乾 坤容我静 名利任人忙
(旧)教育基本法(1947〜2006) 憲法改正反対(九 条の会こちら

また眞理を知らん、而して眞理は汝らに自由を得さすべし。ヨ ハネによる福音書8章32節)

メ ディアはコミュニケーションの道具という素朴なイメージがあるが、もっともこの言葉は「中間」という意味であり、二つのものの間を取り次ぐという意味で はコミュニケーションの道具となるが、同時に最初は一つであったものを二つに分けるという効果ももたらす。メディアは、それがもたらす情報を共有し仲間意 識を持つグループと、そうしたものに無関心、あるいは反発するグループとの分裂をもたらす。メディアが発達すればするほどこの分化は進む。だから、メディ アの発達がコミュニケーションを豊かにするというのは幻想にすぎない。(佐藤卓己)

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■ 「はてな」の富柏村日剰・香港日記(テキストのみ)はこ ちらを ご覧 ください。
■最近のブログ化のご時世に敢へてブログ化せぬ日記を。の 心づもりでをります。敢へて全て讀むこと強ゐる日剩あつてもいゝのでは?と。
讀みにくいこと間違ひなきサイト乍ら今後とも御贔屓の程宜しくお願ひ申し上げます。
■香港の高級紙「蘋果日報」からの紙面、寫眞の無斷借用多し。同紙社主・黎智英氏自ら同紙の無斷借用轉用大歡迎と公言ゆゑ、それに甘えてをります。
 2000 年11月24日からおそらくあなたは番目の閲覧者です。


四月卅日(木)快晴。日ざしがフォトジェニック。上環にお茶を購ふ。明前龍井は林品珍茶行は未入荷、林奇苑茶行で実家に送る分など入手、で嶤陽茶行で自分 好み購ふ。値段もまち/\。昨日、北角の華豐國貨で見た箱入りが某ショッピングセンター内のY記で値段がほゞ倍づけなのには驚いた。バスで北角。銅鑼湾方 面から来る北角行きのバスが北角は新光戯院曲がつたところにバス停あり此処が十 三座牛雑のちやうど目の前。で、いつも牛雑を一串頬張る至極。なんでこんなに美味いのかしら。帰宅して鯵の開き、山芋などで夕餉。三重県の 奈良との山深き県境に近い美杉、なぜ此処が今では津市なのかさつぱりわからないが、その美杉の榧太郎生(かやたらうお)なる菓子をM女史よりいたゞき、そ れをお茶請けに頬張る。なんとも素樸で香ばしい。疫禍の時こそ、とグスタヴォ=デュダメル指揮のSBYOでベートーヴェンの五番と七番を聴く。
▼墨西哥感冒への対応で「パンデミック」と「フェーズ」なる外来語表記の中止を麻生首相が閣議決定でも出来ないものかしら。「フェーズ5でのパンデミッ ク」は楳図かづおの恐怖漫画での世紀末的な地獄絵図の風景が映る。「このまゝでは新型インフルエンザが世界各地で拡散し大流行する情況であり、その予防と 拡散阻止のため厳重な警戒が必要」といふことだけなのに。香港の日本総領事館から出た情報ではフェーズ5について「少なくても二カ国以上の間のヒトからヒ トへの感染が発生している情況であり、ほとんどの国は影響を受けていない情況であるもののパンデミックが差し迫っていることを示す強いシグナル」と紹介し てゐるのは正しいところ。香港のメディポートなる日系医療関係会 社のメール情報を紹介しておかう。例へば「米国で初の死者」も
米国で死者が出たことで事態がさらに深刻になったように一見思える が、この患者はメキシコで感染して訪米治療を受けていた幼児で、基本的にメキシコのみでしか死者は出ていないとするべきだ。報道も、単に「米国で死者が発 生した」とするのではなく、「米国滞在中のメキシコ人幼児死亡」とするべきだ。このような報道の仕方が、社会に対して不安を煽ることになることは、 SARSでも学習していたのではないだろうか。
と指摘がある。その通りだらう。で以下、要旨
日本の国立感染症研究所ウイルス第3部長の田代眞人氏が今回の H1N1インフルエンザは弱毒性であると明言。つまり「体力の弱い人は」弱毒性ウイルスであったとしても死亡することもあり今後、メキシコ以外での感染者 から死亡者が出ることが不思議でない。メキシコでの初発が3月で実は4月に入る頃にはメキシコ中に感染拡大しており、すでに多くの感染者が米国など国境を 越えていたはず。だがメキシコ政府の怠慢か、WHOも関知せず。事実関係が明らかになるまでメキシコ以外の国々では弱毒性ウイルスで症状が軽いゆゑ通常の 季節性インフルエンザとして通常の治療で済ませたら……この流行に至っても不思議ではあるまい。
慥かに。墨西哥で新型流感が流行し、嘘でもその対策が始まつてから、では遅すぎ。ふだんのフライトでも数百人の乗客ゐれば一人くらゐインフルエンザ感染の 乗客がゐるのでは? その感染者のインフルエンザが新型だつた、としたらふだんから到著便の機内検疫が必要となるだろう。で、一般レベルで勧められるのは 「従来のインフルエンザ予防と変わらず」で手洗ひ、うがゐ、休養、栄養であり軽い運動を行ふことで免疫力の維持に努め「この際、禁煙も大切」と。まさにこ れしかないだろう。そして
マスコミは絶対に不安を煽ってはいけない。ワイドショー的な情報に 一般の人が振り回されてはならない。SARSを経験した日本人も今では香港に少なくなったが、当時、マスコミ報道に本社が振り回されて、過剰な対策を駐在 員に求められたため多くの香港駐在日本人がたいへん困惑していたものだ。正しい情報を収集し、冷静に判断して行動することが、今後さらに強く求められるだ ろう。
と。御意。だいたい病原菌が国境を超えることなんて、国境なんて人為的なもので壁でも何でもないのだから。ジャレド=ダイアモンド博士の『銃・病原菌・鉄』とか読むと面白い。麻生首相 は「政府は万全の対策を期し国民の皆さんは精確な情報にもとづき冷静な対応を」と呼びかけるがマスコミが不安煽り何が冷静な対応を、か。かつて安倍&中川 両君がNHKから慰安婦問題とりあげた番組の内容につき云々と問題になつたが、政治的介入があるのなら歴史番組より国民の不安煽る疫禍報道番組こそ抑制の ため介入すべきか。
▼今晩のNHKのNW9。フェーズ5がどういふものか解説こそあつたが「警戒レベル“フェーズ”」といふ表の表題は「フェーズ」がなんだか「サーズ」のや うに独り歩き。フェーズが「段階」を意味するなら「警戒レベル」で表示は良いのであり「警戒レベル“フェーズ”」は悪ふざけが過ぎる。感染は世界中に広が つてゐるが墨西哥での感染も含め新型のこの流感と確証できた患者の数は感染者数万人に対してわづか9人、といふ墨西哥感冒なのに、視聴者の素人對手に、ど うやつてワクチンを作るのか、国民全体に行き渡るだけのワクチンを作るには最低一年から一年半かゝる、とまで不安煽り、30分もこの墨西哥感冒の関連 ニュースが続く。番組の最後でも「WHOが歴史上初めての最大限の努力が必要」としたこの事態に、結局のところ対処法としては手洗ひ、うがひに健康管理が 大切で「精確な情報に基づき冷静に判断してください」と番組を結んだ。それなら余計な報道するな、と言ひたいところだし「WHOが『歴史上初めての最大限 の努力が必要』とした今回の新型インフルエンザ」と紹介したのは「WHO創立以来の……」の明らかな誤謬(笑)。風が吹けば桶屋が儲かる、でマッチポンプ 的に不安煽り報道するこの姿勢、こんなおバカな「報道」番組を流していひのかしら。……ちなみに今日のFinancial Times紙は今日は1面からこの墨西哥感冒の報道が消え4面で墨西哥政府当局の対応が新型インフルエンザ発生と治療開始から最低で二週間対応が遅れたこ との検証記事なのでした。
▼WHOの事務局長務める陳馮富珍(Margaret Chan)女史。思ひつきり「時の女(ひと)」だが香港政府衛生署で1997年の鳥インフルエンザでは香港内の家禽血祭り全処分で女を上げた?が2003 年のSARS疫禍では対応の遅れで責任問はれるなか、その年の夏に香港政府を辞す。がちやつかりWHOの伝染病対策の幹部職員となり、香港でのSARS対 処経験評価されあれよあれよといふ間にWHOの事務局長補、で中国の後押しあり事務局長。とんだ棚から牡丹餅、か人間万事塞翁が馬。

四月廿九日(水)トンフル疫禍=墨西哥風邪は、火事になると桶屋が儲かる、ぢやないが、SARSや鳥フルの時もさうだが疫禍になるとアタシの日記のヒット 数が上がる(笑)。ところで、今朝の蘋果日報に旅行鞄特集あり骨董の旅行鞄「往 事鎖於古董箱」で、かつて蘇呆区にあつたchen mi ji(陳米記)が湾仔にあること知り、早速 chen mi ji を訪れる。衝動買ひになりさう。だが昨日の信報連載で劉健威兄もライカのM8買つてしまつたこと曝露?してゐるが「價錢不便宜啊,霎時衝動,其實是潛藏已 久的物慾在剎那間爆發。喜愛攝影的人,誰不想擁有一部L機?」と、これは素直な心情の吐露だらう。chen mi ji では幸ひに好事家はアタシが最初だつたやう。記事にある「古董啡」は今、アタシの手許に。ソファや椅子などかなり食指動く。帰宅途中に北角の華豐國貨デ パート通りかゝり中国茶コーナーに寄れば信報に誰かが寄せた茶話で今年は龍井茶高値とは読んでゐたが「明前龍井」(清明節前に摘んだ葉)は一斤がHK $1200なり。清明から穀雨にかけて摘まれる二番出の「雨前龍井」も天候不良で不出来。それで「明前」が希少価値の由。これが「高い」のは事実だが前述 の信報の書き手は四両がHK$300で高からうが20数杯飲めると思へばホテルで不味い珈琲、紅茶にHK$60払ふより安からう、と。御意。だがアタシは 北角の國貨では鳥渡……。帰宅して連日の偶然ながら「豚づくし」、で今晩はポークカレーライス。久々にNW9見る。墨西哥風邪での報道のテンションの高さ に当然、期待(笑)。今朝、墨西哥からの一便がッ!と成田空港の朝の様子。乗客に機内での検疫も「中の様子は我々には伺ひ知れません」で検疫から解放され た乗客に「感染は心配ですか?」と悪魔のやうな質問。「砂の器」か。乗客が「心配です」と答へたからつて、どうする? 「さうですか」と言ふだけだらう、 対岸のアタシらは。アタシなら「心配ぢやありません。この取材をして報道するアナタたちの頭の方が心配です」と答へたいところ(それを流したら面白い が)。で乗客の一人から「機内にはまだ残された人たちがゐる」と驚くべき事実がッ!知らされた。摂氏39度の発熱の乗客がゐた由。で検査の結果一時間で墨 西哥風邪ではない、と判断され無事解放。……それなら本来「ニュースにならない」のだが。アエロフロートならチヨートクさんがウオトカ飲みすぎ で発熱してゐるだらう。Z嬢が墨西哥便にこゝまでするなら、なぜ鳥インフルエンザで茨城の養鶏場が疫禍となつたら常磐線で千葉に入つて我孫子なり、首都を 守るなら江戸川越えたところで臨時検疫をしなかつたのか?、宮崎でなら東国原知事の上京を見合はせたか?、と。御意。さらに「地方でもッ!」と市役所では 市長も陣頭に立ち(次期市長選での続投狙ひか?)駅前で住民にインフルエンザ感染警戒のチラシ配り休日返上で電話相談窓口を開くなど対応の紹介。市民も市 民で「遠い世界の出来事だと思つてゐたんですが、いよいよ間近か、つて心配になりますねぇ」と。 こゝまで20分。香港のテレビ局もBBCもCNNも北京の中央電視台も晩のニュース見たが墨西哥風邪については「感染の現状は……」と事実伝へWHOや米 国の警戒など伝へて、でお終ゐ。それが常識。大丈夫か、日本のマスコミ報道とそのニュースに慣れた日本国民。蔡瀾さんが日本人の「悲観」好きを連載で指摘 してゐたが、まさにそれ。本当は悲観するほど深刻ぢやなくても悲観してみせる習性。新聞も新聞で、日本の新聞といふのは、このトンフルならトンフルを一面 トップ、政治面、経済面、国際面、生活面、社会面と全てで「扱はなければならない」らしい。で朝日新聞も国際面なら今朝の紙面で「東アジア防戦 各国、警戒強める」と外報部が記事にする。で香港は「03年にSARSが流行した香港では不安が広がりマスクが品薄だ」と伝へる。慥かにその通りだが今朝 の蘋果日報には「市民連日來狂掃口罩,但這間位於土瓜灣藥房昨日仍有存貨」とマスクが売れるがまだ市場にある、と書いてゐる。報道といふのは街角でマスク した人が澤山の中の二人「だけ」でも二人大写しにすれば「みんながマスクしてゐる」やうに映るから怖い。今でも忘れもしない2003年のSARS疫禍の際 に日本のマスコミは某テレビ局は「現地でどれだけ情報が少なくて不安か」を前提として取材してゐたし、新聞にも香港でSARS感染が多かつた地区に日本人 学校があり日本人が多く住むやうな表現もあつた。あまりに勝手。マスコミの報道こそパンデミックそのもの。1968年の香港風邪。世界で100万人が 死亡といはれるが名前の元となつた香港は感染者こそ50万人で人口の七分の一が感染だが死者は少なかつたといふ。どれくらゐの悲惨さだつたのか、とふと気 になり、ちやうど近くにゐたL氏(当時15歳)とW姐(当時26歳)に尋ねたがL氏は全く記憶にない。W姐は娘を産んだ翌年のことだつたが「死んだ人もゐ なかつたし、流感にかゝつた人も医者に行つて薬をもらつて治して」の印象くらゐしかない、と言ふ。
▼香港大学の学生会で隠れ親中派と噂される会長が天安門事件につき反北京的な見方の平反(見直し)宣つたところリコール起き信任投票で失脚したが、親中派 御用政党民建聯の曽鈺成は「天安門事件についての平反は鄧小平を否定することで、鄧小平を否定することは中国の開放経済政策じたいの否定につながる」と、 まるで廃刊となつた文藝春秋の『諸君』ででも学んだやうなレトリックで持論力説。かういふ思考回路だから陶傑が怒る(笑)。

