ プにてDettoriにHK$500単勝で賭けて大当たり、と。Dettoriの名前もDettoriの輝かしい戦歴もご存知なく、ただ1番が来るかも? と新聞にあっただけ、と。競馬とはさういふものかもしれない。
▼数日前の『信報』に劉健威が最近香港にて流行る私房菜(飲食店営業許可 とらぬ自宅型レストラン)について書いている。この人自身がグルメにて料理屋の味に飽き足らず自ら黄大門Yellow Gateなる私房菜を始めたのが評判となり今日の私房菜ブームの仕掛人のような立場。百軒ほどが営業しているといい政府も流石に放任できず避難経路の確 保、座席数の限定(18席)、営業時間は夜の三時間のみ、といった規制を敷いてこういった私家菜店の拡大 に歯止めをかけようとしている。劉健威、営業する者の立場からみて、あくまでも家の台所で作ることを前提とすれば客は10数人が限界、客単価HK$300 として酒もいれて一晩の収入はHK$5,000、月に20日営業したとして月HK$10萬、賃貸と水道光熱費、調理手伝い兼給仕の人件費、食材の仕入れが 各々HK$20,000として主厨兼経営者のもとにHK$40,000残る勘定。著名な高級料理屋の主厨で給料がHK$35,000ほどであることを思え ば私家菜の主厨兼経営者恵まれている、といえなくもなし。ただし資金繰りなどは厳しく当然のことながら安定した来客が続くことが条件。

十一月廿四日(日)薄曇。中学1年の時K先生に毎日天声人語を読めと言われ実際に深代惇郎の天声人語 は新刊となったのを当時読んで広範囲なネタとウィットと筆致に感心したものだが今朝の天声人語は朝青龍の優勝を「土俵上のあの激しい取り口には、つい大草 原を疾駆する騎馬民族の勇姿を重ね合わせたくなる」ってすごく陳腐。「小澤のあの激しい指揮には、つい仏法の守護神としての阿修羅の勇姿重ね合わせてたく なる」とか、いくらでも作れるよね、このテの陳腐な形容は。JALが いつの間にかJASと合併していた。JALはJΛLといふロゴを使いだしてから嫌い。Λはギリシア文字のλ(ラムダ)大 文字であって絶対にAとは読めないと当時誰だかが随筆で書いていた。JΛLを正確に呼んだらYLL(イル)に なるのか……あ、イルならイルボン(日本)のイルで正しいかも。東京で日本舞踊を習っていたシアトル人の J君はAll Nippon AirwaysのANAは3語の頭文字で正しいがJapan Airlinesはそもそも2語なのだからJA(ジェイエイ)が正しくJALではJapan Air Linesといふ間違った英語の略になってしまふ、と。それでいつもJALのことをジャ、ジャと呼んでいた。今季の競馬全195レースで一番人気の一着が 50回。25.6%の勝率。でちなみに今日のレースの一番人気の平均オッズは3.14倍。単純に計算しても80.5%しか回収できない、つまり一番人気だ けじゃ儲からない、それじゃ一番人気を外して上手くできるかというとできない、つまり儲からない、ってことか、と思いつつ税金で17%取られていると思え ば八割回収できていれば割り切るべきかも。……とそんなことを考えている暇もない。午後より沙田にて競馬あり駆けつける。ジャパンカップの中継あり。香港 にても一番人気はPeslier騎乗の吉兆(シンボリクリスエス)にて美しい馬だし日本のSize・藤沢 和雄調教師ではきっと同じ師のMagnaten。拉ont size=-1>i岡部幸雄騎手)」ル診ont>ェ先行し、とさういふ展開えあろう、がオッズは1.8倍まで下がっておりつまらない。そうす ると外国馬ではやはりSarafanかと思いつつ騎手で選ぶならやっぱり武豊かDettoriかと(それ以外知らないの だから)、でさすがにDettoriでもちょっとFalbravは30倍近くて、と8倍だかでお手ごろかと武豊でジャングルポケットの二連 勝に期待(安易)。だが結果を見てわかったことは、我々はDettoriという騎手と同じ時代に生きていられることを光栄に思わないといけないのだろう。 九代目の団十郎であるとか初代の芳澤あやめ、とか、梅蘭芳とか、さういふ役者の芝居は芝居も素晴らしかったわけだがそれ以上にその役者のもつ華に接しただ けでありがたいと思えるような、Dettoriとはそういう騎手であること。日本でもファブルラヴは9番人気の単勝2,050円。凱旋門賞に続き Dettoriは今年のWorld Series Racingの12戦で5勝目。二着にSarafan、シンボリクリスエスは三着。予想通り先行したマグナーテンが4着に残りジャングルポケット5着で原 居民6着に入り(トップと0.6秒差)健闘。9歳馬でゴーラン、ノーリーズン、テイエムオーシャン、ナリ タトップロード、エアシャカールより上位は立派も立派。どうせなら5着に入って2,500万円賞金稼いで香港の賞金王記録更新してほしかった。香港はR7 で12月15日のSprintのTrial。All Thrills TooがFirebolt、好望角、AnabatikといったSprintの新しき精鋭たちを抑える。原居民以降、長距離に耐える優駿なきことは香港の寂 しい現状だが短距離は俄然面白い。R10(G3、1600m The Chevalier Cup)はFradd八百長疑惑から復活して電子麒麟(Size)に 騎乗。1.5倍とさすがrating131の余裕だろうがFraddもブランク大きく連複で軸にして堅いところで二番人気Super Molly(Hayes/Mosse)、Size調教師の他2頭Grand Delightと35倍のDr Moreの三頭を脚にいれたら電子麒麟四着で他三頭がSM、DM、GDの順で入着。Dr Moreの二着に驚く。結局Size調教師は2着から4着を独占。この日10頭出して一着こそないが6頭二着で三着が1頭の入賞率7割に敬服。昨年から香 港でこのSize魔術を見ていられることもDettoriほどとはいわないが菊五郎(ろくだいめ)を見ら れるくらい素晴らしきこと。晩に今季初めて西環の坤記にて保仔飯。二週間後にK夫妻の披露宴ありそれの顔合わせかねてK夫妻と幹事引き受けられたA嬢、Z 嬢。食後お決まりで正街の源記にて蓮子緑豆沙。

十一月廿三日(土)晴。午前Q郊外公園を一時間余走る。午後V公園プール。十一月末まで屋外のこの プール開く。この季節とて日差しは盛んにて肌をじわりと灼くほど。瑠璃街の上海弄堂にて菜肉雲呑食す。夕方ジム。ジムを出れば燈時の湾仔Lockhart Rdには女郎酒場のネオンまぶしきなか米軍の若い兵隊たち、店の女将らが「どうせ入らないんだろうねぇ」といふ疲れた風情にて一応は呼込みに声かけるなか 通りを徘徊。女将らは老けてこそいるものの、さすがに尖沙咀のRed Lipsのホステスらが朝鮮戦争以来の現役!ほどではなかろう、恐らくは越南戦争が徒花の青春か、孫とまではいわぬが息子よかずっと若き兵隊、イスラムの 敵に參ろうとするを女将ら如何なる心境にて見つめるか。帰宅してキムチコリチム、コムタンなど朝鮮料理。明日のジャパンカップ香港より遠征の(これが最後の海外遠征)九歳馬・原居民にご祝儀にて500円複勝をフジヤマ館長に託す。
▼Business Traveller誌にタイ人女性の投書あり、全日空のビジネスクラス屡々利用するが客への対応が男性顧客中心であり女性には酒を勧めなかったり雑誌も男 性誌ばかりであったり、と。客へのサービスで男女格差あり。この女性曰くシンガポール航空もっとも平等に男女を扱う、と。日本航空もかつて酒場のホステス の如き「温情」にてサービスあり客として赤面する時代ありし事を彷彿。

十一月廿二日(金)曇。早朝に週刊読書人(11月8日号)で の大西巨人への専訪記事を読む。聞き手は渡部直己。渡部曰く「『神聖喜劇』を、われわれや社会が充分に消化して、作品が持っている批評精神への大きな共鳴 作用が社会に共有されつくし、かつてこういう作品を必要とした時代があったけれど、そこで批判されていることはすでに解決してる、もはや必要ないんだと、 そう思える時代が到来すべき」に大西巨人応え「たとえば天皇制の問題や君が代の問題に関して、かつてのように、国民がなんとなく是認しているものだから従 えという形ではなくて、なし崩し的に法制化されて罷り通ってしまっている現状」が今日。それに続けて大西巨人曰く「ぎりぎりのところまでは合法闘争でいく と。しかし、その最高の法源に問題がある場合には、どうすればいいのか。結局こちらが合法でずっとやっていったとしても、相手の最高法源は、理不尽なもの ですから、その場合には、結果として非合法闘争が問題になるでしょうがね」と、これぞテロの極み。ビン=ラディン一派とてイスラム過激派、パレスチナとて 相手の最高法源の理不尽さ痛感しテロへと走る。イスラエルでの時限爆弾による死者多数の映像など見るにつけ、現場にて発狂するほど泣き悲しむ市民の姿みれ ばパレスチナ過激派への怒りもあろうが、なぜ自らがそこまで残虐なる手段でもって憎まれるのか、自らの国家にその最高法源の理不尽さあるやなきやとは問え ぬものか。黄昏に中環より金鐘を歩めば兵隊らしき青年多くBank of Americaの現金引出機に長蛇の列で米軍兵と察す。旗艦空母Constellation筆頭に七隻の艦隊が入港 と後に知る。中環の超高層ビル背後に無邪気に記念写真を撮影する年若き兵隊、これからイラク沖まで出陣か。米国に敵と見做され甚大なる被害受ける民こそ悲 劇ながらかうして「世界の自由と平和の為に」祖国の栄光のために少なからず命を落とす彼らもまた無邪気ゆえに不憫なり。晩二更にZ嬢と北角の寿司加藤。こ の不景気のおり不便な場所にありながら満席にて繁盛。赤貝、小鰭、厚焼をつまみ細魚(さより)の握りをいただき河童巻にて腹を充たす。Z嬢、竹麦魚(ほうぼう)、矢柄と珍しきネタ頬張る。八角など珍しき魚あり。Q湾East Endにて更酌。
▼ウェイツのThat's Japanシリーズ刊行され「ザ・スクープ」打切りとされた鳥越俊太郎、中国研究の矢吹晋とキツネ目宮崎学の三氏の新書上梓(同・週刊読書人)。矢吹先生は「中国の特色ある社会主義」ではなく国営企業の民営化は「労働に対してだけ賃金を分 配するのではなく、資本に対する配当を認め、財産所得を認めるということで、彼等(中国)は資本主義原理 そのものをやっている」と。御意。そう、あれは一党独裁による資本主義の実現であり「中国の特色ある資本主義」。これっていいフレーズ、と思ったがすでに 第四インターの機関誌『かけはし』でトホホ、と書 かれていた、使えないか……。宮崎先生は日本の方向性として「アジアでできるものは全部輸入し、そこで余る労働力は基幹産業での技術開発、設備投 資に当てよう」と。意味はわからぬでもないが問題は余った労働力にプロジェクトX的なかつての技術開発力なきこと、そして設備投資に当てる労働力っていっ たい何だ?、人柱か。
▼話は旧聞に属すが10月23日に高松宮記念世界文化賞なる授賞式あり(総裁は常陸宮)。会長は瀬島龍三で 国際顧問が中曽根大勲位……とここまでは「さもありなむ」だが同じ顧問に「過去に目を閉ざす者は未来に対してもまた盲目である」で有名な独逸のワイツゼッ カー元大統領。そして受賞者はイタリアのジュリアーノ=ヴァンジ(彫刻)、英のノーマン=フォスター卿(建築)、音楽がディートリッヒ=フィッシャー=ディースカウ(独)で 映像がジャン=リュック=ゴダール。ゴダールは36年ぶりの来日にて日本で初めて記者会見。瀬島&大勲位となると「ここまでやるか」という左翼取り込み、 畏れ多し。
▼高松宮の逝去。今朝の朝日には「病院には妃の久子さま、お子さまの承子さま、典子さま、絢子さま、実母の 三笠宮妃百合子さま、三笠宮家の長男寛仁さまの妃の信子さまが付き添った」とあるがインターネットでは「(省略)三 笠宮家の長男寛仁さまご夫妻らが」とあり。桂宮のお見舞いは朝日は社会面のみ。読売には「三笠宮さま(86)も 鼠径ヘルニアのため入院中の聖路加病院を出てお見舞いにかけつけられていた」と。いくら急逝にて混乱の慶應病院とはいえ宮様方のお見舞いでお忍びもあるま ひと思いつつご体調芳しからぬ宮様方もありか、と察す。葬儀は東京都文京区の豊島丘皇族墓地(朝日)とあ り余この墓地でを知らず皇太后斂葬の儀まで挙行されていたことも余は知らずH君調べるに護国寺の境内にあり宮内庁書陵部も置かれている、と。国家安寧を祈 祷する寺社に皇族墓地とは然り、江戸城受渡しにてこの寺社地も献上されたものかどうか。朝日は豊島丘と書いたが読売、産経は豊島岡、H君看た昭文社地図で は豊島ヶ岡。ちなみに朝日とて高松宮逝去で弔問に訪れる天皇陛下皇后両陛下のお写真に対して産経新聞サイト、高松宮逝去の横に阪神金本入団発表記者会見の 写真、不敬千萬……と云いつつ暫くして朝日サイト看たらトップに「継体天皇陵、やっぱり別人の墓?」と「大阪府茨木市の継体天皇陵で、同天皇の時代より約 80年古い埴輪が、埋葬された当時の並んだ状態で確認できた。「被葬者は別人」を裏付ける有力 な物証になった」と、この記事、時期悪し。それにしても高円宮はカナダ友好もスカッシュも公務ながら平日の夕方にスカッシュしていたカナダ大使のロバー ト・G・ライト君、とんだ事実を世間に公開したもの。
▼蘋果日報の蔡瀾「草草不工」にてシャンパーニュ地方を旅する蔡瀾氏のつまらぬシャンペンの紹介続きいった い何がいいたいのか?と危惧したらMoet & Chandon最後に紹介し「発音難しければ大陸人はただ「毛沢東」と覚えればよし」と、それに少しばかり笑ったら最後でこの葡萄酒厰、「ルイヴィトンと各種ブランドの会社」(富柏 村注……正確にはLVMHに買収され、この会社を是法國最萬害 的一個機構(フランスで最もとんでもない企業グループ)と。御意。ヴィトンにこのシャンペンにブランデー のヘネシーと単にフランスの高級ブランドを何のコンセプトもなく買収して傘下とする「だけ」のお下劣さ。

