乾 坤容我静 名利任人忙
(旧)教育基本法(1947〜2006) 憲法改正反対(九 条の会こちら

また眞理を知らん、而して眞理は汝らに自由を得さすべし。ヨ ハネによる福音書8章32節)

メ ディアはコミュニケーションの道具という素朴なイメージがあるが、もっともこの言葉は「中間」という意味であり、二つのものの間を取り次ぐという意味で はコミュニケーションの道具となるが、同時に最初は一つであったものを二つに分けるという効果ももたらす。メディアは、それがもたらす情報を共有し仲間意 識を持つグループと、そうしたものに無関心、あるいは反発するグループとの分裂をもたらす。メディアが発達すればするほどこの分化は進む。だから、メディ アの発達がコミュニケーションを豊かにするというのは幻想にすぎない。(佐藤卓己)

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讀みにくいこと間違ひなきサイト乍ら今後とも御贔屓の程宜しくお願ひ申し上げます。
■香港の高級紙「蘋果日報」からの紙面、寫眞の無斷借用多し。同紙社主・黎智英氏自ら同紙の無斷借用轉用大歡迎と公言ゆゑ、それに甘えてをります。
 2000 年11月24日からおそらくあなたは番目の閲覧者です。


二月廿八日(土)浅の気温は摂氏8度。数度の違ひで窓からの寒気もだいぶ弱まる。雨も歇む。宿泊先で朝食済ませ荷物まとめタクシ自動車雇ひ朝08:30に 神宮前。入江さんのスタジオでTokyo FMのSuntory Saturday Waiting Bar AVANTIの収録。マカオのことあれこれ話す。放送は3月21日(午後5時〜) の由。やつぱり媒体としてラジオが好き。どうせなら、と香港の刺身のことも話して10時まで。本当なら久々の青山界隈を散策したいところだが外苑前から銀 座線で上野。トランクを預け水道橋。土曜日で本郷一丁目の郵便局は閉まつてゐたがATMは午前中だけ作動してをりぎり/\日本円入手。香港の銀行口座から 日本円で現金ゲットしたが日本では世界的な銀行オンラインシステムのPLUSとCirrusが郵便貯金などに限定され不便極まりなし。越南でだつてどの銀 行でも利用できる、つていふのに。月本裕さんが亡くなつて一年余。ご自宅にお伺ひして夫人のKさんと再会。ご焼香。昼をご一緒に水道橋のかつ吉に食す。午 後、千駄ケ谷。国立能楽堂でK夫人、村上湛君と狂言の「茂山千作・千之丞の会」あり見る。狂言界の長老兄弟は千作さんが今年90歳、弟の千之丞さんも4つ 下で二人が舞台に上がると180歳近いのだが見事に声が響き渡る。湛君が千作を「松鶴と志ん生を足して二で割つたやうな名人」と称したがまさに。狂言「舟 船」で始まり茂山家の息子世代が木下順二の「彦市ばなし」。あまり期待せずに「彦市」を見たが木下順二らしい劇団民芸つぽい「戦後劇」そのものは戦後も半 世紀以上が過ぎ平成の今となつてみると日本がまさに彦市のやうで思ふところゐろ/\あり。素狂言「宗論」は足腰はそりや少し弱い千作さんなので装束なしの 居語り。動きがあつて当然の狂言だからじつと居語りでは演じる側もつらいところあらうし語りに何とも力ばかり入るがこれは仕方あるまい。千作の戯けと仙之 丞の生真面目な僧の対比が面白い。「南妙法蓮華経、南妙法蓮華経」と「宗論」は題目が何度も繰り返されるが信濃町も近し(笑)。終はつて村上君と新宿。駅 地下のベルグで一杯飲む。伊勢丹デパートのメンズ館、鳥渡見学。晩に実家に戻り母の焼いた近江牛のすき焼き食す。夜遅く妹に自動車で近所のスーパー銭湯に 連れていつてもらふが風呂に浸かつてゐても寒気あり。いやな感じ、で帰宅して体温測ると摂氏38.2度。こりやたまらぬ、と床につく。蕁麻疹もひどい。
▼母から母の友人の写真家Y女史から余に見せてあげて、と山内道 雄氏の写真集「HONG KONG」と長野重一氏 の「香港追憶」をお渡しいただいたさうで、それを眺める。前者は1995〜97年の香港を、白黒でざつくりと写す。一瞬、作風は森山大道に近い、と思つた が写真をよく見るとディティールの情報性を棄てず、寧ろデータを込めるところで明らかに違ふところ。後者は岩波写真文庫の氏が1958年の香港を写したも の。中環の繁華街から新界の農村まで見事に香港全体をフォローがお見事。これが2009年=今年の発刊。

二月廿七日(金)気温摂氏四度。宿泊先に朝、某カメラ雑誌社のS嬢に来ていただき朝食ご一緒に。カメラ雑誌は人形町といへば日本カメラで築地といへばアサ ヒカメラなので何処とは言はず。ゐろ/\談義。日本橋小舟町の清壽軒のどら焼き頂く。寒雨が霙と なり昼前には一瞬、雪に。極寒のなか幸ひ、衆院の平成21年度予算案審議、はアタシは関係なく、終日、国際文化会館にあり会合続く。さすが館内に著名なる 護憲リベラルの、三木武夫の外交ブレーンから旧社会党で参院議員となられ已に政界引退久しきKM先生の尊顔を拝す。先日、お亡くなりになつた昭和の大思想 家KS氏の未亡人もいらつしやつた由。昼に同館のSakuraでフランス料理。晩に麻布十番。飲食店経営で名を馳せる長谷川耕造氏のモンスーンカフェに会 合参加の方らと夕食会。アジアのエスニック料理、と香港から来たアタシには「笑はせんぢやないよ」か、と思つたがなか/\どうしてチェーン店と思へばそれ なりに充分なお味。麻布の懐深く、のバーH。わかりづらい場所、だがアタシにとつては二十年前の自転車乗りで時々通つた、広尾から麻布十番への抜け道沿 ひ。この酒場営むK氏は新宿三丁目のバーPや昨晩の神楽坂Hと、かつて神宮前のバーラジオでの同僚の由。その二店に比べればこの麻布十番の隠れ家的バーも まだ明るく見えるから。Usquaebach(ウシュクベー)で氷なしのハイボール二杯。黙つて飲む流儀か、と思へばK氏にパイプのことなど話しかけられ 暫し談義。Chicな酒場のはずが「モヒート」に関はり、近くのすき焼とおばんざゐのQが絡む可笑しな話一つあり。思はず隣席の若いお客さんとK氏と「こ こは六本木のコミックパブより面白い」と笑ふ。氷もなし、ステアもせず、のアタシの好みでレシピでドライマティーニ一杯作つていただきさつと飲み干して晩 十一時半頃に宿泊先に戻る。雨、だいぶ弱まるが依然、寒さ厳し。

