香港の自由と言論のため香港特別行政区基本法第23条による国家公安維持の立法化 に反対〜! 

2000 年11月24日からおそらくあなたは 番目の閲覧者です。


二月二十八日(金)曇。黄昏に香港大学への道すがらConduit Road通り抜ければ数えてみれば引越から早七ヶ月、懐かしき通りを香港大学長住宅まで。藪用済ませ大学図書館で少し読書。湾仔運動場で明後日の10km レースのゼッケンなど受け取る。Great Eagle Centreの韓国食堂純子屋にて一人ビビンバ食す。かつてはもっと居酒屋風だったが改装し外から丸見えですっかり食堂の観、昼の営業に徹底かいぜんよか 客も少なし。今月上旬の断酒が功奏したのか酒飲まぬ日多く今夜も寧ろ珈琲飲みたく某所のPacific Coffeeにてエスプレッソ一喫、店の外で駆回り騒ぐ子どもら「だるまさんがころんだ!」と日本語で絶叫し続けショッピングセンタ内に響き煩きこと甚だ しく通りがかりの買物客も珈琲店のなかの客も困った表情、店出た際に「ここで遊んじゃだめだよ」と注意すると子どもら驚いたことに「だるまさんが転んだ」 し続け聞く耳もたず。通りすがりに一度言われただけで無視していれば大丈夫とでも思ったのか。もう一度言うととりあえず遊び中断したが鬼役の子に「誰です か?」と尋ねられる。咄嗟に思ったがこれは相手の名前を聞いているのに非ず。身も知らぬ者であることは顔見ればわかっている。これは「遊んじゃだめ」とい う注意に従うかどうか判断するための相手の確認。ここで余が制服を着ていたりとか(衣装の効用)、「学校 の先生です」とか警察とか北朝鮮の工作員だとか言えば、それが怒られる、罰せられる、被害に遭う、と思うからそれを回避するため遊びを止めるのだろう、 が、「こいつに」従わなくても一切罪にならない、と悟れば従わぬはず、「誰ですか?」の言葉で子どもも<政治>じゅうぶんにPower Politicsしている、ということ。ただこの「誰ですか?」に「学校の先生ですよ」とか「ウチの人を知ってるんだよ」と嘘つくのは卑怯、素直に 「えっ?、一般市民……」と答えたが意味はわかるまひ。???という顔をする子どもら、とにかく遊びをやめる。「おウチの人は?」と尋ねると珈琲店の隣の テナントである酒場兼ねたダインで食事中。その店の風船持って遊ぶ子どもら、食事終わって坐っていられず遊びに出たような。「だって外に出ちゃダメだって 言うし、ここしかないんだもの」と一人の子。「だけどここは遊び場じゃないよ」と諭すがまた遊び始めようとする子ある。香港の普通の感覚で言ったら、家族 数組で食事に出かけ子どもらに「ショッピングセンターから外に出ちゃダメよ」と言う程度で子どもらだけ食事場所から放出させず。そうでもしてゆっくり食事 したい、となるなら女中同伴で子どもの面倒見せて、か親の一人が付いて何処かで遊ばせようものの、子どもが怪我したり迷子になったり最悪のケース、誘拐さ れたりとか心配しないのだろうか。呆れる。子どもらが買物客の歩行を遮断しても平気で遊んでいる傲慢さも大したものだが、子どもを放置して平気で食事楽し む親も親、この親にしてこの子あり、か。子どもらに「香港だから」なんて傲慢さがないことのみ祈る。七、八人の子どもらいたが反応見ていると人間のタイプ の違いが顕わに出て興味深く、まず怒られると察してそーっと離れていく者、だって○○ちゃんがと他人の所為にして自己弁護する者、できるかぎり無視して遊 びを強行しようとする者、様々。とにかく三人の子が消え去ってしまったことで残った子は怒られそうで対象が絞られてしまったことに諦めたのか一人、二人と 食事場所のほうへと戻ってゆく。当然のことながら誰一人として「わかった」とか「ごめんなさい」など口にもせず。これできっと食事場所に戻りさっき「だっ て○○ちゃんが」と弁明した子が親に「知らないオジサンに怒られて」と話すのだろう。そこで親は子どもに注意するわけもなく(なにせ自らが店出て外で遊ぶ子どもを認知しているのだ)「ほら、怒らーれたぁ!」と他人事のように茶化すのか連れ の者に「おせっかいな日本人っているのね」とでも言うのか。うるさいだけなら元気がいいと思うこともできようが買物客遮断しても平気で遊ぶ子どもらが怪我 もせず迷子にもならず誘拐されず無事戻らせられたことへの認識だど当然あるまひ。帰宅して、書棚が窮屈になっているの見るに見かねて読み終わり処分する 本、数年使わず埃かぶった資料の紙類など片づけ。
▼築地といふ場所柄築地小劇場以来の芝居にも詳しいH君より28日、って今日?、新宿紀伊国屋ホールにて「イラク攻撃と有事法制に反対する演劇人の会」の会 合あり、と。井上ひさし、妹尾河童、吉田日出子、渡辺えりらの参加で、総合司会に勘九郎翁の名が、と。ただし「打診中」、実現すれはついに中村屋反戦闘争 に決起?、前進座ならいざしらず松竹所属の歌舞伎俳優としては歴史的な壮挙、先々代左団次の、といってもお若い方は御存知ないかもしれぬがそのソ連公演以 来の快挙かも知れぬ。この「打診中」、想像できることは、とH君、斎藤憐や飲み仲間の渡辺えり子に頼まれて「おー、やるよやるよ」って返事したのはいいけ ど、いざ出るとなったら「松竹永山社長はじめとしていずれも様方」のご意向気になり、といふところか、と。松竹だし……。H君指摘するに、この反戦集会、 共産党系新劇系から、アングラ、新左翼系までよく網羅されているが加藤剛先生の名が見当たらぬのは不思議、と。確かに。
▼歌舞伎といへば築地H君とのやりとりの中で当代の藤間勘十郎が実は大河ドラマ『独眼竜政宗』で「梵天丸も かくありたい」のセリフで評判となった名子役、当時の藤間遼太といったそうな、であることがわかる。余ばかりかH君も知らなかったとは。それを切掛にいろ いろ調べていて昭和33年の俳優祭の 興業内容知る。六世勘十郎振付の『曾我の春駒』は若手総出演で工藤祐経=新之助(現・團十郎)、曾我五郎 =中村米吉(五代目歌六)、曾我十郎=亀治郎(段四郎)、 朝比奈=尾上左近(初代辰之助)で化粧坂の少将演じる坂東喜の字は今の玉三郎。『宮島のだんまり』が物凄 く、豪華なのは唄=猿之助(初代猿翁)、唄=左團次(三代目)、 三味線=勘三郎、三味線=松緑(初代)、で演じるのが傾城綾衣太夫=時蔵(三 代目)、白拍子静の前=福助(七代目芝翫)、清盛=羽左衛門、畠山庄司重忠=勘弥、賤の女 芦江=友右衛門(四代目中村雀右衛門)に九紋竜史進=尾上九朗右衛門、東金袈裟太郎=海老蔵(十一代目團十郎)に俳優祭であるから机竜之助=辰巳柳太郎、鞍馬天狗=島田正吾に藤屋のおむら=藤間紫と奇想天外 な登場人物にずらりと錚々たる役者並ぶ。今では芝翫の十八番となった『年増』は歌右衛門。『勧進帳』は一日目・昼が弁慶=羽左衛門(十七代目)、富樫=段四郎(三代目)に義経=友右衛門(四代目雀右衛門)、夜は弁慶=市川猿之助(初代猿翁)、富樫=海 老蔵(十一代目團十郎)に義経=時蔵(四代目)、二日目 は昼が弁慶=松緑、富樫=勘三郎で義経=左團次(三代目)、夜は弁慶=幸四郎(初代白鸚)、富樫左=勘弥に義経=福助(七代目芝翫)と「役者が 揃う」とはまさにこのこと。ちなみにこの俳優蔡のサイト、女物の浴衣のモデルは一瞬若き日の喜の字=玉三郎か、と驚いたがこれは水谷良重(笑)
▼蔡瀾氏の蘋果日報の随筆連載「煙」なる、愛煙家の氏が二ヶ月に一度は取上げる煙草に関する文章、要は喫煙 者も喫煙のルールを守るなら喫煙自身には自主権があるのであり本人が好きで喫煙していることを「悪」だの「壊」だのと他人が揶揄するな、と、それは道理、 ただ一つ気になることは氏自身も「煙草を吸うなと言われれば、間接喫煙が本当に害があるのかどうかは証明されていないが(本 当に?……富柏村注)、相手の同意がなければ自分は煙草は吸わない」と、これだけ読めば紳士的、だが、実際に、である、蔡瀾氏ともあろう方 を前にして愛煙家の氏が煙草吸おうとした時に「吸わないで」といえるだけの大物が何処にいようか。内心吸われたくないと思っても黙って我慢する。つまり相 手のことを思っているようでも自分と相手との立場には高低があり、そこでこういった主張は力関係が平等でないこと、蔡瀾氏のほうが奔放に振る舞えることは 言うまでもなし。だいたいにおいて立場の強い人ほど自分勝手ができるのが社会というもの。

二月二十七日(木)晴。朝日新聞一面トップに大きく「北朝鮮が原子炉再稼働」と。それほどの大ニュー スか。「電力生産のため再稼働始める」と1月だかに明言しており予定通り(笑)。それも米国との対話再開 意図しての真に平和的手法と賞めてあげなければならず。日本が非核国家にて原子力発電否定を国是としているのでもあればまだしも原子力発電盛んな上に核廃 棄物海外ポイ捨て国家が何を理由に北朝鮮の核事業を憂ふか。いろいろ考えてこれまで使っていたデジカメ、OlympusのC900さ すがにそろそろ限界で買替え考えPanasonicのLumix、 F1とす。べつに浜崎歩嬢に魅かれてのではなく余はLeicaのこのレンズに魅かれしものなり。そこまでライカにこだわるのならラ イカっぽいデジカメあるのだが、これはとても実用には難あり。黄昏にQuarry Bayの太古坊、MM1持参してSwire集団の敷地内にて実験的に行われている公共ワイヤレスLAN(無料)お 試し。当たり前だがちゃんと繋がるばかりか11.0mbpsで篤と利用可、太古坊の外の街頭でも利用可と聞いておりEast Endにて試みるが繋がらず入ってしまった手前エール一飲す。夜、ニュース10見ていたら(別に好きで見ているのではな い、香港で日本のニュースはこれしか見れないのだ)北朝鮮の原子炉再稼働、深刻に報じるどころか電波少年みたいなデカいテロップで「その目 的は?」だって(笑)バカじゃないか?、対米対話だろーが、それをいちいちセンセーショナルに、そして軍 事評論家とかナントカ総研の研究員がしたり顔で説明と思うと下らなくて見ておれずテレビ消す。朝日の天声人語読んでいたら(こ の書き手も思考回路よくわからない記者だが)天声人語の常套で「最近の言葉から」、いろいろ挙げての最後が小泉三世の民主党党首菅一世との 対話終えての「丸め丸めよ、我が心。まんまる丸く、丸くまんまるだ」と江戸時代の遊行僧の歌に心境を托して、と。確かにこの発言あったが天声人語子がこれ を挙げた意図はどこに? 1:「最近の言葉から」らしく読むに値する、と判断して 2:いい言葉並べた最後に敢えてこれを挙げて揶揄の意図 3:全くなに も考えていない の何れかか全くわからぬ。本当にわからぬ。明日、朝日に電話して聞いてみようか。
▼香港政府、昨日「人口政策専門委員会報告書」公布。投資移民の最低投資額HK$6.5mとし純粋な不動産 投資などもこれに認める、と。また居住七年未満の福利厚生受益を制限、海外からの出稼ぎ女中の最低給与額を現行よりHK$400下げHK$3200だかに してHK$400を女中雇い税として雇用者より徴収などなど。なぜ人口問題の答申がこのような内容なのか、と訝られる方もおろうが、『信報』社説で明確な 説明がなされており、それを引用すれば、政府のこれまでの人口政策は非法移民を防止し流入労働力の抑制だけを焦点としていたが今回は人口政策の目的が「香 港の人口を充分に確保し知的型経済の発展を維持推進する」というもので「まず人材を引き寄せ次に投資を引き寄せる」というもの。これまでも外為管制なく資 金流入自由な香港は多くの資金が流れ込んできたがこの政策は人も呼ぼうというもの。香港も先進国のご他聞に漏れず社会の高齢化少子化進んでおり、このまま では労働人口の現象と産業低迷、税収減少など暗雲ばかり、それに抗して社会の活性化維持するには積極的な海外からの人材と資金の流入を、という姿勢。日本 の政府与党官僚の諸君はわかるだろうか?、これが。外国籍は「市民」とも認めず地方自治の選挙権すら与えず、それで世界でも著しい老齢化少子化の社会をど うしようとするのか、香港政府も頼りない点多いが日本政府の愚政に比べればこうして建設的な景気打開策提出するだけまだマシ。香港で1億円のマンション買 えば香港で市民権得られる、崩壊へと崖を下り続ける国家から「脱日」希望の方は是非どうぞ。それにしても大きな矛盾は、そうした海外からの積極的な人とカ ネの流入を期待する香港が、である、国家安全条例の立法化は銀行界や欧米諸国(日本はダンマリをきめこむ)が 懸念表明しているように資金の流入の妨げ。でも北京には国家安全条例で忠実ぶりを示し海外に向かってこの開放政策、いかにも香港らしいパフォーマンスかも しれぬ。
▼香港に密航し13年目にて発覚し逮捕された45歳の男性、禁固11ヶ月という温情判決あり。この男性内地 =中国の大学にて学ぶころ思うところあり89年に偸渡来港、香港にて工事現場で不法労働者として働き500元で現場の同僚通じて「張春華」なる者の偽の身 分証入手、写真偽造しこの張春華として勤めば、その後2軒の工技術会社設立し広告まで掲げ建築業にも乗出し20名の従業員を抱えるに至りしが運命尽き果て 遂に官憲の御用となり、逮捕の折この被告驚愕し逃亡図りビルより飛び出ようとして追う警官と供に落下して受傷、結果、偽文書使用並びに非法滞在など12の 罪にて起訴され昨日判決ありしところ裁判官、内地よりの入境制限あるものの多くの香港市民この男と同様に密入したのも事実、ここまで本人努力し事業興し生 計維持するばかりか雇用生むまでに到るを以て情状酌量の余地あり、と逮捕時の抵抗を覗き偽文書使用含む11の罪を無条件釈放とし禁固11ヶ月といふ軽罪と す。美談。
▼香港カソリック教会の陳日君主教、本日の『信報』に論文寄し誤解も多き主教の発言につき自らその真意を述べる。キリ スト教司祭が「公民抗命」命惜しまぬ抵抗と「暴力革命」を論ぜざるを得ぬ現状。これを説いた80年代のラテンアメリカの司教たちはローマより異端扱いだっ たこと懐古。陳主教曰く、主教初めて「公民抗命」説きたるは香港政府居留権なき児童学校に受入れずキリスト教系小学それを受けた時にて政府、主教に対して 刑事責任を以て威嚇したのに対して強迫されようと「公民抗命」説いたのが初めてのことにて自らが収監されようと、と。これは厳粛なることにて誰に彼にこの 「公民抗民」強いるものではなし、と。また暴力革命について述べたのは聖誕祭の祝詞にて「もし或る民族が暴力と強制による奴婢の如き生活強いられもし他の 方法なき場合」暴力革命辞さず、と。
▼と枢機卿のそれを聴けば感銘に値するが某神父の対児童性侵犯事件について主教の立場でその性侵犯おこした 神父を警察に引き出すことは主教と神父の特殊な関係を崩す行為であり自らが先の児童性侵犯事件の際に枢機卿の立場にあったとしても通報はできず、と。また 警察側が現在捜査上にある他の対児童性侵犯の神職者の数を公開したことに対して「どこの会社で何人調査されている、と警察は公開するか?、なぜ神職者のみ それが公布されるのか?」と。詭弁。神に仕える身と収益に汚れた企業とは異なるもの、神職であるからこそ厳正でなければならず、しかもその神職者がそれを 威光に児童に性犯罪、断罪されて当然ではあるまいか?、主教と神父の特殊な関係だって……臭そう、結局、これまで聖域といふことで外部からの官憲力の侵入 を未然に抑え中は清く潔くの名の下にかなり猥らであったわけで、ただ最も重要なことはタブーを徹底した反面「そんなことみんな知っていたがいちいち問題視 せず」で「まぁ神父様もお人が悪い」で済ませていた事実。それをタブーとせずというのは社会が正義になったようでいて、実は全くワケがわからなくなってい る証拠でもあったりする。そう考えると警察側の発表も純粋なものかどうかは疑わしく教会の正義振り翳す様への官憲にこそ正義ありといふ主張に思えてなら ず。いずれにせよ教会なり軍隊なり警察なり権威もった組織、<政治性>では同じ類か。
▼築地のH君と数ヶ月前に勁草書房、かつて羽仁五郎先生の『都市の論理』まで出版した会社から最近不思議と 右翼本あるね?と話していたら今度は阿川尚之センセイの『それでも私は親米を貫く』(笑)という本を出 版、とH君より報せ。原稿の初出一覧を見ると「諸君」だの「サンケイ新聞」だ「Voice」だの並ぶそうで、まさに親米保守の阿川センセイ、真の保守反動 右翼からしたら天誅に値しないのだろうか。出版事情にも明るいD君に尋ねたらよ勁草書房のこのクズ本の担当M編集者はかつて無名時代の上野千鶴子や江原由 美子など「進歩的」フェミニズム本を多く世に送り出してきたベテラン編集者だそうで、なぜそれほどの方が今こんな本出しているのか不思議。フジ産経関連の 本だせばそこそこ固定数は売れるというすでに進歩的左翼本では経営成り立たぬ出版社の迷走飛行か。ちなみに阿川センセイ数日前の朝日「ブッシュ政権はきわ めて真面目な政権だと思います」とか言ってもいた。そういわないと真面目な政権と思われてないという自覚はがあるのか、とH君。
▼三月の歌舞伎座、昼の部最初は染五郎の三番叟。どうせなら新之助君と「棒しばり」とかタイムリーなのだ が。で源氏の浮舟は浮舟が玉三郎で薫の君は当然、仁左衛門。勘九郎が父勘三郎の持ち役の匂宮演じるといふがニンぢゃないなぁ、ちょっと。「勧進帳」は高麗 屋が700回目の弁慶だそうな。あまり見たくない「近代の」弁慶。義経の染五郎と富樫に富十郎はよさそう。夜の部は「傾城反魂香」芝翫のおとくが見てみた い。勘九郎、勘太郎、七之助「連獅子」は略。「与話情浮名横櫛」が仁左衛門さんの与三郎でお富は玉三郎。赤間別荘の場もあり、ってのが貴重か。あー歌舞伎 が見たい。