十一月廿一日(木)曇。鮪の中落丼など食し晩酌にてNHKニュース10眺めていればニュースがないの かStradivariusの中でも絶品とされる幻の名器が蘇りその音色を、と、で、出てきたのは千住真理子。バイオ リン界の松田聖子か、と思われていたがNHK教育テレビで「趣味悠々」だの「週間ボランティア」だのといった地味な仕事も精力的にこなし見事NHKの覚え よろしくNHK朝の連続テレビ小説「ほんまもん」の音楽を兄の千住明が担当で千住真理子が演奏とかNHK貢献度ピカイチ。ニュース番組だってぇのに小曲ば かりながら4曲も演奏。もうこなると、これはNHK、これは楽器蘇るなんて報道ではなく千住真理子の売り込み。でこのストラヂバリも本人の財力だけじゃ入 手し得ぬわけでビクターは当然として愛宕山も、 おっといけねぇいけねぇ愛宕山なんていっても今の若い方はわからねぇ、神南だな神南、JOAKは神南に御座い、ってなんだJOAKも知らないってかい、 まったく嫌だねぇ神南っていふからにゃ何処に神様が御座すって、そりゃてめぇ明治神宮に決まってるじゃねぇか、明治天皇をお祀りして……えっ、高円宮様が ご逝去だってよ。ほんとかぉ、まだお若いってぇのになぁ。といふわけでニュースのあと人間ドキュメント「生涯一エンジニア〜ノーベル化学賞・田中耕一さ ん」といふ地味な番組を眺めつつ姜尚中の『ナショナリズム』岩波書店に目を落とした矢先、高円宮の逝去を知る。カナダ大使公邸に てカ大使ロバート・ G・ライト君とスカッシュ中にお倒れになった、と、何故にカナダ?何故にスカッシュ?かと思えばカナダのクイーンズ大学に留学したことあり日加協会の名誉総裁を務め今年2月には日本スカッシュ協会の名誉総裁にも就任、となるほど甚だ判り易し。皇位継承順は皇太子殿下、秋篠 宮、常陸宮、三笠宮、同宮家の寛仁親王、桂宮に続き第七位と末に御座しながら、病院に付添ったのも妃、三宮女、母宮と寛仁親王妃(桂宮がお見舞いに、とい う社会面報道はあるが)とお妃と宮女ばかりで、三 笠宮のご高齢、兄宮にあたる桂宮の病気など思えば、皇室に男のお子なきなかでは実質的には近い将来には皇位継承三、四位にあられるはずのところ。 普段はひっそりとした宮内庁のサイト閲覧する国民多くまことに繋が りにくければ国民の皇室に対する関心の高さに心打たれる思い。
▼新聞広告に文春新書『ウィーン・フィル 音と響きの秘密』(中野雄)で帯に「小澤征爾とウィーン・フィル  東と西の「音の戦い」がいま始まる!」だって。これ見たら小澤先生「だからボクは国立歌劇場の……」って講釈しそう(笑)
▼香港に華懋集団なる大手不動産会社あり。王廷音なる創業者あり現在この会社を取仕切るは愛息の嫁に当る龍 如心、本来後継者は愛息王徳輝のところ徳輝一度身代金目的の誘拐に遇い二度目の誘拐で行方不明となり徳輝は死亡扱いとなるが、この龍如心、渾名を小甜甜(キャンディキャンディ)といふほどにて中年のオバサンながらいがらしゆみこのキャンディキャンディそのままの服装と飾りで異彩を放 つが商才に長け彼女が陣頭指揮してから華懋集団破竹の勢いにて大財閥となる。ただし創業者王廷音にしてみれば愛息は行方不明のま ま、嫁の活躍に安堵するどころか徳華生前に自らに不幸あれば資産小甜甜に遣る旨の書状遺し、これをめぐりその正当性を主張する小甜甜と老姑との間にて裁判 沙汰。本日高裁での判決あり小甜甜への遺産譲渡を認めた書状の徳輝の署名は偽造という判決あり財産譲渡の有効性を否定。醜聞好きはひょとして徳輝の「他界 も?」と当然のことながら猜疑。さながら火曜サスペンス劇場ならこの主人公なる女性は風吹ジュンあたりか、私なら市原悦子だねぇ、って感じだが、この「飾 らずとも地で水森亜土なみのキャラ」がキャンディキャンディしてしまったといふ超シュールさがまさに現実は小説よりも奇なり。
▼築地のH君との文通はこの日剩にても繁く紹介しているもののH君の経歴だの現状だのを新聞記事、それもH 君を敵と見做すであろう某新聞が記事にしたらどうなるか、といふ摸造記事を捏造して遊ぶ。かなり面白いがH君の個人秘匿に値する部分のみにて此処には紹介 できず。かうしてH君と繁くメールにて文通しているとこの知性と趣き(笑)は『チボー家の人々』のジャッ クとダニエル、ジャックの兄アントワーヌとの交流、または中江兆民の子で北京に暮らした丑吉と鈴木言一との、または内山完造と魯迅先生の如きもの。ふとさ ういった友情についてH君、雀右衛門の例を引き先代とは血縁も芸の上での継承関係もなき当代が京屋を襲名したきっかけの一つが「先代の息子さんが、それは もうよくして下さて、兄弟のように育ったんですよ」という話。その先代の息子さんも雀y(これでJackyと云ふ)と 同じく応召して南方で戦死。六年間軍用トラックを運転して一人生還した雀yが亡き友の継ぐはずだった名跡を名乗り今では平成の立女形。この「先代の息子」 との関係を軸に雀yの一生を小説で読みたい、とH君。とくに戦地での物語が軸になるかと思えば児島襄、しかし京屋の個性からすると大岡昇平でも足りずやは り大西巨人か、と思ふ。

十一月二十日(水)曇。風邪気味。快活谷にて夜馬あり自宅にて電視。馬券買い過ごしたり携帯で残高不 足にて馬券購入不成立となっていたのにも気づかず買ったつもりでかういふレースにて三番人気できちんと一着に入っており勝ったつもりで糠喜びなど風邪薬の 所為にしていいものかどうか。『噂の真相』など雑誌読む。酒飲まずとも薬にて頭くらくら。日本にては定量の倍飲んでも薬の効能の悪さあったが香港の薬は強 く倍も飲めばらりるれろ。

十一月十九日(火)雨。紀伊国屋より大西巨人『神聖喜劇』、フーコーの1974-75年の College de Franceでの講義録『異常者たち』など届き、或る文庫本を一読し好事家築地H君なら興趣ありかと思い早速郵送す。
▼香山リカ『ぷちナショナリズム症候群』(中公新書La clef)読む。「ニッポン、ニッポン」と盛り上がったサッカーW杯であるとか愛子様御誕生であるとかで「キャア」と自分でもうまく言語化できずに歓声を 上げるヤングたち。ここ数年で大きなスポーツイベントの開会式どころか「札幌の巨人広島戦ですら」アイドルが君が代独唱。それを故ナンシー関は「少なくと も最近の「スポーツイベントでの国歌斉唱は」が着地するのは、だれがどう歌ったから「(スポーツの)戦意高揚」や「心をひとつに」効果がどれだけ上がった ではなく、とんちんかんの度合いの高低でないかと思う。誰が歌っても「(笑)」から免れない。工藤静香に限らず、郷ひろみだろうが、つのだ☆ひろだろう が」と観察しているが、すっかりこの君が代が定着。W杯の日の丸の旗が神道青年全国協議会によって小中学校や幼稚園に協力求め作られたことの政治的背景な ど関係なき、この「屈託のなさ」。日本語ブーム。こういった「ぷちナショナリズム」を香山リカは米国や韓国といった国威と直結した強烈なナショナリズムと も、フランスのルペン台頭にみられる左翼知識人に対する幻滅による保守回帰とも異なる、と見る。これは何処に源泉があるのか。まずエディプス神話の崩壊。 長嶋一茂や小泉孝太郎に見られる屈託なき父親への尊敬。しかもその名声に反発するどころかそれをしっかり利用する。次にコンプレクスや複雑な心のプロセ ス、歴史的因果関係など面倒臭いものはすべて「切り離し」ができてしまうこと。そこには「屈託のなさ」だけが残る。更にそうした一茂や孝太郎に見られる、 政治家の大部分も二世議員で然り、そうした者たちはただただ有利で他は不利となる機会不平等がしっかりと根づいてしまった。こうした階層化社会では何か発 散できるものが欲しいということ。それで旧来は革新が強いはずの都市部(しかも首都)において何か停滞を打破してくれそうな石原が支持され、 YOSAKOIソーラン節とか各地で踊りなど言葉にならない何かの体言が盛んになり、体制に懐疑的であるはずの若者が君が代を歌い日の丸を振ることで日本 を応援し「なんだ実は弱くなんかないじゃない」とスカッとできる、そういった社会。劇作家の山崎正和はW杯の亢奮も「民族や国家単位の約束はいわば芝居の 約束事であり、観客は承知のうえで「愛国ごっこ」を面白がって演じていた」といふが余思うに「演じる」といえば客観的であるが役者が「役になりきる」って ことの怖さを山崎は理解できていない、だから「山崎の芝居もつまらない」のだけど(笑)。
▼築地H君の報せによれば朝日の昨日の夕刊に「横浜中華街が「お台場のような」おしゃれなスポットめざして 改装リニューアル」とかいう記事あり、と。「雑然」とした電線電柱を地下化し、「ダサい」といわれる朱塗りの街路灯もカゲもカタチもなくし車道と歩道を一 体化した高級敷石の舗装でバリアフリー?とか。H君の言う通り「致命的な勘違い」以外の何ものでもなし。中華街など、あの周囲から乖離したキッチュさ「だ け」がいいのであり、それをキレイにして誰が參ろうものか。
▼同じくH君が石原慎太郎の「日本よ」という本の書評「石原知事の研ぎ澄まされた、ある時は荒削りな発言に は魂がある。政治家本来の姿だ」を読み、研ぎ澄まされてるのか、荒削りなのか、いったいどっちなんだ?、と(笑)。よくわからないが「政治家としてはとも かく、言葉を扱うことを生業とする作家としてはイカガなものかと」とH君指摘するが、石原にしてみたら生業は小説家であって「政治的言動は言葉だから粗削 りでいいんだよ、キミはわかってないなぁ」とか言いそうな予感。
▼益新飯店の先週金曜日の閉業を報じる新 聞をアップ。

十一月十八日(月)曇天。昨日に引続き尖沙咀東に参る。昼にこの食文化不毛地帯にて何を食すかと思案 しふと思い出したるは幸福中心地下のらーめん一平安(ヤッピンオン)。幸福中心地下といへば焼鳥の五味鳥 こそたまに訪れるが一平安は十二年ほど前に尖沙咀に屡々遊んだ折、当時、日本食など高値の花、此処でらーめん食すこと多し。五年ほど前に富柏村の文章にて この店を過去形にて紹介し失礼したことあったが十年ぶりに味噌らーめん食してみれば今でこそ日式らーめん多いなか開業1984年といふ老舗の格が麺の腰と 茹で具合といいスープの熱さといいご立派、敬服。尖沙咀東、日本人と茶筒もった大陸人の観光客多く、観光客相手の時化た小売店あるだけで何ら興趣なき場に て路頭に迷う様まことに哀れなり。晩に尖沙咀東より海底隧道潜ろうとするとひどい渋滞にて遠回りでも東隧道を経由し正解。事故か何かと思えば北京中央より 引退目近の朱溶基首相の来港にて(事故か、これも……笑)「国内」の移動でこの厳重なる警戒の様、米国大 統領とてここまでSecret Serviceの警戒つかぬだろうといふ程にて幹線道路を通行止めにて朱鎔基を搭せた車隊疾走する様かつてのソ連の莫斯科での共産党幹部専用車の如く(共 産党幹部だから朱鎔基車隊も当然か……笑)しかし当時の首都莫斯科の幹線道路には共産党幹部車専用車線があったという話もありそれなら庶民の足に迷惑かか らずそっちのほうがよっぽどマシか。「国内での首相の」警備にヘリコプターを飛ばし銃撃手ビルの屋上からテロリスト現われるを狙ふ香港の幼稚な過剰警備は B級映画の見過ぎにて北京にても北京飯店より眺めていたが人民大会堂に出入りする車あってもこれほどの厳重なる道路規制はしておらず。特区行政長官董建華 が通るだけでも返還前の総督の場合に比べかなり厳重警備にて総督が白バイ一台に総督車のベントレーで走っていたのに対して行政長官BMWは白バイ数匹蝿の ように先飛びし道路規制するのもやはり市民の反感多くいつ市民に襲われるかを警戒してのことか(嗤)。香 港警察のVIP警護するSPに一人どう見ても警官の中で武力よりも容姿端麗であるが故に目立つこの職にまわされたSPおりいつも要人のすぐ横、いちばんカ メラ映りする場所はこのSPの担当。それで警察の話題性、イメージアップ狙っているかと思うと幼気。で、朱鎔基何故に来港かといえば明日より国際会計士協 会なる組織の総会で挨拶、と。まぁ朱鎔基が経済改革と経済体制の是正に努めた(が結果はイマイチ……『信報』社説も指摘 していたが政府によって経済体制の改革はできても金融改革は企業の自助力によるもので政府指導の経済政策で引張っている中国では限度あり、と)朱 鎔基としては会計監査など大陸で重要な分野であろうし、この人は本当は共産党幹部なんかしたいのではなくて財界賢人会議などで指導的地位に立ちたい人、こ ういう会議のためなら飛んでも来よう。朱鎔基のニュースなど見ながら湯豆腐。鰹節切らしている大失態、ポン酢にZ嬢日曜に大澳で購ったXO醤(蝦味)混ぜ てみるがなかなかの味覚。湯豆腐終わってうどんをいれてこの蝦味XO醤ポン酢に即興でキムチと韓国海苔入れたら美味。
▼日本「まだ」最安値更新。日本は、少なくても今のこの「反テロ」が利用できるうちはブッシュに任せ経済対 策は停滞を赦し「反テロ」が下火になった頃には共和党穏健派か民主党の経済改革案に乗換えるかといった判断をしてゆく米国のそういった選択もなきまま、企 業は政府の抜本的改革、経済対策が進んでいないことを指摘し政府は民間金融機関の所為にして、もうそれで十何年? NTTだかの社長が自分たちの企業の業 績と関係ないところで株価が激しく上下しており、これは対処できぬ、といふようなコメントしていたが、ここまで総体的な株価上昇が期待できぬ時代にあって はこの不安定な値動きでの利ザヤだけを期待するシテ株がかつての相場以上に動くであろうし、何よりも通信関連株の下落がこの業界への投資者の期待薄を真っ 当に反映したもので、もともとグループ企業の株の持合いにて株維持してきた日本の企業にとって本来の末端の株主たちによって雇われている使命感はなかろう から理解できぬのだろうが、世界に名だたるNTTの経営者がこのお手上げ発言ではどうしようもあるまひ。かつて「英国病」と呼ばれた病あり絶対にもう治癒 しまひと言われていたのがサッチャー政権にて発作的に目覚めたようだったがあれは少なくても80年代の低成長ながら重工業から情報工業への産業構造の変化 が背景にあっての、そういう景気がよくなる前景あっての新保守主義の台頭であり、そういった産業的な前景なき時代の石原待望論は無策どころか自殺行為。し かしその「上質の覚醒剤」の注入しか期待できぬほど何もないのか。
▼新聞で斡旋収賄の斡旋は「あっせん」と平仮名書きしていたがダム見直し問題でダムの「堰堤」だの「浚渫」 工事や漢字書き(但しルビつきだが)。なぜ「えんてい」だの「せきりょう」は良くて斡旋がダメなのか。こ のダム見直し問題、ダム底は土砂で埋まり殊に発電用ダムなど浚渫工事怠ってきたため治水どころか水害だの河川氾濫の原因になっている、と。長野県知事の脱 ダム宣言に異を唱えダム推進で知事不信任案したオトーサンたち、知事再任されたばかりか国のこのダム不要傾向で今何を思うか。
▼『噂の真相』の中森明夫「月刊ナカモリ効果」にて卓越した文章拝読。中森明夫は呉智英の、読売のナベツ ネ、日テレの氏家、西武の堤清二など学生時代に左翼だった大企業経営者あり転向左翼が優秀なる財界人を産むと思えば共産主義に存在意義ありといふ理屈を引 用し(呉智英も同じ左翼から封建主義者!への転向組)アイドルも同様、と。浜崎あゆみ、華原朋美、ELTの持田香織などJポップ歌姫たちがB級アイドル だった過去をもち椎名林檎さへホリプロのタレントスカウトキャラバンで決勝落ち組のアイドル志願でありアイドルとは左翼である、と。アイドルは世相を反映 し美空ひばりが高度経済成長の、山口百恵が石油ショック以降の低成長期の、松田聖子はバブル景気の、と時代の先触れとして彼女たちが現れ時代が彼女らを模 倣する、という中森明夫理論あり。不良債権問題でみても銀行もアイドルも信用を売る商売で、紙幣が金兌換できぬようにアイドルが処女であり排泄をしないと は誰も今は思わぬように信用は幻想だけど幻想を保証するにも限度あり。広末涼子で見れば、98年までの広末銀行は有料金融機関であり旧来のイメージ先行型 CMアイドルとは異なり正価としての写真集やCDが異性ファンに売れるといふ実体を伴っていたが早稲田入学あたりで狂い始め、これは広末の自己資本比率= 学力を考えればせいぜい亜細亜大学の一芸入試ぐらいが順当な融資限度額であり男性問題など債務の焦付きが生じた。ここでもし事務所サイドが正確な査定に基 づく公的資金導入し引当金を積むべき(=交際宣言して女性ファンの共感へシフトするとか)だったのに不良債権(=交際の事実)などないような顔で大手行と の合併=高倉健主演の大作映画出演を試みたり外資系=フランス映画で一発逆転を狙うなどしたが奇行目立ちプッツン女優(=経営破綻)などと呼ばれる頃には ペイオフ解禁後の預金者よろしくファンもスポンサーも逃げてヒロスエ銀行破綻寸前。この分析、ナカモリ先生本人曰く、竹中大臣より説得力あり松下整形塾に 対向しナカモリ政経塾開けるか、と。御意。