二月廿六日(木)。昨晩は深夜一時半くらゐに床に就いたのに今朝は五時すぎ目が覚めちまふ。それも鳥渡、蕁麻疹。疲れてゐるねぇ。中環からAirport Expressで朝八時前に香港空港。CXのラウンジで朝食は炒麺をほんの少し。CX548便で一路、成田。機内かなり空席目立つ。搭乗して「あつ」と気 がついたらCクラスは昨年搭乗の新型シート。Z嬢に「絶対にお勧めしない」と教へられ前回の東京行きは空港で急きよ、台北経由に変更。フルフラットが売り 物だが、この極端に狭い新型シートなら同じCXでもアジア向けの旧来のシートの方がまだマシ。CX贔屓のバンコクのY氏は「慣れると意外と楽」とおつしや る。絶対に他のどの航空会社の同クラスの方が快適だらうしYクラスでも隣席が空いてゐれば絶対にYクラスの方が安楽。どうしてこんな窮屈なのにしてしまつ たのかしら。比較的小柄なアタシで左右のパテーションとの余裕が15cmほど。ちよつとガタイの良い乗客には身動きとれまい。新聞すら見開きで読めないど ころか頁を捲るのも難儀。もと/\機内食が嫌ひなのでサラダとフルーツをほんの少し、とチーズだけ頬張り伊太利はEventusのピノグリージョ、豪州は Moon Mountainのシャルドネ、いづれも07年をほんの少し味見。機内から出て比較的早く出てきた荷物受け取り14:30の六本木行きのリムジンバスが 「今、出ましたが止めます」とカウンター嬢。「止める?」と驚いたが無線で現場に「1名ご搭乗の方がゐますので北2で……お荷物は1つです」などと指示。 このお嬢さんはアタシの乗車券など持つて「バスまでご案内します」と早足で歩き出す。ターミナルを出ると「お荷物お持ちしますから」とアタシを走らせよう とするが22kgくらひのトランクをどうしてお嬢さんに持たせられようか。でトランクをガラ/\引摺つて「北2」に小走り。すると向かうから乗り場係の兄 さんが走つてきてアタシの荷物を抱へ!「急ぎでください」とバスまで走る。「北2」に緊急停車中のバスは別な兄さんが荷物室の扉を開けて待機。アタシが乗 り込むと同時に「荷物積み込みOK!」でバスが2分遅れで発車。一人の客を乗せるためにこゝまでするか、が東京。リムジンバスの中での後部座席の袖振り合 ふも多少の縁、の二人のアメリカ人の会話。一人は六本木在住の米国人のヲバサン。もう一人はハワイからのビジネス客。日本に慣れぬハワイ野郎にヲバサン曰 く「日本は意外と生活は楽」と語るは「空港だつてイミグレも税関も5人の職員がゐたら5人が決まつて同じ質問をする」と。「ただ笑顔でうなづけば問題な い」とは言ひ得て妙。成田から1時間40分と言はれた六本木山荘のグランドハイアットに80分で到着。すごいところやなぁ、と驚きつゝタクシーで国際文化 会館。投宿。早晩に麻布十番から南北線で飯田橋。村上湛君と津久井町の「さゝ木」に食す。かなり久々の神楽坂。日剰を紐解けば03年の暮れ、有馬記念の晩 に故・月本裕さんらとの宴会で鳥茶屋に来て以来。晩にだいぶ寒くなるなか神楽坂のバーHに飲む。大江戸線で新宿。東口駅地下のベルグに麦酒一飲。御苑に近 いバーに飲む。半夜三更、雨のなかタクシー自動車雇ひ六本木に戻る。
▼村上湛君との話。コンビニとか夜遅くまで眠らない東京がどん/\便利になつてゐるのか。コンビニがなくても近所の酒屋、乾物屋が御用聞きに来た時代もあ り、さらに戦前の省線は数分間隔で走り都電は深夜まで東都を網羅して走り続けたこと。実は戦前もじふぶんに足の便の良かつたこと。
▼CXの機内で「お読みになりますか?」と、見れば昨日の香港の新年度予算のリーフレットはビジネス客への迅速なサービスだらう、でKMPGとキャセイパ シフィック航空によるもの。内容は単に新年度の税制の紹介だがKPMGの分析でも少しは勉強しようか、と読んでみたが
Although the financial crisis is clearly more severe than most observers would have predicted 12 months ago, Hong Kong does have the financial resources, skilled workforce and legal and regulatory framework to come through the downturn stronger than many other economies. Hong Kong remains the gateway to China, and continues to position itself to benefit from its growth and economic success.
こんな提灯分析ならアタシでも書ける、といつた内容。その香港政府の新年度予算。昨日の立法会にて財務官「文革曾の舎弟」曾俊華より報告あり。08/09 年度の政府赤字はHK$49億が当年度はHK$399億。だが政府は所得税を50%、といつても上限HK$6千は寂しいが一応は所得税削減。どうせなら年 収HK$1M超えるやうな方には累進課税適用を。固定資産税も優遇継続。煙草は50%の増税で1箱あたりHK$24.1が税金。どんな安煙草でもHK $30以下はまづあり得ず、で愛煙家にはつらからう。
▼香港金融管理局の、億の報酬貪る任総(ジョセフ=ヤム総裁)が噂通り9月に引退の後任は特首辦主任の陳德霖、と蘋果日報。陳德霖は元々が任総の薫陶受け た金管局高層で里帰りだが任総に比べ手腕疑ふ声あり。
▼数日前の信報に京劇名家匯演を看た劉健威兄が「看京戯」と題して京劇のマイクで役者の歌唱放らうPAな何故にあゝも喧しく照明は目がチカ/\するほど眩 しいのか、と指摘。御意。アタシなど耳栓して観劇、で充分。
▼先週末のThe Economist誌にホテルに関する興味ある記事あり。多くの世界的ホテルチェーンが、えうするに名義貸しで名義とサービスのノウハウ提供で地場のデベ ロッパーなどが資金提供してホテル業、といふのは誰もが知る事実だが、ホテルチェーンは株主への配当確保のため自社所有のホテル不動産さへ売却で利益獲得 してをりホテルチェーンのホテル施設の自社保有率は下がる一方。とくに、と名指しされたのがインターコンチネンタルでホテル業界の指数ださうな「1客室あ たりの利益率」は、フランチャイズでのホテル経営で利益率下がるばかりで6%といふ。