四月廿八日(火)某大手ホテルチェーンが120分のホテル紹介と顧客インタビューに応じればマカオの某カジノ系ホテルご一泊かAEのクレジットカードへの HK$1,000の現金贈呈といふ企劃あり。先週、半ば冗談で電話で申込んだら確約のご連絡いたします、としたッきり返事もないまゝに先方の指定が今晩。 昼前に先方に問ひ合せるとマカオご一泊は反響大きく已に爆満ですがHK$1,000はまだお受けできますので是非、と。必ず相方が必要のペアご招待で、Z 嬢と出ようか、と思つたがTANSTAAFLてなわけで、どうも話が美味すぎはしないか。ホテルの宣伝見せられ、ゐろ/\質問に答へるだけなら良いが、き つと最後は具体 的に何処ぞのリゾートの優待価格での予約だの勧められ……かしら。而もこの観光不況の最中、對手も売上げ増に焼け糞のはず。で参加辞退。早晩に湾仔。久々 に天気良かつたので、しかも全く暑くもなければ湿気も50%ほど。バルナックライカのIII型の出番だ。藍屋、石水渠街のあたり、古めかしい板金や自動車 整備の工場。さういふ風景を写真撮らうとすると嫌がられさうだが、そこがライカの強み。しかもバルナック型なんかでピント合はせファインダー覗き込み、な んてやつてゐると對手が不思議と「なんだ、写真か」程度で応じてくれる。デジイチとかの速写でバシッバシッバシッバシッとは違ふのだ。湾仔新街市の生菓寶で皮蛋を購ふ。広東語で話したのに「うちの皮蛋は有名だけど日本 人が買ひに来るのは珍しい」と愛想の良い女主人に笑はれる。何となくHopewell Centreの60数階への展望エレベーターに乗る。十数年ぶり。もう他に超高層のビルも多いが、かつては香港一の高さ誇つたこのビルは、場所が湾仔の懐 みたいな立地もあり、他にない絶景。しかも昇降がゆつくりなのが味。他に誰も乗客もをらず何度も上下する……つて、これつて山口文憲(笑)。そこから見下 ろすとHopewell Centreの向ひの眼下のビルの最上階になかなか良さげな半屋外の空間あり。訪れてみるとHなるラウンジバー。グラスで葡萄酒は智利の葡萄酒(Casa La Joya?のCab Sau)を飲みパイプ燻らす。地上29階は風が心地良い。Z嬢来る。ふと気づけばZ嬢が飲むはコロナ麦酒。墨西哥産だよ、と笑ふ。いぜんからとても気にな つてゐた皇后大道西の北方餃子源に食す。拌青瓜と大蒜白肉も 美味いが、餃子本格的な山東餃子。豚肉の美味さをつくづく堪能。死ぬ前に食べるのに白菜と韮の餃子のいづれか一つを選べ、と言はれたら白菜と韮のどつちを 選ぶ?とZ嬢と考へたが結論出ず。帰宅して「餃子のあとはベートーヴェンのセロソナタだらう」とカザルスがホルショフスキーのピアノで奏でる、を聴く。 1936年と39年の録音。今日のカメラのレンズはエルマー35mm/f3.5で、こちらは1930年製。カザルスはCDだが70年以上前の録音の音楽と 80年近く昔のレンズが現役なのだ。人生などこれに比べ儚い。が、その音楽もレンズも人類の遺産なのね。
▼トンフルで「マスコミがパンデミック」ななか信報の社説「豬流感只會對經濟造成短暫衝擊」読み溜飲下がる思ひ。(以下、要旨)
墨西哥除けば幸ひ、現時点で死亡事例なく大部分が治癒。世界銀行が 2008年一月に疫禍が世界規模となれば経済損失はUS$三兆に達し、これは全世界の総GDPの五%に匹敵。何度かの疫禍経て対応も格段の進歩を遂げたこ とは楽観的条件。今回の豚フルは現時点で感染者の死亡率は6.77%で、これは一般の流感に比べれば高いが鳥フルの死亡率(60%)に比べれば段違ひに低 く、2003年のSARSの方が厳重。(以下、略)
また紐育時報も“Hong Kong, Minding SARS, Announces Tough Measures in Response to Swine Flu” と世界各国の情況の一つとして香港の安全性を紹介。
それに比べ豚フルで、もうこのウイルスに罹つてしまつた人、殊更ながら日本に多し。兎に角、情報を発信することが死活のマスコミは墨西哥よりも「潜在的な 疑惑の疫病大国」で中国への関心高し。さらに県庁レベルでは「うちの県民はいつたひ何人、メキシコにゐるんだつぺ?」「世界中で感染者が出てッから、どう せなら、世界中どこに県民が何人か調査してみつけぇ?」と余計なことばかり。墨西哥=海外=危険、といふ幻想が「海外安全情報」を生み日本=安全に安堵す る誤謬かしら。
▼今年の流行語大賞は、もう“Swine”だらう。日本語の「豚インフルエンザ」は間抜けだし漢語の「人類猪流感」も何だか「人類豚」がB級SFつぽい。 が“SwineFlu”だ。豚を聚合的に指す一般名詞としてのSwineだが、音的にジョージ=オーウェルの動物農場の印象が強く、そして何よりピンクフ ロイドだ。空を飛ぶ豚だ。それにしてもswineなんて「豚」を意味する古語はアタシは全く知らず。「あの豚野郎めつ!」といふ時もこのswineが使へ る由。家禽のpoultryとかに近い語感かしら。
▼英語といへば日本語での「フェーズ」も耳に汚い。「パンデミック」もさう。WHOが「伝染病警戒を段階3から4に引き上げました」で良いのに、なぜ フェーズを使ふのか。外来語の響きで余計な危機感煽るばかり。どうせなら日本国民全員に「フェーズ」のスペルと意味のテストしたら?、国民の一割くらゐは 正解かしら。しかも重要なことは、この数字(1〜5)はあくまでインフルエンザの感染度が動物、動物から人、人から人、その拡散……を表示するだけ、で繰 り返すが「感染度」であつて「死亡率ではない」のだ。極端な話、「感染率だけは異常に高く、だが死亡には至らない」フェーズ5のパンデミックなインフルエ ンザだつてあり、といふこと。

四月廿七日(月)豚フルの疫禍。「金融風暴は人は殺せぬ」が、不況に加へ豚フルぢや「雪上加霜」と信報。なんだか世の敵のやうに蔑視されてゐる豚さんに敬 意表し早晩、湾仔の再興焼臘に叉焼飯を食す。ぢつに美味。客 が半ば冗談に「あら、まだ叉焼はあるの?」と店員に尋ねるのも時節柄。時節柄、といへば「長らく不況」 で?アタシも最近、タクシ自動車利用を自粛。もう10年近く前だかVW社の旧型ビートルが(今、世界の注目の的の)墨西哥で生産中止となる頃に旧型ビート ルの「黒色の車体」入手したく具体的に銀行ローンまで検討したがZ嬢から「香港で要りもしない自家用車所有するなら一生タクシー利用した方が経済的」と指 摘受け、売り言葉に買ひ言葉で「それなら」と、ついタクシ利用嵩むが、香港の簡便な公共交通機関のおかげで運動不足、せめていくらかでも猛暑までは歩か う、と思つた次第。タクシーも空車、行列目立つ今日この頃。草臥れ晩遅く帰宅して残りものゝ白ワイン飲み、嗚呼、仕合せ、と思ふ。帰宅しての一杯のドライ マティーニ(実はいつも二杯だが)、或いはグラス一杯の葡萄酒の至極。ワイン飲みながら二週間も前のFT紙の週末版を捲つてゐたら日本橋の天麩羅「みか わ」の紹介あり。「アタシはね、天麩羅は「揚げる」んぢやなくて油の中で火を通してゐるわけで、アタシの役目は魚をね、鍋ん中で、どう気や水、油と絶好の 情態にしてやるか、を始終考へてやることなんですよ」(I'm not frying, but baking in oil and my role when the fish is in the pot is to calculate the right combination of air, water and batter.……天麩羅油をバターは、やめてほしいが)と、なんだか「みかわ」のご亭主の口つぷりまで聞こえてきさうなインタビューを読む。I think that I am able to see the scales on the fish that other people cannot see and then just coat each piece in the appropriate amount of butter. After that, the trick is simply to count the seconds the fish should be cooked for. と実に天麩羅が美味さうに思へ「みかわ」が恋しいかぎり。
▼先週末にふと気づけば某信用卡の年会費がすでに一月の請求に加算されてをり支払ひ済み。年会費実質無料のカードも多いなか、このカードだけは頑として無 料特典には応じずせいぜい某超級市場の現金券で返礼あり。これでも「無いよりはマシ」だが今年はこんな不景気で而も会費支払ひから二ヶ月も経つてで恐る恐 る電話したが「これまでの実績で」と現金券いたゞける由。ところでVisa & Masterに比べAEの使へない肆は多いが不景気からだらう、AEが使へた肆でもVisa & Masterだけとしてゐるやうな感じ。埋單!の時に請求書明細をはさんでくるカバーがAEなのにAE使はうとすると拒否も時々あり。
▼ジャッキー=チェンの舌禍につき今日の信報で馬國明といふ人がルソーの自由論から説き起こした「不是「亂噏」,是現實寫照」が秀逸。自由には freedom from と freedom for があり、さういつた認識に欠けるまゝ、あの立場で「自由に渾沌とする中国人は管理されるべき」は「それを言つちやぁお終いよぉ」だらう、と。この芸人にと つては天賦の自由権といつたもの、と道徳的、儒教的な意味での「礼節をもつてきちんとすべき」が、そりや認識として曖昧なのだらう。
今朝の朝日新聞の天声人語。 「スパルタン」といふ言葉から「一切の徒をそぎ落とし、機能を追ひ求めた姿は美しい」と語り、長崎沖の端島、俗に云ふ軍艦島の話に結びつける。この島の歴 史や規模を紹介し、筆者自身の軍艦島に近い海底炭坑取材の時のエピソードから、この島を見つめてきた写真家のコメントを引張り、今後は観光開発されるこの 軍艦島に「人工地盤の下に折り重なるいくつもの記憶をたどれば、廃墟はおのづと語り始めるだらう」と結ぶ。……上手といへば上手だが疋田、深代といつた時 代なら自然に読めたかもしれぬ筆致も、いまこれを読まされると「マスコミ記者養成塾」の模範解答のやうな、なんだかNHKのプロジェクトXのやうな、どこ か作りすぎで歯が浮く感もあり。……と言ひつゝ翌日の「トンフル」取り上げたコラムでは「情報公開を求めながら情報にあわて、パンデミックより先にパニッ クに絡め取られてはつまらない」と「冷静さ」説くのは見識に思へたが。
▼昨日のChampion MileでのSight Winner馬の65倍での勝利。四頭で挑んだSize調教師、ふと思へば2004年のWE II CupでRiver Dancer馬の57倍といふのもあり。Size師のChampion Mile勝利は2003年のElectronic Unicorn以来、Prebble騎手は三年前にBullish Luckで勝利だが、この二人の組み合はせは今季三レース目。Sight Winnerが昨年11月の国際マイルのトライアルでEgyptian Raに次ぐ二著、といくらSize師に説明されても、ねぇ。Sight Winnerは安田紀念に照準を向ける由。
▼マカオに進出のラスベガスのカジノ大手SandsがマカオのSandsや 鳴り物入りで建立のVenetian Resort売却を画 策中の由(今朝のSCMP紙)。本体の運営難に加えマカオの賭場冷え込みでマカオでのカジノ経営権のみ残し施設売却が目論見。Sands側関係者は「何件 か引き合いあり」と言うが、この時期この先の経営難儀は確実のマカオの賭場商売で誰がそう易々と関わろうとするか、疑問。