十一月十七日(日)晴。昼にかけて百年ぶりにジム。お座敷あり尖沙咀東某ホテルに夜三更まで缶詰め。 尖沙咀東、出来合の街にて殺伐とし殊に食事に値するもの茶餐廰から高級料理屋まで悉く見当たらず。午後南京風味と看板掲げるの麺屋に入り肉排麺を注文する が呆れるほど不味く我慢しても食切れず途中で箸を置き尖沙咀界隈に数数多ある源記を名乗る麺家にて牛什麺食べ直す。ホテルより日剩更新するがさして記すこ ともなし。「香港の」そこそこ四級のホテルの客室にて而もExective Floorにて部屋より今どきモデム通信とは。まだ電話線抜かずとも机前にデータ用モデムソケットあるだけマシではあるが。而もExective Floorで市内通話無料としつつ三分ほど放置しておくと通信中断!。更に驚くなかれ「今どき」市内通話HK$6、Home Directの国際通話HK$30、クレジットカードなど利用した先方払いの場合はHK$55、通常の国際通話はHK$200以下の通話は通話料に加え手 数料HK$55、HK$200以上の場合通話料の27.5%と暴利。更に更に理解しかねるは「取消し料」のHK$55なる表記。いったいこれが何かオペ レータに尋ねるがオペレータその手数料の存在すら知らず調べて返答と。電話ありこれはコレクトコールした場合にコレクトコールを相手側電話会社に委託した ものの通話に成功しなかった場合の手数料と。そんなのありか?と言うとオペレータも「私もそう思う」と(笑)。 呆れる。

十一月十六日(土)雨。朝刊(蘋果日報)にて銅鑼湾利舞台の益新飯店昨晩閉業するを知る。三十年來の 老舗にて同じ銅鑼湾の駱克道にて営んでいたがバブル華やかなる95年に現在の利舞台に移り店の内装こそ他に比べれば地味なもののボルドーの銘酒の空瓶が並 び景気よきこと一晩に卓が二回どころか三回転することもあり。余は駱克道の頃10年もまえに偶然訪れし際そこで旧知のM氏と遇い店の給仕頭紹介されたのが 縁で贔屓とし海外から客あらば客のご指名ないかぎりこの店を使ひ殊に客多き97年の返還前は月に二、三度といふこともあり。日剩を捲れば(この富柏村ゑぶ さひとも出来て丁度二年となると知る)昨年一年に八度この益新に食し今年は外食かなり減ったこともあり僅か四度。それでも仕事の接待あるわけでもなきこと 考えれば頻繁。店の経理曰く95年の移転時は売上げは伸びるといふ前提ありここ数年の不況にてかつてHK$3,000使っていた客がHK$1,000しか 落とさなくなりビル家主側と家賃折衝もしたが下りあわず最近は毎月HK$20萬ほどの赤字続き、と。確かに晩8時くらいには賑わうが往時の如く九時、十時 に訪れる客あらず九時すぎると閑散としていたのも事実。十年来贔屓にして店の給仕にまで顔覚えられ訪れれば名を言うまでもなく卓に案内されし店をなくすは 寂しきこと限りなし。Z嬢嬢昼頃、この益新を訪れ懇意の給仕頭C氏にせめてお別れを言い記念にメニューでもいただければ、店は卓や椅子と橙色の卓布などあ るのみで他に何もなし。厨房の職人が一人いたのみ、と。昨晩まで営業しており、けして負債の抵当にと店の財すべて押さえられ運び出されたわけでもなく店の 記念に残るものは皆にて持ち帰ったかと察す。余は午後、馬主C氏の多利高12月15日の香港国際レース参戦を賭けC氏に招かれ沙田競馬場。予想などしてい たら昼となり慌ててタクシーにてHung Homへと向かうつもりが運転手に土曜の昼に中央隧道渋滞ひどければ東隧道通ると言われ東隧通るならいっそのこと大老山隧道潜り競馬場までタクシー。馬主 ボックス席にて観戦。最終レース1400m多利高は三番人気にて期待したが最終コーナーまでいい位置につけたものの直線で前を三頭に塞がれ抜け出せず埋 没。競馬終わり競馬場よりオケラ街道歩いて沙田に向かい沙田の龍華酒店にてランニングクラブの例会。唯霊氏推薦のメニューとしたが鳩とスープ除いてイマイ チ。終わって二次会となり今回の幹事である沙田居住のカナダ系秋田人T君の按配にて沙田Riverside HotelにあるBig Echoの経営するハローキティカラオケなる奇っ怪なるカラオケボックス。カラオケ、お付合いでフィリピン人ホステスなどいるカラオケバーは年に一度程度 か訪れたことあるがボックスなるもの実に七年ぶりか。何故にカラオケボックスのコンセプトがハローキティでなければならぬのか全く理解できずカラオケ楽し む素養なければ西田佐知子のコーヒールンバ一曲のみマイク握る。終わって新婚のK氏夫妻、T君、Z嬢とタクシーにて香港島までボックスに残った麦酒飲みつ つ帰宅。
▼豊田直巳さんといふフォトジャーナリストがこの春イラク訪れ湾岸戦争の傷跡を写真に押さえる(国際衛星版 朝日16日)。湾岸戦争にて地上戦があった、クエートに近い南部のバスラ市にあるサダム教育病院、「眼球が顔からこぼれ落ちそうになっている子ども」や 「呼吸困難の発作に耐える子ども」、「頭髪が抜け落ちた子ども」で病室はいっぱいで、内臓が対外にこぼれ出たままに死産となった多くの赤ん坊の写真が残 る。癌の再発で顎、といふより喉のまわりにマフラーでもしたように顔まわりより大きな腫瘍ができた少女の写真は悲惨すぎて見るに耐えぬ。すでに腰骨が蝕ま れ治療はできず。こういった後遺症は被害者であるイラク側ばかりでなく湾岸戦争から帰還した兵士とその家族に「湾岸戦争症候群」といふ癌や白血病、異常出 産が多発しボスニア、コソボ紛争に参加したNATO軍兵士の間でも白血病による死亡が続く。これは米軍が使用した劣化ウラン弾の放射能と猛毒が原因と言わ れている。大量破壊兵器を何の制約もなく有し正義と民主主義の名の下にそれを使って「悪」とされた側の人々を殺戮し正義の勝利などと浮れる下劣なる大国あ り、それに羞ずかしさもないまま追従する英、日など国家といふにも値せぬ腰巾着集団あり。南無阿弥。

十一月十五日(金)曇。
ジャパンカップに 参戦予定だった香港の原居民Indigenous、これが最後の海外遠征とされていたが、餌料が農林省の検査で日本への持ち込み不可となり10歳近い老壮 馬に急な餌料の変更は負担大きく充分な走行など到底期待できぬし12月15日の香港Vase出場に悪影響と判断され日本への遠征断念。餌料は米国産にて農 林省が問題としたのは第三国経由された餌料ということで米国からの直輸入であれば問題ないのだが検疫などあり今から来週火曜に予定されていた原居民の日本 入りには間に合わず。香港側は確かに第三国経由に当るが封も切ってない餌料にて検疫上の問題はないはず、と主張するが役人のこういった杓子定規な解釈を覆 すは到底無理。ただ「もしも」のことで日本にて細菌蔓延することを想像し責任がとれぬことの回避。それにしても香港にては近年日本馬香港の国際重賞レース を総嘗にする活躍あり香港の寛容なる日本馬受入れに対して日本のこの様は昨年も外国馬による手口足病の流入を怖れ一昨年の優勝馬Fairy King Prawnの参戦すら取り消されそうな事態が発生しており、その際もドバイ、香港と遠征した日本馬は帰国と参戦可能にて非常に納得のいかぬ二重思考、不公 平さあり。今回の原居民の場合、もっと結論が早く出ていれば米国からの餌料の輸入を図るなりジャパンカップ辞退し今週末の香港カップ予選参戦も可能だった わけで理不尽な措置の上にその判断の延滞もかなり問題あり。こうして競馬でもまた世界から顰蹙か。
▼毎晩NHKのNews10への苦言ばかりだが「これしか見れない」のだから唯一毎日目を通す朝日新聞同様 に余の揶揄の対象で申し訳ないが中国共産党総書記に選任された胡錦濤君を紹介するに頭角現すは胡君88年チベット自治区党書記に任命され翌年「治安の悪化 したチベットでの騒乱を収集」したことが評価され党中央に抜擢、と。チベット騒乱は事実といえば事実だがこの騒乱が中国政府のチベット占領に反対するチ ベット人の反中央政府暴動でありそれをチベットにて共産党を代表する党書記として権力側として徹底した弾圧をしたのでありチベット側からしたら冷徹なる中 央指導者。「チベット自治を切望するチベット人による反政府暴動に対してチベット自治区党書記としてそれを制圧した」くらいの表現が正しくはないか。今に 始まったことではないがこの権力側からの一方的な視線。政治も小沢征爾ともマトモに語れぬ粗忽さ恥じ入るべし。それにしても胡錦濤、日本語読みで「こきん とー」というのはどうにかならぬものか、フランス人ならPompidou大統領がいるから表記をCoquinteauとかすれば多少オシャレかもしれぬ。
▼韓国大統領選に現代財閥の御曹司、日韓共催W杯の韓国側組織委員長で韓国サッカー協会長、国際サッカー連 盟(FIFA)副会長も務める鄭夢準氏が新党「国民統合21」を正式に旗揚げし同党の大統領選候補にも選出される朝日。 これって堤義明が総理大臣に立候補するようなもの。財界が政治に絡むのはあるとしても三井、岩崎といった財閥は政治との距離を置くことでその品格を保ち麻 生などもせいぜい代議士どまり。それが小泉こそ仁侠出身で異るものの、小ブッシュも石油成金の田舎財閥であるし日本だと鳩山か、財力のある御曹司ばかり。 財閥が直接政治に関与し統治すらするといふ、昭和の初にすらなかった下劣な時代となり果てる。
国連によるイランの大量破壊兵器製 造に関する査察受入れ朝日、 昨晩のNHKニュース10の報道見ていて不思議なのは、単純になぜイランのこの大量破壊兵器製造だけが非難の対象となるのか、といふこと。国連安保理がこ の査察を決定したものの米英は安保理で否決されてもイラン侵攻は辞さない、って大量破壊兵器を世界で最も有する国家のこの横暴についてNHKはワシントン手嶋支局長筆頭に日米安保遵守し報道は非難どころか疑 問すらなし。それに対してイラン側査察受入れを表明とニュース10司会の今井アナは「これがそのイランが国連アナン事務総長に当てた書簡です」とさも NHKが独自のルートで入手したが如く扱うが(けして「独自のルートで」とは言っておらず、念のため)その書簡、国営イラン通信が国連への提出から 数時間後には公開しているもの。つまり誰でも入手可。早速サイトを見るが書簡見つからずアナン事務局長が書簡の受取りを記 者会見で述べた時にはすでに公開されたいたという事態にさすがに公開を止めたか、と察す。ただし書簡はすでに紐育タイムズなどのサイトにて公開されていて入手可。 一読するが(テキストはこちら)確かに査察受入れといっても査察は「国際法に従って」認めるが「安保理決議は国際法と国連憲章に違反するから「後日、別の 書簡を届ける」……。こんな内容が盛り込まれたイラクの「安保理決議受諾」書簡は、本当に無条件なのか。受け取った国連側に疑心が残っている」という「イ ラク独特の論理構成ともいえるが、査察を妨害するための伏線ではという懸念は消えない」朝日も のの、「米大統領は、悪意に満ちた非難をでっち上げて大騒ぎして」おり安保理も「米国の圧力を受けて国連憲章にも、国際法にも反する邪悪な決議を採択した のは恥知らず」という主張内容は至極尤もなものと思えてならず。
▼中国共産党第16回党大会閉幕。四年に一度のサラマンチ=ファシスト独裁によるオリンピックにも勝るとも 劣らぬ5年に一度の茶番……いや暴言を避ければ「様式美」の世界。水面下ではかなり派閥抗争などありつつも表面的には予定調和的に中国の安定を誇示。筋と しては何ら面白さなどないのだが役者が揃ってただ並ぶだけでも華がある、という様式美として曽我対面であるとか車引のようなもの。閉幕にて荘厳に「イン ターナショナル」吹奏され今どき舞台には赤旗並び国際歌が流れる場などこの世にこの人民大会堂のみ。インターナショナルのサイトはこちら、 とくにお勧めは(このあとのリンク★印はクリックすると自動的に音曲がダウンロードされますので覚悟あれ)中 国のロックバンド唐朝の演 奏、映画『うんたまぎるー』の琉球語版、 そして89年の天安門広場で の歌声。ちなみにGoogleで「サラマンチ」と「フランコ独裁」で検索かけたら富柏村日剩が三つもひっかかる(汗)
▼教育基本法、中教審は教育基本法の見直しの視点や方向を示した中 間報告を文相に提出。朝日は「反対論は根 強い」といふが国民の85%が教基法の内容も知らぬ中、この停滞した国家にては根本的な<国のかたち>の合意もなきままとにかく何でも「見直し」という観 念だけが流行り誰もそれを止める感覚もない麻痺。このままどこまで陥落し続ければ気がすむのか理解できず。驚いたことに文部科学省のサイトで教育基本法を 検索してみると中教審の答申は当然(笑)、韓国だの他国の教育基本法はあるが文部科学省の根本理念であるべき教育基本法じたい存在せず! いくら改正に向 けての動きが主流だろうが現行法の原則がないはずがなく文部科学省にわざわざ電話で問い合わせると広報担当暫くサイトで探した結果、中央審議会の第 26回総会の中にあります、と。確かにあった、がこれは審議会資料であってダウンロードするファイル、つまりは教育基本法が文部科学省のサイトに 掲げられていない、ということ?……広報担当「確かにこれは審議会資料です」「サイトにはありませんねぇ」と(唖然)。根本的にもうダメだ、こりゃ。
親兄弟が日本にあるといふこと以外に何ら愛「国」心も「国家に宣われた」郷土愛もなき我ながら残念ながらこ の中間報告が期待する「個人の自己実現と個性・能力の伸長」と「創造性の涵養」は余の老身にもまだ備わり(の、つもりだ けか……)「社会の形成に主体的に参画する「公共」の精神、道徳心、自律心」とて少なからず有し古典に親しみ歌舞伎だ文楽だのを好み且つ泰 西や支那のことにも通じ「日本人としてのアイデンティティーと国際性」もそこそこ持つ。期待されうるさういふ人格形成には実は愛国心も郷土愛もタテマエの 公共心など要らぬ、といふこと。このような教育だ、経済だのの「見直し」など言葉遊びにすぎず、それが亡国の遊戯であることを理解できぬ国家はまことに哀 れ。