陰暦二月初一。連日、朝のひどい濃霧が消え晴れ間となり昼には気温が摂氏廿七度と夏のよう。茹だる。昼前に用事あり中環。擺花街の興利カメラ商店前を通り かゝりふとショウヰンドウ覗けばM型ライカの50mmの平凡だが小粋なレンズフード(12538)あり。銀座松屋のカメラ市も終わっちまったんだか ら、と(なんだか理由にもならぬが)ちょいと焼き鳥でも食べてサッポロの黒ラベル二本飲んだくらいの「つもり」でお買い上げ。これだけで今日は楽し。早晩 に帰宅して机上諸事片づけ。久々に自宅での夕餉。カレーライス食す。明日からの外遊の荷物など作りつYoutubeで若井小づえ&みどりの漫才見て大笑 い。Youtubeで閲覧が千、二千というのはほゞ誰も見ていないに等しいか。柳亭痴楽師匠の「痴楽綴方狂室」と「恋の山手線」懐かしく聴く。
▼本日昼に放浪中のタクシン君がFCCで講演、と昨晩急にFCCからメール届いたが急で拝聴もできず。バンコクでは昨日、タクシン元首相派が1万人だかで デモの由。これに合わせて気勢を上げるのかしら。
▼マカオで23条に基づく国家安全維持法が立法会通過。香港では2003年に50万人デモでの大反対で今のところ立法化も具体的日程出ておらず。
▼台湾では贈賄疑惑の阿扁容疑者が、先日の供述での台湾の名だたる巨商からの献金暴露に続き、李登輝君は中共より数億台湾圓の献金受け馬英九総統は台北市 長時代に当時台湾で活躍の黒人芸人と同性愛の関係、と言いたい放題。もはや週刊誌やテレビのワイドショウ並みのお笑い劇の如し。
▼旧聞に属すが十七日の信報の林行止専欄が「維護資本主義 提高利得税率」と香港の財政基盤安定のため税の累進課税を提言。香港は法人税、所得税とも上限が前者は16.5%、後者は15%に抑えられ、要するに高所 得企業・個人に絶対有利。行止氏曰く、財閥15家族がGDPの84%を独占する(という報告もある)香港で財閥の力は強力なものがあり政府もおいそれと税 制改革に踏み込むには荊棘もとげ/\しかろうが金融業や観光業などの打撃で給与生活者たる中所得者が生活の困難に喘ぐなか累進課税で高所得者の税負担を増 やすことは当然だろう、と。御意。

二月廿四日(火)某事に或る裏付け必要となり日本政府の某省にお電話。赫々然々の、と尋ねたところ(具体的案件は匿すが例へば)「国内で県民の日とか役所 や学校は休 日にする都道府県はいくつでせう」の如き質問に電話の相手は「うーん、さういつた統計はありませんね」と、この答へは予期されたものだが驚いたのはこの 「ありませんね」に続いて「県によつて習慣が違ひますからね」と小役人。思はず「えッ……だから、違ふから知りたいんですけど」と突つ込んでしまふ。なん だか言葉が通じてゐない。晩に会食あり炮台山の「自然や」に食す。

二月廿三日(月)夕方、突然、咳が止まらぬ発作。軽い喘息のやう。先週も月曜の同じ頃に強烈な眩暈。よつぽど月曜が嫌ひらしい。どうにも咳が歇まづ出先で 通りがかりの薬局に寄り哮喘器(噴霧式吸入器)購ふ。 吸引。数分して収まる。この哮喘器は香港も処方薬扱ひなのだが(本当はいけないの鴨しれぬが)処方箋なしで売つてくれて助かる。さういへば、ともう数十年 昔にバックパッカーの当時、香港の薬局で睡眠薬入手を思ひ出す。当時のアタシは高所恐怖症がひどく飛行機は大嫌ひ。飛行機搭乗する前に酒を飲むと気持ち悪 いし飛行中は眠れもせず、まんぢりとしたまゝただ/\滑走路への着陸を待つのみ。で、パンナムに乗り合はせた時に添乗員のくれた睡眠薬がかなり「上モノ」 で、その包み紙を棄てず、香港の路上で通りがかりの薬局で示すと同じタイプの睡眠薬を供された。日本に戻りしばらくして薬局でそれを見せたところ「かなり 強い睡眠薬で処方薬です」と言はれて入手できず。おクスリ好きには香港はたまらないかしら。晩に藤森照信「建築史的モンダイ」ちくま新書、読了。四畳半の 茶室、コンクリート打放しの建物などの考察が面白い。数ヶ月読み残しありの唾玉集も読了。