四月廿六日(日)本日、競馬でAudemars Piguet QE II Cup開催。今朝になつて新聞で出走馬確認。雨空。沙田競馬場にはロクな食べ物ないので道すがら北角は七姊妹道の水餃姨姨に寄り昼を食す。餃子も美味いがセットメニューの八寶辣醤撈麺 がしみじみと美味。競馬はThe Champion Mile(冠軍一哩賽、国際G1)で一番人気は「もう七歳」のGood Ba Baと今季のダービー馬 Collectionなり。海外馬ではドバイ免税三著のAlexandrosが四番人気。まさか、で11頭中65倍の最低人気のSight Winner(Size厩、Prebble騎手)が優勝。二著は昨年12月の香港マイル三著のEgyptian Raが入つたが三著に26倍の期待薄、香港から豪州に移籍してゐたDao Dao(大脳、Marwing騎手)が来てしまひ三連単はHK$104千に至る大番狂はせ。QE II Cupは一番人気がViva Patacaで二番人気はドバイ免税で二著の英国馬Presvis、同レースで六著と振わず、のArchipenkoが三番人気につける。で結果は Presvis、Viva Patacaで三著は四番人気のThumbs Up(自由好、沈厩、Soumillon騎手)が入り、このThumbs Upを軸にワイドで一〜三番人気馬に流してゐた(なんて消極的な)アタシはほんの少しの配当あり。天気も冴えぬが、それにしても国際G1が二レースの開催 にしてはなんだか地味すぎ。東都より人形町S嬢来 港で邂逅。残り一レース、で一緒に参観のO君、プレスルームの斉藤さんと一緒に九龍塘経由で九龍城。コンビニで購入の葡萄酒(Whyndham Estate)持参でタイ料理の金寶泰。Z嬢来る。金寶泰、 蔡瀾 の揮毫が大きく飾られる九龍城のタイ料理の大店で活蝦刺身など名物料理も多し。個人的にはいつも行く金蘭花の方がやつぱり好み鴨。もう少し飲みますか、で 九龍城だし日曜晩で、ふと尖沙咀から紅磡湾岸に移転の九龍會ならバーもあらうか、とタクシ自動車で向つたが「夢上海」なる上海料理(唯靈氏お勧めの由)開 業しただけ、で西洋料理部門は五月から、で更にバーはない!こと発覚。お連れしてしまつてゴメンナサイ、でZ嬢の提案で何故か上環までタクシ自動車飛ばし て酪乳&葡萄酒のClassifiedへ。斉藤さんの見立て で南アは Tulbagh Mountain VineyardsのSyrah Mourvèdre 04年、とアタシの所望でメドックはCh. Potensacの96年。チーズも含め美味しうございました。
▼豚のインフルエンザで「トンフル」でどうかしら、呼び名は。そりや流行防ぐため敏感な対応は必要だらう、がマスコミの煽りの方が流感よりもつと怖い。 1968年の所謂、香港感冒(H3N2亜型のA型インフルエンザ)では一説によれば世界中で50〜100万人死亡といふが当時の報道は「香港から世界的に インフルエンザ大流行で死者多数」はあつても今日の報道洪水には及びもせず。流感より70年安保!か。もちろんウイルスの強さも拡散の速さも、人の往来の 増加も比べやうもなからう、が死ぬ時は死ぬ、でアタシはそれで結構。発病から死亡までが短いのが潔いぢやないか。

陰暦四月初一。午前中黯澹たる空に大雨。午後小康。昼すぎまでご執務。夕方、中環。法輪功の何とも大規模な反中共デモに遭遇。そのデモ隊を警察が誘導、道 路での安全保護する光景が何とも言論の自由。某英国公共放送の記者してゐたD君が中共と法輪功の対立を「巨大カルトと小カルトの」と 例へてゐたのが印象に残る。法輪功、中共に比べれば小粒だが資金力、組織力ありすぎ。何とも、法輪功は中共の政策上、意図的に許容されてゐるやうな気がし てならず。FCCで繊維関係C君と会ふ。先日某大手日系企業の香港代表から聞いた話=日系企業が香港で駐在員減員できるのは香港の現地スタッフの水準高く を任せできるから、といふ話をC君にするとC君曰く香港企業も十年前ならそれと同じで上海に香港採用の社員を送つて仕事してゐた、と。英国も和蘭も戦前な ら同じことしてゐたわけ。FCCで続けて明日の競馬に合はせ斉藤さん。匈牙利はKincsem Park競馬場で十九日のレースでC Soumillon騎手で制したOverdose馬について尋ねる。「ブダペストの弾丸」と呼ばれ21世紀のSeabiscuitといふやうな絶讚も。鏞 記酒家。Z嬢来て三人で食す。Penfoldsの安めのシャルドネで蟹肉合へた野菜と檸檬蝦。Dog PointのPinot Noirで清湯牛腩と豆腐料理。清湯が美味い、と斉藤さんが言ふので、さういへば湯飯つてこの食肆にあるのかしら?と尋ねると蟹肉の湯飯があり、それと蝦 子撈麺で清湯、上湯づくし。中環のWatson's Winecellarに葡萄酒の自販立飲み(enomanicな る会社のシステム)あり25ccから150ccまでお好きなだけ、で95年のCh. Latourまであるのが冗談のやうだが、それでStags LeapのCab 05年、Mitoloを各一杯飲んでお開き。
▼先日、交通違反のタクシー止めた白バイの警官、車を止めて窓を開けたタクシー運転手に大声で「你、痴線、仆街〜!」と一言。何とも日本語に翻訳不能な罵 り。「オマエ、キチガイかよ、何バカなことやつてんだこの野郎〜!」でもまだ訳として弱い。これを警官が、と思へば処分対象のやうな気がするがタクシー運 転手の応へも同じレベルの上品さ、なのか香港の路上では許容範囲かしら。どうであれ、だからアタシはどうしても広東語は好きになれず。
▼墨西哥で豚、か。疑はしい病例が最初に確認されたのが三月十八日で四月に入り急増し漸く今になつて六十八人死亡と発表。WHOは現時点で墨への渡航制限 勧告は必要ない、としてゐるらしいが、この豚流感の発生がコンゴだつたり秘露だつたらさつさと渡航制限にしてゐるはず。墨西哥でなく「墨西哥が米国に隣接 し已に米国でも感染事例が出てゐること」が問題なのだらう。墨西哥からの到著便の客に成田でマスク渡しても……。

四月廿四日(金)晩に銅鑼湾タイムズスクエアの上海新派の食肆Xにて宴会あり末席を汚す。供された料理殆ど箸をつけず。終はつてバーMとバーB梯子。たゞ ほとんど飲まずまつたり、で深更に至る。
▼六本木での芸人泥酔椿事。逮捕して家宅捜査までした警察も恐ろしいが、侮れぬは蘋果日報の「まるで現場を見たやうな」緻密な出来事図解。いつも関係者の 表情ばかりか服装、周囲の風景まで実景のやうに緻密なのが見事。

四月廿三日(木)昨晩は抗ヒスタミン薬飲んだら半時間で睡魔に襲はれ雑誌読んでゐた途中でぱつゝと落ちた。当然、八時間の熟睡。夢も見ず。晩に中環の日本 料理屋Hで打合せ&夕食、雑談。中環の一等地でこの値段とサービスはなか/\。
▼某芸人赤裸で丑三の公園にて騒ぎ警察が検挙。東都はクオリティペーパーと自讃の某新聞社も社内は活気づき最近稀な賑はひ、と聞く。公然猥褻の容疑ながら 近くの住人が「酔つぱらひが騒いでゐる」と警察に通報が切掛なら誰かその猥褻ぶり見もしなければ公然猥褻か、どうか。またこの有名芸人のご開陳を偶然見た ものが「こりやありがたい」と喜んだ場合、その者に被害者意識なければ公然猥褻罪つて成立するのかしら。全裸で、といつても公園はジュクや戦後の権田原に あらず、編み目のタンクトップに下半身裸で赤いハイヒール姿のドラッグクイーンにもあらず。で「酔つた上で」は日本的には寛容であるはずなのに、いきなり 逮捕、とは。泥酔とはいへ支離滅裂な叫び、で脱いだ服がまとめて置かれてゐた、といふのが鳥渡、気になるところ。それにしても総務大臣がこの芸人を「最低 の人間」と断罪。総務省が管轄の地上デジタル放送普及促進のメーンキャラクターをこの芸人が務めてゐるとはいへ今ひとつ疑問ある逮捕の容疑者に対して「事 実であれば」と前置きはしつゝ「めちやくちやな怒りを感じてゐる。なんでそんな者をイメージキャラクターに選んだのか。恥づかしいし、最低の人間だ。絶対 許さない」とまで言及。こちらの方が呆れて言葉もなし。

四月廿二日(水)また蕁麻疹が夜中に出てあまり眠れず。身体の膨疹、浮腫は朝までに失せたが口唇が腫れ(クインケ浮腫といふらしい)養和病院の外来でP医 師の診断を請ふ。よくある蕁麻疹で心配は要らない、と抗アレルギー薬の他に抗ヒスタミン薬など処方される。眠りを誘発する抗不安薬でもあるさうな。時々、 胸が閊へ呼吸がつらくなつたり、下腹部にきりつと激痛が走つたり一連の症状は老化もあらうが精神的なストレスも原因の一つだらう。自律神経失調の情態なの だ。休日に運動したり気が紛れてゐる時には一切悩まされないのだから。
▼李嘉誠の次男リチャード王子による自らが所有するPCCW社の私有化。この私有化過程に問題ありとして香港證監會が訴へ高裁(一審)は一月六日に合法と裁決。原告が それを不服とした上訴審は本日、あつさりと證監會の訴へ認めこの私有化否定。リチャード王子が最終裁に上訴するかしら。それにしても原告側の弁護士の布陣 に注目。證監會は弁護士に潘松輝を起用。潘松輝は民主党副党首(元「前綫」代表)Emily劉慧卿の前夫で会社法に強いが小株主らの弁護士が馮華健(香港 特区政府の元主任法務官)とリベラル派?で若手の有能と評判の潘煕で、小株主らが雇へたものか。影でリチャード王の電信大手私有化に反対の誰か、の援助あ りやなしや。このリチャード王のPCCW私有化問題で良識を計られるは信報の姿勢。香港代表する良識紙がリチャード王に買収されPCCW私有化については 扱ひ小さく社説等で取り上げぬ弱腰と指摘受け主筆が「一企業の私有化は手続き上の問題でもない限り論及に値せず」と反論。だが證監會が私有化手続きに懐疑 示した頃から立場も難しいところ。信報のMDとCEO兼任の何國輝(Morris Ho)はリチャード王が信報に遣つた腹心の一人。(翌日談……さすがに信報も翌廿三日は一面全面で取り上げ社説こそ「依法辧事 可保小股東利益」としたが林行止専欄も主筆・練乙錚もこれに触れず)

