乾 坤容我静 名利任人忙
(旧)教育基本法(1947〜2006) 改正に反対した文化人129 名の声明 憲法改正反対(九 条の会こちら

また眞理を知らん、而して眞理は汝らに自由を得さすべし。ヨ ハネによる福音書8章32節)

メ ディアはコミュニケーションの道具という素朴なイメージがあるが、もっともこの言葉は「中間」という意味であり、二つのものの間を取り次ぐという意味で はコミュニケーションの道具となるが、同時に最初は一つであったものを二つに分けるという効果ももたらす。メディアは、それがもたらす情報を共有し仲間意 識を持つグループと、そうしたものに無関心、あるいは反発するグループとの分裂をもたらす。メディアが発達すればするほどこの分化は進む。だから、メディ アの発達がコミュニケーションを豊かにするというのは幻想にすぎない。(佐藤卓己)

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■ 「はてな」の富柏村日剰・香港日記(テキストのみ)はこ ちらを ご覧 ください。
■最近のブログ化のご時世に敢へてブログ化せぬ日記を。の 心づもりでをります。敢へて全て讀むこと強ゐる日剩あつてもいゝのでは?と。
讀みにくいこと間違ひなきサイト乍ら今後とも御贔屓の程宜しくお願ひ申し上げます。
■香港の高級紙「蘋果日報」からの紙面、寫眞の無斷借用多し。同紙社主・黎智英氏自ら同紙の無斷借用轉用大歡迎と公言ゆゑ、それに甘えてをります。
 2000 年11月24日からおそらくあなたは番目の閲覧者です。


十月卅一日(金)晴。金鐘の運輸署で国際運転免許証申請と受領。列に並ぶこと2分。カウンターでは即時発行で1分。計3分で出来上がり。この効率を日本の 役所も見習ふべき。而も今日は顔写真2枚必要なところ1枚しか持参せず、インスタントの証明写真撮つて再訪かと覚悟したら「いいわよ」と顔写真1枚分コ ピーして済ませてくれる親切な職員。「金融混乱もほんとどうなるのかしら」とその職員に笑顔で返され、何事か?と思つたら、アタシが列に並んで読んでゐた 2週間前のThe Economist紙、“Capitalism at bay”なる巻頭記事読み耽つてゐて、その雑誌までカウンターで手渡してゐたが為のこと。田中康夫氏も納得するであらう、この服務とは何か?の答へ。運輸 署から戻るとちやうど届いたThe Economist誌の最新号。驚くまでもなく当然、小浜氏への支持表明。“It's time”と題して“America should take a chance and make Barack Obama the next leader of the free world”と宣ふ。ここまで左も右も小浜馬楽君諸手を挙げて支持して何か間違ひがあつた場合に誰が責任をとるのかしら。「元ネオコンの」フランシス=フ クヤマ氏も小浜支持の由。晩に帰宅して夕食済ませてから香港空港。晩十時前の空港行きリムジンバスに乗客はアタシともう一人。築地のH君が実に1991年 以来17年ぶりに来港。今回は若いA君とK君同伴。A君は前回来港の時は幼く香港の記憶なし(胎児だから当たり前か)。難民フライトと言つては失礼だが東京発最安値は決まつてこれ、の NW011便。デトロイト発成田経由のこの便は決まつて遅れるが今夜も成田発が一時間半近く遅れた割には一時間ほど挽回して20分ほどの遅れ。23:45 頃H君らゲイトアウト。A君、K君と会ふのは10数年ぶり。エアポートエクスプレスで九龍站。三更半夜すでにシャトルバス終はりタクシー長蛇の列。九龍站 では見つけ難い乗り場から路線バスで佐敦。歩いて尖沙咀。ハロウィンの騒ぎで巷民多し。深夜営業の茶餐庁で食べ盛りのA君、K君の夜食。H君と「さうやつ て食べてゐるのを見てゐるだけで此方はお腹いつぱい」なんてドラマの出来合ひの台詞だと若い頃は思つてゐたが、それが本音、と笑ふ。茶餐庁には片言の日本 語ながら実に丁寧に話す給仕が忙しいなか働く態あり。敬服。H君らを午前一時の重慶マンションに案内。もと/\バックパッカーのH君にとつて香港の宿泊= 重慶マンション、なのは困つたもの。A座4階のChungking Houseは重慶マンションの中では5ツ星。3人部屋は冷房、シャワー完備、でHK$550だ。明日のラグビー試合80分観戦のチケット代よりずつと安 い。深更でさすがにH君ともども飲みに出る気も失せる深更で三人をホテルに残しタクシーで帰宅。
▼上述のThe Economist紙(10月28日号)の“Capitalism at bay”は必読。
ONE hundred and sixty five years ago, a Scottish businessman set out his plans for a newspaper. James Wilson’s starting point was “a melancholy reflection”: “while wealth and capital have been rapidly increasing” and science and art “working the most surprising miracles”, all classes of people were marked “by characters of uncertainty and insecurity”. Wilson’s solution was freedom. He committed his venture to the struggle not just against the protectionist corn laws but against attempts to raise up “barriers to intercourse, jealousies, animosities and heartburnings between individuals and classes in this country, and again between this country and all others”. Ever since, The Economist has been on the side of economic liberty.
なんて書き出しにアタシは身震ひするが、以下、いくつか抜粋。
- Over the past century and a half capitalism has proved its worth for billions of people. The parts of the world where it has flourished have prospered; the parts where it has shrivelled have suffered. Capitalism has always engendered crises, and always will. The world should use the latest one, devastating though it is, to learn how to manage it better.
- The politicians all claim they understand this. Of course, they have no intention of revisiting Mitterrand’s mistakes, of trying to run the banks themselves, or of taking stakes elsewhere. Yet already voices (including Lady Thatcher’s Tory heirs) are pushing to limit executive pay. It will be a brave president who goes to Detroit and explains why the 45,000 well-paid folk at Morgan Stanley should get $10 billion of taxpayers' money, but the 266,000 people at General Motors should not. Brave too would be any politician who proposed deregulation as a solution to a public-sector problem.
- Even allowing for the credit crunch, this decade may well see the fastest growth in global income per person in history. The free movement of non-financial goods and services should not be dragged into the argument—as they were, to disastrous effect, in the 1930s.
- A second group of critics focuses on deregulation in finance, rather than the economy as a whole. This case has much more merit. Finance needs regulation. It has always been prone to panics, crashes and bubbles (in Victorian times this newspaper was moaning about railway stocks, not house prices). Because the rest of the economy cannot work without it, governments have always been heavily involved.
経済と金融とのきちんとした見分け。自由経済は守られるべきだが金融は、殊にデリバティヴのやうな手品が横行するからこそ規則が必要となる。九十年代に地 獄を経験した日本と韓国は国による金融の監督を強めたが、その必要はこれに因るもの。

十月卅日(木)昨晩もご一緒のA氏と燈刻に尖沙咀。Weinstubeで ワルシュタイナー麦酒一飲。Z嬢も来て日本料理・京笹に食 す。この食肆、魚の塩焼き、酒盗、鰯の一夜干しからポテトサラダに至るまで塩がかなり控へめで素材の風味が活きるのが大したもの。香港文化中心。羅府フィルの演奏会。指揮は1992年からこの楽団率ゐ今季 で勇退のヱサ=ペッカ=サロネン。曲はファリャのEl Amor Grujo(魔術師の恋)から三曲、ドビッシーの「海」、中入りでラヴェルのMa Mère l'Oyeとボレロ。昨晩はチャイコフスキーのピアノ協奏曲1番で盛況だつたらしいが、さすがに香港での知名度は高からぬロサンジェルスフィルでこの演目 では今日は空席もちらほら。米国のオケもこの数年で紐育フィル、フィラデルフィア、桑港を香港で聞いてをり、米国の而も加州、更に羅府といふことでアタシ は先入観で苦手だが(笑)サロネンが手塩に育てた羅府も予想以上の演奏ぶり。個人的にアタシは第二ヴァイオリンとヴィオラがしつかりしてゐるオケは頼もし く思ふ。ドビッシーの「海」は近代音楽の需要な楽曲の一つといふがアタシはちよつと苦手で、これがどうして北斎の冨嶽三十六景「神奈川沖浪裏」なのよ?な んてコトばかり考へてしまひ、今晩は淡酔気味で不覚にも大海原で微睡に陥る。Ma Mère l'OyeもZ嬢なんかは原曲のピアノ四手連弾の組曲を知るからオケに編曲されたこの曲が面白い由。アタシはマザーグースの素養なんてものも欠けてゐるか ら、これが「眠れる森の美女のパヴァーヌ」だの「親指小僧」「パゴダの女王レドロネット」「美女と野獣の対話」「妖精の園」といはれてもピンと来ず、例へ ばマザーグースの物語の絵本でも柔らかな動画で見せられながら、この曲を聴いたら、さぞや楽しからう、と思ふ。ボレロは木管、金管のソロの力量も充分で弦 が殊に中低音が美しく響く。打楽器もあんなラグビー選手みたいのがスネアだの木琴だの叩いてゐるのだから安定感は一入。サロネンの指揮が見栄えたつぷり。 アンコールはラヴェルを続けてMenuet Antique「古風なメヌエット」。もう一曲はサロネンはんが「花火」と言つたやうに聴こえたが賑やかなオケ曲でドビッシーのピアノ曲の「花火」の編曲 であるはずなし。不明。さう/\、この音楽会の会場でお懐かしや董建華夫妻がVIPで来場、参観。新鴻基地産で弟二人から筆頭役員解任された長男氏も。董 建華、演奏が跳ねて連れがお手洗ひの間にバルコニーから眺めてゐると正面階段を下りずに脇のエスカレータから車寄せに向ふ。なにせ全人代副主席の超VIP だから警護上の理由か、上品な観衆の間から罵声でも飛ばぬことへの配慮か、いづれにせよ、すた/\と早足で颯爽と歩かれる姿を見て2003年に「脚痛」を 理由に行政長官引退が今ではすつかり脚部も全快か、と喜ばしいかぎり(嗤)。
▼このロサンジェルスフィルの香港公演につき楽団自身が今回が香港初演と主催者側に答へてゐたさうだが、実は1956年が初来港で旺角の麥花臣球場!で Alfred Wallenstein(1898〜1983)の指揮で野外演奏行ひ、これが香港にとつて戦後最初の本格的な大型のオケの来港で、これが香港政府に中環の 市大会堂建設の刺激与へた、と周凡天氏が数日前の信報に記述。凡天氏は更に実はこの1956年のロスフィルの来港は政治的任務に基づくもの、とX- File的に話を進め、アジアの赤化憂ふ米国政府が米国文化音楽交流でクラシックやジャズなど積極的に音楽団をアジアに遣つたことなど語る。まぁ確かにさ ういふ背景はあつたらうが、さういふ意味では欧州のオケも日本の歌舞伎も文化交流も米国の当時の「赤化防止」ほどぢやないにせよ何らかの国の意図が働いた 政治的装置だらう。どうも周凡天氏の筆は走るきらひあり。