二月廿二日(日)霧雨。朝から午後遅くまで出先でご執務。早晩に中環。Z嬢とIFCで待ち合はせExchange Squareのラーメン「札幌」ででも食事済ませようと思へば日曜で休みで何年ぶりかしら、でJubilee街の金華に食す。白切鶏などで著名の老舗はか つては近隣の労工らが気軽に食す食肆であつたのが数年前に方針変更でかなり高級化。昼 に開店で唯霊氏が中環で朝食の貴重な食肆を一つ逸したと嘆く。が個人的には昔の方が好ましい味つけ。IFCの映画館で“Milk”観る。70年代の米国加州桑港で同志解放に活躍のハー ヴェイ=ミルク氏を主人公にした映画で、つい先日、この映画のポスターを見た時に80年代のドキュメンタリー映画『ハーヴェイ・ミルクの時代』のリバイバ ル上映か、と思つたのはポスターに公民権運動など今でもよく写真の載るハーヴィー=ミルクが写つてゐたから、で、だが今回のこの映画『ミルク』は主人公演 じるショーン=ペンがあまりに故人にそつくりで役になりきつてたのが、それ。驚くほど。米国の、それでも米国らしい良心、といふ世界。主人公のハーヴィー =ミルク氏がそりやゲイやマイノリティ解放、労働問題等に尽力したことは事実だらう。が、政治の世界に首を突つ込むだけ政治的な、政治家としての野心的な 部分、また同じく暗殺された桑港市長との政治的な取引きの部分など映画にも描かれぬし真実は明らかにされやうもないだらうが、さういふ点もあらうことか、 と憶測するばかり。今晩の上映はIFCの狭い小屋とはいへ満席。いかにも民主党支持といふ感じの、米国人の比較的中高年の客多し。
▼山村修さんの『もつと、狐の書評』ちくま文庫読了。書評といふと著者が珍しくかなり厳しく評してゐるが週刊文春の<風>氏=朝日新聞の百目鬼恭三郎のや うな「自分を語る」ものか、最近気になるのは朝日新聞の書評など評家は一流の人を揃へてはゐるが問題は書評でありながら「買はなくても読んだ気になる」く らゐ書籍の本筋の核心をネタ晴らししてしまふやうな書評が目につくこと。それに比べると日刊ゲンダイに連載された、この<狐>の書評は作品の面白さを語 り、かといつて興醒めさせるやうなネタ晴らしもない。この『もつと』はちなみに日刊ゲンダイ以外に掲載された書評二百数十扁。恥づかしながら、そのうちア タシが読んだことがあるのは、カール=マルクス『ルイ=ポナパルトのブリュメール十八日』岩波文庫、山口昌男『「敗者」の精神史』岩波書店、和辻哲郎『古 都巡礼』岩波文庫、山上たつひこ『喜劇新思想大系1』双葉社のたつた四冊で、三毛の『サハラ物語』は原書で読み、東洋文庫『唾玉集』平凡社はもうずつと読 みかけ、で寝台の横に放つたまま。ちよつと読んでみたいのがL=ガーフィールド(斉藤健一訳)『見習ひ物語』福武書店、武田百合子『ことばの食卓』ちくま 文庫、安井仲治写真集(新潮社)といつたところ。この『もつと』の解説で岡崎武志氏が、この<狐>氏が幸田文の『木』の書評で紡いた言葉を故人となつた <狐>氏に贈り返す。
見ることと書くことが等価、その間に寸分のスキもない。それが物書 きのなかでも特異といへるほど、たぐひまれな才幹であつたことに気づいたとき、作家はすでにこの世にゐない。
アタシはこの山村さんの『禁煙の愉しみ』を読んだ時、珍しく著者に感想を書き送つた。著者の勤務先が青学の図書館と紹介されたゐたため、そこに書状を送る と、すぐに丁寧なご返事をいただいた。几帳面できれいな字が並んでゐたが、この方がまさか日刊ゲンダイの<狐>氏とは当時は全く知らず。アタシがそれを知 つたのは不覚にも山村氏の急逝の後だつた。
▼佐藤優『高畠素之の亡霊』連載第12回「テロル」昨年晩秋の『文藝』誌を読む。

二月廿一日(土)曇。朝から午後まで官邸にてご執務。夕方、中環。Colorsixにて写真の焼き増し。FCCのラウンジでカプチーノ飲みながら週末版の 新聞読みながら周囲の会話が耳障りなのでyler BrûléのThe Monocle WeeklyをiTuneのPodcastsでiPodにおとしてBOSEのイヤフォンで聴いてゐる、と、快適。快適だが「いかにも今様」な快適さに我な がら嗤ふばかり。The Monocle Weeklyの最新号は香港での録音の由、Jimmy 黎智英氏が台北より中華圏の自由につきコメントあり。早晩に上方から来港中のT君、Z嬢来て晩餐。米国加州のWoodhavenのCar Sau 06年飲む。廉価で味的にはなか/\。Z嬢と市大会堂。Sergio Tiempoはんのピアノ独奏。 ベネズエラ出身のピアノの天才少年も、キーシン少年と同じく、もう三十代後半。今が一番、脂が乗つた、失礼ながら紅顔の美少年も年相応なメタボな体形、で 噂通りまぁよく指が動くこと、のポリーニもアシュケナージもさうだつた、「怖いものなし」の三十代。曲はバッハのパルティータ1番から始まり前半はハイド ンのソナタ50番、ショパンのエチュードOp.10の12番とOp.25の6番と12番。ピアノの上手な少年がそのまま大きくなつたなぁ、と。上手なのだ が何か訴へてくるやうなものは感じられず。で前半のピアノの教則本通り、のやうな演目が中入後はラヴェルのGaspard de la Nuit「夜のガスパ」の3曲、アルベルト=ジナステーラといふ、彼にとつては地元曲で「アルゼンチンの3つの舞曲」でリストのコンソレーション3番とメ フィストワルツ1番までほぼ休みなくさつーと弾かれてしまつては、ただ/\「怖れいりやした」と首を垂れるしかない。さすがに後半の曲は彼の芸風を見せつ けられた感あり。これから円熟がそりや楽しみなピアニスト。帰宅せば「又播磨」といふ掲題のメール久が原のT君より届くを見る。又五郎さんが亡くなつた か。今曉四時十分老衰にて逝去の由。齡九十四の大往生。アタシが東都でさんざん芝居見物の1980年代後半に目玉の市ちやん(市蔵)とか、彼ら脇役の重鎮 はもう七旬だつたのだから。明くる朝の新聞弔報(朝 日)に
近年は舞台出演が減つてゐたが、04年に東京・歌舞伎座で上演され た中村勘三郎主演の「今昔桃太郎」で、約半世紀前の勘三郎の初舞台でもつとめた犬の役を再び演じた。最後の舞台は06年4月の「六世中村歌右衛門五年祭追 善口上」。09年1月の歌舞伎座さよなら公演古式顔寄せ手打ち式にも姿を見せた。
とある「最後の舞台」につき「又五郎しみじみ陳べし聲音、餘も今に忘れず」とT君の語る話は斯の如し。
又五郎戦地出征の見送りに、東京驛頭に衆人群れをなす。故人歌右衞 門の芝翫時代、その時は人中から控へめに別れを告げしと見えしが、列車發車し、次なる新橋驛に停車するや、意外にも省線にて先囘りせし芝翫窓外にあり。慌 てて窓開けるや否や、「又ちやん。死んぢやダメよ!」と言ひざま、手造りのお守りを握らせてくれた藤雄さんの聲は今でも忘れません。