四月廿一日(火)陋宅寝室洗面台取換工事了る。先日より陋宅書室のネット不通屢々。李嘉誠の次男リチャード君私有化で話題のPCCW傘下 netvigator提供のブロードバンドモデムに不調あり職員来宅。モデム交換せば繋がるどころか同じ速度のモデムのはずなのに速度数倍。つまり従来のモデムが最初から不調だつたの かしら。早晩に銅鑼湾のバーB。タンカレーにビフィーターを3:1でジンのブレンドは珍しいが目が覚めるやうなドライマティーニを飲ませてもらふ。すると 見慣れないボトルがあり、あれ?と思へばニッカのシングルモルト余市1988だ。The World's Best Single Malt Whiskyに選ばれた逸品を開封してもらひ、そのコクに酔いつゝ思ひ出すは14歳の夏、余 市蒸溜所訪れ試飲コーナーで子どもはリンゴジュース振舞はれるなかアタシは内緒でウイスキーいたゞき、その原酒のこれがまぁ美味かつたこと。アタシのモル ト初体験。日本料理「いろり」にバンコクY氏とZ嬢と食す。終はつてバーBでハイボール飲みながら四方山話。
▼人件費削減や減便のCXは機内食もだいぶコスト削減、とY氏の弁。そのうち即席カップ麺にでもなりやせぬか、と笑ふ。JALの「うどん de Sky」に対抗してタイ航空は「トムヤン de Sky」とかベトナム航空なら「フォー de Sky」とか。そも/\たかだか簡便で良い機内食に豪華さ競ふことが間違ひで食べ残しの徒は是正されるべき。機内食も事前予約制で必要な量だけ積めば良か らう。
▼今回のタクシン派によるタイの政治行動について他に比べ日本のマスコミの関心の低さはY氏も同感。実は今回の政治運動が、これまでの「国王陛下の随意」 で掌中にあつた政変劇、クーデターと全くことなる、老いて病身の国王に対する明らかな対抗であること。しかも王室でこの攻撃を一身に受けて立つのが国王に 代り皇后陛下の由。タクシンが蘇我馬子なら皇后陛下はさしづめ推古帝かしら。あとで「バンコクの甍」なんて歴史物語になりさう。

陰暦三月廿五日。穀雨、だが畑に育つ茄子や胡瓜も茹だるが如く気温はもう摂氏三十度越える暑さ。
▼ジャッキー=チェンの「中国人は管理されるべき」発言がかなり波紋呼ぶ由。昨今「自嘲」だの「反 語」といつた言葉の綾、含みに欠け、たゞ言葉尻のみとらへ論うこと多し。日本の首相が「中国人は管理されるべき」と発言すれば問題とならうしシンガポール 政府の国民管理は不愉快。たゞ中国人自身が「中国人は管理されるべき」といふのは、さうでもせぬと、といふ自省含んでの苦渋の指摘、ととらへることも可。 ジャッキー=チェン本人も「マスコミは「断章取義」でコメントの一部のみ好きに解釈してゐる」と指摘する。が、亜細亜首脳の鳩る国際会議で立場ある芸人 (中国映画製作者協会だかの副主席)として、は発言がどう扱はれるか、を考へれば確かに場所を弁へず「言ひ過ぎ」。なにせ実質的に中国政府主催の会議で首 相が参加なのだ。
▼蔡瀾氏が蘋果日報の随筆で映画『おくりびと』を評す。アタシはあまり蔡瀾を讃めないがこの映画評はさすが蔡瀾。原 典の以下、抄訳)
葬式といふ感傷的な題材で伊丹十三は映画『お葬式』で日本人の形式 主義を諷刺してみせた。この映画が感傷的である、とするなら同じ桜一つの映し方でも野村芳太郎監督の『砂の器』と、この『おくりびと』で、さてどちらが大 作か、は明らか(注)。山崎努は私(蔡瀾)が最も好きな日本の俳優で黒澤明の『天国と地獄』から突 出した演技力を見せ年をとるに従ひ……(と讃め)広末涼子も大人の女として成功を見せた映画だらう。が、それに比べ本木雅弘の演技は幼稚で、香港映画祭で 最優秀主演男優賞とつて映画の宣伝にはなつた。この主人公の奏でるセロも最初はなんでチェリスト?だが映画の物語のなかでセロの比重こそ高まり、これは滝 田洋二郎監督の平凡さから物語を紡ぎ出す手法ではある、が山田洋次の映画作品と比べれば当然、差は一目瞭然。『おくりびと』は物語の展開で「何が必要か、 どうすれば最良か」の思考に長けた日本人らしい作品で、これは中国人が学ばねばならぬこと。米国で発明された自動車を、日本人がその後それをどう学び世界 に冠たる自動車輸出国となつたか、印度のカリーをカレーライスにしたのも同じで「日本らしさ」で完成されてしまふのだ。
……と最後は日本文化論にまで話が広がるが、慥かに劉健威兄もこの映画の物語の筋の「作りすぎ」指摘されたが、出来すぎ、が赦され「みんなで感動する」と ころあり。それぢや『タイタニック』は何が違ふか、といへば同じ気もするのだが。
(注)『砂の器』で放浪する親子が厳しい冬を越え春を迎へたシーンのこと。慥かに頗る印象深いシーン。たゞ、あれは桜でなく杏、と聞いたこ ともある。
▼今日のFT紙のすごく地味なベタ記事だが興味深い“Thaksin claims Thai king knew of coup plot”。先週金曜日の一面トップでのタイのタクシン元首相のインタビュー記事 の続報。前出の記事では表現が婉曲だつたが後出のこれでは2006年の、自らが首相の地位追はれたクーデターは勿論、これまでの政変も全て「国王の御意の まゝ御随意」と、実際にさうだらう。が、元首相の立場にあるタクシンが、それもタイでの権力復帰を狙ふ立場でこの発言は明らかに戦後の王室を頂くタイ体制 そのものへの挑戦以外の何ものでもなし。中国でも趙紫陽が北京訪問中のゴルバチョフに「全て鄧小平に決定権」がある、と誰でも知つてゐる公然の事実を口に しただけ、で物言へば唇寒し京の風、なのだつた。

四月十九日(日)昼にかけジムで有酸素運動と筋力運動各一時間。ジャスコでデルモンテ(亀甲萬)「国 産 旬に搾つた蕃茄汁」購ひ帰宅して早速、ウオトカはフィンランディアでBloody Mary作つて飲んだが「国産」ッて殖産興業的なこの響きがなんともダットサンとか豊田自動車のトヨペットクラウン、スバル360、カメラならニコンSシ リーズやオリンパスPenみたいで、この「血のメアリー」には蕃茄汁は多少濃縮くらひの方が合ふやうで「搾りたて」は甘くて薄すぎた。まぁかうして飲んで みないとわからない。YouTubeで水曜晩だかに紐育カーネギーホールで初お披露目のYouTube SOの演奏を 聴く。いきなり画面上に「倫敦にゐて紀念すべき初公演に行けずゴメンナサイ」と達者な英語でこの楽団の「大使」ださうな朗郎が登場。朗郎はFT紙(18 日、Andrew Clarkの音楽評)によれば倫敦のバービカンホールでピアノエクストラヴァガンツァ挙行の由。でこの楽団は主宰が譚盾(タン =ドゥン)でロス五輪あたりから商売上手だが、ちよつとアタシは苦手。譚盾と朗郎が目立つ、このオケが中国ではYouTubeだから観られないのかしら。 気分をかへて同じYouTubeでGustavo Dudamel指揮のOrquesta Juvenil Simón Bolívar de Venezuelaの紀念すべき2007年のBBC Promsの演奏を聴く。YouTube楽団より、やはりこのデュダメルとSBYOの登場の方が今でもずつと鮮烈だらう。BBCのCh-3はまだ土曜晩で ヘンデルの250年忌の特集を四時間も流してゐて、これを聴く。夕餉は自家製のハンバーグ。で葡萄酒は豪州のPeter LehmannのMentor 04年。PLのMentorで食べられるハンバーグは仕合せもの……つて、ハンバーグをこの葡萄酒で食べたアタシらこそ仕合せもの、か。煮た棗椰子が残つ た葡萄酒に不思議に合ふ。
▼漫画家の丸尾末広氏が乱歩の「パノラマ島綺譚」で第13回の手塚治虫文化賞(新生賞)受賞。何が今更「新生」か、と丸尾氏に失礼な気がするが煙草の「新 生」はロングセラーなわけで、それにしてもアタシにとつては丸尾末広は「ガロ」であるとか森田童子のLPや「狼少年」の絵であり雑誌『月光』の人だつた。 その人が今も乱歩の「パノラマ」や「芋虫」をマンガにしてゐることが鮮烈なのだつた。
▼スイスはダボスの世界経済フォーラムに倣ひ中国が2001年以来海南島(瓊海市の博鰲=Boao)で開催の博鰲亜細亜フォーラム。温家寶首 相が主宰、で亜細亜の指導者集め日本からは福田康夫君参加。香港からは自称政治家・文革曾行政長官。これに招かれた芸人ジャッキー=チェン君が「自由が いゝのか、自由がない方がいゝのか、よくわからない。過度の自由は台湾のやうな渾沌となる」「中国人は管理される必要がある」と発言。発言後にあくまで政 治上のことで台湾の混乱は過去のこと、と補足の由。また「テレビを買ふなら中国製を買ふか? 自分は日本製を買ふ。中国製で爆発したらたまつたものぢやな い。中国製には信用といふものがない」と。なんだか日本で2chあたりで歓迎されさうな発言。(蘋果日報の報道はこゝまでだが……笑、SCMPによれば) ジャッキー=チェンは続けて「中国で映画撮影をしようと思へば中国のルールに従はなければならない」がそれぞれの国には事情があつて仕方のないことで、 「海外の国々とそれを比べるのはとても難しい。だが中国は確実に将来は良くなつていく。それが自分のコメントだ」と結んだ。映画「新宿事件」も「悪い中国 人」を描いたジャッキー=チェン。とりかたによつては現代の魯迅か。

四月十八日(土)曇。週末版のどつさり届いた新聞に目を通してから吉田秀和全集で「ポリーニ」読む。昭和40年代に、まだポリーニを生で聴いてゐない秀和 さんは(この「ポリーニ」も所収の記載がないので書き下ろしかしら)ポリーニについて、
ポリーニの演奏には、燃えるような強烈なダイナミズムと非常な早さ で走ってゆくアレグロの音楽の中に、きれいに歌がきこえるという魅力があるのだが、その反面、奇妙な冷たい感触をもったピアニッシモの世界があり、それを 現代風の演奏と呼ぶのもたぶん的外れではないだろう。が、私はそこにこのイタリア出のピアニストの特質を、まず見るのだ。それはいわゆる ロマンティックな気質とはちがい、むしろ感覚的でしかも理智的な肌合いが強いのだが、それでいて、そこにはまるで白昼の日ざしの中で夢みるような明晰さと 硬質な優しさとの同居がある。
と綴る。「燃えるような強烈なダイナミズムと非常な早さで走ってゆくアレグロの音楽の中に、きれいに歌がきこえるという魅力」はまさに正鵠を得てゐるが、 このまだ三十代のころのポリーニに対して一昨晩の彼は少なくてもピアニッシモに「奇妙な冷たい感触」が寧ろ優しさ、に聴こえた。ジムまで走り昼にかけ筋力 運動一時間。午後に西湾河。太安樓の基記水電工程の牛雑を一 串頬張り電影資料館。Z嬢と映画監督・易文(1920〜78)の特集で1959年の映画『空 中小姐』観る。主演は「マ ンボ女郎」で有名な、初代「歌つて踊れる女優」の葛蘭(GraceChang)が当時、花形であつたスチュワーデス役で對手役のパイロットは喬 宏。当時は映画だから商社マンの宝田明も香港駐在で遊んでばかりしたが、この映画でも台北、シンガポール、バンコクと仕事より観光と恋愛に現を抜かす。折 からキャセイパシフィック航空は記録的な減益(昨年は損益HK$86億、今年第一四半期の収入は昨年同期比で22%減)でフライト削減と職員の週単位での 無給休暇による人件費削減など必死。半世紀前の空の旅の楽しさ、嬉しさよ。1959年当時の香港啓徳空港の風景が実写なのも貴重。当時まだ、今の九龍湾か ら観塘にかけて野つ原。映画終はると大雨。タクシ自動車で帰宅していくつか仕事済ませ晩に銅鑼湾。知己の映画監督C君のプロダクション。C君が月イチで開 くパーティ、といふか宴会。出 不精のアタシがかういふのに出ることも稀。H-MédのCh. Sociando-Malletの04年を持参。これを喜んだ客は稀で自分でかなり飲む(笑)。事務所の関係者や友人、芸 人や俳優、モデルもちらほら。C君にいくつか話を済ませちよつとBBQご馳走になり退席。パーティであつた客の一人と書店の話となり銅鑼湾そごふ裏の開益 書店といふ書肆を聞き、鳥渡寄つてみる。陳雲の『中文解毒』購ふ。バーSに寄る。知己のB君夫妻と邂逅。 