十一月十四日(木)
▼粋人築地のH君、朝日13日付埼玉版で「幻の演目で‘初’歌舞伎」という記事見つける。「歌舞伎といえば 伝統を重んじ、例えば女性は舞台に上がれない。だが若手を軸に「型にとらわれないでなんでもやろう」というグループが小鹿野町に生まれた。町の歌舞伎・郷土芸能祭で16日に初演されるのは、老役者の頭 脳に70年近く眠っていたチャリ(こっけい)物。さて、どんな舞台になるやら」といふ書出し。こういった 取組みはいいことだが、H君指摘するに記事が拙し。以下、H君曰く、女優は舞台に「上がれない」わけではなく単にキャスティングされないだけだもの。前進 座には女優もいるし歌舞伎座だって波乃久里子や水谷良重は出演したことがある。相撲やなにかと混同か? 演目は「一谷嫩軍記宝引之場」(文楽の床本ですがこ ちら)、記事で「世話物は庶民の日常生活を描き、狂言のような軽い筋書が多い。面白いが、何場も続く芝居の本筋に結びつかないので、都会の大歌舞 伎ではほとんど演じられない」という記述も不正確。 まずこれは「世話場」の誤り? 「一谷」はレキとした時代物、ただし時代物の狂言であっても世話狂言 として演じられる幕もあり、それが「世話場」。たとえば「仮名手本忠臣蔵」は時代狂言だが勘平の切腹を描いた六段目は世話場。また黙阿弥や南北の世話物、 世話場では「義経千本桜」の「すしや」など今日でも繰り返しいやというほど上演されており「都会の大歌舞伎ではほとんど演じられない」なんてことはない。 「狂言のような」という表現もなにかの誤解。歌舞伎の世界で「狂言」といえばふつう芝居それ自体をさし、いわゆる「能・狂言」の狂言というつもりであれば 世話場は狂言とは類似点はなし。「世話」というのは様式的でない義理や人情のリアリズム演劇をさす(当時の)コトバだから単に滑稽な場という程度の意味で 「狂言のような」と書いたなら非常に不適切。「能・狂言」の意味での狂言と類似するのは「身替座禅」などの「松羽目物」と称されるものがあり、これは「世 話物」「世話場」とはまったく異なる様式的な演劇。ちなみに、この公演ぢたいは秩父の農村歌舞伎の流れをくむ小鹿野町の田舎歌舞伎が85歳の長老の記憶を たよりに一晩でワープロ打ちしたホンで「一谷嫩軍記宝引の場」を演じる。すくなくとも戦後は上演の記録がない、というもの。内容はこの記事の「源平政争の 真っ只中、平敦盛の母が通りがかる村で庄屋と村人が繰り広げるコメディ」とこれはほぼ正しく「チャリ物」、それがなぜ記事の中で世話物という扱いになった のか。
▼37歳の電脳プログラマー、ショッピングセンターのトイレにて15歳の少年を無理矢理個室に連れ込み「淫 らな行為」と(蘋果日報)。その裁判記事読んで一驚するはこの男が公共福祉活動に熱心で過去六年基督教会の福祉活動に従事、中国で学校に行けぬ貧困児童の 支援だの孤児の里親活動などを実践、と。そういう公共心溢れる男が……というが「白人」歌手M君を見ればわかる通り「そんなの公共心じゃないぜ」と法廷で 誰も疑わぬか。裁判という装置の中でこの犯罪者に眼差が注がれるが罪深き犯罪とそれに背馳する公共心=善が語られ誰も実は子供への慈善と性欲が結びつくこ とに気づかず(気づいてもタブーとして口に出来ず)いずれにせよ権力の下この男は監獄に送られるといふかなりフーコー的な世界。

十一月十三日(水)快晴。沙田にて競馬あり自宅にてテレビ観戦。
▼築地のH君より教示あり2ch社会の特有の言語において「藁う」という表現は間違いに非ず共通言語と。他 には「氏ね」のような意図的な誤変換、「ガイシュツ(既出)」とか「スクツ(巣窟)」みたくわざと読み間違えるのもあり、前者は自動検索で誹謗中傷として ひっかからないためのテク、後者はほんとうに間違えた人がいて以降みんなが面白がって使い始めたようで、とH君。「萌〜」や「ゴルァ!」「ホスイ」くら いしか知らぬ余にはいと不思議な世界。ちなみに『インターネット術語集2―サイバーリテラシーを身につけるために』なる岩波新書の宣伝文には「インター ネットの世界では住基ネット、個人情報保護法といった数年前には予想もされなかった事態も相次ぎ」という(岩波らしい)書き振り。H君曰く住基ネットは 1999年には法律に「2002年施行」が明示されておったわけで少なくとも「数年前」には衆知の事実、自治省の動きをちゃんと見ていれば少なくとも90 年代の半ばまでには住基ネットの実施はじゅうぶん予測できたはず、と。確かに。この情報管理整備については当然のことながら政府主導にて国会だの市民運動 レベルの対応は遅れをとった感あり。経済対策だの外交だのあらゆる面で体たらくの政府にあって何故にこの住基ネット、個人情報保護法だの「だけ」推進でき たか、といへば政府の行政的意図よりも当然のことながら莫大な資金にてインフラ整備し今後そのメンテにて恒常的な収入となるNTTデータだの電脳大手メー カーとの絡み。話は戻るがどうせなら岩波新書で2chの用語解説とか……意味ないか、せいぜい岩波ブックレットで80円、いや、上梓するにも能わず、か。
▼李登輝訪日断念。当然か。李登輝じたいの来日は全く問題なし、だが「日本精神」の講演は李と同世代の元日 本人の老世代の一部を除き台湾にて誰も受入れられず。
▼数日前の日剩に綴った中国共産党は「中国労働者(工人)階級を統率する」などという党宣伝、ふと思ったが 無産階級といふ表現最近お目にかからず。資本家=悪に対して肯定的な意味での無産であったがその資本家すら党に取り込もうといふ時代にあって無産では単な る貧乏、貧困か。「無産階級の代表」といわれたら無産にはなりたくないから入党はせぬ、と言われさう。
The Heritage Foudationによる経済自由度の調査結果発 表され香港は今後23条立法など一国両制瓦解でシンガポールに抜かれるも必至ながら僅差でシンガポール抑え世界一。三位がルクセンブルグ、いか欧米諸国が 続き台湾27位で米国につぐGDPを誇る日本は35位。これでいいのか。韓国52位、中国127位。中国とてWTO入りし今後経済発展を持続するには猛省 が必要。
   食在香港と誇るこの香港にて唯一といつて過言なきほど不味いのが洋菓子。
一部の高級ホテルのベーカリーを除き喰えたものに非ず。
大手チェーンの聖安那もご他聞に漏れず味はイマイチながら
新聞広告にこの見るからに「キモい」秋の栗ケーキ。
苺の大きさからケーキの実物大を想像されたし。
それにしてもこのセンス……唖然。味以前の問題。
旧Regent Hotel(現Inter-Conti)の海鮮料理屋Yuにて
巨大な「かき氷」の側面に串刺した茹海老だの帆立貝だのを刺しただけの料理?あり
それを彷彿す。
(Yuの海鮮かき氷の画像提供は鈴木準三郎氏)