二月二十日(金)早晩に按摩済ませ尖沙咀に渡る。香港文化中心。昨晩に引き続き京劇名家匯演を観劇。また地元の名人多し。「新世界」グループ率ゐる商人・ 鄭裕彤など。京胡の派手な演奏に続き「竹林計」で幕開け。余洪役の劉魁魁は外祖父 が黄雲鵬といふ梨園の出でさすが舞台映えして余洪役にニンあり。興味深きは「文昭關」。伍子胥を王佩瑜(余派の女老生=男役)、楊派の李陽鳴、凌科の三人 が続けて演じて歌を競ふ。凌科が長ける。旦角聯唱は張慧芳(梅派)謝瑤環、常秋月(荀派)の紅娘、馬小曼(梅派)の捧印。梅派の看板旦角、馬小曼が穆桂英 役で歌ふ捧印が格別。杜鎮杰(楊派)の楊延輝、王蓉蓉(張派)の鐵鏡公主が演じる楊家女将の「坐宮」、でやうやく中入り。後半は先代の辰之助彷彿させる李 宏圖(葉派)が安敬思での飛虎山。探陰山は包拯を演じる孟廣祿(葉派)を筋書きでは「嗓音洪亮高亢、唱腔委婉細膩」と紹介するが、まさにそれ。嗓音洪亮高 亢はまさに鶴が鳴くやうな高音だが、唱腔委婉細膩のこの唱腔は歌謡の「こぶし」ともちと違ふ「歌いまはし」で何とも表現難しいが最近アタシも少し、これが わかつてきたやうな気が。それでも「委婉細膩」は大和言葉では難しい。で続いて「待ッてました」の遲小秋(程派)が鎖麟囊の薛湘靈。京劇界の80年代の天 才若手女優も北京京劇院青年団団長、ですつかり円熟味。それにしても上手い歌唱に拝みたいほど。で続いて昨日に続き譚派御曹司の譚正岩が三家店の秦琼を歌 つてみせる。光源氏役でもやらせたい端正さだがやはり舞台に立つには心身ともに線が細すぎる。貴妃醉酒を梅派の李勝素が歌つて最後は折子戲「華容道」で于 魁智(楊派)が關羽、楊赤(袁派)が曹操。源平合戦で松島屋が勢ひづく源氏の総大将、奢る平氏の宗主を冨十郎が演じてゐるやうなもの、で客席もやんやの歓 声。舞台跳ねペニのバーで胡瓜のマティーニ一杯だけ飲んでご帰宅。
▼自称政治家「文革曾」行政長官は今週、日本から韓国ご外遊。あまり話題にもならず。だが訪日のお土産は、前回の香港特区旅券でのビザなし渡航解禁に続 き、今度は日本が香港にとつて豪州、新西蘭に続く三カ国目の工作假期計畫(ワー キングホリデー)対象国となる由。

二月十九日(木)昼ごろ下雨あり。午後晴れる。昼にかなり久々に渣甸山益新に食す。文字通り「名人食堂」で新聞などでお見かけの諸氏の数々。筆頭は前任の 警務署署長氏。彼の前任の「文革曽の弟」君が「新世界」グループ率いる商人・鄭裕彤傘下の新創建 社に天下りしたのに比べれば引退してお気楽さう。中文大学の地理学科卒業といふ地味な彼は1997年の香港返還の記念式典で梁「長毛」國雄君らの抗議運動 に対してヴェートーベンの「運命」をば大音響で流し抗議のシュプレヒコールを江澤民主席(当時)らに聞かせず、で香港警察の高層部でも目立つ存在に。晩に 尖沙咀。ペニのバーでドライマティーニ飲む。一 杯で終はりにしようか、と思つたところにバーテンダーP君ご出勤で祝儀にヘンドリックスの胡瓜マティーニ一杯処方いただく。香港文化中心。香港芸術節で京 劇名家匯演と題して各派の歌唱上手の一流ばかり集めての折子戯。梅派の王艶が穆桂英役で歌ふ楊家女将で幕開け。青衣(姫役)では「春秋亭」で薛湘靈役の李 海燕(程派)も良いが何といつても老旦(刀自)では天下一品の袁派の袁慧琴が「李逵探母」で楊赤役を歌ひ上げ拍手喝采。中入りでロビーで香港政府の某署T 署長と邂逅しご挨拶して少し芝居談義。会場の「とちり」のと列中央に中信泰富のLarry榮智健氏夫妻の姿あり。昨年の金融危機でのデリバティヴ失敗での 大損出と粉飾決算での株価操作で大顰蹙、でそれ以降あまり目立たぬ隠遁生活か、と思へばさすが大物、で堂々と観劇。 後半は老生(立役)の歌唱が続く。譚派の七代目・譚正岩には期待してゐたが容姿はさすが梨園世家の嫡子、と唸るが「定軍山」の黃忠役の歌は今ひとつ。老生 では、この譚正岩に続いた馬派の朱強の「淮河營」蒯徹の役と、それに京劇界の澤瀉屋か、と思はせるほど見事な動きで客を涌かせたのは田磊の、賺歷城での馬 超の役。で〆めは折子戲の「大登殿」は王寶釧に旦角ではトップの李維康、王寶釧役が老生の大看板・耿其昌、で袁慧琴が王夫人役といふ、これは京劇好きには 垂涎ものの豪華な配役。今晩の演目は歌ばかり、と覚悟してゐたが期待以上の「大登殿」を見せていただいた。帰宅途中に天后で途中下車して華姐清湯腩で牛腩 麺食し帰宅。

陰暦正月廿四日。雨水。晩にテレビつけるとNHKに奥むめお刀自のお姿。懐かしいあのイントネーション。NHKアーカイブで「あの人に会ひたい」が戦後の 主婦連率ゐた女傑の映像を流す。刀自も立派だが所得倍増計画宣ふ池田勇人君といひ蔵相の藤山愛一郎君といひ、きよーびの季節労働者の如き1年ももたぬ首相 や酩酊大臣に比べなんと気品高きことか。夕食で「どなん」を常温の水割り(氷なし)で飲む。生(き)ではさすがに強いし氷で割れば水つぽくて不味くなるし お湯割りでは匂ひ強すぎる、での氷なしのちよつと濃いめの水割りは正解。ゐたゞきもの、Island Shangri-la Hotelでの販売で好評ださうなTeuscher(トイスチャー)のチョコ頬張る。
▼中華国貨の裕華が佐敦の本店残し中環と尖沙咀の店を近々廃業の由。家賃高騰と消費冷え、百年一日の如きマーチャンダイジング、外国人の観光土産も中華趣 味からの乖離等々で営業縮小。残る佐敦本店はいまだに島尾伸三的なキッチュな中国物産の勧工場的価値あり。文化財として存続させるべき。
▼村上春樹さんがイスラエルのエルサレム賞を受賞されました。この受賞が「イスラエルの政策を擁護する」といつた批難もありましたが、ご本人はエルサレム に来たのは「メッセージを伝へるため」として、体制を壁に、個人を卵に例へて
高い壁に挟まれ、壁にぶつかって壊れる卵を思い浮かべた時どんなに 壁が正しく、どんなに卵が間違っていても、私は卵の側に立つ。壁は私たちを守ってくれると思われるが、私たちを殺し、また他人を冷淡に効率よく殺す理由に もなる。
とスピーチをしてゐます(17日朝日新聞衛星版)。これがまた「曖昧だ、軟弱だ」と批難もされます。難しいところでせう、が同日の朝日(衛星版)には大江 健三郎さんの「意志の行為としての楽観主義」なる連載(定義集)の掲載もあつたので、これを読みました。これが私のやうなレベルでは大江さんの言はんとす るところがよく読みとれないのが、恥づかしながら事実です。ならば、世界の正義のために何らかの寄与をしようとする作家としては、私は「言ひたいことがは つきりとわかつた」村上春樹をとらう、と思つたのです。……と大江健三郎風に。

