八月三十日（木）週刊香港の草稿。午後大雨。大陸に渡り尖沙咀のジム。日曜日の競馬、今シーズンの開幕戦、出走馬の発表。行政長官盃にて二年前のこのレースでの優勝を最後に故障して休養していた京城之寶（KingstonTreasure）が復活、115磅背負って韋達騎乗の１枠。『大勝』で予想少し始める。建物の野暮さでは香港中央図書館に勝る香港歴史博物館の常設展＜香港故事＞がHK$900Mを浪費し完成、本日公開さるる。四億年前の地質歴史から説き起こし（笑）石器時代の人類へと、これはどこの博物館でみても猿人が焚火しているだけで面白くもなんともないが、公開と同時に新聞は酷評ばかり。『信報』で館長・丁新豹がインタビューに答え「香港の昔語りは香港人が語るべき」「ずっと我々みんなは中国人であり、だから香港の昔語りも香港の中国人から語られるべき」と、歴史をその民族で語ろうという狭い視野、しかも香港で中国を強調する的外れ、これじゃもう落第。歴史は他民族が勝手に語るからこそ面白いもの。同じ紙で劉健威が「現実は博物館に入った段階で歴史となって葬り去られる」「こんなことにHK$９億も浪費するなら何故に街中の古い建築物、街並みを残さないのか」と、上環の潮州街を彷彿し、まさに劉の言う通り。かつて九龍公園に在った小さな洋館の歴史博物館はあれでじゅうぶん素晴らしいものだった。歴史博物館なら澳門（マカオ）の城塞の中を掘って作った建物なき博物館こそ白眉、歴史を辿りフロアを上っていくと最後に城塞の上にポンと放り出され今日の澳門市街を眺望するあの素晴らしさ。香港歴史博物館の巨大な陳腐な幼稚園のような中庭とは雲泥の差。ちなみに南華早報は博物館批評の専門家を連れての取材を博物館側に拒否される、理由は「博物館の評価は観衆がする」と。つい数カ月前中央図書館の中を行列で御練りしていたあの市民が歴史博物館を評価するのか（笑）
八月二十九日（水）雨。週刊香港連載再開にむけＫ氏と電話で打ちあわせ、草稿を錬る。夕方ジム。食前酒にドライマティーニ、揚げたての美味いコロッケ、白身魚のフライ、新鮮なキャベツの極細の千切り（但し上手に包丁で、スライサー不可）、ウスターソースとタルタルソース（タルタルはかなりヘンなカタカナ語だがTartareだと思えば合点）、麦御飯、ワカメと大量の葱の味噌汁、ビールと電気ブラン、美味いコロッケにはソースなどつけずソースはキャベツだけに、御飯は一膳にてあとは何もつけないコロッケとフライを肴に電気ブランを飲み至極。ドライマティーニといえば今日紀伊国屋に注文した本の中に『タンカレ－・マティ－ニ A toZ』（ギャップ出版 ）なる本があるのだが、これは先日山の上ホテルに投宿の際、月本裕氏と待ちあわせて飲んだ時にホテルのバーのカウンターの中にこの本が置かれており、超無愛想なバーテン（彼はこのバーが本場でなく代理だったのだが）に「ちょっと見せてもらえます？」と尋ねたら「私のじゃないんですよね」と。そりゃ自分の本でないから正直といえば正直、ただし「くれ」と言ったのではなくバーでマティーニの本があれば「ちょっと」といわれるわけで、バーの客から見えるカウンターの内側というのはこれは公共の場所であって、そこに置かれた本なら、それもバーに『飲食税Q&A』なら野暮だが酒の本だ、見せてくれればいいものを、それでタイトルと出版社だけ遠目に写してきたもの。
八月二十八日（火）午後より熱低の影響で雨。昨日灣仔に同行せしＫ君夕方来宅、Dahonの折畳み自転車見てやはり部品など作りがかなり違うと確認。その足でＫ君宅は舊山頂道豪宅にて訪問、お好み焼きご馳走になり雨の中散歩して帰宅。
八月二十七日（月）夕方奈良人Ｋ君と灣仔にて自転車屋巡り。Dahonの折畳み自転車も発見するが部品も安目で本体も昨年以前のものか偽物とは言わぬがセカンドラインでの製造？、同じ資金があるのならMBX購入のほうが無難か。百年ぶりに灣仔Ｑ麥にて坦々麺。美孚雑用済ませ尖沙咀ジム。
八月二十六日（日）快晴。ランニングクラブでの夏恒例船旅にて香港島南に浮かぶびし蒲台島へ赴く。清潔な船艇にて朝から発泡酒にて乾杯、船酔いよりも酒に酔い一路蒲台へ。晝までＭ君に教わりフリスビーで遊ぶ（Ｍ君はフリスビーの団体競技の選手でもある）。蒲台の明記海鮮酒家は週末のみ営業。午後船艇は香港仔を周遊し夕方皇后pierに到着。船屋根での午後の飲酒はかなり堪える。
八月二十五日（土）快晴。朝から浜辺にて新聞、雑誌に『アラビアのロレンス』粗読の箇所読む。Ａ君と遭い日本での買物、折畳み自転車談義。ジムにてGX二齣続ける。
八月二十四日（金）快晴。連日猛暑続く。ジムナジウム。97年のいちばん勢いのある当時まで駐在せしＫ氏、Ｉ氏、Ｙ氏、別Ｙ氏ら日本より南アフリカ経由にてジムバブエに旅行、その復路香港に立寄り旧遊、銅鑼湾の太湖海鮮酒家にて海鮮づくし。蘭桂坊へと移るが余りの人出に粗呆区のMeadowなるバー、いつでも空席目立ち何が悪いわけでもないが不思議、でも頼んだダイキリは甘すぎ。
八月二十三日（木）快晴。昨日のSouth China Morning Post投書欄での小泉君靖国参拝について拙文を投稿す。
I refer to the letter by M**** headlined "Shrine visit
not a show of support for right-wing group" (South China Morning Post,
August 22).
I understand Mr. M's opinion and Prime Minister Mr. Koizumi's
Yasukuni Shrine visit doesn't mean simply that Japanese Militarism in a
facsimile mood. Also Mr. Koizumi's post-Yasukuni visit speech should be
considered properly by overseas media.