十一月十二日(火)快晴。多利高と好利高の馬主C氏の倅C君とB君より十日のレースにて掌門に差され 惜しくも二着に甘んじた多利高、十二月の香港国際レースへの参戦がため今週末の沙田1600mに挑むと報せあり。余は香港Cupまで狙わず同じく国際G1 レースの香港マイルこそ相応と思うがC氏家族の意気込み凄まじ。C君と十日のレースの分析となり、やはり結論は掌門の勝利はやはり「馬主が榮智健である」 の一点に尽きる、と。多利高の次戦、国際レースへ向けての予想は?と尋ねられ、余は多利高かなり騎手の好み強き馬にて李格力君にては出走時の轡捌き悪く出 遅れ目立ち折も合わず、昨季のダービーにて多利高を三着に導いた実績あるDoleuze君が最良ながら多くの調教師の覚え目出度く引合い多く弱小厩舎の伍 調教師にはまわらず、ダービー後李格力君での未勝をここ二戦で三着、二着としたSchofield君でこの二戦同様に出走さえうまく出きれば中盤からの伸 びは自然と期待できる馬にて中盤まで馬に不快感もたせずレース楽しませることができることが必須、と答える。当然のことながらその李格力君騎乗にて初戦は 降格にて二着、五日の第二戦では見事一着になつた好利高は如何にと問われれば、これは李格力君の奮闘も然ることながらこの若駒、まだ無邪気にてただ走るこ とが楽しく騎手を撰ばず。来季にはレース覚え騎手との相性も出てこよう。晩に佐敦でお座敷かかり跳ねて半年ぶりか呉松街の和味粥店にて及第粥食す。二更に MTR搭り週刊読書人に旧東独逸にあつた国際民主婦人連盟書記局に長く勤めベルリンの壁崩壊までを体験し『世界地図から消えた国』(新評論)など上梓した 斎藤瑛子女史の詳細に渡るインタビューあり一読しつつ、こういう貴重な仕事が週刊読書人でされていることに感心などしていてたら銅鑼湾にてとたんに車内酒 臭きこと午後11時40分の西武新宿線高田馬場駅での混雑の如し。周囲眺めれば赤ら顔の日本人会社員多く足許には引率の母に連れられた遠足の如き日本人の 小児ども溢れ何事かと思えば小児のはためかす応援旗を見れば日本より清水だか沼津だかの職業蹴球隊来港し試合あり。余は、確かに或る事情あり(笑)この春の世界盃にてはブラジル応援しその勝敗に一喜一憂したものの蹴球ばかりかスポーツ観戦に興味なし、とい いつつ一度、後楽園ホールかタイにて闘拳だけは見てみたいと実は思う。
▼台湾前総統李登輝君慶応大学学生サークル「経済新人会」招請により「若い人たちの熱意に応えたい」として 「日本精神」をテーマに講演のため日本への渡航査証申請、と(朝日)。「若い人たちの熱意に応えたい」と 宣ふが親日台湾ロビーの金美齢女史暗躍どころか公躍し慶應の「若い人たち」など利用されているだけ。それにしても不憫は李前総統。台湾民主化の父、この 「日本精神」はけして保守反動右翼の日本精神に非ず近代の自立した個としての旧制日本の福澤先生から美濃部博士、西田幾太郎先生までの岩波的日本の教養主 義にてキョービの日本に呆れ喝を入れたき気持ち解らぬでもないがキョービの日本ではただ利用されるばかり。この「若い人たち」十年後、民主党代議士か。
▼憂国都知事石原某、北朝鮮拉致被害者家族の呼び寄せについて「(拉致被害者の)子供を一人でも迫害した り、病気と称して殺したりなんかしたら指弾の対象になる」「そういう国と日本は堂々と戦争したっていい」と(朝日)。 この人の言論の本意は真意にあらずウケ狙いであること。敵の存在なくしては自己確立ができぬ故、敢えて敵を作る。戦争になどならぬと確信しての意図的暴 言。ブッシュを引きあいに出す迄もなく反テロ、国家安全と叫ぶ者ほど実はテロを必要とするもの。石原某、自らは「都民である」在日外国籍「市民」を迫害し つつ自らが指弾の対象となることを持て囃されることと錯覚し悦に浸る愚か者なり。
▼日々狂わんばかりの現実に『信報』一読することにて涼を得どうにか狂うこと避け日々を送る如し。香港の知 性、民主党党首李柱銘君論説にて曰く基本法23条立法化にて問題点は保安局長葉劉淑儀なり律政司梁愛詩なり23条立法化について「中央政府との共識を達 成」だの「23条は国家の安全を維持するためのものであるから我々(香港政府)は中央に諮詢」だのと宣ふ がそもそもの問題は李柱銘君曰く「香港特別行政区に立法権があり」(第17条)「香港特区立法会は基本法 の規定に基づき法律制定をする」(第73条)のであり香港特区の立法権は立法会に属することは明白、それ は特区政府と中央政府のいずれに非ず、「中央政府との共識を達成」だの「中央に諮詢」といふが香港特区にて立法会にて可決され立法化された法令を審査する 権限のある北京政府にて唯一の機関は全国人民大会常務委員会であり(第17条)梁愛詩の指す中央政府に非 ず、最も重要なることはこの審査権の行使は立法会にて法令が制訂された後であり立法化の前にその審査権なし。中央政府と全人代常務委員会、香港特区と香港 特区政府すら混沌とした認識である梁愛詩や香港政府は彼らの最も重要は職務が一国両制下にて立法権を含む香港の高度な自治を擁護することであることを理解 しておらず、と。御意。この23条立法化にて不思議なることは、といふよりも97年以降の香港の興味深き点は中央政府の施政に非ず香港特区自らの北京中央 に対する従順さにて葉劉淑儀にしても梁愛詩にしても英国政府下にはそれに従い北京となれば北京に靡く様これを奴隷根性と云ふ。然りとて李柱銘君の指摘は正 論なれどある面では梁愛詩の認識は正しくもあり北京政府なるもの政府中央と全人大常委など組織の看板こそ異なれ中身は党中央そのものにて三権分立も行政と 立法の分別もなき<政権>と思えば法律にていくら定めようと感覚すでに法規超越すること明らかにて「言っても聞かぬ」か(嘆)
▼李柱銘君といへば何故に日本の政界にこの御仁の如き政客現われぬか。ロンドンにて法律を学び香港を代表す る弁護士となり左右両派よりの信任厚く中英合意以降は香港基本法制定の諮詢委員まで務めるが天安門事件での北京政府の人民弾圧に抗議し支聯会に属し民主党 結成し今日に到るが日本に彼の如き論の立つ保守反動も一目置かざるを得ぬ中道左派の政客はおらず。香港にては中英合意、天安門事件、香港返還といふ経緯の 中で政治が人々の生活を徹底的に支配する岐路に立たされ、その中でかういふ政客が現われるに到ったが、結局のところ日本にてはさういつた岐路とて終戦とて 国体護持され市井の営みは何も変わらず日米安保とて騒いだだけ、本当の岐路もなし、ただ「アメリカの傘の下、夢も見ました、民を見捨てた戦争の果てに」と 桑田佳祐は謳ったが、まさにアメリカの傘の下、夢を見続け今日に到った、だけか。
▼それでも日本がまだマシは首相の愚息が政治権力に溺れず芸能に溺れただけで済んだだけせめてもの救国とい ふこと。韓国にては大統領金大中君の愚息37億ウォンの収賄と脱税にて懲役二年執行猶予三年追徴金2億ウォンの一審判決。これは次男にて長男は同罪にて懲 役三年六カ月追徴金5億ウォン。なんだこれは。独裁政権に対する民主主義運動にて生死を徘徊い死刑判決から復活して民主化を遂げた韓国にて元首になった男 の息子二人がこれである。儒教の仁だの義だのとは何処へ。それでも韓国がまだマシなのは国家領袖たる親の地位利用した利権に絡む愚息が逮捕されるだけ太子 党のさばる中国よりまだマシである、といふことか。呆れてモノもいえぬ東アジアの儒教国家三国なり。
▼富柏村ついに2chに登場す(怖)。「復活!! 香港オタクを藁う会」といふスレッドながら因に「藁(わら)う」は誤字にて「嗤う」が正しいので は?
452 :異邦人さん :02/09/09 19:39 ID:zqopfpq4
       すみません、451さんのとおりです。449さん、「香港通信」、いやあ、懐かしい
       ですね。確かに体当たり取材は評価します。名物編集長の吉田氏もよかっ
       たです。あの人、以外とおとなしい人でした。これは、私の意見ではありませんが
       連載していた富柏村なるペンネームの日本人が、bbsやっているひとを愚弄
       していた文が掲載された時、頭にきた、殴ってやる、といったクレームが編集部に
       殺到したことがありました。吉田氏も頭かかえていました。
と。そういふこともあつたと回想し余も事の詳細経緯忘却の彼方にて富柏村ゑぶさひとより原典紐解けば「ハバ タク女とハネオル男の諸相」なる文章にて一読すれば明白、「bbsやっているひとを愚弄」に非ず香港にて活躍する日本人女性に比べ萎えた男を揶揄 するが主題……ながら確かに当時ニフティサーブなど繋いでいた方はかなり罵詈されたと思っても当然か。編集長の吉田氏より「実際に深センにそういう人がい てかなり怒っている」と聞かされし。当時のパソ通は現世の2chの如き罵倒性なく管理人さん中心に和気靄々とした「閉じた」世界にて其処に籠る男たちの不 甲斐なさありやなしやと感じた次第。いずれにせよ富柏村曰く「1ドルの得にもならないのに」「インターネットで香港情報を提供する」「いいんですよ趣味な んですから……」「インターネットでもう完全にイッてしまった」といふ当時富柏村に罵られし者はまさに今日の余の姿なり。それに免じて当時の暴言を赦され たし。
▼日本の知性、岩波書店、『インターネット術語集2―サイバーリテラシーを身につけるために』矢野直明著な る新書上梓し「ネット社会を自律的に渡っていくための知識が満載」と。ネット社会に遊ぶ輩、けしてこんな本など読まず、この本のサイバーリテラシーなど会 得したつもりにて2chなどに入り込めば途端に罵倒され去るを得ず。

 無名こそ貫きとほす霜柱 松根久雄(和歌山新宮の俳人)

十一月十一日(月)北角の波止場近くに毎朝早く新聞を購う小店あり。丁度、七月の終わり余がこの界隈 にて新聞購ふやうになつた頃に開店した店にて四十ほどの実直なる夫婦営み新聞雑誌の他、煙草、飴など売るのみ。いつも朝早き働き者今朝珍しく店主丁度店開 けるところ店を見回すと新聞など一つもなし。さては寝坊して仕入も間に合わずかと思えば新聞雑誌の類は「ない」と言われ今朝はないのかと思えば「もう売ら ない」と。ふと店の看板みれば○記といふ屋号の後ろにあつた「報誌店」といふ文字に赤い布掛けてあり。店主のどこか悲しげな疲れきったやうな表情から合点 ゆく。いわゆる黒社会=暴力団が縄張りの店に要求する保養費の支払いを拒否でもしたのか闇煙草仕入れ正規の値段か多少安くでも売ってそれが闇煙草売りを生 業?とする組に睨まれでもしたか、附近の同業に邪険にされたか、いずれにしても新聞雑誌の問屋からの卸し中断され、日銭商売のかういつた店には新聞売れぬ は打撃甚大。もう路頭に迷へと宣告されたようなもの。保養費も売上げ多き路上の店ならば家賃を払っているわけでもなく保険と思えば路上にて紛争も少なから ず何かあればその組織すぐに飛んできて相手方との争い事に威嚇するなり脅すなりで解決してくれようものの、それでなくとも北角の公共住宅は取壊しで附近に 住民など殆どおらず波止場近くでもフェリーの客など海底隧道巴士に客奪われ閑散、そのような場所でこれではもはや生業にもならぬ店では保養費など捻出も難 し。街頭に面した店、開業して間もなく突然、店の看板に赤布掛けてあるは「海鮮」の二文字が隠されれば海鮮の卸し閉ざされ、報紙の二文字なら新聞売れず、 按摩指圧のうち按摩隠されれば按摩営業できず、と様々な営業妨害あり。いずれにせよ黒社会とて政治家官僚ほど利権のみにて安泰するものに非ず、保養費徴収 する海鮮料理屋より近所に真相開店の同業があっては商売にならずそれの苦情あれば新装開店の店を威嚇せざるを得ず。そこで両店より保養費得るほどの仁義な きことはせず。新聞売りスタンド、按摩とて同じこと。然れどそのような零細の店にて毎朝決まって新聞三紙も購入しておれば自然と馴染みとなり二言三言言葉 交すようになれば情もありやるせなき思ひ。十月の日記にて網上した写真にて人民英雄記念碑と天安門の二葉に指紋あり、と某君より指摘あり(笑)。写真の扱いの悪さも然ることながら指紋公開といふ前代未聞の失態に写真を指紋なしの更に高画質に変えて再上 する。
▼ウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任して始めての公演を終えた小澤征爾が生で中継出演とNHKのニュース 10。まず司会アナの「ウィーンフィルのニューイヤーコンサートが大盛況」という導入のコメントに「ありがとうございます」とか「とても亢奮しました」で いいものを小澤は団員は一緒だが「ここで歌劇の演奏をすれば歌劇場の楽団で外に行ってコンサートをすればウィーンフィル」とこの国立歌劇場の音楽監督と ウィーンフィルの常任指揮者の違いもわからないアナウンサーに説明。日本人にはウィーンフィルのニューイヤーコンサートばかりが印象にありるわけだが小沢 にしてみたら自分はウィーンのこの小屋でオペラを振る、といふそれが徹底した関心であり意気込みなわけでニューイヤーコンサートは確かにこの歌劇場であり ながらウィーンフィルという名で演奏会が行われるのは事実だがオペラのないこの小屋でのコンサートなど本人には年末年始の余興にすぎず。それがケニーGと この小澤のニューイヤーコンサートのCDが一緒に並んでいる一般人には理解できず。小澤はしきりにこの歌劇場を自分が五年任されたことの抱負を語りたいの に、小澤との共通言語なき司会アナは「このウィーンで日本人が、アジア人がオケを率いること……」とまた全くボケた質問。小澤は確かに西洋の音楽だが優秀 な演奏家はアジアにもたくさん生まれているわけでモーツアルトは確かにザルツブルグに生まれそこに育ったがモーツアルトは世界の人全てのためにあるわけで 世界の音楽であって別にアジア人でも日本人でも、と実に爽快なるコメント。御意。この相手を納得させてしまふところが同じ天才でも長嶋と小澤の違いなのだ が、小澤が言いたいのは音楽の普遍性(あ、長嶋も言いたいことは野球の、スポーツの普遍性か……笑)。そ れが全くわからず今井某なる男性アナは狼狽し言葉失ふが咄嗟に森田嬢?が強引にも「小澤さんはアジア人として日本人としてぜひウィーンで頑張りたいと」み たいな「だからそーじゃなくて」と反論したい無理矢理なまとめ。小澤は「僕はウィーンだけじゃなくて斉藤記念も新日本フィルも水戸も、若手音楽家を育てる 塾もやってる。その全てが僕にとって勉強でそれを楽団員にぶつけて彼らもすばらしいものを創る。それの繰り返しがあるだけ。このウィーンだって9月の始め にシーズン開幕するわけだけど僕には9月の始めにはもう5年も松本で斉藤記念があるからここにはいない。それでも……と言いかけて「こういうところであん まり難しい話してもね」と小澤。話は単純なことで小澤にとっては音楽を真剣にやる集団があればどこでもいいのであって、ウィーンは自分がこれまで「そこま で」勉強したことのない歌劇の少なくても世界一の歌劇団であって、そこで小澤の好きな言葉だが「勉強できる」、その感激と意欲がある、だけのこと。それが 偶然に欧州にありウィーンにある、自分が偶然に日本人の顔をして日本食を食べるだけのこと。それを「日本人として」みたいな質問は結局、小澤がスクーター に日の丸の旗をつけて欧州に旅立った『僕の音楽武者修業』の時から小澤は成長しても、それを期待するNHK=日本のまなざしが成長しておらぬ証拠。
▼テレビのニュースにて斡旋収賄は「あっせん」収賄と書く。何故に斡旋は平仮名で収賄は漢字か。斡旋の 「斡」といふ字がこの斡旋といふ言葉ででしか扱われぬマイナーな当用漢字外のため、か。収賄の「賄」は収賄の他、贈賄、賄賂と永田町界隈にて使用頻度高い がために漢字が残る。あっ旋収賄と書かれるよかまだマシか。
▼中国の第16回党大会にて中国の根本理念としてマルクスレーニン主義、毛沢東思想、登β小平理論、三個代 表理論の4つの提唱が確認される。マルクスレーニンのは主義だが毛沢東は思想であり登β小平は理論、つまりマルクスレーニンの提唱した共産主義思想を土台 に毛沢東の革命により建国し、その国の現代の具体的な運営が登β小平の中国の特色ある社会主義といふ理論である、と、ここまでは良い。が、問題は江沢民の 宣ふ「中国共産党は先進生産力、先進文化、広大なる人民利益を代表する」といふこの「三個代表」の何処に理論性があるのか理解できず。それを江沢民理論と しなかっただけまだマシかもしれぬが、少なくとも登β小平理論と同格に「理論」としては先達に失礼極まりなし。また中国共産党は「中国労働者階級を統率す る」「中国の全ての人民と民族を統率する」といふ二大根幹がある、と。資本家の入党問題があり、それへの批判かわしでまず労働者階級の党であり「だけど」 全ての人民の党である=だから資本家もね、って、そういう屁理屈。こんなこと討議……そんなものされぬ、この茶番のシャンシャン大会開催しているとは少な くても与党政府への非難が公言できる日本の国会などと比べても甚だお粗末。それにしても最も不思議なことは4日の日剩にも綴ったがこの全国人民代表大会に 先だって開催された7中全会(中国共産党第15期中央委員会第七回全体会議)、この党の中央委員会の会議で実は(憲法上なんの権限もないのに)国家の重要 案件が全て決まってしまふといふこと。まぁ日本とて自民党党三役の会合がこの○中全会のようなもので、茶飲みで終わってしまふよりまだ会議の形式をとって いるだけマシか。
▼香港中文大学のInternational Asian Studies Programmeという組織(90年当時ここで1年研修を受けたことあり)より感謝祭のパーティの招待状届く。少なくとも国家、民族を越えた世 界宗教の一つである基督教の聖誕祭だのイースターだのならまだ異教徒にまで祝祭を強いるのも千歩譲ってわかるが何故に感謝祭を祝うか理解できず。感謝祭は インディアンを征伐しつつ「開拓」した国家・合州国の祝日にて何故に香港「中文」大学の一組織がこのプログラムに米国籍の学生多いことは理解できるがそれ を行事とするか理解できず。1621年にメイフラワー号にて「新」大陸に移住した英国系の分離派清教徒たちPilgrim Fathersらが初めての収穫を祝い神に感謝して「三日間続いた祭典にはインディアンも招かれご馳走が出された」(平 凡社世界大百科)そうだが、たかだか三日のご馳走でアメリカ原住民から搾取された土地と人命は免罪されまひ。1789年にワシントン大統領 により法定祝日とされリンカン大統領の時に11月最終木曜となったがニューディール期にローズベルト大統領は「クリスマス前の買物景気を煽るため1週間繰 り上げを行った」と!、それの何処が清貧を尊ぶ清教徒の祝祭か……。1941年より11月第四木曜と定着。
▼最近よく銅鑼灣など繁華街で乳飲み子だの可愛らしい幼児を連れた物乞い多くさすがに不憫と思えば蘋果日報 によると主に湖南省より出稼ぎ乞食のプロ集団あり銅鑼灣などで物乞い、正規の旅行許可にて香港に入境、許可ギリギリの数週間物乞いすれば収入は日に数百ド ルあり結構な収入。物陰から見張る「天文台」と呼ばれる係がおり警察などが来ると物乞いに近づき指示、すぐに姿を消す、と。この天文台、実は仲間うちで現 金収入をちょろまかすのも見張っているのだろう。シビアな世界。
▼合州国の中間選挙。唯一の希望的観測は今回の改選が東海岸北部や西海岸といった民主党の強い地区=都会が 非改選のため中南部の田舎=保守王国(日本はこの図式は崩れてきており寧ろ首都が保守極右だ)にて共和党が圧勝ということ。