二月二十六日(水)曇。晩にHappy Valleyにて競馬。Stable Bend Terraceにて食事しつつ10数名で観戦。だいたい此処でこうして皆さんで競馬した日に当った例しもなく悲観的に観戦していればこの観戦聞きつけ遠き 山口より馬券購入をK女史に依頼してきたN氏の馬券、Q連複にてHK$1,225的中、しかもHK$50分購入で5倍、ひとえに玉如意といふ穴馬一着HK $314に因るものだが、この馬今季芳しくなくN氏、昨年香港離れこの玉如意は昨季の好調ぶりの印象あったかと察す。お見事。Size厩、色種好の一着は 固かった(HK$20.5)がまさかのLatte(漢字ではミルク ティ)のHK$672.4の万馬券、ただただ敬服。帰宅して荷風先生『あめりか物語』セント、ルイスの記述ほんの少し読むが二日続けての四 時間睡眠に流石に眠気襲ふ。
▼最近、ラジオで香港政府スポンサーとした「爲国家安全買保險」(国家の 安全のため保険に入りましょう)と基本法23条による国家安全条例制定促進の広告流れる。不快。政党・前線の何秀蘭曰く「中共の強権統治の ために保険に入るのは国民の危険倍増」と非難。國家買保險人民好危険、なのである。一方、反23条活動のため主に台湾から(日本からも)来港しようとした 法輪功の信者が香港入境拒否され空港から強制帰国させられる。23条立法などされなくてもこうして政府いくらでも強権ぶり発揮、つまり23条立法なるもの 単に北京中央への忠実ぶりの見せかけにすぎず。
▼坂本龍馬の銅像に落書き。単なる落書き。靖国神社の大村益次郎の銅像の爆破なら解りやすいが、この悪戯書きに政治的 背景も思想もなし。こういうことするガキいるから教育基本法改正して「心豊かでたくましい日本人を育成」し「伝統、文化の尊重や国を愛する心」もてる「日 本人としてのアイデンティティ」が必要なのか……。そんなはず、ない、のだが、そういうことになってしまっている。景気回復して若者の就業率上げられるこ とのほうが教育基本法改正よかよっぽど急務、だがそれができないから教育は国家の大系みたいなところに逃げて改革姿勢だけ誇示、と。
▼新聞に香港American Clubの会員募集の広告あり。資格はAmerican Citizenという解り易さ。米国籍でもなく米国の市民権があればよし。当然のことながらAmericanなどという抽象的な表現はなし。どこかのアホ な国の教育基本法での「日本人」なる記述との大きな違い。ちなみに香港日本人倶楽部、開明的で入会条件は日本国籍所有者及び非日本国籍個人会員つまり誰で も入会可、会員にならなくても施設利用のできる会友、これは「日本国籍以外」ならなれる、とじつに明確な規則。
▼マイケル=ジャクソン先生の奇怪っさの報道日増しに多くなり楽し。ベルリンにてバルコニーから宙にぶらんぶらんさせ られた赤子、今度はまたレースの布を顔にかけられたまま闘牛場にてマイケル先生に抱かれ狂牛の目前に対峙、そのスリルに発狂したように歓喜な表情の先生。 インタビューにては自らが幼少の頃に親に虐待されたことのトラウマを語っていたが虐待された、こうした赤子への奇行もそれに子が怯えれば泣きやむように溺 愛を楽しむという、奇行もここまでいけば本望か。そういえば先生のあの整形、完全に失敗作だが億万長者の先生すばらしい名医選んでるはずで何故のあの駄作 か、化粧もじつは漂白で灰色になってしまい、それを隠すためとか。結果論だが東京にお忍びで赴き渋谷整形外科とか十仁病院で済ませれば安全だし安く済んだはず。夜暗くなってから 病院に入り数日要して整形から肌の漂白まで済ませて日中堂々と退院、入院前の黒人青年と全く違う人物が日比谷歩いていても誰も先生と気づかず、ってね。
▼北朝鮮が韓国の新大統領就任日に東海に向けてミサイル発射、と。昨晩のNHKのニュース10では日本の良 識・今井キャスターも神妙な表情で大きく報道していたが、それほど騒ぐことか。これって韓国新大統領への祝砲だと思えばよろし。将軍様から「これからよろ しくハムニダ」と。むしろミサイル発射もせず静寂であるほうが恐ろし。
▼突然思いだしたがニューヨークでは劇場などで公演中に携帯電話などピピピの電子音鳴らした場合US$50 の罰金条例。香港もそれするべき。かなりの税収入に。
▼突然思いだしたこと、その2。マラソン。42.195kmを完走できたの3時間を下回っただのと一喜一憂 しているわけだが、先日走っていてふと思ったのは、アテナイ軍がペルシアだかの大軍を破った時だったかに戦場からアテネまでの勝利を知らせに走ったのが、 その距離が約40kmだったわけで、もし戦場がアテナイから21kmだったら今のハーフマラソンがマラソンだった。もし距離が200kmだったら最初から 走らないわけで、その場合マラソンなるスポーツはこの世になし。あとで調べてみると約40kmでまちまちであった距離の42.195kmへの統一は 1908年の第4回オリムピック(ロンドン大会)でのマラソンがウィンザー城からロンドン市内でこの距離 が42.195kmだったことに起因してるそうな。最も重要なことは、これはランニングクラブのY氏との共通見解だが、そのアテネまで走った兵士は疲労で 死んでいるのだ、そんな危険なことはやはりしてはいけないのだ、きっと。気になるのは、この伝説になっている兵士の時計はいったいどれくらいだったのか、 といふこと。
▼先週、母とK先生の奥様から聞いた話だが日本で中年女性相手に会員制の「痩せる下着」の販売で、当然なが ら鼠講のようなもので下着も高価なのだが、会員誘致するのは痩せて美しくなってファッションショウに出ましょう、という誘い文句だそうで、ただ何十年も連 れ添った旦那に見せるだけなら大枚叩かないオバサン連中もファッションショウといわれると色めいてかなり努力始めるとか。モノを売るのに単にモノでなく付 加価値をここまでつけてしまう、資本主義というシステムのすごさ。
Blue Girl Beer(藍娘)といふ、香港でオヤジ、肉体労働者階級を主にかなり飲まれてる「輸 入」ビールあり、これを蔡瀾氏エッセイにて書いているのだが(珍しく余は蔡瀾氏を非難するに非ず)独逸 「らしい」がビール瓶みても Imported とあるだけで明確な製造元の表示なし。以下、蔡瀾氏の紹介。独逸ビールには間違いまくブレイメン地方にて18世紀に創業したビールに違いないが、それがな ぜ香港に、かといえば1895年青島にて生産始め1906年にこれがJebson社に買収され香港にて販売開始。当時、独逸製とも何処生産とも明記されて おらず。それが今日に至り香港生産でないのは確かな、ただ Imported とあるだけで何処の国とは表示なし。蔡瀾氏インターネットにて調べて見るとこの麦酒会社のサイトの歴史に実は韓 国の Oriental Brewery にて生産とある。なんだ、そうだったの、という麦酒好きにはそういう話。この韓国の麦酒会社、お馴染の韓国といえばOB Beer(このサイト、いかにも韓国の麦酒飲み文化がよく表現されてていいなぁ)、蔡瀾曰くOB Beer製造であれ藍娘が韓国製なら Imported は正しく、OB Beerが深センに麦酒工場建ててる?、資料見つからぬが、その場合は輸入というのは間違っていることになる、と。いずれにせよTV広告にて西洋の若者ば かりがこの藍娘飲み「彼女が来るのを待っている」とあるのだが、それが東洋娘であるのは確か、と。

二月二十五日(火)曇。諸般雑務に忙殺された一日。メールだけで10数本返事しなければと思いつつ保 存フォルダにたまっていたもの含め60通くらい。晩になり偏頭痛ひどく手許にあったサントリー山崎をくーっと飲むと忽ち頭痛も和らぐのが困ったもの。帰宅 して牛丼食す。たまった新聞雑誌のたぐい多読。
▼北京大学、精華大学の教職員食堂で連続爆弾。大学といふのは百貨店に次ぎもはや歴史的使命終わっているの かもしれない。とくに文科系、廃止しても世のなか困らないであろう。講義を聴きに集わなければ知が得られなかった時代だからこそ必要だった装置だとした ら、本来グーテンベルグの印刷機がうまれた時に終わっていた?、インターネットの時代になったらなおさら。知識階級の否定、大学を破綻させようとした文化 大革命とはいったい何だったのか、と一考。少なくとも税金でとくに研究成果もなければ非常勤講師と何らかわらない講義指導しかできぬ教員を養ってあげる必 要はあるまい。
▼日銀にて「プリンス」の福井某が総裁に選ばれたことにSouth China Morning Postは本日の社説にて小泉三世が福井某を選任したことで日本にどれだけ永く待たれていたであろうか、その経済復興がまた先送りになるだろう、と酷評。 福井某が接待汚職で副総裁辞職余儀なくされた過去あり、大蔵官僚武藤某の副総裁人事といい結局は財界官僚の思い通りの人事であり実際の改革とは程遠し。社 説は "Rhetoric aside, Japan is headed for disaster unless it beats deflation soon. Behaind deflation lies its spiralling public and banking debt. A financial collapse on the part of Asia's sick giant may wake up Japan's sleeping electorate, but it will have a traumatic effect across Asia and the world. This newspaper had hoped for better from Mr. Koizumi and his team. With Japan, however, diappointment seems to have become the norm." と書かれて「しまって」いる。今回の福井総裁就任でこれだけ厳しい社説を日本の新聞が書いているか。朝日の「金融の再生に全力を」など駄文中の駄文、要約 すらできぬ文字並べ。世界のこの厳しい視線が実際に当事者たる日本がわかっていない。経済紙『信報』も「福井任命の意味は小泉が過去数ヶ月にわたりデフレ 抑制を積極的に断行できる人材を探した揚げ句で最後に最も現状維持する人材を任命を決定したこと」と手厳しい。これでまた日本の経済回復が5年は先送りさ れたか。もう救われまい。現認の速水某とてG7開催されたパリにてこれまで厳しい時期だったが今回はのG7では「金融市場は年度末が近づいているにもかか わらず、極めて落ちついている」そうで「日銀のアグレッシブな金融緩和」をその理由として挙げている(朝日)。…… 唖然、こんな感覚でこの厳しい時代の日銀総裁を5年もしてしまったのだ!、当然のことながら今回のG7はイラク情勢が中心課題で毎度焦点となった日本「処 理」問題が話題にもならず。いかりや長介ぢゃないが、マジに「だめだ、こりゃ」だ。
▼12日の日剩で綴った「国語学会」の名称問題、朝日新聞によると「会員約2500名 の郵便投票は23日開票され、改称賛成が776票と有効投票(1150票)の過半数を占めた」そうで「日 本語学会」への改称が決定した、と報じている。が、一読して当然「この2500名の投票の過半数以上が無効投票って一体なんだ?」と疑問に思う。悪文。学会のサイト見たら「投 票総数1170票」つまり約2500名のうち46.8%が投票し、そのうち有効票数1150票、つまり無効票は20票に過ぎず賛成776票、反対367 票、白票7票という結果。新聞がまともに日本語使えないのだから「国語」の未来も暗雲漂う。「会員数約2500名のうち1170票の投票があり」と書くべ き。そういえば『文藝春秋』の三月 号の特集が「日本語大切」だ、確かに大切にしたいのだが、文藝春秋の野暮なところは「言葉の衰退は国家の衰退」って(笑)。これ、国語学会のディアスポラも憂いでのことか。「言葉の衰退は国家の衰退」なんて虚言も虚言、たとえば 『帝国』の訳者の一人である浜 邦彦さんが書かれている「カ リブ海英語圏の島々から作家が輩出しロンドンやニューヨークなどのメトロポリスで活動」といった現象であるとか、英文学でのイシグロカズオとか言葉が国家 に属してなどおらぬ証拠。『橋のない川』の住井すゑなんて国家権力に抵抗する手段が日本語だったのだし、だいたい<国家>なんて概念とはぜんぜん違うとこ ろで源氏物語は書かれて日本語はじゅうぶん美しかったし、国家までは至らぬが当時の政治機構が衰退する時代にこそ方丈記とかいい文学が現われたりもする。 こういう趣も知性のなき発想が文藝春秋の、荷風先生が嫌った菊池寛以来の文藝春秋の野暮さであって、またそれを読んで知識得たと勘違いする(瞞される)文化の浅ましさ。

二月二十四日(月)晩にランニングクラブで大阪のK氏、奈良のK氏両名の送別晩餐あり六国ホテル粤 軒。ホテルのP部長より赤葡萄酒差し入れいただく。麦酒飲みしばし歓談、全員揃って晩餐始まるところで辞退、Z嬢とシティホールにて「北京謡滾」なる、自 北京來の街頭フォークシンガー・楊一と蘭州など出身とする若者六名のアコースティック・野孩子なる楽団のコンサート。楊 一は毎年冬は北京の中国美術館前で街頭ライブ続けレコオド会社数社から誘いがあっても自主盤にこだわる北京のボブ・ディランと呼ばれる歌い手。在野に徹し て民衆の声を代弁するような、まさに共産中国の誇りのような歌い手ながら当然のように歌詞には社会の非情、厳しさが歌われ最後の曲「焼白薯」では歌詞の最 後は「総有一天、汝會到天堂、就没有警察和工商」(おまえが天国に行った日にはそこには警察もビジネスもない)っ て絶唱で終わる。客から大きな拍手。続いての野孩子は「こういう音楽が聴きたかった」と聴いてみて身を乗りだし身震いするほどの衝撃。ギター2本とベー ス、ドラムにパーカッションにアコーディオンという編成で、唸るように地から溢れてきたような調べがその無国籍な演奏に乗ってゆく。一つの音楽にこんなに 夢中になったのは何年、何十年ぶりだろう……ソロになったSting、コルトレーン、Sheila Jordan、サディスティックミカバンドといくつか頭を過るが何れも若い頃のこと、この老年に達してこのような感動を得るとは恐ろしいほどのバンド。楊 一が終わった途中休憩の時、ロビーにて彼らのCD売っていたがあまり数もなかったことを思い出し演奏終わりアンコールとなる前に会場出てCD二枚「哭語」 と上海ライブを購う。余と同じくアンコール終わってからではCD即売切れと察した客は他にも数名。アンコールは楊一との共演。コンサート跳ねれば予想通り CD売場は押すな押すなで客が取り囲み売る者が青くなるほどの盛況。素晴らしいコンサート。残念なことは客の入りは六分。香港芸術祭の他の興行のような知 名度と動員なきこともあり。それにしてもハービー=ハンコックであるとか、それどろこかローリー=アンダーソンまで!香港少年芸術友の会みたいな、若い世 代に音楽の素晴らしさを経験してもらおう、みたいな、実はコンサート客席埋めの動員材料に利用されているような、そういう組織によりガキめらが香港芸術祭 の会場の安い席に大挙するのだが、いい音楽とはいえハンコック先生が語るマイルスもコルトレーンも知らず、それどころかジャズのジャも知らぬ子どもら、ま してやローリー=アンダーソンは見ても140%理解できないのは確か、そんなものに動員するよりもよっぽどこの楊一と野孩子らの演奏聞かせるほうが子ども らにとんでもない刺激と発揚を与えられるはず、だが、それをせぬ愚鈍な主催者側。ハンコック先生のコンサートなど政府高官がずらりと並び反骨であったジャ ズは遠い昔のこと。それに比べれば首都北京からの歌い手と楽団、それも中国の民衆音楽を礎とする彼らの演奏であるのに無礼も甚だし(笑)、あまりの演奏の素晴らしさに帰宅しても興奮さめやらずCDを貪り聴く。深夜一時頃から週刊香港への一昨日の Greenpower Trailの短い記事書く。
▼楊一と野孩子らは北京の三里屯にある「」といふライブハウスで活躍。この河が北京でかなり熱い、かつての博 多のライブハウス昭和のようなそんな存在。彼らは北京の三里屯にある「河」といふライブハウスで活躍。この河が北京でかなり熱い、かつての博多のライブハ ウス昭和のようなそんな存在。河という名称も意味深い。支那にとって文明の源流が黄河にあり、河は支那に限らず文明をもたらす象徴。また重要なことは80 年代に『河殤』という中国の民主化にとって重要な書物が出版され発禁処分となったこと。この『河殤』は支那文明がその母なる河に象徴するものを内陸性と閉 鎖性と否定的に捉え、これから海に出ていなければ将来はない、という主張をしている。このライブハウスがどの意味で河と名づけられたのかはわからず。
▼韓国大統領金大中氏退任。韓国民主化に生死かけようが南北首脳会談を実現しようがそれほどの正義の人がな ぜ息子二人が父親の威光背に贈収賄繰り広げられたのか。もし正義があり自らの身が潔いのならその愚息二人を斬る気概でもないものか。首相の息子が父の威光 背に芸人になる程度で日本はまだマシか……そういえばあの芸人息子、Where has he gone?
▼郷里で亨保九(1724)年に呉服商として創業した老舗百貨店が20日、つまり父母が香港に遊んでいた最 後の日に閉店。この百貨店より歩いて数分の処に生まれ育ち傷痍軍人が坐る正面玄関に掲げられたテレビジョン画面にて吉田茂の国葬を見た記憶。此処を遊び場 として育ちマクドの開店に欣喜雀躍した頃が百貨店の最盛期。

二月二十三日(日)曇。夜半に腹痛ひどく悪寒あり。そりゃ昨日7時間のうち凡そ5時間35km走り2 時間15kmは上り坂歩いていては身体も疲労の限界を越え免疫力まで使い果たした感。沙田で競馬あるが赴けず。R4第二班芝1600mで15倍の上風 Siroccoの単勝的中、R5第二班芝1000mは精英大師3戦3勝、R7精英班芝1200mは時代巨星この2季は15戦8勝2亜2李3負、R8三歳以 上芝2000mの香港G1香港金盃はSize厩の赤胆福星を推したが大きなレースだけ勝つOlympic Wxpressがいつもの馬偉昌じゃなく洗毅力騎乗で一着、R9第一班芝1400mは歩歩速 Able Choice 今季デビューで5戦5勝と強い馬が順当に勝つ。昼遅く湾仔電脳中心にてPalmのCradleなど、湾仔の永華麺家にて雲呑麺、涼茶第一家にて亀苓膏、ア ウトドア屋にて昨日破棄した杖二本購ふ。「大手町」なる日式料理屋、永華麺家の隣に開店、大手町では「美味そうな感じ」がない、八王子とか相模原とか新小 岩といった日式の店々も同様。せめて銚子とか小諸とか安曇野とかならマシなのだが。夕方、泌尿芳しくない愚猫をミッドレベルの病院に連れて行き診察うけ る。晩に北角の老燕京にて涼拌青瓜、肉末四季豆、餃子と小籠包。ジャスコに買物の立寄ればChalonなる名のいわゆるデパート食堂に30人ほどの行列。 そこまでして此処で海老フライ、スパゲッティ、ハンバーグなど盛られたセットメニュー、ソフトクリーム添えとか食べたいか、他人のことでとやかく言うこと でないが、食の不毛地帯の太古城の味覚の貧困ぶり垣間見た思い。そういえば千登勢なるファミレスが潰れていた。卵酒飲んで早めに臥す。
▼『世界』三月号にて元北大教授(教育法)で弁護士の中川 明氏が法律家から見た教育基本法見直しについて述べているのが興味深い。まず「新しい時代を切り拓く心豊かでたくましい日本人を育成する」という提言につ いて中間報告は「各国において『国家戦略』として教育改革が急速に進行して」おり「このままでは我が国が立ち行かなくなる」で「国内外で進行する大改革の 波に挑み、歴史変動の時代を切り拓いていく日本人を育成することが求められる」としてるが中川氏はこれは「教育が個人人格のためでなく国家のために営まれ ることを意味しており、教育を(略)国家目的の道具に貶めようとすること」に他ならず、これは憲法や「子 どもの権利条約」などの国際基準が採っている個人人格本位主義に相容れないもの、と指摘。また「日本人」という言葉についてこの中間報告のあちこちに出て くるが具体的に「日本人」という言葉の定義も、その範囲も説明はなし。まるで「定義や説明がなくても当然にわかっている言葉だ、とでも言わんばかり」なの だが、実は憲法にはどこにも「日本人」という言葉は出てこず(日本国民という表現は何箇所か出てくるがそれは国籍法によ り範囲もあきらか)、日本に居住する外国人登録者が150万人を越える日本社会は「客観的には諸エスニック集団からなる多文化共生社会」な のである。ちなみになぜ憲法など法律に「日本人」というような表現がないかといえば中川氏の指摘するこの「日本人」という表現の曖昧さと、もう一つは法 律、憲法が目指すのは最終的には普遍法であり、そのためには「日本人」というような「たかだか小さな」範疇で物事を定められない、ということもあろう。ま た「日本人」に加えて「アイデンティティ」という言葉は本来「自分がどこに同一性を感じるかということ」であるから「すぐれて個人の自己形成にかかわるこ と」であるのに集団としての「日本人としてのアイデンティティ」という表現がなされ、その中身として伝統、文化の尊重や国を愛する心が列挙されている。中 川氏は「郷土」は身近にある種の実体的イメージとして把握もできるが「国」は統治権力機構であり、それを同列に並べることの無理を指摘。余も思うに確かに アイデンティティというのは「茨城県民だけどぜんぜん茨城には馴染めず東京にいるとホッとする」というのがアイデンティティのはず、それを「茨城県民とし てのアイデンティティ」という実際には存在し得ないものを無理矢理押し付けようとしているのが今回の教育基本法改悪なのであろう。このような、明らかにレ ベルの低い中間報告がなされ、それを政府は仰々しく掲げ、国民もこのような世紀の改悪にぜんぜん無関心。このツケがどこにまわってくるのかとんと察しても おらず。不幸の極み。
▼同じ『世界』に、在日の人々の一つのやり方として、積極的に日本国籍を取得して、韓国朝鮮系なら国会に議 員を送りだし、その存在を明確にして主張をしてゆくなど、積極的な方法が提示されている。東京都なり選挙区で外国人に選挙権など与えていたら石原当選も阻 止できるかもね。
▼教育といえば国立大入学で文部科学省は外国人学校のうち「欧米系のいわゆるインターナショナルスクール」 の卒業生に限り入学資格与え朝鮮学校など民族学校ではこれまで通り認めない、と。朝日が21日に報じ文部大臣は「諸般の事情により」とこの動きを認める発 言。すごい差別。法的根拠もないインターナショナルスクールは良くて民族学校がダメなら「新しい時代を切り拓く心豊かでたくましい日本人を育成する」「日 本人としてのアイデンティティ」の育成に力入れる日本の公立の学校こそ民族学校であって、大学入学の資格ないのでは?(笑)。 ちなみに香港では日本人学校も他の欧米系、アジア系などの学校も香港の教育指導要領など遵守もしていないが一切の差別なく地元校と同じ学校として認められ ている。ここにはつまり教育に対して一切の政治的介入が、ない(加藤周一風に)。日本の教育をしている学 校しか認めないというのが日本の文部科学省の認識であり、インター校だけ認めたのは結局、日本という国家が精神的に自立もしていない証し。情けなくて言葉 もなし。これについて教育の問題が政治的に判断されている、と非難の声もあるが、教育こそ近代国家が最も力を入れる「事業」なのであり、教育が政治的であ るのは当たり前。それも実は大学など学生運動で「国家権力の介入阻止」とか「やっていた」が、実は義務教育こそ国家にとって最も政治的な<装置>なのだろ う。
▼香港の不動産、景気低迷のなか買手を招くため高級化路線著し。九龍の何文田山なるマンションはアールデコを売り物と す。が、ちょっと見づらいがアールデコ風なのだが寝室の寝台の下には虎皮敷かれていたりとか居間の壁に神聖ドイツ帝国皇帝ウィルアム何世みたいな肖像画と か、どこかやはりアールデコではない。アールデコの東洋での真髄は旧朝香宮邸(現東京庭園美術館)だろうが、とにかく無駄なものを削いで削いで、そのうえ で洗練された意匠を効果的に用いるがアールデコなわけで、この何文田山はアールデコ風のロココ調ってな感じ。香港らしいか……。
▼これもダサい、Mahattan Cardなる、かつてはChase Manhattan銀行傘下のかなりのカード保有者誇ったカードにてそれを数年前に香港でのカード業務拡販を狙ったStandard Chartered Bankが買収したが、昨今のカード破算でこのMahattan Cardもご他聞に漏れず大変な大赤字となっている。で、それでも新規カード募集でカードつくると豪華客船での船旅が当る、というわけ。豪華客船とは似合 わないエグい女もヘンだが、左下の男は何者だ?(笑)。いまどき帽子にコートの襟を立ててパイプ、しかも 顔は隠れているがどーみてもその風情似合わぬそのへんのオニイチャン。きっと撮影現場で「ちょっと、キミ、やってよ」と撮影助手が使われたのか。どう見て もヘンな仮装男がオネーチャンを悪戯してしまったみたいな、そんなふうに見えなくもなし。