But I'd like to mention Yasukuni Shrine's peculiarity
from other thousands of traditional shintoism shrines all over Japan. Mr.
M wrote "(Yasukuni shrine) is the symbolic resting place of 2 1/2 million
Japanese men and women", but I emphasis those "eirei" the spirit of the
war dead include soldiers who profess Christianity or other particular
religion, Korean and Taiwanese civilian victims who forced to work
for Japan under the World War II and others who didn't wish personally
to be rested in Yasukuni Shrine. I don't think all of 2.5 million spirits
has been resting so naturally and peacefully in the shrine because the
nation put them as "eirei" compulsory onto the shrine under the nationalism.
Yasukuni Shrine was particular shrine managed by Three
Ministries of Army, Navy and Interior Affairs until World War II and after
the war, in spite of Yasukuni Shrine was separated form the government,
the supporting groups of the shrine, such as Nippon Izoku Kai (the bereaved
family's association) which also strongly support the Liberal Democratic
Party, have been promoting to legislate the Yasukuni Shrine Law regarding
the maintenance of the shrine by the government. Yasukuni shrine is clearly
related to Japanese militarism and nationalism.
In the constitution of Japan, the article 20 mentioned
(i) freedom of religion is guaranteed to all and no religious organization
shall receive any privileges from the State, nor exercise any political
authority, (ii) no person shall be compelled to take part in any
religious acts, celebration, rite or practice and (iii) the State and its
organs shall refrain from religious education or any other religious activity.
In spite of Mr. Koizumi's shrine visit is his solely
to pay respect and it does not emphasize the militarism of Japan
and he wishes our apology and the peaceful relationship with neighborhood
countries, the visit to Yasukuni Shrine should be considered nervously
and seriously because of the shrineﾕs peculiarity.
南華會のレトロな室内プールにて水泳。夕方、Braemer HillのＡ氏宅にて会食、山形の出羽桜純米吟醸持参、Ｔ夫妻の相伴に預かる。Ａ夫人の手料理は超主婦にて煮物から炊込み御飯、漬物まで薄味でよくもここまで味が出るものと敬服、冥利。焼物は最近日本にて豚トロなる下品な名前にて評判の猪頏。出羽桜の一升はあっという間に空になり白鷹も一升飲み干す。
八月二十二日（水）快晴。台風が日本を直撃する最中日本に戻るＹ君Ｔ君と晝に金鐘は海都海鮮酒家にて飲茶、及第。歯科治療に懲り懲り独逸ブラウン社の電気歯磨贖う。日本にて使用の携帯電話一旦使用中止に電話機本体がないと不可との事にて携帯日本に送り返す。ジョッキークラブ本部にて９月よりの新季メンバー席通年バッチを受領す。South China Morning Post紙投書欄に中環のＭなる日本人が「小泉君靖国参拝は右翼団体支持に非ず」と投書あり、要旨は小泉君が参拝は戦没者慰霊が目的にて軍国主義復活ではなく、小泉君の先の戦争についての談話を咀嚼することが大切であり、その談話を報道せず批判的な部分のみ報道する海外マスコミに問題もある」という。Ｍ氏の言う靖国参拝＝軍国主義という判断の野暮な点、小泉談話の真意については理解できる点あれど、この投書の導入に「Ａ級戦犯14名が靖国に祀られており、それは別に祀られるべきでも、靖国は原爆や沖縄戦で亡くなった者を含む二百五十万人の霊が祀られている symbolic resting place である」との一文。これについて靖国が其所其処らの神社とは異なり国家が神道を用いて国家戦争にて亡くなった者を無理矢理祀る施設にてキリスト者や朝鮮人、台湾人など自らの意思に係わらず強制的に合祀されている者がいる点を鑑みれば、単直に「二百五十万人の霊が祀られている symbolic resting place 」と言ってしまうには無理があると思う。