農暦十月初一。曇。晩に知己のA氏とハッピーヴァレイの日本料理「澄」で河豚づくし。Z嬢も来て四人。先づは河豚皮のおろしポン酢和へ。生牡蛎。てつさ。 今日、 空輸で入つた鮟肝が明日なら供せると澄のご主人。駄々をこね今日食べたいと強請つたら「どうにかしませう」と供されたのが昆布敷いた上に鮟肝のせて蒸篭蒸 し。鮟肝が美味いのは当然として、蕩けた鮟肝が昆布にこびりつく。その昆布を食べないのは勿体ない、と切つて貰つたら(東海林さだをの表現を借りれば)メ ロ/\の鮟肝の肝汁(といふことにしよう)が昆布に染み入り、この昆布のまぁ酒飲みにはたまらない珍味になつた。あとでご主人に尋ねたら初めて作つてみ た、と。でもうこれだけで満喫、なのに、てつちり。てつちりをほぐほぐと頬張つてゐたら更に大皿が。今日入つたさうな、小振りの鯛、の頭と鰓(えら)。で バチが当たりさうな一晩で河豚と鯛の鍋を満喫す。

十月廿八日(火)快晴。昨日暴落の株価は反発。かうも昇降続いては話題にもならず。
▼劉健威兄、成田に着いた足で新宿に向ひ夕方、小腹が空いたので天ぷら食さうと旅行案内本頼りに「つな八」探したが新宿三越裏で一向に見つからず、で東京 通の健威兄がまた何故に、と思へば香港から持参の旅行本には「綱八」とあり、で綱八をずつと探してゐた由。それだけ、と言へばそれだけの話だが。銀座の 「ハゲ天」なら禿天か。
▼朝日新聞の「記者風伝」で疋田圭一郎について連載あり懐かしく読む。朝日の夕刊の「新・人国記」の青森で
雪の道を角巻きの影がふたつ。
「どサ」「ゆサ」
出会いがしらに暗号のような短い会話だ。それで用は足り、女たちは 急ぐ。
みちのくの方言は、ひとつは冬の厳しさに由来するという。心も表情 もくちびるまで こわばって「あららどちらまで」が「どサ」「ちょっとお湯へ」が「ゆサ」。ぺらぺら、くちばしだけを操る漫才みたいなのは、何よりも苦手 だ。
あまりにも有名な疋田の文章の引用。どこまで実話か、どう取材したのか、も鳥渡気になる。アタシの知る陸奥の人は能弁も少なからず。それが本多勝一に至る とルポルタージュが政治的主張を始め、ジャーナリズムも田原総一朗になると(同じ今日の朝日で星浩が讃めてゐるが)ただ論争を吹つかけるだけ。さらに NHKのNW9になると「世界に波及する経済混乱。景気の浮き沈みに敏感なこの業界ではッ!」と銀座にあふれる空車タクシーを取り上げ売上げ減のタクシー 運転手の取材続け「この、タクシーが敬遠される原因はッ?」ッて小学生でも最初から世界的金融混乱が原因だとわかるだらう(笑)。こんなお馬鹿なレベルが ジャーナリズム。NHKの報道センターは年収1千万円以上の職員は半額に減給すべき。
▼新銀行東京での詐欺事件。石原都知事曰く「こうした事態を招いた旧経営陣の責任は重い」つて、こんな銀行設立して公金を無駄にする張本人の責任こそ重く ないかしら。日本の再生とか力強い日本とか、そんなことどうでもいいから。

十月廿七日(月)曇。多忙につき株価全面安も知らぬまゝ遅晩に至る。晩飯すら逸す。
▼FT紙が今日の社説で“Obama is the better choice”と小浜馬楽君支持表明。いろ/\比較した上で負因君よりマシといふ判断で“The challenges facing the next president will be extraordinary. We hesitate to wish it on anyone, but we hope that Mr Obama gets the job.”とは言つては見せる。が仏の曾ての総統選挙でルペン候補善戦に仏左翼が「鼻をつまんでもシラク」とルペン当選阻止した時のやうな屈折した?政治 的判断も今回のこのFT紙の小浜支持には見当たらず。それに対して今日のIHT紙で“Reality's liberal bias”と題してKrugman教授が負因候補がなぜ否定されたか、を冷静に分析する内容は見識。
Will the nation’s new demand for seriousness last? Maybe not — remember how 9/11 was supposed to end the focus on trivialities? For now, however, voters seem to be focused on real issues. And that’s bad for Mr. McCain and conservatives in general: right now, to paraphrase Rob Corddry, reality has a clear liberal bias.
と述べる。

十月廿六日(日)本日はHKDRC主催のハーフマラソンあり。これに不参加は十数年前に走り始めて初めてかしら。午前中に打合せ一つ済ませ昼からマカオ へ。外交親善活動。黄昏時にふと一時間余あり「この時間なら未だ混んでゐないだらう」と荷蘭園抜けて独り坤記餐室に食す。牛尾の煮込みと例湯はカルドベル デ。マカオの下町の土葡(土着の葡萄牙)料理屋は一見の客にも丁寧な対応が心地良い。見上げたもの。晩八時過ぎ香港に戻る。

十月廿五日(土)朝方雨曇りののち曇り。朝からご公務で新界。夕方一旦帰宅して着替へ深水埗にて昼の行事の打上げあり招飲受け末席を汚す。九龍は尖沙咀以 北で日本食はアタシにとつてかなり稀だが深水埗は初めて。壁のお品書きでHK$50以上の料理は探 すに難いのは「千ドル札でのお支払ひご遠慮願ひます」は茶餐庁気分ゆゑ。で期待に応へる?日式で奇妙な料理多数供される。何よりも目からウロコは梶木鮪の 如く顔の尖つた柳葉魚(ししやも)。腹に魚卵たつぷりだがコリ/\感がどうも加工品つぽくて小魚の口から注入して腹を膨らませてるんぢやないの、と笑ふ。 宴会跳ね銅鑼湾のバーSに寄し獨酌三更に至る。

十月廿四日(金)鴨脷洲(Ap Lei Chau)に行く機会あり香港仔(Aberdeen)から街渡(渡し船)に乗る。鴨脷洲でもSouth Horizonsのマンション群でなく洪聖廟のある、古くからの町内の方を訪れるのは初めて。面積が1.3平方キロの鴨脷洲にはこの街とSouth Horizons、それに小高い山の上に利東邨団地があるが、この3つで人口は8.7万人余。で1平方キロあたり66,755人は世界で最も人口密度の高 い島の由。緑も多く自然に恵まれ実際にさう過密を感じさせないのが不思議。一昨日のアンジェラ=ヒューイットのピアノ独奏会で邂逅のT氏と尖沙咀で待ち合 はせHoliday Inn Golden Mile地下のデリカテッセンコーナー。今晩はア ンジェラ=ヒューイットのバッハ平均律の第2巻なのでバッハに敬意を表してソーセージと馬鈴薯を食しませうといふ何だかよくわからない嗜好。香港文化中 心。アタシとZ嬢は一昨日と同じ席だが不安が的中して前には平均律の楽譜に音の強弱を鉛筆で書き込むヲバサンが坐す。中入りの後はバルコニー後列の客が前 の大部分の空席に押し寄せて来て周囲を「楽譜さん」たちに囲まれちまふ。最悪。Z嬢の背後の楽譜ヲバサンは楽譜に硬質ヴィニールのカバーかけてゐて、それ がガサ/\の最悪。アンジェラ=ヒューイットのこの平均律第2巻は予想通り第1巻に比べ更に彼女の解釈が目立つ。正味2時間半の演奏聞きながら感じたこと は、やはりアタシはバッハのこの曲は和声を楽しみたいわけで、和声とリズムでせう。リズムも許容されるギリギリの幅はもう決まつてゐるわけで、1曲の中で あれだけ緩急織り交ぜて演出されてしまふと和声も崩れて聴こえるし、殊にフーガなんて対位法はどこ?みたいな、旋律がどんどん(展開ではなく)違つたもの に妖変してしまつて……。途中でリストを聴いてゐるやうな錯覚に襲はれ、ショパンがこの平均律にかなり影響受けて24の前奏曲を書いたわけだがアンジェラ さんの演奏だと本当にショパンのマズルカとかを聴いてゐるやうに聴こえるから。無伴奏チェロ組曲で言へばヨーヨー=マの演奏するそれを良とするかどうか、 みたいなところで、アンジェラさんのこの平均律がたんに素晴らしい、と聞こえる人と「曲の解釈は技巧的にも見事だし演奏は華麗だけど、これはバッハぢやな い」と聞こえる人がゐる。アタシは後者。フェリーで湾仔。夜風浴びつゝ狗狗公園散歩して銅鑼湾からタクシーで帰宅。三更に小さめの音で徐ろにバレンボイム の弾く平均律第2巻を聞く。ト短調のフーガから。やはり、これがバッハ。越えてはいけない絶対値のやうなものがあるわけで、グールドでも聴いてみたがグー ルドですら絶対に守る不文律あり。
▼本日、世界的に市場は混乱。円は急騰し一時90円台、東証終値7,649円。香港の恒生指数は8.3%下落。
▼米国で元来が民主党支持の紐育時報が小浜馬楽君支持は今更驚かぬが前回選挙で布珠支持の全米各地の主要紙26紙だかが今回は小浜支持に回り(負因支持は 4紙のみ)140年間だか共和党候補支持し続けたシカゴトリビューン紙(市俄古魁報、とか書けば良いか)までも小浜支持。紐育時報は(23日の edtionalで)editorial board has endorsed Senator Barack Obama as the 44th president of the United States, stating: "We believe he has the will and the ability to forge the broad political consensus that is essential to finding solutions to this nation's problems." と言ひ切り The nation’s problems are simply too grave to be reduced to slashing “robo-calls” and negative ads. This country needs sensible leadership, compassionate leadership, honest leadership and strong leadership. Barack Obama has shown that he has all of those qualities. と強調するが、単にさういつたリーダーシップへの期待なら負因君も小浜君に勝るとも劣らず。結局、今回の小浜君への雪崩のやうな支持は布珠フォビアとでも 言はうか反布珠効果。
The United States is battered and drifting after eight years of President Bush’s failed leadership. He is saddling his successor with two wars, a scarred global image and a government systematically stripped of its ability to protect and help its citizens — whether they are fleeing a hurricane’s floodwaters, searching for affordable health care or struggling to hold on to their homes, jobs, savings and pensions in the midst of a financial crisis that was foretold and preventable.
と指摘する、これ。だが、かうも簡単に「布珠が悪い」にして良いのかしら。布珠を選んだのはアンタがただろーが、と言ひたいところ。勿論、東部十三州や加 州の市民にしてみれば「私らは布珠は選んでゐない」だらうしフロリダあたりが怪しいのは公然の事実。だが中国やシンガポールなど一党独裁国家で国民に政権 選択の自由がないなら話は別だが、どうであれ世界に冠たる自由と民主主義の国で布珠が2期に亙り総統に選ばれ(てしまっ)たのは米国民の選択の結果なので あつて、自分たちにその責任があるのだから布珠を非難する前に布珠を選んだ自らの過ちを猛省すべき(小泉改革の結果で社会がボロ/\になる日本も他人のこ とを言つてゐられないのだが)。それを布珠&共和党でダメだつたから今度は小浜&民主党に期待、つて2大政党制の有利がコレのやうだが本当にこんな発想で の政権交代で国が良くなつてゆくのかしら。ただそんなこと言つてしまふと「だから優れた政権政党のもとで安定した統治が望ましい」なんて中国共産党やシン ガポール人民行動党のプロパガンダに同調しさう(笑)。