二月二十二日(土)濃霧のなか朝七時に山頂、七時半にGreen Power主催の第10回Green Power Hike、と名前こそハイキングだが精鋭揃い山頂より石澳の大浪湾まで香港トレイル走る強者多し。連続で4回目の出場、昨年はそこそこ走れて七時間を切る 自分にしては快挙、今年は不摂生たたりちょっと難しいかも、と思いつつひとまず走りだす。5、60名ほど先頭集団で飛びだし、そのあとにつける。15km 地点くらいからは前後の走者ちらほら見えたり見えないほどになり、後半の石澳の引水路ともなると前後誰もおらず独り黙々と駆ける。どうにか上り以外は平地 も下りも走り通し7時間04分にて大浪湾に到着。途中陽射し酷く7min/kmどころか8min/kmくらいまで遅くなったものの一応走れただけで大した もの。大浪湾の浜辺は気温25度をこえて雲ひとつなくもう夏のよう。海水浴に遊ぶ輩多し。炎天下にて冷えた麦酒の大瓶を一気に飲む。環境保護団体主催の慈 善事業であり主催者はハイク中のゴミのポイ捨てをしないよう参加者に呼びかけ500m毎の里標に分別ゴミの簡易ゴミ箱までおいているのに、余が走っている 時にはすでにポカリスエットのペットボトルなど路上に散乱するも少なからず、上位の記録狙いの参加者のなかにゴミを散らかすことも厭わぬキチガイが混じっ ている、というわけ、救いようなし。ちなみに男子個人1位は50kmのこの山路を4時間21分だかの大会新記録。わがランニングクラブの精鋭チームは5時 間27分だかで団体三位の健闘を見せる、大したもの。終わってZ嬢とミニバスでShau Kei Wan、南洋館にてカリー、麺など食すが火辣猪肺湯は絶品。一旦帰宅して夜、City HallにてLaurie Andersonのステージ。 もっと多種多彩なパフォーマンス期待したがバイオリン何度か弾いた以外はシンセサイザーで音鳴らしながら延々と物語続く。ちょっと笑いをとる小話だが本人 は神経質そうに真面目に語り続ける。芸術的だが月亭可朝の漫談だと思ってもいいかもしれない。やっぱり身体を張ったパフォーマンス期待したいが本人がこれ が今はやりたいからこの漫談をしているわけでこの人に昔のあれをやれこれをやれと言ってもそれをするはずがなし。帰宅してテレヴィで話題のドキュメンタ リーLiving with Michael Jackson見る。Neverlandなるマイケル先生私有の王国での子どもたちを招いて自らも子どものように振る 舞う先生、12歳の癌に侵された男の子を自分の家に住わせ一緒に寝てもいる事実を性的関係あるのでは?と指摘されると寝台を分かち合い語り物語を読んで聞 かせホットミルクとクッキーで安らかな眠りにつくことは美しいことでどこも性的侵犯などないと宣う先生、結局、先生の異形なる者の異形ぶりが大衆=視聴者 に垣間見られるだけで、先生のその異形ぶりを非難できても断罪することはできぬ。米国といふ社会が本来いちばん嫌いそうなこの異形を生み、それを放置して いるという事実。正義も理性もそこにはなく、ただ先生ご自身でなく先生を含む社会の総体としてのキチガイぶりが面白い。本来、マイケル先生の「罪」を断罪 すべきであろう教会がじつは同じような「罪」を犯していたことが暴露されてしまっているのだし。どうせならこのドキュメンタリーシリーズ、マイケル先生に 続いてやはり『2001年宇宙の旅』でスリランカにお住いのアーサーCクラーク先生など取上げては如何だろうか。
▼そういえば昨日、携帯電話の料金自動引落しで財布落とした際にクレジットカード番号変わり、その手続きに CSLの店に赴けば、手続き済むなり係員、余が旧来の1010の料金体系で契約しており毎月HK$260で150分、それに転送だの留言機能だのと100 分の通話込みでHK$85の計HK$345は高くないか、と。そりゃ高いよ。するとHK$185で360分の通話に転送だののサービス全て込み込みは如何 か?と言うので、そりゃそれのほうがいい、と答えたら、そのかわりこの割引料金12ヶ月の契約が前提で12ヶ月以内に契約破棄の場合はHK$500追徴と いうので、12ヶ月、これで契約する。かつて香港テレコム時代に高いが質のいいサービスの提供などと宣っていた1010も昨今の携帯値引き競争激しく顧客 確保のためには1分わずか50¢というわけ。

二月二十一日(金)曇。ノートブックの実用化。これほど簡単なのかと呆れるほど、悲しいが WindowsのXPはMacintoshのOSよかずっと扱いが簡単なのは事実。ftpも海外でダイアルアップする時のiPassも装備してほとんど問 題なし。夕方、某日本語学校にH先生尋ねS老師の尊顔に拝す。Windsor HouseのC店にてノートブックMuramasa用にCD-R、カードモデム購う。CD-Rは必要ない気もしたが箱のPC経由してOffice 2000取込もうとしたところ箱本体のOfficeが邪魔して取込めずCD-Rくらいあってもいいか、カードモデムは旅行中にまだLANのないホテルも多 いので、という理由。HMWにて林海峰のCD2枚購入。在庫一掃売出し中にて売残りCDの安売りの中に井上陽水『氷の世界』あり、けして売れ残るような作 品でもあるまひ、と思ったら定価HK$220で安売りでもHK$140と高い、輸出版でなく日本版としても高いと思ったら「復刻紙ジャケットシリーズ」の 初回精算限定版で、ようするにLPのジャケットを摸倣したCD、といふわけ、貴重盤だから購入、編曲が星勝先生、プロデューサーが多賀英典氏と当時を彷 彿。多賀氏キティレコードおこし小椋佳当てて安全地帯で絶頂期迎えたのも遠い昔、渋谷駅前のキティ。明日のトレイルに練習まったく足りずせめて炭水化物取 得を要するが一人伊太利料理屋で大盛りパスタ食べるのも下品と帰宅して珍しく自分でパスタ茹でて大量に食す。CR-Rもモデムも差し込むだけで勝手に電脳 がドライバ取得して何もせぬ間に装置完了、そういう時代なのだね。快適なノートブックの環境ができてしまった。大萩康司のギター聴く。

二月二十日(木)晴。昼前にマリオットホテル。母と買物。K先生のお嬢さんこの春結婚にて彼女が小学 生の頃から面識ある余からもお祝いを購ひK先生夫妻にお渡しする。昼に香港站にて日本航空にチェックインし空港。見送り。空港での見送りといふのはいつ誰 でも嫌なもの。空港から青衣で乗換えが必要だったのにオリムピック站にも空港快線止まる勘違いして九龍站、Dickson Cybermall、名前は最先端っぽいが単なるデパート、には相変わらず全く客おらず陸の孤島。深水歩にて電脳関連散策。桂林街の劉森記にて雲呑麺。 Dickson Cybermallと比べこの安価の電脳センターは押すな押すなの大盛況、時代はかういふものか。早風呂、按摩。『現代思想』の「帝国」特集、少し読む。 旺角照機(カメラ)中心にて写真機用の一脚購ふ。旺角電脳中心、broadbandケーブルだのノート ブックのACアダプターケーブル調達。立命館大学より去年中文大に留学しこの春大学卒業して某航空会社に就職するY君、卒業前の一人旅でロンドン経由でモ ロッコまで、その途中香港に寄ったと、湾仔で再会し六国ホテルでビュッフェディナー。ビュッフェ、あまり好まぬが二人で気楽に食べるには楽か。しかも甘党 にはデザート嬉し。支配人L氏も飲食部長のP氏も夜9時まで現場。P氏よりハウスワイン1本頂戴する。Y君に見送り嫌いを謝り帰宅。父母にもってきても らったSharpのMuramasaいぢくる。マックがユーザーフレンドリーだと信じていたが悔しいがここ数年の間のWindowsの使い勝手の良さは飛 躍的に上昇、とにかく何も設定も困ることないままに実用、しかも自宅にてワイヤレスLANが使えてしまい、おそらくどこか近所のものか……唖然。
▼築地H君より『週刊朝日』の対談にて漫画家の蛭子能収先生は天草出身、子どもの頃近所に「男おんな〜」と 虐め囃されていた子あり、それが美輪明宏先生であることは説明も要しないだろうが、対談相手は林真理子女史で生理的にはかなり嫌いだが林女史の「美輪さん は天草四郎の生まれ変わりとおっしゃられてますけど、蛭子さんはさしずめ一揆で殺されたお百姓の生まれ変わり…(笑)」 というコメント、御意。蛭子先生本人は「そんなに差がありますかね、オレと美輪さん」っていうんだけど、H君曰く「その瞬間に、日本でいちばん美しい少年 といちばんブサイクな少年の人生が交錯した」と、確かに。この出会い、まるでイソップの童話か「みにくいもの」と蝶みたいな、なんか「みつばちハッチ」の 世界。
▼H君の話によると、つねに地味ながら新鮮な流行を提案しているみうらじゅん先生、寺社仏閣、仏像に続いて 親孝行とか。親孝行をブームにしてしまうらしいが、親孝行と称して爺むさい行為を一緒に愉しんでしまう、老人の歩く速度で街を歩いてみていつもと違う街並 みや空気を感じる、というのも一興か。
▼政府金融管理局の発表によると香港の昨年一年のクレジットカード未精算残高HK$80億に達しクレジット カード保有者のうち半数以上が毎月の最低返済金額のみ返済=残りがローンと化している、と発表。銀行にとって不良債権化しているが、元はといへば本来、信 用に基づくこれをカード乱発しカード保有者増加を無闇矢鱈に行った結果であり、毎月の最低返済金額制とて低金利にて購買煽った結果。こうなって当然だろう に。
▼後日談だが、香港マラソン当日、ランニングクラブの黄色い旗もって応援に出向いたZ嬢、九龍站の橋上にて 応援のためと橋に横断幕のようにこの旗つけようとしていたら警官馳せ参じ旗を神妙に覗き込んだそうな。Z嬢、ハッと察したのはいいが黙っているとか「ラン ニングクラブの応援です」と言えばいいのに「法輪功ぢゃないよ」と警官に告げたそうな。警官苦笑いして立ち去る。Z嬢の23条立法への頑なな姿勢に敬服。

二月十九日(水)快晴。雨という予報ながら昼前には晴上り肌を刺すほどの陽光。父母とK先生夫妻を連 れて深センに遊ぶ。ホテルより乗ったタクシーにホンハムの站と告げると何処に行くのだ?とタクシーの運転手、深センと知ると5名ならKCRに乗り換えるよ かこのまま落馬洲のボーダーに行ったほうが安いし早いし方便、と。HK$二百数十はちょっと眉唾ものだが老いた身にはそのほうが楽かと朝の渋滞の中、タク シーは東隧道より大老山トンネル抜けて一路落馬洲へ。数週間前に24時間開放となったこの国境、正確には「国」境でなく深セン経済特区と香港特別行政区の 区境か、初めて潜ることとなったが一般車両はいったんバスターミナルまで。そこから黄巴に乗換え区境の関所へ。ここにも黄色い法輪功の横断幕あり、中国側 への抗議だろうが香港での法輪功の自由保障されている象徴か、それにしても必要以上に北京政府を刺激することには疑問あり。香港側の関所、大規模な工事中 といふこともあろうがプレハブの建物に湿ったコンクリートの臭いこもり蚊が多く蚊取り線香点てて場末の国境、さながら中国カンボジア国境の如し。香港を出 てまた黄巴に乗り深セン側へ。深セン側の関所のほうがまだ建物こそ近代化されているが入境カードすら置いておらずいったん関門の審査カウンター、本来そこ は通関場所であり通関準備できておらぬ旅人が入ることすらおかしいのだが、そのカウンターに出向いて散乱している入境カードを獲るという劣悪ぶり。両親ら が特区ビザを得るため出入境管理事務所訪れるとポーランドの外交旅券もった男性が中国より香港にいったん出て4日滞在し中国に戻るのに再度ビザの申請を要 求され「7日以内の出境と再入境の場合はre-entry visaは不要とワルシャワの中国大使館で確認した」と熱烈抗議。担当官は「規定だ」の一点張り、ポーランド外交官は「ワルシャワに電話して中国大使館の 担当官に確認しろ!」と宣うが「ここから国際電話できないよなぁ」と担当官は同僚と間抜け話、埒あかず外交官は数名の同行者待たせてビザ申請。羅湖の区境 でのビザ申請かなり効率化され数分で終わるのに比べ此処はまだ共産官僚主義的非能率さ根強く20分ほどかかってビザ発給。ようするに60分に120の仕事 ができるとしたら1つに0.5分しか要らぬが、もし30の仕事しかない場合、30をその効率で済ませてしまった場合15分しかかからず、そうすると人員削 減とか1職員あたりの効率など検討されてしまふので、それを避けるために30の仕事を60分かけて行う、つまり0.5分で終わる仕事を2分つまり4倍かけ てやる、という法則が国境を支配している。26番の路線バスが世界之窗行きとあり、小型タクシーに5名は乗れず2台に分乗しては言葉も解さず、ここから 8kmくらいのはず、と路線バスに乗ったら福田地区を隈無く周遊、福田保税工業区(ここは深センにありながら関税なしで対外貿易ができる)から市場、住宅 地まで見物して40分ほどバスに揺られ目的地はテーマパークの中国民族文化村と錦繍中華であったのだが降り過ごし世界之窗近くに行ってしまい路線バスで戻 る。結局9時すぎにホテル出て3時間かけて到着、ただ両親もK先生夫妻も深センの現地理解を愉しんでくれた様子で安堵。2時間余で錦繍中華をひとまわり。 中国各地の名所旧跡のミニチュア版でそれまで、といへばそれまでだが、中国のさまざまな地方、殆ど行ったことなく一つずつ旅游してみたいもの、とつくづく 想ふ。民族文化村出たところに小さな蘭州拉麺食わす店あり遅めの昼食。刀削麺だの青椒肉絲だのけっこう美味い。店の別嬪で機転きく娘に「この客は韓国人 か?」と訊かれ日本人だと答えると、どうやら娘、余のことを「普通話が標準」で韓国語解す=つまり東北地方の朝鮮族だと思ったらしく、白話パイファが流暢 だ、と賞められこそばゆし。それにしても20年ほど前は朝鮮=北であったのがこの娘にとって朝鮮=韓国、韓国人の観光客が多いのだろう、そういう認識。そ れにしても余が連れる父母とK先生夫妻の4名が日本人か韓国人でよかったが、これが北朝鮮の民であり余が変な日本語解す朝鮮族の同行者であったら、これは 密航企て、だ、洒落にならず。両親らがどんなアトラクションよりも喜んでくれた暴走ミニバスにて深セン駅前。深セン商業城の肉菜超市にて茶葉、胡椒など調 達。この超級市塲の茶葉売場、若い男数名で商いするがちょっとペケ(隠語で不良)のようでいて慇懃、K夫人購った500g160元といふ極上の鉄観音茶、 100g毎小袋に入れるよう依頼し値段貼るステッカーに嘘がないかと見ていたら余の形相が強ばっていたようで「インチキなんかしないよ、安心しな」と 100gの料金を貼ったあとに20g余ずつおまけに入れてくれ、忝し。夕方KCRにて香港に戻る。1等車に乗ったら一人HK$66、5名なら確かにタク シー代よか高くつく。ホテルに戻る。少し時間あり宿泊者装いホテルのフィットネスクラブのサウナに一浴、日本人らしい若者、なんで日本人とわかったかとい うとホテルのサウナにナイロン地の垢擦り持参(笑)、出る時も一緒になったがなんと部屋からスリッパ穿き でバスタオル持参の「温泉の大浴場」モード、一応、香港の4ツ星だか5ツ星の高級ホテル、田舎感の老人ツアーならまだしも若者がこれぢゃ困ったもの。本来 この程度のホテルに泊まるのに必要なはずのマナーであるとか有職故実、それを習得しておらぬのに単に財力だけは宿泊料を払えてしまった結果がこれか。非日 本人の観点からすると、このユタ州のド田舎にもいないような破廉恥な田舎漢の国がどうして世界最先端の小型家電を生産しているのか?がやはり理解できぬこ と。父母ら連れてハッピーバレー競馬場の満貫樓にて競馬観戦しながら晩餐。予想する時間もなかったがこういう日にかぎって適当に賭けている馬が来るもの で、初戦こそ10倍の馬の複勝が惜しくも4着だったが、R6までで単勝3つと連複1つ当てて儲け多し。山頂から夜景楽しみませふと競馬場を後にして山頂 へ。競馬の結果携帯にて確認するとR7にて4番人気の、馬主C氏のDashing Champion見事1着。今季デビューがハッピーバレーの1200mで次戦にて同距離で1着にて初勝、それから沙田に移り苦戦強いられていたが久々の ハッピーバレーにて李格力君もこの馬だとスタートがいいので期待しており、当然「厚く」馬券購入していたがマジに好成績に歓喜。馬場におれずC氏祝福でき なかったことだけが惜しいが仕方ない。かなり儲けさせてもらふ。ピークトラムにて下山しホテル戻り昨晩に続きブランデー一飲して帰宅。

二月十八日(火)快晴。朝、マリオットホテルより両親、K先生夫妻自宅に迎え歓談。Citic Towerの海都海鮮酒家にて點心で昼食。政府の工商局長唐英年氏らの顔が見えるのは当然 かも知れぬがこの店で気軽にお昼できてしまふ金鐘界隈の若いサラリーマンやOLといったものの素性も知り難し。午後お買物。太古広場のGucci、R君と いう名の店員、簡単な日本を解す店員など少なくないが堪能な上に接客態度に非の打ち所なく、商品知識も舌を巻くほどのもの、素材から縫製まで言及。黄昏に 香港公園から中環まで散歩、擺花街のVincent Sumあたりにて買物。湾仔六国ホテルの粤軒にて晩餐。ホテル経営者にて支配人のJL氏顔見世せご挨拶いただく。乳猪とクラゲの前菜、鼓油皇干煎花蝦、紅 焼蟹肉魚翅、ナマコと鮑のソテー、清蒸東星班、蒜香焼乳鴿、太極鴦鴬飯に甜盤各種。両親へ、と長寿餅まで出していただく。ホテルに戻り父が携えてきた白蘭 地(ブランデー)Cordon Bleu飲み深夜まで歓談尽きず。
▼韓国大邱での地下鉄火災。このての海外での大事故「日本人死者は……」という報道、必要なやうでいて教育 基本法ではないが「日本人」なるこの語意の不明朗さを考えてしまふ。在日韓国人の被害者はここでは含まれず? 日本国籍取得した在日は?
▼往年のプロレスラー吉村道明氏逝去、享年72歳。弔報記事の見出しに「回転えび固めで有名」と朝日新聞。 確かに大型レスラーにまじって小柄を利用しての機敏な動きで立回り馬場ら千両役者にいいところをまわす吉村が自分が主役の場面で見せる回転えび固めは相手 の一瞬の隙を突いた技でこそあるものの、本人の弔報の見出しでこれか。ちなみに読売新聞は「馬場、猪木らとタッグ」と、これのほうが適切であろう。本人の 遺業として。

二月一七日(月)小雨。夕方、タクシーに乗っていて運転手の無線による友人運転手との馬鹿話聞いてい て、会話のなかにfuck意味する広東語のヂュ〜!という音がかなりの確率で会話文の中に挿入されるのだが、ふと気になり数え出してみるとハッピーバレー の競馬場の横から金鐘の太古広場までで14回挿入されたところまで数えていたが余りの下らなさに気づき数えるの止める。晩にZ嬢と中環のJimmy's Kitchenに食す。前回といってもかなり前だがこの店に食した折にはSecretary for Justice 梁愛詩女史おり「食事が不味くなる」思い、今晩は何処かで見たお方と思えばHK Ladies Runners Clubの主宰者の一人で昨日の香港マラソンのハーフでも1:27:48で女子ヴェテラン1位となったGC女史とご主人、それに招待選手らしきBlack Heartと書かれたTシャツ着た黒人の「見るからに」ランナーらのご一行。Dry Matini一飲、此処のTanquareyベースのDry Matiniは間違いなく香港一。料理「たかだかご飯もの」にしては値段も安くはないが美味い、じっくりと美味い。デザート、Jimmy's Kitchenのは捨て難いが「そういえばCity Hallに美心集団 Maxim がありきたりの美心よりアップグレードしたダイン開店でデザート評判といふ提灯記事新聞にあったのを思いだし、そのCity HallのMaxim訪れ珈琲、Z嬢キャラメルカスタード食す。不味くはないが美心だよね、やっぱり、といふ味。店の内装などかなり落ち着いていて昼時で も外せば客はかなり少ないはずで食事は余り期待できぬが原稿書いたり本読んだりにはいいかも。エアポートバスで空港。昨日走ったコースをバスは無慈悲に高 速で走り抜ける。ところどころ工事で「路肩暫停」と看板があるのだが本来、路肩は走行のためにあるのではなく何が「暫停」なのか、と考えると答え見つから ず。携帯の電話に答えた日本人「あ、今、空港に向かっている途中、英語で言うとオン・ザ・ウェイ、うぇい?」と、ちなみに「うぇい?」は広東語で電話に出 る時の「はい」のような意味、くだらないが可笑しい、誰も日本語を解せぬと思っての大声でのギャグか。空港久しぶり訪れたが到着フロアの中央部に巨大な一 角あり大きな看板目印に香港の食文化「良くも悪くも」代表するような「許留山」「味千拉麺」「スパゲッティハウス」の三店舗、かなりエグい。この三軒の一 角の向こうには「大家楽」とマクドまで。当然、空港開港当初はなかったわけで、このヱグい食空間の設営をこの空港の設計にあたり国際的評価高き建築家ノー マン=フォスター卿はご存知なのだろうか、と疑う。フォスター卿のこの空港の設計は、とにかく洗練、余計なものを全て隠し建物ぢたいの骨格、フォルムの美 しさを強調しているわけで、当然のことながら空港内の店舗エリアといったものは低く小さく目立たない位置に追い込まれている。それが、そのコンセプトと完 全に矛盾した「許留山」「味千拉麺」「スパゲッティハウス」の登場、これはこの到着フロアの美しさを完全に破壊している。ホテルのリムジンや旅行エージェ ントのカウンターも開港当初なかったが、これも醜悪。出発フロアはPacific Coffeeの珈琲ラウンジなどもうまく設営して美しさ保っているものの、こうして国際的な建築賞もいくつも受賞した空港は、ちょうど洗練されたMTR站 が無惨にもゴミ箱のゴミ屑のように汚く破壊されていったように、商業主義ベースの品も哲学もなにもなき発想によって破壊されてゆくのだろう。南無阿弥。父 母と余が中学の時の担任であった恩師K先生夫妻揃って来港。父母それぞれ数年毎に来港こそあれ揃っての来港は実はこれが初めてのこと。金鐘のマリオットホ テルに投宿。Sharpのノートブック電脳Muramasa購ってきてもらい受領。深夜帰宅。
▼上海にて森ビルらが建設計画した世界最高の高さ誇るといふ超高層ビル、アジア不況など資金集め難く98年にいったん 計画頓挫したものが復活、話題となるがこの設計、日本刀のように見えるだの樓上の丸い穴が日の丸に見えるばかりが太陽の具合にとっては上海の市街に日の丸 の影落とす、という声もあり。見方によれば確かにね。だいたい超高層ビルを建てようといふ観念ぢたいが象徴的であり、その設計についての論争など勝手に やって、の世界。
▼松竹からのメール届き4月の歌舞伎座(近 松門左衛門生誕350年)の『国性爺』雀右衛門丈が錦祥女、もはやとどまるところしらぬ京屋の大活躍だが、この国性爺、京屋の錦祥女に吉右衛門(和藤 内)、仁左衛門(甘輝)で脇を固めるのが左團次(老一官)と田之助の渚、これは当代最高の配役。大したものだ、と思っていたらすぐさま築地H君とりメール あり大成駒も六代目ばかりか五代目も生涯最後の役がこれ、縁起が悪いといへば縁起悪いが雀さんも女形人生の総決算か、と。ただ今の京屋なら悪き験も振るい 落とすほどの気勢あり、か。