八月二十一日（火）香港を離れていた間に保安局長の葉が自分を論って政府女性高官美人コンテストだの自分をパロディにした『ホウキ頭』という笑本の発売など性差別も甚だしいと論評、これは大間違い、葉が嫌われているからその捌け口としてのコンテストや本の出版なのであり、性差別とは一切関係なく、仮に葉が男性でも何らかの罵詈は生じるもの、本当に可愛相なくらい無知が惨めな葉である。快晴にて来港中のＹ君、Ｔ君と大嶼山まで海水浴に赴く。夕方中環に戻りＹ君の買物同行、蘭桂坊のBitburgerで生麦酒。一旦帰宅して二人と銅鑼湾は富臨飯店、世界に名だたるこの店の阿一鮑は青森の大間（窩麻）、網取（網鮑）と岩手は吉浜（吉品）が松竹梅にて、その吉浜産の鮑（23頭サイズ）と鵝掌の煮込、蟹肉と竹笙入りの魚翅スープ、ロブスターにこれまた著名な鶏と阿一炒飯を食す。魚翅だけはやはり雪園飯店が美味いと思う。鮑はいくら干し鮑が珍味でもやっぱり刺身だよね。許留山にてマンゴーとタピオカの盛り合せ。銅鑼湾にて偶然、新型トラムと遭遇、走行開始から数年経ち初めて遭遇の稀な一台にて三人して後先考えず乗車、快活谷に到着。ここで二人と別れトラムで中環経由で帰宅する。『アラビアのロレンス』読了。名著と名高き岩波新書赤版だが中野好夫も真面目でロレンスの美学は感じてはいるが疎く、やはり種本としてのロレンス自著『智慧の七柱』が読みたくなる。それにしてもアラブという土地も英国の政策と「ロレンスの勝手な美学と愛」によって蹂躙され、結局今日の中東問題もこれに石油が絡んで複雑化したわけで、アラブの不幸を思う。それにしても美意識だけでここまで世界を変えたロレンスも大したもの、三島由紀夫は失敗したのに。
いしだ壱成君大麻所持にて大坂松竹座公演中に検挙、下旬の公演並びに九月東京公演中止。芸人である、芝居が下手なら検挙されるべきだが大麻所持程度で官憲も野暮、せめて公演終了後にでもすればよかろうがそれでは見せしめにならぬ、か。国会開催中の代議士同様芝居期間中の芸人も保護すべし。しかし本人は「以前から吸っていた」と供述とは見事。それにしても産経スポーツなど「座長公演中に座長本人が逮捕。演劇界で前代未聞の事件」と述べるが、未聞といえど座長が逮捕されるなどどさ回りの芝居でオイチョ株で座長が逮捕されたり曾てあったことだろうに。大麻の入手先について「東京の方」と、この「～の方」もいいなぁ、「東京」じゃ舞台のセリフにならぬが「東京の方」だとセリフになる、流石。今月４日に大阪・なんばのロケット広場で行われた成功祈願祭に出席した際には「どデカい花火を打ち上げますよ」と意気込んでいたというが、ほんとどデカい花火である。石田純一も賢息の「バンド仲間が同じ大麻所持で逮捕された時「絶対にやってないだろうな？」とただしたところ「絶対にやってない！」と誓った」そうで「その後も折に触れ「それだけはやっちゃいけない」と言い聞かせた」そうだが、それだけはやっちゃいけないことは窃盗強盗覚せい剤など他にいろいろあるわけで大麻程度で「それだけ」とは。それにしても、ここで数日の休演ならまだしも公演全面中止の上、来月の東京公演も代役を立てるか中止にするかは未定、と。報道によると「ホリプロ製作で所属俳優の藤原竜也や武田真治らの名前が代役として浮上」「だが、宙乗りシーンもあることなどから、最悪、中止の可能性も出てきた」と、なぜ宙乗りが理由なのか判らず、本来、俳優の交替こそ或る俳優を伸ばす絶好の場にて曾て三田佳子の代役で片岡京子などいい交替もあり、これをよく利用すべき。所属事務所も「芸能界のみならず、社会全体の薬物渦が大きな問題になっている折……」と、大麻などよりもっと深刻な社会問題蔓延にて誤解するべからず。いしだ君、勝新のような芝居馬鹿にお成りよ。
八月二十日（月）晴。黄昏時に美孚のプールにて水泳。美孚にて藪用。尖沙咀のジムにて鍛練。地下鉄の車内の電光ニュースにて小泉孝太郎君五分間のテレビ出演にメール二千通殺到なる記事。香港にても小泉孝太郎なる名はすでに明星か。それにしても父小泉を靖国参拝を以て日本軍国主義の象徴として断罪するのならその子をアイドルとしてチヤホヤするべきでなし。民族主義の欺瞞。東京より旧知のＹ君、Ｔ君来港にて、深夜Ｙ君の投宿するIsland Shangrila Hotelにて歓談す。二人が銅鑼湾で食した恭和堂の亀ゼリーお土産の一壺を賞味させて頂く。
八月十九日（日）昼より雨。昼、ジム。午後、九龍公園のプールで水泳。中野好夫『アラビアのロレンス』岩波新書を読みだす。海港城徘徊、中環はOliver'sにてＺ嬢と待合わせワインセラーを空にしたＩ君のためにまたワインとシャンペンを買い込む。日本に行っている間に中環のSM用品屋Fetish Fashionが店内でのSM愛好家を集めたセックスショウ開催で警察が内偵をパーティに混ぜ現場で主催者と参加者（医者、弁護士などエグゼな専門職多し）を逮捕、被告側は内輪の愛好者のパーティと主張、警察は堂々と参加者を集め、観衆がプレイ者に触ったことなどに論及。それに対して本日、或るゲイ団体がこのSM検挙は性的マイノリティへの差別だとしてSMの扮装で抗議デモ、すると今度は「一般的な」ゲイたちがゲイ団体がなぜSMの扮装をするのか、そういうことをするから誤解される、と更に抗議。どうせなら医師会や弁護士会が私たちは健全です、SMも正常です、と抗議運動すれば面白いものを（笑）。