農暦九月廿五。霜降。帰宅途中に知己の某氏と示し合はせたやうに邂逅。太古坊の酒場East Endにエール二杯飲む。夕食はカレーライス。たまつた新聞読む。原武史の『昭和天皇』(岩波書店)読み三更半夜に至る。
▼上海外国語大学で廿日、大学敷地内で酒に酔つた日本人留学生数人が大声で騒いだことに中国人学生が抗議しペットボトルなどを投げつけ激高した日本人留学 生が寮の9階まで上り抗議した中国人学生らと喧嘩となり中国人学生数名が怪我。騒ぎの後に数百人が留学生宿舎前で抗議集会を開き日本人学生に謝罪するやう 呼びかけ警察が駆けつけて解散。現場で騒ぎ目撃の中国人学生は「日本人留学生は『中国人を殴れ』などと叫んでゐたので、みんな怒り出した。廊下で日本人3 人に殴られた中国人学生は血だらけだつた」と語る。(以上、朝日新聞)。郷に入れば郷に従へ、で留学生なのだから静かにしれゐれば良いのに。(香港の報道 を付け加へれば)抗議集会で学生は中国国歌をみんなで歌つて意気高揚だつたさうで義勇軍行進曲だから「侮辱されたことへの憤り」に合ふ。でアタシが何が言 ひたいか、つて、これが「君が代」ぢやダメよね。日本での米軍キャンプ付近での米軍兵の横暴などに抗議するにも基地の正門前で市民が「き〜み〜が〜あ〜 よ〜お〜は〜」と歌つても意気高揚なんてありやしない。さういふ意味では平和な歌なの鴨。
▼香港証券業界の鬼つ子David Webb氏が自身のブログで中信泰富事件につき指摘は 次の通り。中信泰富が今年9 月16日に香港証券取引所に提出の報告書の中で同社の「財務状態については前年度末より特記事項はなし」"Save as disclosed in this Circular, the Directors are not aware of any material adverse change in the financial or trading position of the Group since 31 December 2007, the date to which the latest published audited accounts of the Company were made up."としてをり、この報告書の内容は同年9月9日現在のもの。今週月曜日に中信泰富は会見で今回の為替投機損失の発覚が9月7日であつたことと述べて ゐる。だとすれば9月9日の2日前のことで9日現在の報告書の内容に虚偽の記載あり、となり証券先物取引条例違反で罰金HK$10mで懲役10年だらう、 とWebb氏。中信泰富が中信集団傘下とはいへ一応は一私企業体で良かつたね。これが思ひつきりの国資会社だつたら「毒入り餃子、メラニンに続いてコーポ レートガヴァナンスでもっ中国への不信がっ!」とかNHKのNW9で騒がれてゐた鴨(笑)。

十月廿二日(水)晴。信報はこの新聞が香港にある限りアタシは「香港も棄てたもんぢやない」と思ふほど愛読紙でアジアでは最も教養として優れた新聞媒体で あると思ふ。何よりも香港第一健筆と讃へられる創刊者で社主・林行止氏あつてのものだが、もう15年以上も毎日この林行止の「専欄」の連載読んでゐて今日 ほどこの冷静なエコノミストの筆が憤慨してゐるのは初めて。題して「以人民血汗錢補貼投機虧蝕」。
十月十三日に陳焱(という書き手)が本紙「財經DNA」に『「放 生」銀行責在金管局』の一文を寄せ「レストランでなか/\料理を供されぬ客がマネージャー呼んで叱るとマネージャーが「本当にうちの店のサービスは問題が あるんですよ。この店のサービスを改善しろ、と……本当にお客様の仰る通りで」と宣ふやうな」と、さういふマネージャーの名前が任志剛(香港金融管理局総 裁)だ、と罵つたが、筆者(林行止)いま思うのは、このマネージャーの名前は范鴻齡(中信泰富のGM)であり裏でこのマネージャーを操るレストランの経営 者が栄智健なのだ。
と語り始め問題点をいくつか指摘する。先づ、九月七日に社内でその為替損が発覚し事実公表の十月二十日迄に株価操作などインサイダー取引などの有無。二つ 目として中信泰富の現時点の株価総額を上回る損失を計上した博打のやうな投資がコンプライアンスに抵触するもので、これは単に社内での停職や減給といつた 処分では済まされず司法の裁定に委ねるべきもの、と指摘。そして三つ目として、
栄智健は出自は所謂「赤い資本家」で中信集団は国家の背景があらう と中信泰富は充分に私企業であり、アジア通貨危機でも中央がUS$十数億の補填した前科に加へ、私人企業の投資の失敗と破綻に「人民的血汗銭」がどうして 用ゐられようか。また、企業経営の透明度とコーポレートガバナンス、法の整備と法治などが香港のビジネス中心地としての価値だと思へば、中信泰富の社主が 「社内でのかうしたハイリスクの巨額投資の実体を掌握してをりませんでした」では、それも危ふいものにならう。
……と。御意。栄智健はすでに北京にて中信集団並びに中信泰富からの引責辞任を伝へ、中信泰富には北京より高層職が遣られ事態掌握と収拾の由。北京中央に 投資会社経営のノウハウがないが為に中信香港が子会社でありながら実質的に本社への指導的立場にあり中信泰富は栄家が有利活かし国家資本を元手に私企業経 営といふ特権的立場にあつたものが中信集団創設から三十年で立場逆転とは感慨深いものあり。早晩にペニンスラホテルのバー。ドライマティーニ二杯。香港文 化中心でZ嬢と待ち合はせ。いま評判のアンジェラ=ヒューイットがバッハの平均律を弾くピアノ独奏会。今 晩はBook Iの当然、全曲。コンサートホールの入り口で先ほどまでペニのバーですぐ2つ隣にお坐りのお洒落な御仁とばったり。「なんだ、あなたもこれでしたか」とご 会釈。昨年の8月のオスロ皮切りに世界中でバッハの平均律を 弾き続けてもう七、八十公演目かしら。諸国巡業の白拍子の如し。4月に東京はオペラシティでの演奏を母が聞き数日後がマカオだつたが聞き逃し香港にも必ず 来るかと思つたが、それがやうやく今回。母からこの評判の平均律のCD(サイン入り)を譲り受け聴いてはゐたので「どういつた演奏か」はわかつてゐたが バッハといへば高橋悠治とグレン=グールドが好みのアタシには「まるで目黒の喫茶ウエストで流れてゐるのがお似合ひな」この人の平均律は鳥渡、好みではな い。バッハについて井上直幸だつたかバレンボイムだつたか失念したが、いやアンナー=ビルスマだらう(きつと)、バッハの音楽といふのは、当時は現代に比 べ死や死に至らうとする病ひがすぐ近くに、家のなかにあつた時代で、常にいつ死ぬかといふ刹那があり、教会といふのもさういふ寿命の短い社会での教会の存 在も意味が深く、そこで神と人間とを結ぶ一つの光、糸がバッハの音楽であつて……てなコトだつたが、さういふ意味ではアンジェラさんのバッハは、良く言へ ばさういふ切実さを達観し越えた先の優しさ、悪く言へばお嬢さんの弾く美しい音色で、さういふ意味ではアタシにはこれが「目黒の喫茶ウエストで流れてゐる のがお似合ひ」と聞こえたもの。東京ではかなりの評判のアンジェラさんだが「ピアニストといへばランランとユンディ=リー」しか存在しない、世界中でソリ ストと言へばこの二人とヨーヨー=マの三人しかゐないのが香港。だから今晩も平土間で8割、欄干は2割程の入り。ピアノの静かなソロだつてのに香港でもデ リカシーに欠けることでは評価?高い文化中心であるから冷房の強風がゴーゴーと耳障りで、聴衆といへば5人に1人が平均律の楽譜持参。バカぢやないだらう か、つて正真正銘のバカである。楽譜との擦り合はせならCDでも聞きながら家で、やれつ!。これ見よがしに(自分が平均律が弾ける、と見せたいのか)楽譜 に目を落とし、小曲が終はる毎に頁めくる音のこれが五月蝿いこと。しかも不運にもアタシの前列のヲバサン、ピアノ教師らしいが、鉛筆で楽譜にアンジェラさ んの演奏の音の強弱を鉛筆で書き込む(なんて馬鹿/\しひ作業かしら)、その音がシヤカシヤカと、こんなデリカシーのない輩がバッハを弾くとは愚の骨頂。 呆れることばかり。12番まで終はつた中入りで職員を「冷房の音が邪魔で演奏が聞けたもんぢやないぞよ!」と恐喝し後半は冷房の音がなくなつたのはありが たかつたが、今度はそのぶん観客が楽譜めくる音が余計に目立つ(嗤)。知己の香港人A君が「香港は観客のマナーもホールも悪いから、どうせ不愉快な思ひす るだけなので映画や音楽は一切、聴きに行つたり見たりしない」と決めちまつてゐること、ふと思ひ出す。一理有り。いづれにせよアタシは昨晩の三人のピアノ 奏者との感銘がまだ余韻あり、それから抜け切れてをらず。