二月一六日(日)曇。香港マラソン開催。5年前に10kmで初参加しハーフ4年連続参加となるが今年 に入り1月の美津濃、旧正月の7kmと途中棄権続き練習も当然十分でなく完走できるかがかなり心配。参加者は10kmからフルまで計でついに18,000 名を越え5年前に西營盤の運動場(現・中山記念公園)起点に小ぶりに開催されていた頃が嘘のよう。スタートすると気管支もガサガサとせず身体も重く感じず 二週間の断酒のご利益かと思いつつ走る。後半、疲労なく寧ろ速度上げることも可能で前半は6:30/km程度であったものが6:00になり、これならどう にか完走できると思うとかなり精神的にも楽になり西海底隧道潜ってからはランニングクラブのY氏と供走、残り3kmでどうにか二時間は下回るであろうと安 堵したが毎年のことながら香港島に入ってからのコースは高架道あり銀座昭和通の如き地下潜る立体交叉あり速度極端に落ちて金鐘から終点の湾仔展覧中心見え た時には二時間まで5分もなく少し急いではみたものの結果的は2:00:27、男子Senior部にて505名完走者中の184番、こんなものだろう。今 回は不安材料ばかりながらミズノのランニングシューズWave Spacer RT-IIが僅か十日に三、四度の試走にかかわらずかなり足にフィット。終ってフルマラソン輩の到着も待たず粥食しPacific Coffeeにて伊太利特濃珈琲(エスプレッソはこう書かれる)喫し帰宅。ハーフ走って疲れてもいるのに慌てて競馬予想済ませて沙田に向おうと思った R10のクラス1の1,600m芝に馬主C氏のDashing Winner参戦、前走2着で今回はクラス1とはいへ主だった強豪おらず久々の一着期待、だが本日の朝刊の競馬欄見るとDashing Winnerの名前見当たらずR10の2枠には「侵略」が……DWは出場取消しとなっていた模様で沙田に行かず自宅にてテレビ観戦。ひとまず二週間の断酒 でハーフも完走できたわけだし、と夕方、ハーフ同着したY氏、同じくハーフ出場した自宅近所のO君とフルに出た鉄人H氏でQuarry BayのEast Endにて一飮……のはずが心地よい夕方でついつい杯が進み各人4杯=4パイントつまり2.3�飲んだことになる。断酒の反動か。Y氏そこから誘って帰 宅、Z嬢のところにH嬢訪れピアノの連弾のお稽古あり4名で晩餐。和食でついサントリーの山崎、盃が進む。ビールも美味いがウイスキーの芳香もまた好し。 疲れもあろうがかなり酔いがまわり九時頃に爆睡。

二月十五日(土)曇。早朝、小熊『民愛』最後百頁余一気に読み漸く読了。速読なる余かうして読了まで 多くの時間費やしたも内容けして難解に非ずただただあらゆる箇所にて其処に書かれた事実識り立ち止まっていろいろ考えめぐりてまた文字列に戻るといふ行為 が殆どの頁に亘って繰返された結果なり。これまでご多分に泄れず戦後民主主義、ナショナリズムといった語用いてきたが小熊氏のこれを読み氏の緻密なる「戦 後」思想の著作と言動の読み返しにより、さういった語も時代のなかで大きな用法の変遷があったこと、ことに戦争体験なるものの各人の体験状況、度合いの違 いは大きく思想に影響与え、1955年までが本当の「戦後」であり55年以降90年まで冷戦構造と経済成長、「戦死者の記憶の無慈悲で気持ちのよい抽象 化」に基づく大衆ナショナリズムのなかで「第二の戦後」の時代を迎え戦後平和主義が欺瞞とされ民主と愛国の共存状態が崩壊、本来、吉田茂から保守と革新を 包括した総体としてあるべき戦後民主主義なるものが近代市民護憲主義だけを意味するものとなり批判の対象として「発明」され、実はこの第二の戦後の安定を 背後から支えていたものは第一の戦後の残像である平和主義であるのにそれも忘却の彼方、悪い意味で吉本隆明的な家族と浮遊する個人を核とした大衆消費社会 が出現した。それが90年の冷戦構造の崩壊でポスト戦後の時代を迎えるのだが、日本は90年までに占めていた特権的な国際的位置つまり非民主と経済後進と いふアジアにあって唯一工業化された自由民主主義国家であるという特権を失って、いったい何が其処にあるのか。それまでの時代を真っ当に理解できていない から、戦争など知らぬ世代が戦争の記憶をめぐる争いが発生し、アジアへの加害責任論が論点となり、今になって日本のナショナルアイデンティティがどうなる のか、と問われる。ここまでが小熊氏のいう「事実」である。そして小熊氏は私見として憲法について55年までは実は憲法の宣う理想主義と現実の混乱と貧困 の格差大きななかで保守が護憲、革新が改憲を主張し(それが55年体制以降正反対への移行が行われたわけだが)、そういった意味では今こそ日本は豊かな経 済的、社会的基盤にたって憲法だの教育基本法だのにある理念を現実化できる、それに適した時代になったのではないか、と。だが冷戦期より現実的な必要性が ないのに改憲だの歴史の見直しが主張され、実は保守愛国の輩はそれを主張するが実はそれを主張すればするほど対米追従外交になっている矛盾もあるのだ が……。靖国についていえば小熊氏は日本の戦没者すべてを祀ったものではないく「公務死」だけが対象である不十分さ、またA級戦犯を祀ったことで昭和天皇 が不満感じ参拝を控える意向を示した事実を挙げる。学校で強制される日の丸君が代とて国民国家思想以前の問題として(そりゃそうである、そういったナショ ナルアイデンティティが存在しないのだから)子供も含めた各人が浮遊している社会での単なる統率の手段として用いられるだけで教育信念に基づくものでもな く学校管理職や推進派はお上に忠誠示して自分の老後の安定ブランドを維持するため、という辛淑玉の意見を紹介している。戦死者にしても国旗国家にしても実 は見せかけだけ、真摯なそれへの敬愛だの信念はない、茶番なのである。で、90年代以降の思想はどうなったか、というと、ここでは加藤典洋や佐伯啓思が俎 上に上げられたが丸山眞男に象徴される戦後思想がそれを批判した吉本隆明らの思想と混沌と化して合成され、実は加藤や佐伯らの戦後観が「第二の戦後」の時 代に作られたものでありながら実は55年までの戦後の語を用いて語られもする、つまり第二の戦後を批判しつつ55年までの思想も影響力をもっておらず、し かもそれを超える言葉が生みだされていない、それが現在。それがどういったものなのか、此処で答えを出すのは早急だが、と小熊氏が挙げるのは在日朝鮮人が 日本という国家でも朝鮮という母籍でもない、いずれにも支配されない域でみずからのアイデンティティをもつこと、琉球でも同じだが、そういったものの形 成、を挙げている。ただそれをナショナリズムといふ言葉の復権を唱えないが、と小熊氏。ただナショナリズムという言葉が強固な一枚岩の思想観念なのではな く、それは装置であり、時代毎の読みかえによっていくらでも変容すること、であるからけしてパンドラの筐にそれを押し込めて封印する必要はないのかも知れ ない、と余も感じる。それにしてもこの本一冊読んで、自分も実はどれだけ色眼鏡で戦後を勝手に包括してしまっていたのか、と痛感、痛感。つぎなる大著は日 本語版でのネグリ=ハートの『帝国』、また寝ながら読むと肩凝りである。『週刊香港』の原稿書く。小熊氏の思想に比べたらたわいない香港の老舗の料理屋紹 介、半時間ほどの呻吟。自家散髪。昼からジムで小一時間走り筋鍛一時間。MTRでばったり某誌編集者M氏と邂逅、5月からの連載のことなどMTR車中にて 話す。帰宅して夕方、昨日買い求めたZoeのチーズケーキ食す、美味。明日の香港マラソンため炭水化物摂取と称しZ嬢と粗呆区のLa Piazzeraにてパスタ。この伊太利料理屋の蟹肉と蕃茄をホワイトソースでからめたパスタ食べたいのだが蟹肉なし、とのことで烏賊墨、浅蜊のパスタ。 味と量からして香港ではかなりお得な伊太利料理屋にて繁盛しているが開店から四年目か、この店の伊人経営者は陽気に一切合切気にせず、相変わらず素人の域 を出ぬフィリピンからのヱイトレス、愛嬌といへば愛嬌、気軽にパスタ食す程度にはこれで好し、か。XTC on Iceにてジェラート、天星小輪にて尖沙咀に渡り星巴でエスプレッソ、文化中心にてハービー=ハンコックのコンサート、実に20数年ぶり、前回は東京はよ みうりランドEastだかでチック=コリアとのピアノヂュオ聴いた記憶、今回はハービー先生に88年Wayne Shorterに代わり日本公演からハービー先生と組むMichael Brecker (Sax)、 Wynton Marsalisにより高校生の時に発見されたRoy Hargrove (Trumpet)、この二 人が先生にとっての曾てのコルトレインとマイルスを演じるわけで修行僧の如し、そこにトリックスター的なJohn Patitucci (Bass)とWillie Jones III (Drums)というリズムセクションの5人組、演奏続きメンバー紹介もないまま演奏続き漸くMCのマイクをとった ハービー先生は大学の講義の如く話し始めた内容はコルトレインとマイルスへのcontributionにて、この偉大なる先人二人はジャズ音楽ばかりか価 値観、人間性まで含め偉大なる業績と影響力を残し、自分たちが今やっていることはこの二人の偉人のその財産を会得して更にその上で何ができるのか、その方 向性を毎日の演奏で探っていること、と。お気持ちよくわかる。先生はNew Standardという概念、スタンダードとフリージャズの統合の上での脱構築とでもいいませふか、それをするにあたって、この4名のメンバーはそれを音 にする実力はかなりなもの、単に技術力でいったらMichael BreckerもRoy Hargroveもコルトレインとマイルスより管楽器演奏は上手いわけで、ただそれじゃそれが心地よいか、といふと聴いていて思ったことは上手すぎて完成 されてしまっていて、何かいまひとつモノ足りず。わだかまりも苦悩もない洗練された21世紀のジャズの世界か。修行僧と前述したが禅であるとかそういう境 地に先生は達してしまっていらっしゃる。プログラムを見ていて驚いたのだが先生が追悼するコルトレインとマイルスの二大巨頭、生きていたらまだ77歳と 知って愕然、若くして亡くなっているのだが老成してしまった感あり、下手したらまだ現役も可能な世代。それに対してたった15歳若いハービー先生がジャズ 界一身に背負っている感あり。帰宅して荷風先生『あめりか物語』少し読む。
▼李恰氏はかつて香港の『世界』の如き『七十年代』から『九十年代』の名編集長にて『九十年代』誌を廃刊し たあとは蘋果日報が李恰氏を招き論壇という頁に連日政治コラム連載。蘋果日報創刊の折、誰がこの新聞が香港の言論自由を果敢に守り李恰がこの新聞に連載を もつことになるだろうとは想像もせず。その昨日の李恰専欄に「国家認同」といふ一文あり。李氏が数日前に書いた「家国弁識」なる文章が話題となって、とい ふ書出し。詳細はわからぬが親中派の政党民建聯が23条支持のキャンペーンにて「没有國、那在家(国がなかったらどうして家がある)」と宣ったことに対し て孟子の「國之本在家(国の根本は家にあり)」という家重んじ国軽んず観念を用いて、例えば海外に散った華僑らが未だに国=故郷といった場合に中国を指し ても家はカナダだの豪州あって、それもまた可なり、と。つまり国家認識というのはいろいろあって……と李恰氏、まずは文化が同じであることを挙げる。次は 国籍が同じであること、これは人種だの文化だのに関係なく身分証明みたいなもので、香港チャイニーズが未だに英国(海外)旅券をもっているようなこと。そ して三番目に挙げたのが国家が同じであること。国籍はカナダだの米国だのにあっても国家となると中国を考えるような、そういう認識がこれ。李恰氏に対して 「中国を愛するか」と尋ねられれば文化としての中国はそうだが国家となると、その国家の弾道弾から汚職、贈賄、混乱まで全てを含まねばならない。中国の人 民を愛するか、と尋ねられれば国家指導者も?、愛国ならばその場合、中国にある香港の董建華から特区政府まで含まねばならぬのか、と李恰氏。愛国といへば 中国民主運動家で米国在住の医師・王炳章氏、10日だったかに深センの中級法院が終身禁錮の実刑判決。王氏は中国国家機密を入手して台湾のスパイ活動に従 事、インターネット上で暴力やテロ活動を呼びかけていた、としてしるが、もともと82年に「北京の春」の当時民主活動雑誌『中国之春』創刊、米国に亡命し たが98年にも中国に密入国して反体制政党結成目指したが逮捕され国外追放、再度昨年九月に越南から中国に再び入国しようとしたところ国境附近で誘拐され 中国側広西チワン族自治区で警察に身柄拘束される。ベトナムでは逮捕できないが誘拐されたとしても中国に入ってしまへばもう煮て喰おうが焼いて喰おうが、 といったところか。それにしても、この王炳章氏にしてもテロ活動家だのスパイだのと烙印押されているが純粋に愛国者であり、じゃなければわざわざ米国から 中国に渡るまひ、しかしこの国家は王氏を国家転覆テロ分子として処分する。しかも半世紀前は同じ境遇にあった中国共産党が、である。これは清朝政府が孫中 山先生を英国にて逮捕しようとしたことと何が違うのか、と今日の『信報』に張偉國氏が書いている。

二月十四日(金)基督教の聖人Valentinusに、亦た恋人への贈物の風習は古代ローマの豊穰祈 願の祭Lupercaliaに由来するといふバランタインの祝日が日本はじめ世界中にて愛の祝祭となっていることへの苦言など今さら言ふまひ、寂しき老人 のただの僻みと思われるのが由。毎朝六時半にラジオにて目覚める。朝イチのこのニュースにてブッシュの耳障りな演説で目覚めることほど不愉快なものはな し。新聞はイラク攻撃だの北朝鮮のミサイルが米国西海岸まで射程距離に、だのとテロ、テロ、テロ……まさにテロ恐怖シンドローム、世界席巻する。これはも はや「ビョーキ」である。海南島より明後日の香港マラソン参加にてA夫妻来港、1年ぶりに再会して昼に香港ホテルの西村。A氏にここのちらし寿司勧められ お昼は3つの小丼選べてHK$150はお得。ちらし、鉄火、葱トロの3つ、夜にHK$240だして食べる鉄火丼はちょっと「うーん」だがこのセットは満 足。ただどの小丼にも生姜(ガリ)が多すぎ。味を壊してしまふよ、あれぢゃ。Happy ValleyのZoeなるケーキ屋にてチーズケーキ購ひ帰宅。もともと鴨利洲に製菓工場ありレストランにケーキ卸で来客売りもしていたが評判になり Happy Valleyに店出す。ケーキ食べる暇もなく慌てて一人で湾仔の芸術中心にてThe Fire of Desireなる芝居(演出:楊詩敏)観る。Arthur Schnitzlerなる劇作家の100年前に上演禁止となり20年後にようやく上演されたといふ劇Reigenをモチーフに女優(焦媛)が売春婦、看護婦、お嬢様、モデル、女優の五役、男優(李潤祺)が タクシー運転手、大学生、議員、劇作家、遊び人の五役を演じ、売春婦が運転手を客とするところから売春婦(淫売)運 転手(通りすがり)看護婦(衝動)大学生(お遊び)お嬢様(お付合い)議員(権 力)モデル(偽物どうし)劇作家(仕事上)女 優(麻薬)遊び人(淫売)売春婦……と男女が出あうそれ ぞれ様々な状況をこの二人だけで演じてゆき、最後は振出しの売春婦に戻る。設定は面白いが習作の域をまだ出ぬ舞台。終わってZ嬢に電話すると太古城にて買 物しているといふので太古城で落合ったものの「香港一の食の不毛地帯」太古城、昼に西村で寿司でなければ初めて時寿司訪れるところ、「坦々麺のすかいらー く」翡翠麺家は夜の九時半すぎだといふのに店の前に六、七十人は順番待ち。不味くはないが小一時間も待って並んでまで食すほどとは思えぬ。時間も時間で やっつけ飯なのでWestland Rdの好時菜?(不確か)なる京滬風味の店にて北京水餃、北京炒拉麺、四季豆炒。不味くはないが美味くも ない、ただ翡翠麺家で一時間待つなら此処で充分のはず。
▼朝刊見れば長野県は公共事業を4年で4割削減し福祉医療、環境、教育、産業・雇用に重点的に予算配分、と いう動き、田中知事は「どこかが従来型の公共事業に切り込んでドラスティックに変えなければ日本は沈没してしまう」と。どれくらいの人がそれを理解してい るのか。それを理解できていたら今の政治のはずがなし。
▼日本の新聞では読んだ記憶ないが、中英両紙に日本のマザコン&国防キッズ防衛長官石破二世が外国人記者とのインタ ビューで「北朝鮮が日本に弾道弾を発射した場合、発射されてからではなく発射されることが的確に判明した場合、日本は弾道弾発射阻止のため先制攻撃に出 る。これは日本の軍事防衛のためであり合法」といった主旨の発言あり大きく取上げられる。現代の軍事技術とはこんな先制攻撃で相手を壊滅できるようなもの でなし。レーガンの時代でこういった核弾道弾の先制攻撃うんぬんの作戦は廃れたと思っていたがまだ言ってるよ、この防衛庁長官。本当に軍事オタクなのかと 疑いたくなる。9-11のような自国民間機を使った攻撃、細菌戦などいくらでも方法はある。結局、この弾道弾発言はおちゃらけにすぎず。ただそういうこと を言って注目されてみたいガキ。本当に日本の安全保障を考えるのならいかにそういった軍事的触発にもっていかないか、だけしかないはずなのだが。結局、こ の人は、見るからにもし自分が兵役についたら古参兵にビンタから始まって虐められるタイプだが、衆議院議員であり防衛庁長官であるから間違っても兵役につ くはずもなく、この人の好戦姿勢というのは軍事オタクだから自分が防衛庁長官であり実際の戦争が起きたらどんなシュミレーションゲームよかもっと面白い指 揮ができる、という、そういうこと。もう実際にそれがやりたくてやりたくて仕方がない。戦国時代の殿様ぢゃないから自分が死ぬわけでもないしね。こんなの が防衛庁長官、それを防衛長官にしてる小泉三世、小泉三世を首相に選んでいる日本……。
▼新大久保だかの国電ホームでの泥酔転落と巻添え死亡事故を契機にホーム売店にて発売止めていた酒類の発売 再開、と。売店の売上げ維持とサラリーマンの「帰宅前のささやかな楽しみ」を奪わないで、といふ声に押されて、とか(悲)。 仕事終って酒の一杯といふ気持ちも解るが都会であれば酒場パブでギネスの一杯でも、とか新橋だの大塚だの酒屋兼ねるスタンドバーでの冷酒一杯とか、地元に 着いて駅前で一杯とか、と思うが通勤時間がこうも長くなっては、といふ事情で駅のホームで、か。それにしても常磐線の帰宅時の通勤電車の酒臭さなど甚だし く、その酒が楽しみとは甚だ寂しき社会。酒場で知りあった韓国人や中国人の友だちと一緒に都庁前で石原抗議デモするとか、楽しみはいくらでもあろうに。
▼香港特区基本法23条による<国家安全(立法条文)条 例>の立法化、本日政府Blue Print草案刊憲(官報に公示)。立法会審議へて七月をメドに政府立法化の構え。それが公示の数日前に 香港総商会(経団連に該当)の行政総裁が「見た」と発言してしまい疑惑。実際に政府「見せていた」わけで それを知っても驚きもせぬが茶番は茶番。「見た」と発言してしまふほうも馬鹿正直。一昨日の日剩に録した東亜銀行の李國寶(そ れにしても国宝とは凄い名前……笑)による保安局長葉劉淑儀に対する非難に対して保安局長葉は昨日謝罪表明。銀行家「2名」に電話したこと は認め"It was not a question of me double-cheking what Mr Li has reflected to the government. I have a duty to consult peope to ascertain thier concerns"と宣うが銀行界選出の立法会議員としての李の立場はなし。葉曰く"I will talk to him when he is not so angry"って、この保安局長、やっぱりバカ(笑)。 相手を怒らせることしか知らず。また上述した香港総商会への草案内容漏洩の件、葉局長は「立法会にて議員への提示が最初であるべきもので第三者への漏洩な ど絶対にあってはならないこと」と説明するが総商会の件については「なかった」と否定せず「誤解がある」と(嗤)。 事実はいくつかの点について法務局が先方に意見を訊くために草案のいくつかの条文は見せたが草案じたいは見せてはいない、と。この拙劣なる立法化作業見て みてもいかに香港政庁がこの立法化について法治の原則だの立法化の意図もわからぬまま、ただ国家への忠誠示すためだけに躍起となって立法化勧めていること の本質見えたり。
▼『世界』2月号にていつの間にか神奈川大教授になっていた田端光永氏(元 TBSニュースキャスターにて97年返還前にTBS香港支局開設し初代支局長にてマンダリンオリエンタルホテルでの開設記念パーティにてご尊顔を拝す、)、 小泉三世靖国参拝を質し、今回の1月4日の抜き打ち参拝、1月下旬の通常国会召集、2月の韓国新大統領就任、3月の中国共産党Coquinteau総書記 の国家主席就任、4月の統一選挙、その後自民党総裁選と続く政治日程の中で、「靖国はさっさと片づけておこう」という姿勢を追及。確かに、本当に靖国に眠 る英霊のことを思えば、かういつた小泉三世の姿勢英霊に甚だ失礼極まりなく冒涜、きちんと八月十五日に参拝しなければならず。それで非難があれば正々堂々 とそれを受け国民の審判仰げばよし。結局、本当に英霊を懐う気持ちも信念もなし。