八月十八日（土）快晴。自転車初乗り、寶雲道でランニングクラブのＩ君に遭遇、自転車は快調に黄泥涌道を上り淺水湾道をジェットコースターのように下る。海で三島由紀夫『作家論』読む、三島の鴎外論を読んでやっぱり鴎外だ、いいのはと思う。海からの復路、香港仔から華富のコースを選んだが華富ののぼりが予想以上につらかった。一旦帰宅してジム。二週間のカラダの慢錬（まんねり）リベンジだ。朝会ったＩ君、Ｚ嬢と蘭桂坊のAgaveで待ちあわせマルガリータ飲み、数年ぶりでIndian Curry Clubで印度料理、印度料理で初めて葡萄酒飲むが豪州はShirazの甘めのワインはけっこう合うのかも。Ｉ君明日日本に発つというのにさらに拙宅にてシャンペンと新西蘭のキウイでつくったワインを飲む。
八月十七日（金）晴。昨年のこの時期は香港大学の民意調査に対して行政長官董君が行政長官の支持率調査を止めるよう圧力をかけた事が暴露され香港大の学内調査が進み学長と副学長が辞任する騒ぎだった夏。今年は先月曾某なるコメディアンが深夜襲撃されその襲撃した黒幕が新興財閥で芸能フィクサー系の楊某で楊が警察の事情聴取を受けているという、いかにも黒い芸能界的な「ひばり」の世界。日本人学校（大埔）の外壁に日本の歴史認識に対する罵詈の落書き。終日、日本に行っていた間の雑用片づける。不在中に香港城市大学の講師にて中国にて諜報容疑で検挙されていた李なる米国籍華人が（北京オリンピック特赦にて）中国から放出され米国経由で香港に戻り、９月からの新年度の復職の有無が審議されていたが、城市大学はＣ学長脚光浴びて学問の自治により復職認める措置。城市大学のＣ学長は旧知のＭ君の父上、かつてＣ氏が香港科学技術大学の工学部長時代に陽明山荘の住宅に招かれ、息子の連れたちに真摯に接する態度がかなりの紳士だったが、かなりの出世。香港大の空席のままの学長候補でもある。
八月十六日（木）晴、雨。灣仔のSPCAに預けていたウチの猫を引き取る。帰宅してから歌手Ａ君に頼まれていた日本で調達せしブツを届ける。疲れて午睡。私用。夕方ジム。Ｚ嬢と蘭桂坊のベトナム料理屋明珠越南餐廰。メール整理。日本にいて気になったこと……地面がきれいだから若者が路上に坐る。地面は香港のように汚ければいい。日本はうるさい。香港の喧騒もうるさいけど、日本のあの広告とかの放送は公害、電車で車内の携帯電話は迷惑という放送のほうがよっぽど迷惑。録音テープが延々流れている日本、怖い。割り込み、他人とぶつかっても平気な歩行者、前を横切ってもexcuseがない人たち、単一民族なら礼節こそ大切なのでは？、あ、石原なら第三国人が多いからこんなひどい！となるのかな（笑）。
八月十五日（水）晴。朝から日本橋、三越向いから橋を見渡すスタバもお盆か静か。山本山海苔店、たかだか海苔の缶入り１つ購うのに席に案内され茶まで供される。室町の砂場がお盆で開いているかどうか確かめ三越『ひとまねこざる』展。砂場訪れるが朝確かめ玄関が開いていたのはお盆を利用しての冷蔵庫か何かの取り換えのため、実はお盆休み、最後の蕎麦を逃し、矢の根寿司にて寿司。丸善にて綿シャツ、文具小物購う。銀座に出てワシントン靴店にてＺ嬢靴購う。東京羊羹にて日本の思い出に宇治金時とみつ豆。ホテルに戻る東西線にて九段下駅から武道館での記念式典にて天皇皇后の御製を恭しく携えた御仁が乗車、天皇皇后の靖国参拝を促す右翼のビラを読んでいる。ホテルに戻りタクシーにて東京駅、九段下、終戦記念日にて人出多し、今年は小泉君にて靖国は参拝がブームか、右翼のビラの事など私らが話しタクシーの運転手は年配で気を概したかと思ったがＺ嬢タクシー降りて言うには運転手は朴さんなる在日韓国人なり、九段の人出に何を思うか。成田エクスプレスにて成田。自転車、Hifiのアンプなど荷物多く二人で110Kg、80Kgまでと大目に見られたが生まれて初めて追加料金払う。キャセイのラウンジにてコンビニおにぎり３つも食す、日本の最後の食事がコンビニおにぎりとは象徴的。フライトではいつもの亜州素食にて豆腐と野菜の餡かけ御飯に胡麻油サラダ、酒は白鹿だったのだが冷酒が小瓶をきちんと徳利と御猪口で供され気分は上々。大量の荷物のうちＺ嬢が使ったSamsoniteのキャスター付鞄のみゲットできず。同じ型の鞄がかなり早くから回っており、なんかそれが気になったのだが、搭乗客全員が去るとやはりその鞄が放置されており、この客が鞄を間違えたと推測された。何があたまにくるかといけば、このＫなる日本人、乗客のくせにCrewというどこで入手したのか知らぬがタッグを鞄につけており、優先扱いのタッグがついていなかった鞄にもかかわらずFirstの荷物と一緒に出てきていたのだ。成田の職員がこのCrewタッグに騙されたわけである。このＫ、紛らわしいことをしてまでいかに早く荷物をゲットするかなどということに凝っているわけで、それで意気込み優先扱いになっていた私たちの鞄を自分のと間違えたのである、貴様のCrewのタッグが付いていないことに気付かないまま空港を去ったのか、タワケめがっ。この加藤、あっ匿名にするの忘れた（笑）の所為で荷物未受領の手続き終了まで一時間を浪費しＺ嬢は荷物を受け取れず。単なる間違いなら許すがCrewタッグなどつけてまでの間違いは断じて許すまじ。ふと思ったがCrewではないにせよ本当にキャセイの職員かもしれぬ、そうしたら余計に困るよ、乗客の鞄持って行ってしまっては。帰宅して荷物整理。自転車と弥勒菩薩（複製）は無事。