十月廿一日(火)晴。早晩にZ嬢と銅鑼湾で待ち合はせるつもりが軽く早めの夕食済ます目当ての食肆が廃業で急きよCovaに食す。黒服の給仕長の歯が煙草 のヤニで 茶色に染まるを見て気分は一気に茶餐庁(笑)。三鞭酒をグラスに一杯。ハムとゴーダチーズを薄切りのオムレツにはさんだ軽食。この有閑夫人が主な客筋の高 級茶餐庁、温かい料理も瞬く間に冷めるであらう強烈な冷房もミスマッチなジャニス=ジョプリンのBGMもいたゞけず。中環。市大会堂。日曜日に第2回の HK Int'l Piano Competition終はり今晩はClosing Ceremony Gala Performanceなり。このために組んだThe City CHamber Orchestra of HKなる楽団を指揮するのはウラジミール=アシュケナージ先生。プロコフィエフのピアノ協奏曲4番(左手のため)の演奏はゲリー=グラフマン師、続いてパ スカル=ロジェさんがラヴェルのピアノ協奏曲ト長調、で休憩はさんでクリスティーナ=オルティス女史がラフマニノフのピアノ協奏 曲 2番。当初の予定ではグラフマンに続きOrtizがヴェートーベンのピアノ協奏曲3番でトリがロジェのラヴェルであつたが演目変更は必然的にかなり華やい だものに。楽団は未知数だしアシュケナージの指揮も個人的にはそれほどの期待はないがグラフマン、ロジェ、オルティスのピアニストの演奏を一晩で、しかも 本人が得意中の得意とする楽曲なのだから必然的に期待も高まるもの。グラフマン師の演奏はこの曲は聴くのは二度目。八旬でこの音色。ドビッシーやラヴェル 弾きとして評価高いロジェさんだが、この楽曲で殊に第2楽章は出色の出来栄え。音を織り込むやうなこんなアダージョ=アッサイはアタシには初めて。もしこ のロジェさんのラヴェルを小澤征爾の指揮でサイトウキネンなんて、想像しただけで失禁しさう。なんてこつた!と感動醒めぬままオルティスさんのラフマニノ フの2番。誰が弾いても第1楽章の導入はゾク/\とするこの曲だが彼女はまるで馬を調教し慣らすやうにピアノを撫で、叩き、楽団の旋律になれば音に聴き入 り自らの躍動を顕に、自づと曲は盛り上がり続ける。エネルギッシュな、で且つ繊細な演奏は万雷の拍手にご本人も高揚するほどの出来だつたやうで目頭を押さ へられてゐたほど。本当に素晴らしい演奏を聴けてしまつた。奏者も凄いが何よりも、このピアノコンペを2度にわたり主宰したAndrew Freris氏のお見事。BNP Paribasの投資部門の要職にあり折からの金融恐慌ではかなり深刻だらうが当然、一切それを噯にも出さず連日のステージ上では饒舌なる一言続けた由 (Z嬢談)。
▼中信泰信(CITIC)の株価暴落は一夜で半値。HK$155億の巨額損失はCITICによる豪州での鉄鉱会社買収に絡む豪州ドルのデリバティブ投資で 昨今の豪ドルの急落での為替損に拠るものの由。一大企業、それも中国政府の信託企業である中信集団傘下と思ふとリスク大きなヘッジファンドへの巨額投資は 無謀。この会社で投資請け負ふ二人の重役即刻解雇されたが実は同社最上層部も知らぬ資金運用部の独断での取引で、更に解雇された二人は実はスケープゴート でこの無謀な投資の主犯は中信泰信の栄智健(Larry Yung、かつての名駒オリエンタルエクスプレスの馬主と言つたはうがこの日剰読まれる方には分かり易いかしらw)の娘で同社財務部の管理層にゐる栄明方 の由。巨額損失が栄智健ら最高層部に知らされたのが九月上旬。で北京の中信集団よりUS$15億の緊急資金調達を受けたりしたやうだが今回の金融恐慌で 「もはや手の打ちようなし」で事実公表、株価暴落に至る。ところでこのニュースを伝へる共同通信電「中信泰富は香港株式市場に上場し、中国政府の支援を受 けた有力企業とされる」つて、この「される」は何だ? 中信泰富が中国政府の支援受けてゐることなど当然の事実。それを「される」としたのは若い記者が知 らないだけ?(笑) 記者の無知は百歩譲つて最近の新聞、通信社は熟練デスクの不在こそ問題では? ちなみに中信集団について復習せば、20世紀前半に栄 徳生といふ広く紡績や製粉など扱ふ商人あり、後を継いだ息子の栄毅仁は50年代に自有の企業体を国家に献上し国営化に協力。所謂「赤い資本家」の筆頭格で 上海市の副市長。文革時代は辛酸を嘗めたが1979年に国務院直属で創設された中国国際信託投資公司(中信集団)の経営を鄧小平より託される。毅仁は 1998年に国家副主席となり2005年に逝去。その息子が智健で文革では四川省に「下放」され、その後は中国電力部に勤務(これが後の李鵬の発電閥に繋 がるが)。1978年に香港に移り住み80年代後半に中信が香港で開設の子会社「中信香港」に参画。数年でこゝの董事となり、その後は同系列別会社の中信 泰富のオーナーとして現在に至る。中信集団が国務院直属の政府系企業なのに対して中信泰富が栄家の私企業的色彩が強いのは事実だが中信を冠とするやうに中 信集団の資本が投入された会社で智健自身が中信集団の常務董事。この経緯を見れば「中国政府の支援を受けた有力企業とされる」なんて表現が曖昧なのは当然 だし、文法的には「中国政府の支援を受けてゐるとされる有力企業」のはうがまだ正確だらう。どうであれ中信泰富、これほどのデリバティブ投資が一握りの幹 部の匙加減一つで行はれたことでコンプライアンス上かなりの信用失墜。中信集団本部は今回の中信泰富の巨額損失補填のためUS$15億の資金提供を既に決 定ださうで(03年にはSARS疫禍の不況でも資金補填あり)栄智健は本日、北京に上奏で善後策請ふ由。これは小さく見れば一企業の無謀な投資の失敗だ が、巨きく見れば国務院直属の政府系企業の関連会社では資金も何割かは知らぬが国庫よりの拠出、それを「赤い資本家」の孫娘が投資しての損失では、まさに 政府中央の企業経営、投資へのコンプライアンスに問題あり、だらう。
▼上海で七月に警察署に押し入り警官六名を銃殺の若者に上海高級人民法院(最終審)が一審と再審判決を引き継ぎ死刑判決。……と言へば凶悪殺人犯に極刑、 で済みさうな話だが中国ではこの若者に共感集り英雄視する見方もあり。コトの発端は昨年秋にこの若者が無登録の自転車で上海市内を走行中に警官に呼び止め られ署に連行され身元調査など受けたこと。警察の尋問態度など不満に思つた若者は公道に訴へ賠償求めたが聞き入られず鬱憤晴らさうと、の結果がこの殺戮。 党政府末端の官僚機構の横暴、汚職や公安当局への不満など鬱積した市民にとつて、のこの若者の行為がどう映るか、である。
▼マカオのカジノ減収=中国のマカオ渡航者数の引き締め。中国で唯一の合法的な賭場だが賭博のネガティブな社会影響もあるが何より収賄の公僕によるマネー launderにマカオのカジノが使はれることへの警戒(Reuters電)。確かに豪奢な生活や不動産投資では世間に「賄賂を受け取りました」と言ふや うなもの、で投資先も香港はすでに政府中央に筒抜けが怖く、スイスの銀行に預けるほどの巨額資金にもあらず。で持ち出せぬカネであるから博打に賭ける。賭 けて儲かれば手持ち資金増え、擦つたところで懐は痛まず。そのニーズに米国のラスベガス賭場資本が便乗した形だが、いづれにせよ中国の公金が米国に流れる のはバカな話。

十月廿日(月)快晴。新界に出向く用あり通りがかりで香港中文大学の文物館にて「澄懷古今:莫家三代珍藏」参観。香港 開闢で英国洋行(貿易商)の地場「買辧」として華人商人の中で突出した莫仕揚(1820〜1879)の一族の当代家主に至る中国美術品の蒐集を展示。実に 落ち着いた趣味への姿勢が貫かれてをり見事。莫家の洋館豪邸は現在のConduit Rdの聯邦花園。
▼昨晩だつたかNHKのニュースで「作家の北杜夫さんが……」と流れ「亡くなつた?」と思ッたら松本市の山と自然博物館で開催中の「どくとるマンバウ昆虫 展」の会場を訪れた、と(笑)。もう八旬。若い頃にはベストセラー多し。もう四半世紀も前から、一旦売れてからは躁鬱をネタにエッセイを書く以外は遠藤周 作、佐藤愛子らとテレビの鼎談番組「素晴らしき仲間」だつたかで軽井沢の誰だかの別荘で楽しく可笑しく語り合ふ姿を見つゝ、当時すでに、いつたい何をして ゐるの?といふ感じあり。これほど幸せな人生も他にはあるまひ。
▼珠江デルタでの製造業の連鎖倒産の兆し。香港工業総会の主席曰く珠江デルタに進出する香港資本の企業7万社のうち四分の一が来年春節(旧正月)前に廃業 になるだらう、と。世界同時金融不況の所為、とするが、かうした広東省に進出の香港企業、製造業と言いつゝオーナー社長といへば本業はさて置き社長室には 株価などモニタがづらりと並び投資ビジネスこそお盛んな方少なからず。で得意の対米輸出が冷え込み減益で投資資産も激減では資金繰りに行き詰まり倒産も必 然か。香港の中資企業の象徴たる中信泰富(CITIC)が社主自ら急きょ会見でHK$155億(株価総額の1/2で同社の利益の1.5年分)の損益を発 表。投資担当の重役二名を解雇(年収数億円プレーヤーの退場は当然だらうが)。中国のGDP成長率の今年第三期は9%と、11四半期ぶりだかで10%割り 込む。9%は他国からすれば羨望の的だが経済成長続けることが安定の必須たる中国にとつて8%下回れば情勢不安確実。マカオはマカオでラスベガス資本のカ ジノ Sands が賭場拡張にあたり銀行団から受ける予定であつたUS$53億の融資計画を取り消し。折からの金融恐慌で先行き不透明感もあるがマカオぢたい中国からの賭 場客減で月毎のカジノ収益が(金融恐慌前の)先月、前年同期比3.4%減、前月(8月)比28%減と三年ぶりに減益の由。コタイのあの埋立地のカジノ群が 廃虚とならぬやう祈るばかり。
▼木挽町の歌舞伎座建て替へ。歌舞伎座「さよなら公 演」と銘打ち16ヶ月!おい/\そこまで引つ張るのかい?で再来年4月で閉場。当初は今年8月で閉場の予定が延びて来年3月一杯と言つてゐたの が、これ。かくなる延引の理由は資金繰りゆゑと専らの噂。いづれにせよ永山帝ご崩御で今さら建て替へと新歌舞伎座建立を急ぐ必要もなし。それにしても今月 は八重垣姫役は他に立女形不在でノーチョイスで大和屋なのか、で三千歳役はもう菊之助。浅草平成中村座は中村屋の戸無瀬。女形にかつての三代目時蔵だの大 成駒だの格を期待しちやいけないのかもしれないが。来月こそ顔見世でそれなりに豪華だが十二月の歌舞伎座百二十年と銘打つた興業がこ れぢや年の瀬もパッとせず(昨年のこ ちらのはうがマダ、人気役者揃つて師走気分かしら)。

十月十九日(日)晴。朝、裏山を10kmほど走る。朝夕は涼しいがさすがに晴れた昼間はまだ暑い。小学校高学年や中学生相手の雑誌で(今はどうか知らぬが 昔は)読者からの「いつも女性の裸とかいやらしいことばかりを考へてしまひます」なんて質問に「スポーツでさういつた気持ちを発散しませう」なんて毒にも 薬にもならないワザとらしひ回答があつたが、性欲は知らぬが一週間、頭に溜まつたモヤ/\といふかストレス解消にはやはり無心に走るとかアドレナリンの分 泌は効果があるのは事実。午後、某氏入院に付添ひ大圍の病院。夕方、誰か人に合ふのがイヤで普段は絶対に行かないアピタ(旧ユニー)で土鍋購入して帰宅。 愛用の土鍋の蓋が先日割れてしまひ「花柄」みたいのは入手用意だが素焼きつぽいやつをやうやく見つける。帰宅して早速、土鍋で先づ粥を煮る儀式。で晩はお でん。晩にNHKスペシャル「世界同時食糧危機(2)食糧争奪戦~輸入大国・日本の苦闘~」少し見る。穀物の自給。今から四半世紀以上も前に井上ひさし氏 が(更に遡ればNHKのラジオ放送劇としては東京五輪で愛国心高揚の1964年に!)吉里吉里の国の独立の物語の中で非武装中立だが食糧自給こそ国の安全 保障の根幹、と指摘してゐたが結局、日本は先進国の中でもとくに食糧自給率の低さを考へると、それこそ保守反動右翼や自民党の先生方が嗤つた「丸腰平和 論」そのもの。
▼昨晩だつたかCable TVの娯楽台で「上海タイフーン」なる文字通り今が旬、で上海舞台にしたドラマが流れてゐて、ふと1997年の香港返還数年前の香港ブームのころに「ポケ ベルが鳴らなくて」といふドラマあつたこと彷彿。妻を日本に残しながら若い恋人が出来てしまつた役の主演は先日亡くなつた緒形拳。このオヂサンが「ポケベ ルの使ひ方がわからず」恋人とのrendezvousが云々、と今では隔世の感あり。
▼先週末のFT紙が社説“It's Super Gordon”と題して金融恐慌に対して経済通ぶり発揮して活躍の英国のブラウン首相を讃めるのだが英国的といふか実に面白い。
Has Gordon Brown saved the world? The prime minister who only weeks ago was perilously close to being repudiated by his own party, who was derided by his Conservative opponents as a bottler and a bungler, is now enjoying international adulation.
と最初から歯に衣を着せず、で始まり
With winter coming and a recession in prospect, British voters may soon forget his part in staving off a crisis few people in any case understood. Job losses, high fuel bills, and difficult public spending choices, by contrast, are readily understandable. They may expect a prime minister who has significantly enhanced the powers of the state, and whose currently energised persona emphasises the indispensability of the state, to provide results well beyond the government’s capabilities. Saving the world may turn out to be a lot easier than saving his premiership.
と国際金融への貢献は讃めても、それがそのまま内政安定、首相としての期待には繋がらないよ、と。日本の新聞もこれくらゐの社説が載れば面白いのだが。