二月十七日(火)曇天。日の本の某大臣の酒だか風邪薬だか知らぬが酩酊で顰蹙をかひ大臣辞任。同じ酩酊でも噺家なら志ん生師匠なら芸風だし馬生師匠も勝新 も絵になるが、ぶざまなだけでまるつきし絵にならず醜態晒して終はり、なのがやはり政治家と芸人の違ひ。アタシも「腰や風邪、眩暈など疲労があり」と言ひ 訳してみたい。で雑務に追はれ多忙な日々続くが時間割いて久々の散髪。Z嬢と晩の待ち合はせまで久々に銅鑼湾のBなるバー。冷凍庫から出したジンとベル モットを氷なしステアなし、の徹底的なドライでマティーニ二杯。バーテンダーI氏の勧めで香港では珍しい蘇格蘭のジン、Hendrick'sをベルモット はこれもアタシはお初のPolinだつたかしら名前失念、で胡瓜を添へて一杯。これが格別に美味。で場を辞してビルを出たところでZ嬢。まるで幼稚園のお 迎へ。但し相手は酔つ払ひ、ぢやZ嬢の立場は財務兼金融担当大臣の秘書官の如し。買物は即決、のアタシがZ嬢の引導で珍しく数日考へた末に結局、地味なサ ムソナイトの旅行鞄お買ひ上げ。一つ前のデザインで割引。サムソナイトでも傍系のAmerican Touristerなるラインなら更にお手頃価格もあつたが、どうも名前が気に入らず。太古のジャスコに寄ればいつも行列のあるラーメンの山頭火がすぐに 入れるやうで塩ラーメンを食す。美味い不味ゐは言はぬがアタシには合はない。かつて銅鑼湾の「らーめん横丁」に出店当時の山頭火の方がアタシは好み。香港 は吉野家が牛丼以外のメニュー豊富な如く山頭火もかやくご飯だのラーメン以外のメニュー多し。飯物をゆつくり食べ「せつかくの麺が伸びちまふだらう がッ!」な客少なからず。アタシらが着座の時にはほゞ食べ終はりアタシらが去る時にまだおしやべり中の隣席の客。日本ぢや「食べたら出てけ」が人気のラー メン屋の鉄則だらうが、香港ぢや行列が出来る一つの要因がこれ。
▼一月廿三、廿四日の日剰に綴りし「銀行信用卡の自動引落し事件」に続報がつ!。この某銀行のCustomer Feedback Management、要は顧客苦情担当のマネージャーより手紙届く。このマネージャー曰く、今回の処理ではお客様にご不便おかけしましたこと深くお詫び いたします、請求も銀行の自動振替も全て取消しをさせていただきました、ご指摘の点は今後の顧客対応に活かさせていただきます、と。全く返事になつてをら ず。アタシが求めたのは
そちらの銀行にとつて最も大切なことは社内で、クレジットカード解約の客の自動引落し手続き等は三ヶ月なり半年で取り消す、とひつた社内規則を作ることで はないか?、さうでないと半永久的に過去の顧客からいつでも勝手にカネを引落しできる、そんな状態が続くのだから。
といふ点であり、これについて具体的にその銀行の規則を、ないなら改めてきちんと整備して、それをお見せなさい、といふこと。御座なりの対応に改めて返答 を求む。
▼日本のGDPが石油ショックから34年ぶりで年率12.7%減。US$4.84兆は依然、米国に次ぎ世界第二位の経済体だが第三位の中国との差はUS $6.2千億で中国に台湾、香港、マカオ加へた大中華圏はUS$4.86兆と日本を越えた由。
▼香港の人口が700万人突破。日本に勝るとも劣らぬ少子高齢化の続く香港だが前年比0.8%の人口増は香港で出産する内地産婦と移民増加。昨年の 87.7千人の出生のうち33千人は内地妊婦、で41.3千人の死亡で自然増は37.4千人。移民流入は41.6千人(毎日百数十人)で離港者の22.8 千人を18.7千人上回る。結果、がこの人口増。日本もこれくらゐの移民ブームにならねばならぬのだらうが。

二月十六日(月)濃霧。早晩にタクシーに乗つた拍子にとんでもない眩暈。目の前がぐる/\と回り手摺り捉まり座席に手をついて、どうにか数分我慢。過労や 精神的なストレスもあらうが何より老化。神経痛だの指の節々の痛みなど。午後からの小雨、夜はそれなりの雨空は久々。バカ陽気がまた少し涼しくなる。
▼JR東日本の「えきねつと」で次回訪日の際の鉄道切符購入のところネットでの販売でのデータ送信中、画面に一瞬「与信中……」といふ文字が現れる。そり や確かにクレジットカード使つた商取引でデータは信販会社に与信されるのだが、今どきこんな言葉は他に誰も使はない。通常は「データ送信中です……」とか だらう。ならこの「与信」の言葉が信販会社側でなくJR東日本の「旧国鉄的な」骨董語の残存なのかしら。かなり新鮮な言葉の響きよ。