八月十四日（火）晴。朝、草間彌生女史のスタジオを切り盛りするＴ君は小学校から高校までの同級生にて今回会う時間がとれずＴ君がホテルまで朝食で来訪してくれる。午前、新宿にて買い物。午後、私用。晩、Ｚ嬢と銀座、三越にてスヌーピー展、新装なった資生堂パーラーにて晩餐、鴨肉のサラダ、蟹クロケットとハヤシライス。Ｎなるウェイトレスの給仕のメリハリはお見事。
八月十三日（月）晴。朝、ホテルを出て九段下、靖国忠魂社前より皇居一周走る。初めて宮城を一周してみれば北に靖国なる宗教、千鳥ケ淵に霊園と桜林、西北に英国大使館なる唐国、国立劇場という文化、最高裁判所という司法、そして国会が立法、霞が関の行政、丸の内に企業とよくぞここまで各種各様の象徴が皇居を囲むと知る。ホテルに戻り銀座。銀座二丁目のトラヤ帽子店にてトラヤ特製のサシＡポークなる品番の黒の夏用帽子購う。教文社にて雑誌漁り。昼にＸ社総研部に勤務する図鑑君と天賞堂模型売場にて待ち合わせ、煉瓦亭にてオムライスとカニコロッケ食す。図鑑君には九龍バスの勝利二型のミニカーを渡し、バーターでバンダイのウルトラセブンのポインター号、マッハGo
Go Go! のマッハ号、流星号のミニカーを受け取る。午後、歌舞伎座裏の喫茶店にて朝日新聞編集部のＨ君、芝居のことなど情報交換。築地にて月本裕氏と待ち合わせ『ソトコト』編集部にて打ち合わせ。夕方理由もなく表参道から神宮前、渋谷と歩く。東京にて唯一ここだけを眺めていれば景気がよさそうな、まだまだ何か生まれそうな活気のある一帯（実はそうじゃないのだが）。恵比寿の上海なるバーにて十数年前の如くＺ嬢と待ち合わせるが、信州の蕎麦や肴を供すななき、酒寮さいきはお盆にて休み、鉄板焼のうめやとつくねをまくらと云う名前失念の焼き鳥屋はすでに消滅しており落胆、路頭に迷い極めて空腹にて香月でねぎらーめんで済ます。恵比寿駅前に野上彌生子全集29巻10,500円と大きく掲げる、変貌甚だしい恵比寿にあってここだけは変わることのない古本の戸山書店にふらりと立ち寄るとさがしていた矢田挿雲の『江戸から東京へ』（中央公論社）全９巻を10,000円で見つけ購う。戸山書店の温情とウィットあふれるご亭主と暫し談義、名前失念の焼鳥屋の名は豊勝といい曾ての店はビルとなったが裏の山手線土手沿いにて仮店舗にて営業中と聞き訪れるがやはりお盆休み。『江戸から』を携え歩けず一旦ホテルに戻る。総武線の車内にて乗客の会話でＺ嬢が夕方遭遇せし靖国上空に蝿のように舞うヘリコプターの群れが小泉君の靖国参拝と知る。ホテルに荷物置いてまだ乗ったことのない南北線にてＺ嬢と麻布十番、六本木まで散歩、六本木に我らが腰を落ち着けるような飲み屋は存在せず青山ブックセンター、雑誌数冊、栗原彬・小森陽一ら編『越境する知５・文化の市場：交通する』（東大出版会）を購う。六本木よりやはり初めての大江戸線にて都庁前経由にて飯田橋に戻る。駅毎の設計が斬新というか奇抜すぎて醜悪、駅にあれだけ資金を投入する前にあの騒音と揺れのひどい列車本体をどうにかすべし！
首相小泉君靖国神社十五日参拝の英断を撤回し急遽本日参拝せし。小泉君はＡ級戦犯云々ではなく数多くの戦没者に対しての哀悼というが国家神道の神社にて数多くの戦没者のうち一部の英霊なる神のみを祀る場所への参拝にて小泉君の観念は正しからず。これを以て無知な民が「外国の圧力に屈して」と感じ外国への反発心のみ高めるわけで全く無益。
八月十二日（日）雨ノチ曇。山の上ホテル、朝食のLa Vieは珈琲格別。タクシーにて飯田橋エドモンドホテルに移動。新宿常圓寺にて母方曽祖母、祖母、伯母の墓参。昼より鷺宮在住のＣ氏のマンションにて曾て香港に在住せし親友たちとの再会、Ｈ氏の手料理は秀逸。夕方銀座に急ぎ伊東屋、三越にてスヌーピー江戸小物購う。歌舞伎座初日、二階東扉一の桟敷を母が押えてくれ絶好の席にて見物。勢獅子の踊りは勘九郎、八十助じゃなくて三津五郎、それに橋之助、染五郎に勘太郎と七之助、女形が福助、扇雀に孝太郎と安定した若手にて、やはり三津五郎の踊りは別格、橋之助と染五郎が獅子舞を丁寧に踊り好感。野田秀樹演出の「研辰の切られ」、序盤の演出はよかったが旅館から仇討の終盤までかなり間延び、野田の演出じたいはけして目新しいものではなく但し歌舞伎座では斬新なのだろうが、花組芝居であるとかわはは本舗なり勝新太郎の不知火検校なり井上ひさしの薮原検校なりがすべて既に素晴らしいものがあるのに、それを単に歌舞伎座と演舞場しか知らぬ客は喝采、そればかりか中村屋の内儀が旦那に二人の息子に兄弟二人が出演しているからとはいへどの客よりも大声で涙を流して笑い歌舞伎でありながら「アンコールでは」かぶりつきまで進みやんやの喝采、役者と身内が客以上に歓喜とは唖然（松島屋仁左衛門夫人を見習うべし）、アンコールにて舞台に上がった野田君はイマイチ笑顔がなかったのは歌舞伎の世界のノウテンキさへの疑惑か？。少なくても勘九郎の「あの」熱演にてどうにか保っている芝居であり、ただ歌舞伎役者の演技力では演じきれない部分あり、ふと薮原検校で素晴らしい熱演をした地人会がこれを演じればもっといい芝居になるのでは？と思う。歌舞伎座でやるべき芝居ではないし、歌舞伎座でやらないのなら残念ながら歌舞伎役者よりもっと芝居力のある劇団はいくつかあるし、野田の演出もいったい歌舞伎で何がしたかったのか不明、唯一義太夫がセットから舞台中央までせり出し勘九郎の傍らで唸り、勘九郎がまるで文楽のように動く場面を除けば面白い点なし。いたたまれれず兎に角銀座ライオンにてヱビスビールを飲みＺ嬢の提案にて有楽町ガード下の居酒屋登運とんにてもつ焼きとホッピー、秀逸。