十月十八日(土)さすがに朝二時過ぎに目覚めてしまひ香港で一人時差惚けモード。金曜深夜では今頃就寝の輩の方がずつと多からう。窓を開ければ夜風心地良 く車の往来もなく外は静まりかへり、喫茶し机に凭るには良い時間。明け方に一時間ほど寝て新聞配達の音に目醒む。昼にかけピークの某氏邸にて秋恒例のガー デンパーティあり末席を汚す。午後、湾仔に遊び無印で買物して帰宅。栗、ピーマンのマリネ、チーズといつた少しの簡単な食事でCh. de Puligny MontrachetのMeursaultの05年飲む。また午後九時就寝。
▼広東省で玩具製造工場が相次いで倒産。数ヶ月の賃金未払ひで数千人の労工が不当解雇に抗議して東莞の豪奢な市政府に出向き警察が出て警戒し労工ら市政府 にも近づけず。プロレタリアート独裁国家ながら労働者運動が規制される不条理よ。香港では家電大手の泰林が倒産。これから数ヶ月、小売店や広東省に工場も つ製造業の倒産少なからず、と専らの噂。
▼米国総統選挙。米国では紐育時報など民主党系はもとより従来、共和党系候補支持の有力新聞が相次いで小浜君支持に回り小浜馬楽君の当選はよつぽどの番狂 はせなければ確実。アタシは個人的にマケイン氏当選の方が米国にとつて現実的に有利ではないか、と思つてきたが共和党のもはや伝統的なレーガノミクスでは 金融恐慌で土台が脆くも崩れ去り、しかもアラスカの奇妙なヲバサンを副総統候補としたことへの驚きと不安。この二つがまさに負因(まけゐん)。で結局「外 交も金融も未知数」の小浜君有利とは。

十月十七日(金)小雨。自分が日に何百通のメールを受け取り何十通のメールを送信してゐるか、なんてコトを豪語する奴に限つて実は仕事が出来ないよね、し かも何百通はジャンクメール含む(笑)なんてアタシも普段嗤つてゐるが、実際に毎日、何十通といふ込入つた内容のメールの送信者となつてゐて、もはやメー ルの往来だけが仕事のやうな日もあり。これこそ虚業の極み。メールなるもの本当に便利なだけか。過剰に連絡が過密となり必要以上の情報が飛び交ひ、ただ無 謀に忙しくなるだけ。今週は火曜日に鳥渡、外食したくらいでアトはすつかり陋屋と秘密基地の往復で終はッちまつた。晩に秋らしく栗ご飯。牛蒡や山芋の具だ くさんの豚汁。九時過ぎ就寝。
▼史上最悪のニュース番組としての今晩のNHKのNW9。今晩は屋久島の縄文杉。キャスターの田口某は「実は私も先日の休みに屋久島に行つたんですが、ほ んと素晴らしい自然ですねっ!」だつたかと宣ひ、実は特集のテーマは観光客激増で環境破壊。キャスター自身もその観光客の一人(笑)。日本と中国以外なら ガ ラパゴス島のやうにさつさと入場者制限し入島者と地場の観光業者から観光税徴収して自然保護に当てるなど当然だが、それすら出来ず地味に観光客に自然保護 (殊に自然保護地区での人糞、尿の始末)に募金を願ふのが精一杯とは……。
▼香港政府の某部局より20頁にわたる大量のファクスが届く現場に居合はせる。香港中の関連組織相手に香港と内地の連携、一体化深めるイベント云々の宣伝 で参加求めるもの。どの程度の反応ある企画なのかは不明だが一般的感覚として不特定相手に20頁のファクスを送るかしら。先方の担当官に電話で疑問呈すが 「OK、OK」と聞く耳を持つでもなし。申訴專員公署(オンブズマン)にでも告げ口したろか。愛国教育運動未だ尚盛ん也。
▼朝日新聞が岩井克人教授に「資本主義は本質的に不安定」と語らせた大きな記事が目を惹く。ケインズは市場経済の不安定さと政策による制馭を説いたが米国 政府はその政策の成功の結果、国家機構が肥大化し無駄が大きくなり、これに対してフリードマンらの新古典派の市場主義が注目されレーガノミクスからブッ シュに至る。岩井教授は、ブッシュ政権は「規制をなくして、負債でもなんでも証券化し、世界のあらゆる部分を市場で覆ひ尽くそう」とし「近年はいわば、新 古典派の考える理想郷をつくる壮大な実験がグローバルな規模で行はれている」と論駁して、下記の通り語り続ける(要旨)。
資本主義はなぜ不安定なのか。それは資本主義が「投機」によって成 立しているから。資本主義を支える貨幣それ自体が純粋な投機に他ならない。交易でなんとか他の人が受け取ってくれると予想し、またその人も他人が受け取っ てくれると予想できるから貨幣を持っているにすぎない。だから貨幣も投機。貨幣は二律背反的に効率化と大変な不安定をもたらす。貨幣が支える資本主義で新 古典派経済学者が説くような効率と安定はあり得ない。米国のサブプライムローンは「返済が難しい」と最初からわかってる人への融資は、それ単独で1件なら ハイリスクと映るが、それを大きく束ねて証券化すればリスクが薄められて見え、更に多くの金融商品と組み合わせて厚く積み上げ世界中にばら撒くことでリス クが表面上は見えなくなる。そうした金融商品を人々は恰も最も信用する貨幣のように見ていた。一旦一つが破綻すると信用は容易に失墜して金融危機となる。 今後、米ドルの価値が大いに揺らぎかねず、これまで隠蔽されていた貨幣の不安定性の問題は今後は表に出てくるかもしれない。

十月十六日(木)未明に目覚めると月の光が窓から居間の床を照らすのが美しい。朝早いうちに電網でさつさと来春のHK Arts Festivalのチケット予約。今 日から先行予約開始。目玉はベルナルト=ハイティンク指揮のシカゴ交響楽団。モーツァルトの41番とリヒャルト=シュトラウスの「英雄の生涯」が初日で翌 晩はマーラーの6番。ハイティンクももう齢八旬。アタシらの世代にはコンセルトヘボウ管弦楽団のハイティンクといふ印象強いがもう20年も前のこと。歌劇 はラトヴィア国立歌劇場でヘンデルの「アルチーナ」。ハイティンクとシカゴの後者、京劇などいくつか切符押へる。本日も多忙続くが少し先が見えてきた感あ り。落ち着かうと先のちよつと個人的に楽しみな動き画策。
▼史上最悪のニュース番組としての今晩のNHKのNW9。相変はらず、なぜ不安を煽るのか。東証株価のまた大幅な下落。「下落はいつたいどこまで続くの かッ!」って、火曜日の急上昇が先週の下落からの反発でご祝儀的なもの。「止まらない下落」って、冷静に考へれば先週の底値からの下落幅で考へればけして 大きくないし「長期的混乱が続く」といふ見方が世界で当然なわけで、だとすれば「まだ下がる」のはもはや想定内ぢやなからうか。
▼今日の朝日新聞の天声人語(こ ちら)はお粗末。
上方落語の人間国宝、桂米朝さんが、デパートの食堂に通い詰める昔 の芸人衆を『米朝よもやま噺(ばなし)』で描いている。注文はといえば、お子様ランチ二つと酒5本。この取り合わせ、なにやら据わりが悪く、並べて聞かさ れると説明が欲しくなる。「いろんなおかずがちょっとずつあるんで、飲みながら食べるのにまことに都合がいい。仕上げのチキンライスまであるしね」と師匠 の種明かしが続き、合点がいく仕掛けだ。どう説明されても、落ち着かない取り合わせに出くわした。はなむけと死、である。海上自衛隊の特殊部隊で、日頃の 訓練がきつくて隊を離れる男性(25)が、15人を次々と相手にする「格闘訓練」で亡くなった。海自側は「はなむけのつもりだった」と遺族に語ったそう だ……
と、確かに何れの話も「落ち着かない取り合はせ」だが「お子様ランチと日本酒」と「餞けと死」を並べて語れる、センスはとても尋常とは思へぬ。で
日本海での不審船事件を教訓とした精鋭部隊である。無法国家まで相 手にするからには、一対一を含め、厳しい鍛錬は当然であろう。その上で問いたい。味方を死なせてどうする。はなむけの語源は、旅立つ者の安全を願い、馬の 鼻を目的地に向ける所作とされる。国防を担わんとする若者を仲間が冥土に送っては、この言葉が許してくれまい。自殺の多さといい、組織が病んでいるのなら 危うい。軍と閉鎖体質。こちらは古今東西、なじみの取り合わせだ。
とまとめてみせるがベタすぎ。軍の、殊に戦場や特殊部隊の精神の異常さ、なんてジョセフ=コンラッドの『闇の奥』とか文芸作品でもいくらでも描かれ、寧ろ 「フレンドリーでオープンな軍」なんて想像しただけで米朝師匠ぢやないが落語だ。この特殊な集団からの除隊を願ふ一人の青年に15人が順番に、外部からは 暴力と見られる鉄拳をお見舞し殴り倒す世界。これが60年代なら三島由紀夫なり大島渚により「暴力とエロス」で語られた。それが米朝の四方山話と一緒に語 られることの方がアタシには精神的にずつと怖い。まぁ見方によつては部外者には滑稽といふ点では同じだらうが。