二月十五日(日)昨日は日本の郷里でも二月の観測史上最高気温の廿数度の夏日の由。今朝も高湿のうへ気温上がり朝より陋屋は白い濃霧に包まれ視界失す。午 前中は新聞読みと机に凭り諸用片づけ陋宅のネット環境整備。ワイヤレスが書室より居間によく届かず一台づつ余 つてゐたAppleのAirMacExtremeと同Express用ゐてリレーで飛ばす。ワイヤレスの電波、直線で障害物なければ遠くまで届くも易いが 狭い家屋でも鉄筋コンクリートで廊下など曲りくねると電波なか/\届かず。昼にZ嬢と北角。そのへんの一杯十元の(といつても諸物価高騰で一元値上げ)雲 呑麺屋に昼を食しミニバスで中環。香港動植物公園漫歩。FCCのバーでBloodyMary一飲。中環で買ひ替への要あり旅行用トランク眺める。北角で食 材購ひ帰宅。久々に夕方小雨となる。山村修さんの『もつと、狐の書評』読む。昨晩の宴会の皿料理の残り食す。与那国の泡盛「どなん」飲む。アルコール60 度は酒でなくて税金の扱ひ上は「原料用アルコール」なのださうで「引火にご注意ください」。他のどの焼酎にもない芳香が素敵。NHKスペシャル「沸騰都 市」第7回シンガポール「世界の頭脳を呼び寄せろ」見る。世界中の優秀な人材、採用を集約し最高の研究環境で、と立派なものだが査定され求められる水準に 達せねば解雇され、と建築現場の非熟練の労工から最先端の遺伝子科学者まで全てがチャプリンのモダンタイムズの物語の如し。負の側面もある程度とらへるが 何よりもシンガポール政府の余剰金投機が昨秋からの価値下落でこの都市国家の経済発展の資金繰りにどう影響与へるのか、には一切触れず。
▼旧聞に属すが先頃来港のチベット仏教のカルマパ17世。ダライラマ14世の後継者といふ噂もあり立場はかなり政治的だが香港の新聞の多くが芸能欄で紹介 するのは師に拝謁する者に芸能人ら少なからぬゆゑ。そのなかに元蹴球選手の中田英壽君あり。「壽 仔獲大寶法王加持 恭敬禮佛」と、もう一週間前の蘋果日報。かつては来港しただけで蘋果日報一面トップ報道の中田君も今では香港にゐてパーティな ど参加してゐて当たり前で余り話題にならず。カルマパ17世の説教会に現れるとは熱心な仏教徒だつたのか、自分探しの旅の途中、チベットやネパール、印度 のダラムサラなど訪れ仏教、といふかマーケティング的に「このスタンス」に開眼か。翌晩は同じく来港中のブータンの皇后陛下主催のパーティに参加はブータ ンの眼科医療施設建設に資金提供の由。

二月十四日(土)朝四時半に目覚めちまつて文藝春秋三月号で芥川賞を読む。石原慎太郎の選評が相変はらず小気味よい。
文学に限らず芸術の作品は作者独自の思い込みの収斂に違いないが、 しかしなお鑑賞する他者に 最低限のある共感をもたらさなくては作品としては通るまい。ならば今回の受賞作以外の作品に、反発も含めて、読む者の感性に触れ てくる何があるというのだろうか。どれも所詮は作者一人の空疎な思い込み、中には卑しいとしかいえない当てこみばかりで、うんざりさせられる。
と石原君。
地方自治は知事独自の思ひ込みの収斂に違ひないが、しかしなほ鑑賞 する他者に最低限のある共感をもたらさなくては自治としては通るまい。都政は、反発も含めて、住民の感性に触れてくる何があるといふのだらうか。どれも所 詮は都知事一人の空疎な思ひ込み……
とか。で芥川賞の受賞作は津村記久子の「ポトスライムの舟」。主人公の女性がケイヤクで働く工場に貼られた世界一周のクルーズの旅費がケイヤクの年収…… それで云々の物語。昼まで官邸でご執務。Happy Valleyの郵便局が大規模改築のため先週から閉鎖され郵便局だけは少なく不便な香港で、銅鑼湾も一局のみ、殊に陸の孤島のHappy Valleyなど付近の郵便局は湾仔のMorrison Hillとなる不便。でMorrison Hillへ。昨日その近くに野暮用あり其処に気に入りのボールペン起き忘れ電話すると幸ひにも見つけて保管してくれてをり受け取り。Times Squareの家電屋で居間の電話機購入。十数年使つたホームファクス&留守番電話機の引退でファクスはエプソンの複合機があるので居間には留守番機能だ けのケーブレスの電話機を。Vtechなる地場の家電メーカー製。昔なら「避 けよう。何より日系メーカー」と思つたかも知れぬが多少デザインに難あり、でも廉価で「まともに動けば良い」程度なら、これ、となる。携帯だメールだ、の 時代で家庭での電話機の存在感が確実に低落。Citysuperの元八ラーメンで昼食済ませ油麻地へ。MK1なるデジタル家電のモールに足を踏み入れれば 楼上の店子は空き店舗ばかり惨憺極まりなし。その一角に信販会社等の景品交換一括で扱ふ代理商あり。其処でPCCWがネットの契約更改でHK$500分の Wellcome超級市場の現金券くれると言ふので受け取り。口センバスで港島に戻る。今朝の早起きで睡魔に襲はれ熟睡しちまひ気がつけば西湾河。寝過ご したついで、で基記水電工程の牛雑を一串頬張り順興で鹵水鴨を少し購ひ帰宅。夕方、居間の電話機を交換したり電気コードの配線の美化作業なす。晩にY嬢と K氏それぞれ諸用あり陋宅へ来られZ嬢と四人で会食。K氏とは秘密基地に隠れカメラなど「大人の会話」でThe Balvenieの1973年のヴィンテージカスクの残り飲み干し四人でヴーヴクリコ抜栓して乾杯。新西蘭はオイスターベイのSau Bl 08年、豪州はターキーフラットのCab Sau 06年を飲みつゝZ嬢の手料理はなか/\評判。お手製はアイスクリームばかりか枸杞の実をつけた酒がこれも美味なり。

二月十三日(金)多雲惨憺。多湿。晩に香港演芸学院で進念二十面體主宰する榮念曽(Danny Yung)による「録鬼簿」Book of Ghostsな る舞踏を見る。中国の京劇役者やバンコク、ジャカルタから招いた舞踏家4、5人のコラボで鬼(霊)を主題に踊つて見せる。京劇の立役では第一人者の李寶春 の現代舞踏風の踊りが見られたのは嬉しいところ。舞台装置など面白い使ひ方などあるが全体的に舞踏としては散漫で意図するところがアタシには今ひとつ解せ ぬ。最後のジャカルタからの踊り手の舞台が跳ねる頃に出演者全員が舞台にあがり椅子を用意して、舞踏の延長でDanny Yungも出てきて座談会となるのは最悪。踊り手と語る、は観客の好き嫌ひあり(無論、アタシは出演者や監督の語りは大嫌ひ)せめて舞台を一旦終へて好き 者同士でするべき。帰るにも帰れずで困つたもの。それでもアタシも含めかなりの客が途中退場。アタシと同じ列、数席隣りにStanley Wong氏。ちやんと座談を聞かれて たので目礼のみ。北京餃子皇に韮菜猪肉水餃を食して帰宅。
▼晩遅く中谷巌氏の「竹中平蔵君、僕は間違えた」(文藝春秋三月号)読む。一昨日の読売新聞への同氏の発表と同じ内容。せつかく表題は「竹中平蔵君」と呼 びかけるが内容に竹中君への具体的な言葉なし。編集部のネーミングなだけ鴨。いづれにせよ竹中君の名を冠にするなら「竹中平蔵君、君も間違えている」にで もすりや良かつたのに。雇用システムの改革の結果、雇用が不安定化し格差社会だの低所得層増や派遣の問題が生じ郵政民営化では贅沢な資産の運用こそ意義が あるが山間の小さな郵便局の閉鎖など問題があり、と指摘するのは改革以前から「そんなこと小学生でもわかつてゐた」レベルだが中谷氏曰く、ぬくもり、思ひ やりだの社会へのまなざし、と。結局、自民党政府の「心のノート」でお勉強が必要なのは政府中枢で改革の旗振つたやうなセンセイ方だらう。
▼“Downturn in Dubai sends foreigner elsewhere”とIHT紙1面の記事。「ドバイ空港周辺にはドバイで職を失ひ海外に回避した外国人たちの乗り捨てた自家用車が三千台」と誇張もあら うが。その自動車には使ひ込んで「ごめんね」と書かれたクレジットカードも散見される、と、もう都市伝説めいた話。石油が枯渇したらどうなるのかしら?と 思つたがポスト石油の時代に生き残るための金融ハブ化なのだといふ公式見解。それが石油枯渇前に砂漠の砂に埋もれた巨大な廃虚となつたらSF未来小説の格 好の話題か。