八月十一日（土）雨。ここ数日、日本はホームセンター、コンビニ、ファーストフードにファミレス、郊外の大型店、そればかりかと思う。朝、上京。駿河台は山の上ホテル旧館に投宿。香港Ｄ嬢に頼まれたバンドスコアなど購いジムナジウム関係の用品も購う。昼頃雨強く神田須田町まで歩き、神田まつやにて蕎麦。今回の来日、昼二日昼食を摂らぬ日を除き連日蕎麦以外の昼食なし。まつやの蕎麦、昨今美味い蕎麦なら幾らでもある訳で、さういふ意味ではまつやは違うのだが、越乃寒梅や雪中梅が美味いといわれる意味では、まつやの蕎麦とは譬えば神田の停車場のホームにてまつやの蕎麦が生蕎麦で供さららば是は絶妙と思う。午後Ｚ嬢の実家を訪れる。西武新宿線にて上石神井を通り岩崎ちひろの美術館がこの界隈にあり高校の頃Ｋ君と一緒に訪れし事を彷彿、但しＺ嬢に「このへんに石井ふく子美術館あるよね？」と言ってしまふ。岩崎ちひろの名を『ノンちゃん雲に乗る』の石井桃子と誤解したのはまだ赦されるとして石井桃子がなぜか石井ふく子となってしまった模様。石井ふく子美術館があった場合、展示品はドラマありがとうのセット程度ならまだしも佐良直美の剥製や沢田雅美の燻製などあったらかなり怖いと想像、しかも女性は無料、男性は有料なら更に可笑し。夕方山の上ホテルに戻りバーNonNon、月本裕氏＆Ｋ夫人と晩餐、待ち合わせだが最初のバーテンダーは愛想乏し。月本夫妻とホテルの山の上にて天麩羅、山の上はウェイターが極度にホスト的、美味ではあるが他店と比べれば対コストとしては12,000円の天麩羅は8,000円で等価か。食後夫妻と銀座５丁目は風月堂前Torifujiにて葡萄酒、亭主が供す酒は食後ということで最初にスペインはAllozo Reserva'94にて丁度天麩羅を食した後にてTempranilloとはかなり笑えるが、いかにも。二本目は伊太利にてTerve Avore Salento '98は食後には絶品の甘口。銀座だからこそのいいワインバーを紹介いただき夫妻に感謝。月本氏のような方と相伴すると脳が刺激されいくらでも面白いネタが浮かぶのは不思議だが何せ酔ってしまふから全部残らないのがマヅい。御巣鷹山の日航機事故16年目との報道、この報道に接ししは確か哈爾浜（ハルビン）の新聞社前の街頭掲示にて、その数日後に哈爾浜の河向こうの太陽島に渡るフェリーも石油引火にて数十人が死亡したり。
八月十日（金）晴。Ｚ嬢来る。Ｚ嬢雑用済ませ昼柵町蕎麦切り蕎エ門（そえもん）「そばはまだ華でもてなす山路哉」なる芭蕉の句が似合う水戸の最上の蕎麦屋。午後笠間日動美術館、特別展は赤塚不二夫それでいいのだ！展、日動美術館と赤塚漫画というのも驚いたが数年ぶりに訪れれば曾ての洋館がモダンで洗練された建物三棟が竹林の丘に点在する美術館に変貌を遂げており、赤塚展もかなり見ごたえがあり一般の読者は知らなかった実質的に断筆することになる70年代後半の世界に触れられる質の高い内容。コレクションも相変わらず個人的には最も好きな美術館。なかむらなる京風割烹にて両親、Ｚ嬢と会食。季節柄、鱧（はも）づくしでいいのだが、ひどく暑い店内、小上がりの座敷は殊にサウナの如く、三卓のうち私らを除く二卓の喫煙がひどく野暮にてゆっくり食事を味わう環境になし。それにしても煙草を吸わず置き煙草して引切りなしに新しい煙草に火をつける煙草アロマの主ほどの基地外は他に居らず。妹も合流することになったがとてもそういう気分になれず駅を越えてデニーズに移動。適度な空調、気流、分煙にて煙草の煙も隣のテーブルの料理の臭いも気にならず、よほど快適な空間、宇治金時のかき氷とチョコパフェを百年ぶりに食す。小泉君の靖国問題、昨日の朝日に一橋大学の安丸良夫が書いているように神道の自然な先祖崇拝的な真な心が国家神道になりかなり強引な国家システムの一部となり、あたかもそれが日本の伝統そのもののように捉えられていること。「キミたちも日本人だろう」という自民党的御仁がいるが、その人が踏み絵の如く象徴化している伝統、神道なるものはビクトリア朝以降の国家体制下でのそれでしかなく、この御仁こそ伝統すら理解せぬ近代主義者なのである。
八月九日（木）曇。朝もまた露天の風呂に浸かり元湯も浸かる。この三日でいったい何度の入湯か。昨晩14年ぶりかで再会した福島の大伯母は77歳、四年前に香港にまで遠出を果たしたこの大叔父が83歳と離れていてはこの高齢を思えば次の再会がどうなるかと気掛かりにならざるを得ず。朝食を済ませ午後の雑用ありの為東北磐越常磐自動車道を爆走し昼前には大叔父を送り実家に戻る。日本のホームセンターなるものは森羅万象、折畳み自転車のキャリングケースから梱包材料まですべて揃い、これが香港であればと思うと数日かけても揃わぬものばかり、ホームセンターこそ日本の全て。自宅にて自転車、アンプ（ヤマハの26年ほど前のアンプなのであるが当時10万円したものにて現役）を梱包。DK銀行にT/Cの両替に行けば窓口にて「あ、Ｋホテルにお泊まりの方」と（Ｋホテルは先日この窓口で両替のスリップに書いた適当な住所なり）まるで余はその町に数日留まる寅さんか。ヤマト運輸に自転車など持ち込めばトランク用にはトランク用のビニールカバーがあり成田用には成田用の専用ステッカーがありと梱包への誠意に胸打たれる。かつて雑木林に運送会社の倉庫程度で何もなかった市街近郊の通りにユニクロだの石丸電気だの並ぶ。市街とは何なのか、賑やかだった商店街を思い返す。夜、自宅にて雪中梅を吟味、いい意味で単なる清酒、大吟醸でも純米でも何でもない出羽桜のような芳香があるわけでもない単なる日本酒、これが越乃寒梅を超えたと評価され、一升9,000円近くするのか、越乃寒梅も同じく、よーするに普通でない日本酒が氾濫した結果がこれか、と思う。
八月八日（水）雨。母と福島市内の親戚亡祖母の弟家族を訪ねるが抜打ちにて不在。菊屋の羊羹、太陽堂の麦煎餅を市内にて贖う。飯坂温泉まで走りあかいなる銘酒蔵、温泉にて高校野球楽しむ大叔父と父に浦霞からくち、栄川（エイセンではなくさくえがわ）、香港に持ち帰るニッカシングルモルト仙台12年yo、温泉にて飲もうと同じくニッカ竹鶴12yoを贖う。医王寺参拝、此処は義経千本桜でお馴染佐藤忠信の菩提寺、義経が欧州に逃げ延びし折立ち寄り忠信、その兄継信の功を追悼す。また芭蕉も奥の細道の行脚で立ち寄り「笈も太刀も五月にかざれ紙幟」おいもたちもさつきにかざれかみのぼりと詠む。松平定信は