十月十五日(水)快晴。今日の日経にポール=クルーグマン氏ノーベル経済学賞受賞受けた記事紙面が充実。十三日の同氏の受賞記者会見を伝へる紐育の藤井一 明特派員の記事がわかりやすい。東京大学の伊藤元重教授の言ふ通りアタシなど「学者としての業績は知らなくても、厳しいブッシュ政権批判者として教授の名 前を知つてゐる人も少なくない」の一人。その経済理論についての伊藤教授の文章を読むがアタシのやうな門外漢にはひとつつも理解できず。FT紙でもクルー グマン教授の経済理論を比較的平易に紹介するが
Earlier trade theories suggested that a country would trade with partners that were different - rich would trade with poor, and capital-intensive would trade with labour-intensive. In practice, rich countries tend to trade with other rich countries. Mr Krugman's analysis showed why this was to be expected: many products were most efficiently produced by large companies, but consumers wanted variety and would buy products from foreign giants as well as the dominant domestic corporations.
と言はれると、この程度のことがそんな凄いことなのか、と思ふのだが。経済といへば若い投資家のS君よりビデオドキュメンタリー“Why the Federal Reserve Violates the U.S. Constitution”を知らされ興味深く見る。米国の連邦 準備制度(FRB)は米国の実質的な中央銀行だが実際にはJ.P.モルガンやロスチャイルド財閥、ロックフェラー家などの影響受けたウィルソン大統領が 1913年にこのFRB設立の法案に署名しクリスマス直前に議会で通した結果(多くの議員は休暇中)設立された「民間銀行」。だから当然いつたい誰のため に機能してゐるか、は明白。これは一部の人には周知の事実だが、このドキュメンタリー見る限り米国市民の多くはそれを知らず。本日も多忙続いたが疲労も鬱 積するとフラ/\で強制終了で早晩に帰宅。それでソファか寝台にでも倒れ込めば可愛いゝが赤葡萄酒とパイプ煙草を喫す。少し飲んだだけだが一更で早々と使 ひ物にならず。

十月十四日(火)かなり疲れてゐても年寄りは四時間くらゐの睡眠で未明に目が覚めちまひ、しかも昼間に睡眠不足で眠くならないから不思議。若い頃なら 「願ッたり叶ッたり」の効率の良さだが年寄りは体力がどうしたッて落ちる分、省エネ型にな り睡眠も要らなくなるのかしら。早朝にドサッと届いた新聞を読む。Paul Krugman氏ノーベル経済学賞受賞でIHT紙=紐育時報こそ大きく記事にしさうだが一面トップはタイの都市と農村貧富格差を取り上げ、紐育との時差も あるがPK氏の受賞はIHT紙の今朝の版には記事にもならず粛々とでも言はうか、いつものやうにPK氏の連載論説記事で今朝は“Gordon Does Good”が掲載されてゐるのが寧ろとてもスマート。蘋果日報はさすが余裕で昨晩香港時間七時だかに発表になつた、この受賞を1面全面 で報道し、内側紙面でも1面割いて前述の紐育時報の“Gordon Does Good”を英語と中文翻訳で掲載。FT紙はこれを1面記事から伝へ社説の“Why Mr Krugman deserves his Nobel”は秀逸。「通常のノーベル賞受賞者が発表されると「それッて誰?」だが昨日は違つ た。ニューヨークタイムズのポール=クルーグマンはミルトン=フリードマンのやうに、最も知られた受賞者だつた」との書き出しで
There is truth in that. While his criticisms of the Bush administration’s woeful policies have tended to ring all too true, his rage can diminish the persuasiveness of his argument. In any case, many journalists can shoot the fish in that particular barrel, but only one economist can pen a whimsical “theory of interstellar trade”. Even when the polemicist is at the top of his game, the witty populariser of economic logic is occasionally missed.
It is not too late for Paul Krugman to return to what he does best: explaining how the economy works, why it matters, and what wrong-headed policies can do to it. In fact, that change may soon come. If so, it will not be because of the Nobel prize, but because the Republicans no longer hold the White House. An Obama presidency might persuade Mr Krugman that his services on the political front line are no longer so urgently needed.
Slogans and polemics matter. So, too, do models and data. Paul Krugman is a master of them all. We congratulate him.
と氏の徹底した姿勢に賛辞を惜しまず。ところでHSBCの華人筆頭のExecutive DirectorのPeter Wong氏が或るセミナーで聴衆相手に語つた言葉。「昨年、一人の学生が私にどう投資戦略を立てれば良いか、と尋ねた時に言つたことは「自分自身に投資す ること」が最良なのだ」と(SCMPのLai See欄)。御意。本日はまた一つ想定外の某事あり。来春まで本当に忙しくなりさう。晩にA氏、N氏と城市花園の「自然や」に食す。二更に十六夜の月を愛 でつゝ家路に着く。

十月十三日(月)IHT紙でダウ・ジョーンズ工業平均株価の変遷を1896年の開始からの折れ線グラフで眺める。大恐慌だの石油ショックだの暗黒の日曜日 だのいろ/\あつたが指数が戦後の殊にこのレーガン時代以降の伸びがどれだけ異常か、またこの数週間のショックがいかにまだ?小さいものか、異常なのだか ら泄瀉しての萎縮も当然なのか、と思ふ。が英国などの公的資金導入に刺激されてか恒生指数など大きく反発。日本は休日で明日に期待は持ち越しかしら。本日 も多忙でバタ/\としてゐたが晩に紐育時報のPaul Krugman氏がノーベル経済学賞受賞と知る。

十月十二日(日)曇。或る行事あり早朝より終日労役に従事す。顔はお見かけした事あるがお名前も知らぬ、殊に香港に長く住まふ邦人の方に相手からすると何 処か親しげにお声かけいただくのは、ふと、このサイトご覧の方かしらん、と思ふ。
▼週末のIHT紙で紐育時報のPaul Krugman氏の“Moment of truth”興味深く読む。
先月、米国財務省がリーマン兄弟社倒産を放置した際に私はヘンリー=ポールソン財務長官は「金融でロシアンルーレットをしてゐるやうなもの」と書いた。明 らかなやうに、銃には銃弾が入つてたわけで、リーマンの倒産が世界金融恐慌の引き金となり、状況は次第に悪くなつてゐる。
といふ書き出しで「いつたいどうすればいいのか皆が一緒に考へよう」と、以下引用。
Why do we need international cooperation? Because we have a globalized financial system in which a crisis that began with a bubble in Florida condos and California McMansions has caused monetary catastrophe in Iceland. We’re all in this together, and need a shared solution.
Why this weekend? Because there happen to be two big meetings taking place in Washington: a meeting of top financial officials from the major advanced nations on Friday, then the annual International Monetary Fund/World Bank meeting Saturday and Sunday. If these meetings end without at least an agreement in principle on a global rescue plan — if everyone goes home with nothing more than vague assertions that they intend to stay on top of the situation — a golden opportunity will have been missed, and the downward spiral could easily get even worse.
What should be done? The United States and Europe should just say “Yes, prime minister.” The British plan isn’t perfect, but there’s widespread agreement among economists that it offers by far the best available template for a broader rescue effort.
And the time to act is now. You may think that things can’t get any worse — but they can, and if nothing is done in the next few days, they will.

十月十一日(土)快晴。午前中自宅にて机まわりの雑事片づけ昼に鰂魚涌の松記に車仔麺食し午後は打合せ一つ。晩にZ嬢と炮台山の「自然や」に食す。鯵の刺 身。握りを数カン頼むと出てきたなかに甘みのある白身魚あり何かと訪ねれば赤陸(アカムツ)といふ「のどぐろ」系だから鱸、赤魚の一種。博多からの空輸だ さうで西には知らない魚が沢山。絶品の鮪の赤身のズケを握りで食す。
▼ノーベル物理学賞の益川敏英・京都産業大教授。「九条の会」に連動する「『九条の会』のアピールを広げる科学者・研究者の会」の呼びかけ人の1人で NPO法人「京都自由大学」初代学長の由(毎 日新聞)。益川教授の受賞でこの平和運動家の側面、物理学賞には直接関係ないがあまり触れられてゐないのはマスコミの「配慮」かしら。

十月十日(金)快晴。寸暇惜しみ映画『20世紀少年』見る。香港で鳴り物入りでの前宣伝は日本での同作品のヒットに加へ70年代から日本とほぼオンタイム でウルトラマンや仮面ライダー、ガッチャマン、ロボコンで育つた香港では同時代の東京の子 ども世界は受入れ易からう、といふ判断か。ただ香港での興業が早々とコケたのは140数分も見せられてまだ/\物語の三分の一、で何も結末もなし、ッての が香港の映画観衆納得するはずなし。なんだかこゝ数年「Always 三丁目の夕日」が昭和三十年代なら、昭和50年代が「ぼくたちと駐在さんの700日戦争」、でこの「20世紀少年」が昭和40年代と、香港でも昭和懐古の 邦画をよく見る。ふと思へば今日は四十数年前に東京オリ厶ピック開幕。「20世紀少年」は原作者を含め1960年代生まれの少年たちが不安定な21世紀に 40代で「当時のあのパワーをもう一度」気分で幻想した漫画と映画なのだらう、が想像力豊か当時の少年たちにも高度経済成長の後に「バブルといふ疫病」が 蔓延し「金融」といふ怪獣が世界を席巻し大都市をメチャクチャに破壊する、といふシナリオはさすがに想像できなかつたか。それにしてもこの映画、前半はぐ ゐ/\と観衆を物語に引き込むのだが、主人公の営むコンビニ(酒屋)が焼失するあたりから主人公がどうテロリストに仕立てられたが全く描かれもしないのに 本筋に絡まぬ枝葉のチョン話など少なからず(やはり映画の基本は山田洋次の脚本だらう……あくまで脚本家としての山田洋次)。物語は広がりすぎて二進も三 進もいかず収拾つかず、の、もはや安部晋三モード。娯楽映画のシナリオにケチをつけるのも野暮だが、日本の民度がいくら低くても20年やそこらで2015 年に明らかに怪しいカルト宗教母体とする政党の一党独裁国家にまでは落ちぶれまい。同じやうな近未来設定でも大友克洋や村上龍の「コインロッカーベイビー ズ」のはうが「こうなつてもをかしくない」的な現実感あり。三部作で製作費60億円の大作ださうだがアクション映画としてもノスタルジー映画、友情物語と しても中途半端、CGの駆使もベタなテレビドラマ的下町、お茶の間セットとのギャップ大きすぎ。映画だから「さて/\犯人はいッたい誰か、お話の続きに乞 うご期待!」と出来たものの、香港の客など二時間以上見せられて結末なしでは、いつも以上に早くエンディングロールで席を立つから最後のおまけの第二話の 予告編すら見る奇特な客は稀。アタシ自身、あの時代へのノスタルジー的なもので二時間以上見続けはしたが二作目は「もう結構」な気分。帰宅して自家製の牛 丼を食す。NHKでは番組の合間に太陽の所為での受信障害に関する情報流してゐたがNW9といふ番組こそ田口五朗なるキャスターの人選はまさに放送障害だ らうに。
▼最近ふと気になつた言葉二つ。一つ目は緒形拳の逝去看取つた津川雅彦の「歌舞伎役者のやうに虚空を虚空をにらみつけてゐた」。虚空を睨むのは舞台で歌舞 伎に限らず、ましてや新国劇が出自の緒形拳に「歌舞伎役者のやうに」は無からうに。新国劇といへば辰巳柳太郎と島田正吾の大往生があり緒形は若すぎる。澤 田正二郎を島田正吾が受け継ぎ確か島田の三回忌だか追善興業で緒形拳の演じた「白野」の芝居だけは見たかつた。もう一つは宮中での北京五輪受賞者の茶会に 招かれた柔道金牌の石井慧が陛下の御前で宣つた「昔からの日本人の気持ちを忘れずに前面に出て戦ひました」ッて昔からの日本人、ッて誰よ? 「昔からの日 本人の気持ち」をこの柔道家に國士舘で具体的に200字で書かせてみたい。実際には存在もしない(或いは明治20年代頃から創られた)精神論の、かういふ 幻想の言葉の跋扈が怖い。梅原猛なら「キミ、これは縄文人か、弥生から渡来人系のことか、はッきりし給へ」だらうが、そも/\陛下が「昔からの日本人では ない」新王朝の末裔だとしたら、この柔道家の言は畏れ多すぎる。