四月十七日(金)この三日ほど朝から昼は快晴、午後から曇り夕方から天気崩れる日が続く。ご執務で疲弊甚だし。帰宅してドライマティーニ二杯。鯖の味噌 煮、南瓜、韮など食す。
▼香港で映画を観てゐるとFortissimo Filmといふ映画配給会社の映画に当たること多し。ロードショー公開とは無縁な、地味で何とも味のある映画を多く配給、香港や中国の映画、あるいは北野 作品など欧米への紹介にも熱心。この配給会社をパートナーのMichael J. Wernerと1991年に香港とアムステルダムを基地に立ち上げたWouter Barendrecht氏が今月五日、タイで心臓病で急逝してゐたことを今日の信報で知る。1965年生まれであまりにも若すぎる、残念な逝去。
▼十四日の信報で張五常教授が「金融中心上海將遠勝香港」を書いてゐる。北京中央が2020年目標に上海の国際金融中心とすることぶち上げたが五常さんは 11年もかゝるまい、たゞ兌換為替の管制を解除し人民元の連動させすれば二年もあれば充分。香港に勝る点は、先づ香港より日の出が一時間早いこと。市俄古 より紐育が金融中心として有利なのと同じこと。次ぎに長江デルタの工業発展が珠江デルタ地域を上回り運輸、通信整備などが確実であること。そして金融関係 の人材が香港に比べ上海は全国から優秀な人材が集まること。最も重要なことは香港ドルは「己の面目」がなく米国ドルとのペッグ制で信用を得てゐるにすぎぬ こと。英国は英磅が世界圧巻した過去があるから今日も倫敦が世界の金融中心の一つとしてあるのであり米国のドルの世界通貨性は言ふに及ぶまい。通貨が国家 政府と連動することは当然で、それぞれの国は己の金融政策を有するわけで、だからフリードマン教授はユーロに賛成しなかつたのだ、と。香港が国際金融で重 要な地位を得たいなら香港ドルから人民元への移行を五常さんは説く。で香港が上海に唯一勝る点は司法と法治、だが金融の本身に限つていへば法治の重要な点 はかなり小さく、中国は慥かに司法制度と法治に劣るが上海は一都市でり一地方と考へれば政府が上海に対して経済政策と金融法例につきかなり大幅な自主権を 授ければ良いにすぎない。(以上要約)
▼中国といへばThe Economist誌(十一日号)が中国の大学卒業生の就職事情を書いてゐる。北京晩報の引用だがこの夏、中国で大学の新卒は610万人。大学の枠拡大の 結果2000年の6倍!の卒業生数。当然、就職難があり政府は才能活かし企業立ち上げようとする新卒者への奨励金(五万元)の低利子融資などさまざまな策 をとるが何せ對手は百万人単位。興味深いのは大学生の中共への入党率。1990年には党員は大学生のわづか1%だつたものが昨年は8%にまで上昇。経済成 長と安定で中共に対する信頼感高まつた、といへばタテマエで、実は就職の際に「中国共産党員」といふタイトルがせめて有用であれば、が本音か、と。
▼FT紙で一面トップにタイのタクシン元首相(ドバイ在住)が取材に応へ
I urge his majesty humbly that, please, it is time for his majesty to step in, to intervene because otherwise there will be more division and he is the only person who can reconcile the whole country.
とプミポン国王による事態収拾を願つてみせた。自ら騒ぎ起しておきながら国王に援け求め運良くばタイ政財界に復た君臨しよう、とマッチポンプぶり遺憾なく 発揮。しかも何より非道ゐのはプミポン国王がどれだけ高齢で健康上も厳しくいらつしやるか、知つての上でのこの空科白。これまでのタイの恒例行事の如き軍 や政界のクーデターと今回のタクシン騒動の異なる点はまさにこれ。これまで絶対的に王室敬慕は前提であつたが今回のタクシンは違ふ。本音は「出て来れるな ら出て来てみやがれッ!」ととられても不思議ぢやない、自らの失脚に枢密院介し間接的に関与したプミポン国王への叛れか。さらにタクシン君は饒舌で
to ask for justice and democracy. Equality, liberty and fraternity: that is what we need in Thailand.
I emphasise peaceful revolution every time I use it. I even quote Martin Luther King.
Thailand has been telling the whole world that we are a democracy, but we are not really a democracy for all. It is a democracy for a few: for the political elites in Bangkok who still have a very big influence over Thai politics.
と慥かに理念としてはその通りだらう、が言つてゐる本人がタクシン君だと思ふとたゞ/\嗤ふばかり。

四月十六日(木)朝からの青空少しづゝ曇り夕方から雨となる。もう10年以上前にミッドレベルのPeel街に住みし頃に裏バルコニーに増築(不法)部分あ り物置にしたが雨漏りなどひどく家主から遣られた職人のK氏がなかなか仕事も丁寧で人柄も良くPeel街から引つ越した後も水電関係で何 かあればKに請ふこと続き今回も陋宅寝室の浴室の洗面台の修理Kに請ひ本夕、湾仔の専門店にて洗面ボウル手配に立ち合ひ。郎宅にK氏と戻り洗面所で測寸と 取り付けの確認済ます。Z嬢と北角。街市で八百物購ひ勝利小厨に 食す。馳名のタイ風海南鶏飯を何度が外賣(テイクアウト)したことこそあれ店内で食すは初 めて。トムヤムクン、八珍豆腐に海南鶏飯と青菜炒め。八珍豆腐なる料理、八宝菜と同じく食材は豆腐の他、何が入らうが勝手だらう、がこつてり豚のバラ肉と レバーが入つてゐて伊斯蘭教徒だつたら怒るだらうな。朝、ちよつと忙しく汗をかなりかいた後に冷房のきいた室内に居合はせたのが原因だらう、ちよつと感冒 気味。ふら/\して新聞も読めず早寝。
▼嗚呼、まさに中国の資本主義、市場経済の最先端、は上海の公衆便所。有料トイレで使用料に応じたサービス格差。
経済套餐(1元)厠紙(トイレットペーパー)と新聞を提供。
標準套餐(2元)更に煙草(紅双喜)一本とライター一個。
商務套餐(5元)紅双喜が三本に増えBGMで音楽もあり。
豪華套餐(10元)更に高級煙草「中華」が一本つき「專業陪聊」が接待、とこれが何か不思議、便意催すまでずつとお話對手にでもなつてくれるのか。
総統套餐(20元)が專業陪聊による「下の世話」は、ない。「豪華」のサービスに更に「中華」二本と宝くじ一枚、それに「総統」利用の紀念短冊まで提供の 由。
どこが共産主義国家の「特色ある社会主義経済」か、たゞ/\嗤ふばかり。

四月十五日(水)夕方から雨模様。ご執務強制終了で尖沙咀のJimmy's KitchenでZ嬢と待ち合はせ。ドライマティーニ。ハウスワインはCasas del Basqueのレゼルヴ Sau. Bの07年をグラスに一杯。舌平目のムニエルと野菜とハーブのコートレット風をZ嬢とシェア。本格的に雨降り。香港文化中心。香港初見参、のマウリツィオ=ポリーニのピアノリサイタル。アタシの人生の中ではヴィ ルヘルム=ケンプ以来の大物のピアノリサイタル。しかも香港。アタシが中学生の時、同級生にHさんといふ双子の姉妹あり。中学三年で同じクラスになつた姉 の方がピアノが学校で一番上手であつたが「かなり個性的」でよく茶化してゐて、あれが「いぢめ」ぢやなかつたのか、といはれると困るがH嬢本人が泣いたり 学校を休んだりノイローゼになつたりもなく……と「いぢめてゐる方にはいぢめられる子の気持ちなんてわかりません」といはれたらそれ迄だが、とにかくよく 茶化してゐた。その理由の一つがピアノ好きなのは良いがポリーニ、それも当時、まだ四十歳くらゐだつただらう、本当に貴公子然としたポリーニを彼女は惚れ 込んでゐて、いつも「嗚呼、ポリーニ様、なんて素敵なのかしら。一度で良いから一目お会ひしたい」なんて芝居がかつた口調で休み時間とか宣つてゐるから 「Hさんに恋ひ焦れられるポリーニもさぞや不憫」なんてツッコンでゐたものだつた。で話は数十年飛ぶが今年の三月朔日、一晩だけ帰省した翌日、昼を食べて 成田に向はうと郷里の駅 近くをトランク推しながら母と歩いてゐたら向ふから来たご夫妻に母が挨拶して「覚えてゐない?、Hさんのお母様」と母に言はれ「中学生の頃、お嬢様をさぞ や茶化して」と心の中でお詫びしつゝご挨拶。で「さういへばHさんつてポリーニが好きだつた」と思ひ出し、で香港に戻るとZ嬢に「ポリーニが来港よ」と教 へられ、何たる偶然か、と驚いたのが今晩のポリーニのリサイタル。S席がHK$980は香港ではかなり高値。だが五月中旬には東京と大阪だが燦鳥ホールと 比べたら半額で燦鳥のD席(末席)が香港の S席なのが何とも……。でもさすがポリーニで香港で最初の(そしておそらく最後の)リサイタルであるから発売当日で即売り切れ。Z嬢もよくぞ良席をゲット したもの。照明の具合も宜しく舞台にはポリーニといへば、のスタインウェイのFabbriniが据ゑられてゐるのを見ただけで、ちよつとぞく/\つと身震 ひ。そして香港文化中心の(音響の悪さ以上に)最大の難点である冷房の空調も抑へられ、あの不愉快な送風音に悩まされずポリーニが聴けさう。でマウリツィ オ=ポリーニの登場。あの貴公子然としたポリーニがすつかり年をとつたが枯れた感じがまた佳し。今晩はショパンづくし。前奏曲 嬰ハ短調 op.45、バラード二番 ヘ長調 op.38、ソナタ第2番 変ロ短調 op.35、スケルツォ一番 ロ短調 op.20、で中入り。後半は四つのマズルカ op.33、子守歌(Berceuse)op.57、でお終いがポロネーズ六番 変イ長調 op.53「英雄」といふ具合。アタシにとつてのポリーニは中学生の頃に聴いた(Hさんにレコードを借りた覚えはない)、とにかく華麗な、難曲を見事に完 ぺきに弾きこなすポリーニで、今晩のバラードの二番はそんな華麗さから遠い、優しさ。マズルカを、大きな息づかひ、時をり歌ひながら弾かれてしまふと、若 い頃のあの精緻さよりずつと聴いて嬉しく、ポリーニがミスタッチをするのもどこか安堵のやうな気分。アタシとしては今晩の楽曲ではベルーソーが極上。ポロ ネーズ六番「英雄」も晩年のホロヴィッツのこの曲を聴くとホロヴィッツが冷戦の時代のまさに20世紀後半的な世界にゐるのに対して、今晩のポリーニのそれ はまさに冷戦も20世紀も終はつたあとの「英雄不在」となつた時代の「英雄への回憶」のやう。力強いやうで脆さや陰りが窺へる。完ぺきな演奏を越えた向ふ にある、あのショパンをかう「歌ふ」か、の奏致なのだ。アンコールは、もう戦火混乱のやうな「革命のエチュード」、二曲目に所謂「のだめのエチュード」 10の4、でバラードの一番……だらう、多分。だいぶ曲も良い意味で乱れて何度も拍手に応じて舞台に戻り、のアンコールも三十分に達しようか、とするとこ ろ、にノクターンの16番を弾き終はると客席の照明が、まるで白光の花火のやうにパツと明るくなり(こんなタイミング良い演出は香港文化中心ではアタシは 初めて)、ポリーニが両手をあげて四方八方の客に応へる。何ともポリーニでしか味はへない一晩の幻のやうなリサイタルとなつた。

四月十四日(火)BOSEのWave Radioが二十日ほどの治療手術終へて退院。もう十年近く毎日音楽を聴かしてくれるのだから高齢は高齢。でも明日からまた目覚めれば心地よく香港電台 チャンネル四の音楽が聴こえる。目覚ましにセットしてあるのだが先に起きてしまふので。冬に日本に戻られたA氏からいたゞいた数著の背広、それにアタシの 痩せてゐた頃のスーツのお直しも仕上がる。寒がりのアタシに、とZ嬢が知人よりアタシの書室用に、とオイルヒーター貰つてくれる。
▼今朝の信報の林行止専欄がタイ王国の首都バンコクでの赤シャツ軍(タクシン前首相支持派の反独裁民主戦線)によるデモと混乱につき赤シャツ軍が勝利する 可能性は低からう、としつゝタクシン派が巻き返した場合にプミポン国王も高齢で病いもあり嘗てのやうな神通力も失せ政局を何処まで制御できるか、06年に タクシン退陣の元兇となつた枢密院に対してタクシン派は容赦せぬだらうし少なからず王室派への不満有する国民もをり、タイ王室の地位も揺らぎはせぬか、と 指摘。プミポン国王ほどの方の最期の晩年にこれまでの軍閥などより強力なタクシンが現れ一度は駆逐したものゝ巻き返し図り、まるで王の死を待つ逆臣の如 し。皇太子はどうにも父君に勝るも能はず。これが芝居なら蜷川演出でシェークスピア劇、だが現実には戦後のタイの政局が全て「国王の思し召し」で鎮められ てきたか、と思ふと王の老いや病、さらに崩御などあらば一大事。