轉聴医王山寺昔 医王の山寺が昔を伝え聴けば
源公逃世不平等 源公世の不平等を逃れ
可憐孤鶴離群涙 可憐なる孤鶴群を離れ涙しが
緑竹斑然般若枝 緑竹の般若が枝は斑然とす （富柏村訳）
と詠む。医王寺門前の木鶏なる軍鶏料理屋にて軍鶏南蛮とせいろ。フルーツラインなる左右に果樹園、桃が盛りの道、玉子湯へと戻れば、高校野球開幕戦にて地元の高校が大勝したと大叔父と父が祝杯。吉右衛門自伝にてのちの喜劇役者曽我廼家十郎が父歌六の弟子にて若き吉右衛門の子守役だったと知る、読了。朝訪れし市内の大伯母より電話あり子息Ｙ氏と温泉来訪、夕食を共にす。
羽傷むつばめ立ち寄り硫黄泉 富柏村
東京都にて養護学校の一部にて扶桑社の歴史公民教科書採択される。栃木での採択が否定され兎に角採用の実績を作ることが先決と、それで利用されしが養護学校か。東京都が実績作れば右にならえで愛媛県も同じく養護学校にて採択、石原以上に馬鹿な愛媛県知事曰く「外国には不快感を示す国もあろうが日本は外国の教科書に不快感を示しません」と。マスコミに取り囲まれた自民党の政治家曰く「キミたちも日本人だろう」と。
八月七日（火）雨。まるで香港から雨を持ち込みたる如く空梅雨に炎天下が昨日より極端に涼しくなりたり。両親を連れ温泉にて避暑、途中父方祖父母の墓参、祖父の墓なるもの家名も戒名もなく祖父・俳号竹王の「うろこぐも子孫は近し祖は遠く」なる句のみ刻む墓石は我が人生が目標か。父の実家近くに住みし大叔父を乗せ一路福島は高湯温泉の玉子湯。途中気温は18度と仙台は七夕が日なれど十月初旬の気温とラジオ語る。大叔父常磐磐越自動車道と高速にて酒入手できずガス欠となり磐越吾妻麓にてゆず沢の茶屋なる田舎懐石にて補給、その奥石原高原なる山合にひっそりと蕎麦の里なる蕎麦屋、福島の山麓にて更科的、なかなかな皿蕎麦と鴨南蛮、酒は八海山。玉の湯に投宿。福島の金水なる酒を飲みつつ硫黄泉の露天風呂、霧の如き小雨を浴びつつ。昭和26年に啓明社なる鎌倉の書肆から出版されし中村吉右衛門自傳読む。延々大叔父、父母と酒を飲み交わす。それにしても大叔父の話を聞いて面白いし不思議は山口昌男的な昔の親戚複雑関係、エンドレスにリゾームな関係。
八月六日（月）曇。広島の原爆記念日。平和祈念式典、「子ども代表」なる小学生の宣言文、大人による文章の手入れ甚だし。某DK銀行にてT/Cの両替、Standard Chartered銀行のVISA系T/Cを提示のところ窓口の行員が「見たことないT/Cだねぇ」と近隣の行員と協議。世界中には総ゆる種類のT/Cがあるわけで、それでも虎の巻にStandard Chartered銀行の名前あり「ああ、あった、あった」と両替可となり安堵したところ「こんなT/Cもってるのは日本にお住まいじゃないんですか？」と、そういえば三日に成田の税関でも「ご旅行だったんですか？」「いえ、帰国です」ここで一時帰国と言えばよかったとＺ嬢の分析、それに続いてまだ「どちらから？」なら判るが「お仕事は何ですか？」という質問に思わずキレそうになったが（税関のカウンターでの一次審査で職業を聞く税関など他にどこがある？）、銀行でも行員の顔には「どちらで何を？」と書いてあるが、余のバリアと質問するなよビームにて行員の口を封じる。ちなみにたかだかT/CでUS$700ほどを両替するのに日本円の現金85,911円を数えた行員は４名にて都合６回なり。祖父母の墓参、墓地の門から墓までの道が年少の頃には誠に長く感じられ祖母に手をひかれ石畳を渡っていったものが今になればわずかなもの。市役所にて戸籍謄本ゲット、印鑑なく免許証をといわれ国際免許証など出せばまた何をいわれるかは想像に易くパスポート提出、母印をといわれ拒否すれば何をいわれるかは想像に易く母指を抵てて微かにズラし指紋は遺さず。井上陽水"United Cover"、吉田拓郎"Minna DSaisuki Love2 All Stars"、小田和正"Looking Back 1&2"、三木道三"Lifetime Respect"、久保田利伸"La La La Love Thang"、大沢誉志幸ベスト、大滝詠一"A Long Vacation"と日本が幸せだった時代のCDをかなり買い込む（三木除く）。昼に香港に香港邦人史関係の聞き取り調査にてＡ氏。Ｓ湖の周囲を一周走る。中学生の頃に半周でも地獄の長距離走と感じたものが今走ってみるとわずか20分弱の３キロ台のコースにすぎず。Victoriaにてトレーニング関係の買い込み。スーパー銭湯、430円にてかなり対コスト効果高。国道バイパス沿いには上州屋から吉野家、すべての大型小売店が並び旧市街の廃虚とのこの差に驚きつつ自転車屋にてDAHONの20インチHELIOS７段変速の流行の折畳み自転車まで購入。妹と呂山なる中華料理屋にて餃子、蟹玉、蝦チリ、湯麺という日本料理を食す。
八月五日（日）颱風九号が小笠原諸島あたりを通過、その影響にて強風に曇り雲との予報、これはサーフィン日和と海へと繰り出せば海風心地よく曇天どころか晴れ空が続きなぜか山口瞳『江分利満氏の優雅な生活』を読む。サーフィンせず（当たり前）。あれのなにがいいのかわからないが山口瞳の文章がいい。大学での専攻まで同じＴ君と邂逅。深夜NHKにて吉右衛門と芝翫で一条大蔵譚を見る。