二月十三日(木)曇。新聞テレビ欄のワイドショー「新之助」「隠し子」の文字竝ぶ。女兒とあり14代 目への期待時期尚早に終る。昨晩の競馬場寒風吹き荒び朝咳続いたら十日前と同じくゼイゼイと軽い喘息のような症状となり再び養和ダリ病院訪れY医師の診断 乞ふ。吸入処置のうえ携帯用の吸入薬渡される。黄昏に何処にもよらず帰宅、養生のつもりが早く帰宅したら帰宅したで面白いこと多く養生にならず。
▼中 国国旗(五星紅旗)貼ったマスクする若者の写真、新聞にあり。中国での言論の不自由に抗議する姿勢か、と 思ったら、何のことはない、広州で開催の中国vsブラジルのサッカー戦で、広州は件の謎の肺炎はやりマスクする者多くマスクしての観戦のため五星紅旗貼っ ていた(笑)、それだけのこと。この肺炎、昨日の『信報』社説、今回の広東省に流行る謎の肺炎と香港のそ れへの対応を、かつては米国がクシャミすれば香港が風邪ひいたものが今では「中国が風邪ひけば香港が発熱する」と。言い得て妙。
▼築地H君が昨日教えてくれた成田屋の筆法、拝見。けして賞められぬ癖こそあるが確かにキョービこれなら じゅぶんな筆捌き。新之助君の隠し子は驚かぬが寧ろこの能筆に驚かされる。

この度わたくし倅       
新之助儀世間様を
お騒がせいたした事赤
面のいたりでございます
又関係各位ご贔屓
いづれも様に多大な
ご迷惑をお懸けいたし
ました事深くお詫
びいたします
当人もこの度の事を
真摯に受け止め、身
律すると存じます
今はただお子さんの健
やかな成長と多幸を
祈るばかりでござい
ます
       團十郎
と、この本来なら孫と愛でる女兒を「お子さんの」といふ祖父の心境思へば哀切なり。今月は木挽町歌舞伎座に て千本桜の通し狂言、成田屋勤めしは鮨屋の権太、さぞやいい舞台であらう。で、この「母」にあたる元歌手といふ女性、そのファンサイトだかの掲示板に本人 の名前にて「ファンの皆様このたびは大変お騒がせしました。また改めてお話する機会を設けた いと考えていますので、温かく見守ってやってくださいね」とあるが、これも本人かどうかすら わからず……邪推どうでもよいが罵詈としか言えぬ書込みもあり。この元歌手のファンサイトなど今日だけで8955をヒット、でこれまでの合計が10899 だってんだから全然見られていなかったのが途端に世間の注目の的に……。新之助君の祖父十一代目の当時は梨園の御曹司にて人気絶頂の海老様が女中ふぜいを 孕ませといふ「醜聞」とて今のやうにテレビだのマスコミの餌食にならず、確認しておらぬが芸能花柳界に詳しい『都新聞』とてそれを今日明日のニュースとし ては伝えてはおらぬはず、キョービは時代が狂っているのである。何様のつもりか「歌舞伎界では97年の市川染五郎(30)に 続く隠し子発覚で、梨園の“常識”が問われそうだ」などとご高言宣う日 刊スポーツもさういった成田屋の歴史を語る。「実は、団十郎自身も似たような経験を 持つ。団十郎の母は、団十郎の父11代目市川団十郎(当時海老蔵)が病気で入院中に、付き添って看病した ことから出会った。退院後、そのまま市川家に入り内縁の関係が続いた。その後、団十郎が生まれたが、父はしばらく“独身”を通し、小学校入学時に、初めて 世間に妻子のあることを公表した。その後、正式に結婚したので、団十郎自身は“隠し子”にはならなかった。11代目夫人、つまり新之助の祖母のこの生き様 は、小説「きのね」(著宮尾登美子)のモデルとなり話題になった」と。入院中の付添?、確か病気療養していた頃の女中であったと記憶するが……不確か。それにしても「父はしばらく “独身”を通し、小学校入学時に、初めて世間に妻子のあることを公表した」って一文、読んでいると父が小学校入学時に妻子あることを公表=歌舞伎役者はそ こまで早熟か、と読んでしまったよ、全く。それにしても新之助君さすがそのへんの青二才の芸人とは異なり立派なもの。「おなかに子供がいて(彼女が)生みたいというので、どうぞと言いました。私は結婚を考えていませんが、それでもいいですかというと、い いですと言われました」と。この「どうぞ」って今どきの若者の口から出ぬせりふ。それも「お隣りに腰掛けてよろしゅうございますか?」ではないのだ。「こ の子、あなたの子よ、産んでもいい?」に対して「どうぞ」だ。黒澤明の『七人の侍』で扉のかげに隠れた相手から不意打ち武才を確かめようとされた五郎兵衛 の戸の手前で立ち止まっての「ハハハ、ご冗談を」、あれに近い見事な台詞。さすが成田屋、格が違ふ。「わたしは結婚を考えていませんが、それでもいいです かというと、いいですと言われました」ってのもいいねぇ。恐れ多くも××××におわせられても元ヅカ女優の×××××相手にかうは仰せになられなかったは ず。閑話休題結婚に至らなかった理由は新之助君曰く「僕の中で考えることができなかった。もともと結婚は 考えていなかった」という真な正直さ。この女性との今後の結婚も「ないですね」と断言、お見事。記者会見にて「成田屋〜!」と大向うから声かかってもよ し。団十郎の「大変だが、頑張りなさい。自分がきちんとやればいいことだ」といふ言葉も立派。まことに立派な親子。それに対して下世話なマスコミ、米倉涼 子嬢に新之助君との関係など質すが「友だちなだけです」と。それでじゅうぶん、『武蔵』一見したところ残念ながら女優としての芝居の資質乏しく友だち 「な」関係で充分、それ以上は贔屓は期待せず。この「名詞+だ」を形容動詞的に「名詞+な」として用いる表現、文法的には間違っているが「安全だ」とか 「微妙だ」とかものの状態、様態が形容動詞だと想えば「友だちという関係「な」だけ」というニュアンス伝えるには便利。「友だちです」ぢゃなく友だち 「な」だけ、ってちょっと意味深となる。梨園、さすが役者揃い、染五郎の隠し子騒動といい人間国宝にて現役大臣の夫たる成駒屋(鴈治郎)の50歳年下の舞妓相手に京都で密会し窓開けたまま“ご開チン”しイチモツ見せただの、不景気な世の中、 しょせん芸人なのであるからどしどしかぶいてもらいたいもの。常識だの倫理など音曲歌舞芸能の世界に持ち込むべからず。それにしても二十代も半ば過ぎた青 年の親が世間に対して謝らねばならぬのか。それも犯罪であるとかぢゃなく、役者がレコとのこと、謝る筋合いもなし。かつて香港で世界的企業の香港支社長、 その娘十代にて麻薬に染まり遊ぶばかりか売買のシンジケートにまで加わりタイだかで逮捕されたが逃亡、十代の若さで国際刑事機構の指名手配になる、といふ 凄まじき娘だったが、その父親、個人として娘に対して親の責任こそあれ社会的、道義的には娘自身の犯罪であり、それが即、親の職業上の立場とは結びつか ず、というのが大人世界の一致した判断にてそのまま職に留まり、さすがに個人としての娘のことでの精神的疲労甚だしくしばらくして職を辞したもののあくま で個人的理由。それが自律を前提とする大人社会のはず。
▼成駒屋といへば「扇雀」も歌舞伎に詳しくない方には父・雁治郎の二男の次男といわれてようやく「へぇ」と いふ程度だが28歳の美女との密会、それも父と同じホテル、と笑わせてくれた。この「クリスマス連泊愛」は今月号の『噂の真相』にて扇雀の「芸を継ぐ前に プライベートを継いでしまった」なる発言、これが新之助であるとかヨシモトの芸人なら上手いコト言うと笑われるだろうが「当人も自覚している通り芸で騒が れたこともないのに、こんなことで話題になって、とは幕内の声」と苦言。「父親が扇雀を名乗っていた頃は、ブームと言われるほどの人気で扇雀あめが出来た のは有名な話」で「女に精を出すヒマがあったら稽古しろ、というカゲ口もたたかれた」と。御意。だが「女で騒がれるのも芸のうちと考えれば、まだ扇雀のほ うがマシ」と「もっと影が薄い」兄、翫雀こと確かに不憫。だいたい「翫雀ってどう読むの?」がフツーであろう。鴈治郎がまだ若く扇雀を名乗っていたおりは 余の祖母なども「玉三郎とかきれいかもしれないけど歌舞伎の女形の艶やかさってのは扇雀だねぇ」と愛でていたことを彷彿。
▼『噂の真相』といへば断筆宣言撤回して再び始まった筒井康隆の連載「だはははは……」ばかりで芝居の話な どいつもつまらぬのだが、今月号で最近ギャグがいくらでも浮ぶが書きにくいことばかりで(……とこれだけで可笑しそうだ、だいたい何のネタか想像できて読 んでみたい)かつて自分の書いたことが原因で殺されたら本望だ、と言った筒井先生であるから自分は断罪されてもいいが家族の「頼むから、つまらぬものや変 なことを書かないで」という「内部からの圧力」に苦労する、と。つまりこれほどの決意した作家といふのは天涯孤独であるしかない、といふことか。同じ号の 中森明夫の安原顯追悼の文あり読んで涙腺緩む。かつて「若くて痩せていて美少年だった」中森氏ヤスケンに気に入られ銀座で腕に抱きつかれ歩いたことを懐 古、男に絡まれたのは初対面だった中上健次先生にタクシーで手をにぎられ「おい、文学界新人賞、獲るか?」と耳元で囁かれて以来のこと、とあり、それを読 み或るマニラのポン引き君が「マニラを「取材」で訪れた中上先生をゲイディスコとかによく案内した」と余に語り「有名人の名前出して、嘘だろ」と交わした ら「ほんよだよ」と当時すでに他界していた中上先生との写真見せられ驚いたことを想いだす。同号の田中康夫チャンのペログロ日記にも「日本橋千疋屋にて苺 買い求め上野桜木の安原宅訪問しヤスケンに「康夫、物書きとしちゃ、ゴミだったけど、県知事のお前は偉大なストーリーテラーだ。脱ダム、不信任、出戻り、 良くやってるぞ」と最大の賞め言葉を頂戴」と記述あり。が、ヤスケンが癌告白したことで一躍有名になったオンライン書店bk1のヤスケン日記読むとすでに癌の末期症状で日々の日記記載すらま まならず1月5日に一日だけ書かれた、結果的に最後の日記となった項に「28日だったかな?思いがけず、田中康夫から電話がありまして「これから15分く らいお見舞いに行ってもいいか」というので、いいよと言いまして、安斎肇が描いたヤッシーイラスト入りの名刺ほかいろんなものを持ってきてくれました。手 にちょっとアトピーが出ていて、ストレスからくるものなんだろう、大変だなと思いましたが、元気そうで頼もしく思いましたね。これからも大いにやってもら いたいと思いますね」とある。だがペログリ日記によるとこれは12月31日。このことについては『週刊ダイヤモンド』の「続・憂国呆談」でも康夫 チャンは語っている1月号が、 そこで「社員だった彼(ヤスケン)が大江健三郎の批判を書いても、当時の中央公論社は編集者として護っ た。文藝春秋や新潮社、朝日新聞だったら、どうだったかな。批判こそは言論なのに、閉塞的な空気が漂う今の日本は困ったもんだ」と。へぇ中央公論ってそん なに立派「だった」のか、と感心したが、これには注釈がついてしまい「いやぁ、中央公論社だけが例外だった訳ではなく、当時も大江健三郎氏からの抗議に結 果として中公側が屈して、今後は二度と大江批判を行わないと、安原さんが「約束」する形で収まったらしい。多くのWEB版読者の皆さんからお問い合わせを 頂戴しました。まあ、妙な形で、浅田・田中対談の読者が少なからず世の中には生息していると確認しちゃいました(笑)」 と康夫チャンのコメント。やっぱり大江の前には土下座なのだ、このノーベル賞作家、どこが民主主義なのか……なんて言うと「だから大江の天敵、石原のほう がマシ」となってしまふか(笑)。
▼ペ ログリ日記といへば12月29日に康夫チャン、銀座の寿司幸本店にてW嬢と寿司。下記の如し。
他の客は全員、香港から来日のスーパー金持ち族。すかさず、長野県の温泉とスキー場をアピール。ヘリコプ ターで行ける場所はないか、と楽基集団なる不動産企業体の若き総帥が宣うので、スキー再興戦略会議のメンバーの盛田英粮氏が営む新井リゾート改めArai Mountain & Spaも推奨する。支払いはアメックスのブラックカード。日本では未発行か、と尋ねるので、既にカードが過日送られてきたが年会費16万円に見合うだけの T&Eサーヴィスが提供されるかどうかいささか疑問で使用せず、と答える。
この香港からの団体、この富柏村日剩お読みの方なら察するは当然、蔡瀾氏主宰するツアーか。金持ちツアーで も普通なら寿司幸は選ぶまひ、いかにも映画関係者とか好きな店だしね、蔡瀾氏なら懇意のはず。
▼その『噂の真相』で唯一、相手を好意的に取上げる(笑)メ ディア異人列伝に小熊英二先生登場。インタビューしてるのが永江朗だから、いい組合せ。小熊先生、相変わらずちょっとマイケルジャクソン的だが現役でキキ オン(Quikion)なるバンド活動しててステージにも立つそうな。やっぱり変態だ、いい意味で。ヨシモト隆明についても小熊の吉本批判の何が白眉かと いえば「吉本が好きでもないのに著作集を全部読む奴はめったいにいない」と本人の弁。「誰かがやらなきゃいけないと思うからやったわけ」で「それが仕事」 と。この割り切った姿勢があの神話崩しの背景か。ご立派。つぎは「新しい歴史教科書をつくる会」がテーマだそうで、乞うご期待だ。

二月十二日(水)曇。夕方、築地H君より成田屋に隠し子発覚、と速 報。記者会見が深更にて未だ記事もなく2ch見ると早速「本人が認めたら隠し子じゃない」「歌舞伎役者ってホモが多そうだけど実際は隠し子が多い んだな」という見方だの「縁起を禿しく担ぐ世界だから舞台人が「おろす」なんてことできんのだろうな」となかなかの卓見あり。隠し子でも何でも市川団十郎 といふ名跡が続けばそれで好し。ところで男の子かっ?……なら14代目、ただその襲名の頃余はすでにこの余に沒し、か。せめて13代目の襲名をあと十年ほ どで見れることだけ楽しみに余生いきるのみ。H君からの続報によると晩6時のニュースに。新之助本人は撮影中のため会見が深更なのだそうだが12代目がテ レビ局各社に送ったといふファクスが紹介され、H君、成田屋のその達筆ぶりにただ驚いた、と。好事家のH君、「国宝」とされる三筆だの三蹟だの書見て素養 ある人がさういふほど。12代目、役者として厳しい批評もあるが直次郎での着物の着る様だの帯の締め方、蕎麦食う仕草など見ればこの人の粋なところはわ かっていたつもりだし(確か俳句もだったか)、新之助といふ未来の団十郎を生んだだけでも功績ありと思っ たが達筆だったとは、明日の朝刊楽しみ。百年ぶりにハッピーバレーの夜競馬。競馬場へと向かう途中、銅鑼湾のMTR站ホームでばったりとZ嬢と遭遇。市街 でこんな遭遇初めて。香港で二番目に高いが一番美味い南亜餐廰の海南鶏飯食す。ホントは美味いのだが身体には好くないか、と滑皮食べずに残す。南亜餐廰と いへばとなりに瓜二つ南洋餐廰だったかニセモノあったがいつの間にか形跡もなし。競馬はさっぱり当らず。
【ロサンゼルス発ロイター電】子供と一緒に寝ていることが英番組で 明らかになり批判受けるマイケル・ジャクソンのために祈ろうとロサンゼルスの少年団体がハリウッドで集会を計画している、と。団体関係者によると「ジャク ソンが今にも自殺しかねない状況にある」と懸念した子供たちが祈ることでジャクソンを支えようと提案。マイケル先生が小児性愛者ではなく「祈りの運動が世 界に広まることを期待している」12〜16歳の子供ら約200人がハリウッドの歩道に刻まれたジャクソンの手形の周辺に集まり祈りをささげる予定……マイ ケル先生も12〜16歳の少年たちが祈祷してくれては嬉しくて死ぬに死ねまひ。美談なり(笑)。ちなみに この番組、奇妙なマイケル先生赤裸々に映る、語るという嗜好で「子どもと寝ている」といふのは父として、に非ず、12歳だかの癌に侵された少年を親から預 かり一緒に暮らし添寝して「精神的治療」しているそうな。また『ホームアローン』だとかの映画の主人公の「元」少年も当時、添寝した、とマイケル先生暴 露。ここ数年CD売上げ伸びずとんとスター扱いもされず奇人変人と見られてきた先生、非難承知で開き直り醜聞であろうが話題性得て再起かけたわけだが、こ の番組放映後英国でのCD売上げは10倍増、とは芸能の恐ろしき世界。ちなみに香港にては22日(土)に 明珠台にて放映。
▼東亜銀行主で立法議会議員(銀行界選出)の李國寶、政府 保安局長葉劉ゲシュタボ淑儀に対する不満顕わ。香港財界が親中姿勢で概ね23条立法について好意的ななか李國寶は23条立法により金融界では香港に対する 信用度下がることに懸念表明していたが、それに対して葉が何人かの銀行家に対して「李國寶の発言に同意するか、どう思うか」と電話。李は自分が専業の銀行 家であり銀行界代表の立法議員であるのに葉のこのやり方はunprofessionalであり自分の信用への冒涜である、と。23条に懸念表明すればそう いった態度に出る葉は実際に香港歴史史上最悪の行政官であろうし、これを任命した董建華も千古罪人。
▼ブッシュが史上最悪の不正選挙で大統領となり支持がイマイチの時に9-11の神風吹いたように北朝鮮「拉 致」は今年の建国記念日に恰好のネタ。日本会議や神社本庁による「日本の建国を祝う会」でも小田村四郎会長(拓殖大総 長)「我が国には有事法制も整備されていない」とブチ上げ北朝鮮による拉致事件について「『平和憲法』の幻想を打ち砕き、主権国家としての あり方を深く認識する機会となった」と指摘し「憲法や教育基本法の改正などをめざす国民運動の推進」を決議朝日。 強烈やなぁ。どれくらい強烈かといふと小田村先生は拓殖大総長で拓殖大総長といへば中曽根大勲位、拓殖大の総長が代々木の集会に出るわけもなく、なんと いっても創設者で初代総長がが桂太郎大将だぜ。それぢゃ中曽根大勲位を襲って総長になるんだから小田村先生がなにが凄いかというと経歴、東大法学部在学中 に学徒出陣、陸軍航空本部経理部将校、復学して卒業して大蔵省入省、主計局、内閣官房、防衛庁、日銀委員会大蔵省代表歴任して行政管理局事務次官、農林金 融公庫副総裁から日銀監事で上がり、といふまさに行政のエリート……でもかういふエリートなら他にもいるわけで、小田村先生が何がそのへんのエリート官僚 と違ふかといへば吉田松陰の実妹の曾孫なのだ、凄い。血統からして絶対に和光大学の学長になるわけがない。閑話休題北 朝鮮による拉致は主権国家としての日本が犯されていたわけでその諸悪の根源が平和憲法。なるほど。改憲派にとっては北朝鮮と拉致は神風になるか。建国記念 日に限らず連日どこかに顔を出している横田めぐみさんのご両親ご夫妻、この日も日本会議神奈川の集会に参加。横田ご夫妻にとってみれば娘救うがため 支援してくれる処には積極的に、なのだろうが、日本会議、ちなみに小田村先生も副会長だが、永住外国人へ参政権付与法案に反対って香港にて外国籍ながら参 政権付与されている我にはいたって耳の痛い主張もあり、この集会も紀元節の歌で始るわけで、あまり政治的関与受けるとそのうち(もう?)ラチズムのような主義主張となり近いうちに「拉致新党」とかからH議員当選、とかあるかも知れぬ。「巣く う会」的な方々にやりたいようにやられて「埒」あかぬことにならぬことを祈るばかり。
▼朝日の記事にあったが国語学会名称問題。国語学会か、 日本語学会か。国語なる観念が明治中葉に作られたもので「国史」と並び国策的。ただ逆にその「国語」を「日本語」として大東亜共栄圏にて普及させた歴史的 事実もあり、安田敏朗(一橋大)の「国語学が担ってきた役割を総括せず単に国際化など時代の流れに押されて改称するというのなら時勢に順応してきた戦前・ 戦後の繰り返しでしかないだろう」というのは冷静な見方。ただ「国語」なる物言いは日本と、それを真似て支那共通語を作った中国にしかなく、 National Languageとは言えず日本人には「国語」といいガイジンには「日本語」といふ不均衡あり。大学も多くが国文から日文になっており、ナショナリズム臭 い国語よか日本語のほうがマシだろう。記事では「改称の是非は会員の投票総数の過半数で決まる」としか書かれていないが、実はすでにこの学会の評議会で投 票の結果、48票中35票が日本語学会という名称に賛成で2/3越えたため2月15日投票〆きりで会員による全体投票にかけられているのが現状。 次は当然、学校教科での「国語」が俎上に乗るが文部省、政府がそう簡単に時勢に応じるわけもなく、日本の國體の真髄として保守反動右翼の諸君は言葉は血で あり肉であり、この「国語」なる名称維持に懸命になるのだらう。だが実際には例えば光村図書の中学3年の「国語」の教科書を見てみれば教科として「国語」 が使われているが中身は緒章からして「日本語を考えよう」といふように「日本語」という表現ばかり。現実はそうなのだ。それにしても学校教育での国語、い い思い出全くなし。四月に詩で始まりウンザリとする内容、どれだけ読書と書くことの好きだった幼少の余でありながら国語の成績はからっきし悪く「作家の言 いたかったことは……」の如き設問はとにかく間違える。だが橋本治チャン曰く自分の短編が大学入試だかの試験に使われ試験問題に答えてみたら正解が違って いた、といふ笑い話すらあり。むしろ「日本語」といふ語学として文字、文法だのだけ教えてくれればよかったのかも知れぬ。解釈だの感想だの考え方など人の 好き好き、教えられて学ぶものに非ず。
▼香港の誇る名馬Fairy King Prawn引退。2000年の安田記念、あれを見せてもらっただけで感激。26戦で13勝、二着10回。脚をいためて2000/2001のシーズン開幕戦 で1着になって以来療養していましたが回復の見込みなし、で引退決定。安田記念で原居民Indigenousの記録を破り香港賞金王となったがその後まさ かの故障、Indigenousのほうが現役を続けるとは。
▼現代史の謎「はしだのりひこ」について赤旗日曜版にインタビューあり、と築地H君。内容は、といへば住ん でいる京都で環境保護運動にかかわっているが頼りになるのは共産党だけ……みたいな話だった、と。このへんの親共ぶりが隔たりの原因なのかどうか。はしだ 先生も十何年ぶりにアルバムを出しました、とのことだが当然のようにフォークル再結成の話題は抜き。奇妙。H君曰くフォークルがここまで再燃しているのだ からウソでもいま「加藤や北山がまたワイワイやっているようですが、僕はもういまさらフォークルでもないって感じですかね(笑)。 ええ、もちろん今でもたまに連絡はとりあってますよ」くらいのサラリとした言及もできるはず、と。御意。
▼今さらもう話題にすることも意味ないのかもしれないが蘋果日報の蔡瀾のエッセイ(笑)。旅行中、厳密にはツアー旅行の案内人か、書きためておいた原稿を使うのだが、出版されている本の内容丸写し も動物愛護協会の紹介も困ったものだが、いちばん困るのがインターネットで流布されている笑い話をそのまま書くこと(笑)。 その類の話はインターネットで垂れ流しされているから許せる程度のものであって、それを活字にして而もそれで原稿料得てしまふとは有罪だ、こりゃ。でも、 まだ面白い話、なら百歩譲ろうか、と思うが今日のこの話はどうだろうか。