四月十三日(月)耶蘇復活節。昼すぎまで官邸でご執務。九龍に渡り旺角。久々に楽園牛肉丸王に食さうと向へば、かなり今様にイメチェン。肆のロゴから 内装、スタッフの制服まで小綺麗に。かつて銜へ煙草で腰に 競馬新聞の給仕は、もう遠い過去。朝早く通りかゝると店の前の路上で牛肉を棒で 叩きすり潰し牛肉丸捏ねてゐた頃が懐かしい。たかだか牛丸河なのに、なぜ此処まで気張るか……付加価値の増大、で資本主義なのかしら。永成撮影器材。 リコーのGR Digitalは液晶モニタがファインダー代りなのは他のデジタルカメラと一緒だがアタシはどうも、あのモニタを眺めながら写真を撮るのが嫌。姿勢も緩く 表情が間抜け。でやつぱり写真は「ファインダーを覗いて撮るべき」で、だからGRともなるとユー ザーにはさういふファインダー主義の方が多いから専用の ファインダーが用意されてゐる。でアタシは初代のGR Digitalの時からファインダー(GV-1)を使つてゐたがGR Digital IIを入手の際にファインダーも新種のGV-2に替へた。ら、同じ28mmでも小さくなり機能的で「よろしからう」と思つたら、小さくしすぎて視界が狭 い。見た目も初代(GV-1)のづんぐりむつくりが愛嬌があつたのに比べて二代目は遊び心がない。自動車でいへばフォルクスワーゲンでビートルからゴルフ に乗り換へてしまつたやうな感じ。で我慢して二代目使つてゐたが、どうしても楽しくない。で先日、永成の陳列棚に初代が一個ポツンと置いてあるのを見つけ て「買ひ」と思つた次第。店員にGV-2つけたGR Digital II見せると店員君曰く「見づらいでせう」と。「さうなんだよね」とアタシ。絶対にこつち(GV-1)、と店員君。「……でしよう」とアタシは「よくぞ在庫があつた」と漏らせば「最後の一 個だから」と店員君が笑ふ。「譲つてよ」とアタシがねだり「もちろん」と答へる店員君にアタシが「ありがたう」と礼を言ふ。主客の立場がまるで逆だがアタ シはかういふ買物が好き。でご購入。小さなファインダー一個で安いデジカメが買へると思ふと「馬鹿/\しい」と思はれようが、これが道楽。さうしてま でほしいくらいGV-1は可愛い。ジムで一時間の有酸素運動。尖沙咀。Z嬢と待ち合はせ早晩に香港文化中心で映画『フィッシュストーリー』観る。予想以上に面白い。しかも業界のシーンや 世代的に「かぐや姫のライブのLPで逆回しすると女性の声で……」とか「岩崎宏美の曲を……」とか当時、噂話を聞いてゐた世代なので余計に「あつた、あつ た」と笑へる話が多い。この広がるだけ広がつた話が何処でどう収斂されるのか?と気になつたが、最後の最後で「あ、かういふ筋」とよくぞ纏まつた。たゞ、 諸々の話も「最初に結末ありき」のため予定調和的で各時代の登場人物たちの会話がすべて「その結末のための説明に聞こえる」(Z嬢の談)。多部未華子ちや んが「私、 理数系なんです」といふ一言とか。映画観る客たちも三、四十代は同時代的に日本の軽チャーが身に滲みてゐるから映画の展開に拍手喝采で大笑ひ。日本の、か ういふ「思想のない」世界はなんて楽しいのかしら。映画終はつて尖沙咀のIndian Placeに印度料理食す。映画を観る前から「今晩は印度料理」と決めてゐたもので、けして映画の筋で印度が活躍したから、ではないのだ が。帰宅。文藝春秋一月号読む。天皇皇后両陛下御成婚五十周年紀念特集。同誌で映画「おくりびと」の原作である「納棺夫日記」の著者、青木新門氏の手記 (インタビュー?)読が興味深い。著者は冠婚葬祭の会社でのアルバイトから納棺を専門とするやうになつたのだが、冨山の浄土真宗の世界で親鸞と出会ひ、そ の教へに開眼したところがあり、映画ではその親鸞から学んだといふ「いのちの光」の部分が一切説かれず而も舞台が山形となつたことに対しての不愉快があ る。あの納棺といふ仕事が真宗だからあゝして(あくまで映画で見たイメージだが)家々に受入れられていつたのか、といふ気がする。東北では青木氏の指摘通 り納棺があゝは儀式化しまい。ちなみに香港も明治に本願寺(大谷派)が寺を開き布教開始。他の宗門の信者でも受入れ易いところで海外普及の多くが浄土真宗 の由。

四月十二日(日)薄曇。Z嬢と久々に遠足。目的地は新界東北の烏蚊騰方面だが、とりあへず紅磡は気分的に通りなくない、と丁度来た馬鞍山行きのバスに乗 る。馬鞍山で大埔(教育学院)に頻繁に出るミニバスに乗り換へ連休で閑散とした大埔工業団地。其処から烏蚊騰まで入るのにタクシ自動車に乗る。汀角路を大 尾督の方に走るが運転手が引つ切りなしに「ジャパニーズ・テンプルか?」と尋ねる。日本の寺などこんなと ころにあるか、と思つたが頻りに「チョンガーホックウイ」「チョンガーホックウイ」と繰り返す。あ、創価学会か。慥かにこの先に香港国際創価学会康楽中心 があるわね。日本人がきつと多いので大埔のタクシ運転手もご存知か。「だから創価学会ぢやなくて烏蚊騰だ、つうーの!」と言ふが「烏蚊騰にはジャパニーズ テンプルはない」と運転手。べつにそんなに日本人は信心深く寺参りはしないよ。で烏蚊騰の郊遊徑の入り口。真直ぐMTRで来れば良いのにバス好きの遠回り で、さすがに自宅を出てから一時間45分、の午前10時30分。いきなり230mほど登り分水凹を抜け東の海に吉澳、北に深圳沙頭角を眺め春の花の咲く小 徑を歩く。不愉快はスポーツ飲料や菓子の包み紙が路に所々散見されることで途中で大きな買物袋拾つたのでゴミ拾ひしながら歩く。昼すぎに新界東部の印洲塘 の湾に面した茘枝窩の集落に着く。この茘枝窩の集落ももう住まふは四、五十の家屋の三分の一くらゐか。龍山寺の祠に賽す。この茘枝窩は行政上は船の通ふ沙 頭角に属す。沙頭角が香港と深圳の疆界に跨がる「禁区」のため居住民以外の往来制限され、必然的に茘枝窩など吉澳の沿海の村々に船で渡ることも船が沙頭角 からだけでは制限されてしまふ。茘枝窩の村の広場に「沙頭角禁区制限撤廃要求!」とスローガンあるも道理。龍山寺の向ひの広場に出た屋台でHK$5の焼き そば食しマングローブ見渡す海岸まで出てから潮風浴びつゝ持参の握り飯頬張る。かつては農作も盛んであつたのだらう、立派な家屋も廃れ幾歳月。家財道具捨 てゝ去るのは良いが父母、祖父母の写真が掲げられたまゝなのが気にかゝる。せめて遺影だけは、と思はぬかしら。いや、一家挙げての転居にあらず、若い者か ら一人去り、二人去り、で還る者も途絶え、で家族の最後の一人が他界し……なら遺影もそのまゝか。低い峠を越え三椏村。福利茶室で名物の豆腐花食す。交通も不便な、ッて山を歩いて来るしかな い、この離村の茶屋が、まぁ休日はよく賑はふこと。慥かに此処の豆腐花は美味い。この三椏村はまだ辛うじて住む者あり。だが生業を週末のハイカー對手の食 堂や養蜂業とする。此処から沿岸を離れ北に吊燈籠(標高416m)仰ぎつゝ山水の谿流に沿ひ下苗田、上苗田、九担租と廃村をいくつか抜け烏蚊騰の集落に戻 る。もう四時。上り下りあり歩いたは12kmくらひかしら。村の士多(ストア)で購つた缶ビールを二本飲むと来たミニバスで大埔墟に戻る。もう五時過ぎで 早めの夕食を和暢粥麺専家に食す。ありがちな粥麺屋のやうで ゐて客家菜。鹹鶏や梅菜使つた料理が美味。アルコールは持込み、で近所のコンビニでビールとホワイトホースウヰスキイの小瓶購ひ勝手に飲む。香港島に戻る 307系統の30分に一本のバスを一寸の隙で逃し雨も降つてきたので往路と同じ馬鞍山行きのミニバスに乗り馬鞍山経由で帰宅。半分ほど残つた小瓶のホワイ トホースのウヰスキイ飲もみ堀田善衞『上海にて』続き読む。

四月十一日(土)昼にかけジムでかなり久々に筋力と有酸素運動を各一時間。鰂魚涌の來記車仔麺に遅めの昼を食す。いつもこの食肆では車仔麺か叻沙食してば かりだが、ふと紫菜四寶粉を注文すると、これもまた美味。夕方、Z嬢と出街。銅鑼湾のヰンザーハウスに仕宏攝影器材(L&H Photollection)なるライカ、ハツセル、リンホフなど扱ふ専門店あり先日はちよつと覗いただけだつたがBillinghamのカメラバッグの 肩当て置いてゐたので今日それを購入。天気もよく何より暑くなく散歩しつゝ湾仔。Lockhart Rdの内装専門店いくつか見てまはり独逸のKohler社の洗面ボウルで地味でなか/\良い物見つける。湾仔碼頭からフェリーで尖沙咀。夕陽がきれい。早 晩に香港文化中心で映画『青い鳥』観 る。阿部寛の演じる吃音の代用教師が一人の生徒が「いぢめ」で自殺未遂図つた直後のクラスに現れ……吃音でしかも内向的なこの教師が実は生徒と同僚の教員 にとつてうるさいくらゐ精神的にもつとも饒舌で多弁で……いかにも重松清(原作者)らしい筋、でアタシは苦手。「実はいゝ奴」の不良ぶる生徒を演じた太賀 なる若い役者の芝居が実に上手。映画終はつて尖沙咀の日本料理京笹。 香港映画祭の時はかならず一度は食すのがもう何年も続くがイースターなら例年なら日に四本くらい連日映画を観続けるのに今年は本当に食指動く映画少なく京 笹にも寄らぬまに映画祭終はつてしまひさうだつた。Ashley街の突当りに新装開店の店。かなりの客の入り、で小さな個室に通される。かなり小ぎれいに なつたが、やはり昔の店の隣客と肘がぶつかりさうな狭さ、壁ぢゆうに張りめぐらされたお品書き、など無性に懐かしい。カツとかコロッケとか揚物がとにかく 美味。揚げ方なのだ。これでデンキブランでもあれば最高だらう。帰宅して茶を啜る。最近、酒があまり飲みたい、と思はず茶ばかり飲んでゐる。健康には良い のだらうが。
▼The Economist誌(四月四日号)の特集“Rich”で巻頭の“The rich under attack”が面白い。富裕層は30年前に米国で人口の0.1%の富裕層の所得は下層90%(つまり富裕層10%除く大 部分の国民の)所得の20倍であつたものが06年には77倍となり「富裕層がより富む」が実現。勝ち組独占資本主義が出来上がり金融トレーダーは他人のカ ネで莫大な利益を生み自らの所得を増やし、だが一旦その市場が崩潰すれば公的資金導入で救はれようとする。そして明らかになつたことは銀行家やファンド運 用のマネージャーたちが無用であること。この経済誌がこゝまで強い論調で現在の金融システム、この富む者だけが富む資本主義そのものを批難するとは。だが The Economist誌らしいのは、その富裕層となつた金融専門家らを今、批難の的とするのや簡単だが、敢へて読者に対して“But when you try to bash them, you usually end up punching yourself in the nose”と忠告してみせたところが妙。で小浜君が総統になつてから=ブッシュ退陣してから紐育時報でのコラムが今一つ地味であつたPaul Krugman教授も今日のIHT紙に“Making banking boring”と題して現代資本主義の中で怪獣と化した金融業を本来の「退屈な銀行業」に戻せ、と提言。さうしないと、また景気 恢復の先では金融投資業が肥大化し今回の金融海嘯の再現が明らか、と忠告。The Economist紙だとかノーベル経済学賞のKrugman教授のこの言説は日本だとまるで新聞赤旗か「週刊金曜日」の論調だらう。
▼香港の行政長官の給与について。前任の董建華が月給HK$30万、現任の「文革曾」はHK$50で年俸HK$600万。英国首相の年俸がHK$200万 程度だと思ふと旧殖民地の行政官が宗主国首相の三倍も不思議、だが、これも英国殖民地統治が遺した制度、と陶傑氏(今日の蘋果日報「工 資大比拼」)。旧来、殖民地総督の給与が本国の首相より高いのは、殖民地に派遣された公務員は文明から遠かりし南太平洋のバナナ島で未開の島民を 統轄し日々、太陽が昇り暮れるのを眺め鷗鳥の啼くを聞き、土民の娘に木陰で団扇を使はせ、かうした生活のHardship Allowanceがそれ。香港返還にあたり基本法で「香港公務員の報酬は殖民地時代の標準を下回らない」こと謳つたがため香港政府の政務司長(政府ナン バー2の唐英年)の給与が米国総統小浜君を上回る、と。ちなみにHardship Allowanceは日本政府(外務省)でも瘴癘地手当といふものあり、驚くなかれ上海や北京も未だに瘴癘の地なのだ。中国政府と人民は、まづ自国を「瘴 癘の地」とする日本に抗議すべき。