十一月十日(日)快晴。朝起きれば九時。昨朝六時に寝て午前十一時に一旦置き午後一時より四時まで寝 て夜も十時には床に就き昨朝より廿七時間中かれこれ十九時間睡眠。競馬予想。晝にかけて康柏徑よりSir Secil Rideにかけて往復10kmのトレイルコースを走る。今季最もよい走り具合。さすがに100kmトレイルにて爽快に走る輩を見て己も奮起したか。帰宅し て競馬すでに始まっているが観戦はR7からと決め馬券のみ購入して拙宅の修繕。壊れた珈琲沸し交換のため購入。すでに競馬場行き電車なく火炭站より歩くも けったるく沙田より的士。会員席入口にて新聞記者などに取り囲まれた御仁あり眺めればファッションデザイナーといふより今では名随筆家である William登β達智君にて久しぶりの邂逅ながら取材中にて目礼にて辞す。本日のR8(芝1600m)はThe Ladies' Purse Cupにて一番人気は北金烈馬(洲/韋達)、二番人気が多利高(伍/史科菲)で掌門(愛/馬偉昌)が続く。多利高は馬主C氏曰く本調子に向っており期待高 く前走の時計も好し。馬主C氏に先週水曜快活谷での好高利の快勝で「日曜日は多利高で口取り」と宣言され「ちょっと無理か」と思ったが調教もよく騎手が李 格力君より史科菲君になったことでの期待も高い。北金烈馬は五月より沙田の1600mを韋達騎乗で目下三連勝中にて手強いが不気味な存在は掌門 Housemaster。馬主榮智健がOriental Expressの後継馬として購入し鳴物入りで来港した優等馬ながら2000年5月のCharter Cupにて原居民制えて栄冠を勝ち取った僅か一勝のみで勝星に恵まれず三着入賞すらないまま十一連敗中。それでも名駒は名駒として扱われratingも十 一連敗未入賞でも120から100までしか落ちぬ不思議。馬主が中信泰富の榮智健にて馬會董事ともなると馬も優遇か(嗤)。多利高三〜四着につけて第四 コーナーをまわり直線で抜け出し勝利の女神が微笑んだかと思った瞬間、掌門の追上げ。懸命に多利高も踏張るがここは憎たらしいが名駒は名駒。いざという時 の瞬発力の違いマザマザと見せつけられ僅かに刺されたかのよう。気がつくと最後の直線で勝ちを得たと信じゴール前にむけてすでに階段を下りかけていた我、 C氏の知人らと遇い「獲れたか、刺されたか」と思案していると掲示板のモニタは掌門を映しており鼻差で多利高は二着となる。無念。多利高は最高のレースを したが実力では限界、そこを掌門が勝ちを浚ったかのよう。思い返せば昨年のダービーも多利高三着と善戦したが一着は榮智健氏がこの掌門の不出来により次な るOriental Expressの後継馬として購ったOlympic Expressが優勝。つねにC氏の前に榮智健が立ち塞がるかの如し。多利高惜しくも二着ながら健闘は事実。香港国際レース日の参戦も昨年は掌門が七戦未 勝のrating100にて香港Cupに出ており香港マイルなら多利高、夢ではなし。最終レースにて經典名駒、心願、百凌、上風、小飛象の五頭より絞りき れず珍しく單T(三連複)HK$100とすると堅い結果となったが心願、小飛象、經典名駒が入ってHK$415。しかも百凌、上風と四、五着となり五頭で 五着まで的中の快挙。馬券にならぬが一応の成果と記しておこう。KCRでHung Hom、的士でQuarry Bay、Z嬢とEast Endで一飲しMother Indian Restaurantにて晩餐。帰宅して拙宅の電気関係とタイルの修繕少々。橋本治『三島由紀夫とはなにものだったのか』途中で放ってあり再読。

十一月九日(土)晝前に一旦目覚めれば窓外は本来は春に目立つ熱帯特有の靄がかった晴天。疲労困憊に てとても外出する気になれず朝とも昼ともつかぬ餉食し昨日の日記綴りバーボン一酌すれば亦た睡魔に襲われ夕方まで睡る。銅鑼湾の眼鏡店にて誂えし眼鏡受取 り。帰宅して会津若松の鬼羅飲みおでん。NHK土曜特集にて「日中友好芸能フェスティバル」なる演芸大会見れば中国の首都さへ知らぬ顔のわけのわからぬア イドル芸人の歌謡、「日本の歌舞伎界を代表する女形」と紹介され大和屋か京屋か或は扇千景の関係にて鴈治郎かと思えば市川笑也が昆劇をあちらの俳優と踊 り、当然の事ながら憂国歌手谷村新司など在り余には日中友好の趣旨理解できず気分転換にビデオにてSMAPの楽屋訪問にて香取真吾君演じる窪塚洋介見て涙 ながさんばかりに笑わされる。荷風日記読む。
▼今期の中共第16回党大会、全てが江沢民の指導擁護する報告ばかりがお膳立てされるが本来今回最も討議さ れるべき資本家の入党資格の有無については公開では議論されておらず。登β小平の「中国の特色ある社会主義」はまだ理解できるが資本家が重要なる位置にあ る共産党といふもの超現実的すぎて余の乏しき知性では理解できず。なんでも江沢民宣うところの「中国共産党は先進生産力、先進文化、広大なる人民利益を代 表する」といふ「三個代表」思想(このプロパガンダのどこに思想性があるのか理解できず)の中で「資本家も「広大なる人民利益」の一つとして含むのかどう か」といふ点に争議性あり、と。いずれにせよ、この「世界一の茶番」理解に能わず

十一月八日(金)Trailwalker2002開催。昨年まで二年続けた参加、今年は同じランニン グクラブの精鋭四名が山々を100km16時間という記録に挑みその西貢北譚涌の始発より屯門の終点までのフルサポートに付く。北譚涌を午前10時に出て 到着目標は九日未明の午前二時を予定。朝七時すぎ北角の集合場所に的士から下りると娘を学校巴士に見送る親子ありふと顔を見れば料理評論家の William Mark(唯霊)氏で朝のご挨拶。十一月とは思えぬ好天といへば好天ながら暑さ厳しく陽射しはじりじりと肌を刺すなか午前10時にTrailwalker 始まる。二年も続けると始点発つ参加者ら眺めながら少なからず参加したき心地。その16時間チームに旦那参加するA嬢(其 一)と共にチームが3時間40分後に通過予定の25km地点、一般車乗入れ禁止の北譚凹に丁度来た巴士にて向ふ。先頭チームは2時間40分 にて到達、アリゾナ砂漠の耐久レースにて鍛えたような米国の4名にてこの手程度の暑さなど秋之好天の如し。チーム到着まで木陰に寛ぐ。チーム暑さに多少バ テ軽い熱中症も見られたが予定より20分早く通過し的士にて北譚涌に戻り何年ぶりかで香港にて参加するN君の自動車運転し次の水浪窩へ。脚を痙るなどこの 日、山路より下りてくるメンバーを撮影せんと待っても陽が肌を灼き涼を期待していたメンバーには厳しかろう。送出し西貢にて飲料など調達。久しぶりに「赤 い缶」のコカコーラなど飲む。もう一つの参加チームサポートするガッツT嬢より電話あり自動車に彼女らのポット積みっぱなしと。すでに牛池湾まで出ており 大老山隧道潜り馬鞍山経由にて北浪窩に戻り尖沙咀はFor Season Hotelにてサポートに入るA嬢(其二)拾い大埔公路に入るに深水歩附近にて進入路わか らず迂回ののち大埔公路は金山。日暮れ。40分送れにて大老山のCP-4通過と連絡あり待つが獅子山附近にて故障者あり脚痙ひどくBeacon Hillのチェックポイントまで上るも困難と通報あり。応急手当など受けるがこれ以上の縦走困難と結論出て故障者其処に置いて残り3名にて縦走継続。金山 にT嬢、A嬢残り独りBeacon Hillの中継地点へと向ふ。Beacon Hill、香港の無線中継の要所にて曾てBBCの放送はこの山より香港、中国、東アジア全域へと流れし場所。遠き日本において30年近く前に短波ラジオ傍 受していた頃を思い出す。頂上の中継所にて故障したメンバー拾ふ。さすがに夜ともなれば寒きこの山の頂上にて夜を徹し駐在し参加者の扶助に当るボランティ ア職員の厚意。4号幹線龍翔道に苦戦しかなり右往左往しつつ金山に戻り夜も更けA嬢(其二)長沙湾の MTR站に落としチームメンバーらが今晩投宿するゴール近くのGold Coast Hotel。A嬢(其一)宿泊手続の間、車寄せを外し駐車していたら中古ベンツ運転する初老 のガイジンがぶつぶつと言い何かと思えば「ここに駐車するな」と。周囲には運転手もおらぬ車放置されホテル側もそれを制御せず。すぐに出かけるためこうし て運転する者が残り宿泊の登記中でありこの附近に不法駐車する車とは異なる、と説明するが、その男は自らがホテルのマネージャーであると名乗り威圧的に 「いいか、俺が5分後に戻るからそれまでにズラかれ」とホテル従業員とは思えぬ口調に唖然。映画「理由なき反抗」の頃の殺伐とした(いまでもそうだが)米 国の田舎町にて「共産主義とニグロ」を忌み嫌っていそうな、見るからに野暮で愚鈍そうな男。暴漢の如し。因に翌日ホテルに電話し確認する副支配人曰くここ 二年ほど毛唐のマネージャー雇っておらず、と。恐らくは正面玄関横にある酒場に飲みに来た田舎漢にて自らが駐車する場所がなく一時停車中の車は我らのみに て罵詈と察す。天誅授かるべき輩なり。深夜零時近くなり大帽山。チームは予定より二時間以上遅れつつも三人にて歩行続けるが疲労甚だし、と。深夜にもかか わらず寒さも厳しきところランニングクラブの面々十名ほど集まり到着を待ちつつ談義。午前二時半すぎにメンバー到着するが疲労極めて厳重にてこの78km 地点にての終了を決定。シャンペンにて乾杯し打上げ。Z嬢とメンバー及びA嬢(其一)を黄金海岸酒店に送 り的士にて朝五時帰宅。
▼チェチェン武装勢力によるモスクワ劇場占拠にて当局は人質の殺害始まり止むなく突入したという公式見解に 対し人質二人が武装勢力が処刑などを始める緊迫した雰囲気にはなかったと証言(朝日)。この突入とテロ殺 害が全面的に特殊部隊=官憲により演出された作戦か。武装集団41名のうち半数近くの女性が戦争で夫を亡くした妻だ、と朝日伝えるが「19人は伯母を含む 戦争で夫を亡くした妻だった」とはなんのこっちゃ、記者の作文能力の低下甚だしき上に校正すら出来る日本語の乱れ酷し。

十一月七日(木)快晴。畏友M君と黄昏に深水歩。携帯のSIMカード2枚装着するためのパーツ購ふ。 一つの携帯に香港と中国夫々のSIMカード装備する為なり。曾て真空管アンプだの電脳軟件高価なおり偽品購入のため何度か訪れた此の地もここ数年訪れぬ間 にすっかり店々も垢抜けし何よりも商品の種類も増えたれば漫ろ歩き店を冷かすもまた楽し。晩にY社長、佐敦夫人、Z嬢と北角の寿司加藤。
▼米国、中間選挙にて共和党大勝。「テロとの戦争を通じて指導者としての地位を確立したブッシュ大統領の個 人人気」(朝日)というのは真実はチョムスキー先生的にいえば「テロとの戦争を口実にテロ国家指導者とし ての地位を確立したブッシュ大統領の個人人気と国民の盲信」だろうが。「過去35回の中間選挙で大統領の与党が下院で議席を伸ばしたことは(略)2回しか なく、いずれも民主党」であり「ブッシュ陣営は「歴史的勝利」と位置付けている」というがこれは明らかに正しい。もう世界は完全に終わりだ、といふことが 明らかになってゆく。田舎漢の石油成金である粗忽なブッシュじたいはどうでもよし、ただ二年後で米国国民が「まだ」ブッシュを支持し再選させたら、もうお 終い、なり。
▼週刊新潮、白井佳夫(映画評論家)による「没後4年「淀 川長治さん」のタブー「ホモ人生」の真実」という暴露記事(笑)。『キネマ旬報』元編集長にて淀川先生の 『淀川長治、黒沢明を語る。』(河出書房新社)なる本には「おすぎ」らと共著者でもある白井佳夫もここま で墜ちたか。仮に「ホモとして有名だった淀川先生が実は女好きで隠し子がいて妾までいた」なら大スクープだが(笑)。…… としたら出版界事情にも精通するH君より内容は不可解なことに結論はなんと「ホモ説否定」と(難)。いま さら?、この時期になぜ?……「著名人と淀川先生のゴシップが流出する動き」あり、しかも「週刊新潮に載るということは新潮社から本を出してる?」で先手 を打ったのかもとH君憶測。
▼昨日、竹中平蔵の「改革」を「90%の日本人は痛い目にしか合わぬのに、ただそれを呆然と眺めている」と 綴ったらH君曰く「傍観しているのではなく、むしろ支持しておる」と。「竹中さんや小泉さんがせっかく改革を進めようとしているのに銀行屋や守旧勢力が私 利私欲のために妨害している」とか。自民党守旧勢力、小泉によりすっかり悪者にされたが野中広務、亀井静香、古賀勝、小林コーキ……といつた曾ての三木武 吉(三木武夫に非ず……といっても三木武夫すら知らぬか、若者は)、大野伴睦といった「党人肌」の如き悪 相なる顔みただけで小泉、福田某、安倍某、町村某だのといった薄っぺらな二代目(三代目?)政治家とは段 違いの深みを感じ入るもの、とH君。「いわんや(丸山真男が新鮮な!)松下政経塾から民主党に集まった「若手政治家」は論外の外」、御意。亀井「強面」静 香は住基ネット反対の集会に出席し「人間に番号をつけて管理することは尊厳を奪うことであり絶対にゆるせない」と発言。これに対して「改革派」のいうよう な「IT時代に対応して電子政府を進めるために住基ネットは必要不可欠」などというコトバのいかに浅薄で無内容なことか、とH君。然り。