ある中年女性が整形手術をしました。成功しての帰り道、新聞売りに「アタシ、何歳 に見える?」と尋ねると「30いくつ?」と。「アタシは47歳よ」と女性は嬉しそうに答える。マクドナルドでも同じ質問すると「30前?」と言われ嬉しく てチップ置こうとしてマクドはチップ受け取らずと断わられ、花屋でも同じように30いくつ、と。女性は満足。路上で一人の老人に質問する。老人は80歳を 越え目も悪いと言うが「若い時から女性の年を当てる絶対の方法を知っている」と。その方法とは女性のオッパイを触ること。女性は応じたが老人は「47歳だ な」と当ててしまった。「どうしてわかったの?」と尋ねると「さっきマクドナルドであんたの後ろに並んでいたんだよ」と。
……面白いだろうか。全然。老人が乳揉みたいがためにウソついた、ってそれだけ? 風刺もなにもなし。「な んで秘密を知ってるの?」「だって聞いてたもの」と、こんなのいくらでも作れる。実はマクドナルドは老人が多い、というそういうことはこの話には関係な い。こんな話をインターネットのジョークサイトからコピーしただけで随筆とは……恥ずかしくないのだろうか。
ある作家が随筆で面白話を書いた。話が終らないうちに読者がオチを知っていた。ど うして知っているの? だってインターネットにあったもの。
って。
▼深更に読んだ『民愛』江藤淳の項で感じたこと幾つか。江藤の米国プリンストン大学留学時に「明治」の発 見、これで連想するは台湾前総督李登輝君のエール大学留学、李君の日本主義は支那人社会にて罵詈苦言されるがあれは日本主義なのでなく明治主義、日本にな りたかったのでなく江藤の言う「士族出の、あるいは新しい知的士族たらんとする「書生」たちがウェブスターの辞書を前にして、いわばlearning in the Nation's Serviceを想っていたあの時代」への愛着であり、これは近代中国建国の父である孫中山(孫文)も魯迅も日本に在ったのと同じこと。支那人が李登輝の日本主義を非難できても孫中山のそれを非難できぬのだ から李登輝のそれを日本主義と非難することは誤り。あれはすべて士族的な近代主義なのだろう。ところで小熊氏は江藤淳を「敗戦の痛手を忘れるために戦後社 会の現実を拒否し、「国家」という「白日夢」を築きあげるなかで、自己のアイデンティティを希求していった」とまとめているが、それに倣えば江藤と湘南中 学で同級生の石原は単に「戦後社会の良くも悪しくもその現実を肯定すると自分がいぢめられてしまふから無理矢理に威張ってみせている弱虫」といったところ か。

二月十一日(火)曇。建国記念日。その式典にて首相小泉三世「悲観論から新しい挑戦は生まれない」と 宣ひたり。空虚な曖昧模糊とした改革だの唱えることが挑戦であるなら悲観論で現実を重視して、意味のない挑戦など口にせぬほうがマシと思わぬか。広州など 広東省各地で謎の肺炎流行り死亡者少なからず。広州の病院では職員ら全員マスクして、香港も余波にてこの肺炎には白酢採ることが予防と酢の売上げ倍増。某 国の在香港総領事館からはこの肺炎の流行に対して「広州にお出かけの際はご注意ください」という案内が出たとか……。いったいどうやって病原さへ不明の肺 炎を予防するのか。末世的。ルービンシュタインの弾くショパンの即興曲聴く。精神安定のためすごく酒が飲みたい。手の届くところにマッカラン12年、バラ ンタイン21年、ニッカの鶴などなどのボトルが並ぶ。だけど一番飲みたいのは冷凍庫に眠っているスミノフ。でもここまで断酒しているのだから16日の香港 マラソンまでは続けようと思う。ショパンの即興曲4番幻想、なぜこれ聴くと中村紘子が頭を過る、中村紘子といふと旦那の庄司薫が過る……庄司薫なんて気を つけて、断酒の禁断症状か、困ったものだ。朝日の広告で『文藝春秋』三月号は五段抜き二頁見開きで「これでもか」といふ威勢、かつてはその文春と片頁ずつ 対峙していた『中央公論』は別頁に半幅にてひっそりと生息してはいるものの読売資本となった『中央公論』はもはや「民族主義的反日論は有害無益だ」なる対 中批判だの佐伯啓思「靖国に代替するものはあるのか」だと曾ての「文藝春秋より多少リベラル」の装いも何処へ葬り去られたのか『諸君』かと見間違えるほど の論調、『中央公論』もはや存在するにも値せず、南無阿弥。小熊『民主と愛国』まだ読み終わらず江藤淳の章読む。愛妻を亡くし「心身の不自由が進み、病苦 が堪え難し。去る六月十日、脳梗塞の発作に遭いし以来の江藤淳は、形骸に過ぎず、自ら処決して形骸を断ずる所以なり。乞う、諸君よ、これを諒とせられよ」 と遺し平成11年7月21日になくなった江藤淳君はなぜか 余の印象高橋義孝君の世代ほど老成しているのだが享年65歳にて石原だの大江君と同じ世代。保守の思想家として評価されているが実はやはり堀辰雄的な世界 の住人だったことを小熊氏指摘。
▼米国によるイラン攻撃に人々が戦々恐々とする戯れの最中、数日前にはイスラムな尖沙咀にて何者かが雑居ビ ル屋上よりビンラディン師の肖像に「新しいテロの時代」と書かれたビラを撒く。誰か知らぬがその行為よりもビルよりたった一枚降ってくるビラをテレビカメ ラが的確に捉えていることこそ奇っ怪と思えぬか。香港政府は米国のイラク攻撃や香港内でのそういった出来事をとりあげ香港のテロ遭遇のリスクも低い段階か ら高まりつつあり市民に警戒を呼びかける。茶番。明らかに反テロが利用されている。日本政府の海外渡航安全情報とてタリバーンによる声明なるものをBBC 電として伝 えているが、もはや共同幻想だ、これぢゃ。「本情報が発出されていないからといって安全が保証されるというものではありません」とあるが、事実は 寧ろ「本情報が発出されているからといって安全が保証されないというものではありません」だろう。ところでこの海外渡航安全情報ののURL、pubanzenって安全情報をpublishしていること の略だろうがどう見ても「パブ安全」って酔っぱらって理性なき酒場か……早大の歌右衛門の桜でutazakuraに近いフザけたURL名。すべてがオチャ ラケ。
▼北朝鮮に拉致された人々の「救う会」、拉致されたと思われる人々の名前追加公開などますます積極的な活 動。家族を拉致された者が積極的にそれを救う気持ち高まるは当然だろう。本来、政府がするべきといふ気もするが政府は寧ろ救う会の支援団体の如し。ふと思 いだすは、こういった被害者の家族による運動は中国残留孤児があり。実際、1983年に独り中国訪れたおり黒竜江省の山奥の村にて残留孤児の一人と知りあ い、この方が半年ほどして来日、永住は叶わなかったが千葉の親戚を訪れ、そこで余も再会し残留孤児の殊に日本側の家族の様々な現実の問題垣間見て考えさせ られもする。が、明らかに当時の中国残留孤児のことに比べ今回の北朝鮮拉致は違う。中国残留孤児の場合、入植者家族の離散は元を辿れば日本の大陸侵略とい ふ背景あり。被害者であるが加害者といふこと。負い目。それに対して今回は被害者以外の何者もでなし。まさか拉致者の問題を金日成体制、南北朝鮮分断、米 ソ対立……とまで辿りあげはしまい。そこで負い目のないこの問題、「誰も反対しない、できない」運動を積極的に利用する「巣くう会」の如き輩が徘徊する要 素がそこになかろうか。昔からこうした出来事が政治的に利用されることは珍しくなし。皇太子ご成婚もオリムピックもフォークランド紛争も。ただし少なくと も天皇制反対であるとかミュンヘンオリンピック占拠とか反サッチャー主義とかアンチを唱える余地あり。それが9-11からテロといふ全人類にとっての敵が 生まれ、最近までこれにアンチ唱える者はすべてテロリストであり敵であるかのように。そういった意味で北朝鮮「拉致」はその究極。

二月十日(月)晴。先週の後半より四国の某所にお住まいの某氏の日記、サイトで偶然に知って貪るよう に読む。かなり個人的なサイトであり、興味がある人はgoogleの検索とかで必然的にたどり着くべき場所、事実、2000年11月、偶然にもこの富柏村 サヒトと同じ頃に開設され宣伝されることもなく已に45,000ヒットするほど、いかに知るべく人の関心を集めているかわかるといふもの。氏の日常生 活……美術に関するお仕事の日常、ジム、音楽からテレヴィに関するかなり深い考察まで。博学とその深慮にただただ感嘆するばかり。失礼承知でメール差し上 げ丁寧に返事いただき深謝。月曜日の朝、ぼんやりとバスの車窓から眺めていると、街中の裏通りの何処にでもある日式料理屋にデカデカと「創作和風料理」と いう看板あり微笑ましい。正統な日本料理でないがために日式と半ば揶揄されるが創作和風と開き直るのは妙案。ネグリ=ハート『帝国』以文社、『現代思想』2002年2月号「特集:『帝国』を読む」、新潮日本文学アルバム41江戸川乱歩、ちくま文庫 江戸川乱歩随筆選、荷風先生『あめりか物語』『ふらんす物語』新潮文庫、入手。荷風先生の米佛物語いずれも中学生の時分だかに呼んだ記憶あるが内容すら朧 げにて再読と。江戸川乱歩、大正八年に大阪より上京してまだ職業作家となる前だが古本屋営みつつ何をしていたかといへば浅草オペラの田谷力三少年の後援会 を主宰……さすが「やってくれるなぁ」という感じ。乱歩作品、猟奇物だの際どい風俗物だのいろいろあるがエロの究極は少年探偵団シリーズ。あれが曾ては健 やかに成長する子供のための読み物として持て囃されていたのだから、今のファッショの時代と違って大らかなもの。そういえば昨日綴った白先勇の『臺北人』 も92年だかに香港教育署指定の必読図書になっていたっけ。作者の意図だの背景を理解できぬ大きな勘違い。まぁそうして問題作が流布してしまふことは結果 的にいいことなのだが。早晩にジムのtreadmillで10km走る。ランナーT君の助言で3度の傾斜をつけ或る本に倣って1磅の斤量を左右の手につけ てさすがに疲労困憊。ジムの窓から見下ろすのは昨日と同じHMWなのだが、その隣にマクドナルド。ふだん食したいなどとは全く思わないこの餌屋も昼に軽く 食しただけの早晩は空腹、やたらとマクドでいいから食したい、いや正直なところマクドが食したいと思いつつ走る。走りながら観察しているとマクドに入る客 の少なからずが老人。それもどう見ても身よりなき長老らが晩餐をマクドで済ませている。老人こそマクドなど嫌うような気がするが考えてみればその世代、働 き盛りの頃にマクド香港に進出、マクドで老いてきた世代と言えなくもなし。それと子連れ。時間からして、晩餐を此処で済ませてしまうのだから、こんな子供 らが大人になって、といふかもうそういう世代が事実、立派な大人になっているのだが、味覚が狂しくなるのは当然か。大きな布団抱えた見るからに汚れたホー ムレスのおじさんまでマクドから出てくる。価格低下著しいファーストフード、この北京道のこの界隈にいつも坐りこんでいるこのオジサンにとっても貴重な食 源。拒否しないで入店許可する店も大したものだし、店の卓では他の客は遠巻きになるのだろうか。いずれにせよマクドには近寄りもせぬから他人事か。自宅に てチゲ鍋。運動して空腹で鍋喰うと相撲とりの如し。だが計量すると体重は一月の最悪時より5kg減っている。常時3kgくらいは酒を身体に貯えていた、と いう感じか。さすがに烈酒をショットグラスに一杯キューッとやりたいが我慢。チゲ鍋しつつニュース見ていたら「日本の」「ペットランドリー」なるキチガイ 文化が紹介される。全自動化された機械に犬を入れると自動的に洗って乾かしてくれるそうな。逃げ惑う犬を笑いながら楽しそうに機械に押し込もうとする飼い 主のキチガイな表情。それが例えば犬を美容室に連れていかざるを得ぬようなマンションとかの環境で飼っている都会ならまだしも、このペットランドリーの場 所はすごい田舎。田吾作面のオジチャンが店番し軽トラに犬載せてきた田舎顔のオバチャンが客。こんな犬、庭先で洗って日向ぼっこさせればいい環境でペット ランドリーしちゃう。怖い。ペットランドリーを愉しむ=つまりそんなこと以外何の楽しみもない社会?。自分たちのそれが海外で動物虐待する奇っ怪な民族社 会として報道されていることも知らずに。だが、神戸新聞 によると、この機械、実はスペイン製。でもそういうことは香港のマスコミは悪意で報道せぬのではなく知りもせず、ただ配給されたニュースを流す。 そうしてキチガイ民族神話が生まれてゆく。あー怖い、怖い。
▼『信報』林行止専欄より。米国農業部USDA昨年末の発表データによると米国にて飼育される家畜「製造」 した糞便の量、実に6,100万屯にて、これ米国人の同じ「産品」つまり人糞の総量の130倍。ノースカロライナ州の約700万匹の豚の糞便、この州の 650万人の「それ」の4倍の量。6億羽の「ブロイラー製造する工場」の場合、排出するのは40万屯の鶏糞。1995年にこの州の2500万ガロンの家畜 の糞便がNew Riverなる河に流されたことで多くの川魚が死に36万hectareの湿地が汚染された、と。糞便、土地に撒けばいい肥しとなり土地を沃すが土との化 学変化がそうさせるのであり水に混じった糞便は人や魚に当然のことながら有害。曾ては家畜の飼育は肥料製造といういい副業を運んできていたが自然に放牧で きる程度の家畜なら自然のなかで存続し得るが、結局のところ問題は人間の家畜飼育が過度になり糞尿すら土地で還元できぬばかりか害毒となるほどの生産性を 誇っている、ということ。ことに米国に象徴される大規模な家畜生産の問題性。かつて栄養乏しくその補給を肉食に頼っていた人類ならまだしもむやみやたらな 肉食文化がこうして環境破壊すら生んでいる事実。その余剰の如き肉を要するマクドナルドに象徴されるファーストフードこそ世界を崩壊させようとするテロリ スト集団の如し。
▼昨晩、まだ読み終らぬ小熊『民主と愛国』、吉本隆明についての章読む。吉本が60年代から70年代に言っ ていたことは小熊先生の指摘通り当時、共同幻想論をマジに理解できていた学生なんてほとんどいなかったわあえで、それじゃそれが虚構であったのか、といふ とさにあらず、党派、政治権力といった社会が実は大衆によって大きなウネリがあることを見出し、その後の消費社会の到来を吉本が予知していたこと、この時 の全学連の学生たちこそが実は「実」社会に出て経済成長のいちばん美味しいところを得たわけで、まさにセゾングループが提示した「おいしい生活」、吉本の 私生活称賛をまさに地でいったことになる。高倉健のヤクザ映画と吉本隆明の革命思想……高倉健はヤクザどころかその究極にあって、ヨシモトは革命どころか 家族を大切にする“思想”とて吉本ぢたいがばなな嬢の子育て見ればわかること、90年代初頭に吉本センセイがコムデギャルソン着てアンアンに出たことはか なり話題になったが小熊の指摘する点を踏まえれば実に吉本的。何も不思議ではない。それんしてもあの当時あれほど学生にとって神格化されていた吉本センセ イ、片仮名書きでヨシモト、老害だの、熱海で水泳して溺れ一命をとりとめれば「あの時点でヨシモトはすでに死んでいた」とまで罵詈される今日この頃。結 局、反秩序なるものは小熊氏の指摘通りたんに私生活への没頭に転化してしまひ戦後民主主義はたんに「私」の優先となってしまう、それがこの時代。
▼香港競馬の観戦に来られて知りあった放送作家のM氏、ホームページ開設。そ れにしても仕事内容見ればM氏の多才多忙、そのなかで競馬楽しみ馬主でもある事実。それでいて香港で競馬される姿を見ればのんびりと……その時間といふか 状況の使い勝手の素晴らしさに敬服するばかり。

二月九日(日)濃霧。朝から気温上がれば霧いちだんとひどくなり窓からの眺めは白濁一色。昨日と同じ く午後になり晴れる。昼まえからジムでウェイト1時間、拳闘もどき1時間。尖沙咀の北京道見下ろしHMWに出入りする客眺めつつランニング1時間。スタァ フェリーで中環に渡り久しぶりにHollywood RdのCollectablesでLPレコオド漁ろうと思ったら雑居ビルほとんど店舗なく取壊しか。XTC on Iceにて生姜人参とマンゴーのジェラート食す。三聯書店の本店にて本漁るが所望の書籍見つからず。賈平凹の小説いくつか見るがやはり『廃都』を読んでし まふとどうも他読もうという気概も出ず。白先勇の『臺北人』『寂寞的十七歳』の二冊購ふ。『臺北人』は10年以上前に当時の朝日新聞香港支局長のT氏台北 に取材から戻った折に台湾で評判になっていると紹介されたが読む機会ないまま今日に至る。この二冊は勿論、なんといっても20世紀の小説として重要な『薛 子』すらまだ日本語になっていない。余の知るところ、この白先勇の作品では、90年に徳間文庫より中村ふじゑ訳でこの『寂しき十七歳』を含む短編集『最後 の貴族』が出版されているが絶版、91年に宝島社より『バナナボート―台湾文学への招待』という小説集に『永遠の輝き』なる短編一つが訳出されこれも絶版(この90年初までの宝島社は面白かった)、現在は国書刊行会の「新しい台湾の文学2」とする『台北ストーリー』に この『臺北人』に納められた一扁である『金大班的最後一夜』が『最後の夜』という邦題で訳されているのみ(山口守訳)。 この国書刊行会のこの「新しい台湾の文学」シリーズで『薛子』(『罪の子』という邦題か)で刊行される予 告もあったが現在未だ上梓されておらず残念。夕方家に戻る途中『臺北人』の緒作『永遠的尹雪艶』読む。支那文学にとって魯迅以来の短編の書き手であること は間違いない。帰宅途中に材料購い拙宅の玄関扉の隙間止め。Z嬢、三月にピアノ弾くお座敷かかりリスト編曲でグールド先生弾くベートーベンの『運命』ピア ノ版、これがいいね、といふことになったが(結局、このリスト編曲のピアノスコアは香港で見つからず「リストぢゃない」 スコアをとにかく入手)さういへば『運命』の原曲、CDもなきことに気づきいくつか聞きたい部分あり、とCD購いに銅鑼湾まで出向く、とい ふのでそれぢゃ何となく四川料理食したく蜀家菜にでも行きませふということになったが北角の七姉妹道にてミニバス乗換えようとして「さういへばあそこに」 といぜんから気になっていた小さな料理屋あり東北風味と誘う老燕京といふ店。ちょっと此処を試してみようといふことになり辛泡菜、白菜水餃、坦々麺と東北 冷麺。餃子は格別かなり美味く、坦々麺は麺といふより東北の手打ちうどん、ちょっと甘めだが辛みもじんわりと効いて好し。冷麺は甘すぎて落第。いずれにせ よ北角の裏道でひっそりと営むとおもえばじゅうぶん食すに値する店。老燕京とは何処かで聞いた名と思えば北京の老舗の料理屋にて、この北角の小厨の主厨は 曾て北京のその老燕京で働いた経験あり香港に参り故郷の東北の味で店開き、とか。銅鑼湾のHMW。ベートーベンの運命なら朝比奈隆先生の振る大阪フィルか などと軽口叩いていたらマジに朝比奈先生のベ交響曲がずらりと並んでいて、香港でいったい誰が購ふのか、と疑る。で、結局、ゆっくりの演奏で確かめ聴きし たいといふZ嬢の所望でFurtwanglerの1954年のウィーンフィルで運命と未完成の一枚。それに全く知らなかったがMaria Joao Piresなるピアノ奏者で同じくベートーベンのピアノソナタ13、14、30番。帰宅して聴いたがこのPiresなる奏者、好きになった。それと Rubinstein先生の1957年マンハッタンセンターでの録音でショパンのマズルカ、即興曲1〜4番の三枚CD購ふ。帰宅して Furtwanglerの運命と未完成聴きながら柚子湯につかり白先勇の『臺北人』数編読む。『台北ストーリー』に掲載されている『金大班の最後の夜』山 口守訳を少し見たが「台北市の繁華街、西門町一体にネオンが灯る頃」と物語が始まるのだからナイトクラブの支配人の台詞「Nimen 一餐飯下来、天都快亮la」が「食事に出たっきりでどうしたんだ。もう夜が明けるじゃないか」とされているが、この訳じゃ読者「宵の口に食事に出かけ明け 方にクラブに戻った」と誤解招く。「食事に出たっきりどうしたんだ。全く……夜が明けちまうよ」と実はまだまだ宵の口、ただ支配人が気を揉んでいる、とい うニュアンス。ちょっとしたことだが気になる不適切な訳。白先勇、それぢゃどういう作家かといふと、橋本治的に強引に表現してしまえば「戦争はさんだ世代 で国家というものを勝手に、そう全く勝手になんだけど、背負いこんじゃって、そういう意味では三島由紀夫と同じなのだけど、決定的にどこが違うか、といえ ば三島は負い目があってマジに背負うふうを演じた、のに対して、白先勇の場合はもう勝手な開き直り。お父さんが国民党の幹部軍人で本当なら三島的に背負い こまなかればならないような境遇だったのに「お父様ごめんなさい、僕にはそんなことできませんっ!」ってレース編み始めちゃったみたいな、でもレース編み が上手かったからそれで評価されてしまったのだけど……」って感じか。
▼ところで前述した90年に徳間文庫で白先勇を訳している……それにしてもこの初訳とて遅すぎる、白先勇が 台湾文学に躍り出たのは60年代なのだ!、この翻訳した中村ふじゑなる方、2000年に梨の木舎より『オビンの伝言―タイヤルの森をゆるがせた台湾・霧社 事件』なる著書を上梓。このオビンなる女性は霧社事件の当時を知る長老で、そのオビン婆と知古のこの中村さんがオビン婆の語る霧社事件やタイヤル族のこと を書いているそうな。貴重な伝承。
▼『週刊読書人』で藤本敏夫の遺作となった『農的幸福論』加藤登紀子編(家 の光協会)の書評といふか追悼を鈴木邦男が書いているのを読み、藤本敏夫が亡くなった時はあまりピンとこなかったがこの鈴木邦男の文章を読 んでいたら涙腺緩む。昨年七月に亡くなった時に「加藤登紀子の夫」と弔報にあったのが悔しいと鈴木は藤本が三派全学連委員長として佐世保だの防衛庁突入を 指揮していた当時もし日本に革命が起きていたら藤本は日本共和国の初代大統領になっていたほどの男だと讚える。加藤登紀子の藤本は「高倉健を目指しなが ら、けっきょく明石家さんま的になってしまうような(笑)とても楽しい人でした」という表現も面白いが高 倉健というのはどうして戦後日本のここまで偶像となったのか、それは高倉健といふ役者自身にとって高倉健という像ぢたいが理想型の幻想にすぎないのだから 当時の世代のみんなが高倉健に憧れても誰も現実に高倉健になれないのは当然なのだが(日本ぢゅうの男がみんな高倉健に なったら「大変なこと」になってしまふよ)、閑話休題この「かつての敵」秦野章(元警視総監)ま でが選挙応援してしまうこのスケールの大きな憂国の士としての藤本氏は鈴木邦男曰く「余りにも先を急ぎすぎ」「愚かな国民には理解されないまま「希望」は 消えた」と。
▼↑これを綴っていた思ったが、鈴木邦男にせよ秦野章にせよ、他には剃刀後藤田であるとか曾ての保守、右翼 といふのは立派で「あった」とつくづく痛感。今の世代でこの保守右翼の流れの汲むのは亀井静香チャンくらいか。自民党の国防キッズ一派であるとか石原、小 林よしのりなど、理詰めで話などできない愚連隊の如し。
▼Size調教師、2001年9月15日の香港での初戦から523戦目にて100勝達成。これまでのビアン コン調教師の10年以上前の614勝を大きく上回る偉業達成。ただただ敬服。