十月九日(木)曇。そごふ百貨店の東京メガネにて中近両用の眼鏡誂へ出来上り受領。東京メガネ、香港では「お高い」印象あるが検眼に45分も丁寧に慎重に 時間割いてもらひ最適な度数のメガネが出来、しかも実際には地場のメガネチェーンの2割増し程度、で先週訪れた際は丁度、改装前セールの割引の恩恵あり。 近眼&乱視で昼間の明るい時は近眼鏡でまだ良いが夕暮れ以降、殊に照明暗き陋宅にては近眼鏡で毎晩楽しみな(笑)NHKのNW9も見つゝキャスターのベタ で野暮なコメントに呆れ燈下に新聞読むにも近眼鏡では難儀。で、手許の新聞から居間で数メートル先の僅か15インチ型!のテレビモニタまで眺められれば良 し、と中近両用の眼鏡。 ドライマティーニ注いだBaccaratのグラスの氷まできれいに見えて鳥渡、感動。鮭の炊込みご飯、蜆の味噌汁に青菜、お新香にこの秋のお初で食後に山 東省産の柿。積まれた新聞読まうとするが睡魔に冒され午後九時すぎには就寝す。
▼金融恐慌で様々な暴落続くなかクラシックカメラの値段が下がつた、といふ話は「まだ」聞かず。ここ数年、ライカ買ひの無駄遣ひで寧ろライカ「投資」に先 見の明があつた、と思ひたいところ。

農暦九月十日。寒露。香港の恒生指数の安値。知己の投資家S君より「今日が投資どき」とメールいただいたが何せ先立つ、手許に遊ぶカネもなし。金融恐慌は 全く関係ないが多忙な日々続く。想定外のこともありこの一ヶ月半程で心労か体重が4.5kg減。来春までこゝ数年になく多忙な日々となるはず。晩に灣仔よ りフェ リーで尖沙咀。尖東まで漫歩。日本料理「兎に角」にK氏、盤谷より来港中のY氏と飲む。話題は如何せん、金融恐慌となる。7千億ドル(約75兆円)の米国 の公的資金導入が日本の国家予算にほぼ匹敵とか、この金額が日本のGDPの6.6日分に相応とか聞き、この規模と、そこまでして建て直す米国経済が何なの か、疑問ばかり。水菜、枝豆、生野菜に薩摩揚げなど食しつゝ、尖沙咀など観光で歩く過度の肥満体の米国人旅行者など見るにつけ、あの肥満こそ米国経済その もの也とため息ばかり。右に転載の尊子の一コマ漫画は題して「ジュラシック公園」。

農暦九月九日。重陽。一昨日より延期のトレイルで黄大仙に同趣の輩数名で待ち合はせ慈雲山から沙田坳に登り獅子山。重陽の節句に登高の人少なからず。 それなりに走り正午に城門水塘に至る。付近の山々に墓参の人多し。荃湾に下ると山あひの墓地に向ふミニバスの停留所に長蛇の列。先祖の供養への熱心さ。山 西刀削麺店に食す。ビール持込み。ジムに一浴し一旦帰宅。早晩に地下鉄で上環。中環まで裏町を歩けば街市の花屋に菊花が残る。亡き愚猫に、と数枝購ふ。 FCC。香港ショパン協会主催の香港国際ピアノコンクールの予選参観のZ嬢を待ち新聞読みつゝ発泡酒二杯。Z嬢来て発泡酒の硝子杯に菊の花弁を二つほど落 とし菊酒の趣向。軽く食し帰宅。

十月六日(月)諸事に忙殺され晩に至る。先週の国慶節、明日の重陽節、と週の間に休日が挟まるから余計に忙しい。我々は通信機器の発達、殊に携帯電話と電 子メールなんてものの登場、その跋扈でホントにとんでもない酷い社会に生きてゐる。この世から携帯とメールがなくなつたらどんなに素敵かしら。ムーミン谷 でスナフキンさんしてゐられるのに。晩に僅かの時間を惜しみ湾仔の泉記で 紫菜四寶河粉を頬張る。焼臘の再興飯店の向ひで、ここを通るといつもどちらに寄らうか、と思案。巴里の凱旋門賞が終はつてから、もう開催であつたこと気づ く悲しさよ。

十月五日(日)台風は低気圧とあり香港近くに滞り依然天気不安定。朝から雨。本日予定のトレイル(沙田凹〜城門水塘)昨晩のうちに中止決定は結果的に正 解。大雨のなかジムに出向き昼にかけて久々に有酸素運動と筋力運動を各一時間。午後薄曇り。T氏より宴会の招飲を受け晩に湾仔酔瓊樓に向ふ。夕方から復た 天気崩れ大雨。酔瓊樓が微妙に湾仔と銅鑼湾の間のため地下鉄站出てからの雨を厭ひバスで出向いたが結果的にこれが失敗。炮台山で渋滞となり銅鑼湾まで地下 鉄なら二站間遅々として進まず小一時間要す。大雨で渋滞の上、道路工事で一車線減、故障車ありと悪条件重なつたが偶然乗り合はせた路線バスの運転手の機転 利かぬこと甚だしく他のバス車輌が渋滞のなか機敏に路線やタイミングを見て少しでも進むなか牛歩モード。銅鑼湾に辿り着いても客は一刻も早く下車したいと ころ駐停車禁止で内側路線なら運転手が安全優先で客を落車させぬのもまだ解るが状況が状況ゆゑ直近の、他の路線バス停留所でも一先づ急ぐ客を降ろせば良か らうものを、それが出来ぬものだから数名の客が抗議(当然!)。宴会には一時間以上の遅れ必至でT氏に電話し詫びて欠席。雨は依然歇まづ握り寿司でも購ひ 帰宅して食さうと太古城のジャスコに寄れば握りの折詰めは三文魚(サーモン)が最低で三つ、三文魚だけ8つの一人前なんて気色悪いものもあり、三文魚避け た結果、助六と納豆巻といふ悲しさよ。
▼昨日の朝日新聞に作家堀田善衞氏の終戦食後の上海での日記見つかつた、と記事あり。今月の神奈川近代文学館での堀田善衞展で展示され来月には集英社より 「堀田善衞上海日記 滬上天下一九四五』として刊行の由。この六段組みの記事でも紹介されてをらぬが堀田氏には当時の上海の様子描いた『上海』といふ小説あり(『上海にて』と は別)。余はこれを二十 数年前何処だつたか古書肆で購ふ。一読し終戦から混乱の上海を独特の筆致で描いた内容に興味持ち幾つか質問あり堀田氏にお手紙出せばすぐに返事いただく。 ご本人にとつても遠い過去の作品を若い方に読んでいただき、と謝辞にこそばゆい思ひ。それから長寿全うされ1989年に九旬でご逝去。
▼Financial Times(10月1日)でJohn Kay氏の“Why pain is good - in both medicine and finance”は金融危機のなかの清涼剤、といふか記事の題からし て鎮痛剤。而も文章が「いかにも英語らしい」筆致。声に出して読みたい英語、とでも言はうか。
Pain has been described as the gift no one wants. There cannot be a single reader who has not, at some time, wished not to experience pain. But we are better off with the capacity to suffer pain than without it. A few people are born with a genetic deficiency that leaves them completely free of pain. They rarely survive to adult life. Leprosy has for thousands of years been the most dreaded disease. Only in the 20th century was it realised that the disfigurement was not the result of the illness itself but of inadvertent injuries caused to soft tissues by damaged nerve endings that did not allow the sufferer to register pain.

十月四日(土)昨晩深更に寝ても未明には目覚めメール開ければ門司のK先生より某商社元専務でかつて香港でお世話になつたN氏逝去と報せあり。大阪でのご 葬儀に弔電打つ。ここ数年、NTTのD-Mailなる電報を手配すること年に幾度。知己の方々の逝去とともに早朝の弔電送る我が身に熟く老い感じるばか り。海南島辺りから上陸の台風は右旋回で香港直撃との予報が急に遅々として進まず強さもかなり弱まり薄日さす好天。午前中、元朗に出向く。日系某企 業の工場見学の機会あり参観。昼過ぎ同行の方々を深井の裕記焼鵝飯店に お連れする。深井の焼鵝も数年に一度だと嬉しいがこゝ最近は鳥渡、食傷気味。さういへば数週間後にまた再訪のはず。当方団体客にも拘らず慇懃なる給仕の見 事さ。裕記の隣の鄭記士多。単なる小物屋で隣の大店の客相手 に果物だの粗末な玩具売る小店、だが侮れず。レア物のトミカのミニカーだのあり店内には真空管アンプで音楽流す酔狂な主人が営む。裕記に食せし蔡瀾氏が路 上に一服の際に好奇心旺盛でこの士多(ストア)に入り主人の煎れるミルクティーの美味さ讃めたが、その値段、なんとHK$70とおそらく香港一の高値。で 主人のレシピのこの牛乳紅茶はさう売れる筈もなし。本日この小店に入り女将にミルクティー注文すると「なんで知つてるのよ?」とそりやメニューどころか張 り紙もなし。「新聞で読んだ」と告げると出てきたのはペットボトル詰めのHK$24の普及茶?で、これでも充分に濃厚で確かに美味い。すると主人が「ミル クコーヒーが少しあるから飲んでくれ」とお椀で供され賞味。これも独特のコクあり。酔狂な主人に酔狂な日本人と好意もたれたのか、新聞での紹介だの店内に 飾られた書画だのさんざん見せられる。午後遅く湾仔まで戻り一浴し香港芸術中心。本日『≒草間彌生〜わたし大好き〜』の上映初日。14: 30からの初回は如何だつたのかしら、そりゃ「この映画が観たい」と芸術中心の館長・畏友A君に請ひ「何かあれば手伝ふから」と言つたが事緒、制作元プロ ダクションとのやりとりを徹底的に手伝ひ今日の上映に至つたのだから。で手伝ひの報酬にギャラなしで招待券だけいただき17:30の上映見る。六、七分の 入場あれば御の字と思つてゐたが結局、198人収容のホールで空席ほんの数席の満員御礼。自分が香港で観たいと思つたのがこんなことになり、そりや嬉し い。スクリーンでそりや草間彌生は素晴らしい存在だが草間スタヂオが舞台であるから畏友T君と、昨秋に香港での草間彌生の展覧で知遇得た同スタヂオのF嬢 も幾度もスクリーンに登場。一つのことに精進する人たちの天晴れ。唯々敬服するばかり。昼の食事で晩に至れど一向に空腹感ないまゝ。夕餉とらず。
▼NTTの電報サーヴィス。電報配達完了メールは有料。しかも800円。電報配達完了を電報配達で知らせるなら有料でも納得だがメールでの返信で800円 とは……。