十一月六日(水)快晴。昨晩遅く吉野俊彦『断腸亭の経 済学』読了。著者は千葉生まれながら東大、日銀調査局長まで務めた経済家でしかも森鴎外や荷風の研究家。曾ては財界とて「昨今の吉右衛門君の舞台 は」などと劇評、謡曲やオペラなど趣味人多きものながらゴルフが全ての文化を駆逐したか。吉野氏は東京人にて、それが身に染みつきすぎているからか荷風の 日記が戦後一行日記になってゆくなかで「晝淺草。大黒屋にて晩餐」といふ記述を「不思議に思うだろうが」「大黒屋は市川の荷風の住処の近所」というような 注釈をつけているが「不思議に思うだろうが」というのが、それだけじゃ何が不思議なのかわからぬ者多し。「大黒屋といっても浅草の雷門の大黒屋ではない」 「晝に浅草に行ってずっと徘徊して夜となり大黒屋なんじゃなくて、さっさと市川に帰って近所で晩飯ということ」と書かないかぎり「大黒屋といえば浅草」と いう印象なき「田舎の」人々には理解できぬこと。でも東京人たる氏はそういう観念なくさらりと書いているのが、それが東京文化。吉野氏曰く日記といふもの は鴎外も荷風も晩年は一日が一行になっていく、と。あたしゃまだ大丈夫か(笑)。ContaxのG1購っ てより写真撮影始め白黒写真の露出もよくわからずながら或る人に写真なかなか好しと讃められ調子に乗り写真二葉、日剩10 月24日のあたりに上網。センチメンタルに物語などつける。晩に二日続け佐敦に赴き、ふと大家樂にて独り食事せんと発案。昨今香港に於ても日本のハンバーガー だの牛丼と同じくファーストフードだのコンビニの類が熾烈なる低価格競争繰り広げセブンイレブンHK$10にて弁当売り出せば大家樂などHK$13だかで 飯と湯に食後の飲み物までつけるほどにて、日頃卑下するファーストフードの類食すことかなり稀にて大家樂など七、八年ぶりか。しかも大家樂の旗艦店なる佐 敦道呉松街交差点の店にてHK$10の弁当だのHK$13の餐飯(セットメニュー)は晝時のみ、夜はさすがに値段が漲るが、それでもHK$25にてぶっ掛 け飯に凍檸茶つき。夜メニューは「鍋」が売出しらしく、わずかHK$45ほどで牛肉、野菜たっぷりの鍋が、しかも出来合いに非ず素材の具が皿に盛られ簡易 コンロのきちんとした鍋セットに火を点し鍋するはかなり本格的。価格破壊のなかでの盡力に共感しつつぶっ掛け飯といへば科学調味料に甘味使いすぎ当然のこ とながら素材の味など微塵も非ず餌の如し。三更臥して荷風『断腸亭日剩』昭和12年冬の頃を久々に読み始む。
▼中国の一党独裁など揶揄するまえにふと思えば日本とて曾てのソ連の如く自民党支配の下、国家機関と党組織 がずるずるべったりに癒合、と築地のH君。人材も結局その枠組みのなかの「改革派」という形でしか出てこれない。もしくはその亜流ということ以外にカラー の見出せぬ民主党。竹中平蔵の「改革」とか90%の日本人は痛い目にしか合わぬのに、ただそれを呆然と眺めている現実。何をどうしたいのか、まったく見え ぬ国家の実態恐ろしきばかりなり。
▼築地H君、某愛国紙に「ザ・フォーク・クルセダーズの再結成」の記事あり「加藤和彦と北山修が「昨秋、あ るコンサートの帰りに飲みながら」「再燃」で「作り手も聞き手も楽しみ、明日に勇気がわく音楽活動をしよう」ということになり(なんかちょっと民主党っぽい……笑)「あと一人は僕たちよりもフォークルに詳しい坂崎君しかいないと、僕が電話を しました」(加藤和彦)、と。「さすが業界の便利屋・坂崎幸之助は引っ張りだこ」だが「僕たち」にはしだ のりひこは存在せず。「あと一人」をはしだにするか坂崎にするかの選択(身長は同じくらいか?)なら実用 重視で坂崎をとるのも当然なんかも知れぬが、そもそも「僕たち」というところにはしだは最初から入っておらぬやう、とH君。作詞・北山、作曲・加藤で、ふ つうこういうケースでは両雄並びたたずで加藤×北山の間で「俺のバンドだ」的な争いが生じ、第3勢力をとりこんで多数派工作(といっても2対1になるしか ないが)に走るものだがフォークルの場合はしだは完全に枠外。はしだ先生が党に近いことが要因か?。再結成といえばオリジナルメンバーが入らぬ場合ふつう 「なお森本太郎は、慶応高校の古典の教師をしているため今回の再結成には不参加」とかいないならいないで何らかの説明があるでしょうが、とH君。フォーク ルは北山・加藤の二人組だったかのような歴史の偽造が行われ、スターリン主義的偏向の故にはしだの存在は抹消された?、のか。……なんてフォーク、左翼の 話題出しても今の若い人にはわからないのだろうなぁ。
▼北京、第16回党大会開催にあたり天安門広場に椰 子の樹まで飾る。本日の最低気温四度なり。南国の樹木には甚だ辛き寒さなり。天安門に飾られる偉大なる毛主席の肖像への眺め遮る装飾にて不敬に当らぬか。 天安門広場、無駄な装飾なきことが既存の<象徴>を美しく見せると余は思ふが如何に。富士に月見草似合っても天安門に椰子は似合わず。されどこれ北京政府 の支配は果てなる南国海南島、いや厳密には中国政府の主張通せば越南より以南に位置する!南 沙群島まで中国領土にて、その国家の広大さを象徴する演出か(笑)。

十一月五日(火)秋日和。豪州メルボルンカップ。1Vinnie Roe、9Pugin(Dettori)に14Media Puzzle(Oliver)にて連複。毎年メルボルンカップは秋、豪州にとっては初夏のこの時期、決まって平日に開催。競馬場には紳士淑女派手な正装に て集い100万人が馬券購入するといふ国民的競馬行事であり、どうせなら週末に開催を、と思うは野暮。週末は多忙にて競馬などに集中できず。国民的行事で あるから勤務中だろうが皆で声援を送れるといふのが豪州の感性か。結果、Mediaは順当ながら二着にHatha Anna、ゴドルフィン3頭出走のうちDettoriのPugin入らず(悔)Beekeeperが三着。日暮れて快活谷競馬場。佐敦にて薮用あり馬券購 入しR1のみ観戦し佐敦。22:15よりのR9に馬主C氏のDashing Champion、前走は初陣にて一着となったが進路妨害とられ二着に降位。本日、その屈辱戦にて観戦せぬわけにいかず21:30に薮用お終い35分に灣 仔大丸行きの小巴に飛乗り銅鑼灣Excelsior Hotel前にて的士に乗換え競馬場に戻ったは21:50分。わずか15分にて佐敦より快活谷に到着する香港の便利さ極まりなし。このレース、公益盃なる 冠レースにて一番人気は東方明珠(Size/Dye)、DCは6.5倍の二番人気。騎手李格力君、馬との折合いの悪さはいつものことながら汚名返上と二番 手につけ最後直線にて実力ありありと見せつけて見事勝利。東方明珠、鼻血にて殿(しんがり)。C氏夫妻、 李格力君喜び至極。口取りに誘われるが恥ずかしくご辞退。週末の婦女銀袋盃には前走三着と復調の兆しあるDashing Champion参戦とのことでお誘い受ける。
▼82歳になる京屋、今月は歌舞伎座にて八重垣姫を好演、去る九月が八ツ橋だったが築地の粋人H君によると 正月は団十郎の助六で揚巻だそうな。この破竹の勢いでは四月の中村会で道成寺?、そうなると来年1年で政岡、玉手御前、「吉野川」の定高に「関の戸」の墨 染桜の精…くらいはやってしまうのでは、とH君。これに阿古屋でも入れば完全制覇だがさすがに、かなぁ。戦時中は軍隊にてトラック運転手をしていたといふ 京屋、レイバンのサングラスで革ジャン、バイクにまたがりの楽屋入りも粋だったが10年ほど前の「雀右衛門の会」など見てもどこか亜流のところあり、大成 駒亡きあと、ここまで平成の立女形になろうとは。ここまで来たらもはや「さらなるエスカレートを望む」とH君。
▼昨日の朝日国際衛星版に筑波研究学園都市にある某校の海外帰国子女枠の募集広告あり。もともと東京教育大学からの流れを組 む筑波大の同窓会の設立による私立名門校というわけだが募集広告文が悪文。「きちんと日本の教育を受けさせ、しかも画一的でなく個性を伸ばし、Study Skillsを身に付けさせたい。 英語力を維持発展させ、自分の 適正を体験的に探求させ将来の 夢をみつけさせたい。困難に直 面しても明るく前向きに乗り越える知的な青年に育てたい。それには○○学園が最適です。」と。個性豊かで自主的な人格教育を謳いながら使役の「させ」と願望の「たい」の羅 列。「個性を伸ばし」は使役になっておらず能動のようでいて「画一的」は教育する側の方法であると思えば「伸ばす」の主語は生徒本人でなく学校と親にあ り。Study Skillsという英語句の挿入。受けさせたいのは「きちんとした」日本の教育、となるが殊に海外からの帰国子女と保護者にそれほど「きちんとした」日本 の教育の期待があるものか。寧ろここは広告文としては「日本の」ではなく「○○学園の」とするべき。また「困難に直面しても明るく前向きに乗り越える知的 な青年」って困難に直面して明るかったらかなりヘン(笑)。
▼保安局長葉劉淑儀の先日の「ヒトラーとて民主主義にて選ばれた」という民主主義絶対視非難について紐育時報金融 時報挙って葉の発言に反論。金融時報はヒトラーによる国会放火による異見分子殺傷と選挙抑制により独裁権力を獲得したこと、また紐育時報はヒト ラーが1932年の独逸総統選挙にて落選しておりその後の独裁による茶番選挙にて総統に当選という事実を挙げ、葉の誤謬を指摘。ただし葉にしてみればこの 両紙など「香港の良心」陳安生などが好む偏向媒体にすぎず、むしろ葉の如き愚かなパンチドランカーはこうして叩かれれば叩かれるほど闘志湧き奮闘するも の。恐ろし。