二月八日(土)曇のち晴。米国総統ブッシュ君イラクに向けて「ゲームは終わった」と警告発す。ひとり でゲームしてるのはアンタや。勘違いもここまでくると狂言どころか狂気そのもの。このブッシュ発言に卒倒したわけでないが朝寝貪る。昼前に少し競馬予想。 香港島でいちばん「熱い場外」であろう北角馬寶道場外にて馬券買い同じ馬寶道の市場にある豆腐屋徳興隆にて猪肉飽と豆腐花食す。曾ては湾仔道街市、銅鑼湾 のJardine Bazaarにもかういつた自家製の良質の豆腐売る店あったが「再開発」にて1元、2元の薄利な商ひでは続けられもせず。この徳興隆もかなり老朽化した建 物の階下にありいつまで残るか。豆腐屋にて豆腐花だの揚げだの売るのは解るが何故に鍋貼(餃子)と肉饅あ るのか、それも美味い美味い。湾仔の三聯書店にて何冊か本さがすが見つからず。尖沙咀にて来週の香港マラソンのゼッケン、記念品など受領。ランニングクラ ブのH氏らに遭い三月の香港トレイル50kmの記念品配布も始まっていること教えられるが余は全く気づいておらず引換券もないが同じ尖沙咀にて交換所に赴 き事情話し記念品受領。午後になり晴れれば汗かくほど温かくTシャツ一枚でも肌寒くなし。ふとこのまま暑くなってはまた徳發に食すことは茹だるようで厳し くなると思い今日ならまだ大丈夫かと徳發に寄り牛南麺食す。九龍公園の室内プールで百年ぶりに水泳。湾仔のジム。帰宅途中に養命酒購ふ。一度に服す量成人 で20mlとあり付属の盃で見たら「え、こんな少し」といふ量。ここ二晩ほど服すのはバカラのショットグラス、どう見ても倍の量飲んでいたと発覚(汗)。夕餉に鍋貼(餃子)あり。その肉ぶりといい何処かで見た鍋 貼……と思ったら昼の徳興隆のに他ならず、Z嬢、午後に同じ徳興隆に参りたり。断酒六晩目。体重、やはり減っている。二週間ほど前に比べ3kg減。
▼朝日(衛星版第三社会面「メディア」欄)に香港・三木特 派員電で香港の「国家保安立法」について「言論締め付けに不安」とした特集記事あり。一国二制度正念場という指摘は正しいが「社会主義国家で資本主義社会 を存続させるという実験の将来にかかわる論議が高まっている」というのは正確なものかどうか。社会主義体制など中国には已になく「一党独裁体制での自由経 済社会」が存在する。で基本法23条のこの国家保安立法という問題はまさに「一党独裁管理国家で自由主義社会を存続させる」ことの問題。
▼同じく朝日にザ・フーク・クレセダーズの68年解散公演の録音見つかり三月にCDで発売、と。「フォーク ルは65年に加藤和彦、北山修らで結成した」と記事にあり、記事に添えられた解散コンサートの舞台写真見つつ「なんで三人組なのに加藤と北山「ら」やね ん、はしだのりひこもおるやんけぇ」と難癖つけたくなるのだが正しくは確かに65年の結成は加藤と北山に平沼義男、芦田雅喜の4人であって、この記述は間 違っていない。が、やはりフォークルといふのは加藤と北山にはしだのりひこの三人であって、写真もその解散までの三人組なのだから、うそでも記事で「はし だ」の名前が一度くらいあってもいいものでなかろうか。「はしだ」の名がないのは偶然か。気になるのは築地H君とも数カ月前話題となったが昨年のフォーク ル期間限定再結成でも加藤と北山に「はしだ」でなく坂崎幸之助を入れて再結成したこと。フォークルにとって「はしだのりひこ」は鬼っ子か。はしだ先生、確 かに鹿砦社『スキャンダル大戦争1』にて昨年の『イムジン河』再売にあたり秘話語ったりと、スマートに音楽業界に君臨する加藤和彦、知的な独特の世界に生 きる北山修に比べトリックスター的な存在?。写真出て名前なしといえば昨夏のサッカーワールド杯での参加選手ら招いた歌舞伎公演にて勘九郎と橋之助が二人 で踊る身替座禅の写真に「中村勘九郎さん(左)らが熱演したW杯歌舞伎」と書いた朝日を彷彿するが、この「はしだ」不在は再結成といいこの記事といい釈然 とせず。

二月七日(金)晴。先週土曜日こともあらうに正月元旦財布落としようやく昨日暫定停止していた銀行 カード復しクレジットカード昨晩書留にて届き生命維持装置つながった気分。現金は手許にあってもカードないと生きた心地せぬとは我ながら憐れ。さっそくい くつか芝居と映画の前売り買い美津濃のランニングシューズ購ふ。現金あってもカード使うことが20年すっかり定着している。晩に中文大学に交換留学中のS 嬢、H嬢のお二人に香港の就職事情のことなど聞きたいと請われ、余の与太話よりいったい何の役にたつのかわからぬまま銅鑼湾の百楽潮州酒樓。潮州料理の老 舗中の老舗。味は当然しっかりとして客は満席、客が立てば次の客入りと商売繁盛、慇懃に動きまわる黒服、給仕にもかなり好感もて老舗といっても高慢ちきに ならず敬服至極。伝統の、よき香港らしさ。潮州料理こそ酒の肴には妙、どうしたって酒飲みたくなるかと思ったが、不思議と飲まねば飲まずでイケるもの、幸 い、潮州料理屋の作法で最初に美味い鉄観音茶服し、それで治まったのかも。いずれにせよ自宅ならまだしも外食にて酒飲まずとは我ながら驚く。酒抜いて五晩 目、運動もせずそれだけで痩せたとまではいはぬが少なくともヅボンの嫌なきつさないのだから恒常的な身体の浮腫み解消されているかも。体脂肪率2%下ル。 バスクリン「ひのきの香り」で入浴。34回分と銘打っているのが不思議。なぜ34回とこだわるのか。一回の使用料でもだいぶ違うわけで約30回でも40回 でもいいような気がするが34回と書かれてしまふと厳密に34回使えるかどうか数えてしまたり気になって仕方なくなる人とか現われるはず。それじゃ寛いで 入浴などできず……なんてかういふこと書くのは天野祐吉だね、これじゃ。月刊『東京人』少し読む。松葉一清氏の「東京発言」毎月考えさせられる言葉続く が、今月松葉氏が引用したのが慶応大教授・金子勝氏の「デベロッパーに対して都心再開発に関して大幅な 権限が付与され、つぎつぎと都心に超高層ビルが立ち始めた」のは「麻雀にたとえるとハコテン寸言に役満を狙ってマンガンを振り込むようなもの」という言葉(東京新聞1月17日夕刊「月光仮面の経済学」)。松葉氏「大再開発にはひとを元気づける力がある。汐留でみんなが 高層ビルの姿を確かめようとして上を向いて歩くだけでも、下ばかり向くよりはましだ」と悲観からアイロニーへと向かった物言い。だが「それらがデフレスパ イラルや不良債権という軟弱な地盤のうえに立つ文字通りの砂上の楼閣」であることは松葉氏の言葉待つまでもなく誰もが実は知っている事実。いつか東京湾の この埋立地が液状化するのか。あまり好きではないが堺屋太一氏の言葉は「どの工程をどの国で行うかはグローバル化した企業の選択」であり「世界各国にとっ て大切なことは企業とその基盤となる人とに「選ばれる地」となること」と。コスト高でもそれでも選ばれるような創造性と質、それだけが日本の選択事由のは ず、だがS嬢、H嬢とも今晩話題になったが航空会社とて日本の航空会社を見ていると客は依然として日本人を外に送りだし迎えるばかりで外国からの客を運ん でくる印象すら薄いのが事実。香港のキャセイであるとかシンガポール航空であるとか、いかに客を我が地に運んでくるか、が商売哲学。日本はもう深慮してい る暇もなし。

二月六日(木)曇。朝刊見ると中島らも先生「大麻、禁止キノコ所持」と朝日。禁止キノコって何 だ?……キノコは菌糸だろーが、あるのは。禁止といふのは日本政府が法令で禁止しただけであって、キノコの名称のように使うな、こういう使い方をするから キノコ蔑視、偏見が生まれる。読売は「幻覚キノコ、大麻」と、まだこちらのほうが「え、食べると幻覚があるのかぁ」とまだ夢みがちでマシな表現。月曜日の 昼に美味い焼酎と泡盛飲んで以来、その夜より一滴も酒を口にしておらず。16日に香港マラソンありハーフで4度目の出場となるが今季鍛練全く足りず而も途 中棄権二度続き、鍛練できぬならせめて体調維持と多少の減量くらいして精進の上臨むべきか、と覚悟した次第。すでに四晩。16歳くらいで毎晩酒を飲むよう になり今までいちばん酒長く断ったのですら昨春とその二年前の二晩の入院であったはず。つまり僅か四晩ながら断酒最長不倒距離にすでに至る。手に震えでも あろうかと疑ったが実に快適。月本さん、聞いてますか?(笑)、予想以上に断酒効果はありますよ。夕方に 珈琲など飲むと刺激快適。夜、書を読めば眠くもならずよく読めて(当たり前だ)、快眠のうえ目覚めもよ し。気のせいと笑われようが、事実、四日で腹まわりがわずかながら痩せて多少きつかったズボンはける。深更『民主と愛国』読む。
▼陸羽茶室にて11月末に商人L氏銃殺し犯人その日のうちに大陸へと逃げもはや10数億の民より見つけ出す は不可能かと思いきや湖南省にて逮捕される。犯人の親から親戚までカメラに映像とらえられるだけでも驚きだが、その画面に向って悲しみだの怒りだの「きち んと」顕にする、マスコミの暴力に遭う被害者のはずが出演者と化しているこの「一般人」こそ驚きに値す。狙撃した主犯は人民解放軍の旧軍人にて銃器扱いは 軍で学んだとあっては軍とんだイメージ墜落。この香港で発生せし殺害事件、本来は容疑者香港に送還され香港にて裁かれるべきところ中国側それに応じる構え もなく、通常こういふ場合は沖縄での米軍兵による傷害事件のように犯人が軍内部で庇護されるのだが、中国の場合は逆で香港ならせいぜい懲役10数年が終身 刑か下手したら、この場合は元軍人、軍の威信を大きく傷つけた、と極刑の可能性も大。それじゃこれと逆に香港居民の大陸での犯罪となると香港に送還されも せず。この不均衡こそ中国と香港の関係そのもの、か。
▼世田谷のT君より突然、今月末から十日ほど泰西を旅せぬか、とお誘いあり。20年来の畏兄N氏も同行、 と。日本古典のT君初の遊西にてヴェネツィアとヴィーンに滞在、オペラ三昧。ヴェネツィアはサン・マルコ脇大運河畔のホテル・エウローパ・レジーナ、 ヴィーンはオペラ座隣のホテル・ブリストル。かなり行きたいが2月には父母来港の予定もあり惜しくも諦観せざるを得ず。
▼田原総一朗といふ人どうしても生理的に好きになれず。ただ『週刊読書人』の氏の連載にて珍しく「そういう 見方もあるか」と思えた記述あり。首相小泉三世の公約守れぬこと非難され「大したことではない」発言、これをマスコミ袋だたきにするが「わたしにはどうし ても理解できない」そうで、理由は民主党菅君は小泉三世が八月十五日に靖国に参拝すること、ペイオフ解禁に賛成なのか、と田原氏。国際発行を30兆円以下 に抑えるべきだと本気で思っているのか?と。答えはいずれも「否」のはず。「小泉首相の措置に反対ならば責めるべきだが、措置に反対でなくて責めるとはど ういうことなのか。こういうのはいいがかりというのではないのか」と指摘。なるほど、そういう見方もあるか、と私も思う。「小泉首相はそのいいがかりに腹 を立てたのだろう」「それをメディアがこぞって(略)小泉首相のいいかげんさが浮き彫りになったと評する」ことはおかしい、と。挑発だったのかもしれない し、それに答えた小泉三世も大人げないが、「実はほとんどのメディアが首相の“変節”に賛成しているはず」と。うーん、たまにはなかなか面白いこと言うで はないか、田原君は、と思った。が、よくよく考えてみれば、どうであれ守れもせぬことを公約とし、その公約も我々が小泉三世が守れなくて安堵するほど内容 であったわけで、つまりいずれにせよ小泉公約は一理も一利もなし、小泉先生を評価するも弁護するも値せぬこと。変節に賛成している、などと言うにもおこが まし。そして結果的に田原氏やっぱり生理的にダメだ、と思ってしまふ。
▼広州の常宿 White Swan Hotel が開業20周年、と。今でこそ珍しくもなき五星酒店なれど開業当時は全国天気予報の絵面にて「広州」はこの酒店の白亜の写真が出たほど全国に名を馳せた中 国開放経済象徴するが如き建物。あれから20年。このホテルの開業から数ヶ月後に初めて中国訪れた折、余の身なりの見窄らしさにホテルへの入館すら断わら れたことも懐かしき。

二月五日(水)晴。昨晩深更に、十二月に月本さんに頂いた歌舞伎座の筋書『椿説弓張月』読む。ふつう 芝居は粗筋だけ読んでもちっとも面白くないのだが、そもそも粗筋は芝居を見る前提で観劇を楽にするための粗筋でしかないのだから当然なのだが、それでも三 島先生のこの弓張月、これを含めて僅か三度しか上演されておらぬのだからこうして見逃していることは口惜しく、せめて筋書読むだけでも気を紛らわせるも の。ありがたい。正月の居間飾った桃の枝、二日ほど前にすっかり満開となり今日は花びらも萎み始めるといくつか新芽が出る。手折ってしまった枝花にては新 芽も枯れ新緑になれぬ。正月初三の競馬あり水曜日ながら競馬もなし。下弦の月。気管支炎治まるがまだ運動するほどの気力もなく晩早々と帰宅し風呂につかり 荷風先生日記読む。荷風先生昭和十一年九月六日に綴るは玉ノ井の私娼家訪れ「此夜余は階下の 茶の間に坐り長火鉢によりかゝりて煙草くゆらし、女は店口の小窓に坐りたるまゝ中仕切の糸暖簾を隔てゝ話する中、女は忽ち通りがゝりの客を呼留め、二階に 案内したり。姑として女は降り来り、「外出」だから、あなた用がなかれば一時間留守番して下さいと言ひながら、着物ぬぎ捨て箪笥の抽斗しより何やらまがひ 物の明石の単衣取出して着換へ始める故、一体どこへ行くのだと問へば、何処だか分からないけれど多分向嶋の待合か円宿だらう。一時間外出は十五円だよ。お 客程気の知れないものはない。あなたなら十円にまけるから今度つれて行つてよと言ふさへ呼吸急しく、半帯しめかけながら二階に上りて、客と共に降来るをそ つと窺い見るに……」と荷風先生、この私娼客を出かけるに「一時間といへど事によれば二時間過るかも知れぬ臨時の留守番。さすがのわれも少しく途法に暮れ柱時計打眺むれば、まだ 九時打つたばかりなるに稍安心して腰を据え、退屈まぎれに箪笥戸棚などの中を調べて見たり。女は十時打つと間もなく思の外に早く帰り来りぬ。行つた先の様 子を問ふに、向嶋の待合へつれて行かれしが初めより手筈がしてあつた様子にて、「ノゾキ」の相手に使はれしものらしく、ひよつとすると写真にうつされたか も知れない。通りがゝりの初会で奇麗に十五円出すとはあんまり気前がよすぎると思ひましたと語りながら、女は帯の間より紙幣を取出し、電燈の光に透して真 偽をたしかめし後、猫板の上に造りつけし銭箱の中に入れたり。早や十一時近くなりたれば又来るよとてわれは外に出でぬ、留守中にかきしこの家の間取り左の 如し」とこの娼家の間取りの図。娼家訪れかうして留守番するやうな荷風先生の如きさういふ粋 人になりたしと思ふ。然れどこの日付の上に「・」印あり。つまり飄々とせし己の姿綴りつつしつかりこの女と交合済ませたる印なり。先生の真骨頂此処にあ り。昨晩、留園素斎閣に赴き晩遅く珍しく酒飲まねばそれはそれで心地よく、ここ数カ月の怠惰もあり身体もすっかり鈍りふと禁酒思い立ち今晩も飲まず。海苔 のスープ、大根餅、アスパラガスと自宅にても素食となる。晩に日本のテレビ放送開始半世紀とかでNHKで毎晩再放送されている『シルクロード』観る。あの 番組が放映されてから四半世紀近く。これをところどころ観ながら小熊英二『民愛』読む。戦後の民主であるとか愛国という言葉の変遷も、トルファンの更に西 のかつての要塞都市の残骸に比べるとかなり小さなものに思えてならず。せめてもの滋養強壮に寝臥に養命酒一口服す。
▼宇宙に夢を托す象徴かも知れぬが宇宙開発はそういった人類の純朴な気持ちとは裏腹に国家威信と覇権、アポ ロの月面着陸が冷戦での米ソ対立のひとつの結果であったように、今回のコロンビア号の事故もブッシュは死亡したイスラエル空軍大佐が81年のイスラエルに よるイラク原子炉攻撃に参加したF16パイロットであるからこの大佐の遺児を前にブッシュ「お父さんが始めた仕事は私が完了させる」と語っている朝日。 そこまで言うのなら要らぬ首脳自らイラク攻撃の先陣きってイラクの軍事施設に特攻隊となって花と散れ。結局、「史上最悪のインチキ選挙」で「当選」した ブッシュは9-11で蘇生し今回もイラク攻撃がイマイチ盛り上がらない時期にコロンビア号爆破という国民的=世界的落胆生じてそれをこうしてイラク攻撃に まで結びつける悪意。世界一自由であるはずの国がじつは「電通も真っ青の」演出のなかで不自由な思考に陥っている現実。
▼中島らも先生、大麻たばこ5本(約2g)、乾燥大麻約 4g、冷凍庫の中に乾燥させたマジックマッシュルームの粉末約3gを所持し逮捕される。朝日新聞は「明るい悩み相談室」の先生でもあった中島氏を「人気作 家の」と称す。らも先生が大麻吸ってマッシュルーム食べて気持ちよく人々が読んで心安まる文章を書くことになんの社会的問題があろうか。らも先生の曾ての アルコール中毒のほうがよっぽど他人に危害与える危険性すらあったが逮捕されもせず。それにしても逮捕した近畿厚生局麻薬取締部、中島先生のような廃人通 り越した仙人の如き人の、たかだか大麻、マジックマッシュルーム程度のために存在するのか。情けなし。巨悪はいくらでもあるだろうが。
▼山住正己先生逝去、72歳。阿佐谷の希望の星。国家権力の教育への介入に反対、文部省解体まで唱えた先生 が東京都立大総長であった「そういう時代があった」こと、それも山住先生の都立大総長就任は美濃部“赤色”都政時代ではなく鈴木俊一“反革命”都政の93 年……極右ファシストが都政牛耳る今日にては想像もできぬ歴史的事実。