四月十日。天皇皇后両陛下御成婚五十周年。このご夫妻こそ日 本にとつて至上崇高なる護憲のお立場であり戦後民主主義とリベラリズムの体言そのもの。これはもはや伝統であり戦後日本。だが保守反動右翼の人にかぎつて 陛下の御意思を理解しやうとしないから(幕 末から天皇制は利用されるばかりなのだ)困つたもの。本日、耶蘇受難日にて祝日。Z嬢とお互ひ腰痛 もだいぶ快方に向ひ、かなり久しぶりに、少なくても昨年の夏前以来か、で二人で山歩き。大潭。さすがに石澳まで走る?元気はなくバスで石澳。今日は歩いて ゐて何故か「スープが飲みたい」と思ひ、もう十年ぶり?でThe Black Sheep洋食店に食す。オニオンスープとピッザ。葡萄酒二杯。食後、石澳の岬まで散歩して外海を一眸する尖咀の岩に寝そべ る。曇り空が晴れる。堀田善衞『上海にて』文庫本を少し読むが酔ひに負けて昼寝。午後遅くすつかり晴れる。でも石澳の海岸の温度計は心地よきかな摂氏22 度。バスで筲箕灣に戻る。ジムに一浴して帰宅せば今朝、寝室のバスルームで洗面台のボウルに物を落とした衝撃の所為だらう、ボウルに亀裂ありちよつと補修 すれば良いと思つたが見事にボウルの外側まで割れてをり応急措置。NHKスペシャルで両陛下ご成婚50周年の紀念番組見る。久々に自宅で夕食。野菜たつぷ り食し豪州はローズマウントのシャルドネ、06年。先週だかに放送の、NHKスペシャルで台湾の日本統治での教育、皇民化の特 集を見る。NHKスペシャルで「JAPANデビュー」なるシリーズの第一回。もう七十代後半が最も若い世代となつた戦前の日本による教育受け日本 語を母語とする台湾人の達者な日本語での語りは映像として貴重。あそこまで日本を愛し裏切られる、まさに台湾の悲哀。ジンジャーティー飲み伊太利の Flamigniなるヌガー頬張る。このお茶に使つたジンジャーシロップはクローヴ、シナモンなどいれたZ嬢のお手製。ウオトカでも割つて飲む。
▼今日のお出かけには久々にContaxのデジカメ、U4R持参したが2004年くらゐに購入したこのデジカメのリチウムバッテリがすつかり寿命のやうで 満タンに充電してゐても10枚くらゐ撮影するともうお終ゐ。京セラのカメラ事業撤退でContaxも製造中止となつたがT2やG2もそりや名機だが、この コンパクトデジ カメも本革張りの美しさは他社の後継機種なし。何より廻転レンズで撮影が目立たないのが良い(盗撮の趣味ぢやないが)。目立たない、といへばMinoxの DSC(デジタルスパイカメラ)も一月に発表になつた、がどうもMinoxには昔から食指動かず。あの「いかにもスパイ」なのがアタシの趣味に合はず、実 際には今どきのケータイのカメラ機能でいざとなれば充分に対応できてしまふ。そこで気品あるContaxのU4Rなのだ。幸ひにも京セラで、まだ充電池の 販売継続してをりネットで慌てゝ購入。まだ当面は動きさう。だが、このデジカメの寿命は銀塩のクラシックカメラに比べると本当に儚すぎる。
▼カメラといへばエプソンがR-D1sの「絶対にないだらう」と思はれてゐた後継でR-D1xを 出してしまつた。当初、R-D1といふライカのMマウントレンズが使へるレンジファインダーのデジカメの出現には驚いたが価格に更に驚き、だがM8が出た こ とでR-D1がそのM8の半額、でコシナ的なベッサ型の風貌といひアナログ感たつぷりの様式美といひ満点の出来、でM8より「相対的に」お得と思へた、が 実際には本体価格20数万円はけして安くない。だから「売れない」。よつぽど酔狂な御仁しか買はない。だから「もう後継は出ないだらう」とエプソンの知人 も仰つてゐた。それが出たのだ。何を考へてゐるのか……立派。だが液晶モニタが2.0型から2.5型に大きくなり容量の大きなSDHCカード使用可、 シャッターボタンの改良があるが基本的なスペックはR-D1sと変らず。で、幸ひ?食指も動かない。が一番の残念な点はモニタが大きくなつたことで液晶モ ニタが固定式となつてしまひR-D1sの廻転式で「隠すことのできた」モニタがいつも見えてしまふこと。モニタを隠すことで究極まで銀塩カメラに似せる、 對手がデジカメとは思はない、その「芸風」が固定式ではもうお終ゐ。価格はエプソンの直通販で299,800円ださうな。

四月九日(木)気温は摂氏19度、湿度40数%は過ごし易ゐ、が四月の香港にしては異常気象。冷房もつけずシャツにカーディガンで過ごす。早晩にFCC へ。先日もサラダの註文を大きく間違へた慣れぬ給仕にウイスキーのソーダ割を註文し「氷なし」と三度も念を押し給仕はその度 にYesを三度繰り返したが氷入りのハイボール供され別の給仕が「氷を抜いてくる」と言ふから「氷なしと氷入れてしまつた酒は別もの」と作り替へさせる。 食にも酒にも経験も智識も乏しき上に気のきかぬ給仕何処にも多し。夕食済ます。川味茄子煲。市大会堂で映画“Moomin and Midsummer Madness”見る。観客は子どもが多いか、と覚悟したが子どもは皆無で意外と二、三十代の連れ多し。独りこれを見る老い たアタシが浮いてゐる。がムーミンはアタシにとつて幼き頃の原体験の一つであつてムーミンのアニメ番組で見た嵐や地鳴りの怖さ=自然の力への畏敬、その去 つたあとの安らぎ……少し大人になり、このフジテレビのアニメが原作とはかなり違ふイメージであることを知り今も手許には英語版のトーベ=ヤンソンのムー ミン物語が八冊くらゐ。映画終はつて銅鑼湾。晩の十時に一つ路上でブツを渡し打合せの仕事あり、それまでバーSでChieftain'sの15年でハイ ボール一杯。帰宅してカメラ雑誌読む。
▼話題にするにも内容乏しき麻生内閣メールマガジン。たゞ今週号は北朝鮮のミサイル発射のおかげで「北朝鮮、ルール破りに断固たる対応」と日曜の昼前から の政府の迅速なる対応を伝へる。麻生首相曰く
日曜日の午前11時32分、公邸で待機していた私のもとに、発射の 第一報が届きました。すぐさま、国内各地や航空機、船舶の安全確認、情報収集態勢の強化、国民への迅速な情報提供を指示しました。(途中かなり略)今回の 発射に際し、政府としては、国民の安全を守るため、迅速な情報提供に努めました。今回の経験を今後に活かしたいと思います。
と。「公邸で待機」つてミサイル発射があるであらう、と警戒してゐた、といへばその通りだが、どこか予定時刻に合はせた避難訓練の本部の如し。
そして何よりも、国民の皆さんが、冷静に対処頂いたことに感謝して います。
と結ぶが、最も冷静に対処したのは当然、夕方、高輪の理容佐藤で散髪の首相に他ならず。結局、米国にとつてのかつてのソ連、キョービのアルカイダやテロリ ストのやうに「安全な国、日本」にとつて脅威としての北朝鮮の必要性。実は日本にとつての脅威は北朝鮮ぢやなくて国内の社会そのものなのだが。
▼香港特区政府もなか/\大したもので政府の政制及内地事務局が「公民権利と政治権利の国際公約」なる70頁(中英文併記)の小冊子作成し各学校に配賦す るなど公民権普及に熱心。基本的人権や思想信条の自由など、まさに普遍法としての日本国憲法に謳はれるところ。ふと、この政制及内地事務局 (Constitutional and Mainland Affairs Bureau)のサイト閲覧せば(個人的には政制局と内地事務局は組織として別けてほしいところだが中国の「一国両制」ではさうもいかず、か)公民権どこ ろか少数民族や外国人蔑視差別の解消や「性 傾向平等機會面々觀」なんてマンガ本の体裁のジェンダー教育啓蒙書などもあり。「学校の先生が同性愛者だつたら」とか「マンションの借り手が男性 カップルだつたら」なんて具体的な事例で「偏見はいけません」と紹介。日本のやうな?後進国、殊に「過激な性教育の是正」なんて騒いでゐる某都では「学校 の教員が同性愛者だつたら」なんてことは取り上げるべきでもないタブーかしら。
▼経済学の奇才・張五常教授が一昨日の信報で「米奇老鼠不懂神州」と面白い事を書かれてゐる。上海でのディズニーランド開園について、ディズニーランドは 米国であれ東京であれ周辺各国からの観光客の集客が重要であり、中国では上海といへどもそれを期待できず、まだ/\生活難にあへぐ生活水準が多き中国の大 衆、貧困者對手。しかも上海で浦東地区での開業予定。世界的な金融センターとならうとする浦東で国内各地からのディズニー行脚の客を泊まらせる百多元程度 のホテルがあらうか、数元の食ひ物があらうか、この金融センターで子どもを路上で立ち小便させることが赦されるのか、と五常教授。教授曰く数年前に「もし 中国々内でディズニーランド開園するなら洛陽に」と提言したさうな。洛陽はアウトドア型の遊園地にとつて最も大切な温暖な季候に優れ西は西安、東は鄭州、 開封と大都市に囲まれ集客も良く、何より物価と人件費の(上海などに比べ圧倒的な)低さは入場料や宿泊施設など廉価に抑へることで、これが集客に最も効果 的、と。御意! また五常教授は香港鼠楽園も起死回生したひなら、せめて入場料をHK$50か、極端な話ならHK$20にでもして、実際の乗り物の料金を 別途とる形でとにかく集客をせよ、また大型のフェリーターミナルなど建造し珠江下流、沿岸各地から直接、遊客を集め、また近隣に廉価の宿泊施設と市街地ま での割安の交通運賃を設定せよ、と提言。

四月八日(水)涼しき日つゞく。早晩に中環で一仕事終はり同行のK氏とFCCに軽く夕食を済ませ独り二更に灣仔の芸術中心。伊蘭映画“Be Calm and Count to Seven”観る。伊蘭の辺疆の鄙びた漁村。もう漁業は廃れ村人は海を舞台に細々とつまらぬ密輸を生業に糊口を凌ぐ日々。父の をらぬ清貧 なる家庭の息子を主人公に、その暮らし淡々と描き主人公役のRamtin Lavafipourなる少年が好演。Hedayat Hashemiといふ監督のこの作品、ロッテルダム映画祭で虎賞の由。
▼今朝のSCMP紙がビジネス面トップで中信泰富主席の栄智健君近日中に更迭と報道。事態進展早く同社は本日、取締役会開催で主席交替と情報が流れる。早 晩に栄智健とその腹心で総経理の范鴻齢が辞任。当然、今回の騒動の発端となつた昨年十月の豪州ドル暴落での投資失敗でHK$155億の損失出した栄氏の娘 や本来であれば父の財閥継承の息子らも一族で中信泰富より退出。新任の主席には北京の中信集団 副董事長兼総経理の常舟明君が就任。この常君は中信旗下の嘉華銀行や建設銀行での董事長らによる汚職収賄のたびに火消し役で組織建直しに尽力で消防隊長の 渾名あり。栄智健君、光大実業公司の王光英と並ぶ赤色資本家として共産中国の富国殖産に尽力の栄毅仁の一人息子として生まれ文革期には四川省への「下放」 で辛酸を嘗め15年だかにわたる政府電力部での仕事諦め1978年に単身来港。かつて読んだご本人の回顧録では縁故頼りに裸一貫着の身着のまゝで羅湖から 香港に入り鉄道で沙田の競馬場(この開業がこの頃)の横を通つた、と綴つてをられたが、その後の馬主となり愛馬、活力先生やオリエンタルエクスプレスの活 躍は周知の通り。で、この年の末に歴史的な第11期三中全会で鄧小平復活で翌79年に国務院直属で中国々際信託投資公司(中信)の経営を任されたのが栄毅 仁。智健君は父の中央での基盤拡大に合はせ1986年には中信香港の役員となり翌87年には副董事長兼総経理就任で中信香港実質的掌握。キャセイパシ フィック航空の大株主になるなど発展遂げ李嘉誠ら香港地場財閥の賛助受け香港で上場。もはや栄智健のオーナー会社でゆく/\は北京の中信から実質的に独立 か、と思はれたが1998年の亜細亜金融危機で資金繰り困難に陥り北京中信の支援受け足枷嵌められたまゝ中信の旗下にありながら「国家副主席とまでなつた 栄毅仁の御曹司の香港財閥会社」といふ特異な形態で今日に至つたが、昨年来の大火傷。だが「焼いても鯛は鯛」で栄智健が中信泰富の11.5%の株式保有 で、今後も何らかの影響力駆使するか多額損失の賠償で全面撤退か去就注目されるところ。この智健君の腹心、范鴻齢君は香港株式市場の鬼つ子David Webb君はこの二人の関係を「バットマンとロビン」と称したは秀逸。この鴻齢君、2012年の香港特区行政長官の有力候補とも言はれ(今回の失職でかな り可能性薄れたが)、実妹が香港政府教育統籌局(当時)の常務秘書長から廉政公員で失職し今は全人代代表の羅范淑芬で「キャラ的に濃い」兄妹なり。