十一月四日(月)秋晴。先月の北京の写真数葉を日 剩20日あたりに上網。日暮れて海峡沿いを走る。某君より香港の税制での給与所得と 住宅手当について質問あり賃貸の額とのかねあいで総収入をどう分けることが最も節税効果があるのか、といふことにつきメールで答えながら、会社で納税を全 額負担してくれる駐在員の場合はよいが個人負担者の場合、まぁHK$500からHK$2,000くらいは納税額が違ってくる話で、単純に住宅手当が非課税 かといふとthe value of quartersという賃貸住宅の価値見做し額が課税所得とされる点などあり複雑。給与所得と住宅手当の割合の採算分岐点が一 目瞭然の表計算があれば重宝する方も少なくないが簡単に綴れば
年収(月給+賞与の計、住宅手当を除く)……a
a×10%=Rental Value……b
(賃貸月額−住宅手当月額)×12=賃貸個人負担年額……c
a+(b−c)=d……課税所得額
bとcが同額の場合が最も課税所得が小さくなる。
あとは雇用主との交渉でこの最も課税所得が小さくなる分岐点で
月給と住宅手当を配分してもらえばよろしい。
……ということになる。
会社が直接賃貸している場合は単純にa+bが課税所得となる。
▼日本での東京12チャンネル(現・テレビ東京)で本放送されていたのももう30年近く前といふ「世界の料理ショー」、この主演 であったグラハム・カー氏、毎週のように欧米の名だたる一流の料理 屋を訪問しその美食を堪能し、自らがスタジオにて料理してみせる、というグルメ番組。同番組にも出ていた妻の糖尿病での過食などありカー氏は食生活の改善 に乗出し、その健康なる食生活の紹介が全米にて同じ悩みをもつ人々相手に大好評と(朝日新聞)。余はこの カー氏の料理により当時は香辛料や料理酒の使い方すらまだ馴染み薄き日本にて西洋料理の作り方をかなり学んだつもり。それにしてもカー氏のバターや砂糖の 使いすぎには子供ながら唖然としていたことを回想す。
▼NHKのニュース見ていたら厚生省の調査で毎年、煙草の喫煙で死亡する人の医療費で1.3兆円が費やさ れ、とそこまではまだ驚かなかったがこの煙草を原因とする死亡で毎年失われる労働力は5.8兆円、と(恐)、いつからここまで経済効果を算出する時代と なったのか。18歳の無職の不良少年が12歳の時からの喫煙が原因にて呼吸器疾病で死亡した場合、愛煙家で絶好調のベストセラー作家の肺癌、90歳の喫煙 歴50年の老人(無職)の肺腫瘍など、それぞれをどう労働力として査定するのかお聞きしたいもの。いずれにせよ国家が税収入に期待し公認した常習性のある 麻薬(といふ言葉は大麻に失礼なのでヤクと言わせて頂くが)それに因る疾病にて1.3兆円が費やされようと煙草による税収は 2.3兆円弱あり、まだまだ収益率48%であれば国家はまだこの収入を得よう。またどうせなら厚生省は、もしこの喫煙に因り死亡する国民がもし禁煙して健 康になり長寿を全うした場合、その人口の減少なきことで医療費福祉事業費等がいったいいくらかかるのかも試算すべき。その金額がもし死亡する人の医療費 1.3兆円より多い場合、いったいどうするのでせふ。国民の健康と長寿を祝し支出増も厭わない?
▼先週より『東週刊』なる雑誌の某女優強迫ヌード写真掲載にて騒然。ゴシップ週刊誌である『東週刊』が某女 優が12年前に或る芸能界系暴力団だか何かに強迫され裸にされた時の写真を掲載、これが警察沙汰にもなっておらぬ過去の出来事で、これが発売されるや「こ の女優は誰だ?」といふような下衆な詮索よりも人権蹂躙、雑誌の理性なき様に非難怒濤の如し。警察は真相解明を約束し香港政府首脳も事件に大きな関心を示 し芸人マスコミ団体などもこの雑誌社に強烈なる抗議。実はこの『東週刊』の発売元は英皇集団なる新興財閥にて投資金融などの他ここは英皇娯楽なる一大芸能 プロダクションを有す(芸人謝霆鋒など所属)。その香港芸能界のいわばドンである醜聞絶えぬエグき英皇集 団に芸能人が一斉に抗議。ことの深刻さに『東週刊』は編集長以下三名が即刻辞職、『東週刊』の廃刊を決定、ドンである楊受成も北朝鮮より帰国し(何をしに行ってたのかしら?)この写真掲載について謝罪したが、沈静化せず昨日、香港政府庁舎前に芸能人集結し(当然、英皇の所属芸人は来られぬが)抗議活動。そこにこの話題の匿名女優が現われ名乗りを上げ、その勇気は喝采を 浴びるとともにこの女優は人々の正義感と支援に勇気が湧き此処に現れた、と宣言。芸能界といふ世界でそのドンである楊受成に対して芸人が集結し抗議した正 義感、美談といえば美談、ながら、芸能界である。駆け出しの芸人が何をされ何をさせられているかといえば想像に易きことにて、かりに当時の秘匿写真、ビデ オの類が流出したとしても驚くに能わず。今回の場合、週刊誌の表紙写真というのは余りに酷い仕打ち。その下劣さは明白。だが、その愚劣なる出版の事実を除 けば、芸人がその泥沼の如き芸能界において何があろうが、一般の人権、理性、正義などといふもので全てを語るべからず。この女優とてこれを刑事沙汰にでき ぬのは芸能界なるものがさういった仕組みの世界であり、トーシローがそれに口を挟むべきでなし。「大和屋にセクハラされて歌舞伎界を去った弟子の悲劇」と 同じ。その泥々した裏がある故に表面こそ華やかにて人にチヤホヤされるのが芸能の世界。獣といふには獣に失礼な破廉恥なる所作など芸能界にいくらでもあら う。基本的には人買い、スターになることに憧れる少年少女がどれだけの惨い事をされ、それでも芸人になる「夢」をもち這い上がっていった者の、そういう世 界である。全て芸能といふ異界のこと。寧ろこういった事で出版言論の自由に制限が強まり警察など官憲の支配が拡がることこそ不安。香港基本法23条による 国家公安条例の立法化だの香港の一国両制といったものには無関心ながら、こういった個々の事例となると世論(参政のため の選挙権登録すらしておらぬ市民たち)がここまで翼賛的に「かわいそう」だの「むごい」「ひどい」と声を挙げる、この大局への無関心との ギャップこそ不気味なるもの。市民の、こういった国政に対する無関心と<権力>に一切関係なき事での市民のいわば「ガス抜き」的な世論高揚を安堵して見つ めているものこそ<権力>なり。『信報』の社説曰く、政治介入を防ぐためにこそマスコミには自律が必要、と。
▼北京政府、ポスト江沢民の政府指導部を承認する形式的な第16回党大会を控えた実質上の決議会議となる 15期7中全会に朱鎔基首相参加せずカンボジアでのASEAN首脳会議に参加。党幹部のこの7中全会への不参加は異例中の異例。党内ナンバー2である朱鎔 基の不在でも七中全会開催可能といふことで党の安定性を誇示、といふ見方もある反面、ポスト江沢民の新体制に党内で異論あり朱鎔基は江沢民の推進する路線 への異議ありか、と憶測もされる。朱鎔基、中国を代表する経済通にて党内エリートとして将来を託されたが天安門事件後に突然、上海市党書記であった江沢民 が抜擢され、但し江沢民が表面的な領袖で朱鎔基が実質的な政務を遂行と思われていたものが、台湾総統選挙での民進党・阿扁の当選を阻止する武力侵攻もあり えるという感情的な威嚇発言など朱の印象よりかなりかけ離れた感情的タカ派ぶりを露出させ、感情的になってもどこか愛嬌のある江沢民に比べ朱鎔基の堅い性 格はイマイチ民衆の支持を得ず。本人の使命感をもってすれば江沢民による新指導部の選定とそれへの禅譲による今後の院政により同時期に引退をせざるを得ぬ 己に釈然とせぬものあり、か。所詮、12億の人民を有する国家の政治体制とて城山三郎の描く企業小説での取締役の確執と大差なきものなり。総じていえば、 本来、官僚肌の朱容基は民衆の好感の多少にかかわらず徹して官務遂行すべき立場ながらその官僚であるべき朱鎔基が総理となってしまう体制こそ中国の党・政 府一元体制の問題点……とそういうわけ。本来こういうことは新聞の社説とかで言ってほしいのだけど、昨日の朝日の社説など「ブラジル…… サンバの踊りほどほどに」って(笑)、「金融危機の瀬戸際にいるブラジルの新大統領に野党の労働党のルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ氏が選ばれた」こと でなんで日本の新聞が社説に取り上げるの?すら疑問だが、そのうえ「経済の安定を期待する国際社会はカルドーゾ現大統領の後継者で与党の社会民主党のジョ ゼ・セラ氏を望んだ」」「しかし国民は景気後退による雇用不安が高まるなかで国の財布のひもを緩めてくれそうなルラ氏を選んだ」、と。おいおい、あくまで ブラジル国民の自らの選択でしょうに、それを「国際社会はセラ氏を望んだ」とは……合州国の他国介入の横暴さもさることながら朝日新聞もそれに近いものあ り。
▼朝日の「ブラジル……サンバの踊りほどほどに」に比べ目より鱗がおちること少なからぬ『信報』林行止専 欄。先週木曜日はタイトルもズバリ「チェチェンの独立を認めなければロシアは安寧なる日々は有り難し(不准車臣獨立、俄 國難有寧日)」。ロシアのチェチェン独立阻止と軍事介入が昨今のことばかり取り上げられるが帝政ロシアの時代にすでに19世紀初頭にはチェ チェンのイスラム主義と帝政軍との激戦ありロシア軍の残虐ぶりにトルストイは軍職を去り『戦争と平和』にはこのチェチェン戦争が背景に。また10月革命に てソ連成立後はレーニンはチェチェンに和平案を提示したが一向に実現されずスターリン時代にはチェチェン人が多く殺害される。91年のソ連崩壊でチェチェ ンはソ連の他の15のソ連加盟共和国と一様に独立を求めたがロシア政府は1936年のスターリン時代の憲法を持ちだしチェチェンは他のSister Union Republic(姉妹邦の共和国)とは事なりロシア国家下の自治邦であり独立の権限を剥 奪。そして94年から96年にかけて民主選挙を実施していたチェチェンに軍事介入をして独立を阻止し99年の大規模な鎮圧といふのが歴史(とても参考になるサイトはこ ちら。ロシアがチェチェン人を「野蛮、変態、瘋狂で極右ファシスト」と罵っても、どちらに理があるかは明白。詰まる所、チェチェ ンの石油資源の確保がためだけにロシアがチェチェンの独立を認めず、それにチェチェンが抗するのは正義。しかし世界の世論は「反テロ」という浅はかな思考 に覆われており、マスコミも挙ってチェチェンをテロリスト集団としてロシアをそのテロに怯える被害者と見る。先日のモスクワの劇場占拠が明らかにそれ。こ のような状況では今後ともチェチェンの抗争は続くことは免れず、と。御意。
▼チェチェン紛争もそうだが、ただただイスラムを敵とするこの浅はかなる感覚。結局、資本主義と自由主義な るものは真の「資本」主義と「自由」主義に非ず、つねに資本主義に抗する非自由なる敵の存在あってこそ。かつてはそれが共産主義独裁であり、それが崩壊す れば今度はイスラムとなる。昨日、ハーフマラソンを走っており"Islamic College"のTシャツ着た少年走るのを見かけ、中国にもイスラム教広汎にて香港にも中近東イスラムとはまた別に中華伊西蘭の社会あり、当世の浅はかな思慮には (思慮といふにも浅はかだが)ただイスラム蔑視しか有らず、では伊西蘭中学の学生とて日本の朝鮮学校の生徒の如く世間の蔑視のなかで不愉快な思いもあろう し、そういった浅はかな社会のなかで中華伊西蘭までが消滅してゆくのか、と思う。さういふことを考えているからマラソンの成績は上がらず。
▼日本は「1兆円の電子政府予算、大幅削減目指す 無駄を総点検」と朝日。 掛け声ばかりの空論、結局は政府の基盤たる情報処理をNTTデータなどの一民間企業に下駄を預けてしまふ愚策。そのうえ実現は困難とは呆れてモノも言え ず。それでいて住基ネットなど明らかに情報垂れ流しの世紀の愚行はきちんと実施。香港などこんな大風呂敷拡げた構想など唱える暇があればさっさと電子政府化を実現。政府の施行するほぼ全域にわたる服務がネット上にて閲覧、 利用可。自動車免許の申請までネット上にて可。本来、日本はかういふ情報技術力ありがなら政府による規制、民間企業の自社利益姿勢、「もし事故があった ら」といふ深刻な意味のない悲観的思考性(ただしみずほ銀行のデータ不能や放射能漏れなど発生の危険性の予測される事故はいくらでも現実に発生する)に依 り構想が実現せず。日本といふのは3で済むことを必要以上の10まで行い、その7の余剰なる生産力、マンパワー、資金が動くことにて全体としてのミタメの 経済活性化を高め、それを経済成長としてきた社会。その無駄を協調だの努力などという美辞麗句の下に「わかちあふ」ことにて共同体をまとめてきたのも事 実。3で済むのに10の人とカネが流動することで当然のことながら余剰である7の分、経済社会が動いているように見える。その結果を無駄と思わず「成果が 上がった」と成員がわかちあうことにて共同体を維持し達成感などいちいち言葉にするが単なる形式主義。かうした無駄を削除して本当にコストをかける部分だ けに最低限の投資をすれば良きものを「痛みをわかちあふ改革」だのと宣う首相と辛抱を続ける日々。現実に電子政府化など実現されれば人、カネ、物流がかな り削減されるわけで、シンガポールの官公庁など正面玄関にて「なぜにこんなに閑散としているのか」と思えるが現実にはコスト効率よく組織運営が機能してい る社会となるのだが、霞ヶ関などやはり人、カネ、物流があってこそ繁栄、もしくは首都移転などという発想のうちは電子政府化など到底実現できず。

十一月三日(日)快晴。香港でのシーズン開幕にて早朝、大尾督にて恒例のHK Distance Runners Club主催のハーフマラソンに参加。早いもので連続四回目となる。共催がReebokよりFILAにかわる。同じランニングクラブより4名参加、K氏の 車にて太古城まで送られZ嬢と晝前よりWestlands Rdの九記にて一飲。悲しくなるほど天高き秋の空に雲一つなきものの一睡し夕方溜めた新聞読む。来春の香港芸術祭の切符発売となり申込み。Herbie Hancockはもう二十年近く前のチックコリアとのピアノヂュオとFuture Shockのツアー以来か、と思いつつ最も期待するのはLaurie Andersonなり。晩にランニングクラブとりTrailwaker100km に参加する17時間!精鋭チームの打合せあり日本人倶楽部の会議室。二年続けて参加した100kmトレイル今年はこのチームのサポート隊にまわる。終わっ て銅鑼湾のInside Outにて一飲。
▼中国電信 China Telecom、中国への海外からの国際通話で海外の通信会社が中国電信に支払う回線料を一律毎分US17¢(HK$1.3)へ値上げ。香港はとくに US2¢という優遇を得ていたため打撃甚だし。中国電信、株式発行によるHK$287億の増資について海外からの投資思うように集まらず断念した経緯あ り。いずれにせよ通信コストが下がっている現状において余りに安易な値上げ。確かに中国ビジネスの拡大で対中国の通信が増えているという実情こそあれ、そ こでそれじゃ儲けさせていただきませふ、は中国のビジネス感覚の安易さを象徴するもの。

十一月二日(土)薄曇。朝、久々に康柏徑よりQuarry Bay Jogging Trailの往復で10km走る。午後競馬。毎年秋恒例のNational Panasonic Cup(樂聲盃)。今では伝説になつているが戦後松下幸之助の下を訪れ香港での松下製品の販売を乞い松下PHP翁との信頼にて信用状なしの取引現在に至る 蒙氏経営する信徳電機の主催。全てのレースに樂聲の冠つくのはいいが樂聲Momi-Momi専業按摩椅譲賽(ナショナルもみもみプロフェッショナル按摩椅 子杯、か)、グリコがっちり買いまショウ的な大阪だからまだ赦せる、否、やっぱり赦せないダサさ(笑)。 樂聲盃は電子麒麟(Size/Doleuze)のはずが出走で笨出、1馬身半ほど遅れAll Thrills Tooが抜け出し、それでも電子麒麟最後尾より一気に二番手まで上がるが追いつかず。Anabatikは七戦五冠二亞、侵略は十二戦四冠三亞二季二殿一負 と実力発揮。R10はGrand Delightが確実、C氏には申し訳ないがDashing Winnerは20倍で外していたがパドックでも意気高く何といっても李格力君騎乗せずSchoofield君の初乗、C氏がまた何万ドルも投入したから だろうが倍率下がり始め10倍、複勝、Grand DelightとのQ、位置Qとするが四コーナーまわり最後尾より外枠を一気にDashing Winner上がり見事に三着入賞。昨季のダービー以降不調だったが復帰か、否、誰が乗るか、である。明日のレースに備え(笑)蒸 風呂にて修脚。Z嬢と久々に太古坊のEast Endにて日暮れに一飮。帰宅して湯豆腐、うどん。

十一月一日(金)晝まえより雲ひとつなき惚れ惚れするほどの青空。夕方になり曇。秋のレースシーズン となり「まずは道具から」の鉄則にて明後日のハーフマラソンの出場者割引にてPolarの 心拍数測る腕時計購ふ。春に三半規管不調にて、それ以来、夏の暑い時の運動や急な上りなど心拍数高まると耳鳴りなど自覚あり。中環のColorsixにて 北京の写真焼き上がり。たかだか素人写真なれども巷の全自動DPE屋と比べると焼きが断然異なるは流石。帰宅してPolarの心拍時計と取説を睨めっこ。 かういふことをしている時の男児の集中力といふのは老いても衰へず。自転車の速度計機能つきにて昨夏購いまだ三度しか搭っておらぬ自転車に部品装着。
▼外国人記者倶楽部にて小柴、田中の両氏が会見。「日本は研究開発費や人口のわりにノーベル賞受賞者がこん なに少ないのはなぜか」という質問が相次いだそうだが理由は明白にて言語活動が日本語にて閉じているからに他ならぬ。「田中さんは「英語に自信がない」と 通訳の隣に座ったがほとんど自力で答えた」(朝日)って、紙面では 「田中さんは通訳の隣に座ったが」と「英語に自信がない」が削られているが、いずれにせよ「自力で」って自力って普通「爆発現場の瓦礫のなかから自力で脱 出」とか「アイガー北壁での雪崩から自力で」ってさういふのじゃないの?。確かに英語の苦手な人が英語にて問答するは苦難にて懸命にそれをこなすは自力か も知れぬが、本来なら記者の質問に答えるだけの知識もない者が懸命に答えたら自力であろうが、その有識者の言葉の問題にすぎず「通訳を使わずほとんど自分 で答えた」でいいのでは。この「自力で」といふ表現に日本の限界明白地なり。