十月三日(金)晩に慌ただしく天后の華姐清湯腩腩河を食す。だいぶ待たされ出てきた腩河が麺もスー プも「温めた」くらゐ の温さで全然ダメ。どうしちやつたのよ? で程々食して止め、いぜんから一度やつてみたかつた隣店の大利清湯腩との食べ比べ(笑)。大利はちやんと(当たり前だが)熱々の 腩河供される。個人的にはスープは醤油の強い大利より華姐の塩味の方が好き、と改めて思つたが華姐の今日の「温さ」はダメよ。尖沙咀。香港文化中心のスタ ジオシアターで京 崑劇場・上海青年京崑劇団の通し狂言「烏龍院」を見る。水滸伝に纏る、いはば外伝(another story)で「坐楼殺惜」とも呼ぶ。あまり日本で紹介も少なき芝居にて以下、あらすぢ(結末のネタばらしもあり)。
(第一場:閙院)宋朝。歌女閻惜姣父母ト戰禍逃レ山東ハ鄆城縣ニ至 レバ父其ノ地ニ客死ス。蒙縣衙刑房書吏「宋江」閻惜姣ガ父ヲ手厚ク葬ヒ、母ハ宋江ノ恩ニ報ヒ、夫亡父後ノ糊口ヲ凌ガウト娘閻惜姣ヲ宋江ノ妾トス。宋江、閻 惜姣ト其の母ヲ烏龍院ニ圍ヒタリ。宋江ニ年少風流ナル徒弟ノ張文遠アリ閻惜姣ト戀仲ニ。閻惜姣、亭主ノ宋江ニ冷タク當タリ、怒リシ宋江「モウ二度ト來ヌワ ヒ」ト言ヒ放チ烏龍院ヲ出ズ。(第二場:殺惜)宋江、宋朝ノ地方役人ナガラ曾テ梁山泊ニ陣取リ宋朝ニ刄向カフ軍團ノ頭目・兆蓋助ケ逃ガシタリシ事アリ。役 人ニトツテハ朝廷ヘノ重大ナル裡切リ行爲。兆蓋カラ屆キシ密カナ逃亡扶助ガ感謝ノ書狀懷ニ、宋江ガ家路ヲ急ゲバ、バツタリト出クハシタハ閻惜姣ガ母。コノ 母ニ誘ナハレ、モウ二度ト來ヌワヒ!ト決メシ烏龍院ニ連レテ行カレタル宋江。惜姣ガ母、ドウニカ娘ト宋江ノ仲、持チ直シテクレヌト生活モ不安、トアレコレ 二人ガ復緣取リナセド兩人冷エキツタママ。一晚眠レズ宋江ハ朦朧ト烏龍院ヲ立チ去レバ、ナント兆蓋カラ受ケ取リシ書狀ヲ院ニ置キ忘レタル不覺。慌テテ戾リ シ宋江ハ手紙ヲ返セヨト必死ニ何度モ惜 姣ニ懇願スルガ閻惜姣ハ取リ合ハズ。ソリヤ今デハ憎キ曾テノ亭主。手紙ヲ返ス代ハリニ離緣シロ、張文遠ニ嫁グモ認メヨ、ダガ今後モ祿ハヨコセ、ト宋江ニ問 ヒ詰メタル惜姣。泣ク/\離緣狀認メザルヲ得ヌ宋江、惜姣ハ手紙返スヲ澁リ……モウ堪忍ノ緖モ切レタ、ト激怒セシ宋江ハ惜姣ヲ刺シ殺シタリ。(第三場:活 捉)宋江ニ殺サレ幽靈トナリ果テシ惜姣、慕フ張文遠ノモトニ現レ、アノ世デノ一人身ハ寂シト文遠ヲ狂ヒ死ニサセアノ世ヘト連レ去ル……。
といふ話。面白さは閻惜姣がかなり強かで欲深く策略的な女であること。安定した地位と収入のある宋江とは離縁したく若い文遠と相思相愛、といふのならわか るが、実は芝居で見ると文遠はあまり魅力もない梲の上がらぬ男で惜姣にも始終、小言を言はれ耳を抓られの為体。惜姣がなぜ宋江と別れてまで文遠に惚れるの か、が不思議だが、惜姣の小狡さがこの芝居の妙と思へば文遠もまた惜姣に騙される男の一人か、といふ憶測もあり。今回のこの京崑劇場・上海青年京崑劇団は 舞台は暗幕を背に机と椅子を置いただけの道具でかなり洗練した現代風の京劇に仕立てた点はかなりアタシの好み。宋江役の耿天元(画像で右の男優、但しこの 画像は取材時の即興でのもので舞台は京劇の正装)による演出、改編。閻惜姣を演じた鄧宛霞も憎々しさを好演。だが「好、好」の台詞で親指を立てたり幽霊に なつた惜姣がまるでキョンシーの如く動くのは客の失笑買つたが、さういふ演出は如何なものか。芝居跳ね本日この観劇ご一緒したシニアチケットのA氏とペニ ンスラホテルのバー。知己のバーテンダーP君いるが若輩のバーテンダーに酒の調合任せたが、全く以て未熟。鼻歌は歌ふ、カウンターに並ぶ バー用品を目の前 でガサ/\と洗ふ、で一流のホテルのバーのバーテンダーとしては失格。P君もその指導監督に欠けるのだから多少失望。客前で緊張感に欠けるバーは困る。 バーテンダーは終始、寡黙が良い。香港なら焼鳥屋だが五味鳥を見習ふべき。

十月二日(木)写真機レンズに詳しい某氏と雑談。ライカがノクチルックスで出したf0.95から話が始まり、f値のもつと小さな レンズ(人間の肉眼よりずつと明るい)も技術的に製造できるがかなりの大口径で、極端な話、石器時代の直径2mの石でできた貨幣みたいなサイズなら問題な い。ただ、これだと動かすのにゴロゴロ、で寧ろレンズが鎮座をすまし被写体はレンズのところに来た者(あるいは物)だけが撮つていただける御神体のやう。 で、それを通常の手持ちができるサイズのレンズに収斂することの凄さ。……等々、確かに考へれば考へるほど明るいレンズは凄い。諸事忙殺され晩に至る。草 臥れ晩に帰宅してドライマティーニ一杯。赤ワインをグラスに二杯で茄子と豚挽肉のトマトベースのパスタ食す。NHKのNW9で前日から何ら進展のない大阪 のビデオボックス放火の報道?でキャスターの「早急なる安全対策の徹底が求められていますっ!」や教育関連の問題での「なにを考えているんでしょうね。教 育機関としてあるまじき行為ですねっ!」と相変はらずベタなコメントを聞いて「なんでもっとマスコミ人らしい気の利いたコメントが出来ないんですか ねっ!」と思つたら睡魔に襲はれる。ところで老人狙つた悪質な振り込み詐欺(これもベタな表現)が続いてゐるが「昔はこんなひどいことなかった」なんて共 同幻想があるが(実際には老人騙しなど江戸時代もあつただらうが)昔はちよつとでも家や財産のある家なら「家督を譲る」と年寄りなど詐欺にあつて拠出でき るやうなカネなどなかつたのでは?と思ふと老人がいつまでもカネを持つてゐるやうになつた=家督も譲れない社会であること。

十月朔日(水)国慶節。香港では午前八時より湾仔の金紫荊広場にて国旗掲揚&国歌吹奏あり続いて祝賀会。自称「政治家」文 革曽・行政長官が周囲の誰にもまして元気に義勇軍らしく国歌歌ふ態よ……。午前中、裏山を走る。気温は摂氏廿五度。曇り空に風もあり香港にしては涼しく行 山の人少なからず。最近、運動不足なのだが夏の間けっこう走ッた所為か少し気候良くなり山の上り坂も小走りしようか、フラットになればぐゐ/\と前に身体 を推し出さうか、といふ体力もあり我ながら驚く。午後、カメラ携へ外出。湾仔に遊ぶ。椿事あり綴るに能はず。晩にテレビつけると国慶節祝賀で歌舞音曲の演 目。会場に「文革曽」と董建華並び、まぁ愉快さうに演目眺める態よ。内地の地方党政府の党幹部と何ら変哲もなし。前任者にも劣らぬほど支持率低下の現任行 政長官、陶傑さんの連載によれば北角にある左派系愛国中学ですら視察に訪れた際に学生から厳しい対応受けた由(今日の蘋果日報「學 生哥反曾」参照)。
▼日本カメラの10月号を読んでゐたらチョートク先生、こちらにも(アサヒカメラと同じ元ネタ)で夏の広州旅行について。アタシの予想はアサヒカメラが東 莞のリコーのカメラ工場見学から復路だつたので他の雑誌に往路の記事か、と思へば、日本カメラでは香港から広州へ向ふ列車での話。「やつぱり!」とチョー トク先生ファンのアタシは一瞬喜んだが、さすがチョートク先生は一枚も二枚も上手で、日本カメラでの話題は、と言へば中国のカメラ「海鴎」について。 1982年に島尾伸三夫妻と香港に来たチョートク先生がPoor Man's Night Market(懐かしい……)の屋台で仕入れたのが、その「海鴎」カメラ。で今回それを持参して、四半世紀前の香港から広州に向ふ車窓からの眺めを思ひ出 しながら。でチョートク先生は広州に向ふのだが日本カメラでの話題はここまで。で当然、広州に入つてから東莞に向ふ部分があるのだが、これはきつと他の連 載に書かれてゐるのかしら。で更にチョートク先生らしいのはブログでは広州に持参のカメラは、と
リコーR8のチャージやーも発見されたので、G8を持参。他にサブ としてGRD2も持つ。他にはローライミニデジカメが市場篭に入っているから、計3台。かなりのプロ機材だなあ。
と紹介してゐる。日本カメラで記載ある通り本当は「海鴎」も持参してゐるのだが海鴎のことは日本カメラに書くので(だらう、たぶん)ブログには書かない、 といふ、これが矜恃たるもの。本当に立派な姿勢。ところでチョートク先生が暫く前に昨年秋にブログでライカのステーブリー社長以下トップ3名様が六本木ヒ ルズ49階のチョートクオフィス訪問。当時の社長の話では「今度のフォトキナでは世界がびッくりすることが3つある」と聞いたチョートク先生、当のリー社 長がすでに辞任してしまつたが、としつゝ「いい加減な刺激にはもはや興奮しないライカ人類を吃驚させる」3つが何か、と考へた結果がこれ。
その1はフルサイズのライカM8-2の登場。
その2はノクチルックスの新レンズ50ミリf0.90の登場。
その3はちょっと思いつかないが、ライカ社が再度どっかの巨大メー カーの傘下になること。
まさか「双眼鏡のラインナップの充実」とか「ライカマークの付いた、日本製デジカメの新製品」とか「ライカマークのついた高い日本製交換レンズの登場」程 度でないことを祈るのみだ、と書かれてゐるが九月末に開催されたフォトキナでは、実際にラ イカM8.2が登場しノクチルックスも新型が登場。但しM8.2はフルサイズは登場せずマイナーチェンジに止まりノ クチルックスもf0.95止まり。だが時代は確実にチヨートク先生の予言通りに動いてゐる、つてことはライカが再度どこかの巨大メーカー傘下もあ り得るのかしら。個人的にはポスト=スティーブ・ジョブスのアップル社とライカはどうにか21世紀も残つて欲しいのだが買収でも北欧企業とか。中国資本だ けは……鳥渡(笑)。印度企業はあり得る話かも。ナショナルトラストならぬユーザートラストのやうな形ですら良い、と思ふ。

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