二月四日(火)晴。夕暮れにZ嬢と湾仔影藝にて『小裁縫』(監督戴思杰、2002年)観る。 Balzac and the Little Chinese Seamstressが英題で日本では『バルザックと中国の小さなお針子』と紹介されている。文化大革命期に長江上流の渓谷のなかの村に下放された歯科医 の息子(陳坤)とバイオリン奏でる少年(劉華)、彼らが村の娘(周迅)と出会い、文革がこの山奥まで思想改革を断行しようとするなか、文学に酔う少年二人 がバルザックだのの西洋小説、当然ながら反革命文学と烙印おされ禁書、を入手してそれを読みながら愛だの浪漫、人生に目覚めてゆく、といふ、そういふ耽美 なお話。いかにも仏蘭西テイスト。少年は成長しパリ在住のバイオリン奏者と中国でも有数の歯科医となり、パリの劉華はテレビで偶然、その自分が下放された 村が長江に建設される三峡ダムによって水没されると知り……この作品、中国では上映許可おりておらず。文革の否定は政府もしたが、文革の最中に泰西のブル ジョワ文学に耽る若者たちの反革命思想は認められぬ、か。この三人の若者の映画では具体的に語られぬが不安定な三角関係はいい。周迅に二人の少年が思いを 寄せるが実際に付合ふのは陳坤で劉華は浮いているのだが、大人になって「二人は別の方法で(彼女を)愛していた」と回憶しているものの劉華の愛は釈然とし ないまま。この劉華演じるバイオリン青年の愛がわかるかどうか、でこの映画の面白さがわかるっていふもの。映画終わって留園飯店の素斎閣にて素食。四季豆 拌素鶏、坦々麺、素鍋貼と何れも美味。
▼昨晩遅くまで姜尚中・森巣博の『ナショナリズムの克服』読む。在日韓国人としてナショナリズム超越した姜 氏、自由人として同じくナショナリズムの範疇などから溢れ出た森巣氏という異色なる二人ゆえにナショナリズムなど痛快に打破できるのだが、これが市井の人 々にあっては、ただ「小泉さんなら何か変えてくれるかもしれない」と淡く期待し中国人の犯罪に「怖いわねー」と感じて石原が頼もしく映るから、そう簡単に ナショナリズムは克服などできない。ところで森巣氏による、バルブ期の日本は「俺のチンポコ、デカいぞ」主義、バブル崩壊後のネオナショナリズムは「俺の チンポコ、小さいが硬いぞ」主義、そして何も誇るものがなくなると表れる「俺のチンポコ、古くて繊細だそ」主義、とこの表現、言い得てて妙。
▼先日、石原サイトの
金正日 そこのけそこのけ 蓮池通る
を秀逸と言ったが、築地H君、金正日にそこのけ、じゃまんまの描写にすぎない、わけで
外務省 そこのけそこのけ 蓮池通る
でないと川柳の批評性はでませんね、と。確かに。蓮池センセイ『諸君』で朝日新聞批判など、いつのまにか保 守派のイデオローグと化して大活躍。安倍二世の後援で自民党から衆院議員に立候補か。H君の知り合いの在日韓国人が「横田さんはかわいそう。なんで周りが 孫に会わせない、などということができるのか」と、これは誰でも思う素朴な気持ち。それが政治的判断に翻弄されている。北への強硬論ばかりブッていないで 安倍二世、横田さんと一緒に北朝鮮に随行するくらいの気概もないか……ない、な。総理候補だもの、危険に身を晒せまひ。
▼先日、薄田泣菫(すすきだきゅういん)の随筆集『茶話』 の完本三巻(冨山房)を紀伊国屋に注文したところ上巻のみ店頭も出版元も在庫もないとのこと。日本近代の 随筆のなかの極致、読めぬのが残念、重版を待つか神田ででも探すしかないか、と諦めていたところ紀伊国屋より「ご注文頂きました『完本茶話(上巻)』についてお品切れにつきキャンセルのご連絡メールをお受けとリの事と存じますがこちらについて各店舗に在 庫をあたっておりましたところ上大岡店、返本につき1冊在庫ありのご回答を頂きましたので……」と丁寧に連絡あり。社内での事を「ご回答を頂きましたの で」といふ敬語表現は間違っているが、たかだか一冊の本にここまでしてくれる事とは有難い。上大岡に在庫があったのでなく偶然に一人の客の返品がこうして ネット書店の別の注文に回せるとは大したもの。薄田泣菫といへば、この名前が断腸亭日剩にあったのでは?と築地H君つぶやいていたが、偶然に大正六年大晦 日の日剩に「家に籠りて薄田泣菫子が小品文集落葉を読む。余この頃曾て愛読せし和洋書巻の批評をものせむとの心あり。依りてまず泣菫子が旧著を取出して一 読せしが思ふところ直に筆にしがたくして休みぬ」とあるのを識る。これに続けて荷風先生「今余の再読して批評せむと思へるものを挙ぐるに」とするは落葉 (泣菫)、照葉狂言(鏡花)、今戸心中(柳浪)、三人妻(紅葉)、一葉全集、柳橋新誌(柳北)、梅暦(春水)、湊の花(同)、 即興詩人(鴎外)、四方のあか(蜀山人)、うづら衣(横井也有)と霜夜鐘十時辻占しもよのかねじふじのつじうら(黙 阿弥)。なかで一葉のみ全集であること興味深し。
▼昨日診療うけた待合室と診断室の絵、ポスター「ヘンな」養和病院であるが私立総合病院でありながら診療費 はHK$160で休日料金もなし、医者いたって懇切丁寧にて、高い拙い某医院のような暴利貪らず。次回の診断を言われるが「次回は気管支機能の聴診だけだ から異常なければ薬も出さないし診察費だけで済むから」と医者、つい「どうせまた高いカネ払うなら自分で大丈夫だと思ったら再診なくてもいいか」と思わせ る某医院とは格段異なる心地。看護婦も吸引で使ったマスクとチューブ、次回使用する場合もあるので自分で保管して、と袋に器具入れて渡される、無駄な使い 捨て、而も病院の場合衛生配慮で必要以上に使い捨て多し、を避ける配慮。この病院のひとつの哲学があらゆるところに浸透している秀逸ぶり。

癸未年正月初三日(月)曇。朝、ヴィクトリアピークにて正月恒例の發財 Fat Choy Runあり。参加。出発しKellett山廻り始めると急に気管支から肺痙攣したようになり呼吸しようとしても肺に空気入らずゼイゼイとひどい呼吸音、そ れに周囲の走者まで気にするほど。8の字コースで山頂のトラム站に戻ったところで棄権。1月12日のハーフに続き棄権。昨日のゴミ拾いの御利益なし。同じ く参加のT君の車で養和病院まで送ってもらい診断受けた結果、気管支炎で吸入措置。いい病院であるが何度行っても待合室に掛かるダリの絵は病人にとって不 安だし、今日の当直のY医師の診察室はジャッキーチェンの直筆ありで映画ポスターばかり。ヘンである。帰宅して昼に寶馬山のA氏宅にてO夫妻、Z嬢と春茗 に招かれる。A夫人のお世辞でなく真に秀逸な肴は余が今まで食した所謂「家庭主婦の料理」では最上、敬服するほどの味つけにて、酒は鹿児島の焼酎・伊佐美(甲斐商店)と琉球泡盛・菊の露、どちらもいたって美味。マカオのエッグタルトに泡盛といふのがこれがまたいい組合 せ。沙田の競馬場にて正月競馬ありA氏宅を辞し馳参。途中、移動の車中、第4レースまで穴狙いのR3の複勝除き3つ勝ち幸先よく第5レース賀年盃に間に合 わぬが上り調子のRaiderをSize厩のCentury Starが迎え撃ち、やはり旧正月も一日も休まず調教に励むSize厩、CSの仕上がりもよくこの一点買いで本日4勝目。昨日のゴミ拾いのご利益出たのか(笑)R6も敢えて本命Kingston Winner(Size厩)外しSuper Brose的中、R7はスプリントシリーズの第1戦にて12月の香港国際スプリントの覇者All Thrills Tooが当然本命、これにそのレースで二着のFireboltと29倍のCape of Good Hope(喜望峰だ)を脚にするが「なんとなくイヤな予感」して連複やめてワイドとしたら Size厩のGrand Delight、1000m初走で一着、辛くもATTとFireboltのワイド取る。だんだんとツキが恐ろしくなり始めたが昼の焼酎と泡盛の酔いさめず R8はSize厩の印度之星が本命なのだが昨季より11戦3冠5亜0李3負(うち今季は2121)の Medic Corps、何故か12倍と冴えず、Size厩外してこれにしたら見事一着……とここまで絶好調。でR9百周年記念Vase (G3)、本命はまたもSize厩でDr More、来ないはずもない、という雰囲気のなか馬主C氏のDashing Winner、C氏にパドック内にも招かれ騎手Legrix君、伍調教師に新年のご挨拶、昨日5.7倍の二番人気が10倍まで下がる、が最近末脚よし、ど うにか7、8番手で最終直線に来れば追上げ期待でき。で、三頭目は同じく知古の馬主W氏のGoggles、第一班にて強豪馬に苦戦、今季未勝とイマイチだ が本日三勝しているWhyte、Gogglesに初騎乗はかなり面白く、DWの複勝、この三頭のQ、QPばかりか普段は買わぬTrio、酔いに任せて正月 のご祝儀でTierceまで勝ったら、これが凄いことにDr More、Dashing Winner、Gogglesと来た……とくにDW、騎手Legrix君のスタートから位置取りに難あり10位で最終コーナーまわってから最後300mで 一気に二着はDW素晴らしい出来。馬主C家族は「ダッシュが遅すぎる」と渋い表情、確かに中間につけていたらDr Moreとのこのクビ差、勝てたはず。惜敗。だが余の馬券は大当たり。HK$10当りの配当はDWの複勝HK$26.5、この三頭でのQ(HK $212)、QP(HK$79、HK$47.5、HK$146.5)、Trio(HK$542)、Tierce(HK$2,454)、馬券全部あたり今季 の赤字取り戻して、まだお釣り。大変なことになっている。これから競馬の前は予想などせず山のゴミ掃除にすべし。ここまで当てて最終レースに儲けをドンと 賭けるのがプロだろうが怖くてできず、かといってここでやめて帰る理性もなく三点買でQとQPだけ買ったらこれも2頭入る。結果、R3除き買った馬券が全 部当る奇蹟。馬場から自宅までタクシーで帰宅するとか、帰路シャンペンでも買って帰るとか、寿司屋に直行とか出来ればいいが、負けてむしゃくしゃしてタク シーに搭りたがる余は大勝ちすれば「こういう日にウカレてはいけない」と地味、帰宅まで勝った余韻長く味わいたく乗合バスに揺られる。昼の酒と肴美味すぎ て晩にあっさりと煮うどん。
▼日本は節分と築地H君より報せあり成田山恒例の豆まき、新横綱朝青龍や「NHK大河ドラマに出演中の市川 新之介さん」らが登場、と。他 ならぬ成田山、成田屋の跡取りを相撲取り、いわんや「同じく大河ドラマ出演中の米倉涼子さん」と同格の扱いとは如何なものか、とH君。御意。確か に朝日新聞のサイトみ ても朝青龍はいても成田屋は紹介されておらず。罰当たり。
▼朝日新聞といへば『アエラ』書評にて大江健三郎君の小説酷評し大江君大人げなく立腹、社長の一声にて、 「鶴の」といったら鶴に失礼、編集長更迭あったが今週号の『アエラ』、表紙写真に大江君、これで手打ちか、唖然。
▼朝日新聞の話題ばかりで恐縮だが朝日新聞の系列の朝日ニュースターなる記者会見速報会社、朝日新聞に掲載される広告が何故 かいつも東京都知事。天敵の肖像使用の意図は何か。
1 何も考えてない
2 じつは日本の政治のキーパーソンと思い社を挙げて(社長が?)応援
3 危険人物の危険発言相次ぐため必見と
おそらく1か。こういう姿勢が森巣博氏の視点から見ると信じられないマスコミの姿勢。
▼昨日だかの朝日に小泉三世靖国参拝の関係記事あり、首相参拝の疑問は中韓に限らず政府高官(名前明かされず)がG8加盟国の大使(やはり匿名)に「個人的心 情からの参拝だ」と釈明したところ、この大使「靖国神社裏の展示館に行ったことがあるか」と問い詰められ「ない」と答えた高官に大使「あそこに行けば、あ の神社の性格がわかる」と首相参拝に不快感示し「米国にもそうした雰囲気はあるようだ」と述べた、と。政府高官は外務大臣、大使は英国、が余の予想(当っても配当もないが)。ところで「靖国神社裏の展示館」とは真に失敬なる誤認、国辱。だいたい英霊祀る神社の本 殿の「裏」に展示館など作ろうはずなし。伝統的に神社にとって本殿の背後には神聖なる森が広がるもの、靖国神社に於ては林に桜と花菖蒲あり、その裏にある のは「展示館」でなく妙法寺なる寺の道場、NTT九段会館と金光教。靖国神社にあるのは遊就館(このサイト、心臓の悪い方はお勧めできませぬ)にて、此処は参道から本殿に向かって右、北側。この大使が言及 したのは此処のことだろう、が、ここを参観もしたことないとは日本国の政府高官として甚だ未熟者、きちんと靖国を知ってから釈明などすべし。これについ て、英霊がお国のために貴き命おとした歴史を伝える展示館のどこが毛唐大使に非難される筋あいあり?と思う方もおられようが「今、蘇る日本近代史の真実  戦争を知らない世代に伝えたい、この感動……」といふ遊就館のコピー、此処の性格をじゅうぶんに反映しておろう。これではとても敬虔な畏き鎮守の処とは思 えぬし、小泉が日本人の信心を理解してほしい、といっても、これじゃ無理。
▼今更どーでもいいのだが蘋果日報の蔡瀾の連載、60年代特集が終わったと思ったら今度はSPCA(動物愛護協会)について三、四日連続。動物を可愛がることもSPCAが多くの人の支援要することも事実、だが新聞 ならそれを記事にできるのであり、「香港一高い原稿料」の人気随筆家が、しかも今日のものなど終始、SPCAの歴史、入会金、服務内容の紹介に尽きて最後 にSPCAの連絡先。本人は香港にて人気高い自らの随筆であるから、自らが書くことでSPCAへの感心高まれば、の素直な気持ちだろうが、断じて「それは 随筆ではない」。どうせ紹介するなら蘋果日報の編集部動かして自らSPCA訪問の写真入り特集記事にでもして副刊にでも載せるべき。書くほうも書くほうだ が蔡瀾にそういう指摘もできぬ蘋果日報の「朝日の大江モード」もかなり悲惨。

癸未年正月初二(日)曇。朝から正月の銅鑼太鼓鉦の音遠くより響き窓から見下ろせばマンションの倶楽 部會所前の広場にて獅子舞。昼前にZ嬢と康柏徑を上りパーカー山の中腹を西湾河から柴湾まで見下ろしながら歩く古道あり大譚峠まで5km余、二時間余散 策。途中、Shau Kei Wanから山腹に眺める奇岩・将軍岩近くから拝む。急ぐトレイルでもなく超級市塲の袋に山道に捨てられたペットボトル、ビニール、菓子袋の類を拾いつつ歩 けば一時間ほどで袋一杯となる。大譚峠より大風峠に歩みMount Parker RdをQuarry Bayに下り正月も休まず営業のEast Endにて午後遅くale二杯ほど。かつては農歴正月など三、四日と正月休みをとる店多く市街静まっていたものの今日などまだ初二だといふのに生鮮まです でに啓市、Quarry Bayにては秀逸なる包子屋・聖羅蘭のみ「初八啓市」と一週間の休みはさすが。いいちこと真露購い帰宅。NHKの大河ドラマ『武蔵』見ながらチゲ鍋。時代 劇に現代語使うなとはいわぬが別れの挨拶で「それじゃ!」とか「〜して下さい」といった表現、あまりにもすぎないか。姜尚中・森巣博の対談『ナショナリズ ムの克服』集英社新書少し読む。森巣氏については余の日剩2002年6月2日に石原を「放し飼いする」日本のマスコミ非難の朝日記事について記載あり。
▼米国宇宙船コロンビア号炸裂について米国総統小布殊君の追悼演説を聴く。そのV6三宅君的な虚ろな表情、 この人が米国なる覇権国家の領袖にてこの人の智慧に世界の50億余の生命が担われているとおもうと恐ろし。ブッシュ、いっそのことこの人宇宙飛行士にして 冥王星探検にでも向かわせたら如何だろうか。20年近く前?の同じスペースシャトルの爆破事故での当時の総統列根君の演説彷彿するが列根君も政治的には小 布殊君と同じ米国覇権主義的であるがまだ演説する顔に智慧とまではいわぬが知恵あったはず。
▼旧聞に属すが1月28日に香港政府基本法23条立法につき中間報告公開。緒案に対して、戦争の定義を実際 の戦争或は武力衝突に限定、扇動性刊行物罪の削除、この法の適用を中国公民に限定し外国籍の香港永久居民など除外など政府譲歩した点も見られるが、依然、 白紙草案(White Bill)による法制化、つまり白紙から市民、諮問機関などに諮り法律条項を練る立法手段を取らず。とくに中国国内にて国家転覆など「重大事故」あった場 合に中央政府の命令により香港政府保安局が香港内でこれに関係すると思われる組織の取締、禁制が可能であり、例えば法輪功であるとか北京にて反政府活動し た場合は香港の法輪功は香港内での宗教活動認められているにも拘らず取締られる、といふわけ。

<写真 が逆様になっておりますが技術的な問題で他意はありません。

癸未(みずのとひつじ)年正月元旦(土)晴。昨晩一 人四合だか飲んで一時頃寝ても朝六時すぎには目が覚める、老い。不快なる宿酔もなく気持ちよく目覚めるが最近疲れがすぐ目にくるようで飲みづかれで目が痛 む。居間にほのかに桃の花の香り。橋本治『人はなぜ「美しい」がわかるのか」ちくま新書読む。朝日の書評に亜流であること面白かった橋本評論の世界なのに 最近は権威になってしまったこと嘆いていたが、実際には治ちゃん本人は昔から書いていることも論法も変わっていないのであって変わったのは橋本治といふ 「へんなおじさん」を「なんかちょっとへん」と思って斜視していた世間が「いや実はこの人の言っていることは真っ当なのかもしれない」と思うようになって しまって、これまで橋本治なんて……と卑下していた人、嫌っていた人、気持ち悪いと思っていた業界関係者まで橋本治をそれなりに認めざるを得なくなって、 そうすると、でもやっぱりどこか認めたくないから、そこで「亜流であったから良かったのに橋本治もなんか権威になっちゃうと」といふ論法を用いることにな るってことか。ただ読んでいて感じることは、治ちゃんの独特の饒舌なる文体、要約したら10分の1でまとめられるし、この本でいえば第一章「美しい」が分 かる人、分からない人、この章は不要、第二章は青空があってこそ雲が美しいと映える、といふこと、それに最後の「人間の前から夕焼けが遠ざかって、「人間 の一日は感動で終わる」という事実も遠ざかって行った時、「美しいを分かる」の大切さもまた、曖昧になって行ったのだと、私はそのように思っています」と いふ、この一文だけでいいのかもしれない。第三章以降は得意の枕草子だの用いて具体的に美を語るのでいいのだが、ただ朝日の書評でも指摘されていたが「清 少納言的な女と兼好法師的な男が結婚した……その結果が、「現代日本の平均的な中流夫婦像」となっているもかもしれません」と言われても、確かにそういう 男女の一対はよくいるが、果たしてそれが現代日本の平均的な中流夫婦像かと言うと、そんなはずはない。イケイケのオンナとどこか退いてしまっているオトコ という確かに面白い一対だが、兼好法師とて治ちゃんが嫌うほどフツーの男ではないし、兼好法師だけの素養のあるってことぢたい現代日本の平均的な中流夫婦 像で描かれるオトーサンとは違うはず。午後ジム。更衣室で財布なくす。ジム出て気がつき戻るがロッカー(というか床に落 としていたはず)になく、現金数百ドルと5年使っていたヴィトンの財布は諦めてすぐにクレジットカードの手続きと思ったがOctopus Cardが銀行口座と連動しており残高HK$0となると自動的に銀行口座からHK$250振替えされる仕組みとなっており最近は交通機関ばかりか このカードで買い物もできるので慌ててMTRの尖沙咀站にて届け出、クレジットカードと銀行カードもすぐ取消しと再発行の手続き済ませ警察に届け出と彌敦 道歩いているとジムより電話あり財布拾った御仁あり、とジムに戻る。インド人の中年男性にて幸い財布は何も盗難に遭うこともないままこの御仁に拾われてお り謝礼をと札を数枚渡そうとすると固辞された上に冗談でポケットから数千ドル分の厚い札を見せられ「カネならあるから」と。深謝。Z嬢と尖沙咀で待ちあわ せOcean Terminalの船着き場に停泊する外用客船をぼんやりと眺める。初老からの夫婦づればかりだが客室のバルコニーで寛ぐ人、デッキ散歩する人、バーでグ ラス傾ける人、などなど。Dan Ryan'sで幾組かの友人と晩餐。佐敦に住むI夫妻宅にお邪魔し檸檬リキュール、伊太利産だからLiquare de Limoniか、MartellのCordon Bleuいただく。I氏宅の向いはかつての英軍Gun Club Hill Barracksに続く軍用地にて現在は人民解放軍の軍営、ここに大規模な軍営医院が出来ており、その向こうに高級マンションと思われる建物あり。高級士 官宿舎かと思えば帰宅して地図で確認すれば駐港三軍会所(クラブハウス)、なるほどね。
▼財布なくしてCredit Card会社などに電話するに繁華街うるさく、さすがに元旦で店も閉まったままのHyatt Regency HotelのShopping Arcadeで携帯から電話していると背広仕立屋に日本語で「どうかお気軽にお入りください」と看板あり。一瞬マトモな日本語に思ったが、こりゃ「どう ぞ」だ。不況のうえに日本人観光客も減り財布の紐はきつくなり「どうか」は店主の心情を吐露しているかも知れぬ。

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