八月四日（土）朝より歯科治療。香港の牙科医師に右奥の歯内部での侵食虫歯を指摘され治療費はHK$10,000といわれたもの、実家近くの歯医者は表面上虫歯は見当たらないがとレントゲンをとればかなり酷い状態にて、それを発見せし香港の歯医者を誉める。香港にては虫歯＝市場はすでに明らかであり真の投資家＝歯医者はまだ開拓されたない潜在的市場＝将来的齲歯を見つけ投資＝治療することが極意か。日本では珍しい二時間の治療で4,090円と、やはり香港よりビジネスクラスで日本に来てもまだ安く歯科治療可。それにしても患者との一切のウイルス感染を防ぐため徹底的に防備すし近代科学の粋を集めたような香港の歯科医に対して、口腔に直に指が入ってくる日本の歯科治療は温もり重視か、深センのほうが衛生には徹底しているかもと思う。昼、蕎麦屋みかわ、奥久慈の蕎麦粉だけでつなぎなしの蕎麦、冷酒は長野の辰の吟。自宅にて雑用。旧宅の倉庫にて若い頃の書籍の整理に挑むがとても半日で片づけられる量ではなく断念。吉右衛門自伝、六代目の自伝など読みたく抜き出す。七夕祭。もともと宗教性もなく昭和三十年代に商工会議所が七夕を大きな祭りにしたものだが、それでもかつてはかなり盛り上がっていたものが人出など寂しきもの、大型店が次々と閉店した商店街に七夕の飾りすら乏しく歩行者天国に各商店街の山車だけが迷い子のように点在する様。夜、中学の時の恩師宅。山極圭司『青春三十年1920－1950旧制水戸高等学校物語』（朝日新聞）読む。30年の歴史のうち実際には20年弱の国家主義の中での純粋培養的プロシア的自治と自由、ここに学んだ面子をみると舟橋聖一、江戸英雄、赤城宗徳、宇都宮徳馬、後藤田正晴と戦後の日本にて保守ながら似非の革新より自由主義の本髄的面々がいるのも事実。
八月三日（金）晴。Cathay Pacific504便にて東京。香港空港のキャセイのラウンジ、香港のフラッグキャリアとしてあれだけ広いラウンジを設けたはいいが、トイレが狭すぎ男女共３個室のトイレとは。下手な図書室など作る空間があるのなら子供部屋を作るべき。機内食相変わらずキャセイは注文にてAsian Vegitarianつまりは中華精進。成田空港、百年ぶりに第１ターミナル、海南島は三亞空港より狭い到着ロビー、何故？。成田よりリムジンバスにて郷里へと戻るが、直行バスとはいえ空港からの高速を離れると大型車の対面交通もままならないような県道にすら入り、せめて灘沿いでも走ってくれれば気が晴れるものを、わずか人口数万の町を経由し、しかも降車客がいないことなど成田を出る段階で判っているのに。郊外で幹線道路の国道が90度に曲がる交差点が多いのも不思議。「青色申告宣言の町」とか「守りたい日本の平和」など看板が薄気味悪い。浅田彰『歴史の終わりを超えて』（中公文庫）読了。後半の対談どこかで読んだ記憶あれば10年ほど前の廃刊寸前の『朝日ジャーナル』。柄谷行人が今でも沁みる。夜、花火。30年以上前と全く変わらない町並み、ビルの間、遠くに花火が見える。嬉しいようで30年変わらぬというのは欧州でもないかぎりこれはもはや都市ではない。かつては日本に帰ると夜も眠れるほど楽しかったテレビ番組見るものあらず。NHKハイビジョンスペシャル「お父さんのための海外旅行ガイド３香港」、夜景を見る「とっておきの穴場」がピークと旧リージェントホテル、水上生活者の生活を見て珍寶にて海鮮……と最も套りのツアーでも避けたいコースをお父さんに紹介。夜景が映えるのは高層ビルのライトが灯るから、その高層ビルを建てるのには竹組みの足場というわけで香港の夜景が映えるのはこの竹の足場があるから（笑）とかつて我が神南にて関与せし「クイズ百点満点」の香港特集でもこんな言いがかり的な結びつけは絶対にしなかったもの。夜中『朝生』にて小泉君靖国参拝、新しい歴史の西尾先生の靖国問題は外国勢力による圧力であり共産主義国家維持のため国民の視線を外に向けさすための日本軍国主義復活であるという中国陰謀説にこりゃ議論にもならぬと冒頭発言だけ見て消す。西尾先生、東京都の養護学校での扶桑社教科書採用を決める石原知事などこそよっぽど外国陰謀の自虐史観（笑）。
八月二日（木）曇ノチ晩大雨（赤雲警報）。国際免許が失効せし事ふと思いだし朝金鐘の運輸署牌照部香港牌照処、申請書提出し五分と待たぬうちに招れHK$80払い完了、世界一早い国際免許取得か。仕事場の倉庫大掃除して整理。四日連続ジムにてGX、多少重量上げて体躯悲鳴。削髪。『メイプルソープ』読了す。
八月一日（水）雨。旅行用にPowerBookG3のネット接続、メール転送、外地での接続などの調整す。雑用に追われ本どころか新聞すら読めぬ数日。ジムだけは連日。Ｚ嬢より現在では歴史的にも貴重な銀座太郎の店内の写真が提供される。Ｚ嬢、なぜこんな絵葉書を後世までキープしているのか不思議。香港に数多く存在する「日式料理」（日本「っぽい」料理屋……かなり亜流）がこの80年代の銀座太郎の内装の影響をかなり受けていることが顕著に判る。帳場左の柱影に写っているのが経営者Ｍ氏。
『信報』にて劉健威が随筆に挙げられし笑話。
その一。大家都高興（皆嬉し）。行政長官董君並びに臣下が閣僚供にヘリコプタにて香港上空を飛行せし時董君ふと曰く「この窓より一枚の一千元紙幣を落とさばそれを拾いし人が喜ばむ哉」。それを聴きし律政司司長（梁愛詩）「董太爺、何故に五百元紙幣二枚とし二人の人を喜ばさぬか」と応える。経済司司長（梁）続けて曰く「董太爺、何故に一百元紙幣十枚とし十人の人を喜ばさぬか」。その時ヘリコプタが機長振り返り曰く「何故に閣下自らを窓より放り出し六百万人を皆喜ばさぬか」と。六百万人は香港の総人口なり。
その二。香港的未来。ある日律政司司長並びに経済司司長など政府高官一同会議に聚まる時に交通事故、皆救急病院に運ばれ、記者病院に終結し医師が現れるを待つこと暫し。医師緊急治療を終わり記者尋ねる「先生、先生、律政司司長は助かりましたか」。医師沈痛な面持ちにて首を振り「いや、律政司司長は助からず」。記者また尋ね「経済司司長は？」。医師沈痛な面持ちにて首を振り「いや、経済司司長も助からず」。記者重ねて尋ねる「そ、それでいったい誰が助かったのですか」と。医師感慨一入に曰く「香港が助かったのです」と。
律政司司長梁愛詩の人に嫌われ憎まれしし事は公然たる事実なれど就任早々の経済司まで笑われる。