四月七日(火)早晩に久々に金鐘太古広場のDan Ryan's 市俄古グリルでナチョス頬張りモヒート飲む。午後七時頃だといふのに太古広場のタクシー乗り場は客待ちのタクシ自動車の列。晩に一つ用事済 ませ同行の方と珍しくHollywood Rdの奥深きバーVに知己と一飲したが中環に戻ると此処も火曜の晩とはいへ歩く人も少なくタクシ自動車数珠繋ぎで少ない客の奪ひ合ひの態。不況とはかうい ふものか、と感じるばかり。
▼香港島のトラムを経営運営する九龍倉(Wharf)が経営権を仏資本で欧州に広く市電など経営するVeolia社に€一億で売却。毎日24万人が利用、 香港代表する観光資本でもあり運賃HK$二と軽便ながら、こゝ数年はトラム車体の広告料収入など潤ひ昨年はHK$35百万の純利、の優良企業。だが九龍倉 にしてみれば車体など老朽化で維持が困難、これ以上の収益も期待できず、で放出を決定。Veolia社は世界各地での渋滞解消や環境良化狙つた都市交通で の市電見直しで市電網拡充し世界的にも有数の香港トラムをば配下とすることで今後は中国での市電事業に期待の由。それにしても道路渋滞甚だしき香港で80 年代に、とくに地下鉄開業にあたり、このトラムをばよくぞ残した、と今更ながら思ふばかり。

四月六日(月)清明節も過ぎれば汗ばむ陽気となるはずが今年は薄ら寒い日続く。本日はずつと蕁麻疹ひどく頸から後頭部までも出てしまふ。蕁麻疹の所為で 「体質をせめて変へたい」とでも内心が働いたのか無性に素食を摂りたくなり、かなり久々に灣仔で東方小祇園齋菜で羅漢齋飯を食す。創業八十年の老舗。否応なく晩にまだ 出先でヒドロキシゞンを服薬すると睡魔に襲はれ、慥かにこれぢや車の運転など絶対に出来ないだらう。Z嬢が灣仔鵝頸橋街市の印度食品屋で例年より早くイン ディアンマンゴーを購ふ。知己の商店主には「一箱持つていきな」と言はれ、インディアンマンゴー好きには稀覯の果実に垂涎のオファーだらうが「とても食べ きれない」と断つて数個のみの購入といふ。

四月五日(日)寒がりのアタシにはまだ肌寒いが清明節過ぎて季節はもうすつかり春なのかしら。
夜に啼く鳥は春かと清明節
山の方から相方を找すのかやたら陽気な鳥の声が深夜に聞かゆ。雨の予報に反して晴れ間あり。終日、官邸にて執務。晩に灣仔。天地図書舗。信報の林行止の 全集や蔡瀾など香港の人気著作数多き出版社の直営書店。歐陽應霽君の料理本など面白さうだが、もう「本の買ひ過ぎ」、で立ち読みに済ます。運動不足解消に 晩にジムでちよつとだけトレッドミルで走る。二更に灣仔の芸術中心で伊蘭映画“Lonely Tunes of Tehran”観る。なぜか中近東で伊蘭映画はアタシの好み。これも秀作。夕食摂つてをらず帰宅して深夜に白葡萄酒(豪州の Rosemount Estateのシャルドネ)をグラスに二杯飲みチーズ少しと小玉葱の酢漬け数個頬張る。堀田善衞氏の『堀田善衞上海日記 滬上天下一九四五』 少し読む。善衞さんにはアタシは若い頃に氏の本を読みご自宅に手紙を出したら丁寧にご返事をいたゞゐた。1945年といふ時代は実際にはアタシは知らぬが 多少なりとも上海に土地鑑あり日記に出てくる詩人や思想家はかつて著作読んだものが少なからず、この日記がとても身近に感じられる。この本、印刷(大日本 印刷)と装釘(加藤製本)が見事。かなり裏面が透けて通りさうで透けず且つ上質の柔らかな紙質、で420数頁なのに薄く、軽い。
▼本日、雲翔(Scud)君の製作(脚本、監督)した映画“永久居留” (Permanent Residence)も映画祭で上映あり。彼自らの半生記と将来観の如き内容で好評博した由。
▼北朝鮮がミサイル発射で「たまや〜ッ!」。昼前の発射で緊急事態発生!と騒いでみせても麻生首相は夕方にはホテルパシフィツク東京の理容佐藤で散髪が現 実。北朝鮮にとつては観測気球的な打ち上げ花火を寧ろ「北朝鮮の脅威」として軍備や国民意識の増強に、とメリット大かしら。

陰暦三月初十。清明節。ならば清明時節雨紛々、と言ひたいが天気予報は雨でも薄日さし午後遅くには晴れ間あり。昼過ぎまで陋宅に在す。午後なんとなく西 環。金葉海南 餐庁に海南鶏飯食す。林品珍茶行。さすがに今 日が清明節では当たり前だのクラッカー、でまだこの春の龍井茶は出てをらず。鳥渡上質の普洱茶を四両ばかり購ふ。市大会堂で洪榮傑(Kit Hung)監督の『無聲風 鈴』Soundless Wind Chime観る。スイスから香港に流れつきたる青年が北京出身で香港に淫売婦の叔母の居所に居候し茶餐庁で給 仕や出前で糊口を凌ぐ青年(吕玉来扮す)の財布を盗み、 ヒョンなことからこの淫売房に寄寓し彼らの清貧なる同居から話は始まるが、この北京青年がスイスを独り旅するシーンがいくつも重なりKit Hungの脚本の妙。回想や郷愁など雰囲気的にはとても蔡明亮のやう。だが李康生がスクリーンに登場すれば思ひつきり好き嫌ひ激しくならうが、そこが吕玉 来なる好青年風の若手起用で結果、嫌味なき作風。尖沙咀に渡り中古カメラ屋数軒冷やかして科学館。エルンスト=ルビッチ(Ernst Lubitsch)監督(1892〜1947年)の映画“Das Weib des Pharao”(ファラオの恋)観る。今更何を語らん哉、の古典大作。Austin街の北京水餃店に餃子食す。旺角の商業映画館でジャッキー= チェン主演の『新宿インシデント(新宿事件)』(日本は 今年一月公開予定)観る。ジャッキー=チェンのアクション映画への興味もなかつたが今朝のSCMP紙の映画評で畏友Paul Fonoroff氏が仁侠暴力&人情物の筋は「それ相応だが」ジャッキー=チェンのアクション以外の演技の器量としては出色と評し、それで観た次第。慥か に。日本側が竹中直人、加藤雅也、峰岸徹(故人)、倉田保昭と「かなり濃ゆひ」配役でジャッキー=チェンがとても地味な性格俳優に見える。新宿に不法滞在 者演じる林雪(役名「外鬼」)や錢嘉樂(同「香港仔」)らジャッキー=チェンの脇を固める役者が実に良い芝居見せる。

四月三日(金)もう四月だといふのに肌寒き日続く。痛飲の宿酔残り、せめて胃腸に優しいか、と早晩に天后で華姐清湯腩に腩河食す。晩二更に灣仔の芸術中心 で潘劍林監督の映画『流氓 的盛宴』観る。北京の下層に糊口を凌ぐ流氓の若者、重病の父の医療費も工面できぬ上に活計の無許可の貨物運びはヴァン自動車をば公安に押収され父の医療費に充てようと黒市場にて肝臓を売り 払ひ……と現代の北京を舞台に、まるで一葉の物語る世界。周成なる主演の若者、まだ十代の頃に子役か、で何か映画観た気がするが思ひ出せず。この作品、肝 臓売買の連中が卡拉OKで小姐とのご乱痴気場面あり全裸で踊るシーンなどあり、で成人映画指定。とくに必要な場面とも思へず上映機会減らすばかり。
炒 燶外滙蝕155億 涉串謀欺詐 警大搜中信泰富。昨年のHK$155億だかの投機損失隠し、で香港警察が偽証欺詐の疑ひで突然、中信泰富に立ち入 り関係資料押収。国務院直属の中信集団の系列会社で、しかも中信泰富の社主榮智健の父、故榮毅仁は国家副主席の赤色資本家。「香港の地方警察」が中共系企 業の汚職や詐偽に踏み込むことも稀。今日の香港警察の捜査は事前に北京中信にもお知らせあり、といふが北京中信は
而炒燶外滙事件發生後,北京中信亦展開內部調查,並已進行清理工 作,以及安排日後注資計劃。不過,商罪科今次突發行動,令部份北京中信高層憂慮他們早前進行的調查是否有所遺漏。
……と、北京中央の承認なければとても踏み込めぬもの。

四月二日(金)晩に香港ジョッキー倶楽部のハッピーヴァレイのクラブハウス。幸運閣にI氏のメンバーシップで五人でお食事。何とも「クラブなお味」。自分 がメンバーでもないので文句を言ふ必要もないが、これだけ格式あるクラブでありながら、このクラブハウスつて建物も貧弱なら走り回る子どもも多くクラブ利 用するメンバーの皆さんもいまいち品格に乏しく、なんだか地方自治体のヘルスセンターのやう。久々に銅鑼湾の知るバーを梯子で獨酌。半夜三更に至る。
▼朝日新聞で「「召 使の国」と香港誌に書かれフィリピン怒る 南沙問題」と陶傑氏の舌禍問題が記事となる。外報面右肩トップの扱ひ。陶傑のコラムが「召使の国がパン とバターを稼がせてもらっている主人に対しては力を誇示できない」と冷笑し、自宅で雇つてゐるフィリピン人家政婦に「給料を上げて欲しければ、フィリピン 人の仲間たちにスプラトリーは中国のものだと伝えるように警告した」「スプラトリーという言葉を聞いたらメードに『中国です、ご主人様』と叫ばせるように した友達がいる」などと紹介する。このコラムの内容は慥かにその通りなのだが、陶傑氏の思考をそれなりに知るつもりで敢へて言へば、筆者の言わむとすると ころは寧ろ自ら=中国人の奢り、もあり。領土問題で南洋の遠き群島にまで主権を主張する中国の大中華主義。

四月朔日(木)毎年この日に「うんざり」は新聞各紙の模様替へ。新聞の模様替へは「読みやすく」で結局、内容も浅くなるばかり。日本の新聞が不特定多数の 大衆紙であると思へば「読みやすさ」も致し方ないか、と思ふがFT紙やIHT紙も今年は大きく模様替へで、頁あたりの記事がぐつと削減される。晩に西貢。 宴会あり海傍街「53號の」全記海鮮に食す。西貢の岸に沿つ て歩けば海鮮料理屋の客引きも強引で通記だの全記だの同じ名前の店も並ぶから同じ名前の別の店に入ることもあり、また違ふ店の客に「予約の名前は?」と尋 ねられ「スズキだ」と言へば「あ、スズキさん」と適当に店に連れ込まれることもあり。で「53號の」全記に海鮮を食す。黒服の経理も街頭の生け簀担当のオ バチャンも実に気持ち良い対応してくれるが港湾の眺望は最高の二階の客席で担当の若い女給らが如何せん「十数名の日本人の団体」に「それ相応の」緊張感の ない緩い対応。で「いゝ加減な対応するなよ」ビームを送り姑のやうに事細かに指図続ければ女給も少し服務に緊張を見せる。これで良い。そのうちたいさう上 乗の服務ぶりを見せ今どきの娘らに少し感心。で祝儀はきちんとはずむと上客扱ひで送り出されゝば双方気分佳し。

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