二月十二日(木)新界で一席講座を聴いた足で早晩に尖沙咀東。新富山撮影器材公司(New Francisco Photo Co.)にライカのカメラ、レンズ眺める。けして愛想が良いとはいへぬ店主氏が珍しく「ライカは何をもつてはる?」とアタシに尋ねる。アタシもつひに一 応、客人として扱はれたか、と一瞬喜びM3とM6とIIIcと答へると「M8は?」と結局やはりM8.2が出て在庫抱へたM8売りたい、といふこと。Mマ ウントにはEpson R-D1s持つてゐるから、それで充分。……とすつかり「大人の会話」。「でもお買ひ得だよ」とご主人。HK$28千だと言ふ。最高値がHK$40千であ つたこと思へば確かに価格下落はM8.2の登場によるもので、こちらはちなみにHK$38千の由。価格.comの最安値でM8は588千円、M8.2は 738千円だから香港でM8シリーズは俄然「お買ひ得」は事実。日本からライカユーザーのお客様ならビジネスクラスに乗つて香港にM8.2買ひに来ても日 本よか18万円くらい安いとは。それでも「欲しいか」と言はれるとちよつと二の足を踏む。久々に五味鳥。バンコクから来港中のY氏と飲む。飛行機から鉄道 の話、さらにチョイの間の話題から地唄舞まで話題尽きず。踊りで「おゐど」をちよと出すにもただおゐど出すのとは違ふ、頭をかう向きを変へてみせることで おゐどが自然とかう出る、さういふ吉村雄輝的な世界。焼き鳥数串と生野菜。焼酎4合瓶をさつと飲み干し、これで九時過ぎで帰宅すれば可愛いのだがつい銅鑼 湾で途中下車。久々にバーSで獨酌。半夜三更に至る。
▼一昨日、七日の蘋果日報に突然、香港マラソン絡みで台湾から居港中の愛新覚羅溥聰氏の記事ありしこと綴りしがアタシの新聞読みの触感も我ながら強ち狂つ てをらず。本日の蘋果日報の「隔牆有耳」(壁に耳あり)欄に「肥 佬黎搵到金溥聰開台好輕鬆」といふ自社ネタゆゑスッパ抜きではないが、特ダネあり。蘋果日報社主の黎智英氏が台湾で台湾年代テレビ局だか買収でそ のCEOに愛新覚羅溥聰を招聘の由。肥黎社長は「不藍不緑」で国民党、民進党からは不偏不党の大台湾・泛台湾のメディア創設と謳ふ。七日の香港マラソン絡 みの記事はこの予告つてところだつたか。
▼先日のシカゴ交響楽団の香港公演。十日の信報の廬鞭客氏の評論によれば一晩目の開幕演奏会、自称政治家・文革曽行政長官夫妻はモーツァルト41番ジュピ ターのみ聴いて中入りで退散の由。廬氏曰くこの行政長官にこそ後半の「英雄の生涯」聴いてもらひたきところ。第一楽章の第1主題「英雄」に続く「英雄の 敵」の登場で何かと敵に囲まれる英雄はさぞや共鳴するだらう(笑)、と。この文革曽の途中退場、昨年だかの香港フィルの新季開幕式典にのみ顔を出し開幕公 演聴かず退散の前科より更に深刻、と廬氏。ちなみに文革曽退場で中入り後に舎弟・曽俊華(実弟に非ず)夫妻が交替で着座の由。
▼SCMP紙の経済面Lai Seeが“Richard Li's Journal prefers to let rival do the talking”と野次る。PCCWの非上場化図る「李嘉誠の次男」リチャード王子は数年前に買収の信報の社主でもあり。で信報が先週、このPCCWの株 主総会の紛糾こそ翌日、記事で報道したものの信報の名だたるコラムニスト陣の誰もこの話題に触れず。香港経済日報紙は信報が主筆の練乙錚がその日の連載論 評で香港の英語教育云々など綴つたことを揶揄の由。これに対して練乙錚が昨日「回應詰難 申報利益」として反論。このPCCW私有化に触れぬのは「市場諸事,如果沒有政策涵義,或者和政府施政無關,我沒有興趣」とし、中信泰富の破綻は社会問題 として取り上げたが
盈科(PCCW)私有化,收購價高低是市場問題,小股東大老闆之間 求利之爭,感情上我較多站在小股東一邊,但理性上沒意見。種票是骯髒行為,已有表面證供,若查實並非空穴來風,而且是李澤楷或其他盈科高層授意,則所為足 與馬多夫比臭。那將不僅僅是寫評論的好題目,還可讓我早點「復得返自由」。
だとして一蹴。そのうへ
有一個專欄讓我發聲當然好,但老實說,每周六天、每天十二小時以上 的工作,一年下來,我已十分疲憊,近日頻頻思念的,是那看海的日子。
と泣き言とは驚き。練乙錚こそ信報の創業者で社主であつた香江第一健筆と賞される林行止氏の引退で、信報で林行止を襲ふ立場として主筆として迎へ入れられ た人。それが一年余でこれぢや信報もやはりポスト林行止ではゐよ/\終焉かしら。

二月十一日(水)
▼北京で北京五輪に合はせ鳴り物入りで建造、落成の中国中央電視台総局ビル。隣接の付属高層ビルが元宵の晩に打ち上げ花火の引火で全焼。マンダリンオリエ ンタルが入居で落成間際の惨事。しかも中国中央電視台による違法な花火打ち上げ。ニュースは流れたが一味違ふ報道が紐育時報(IHT紙)。さすがに中央電 視台も記者会見で謝罪し新華社もニュースこそ流したが中国国内各地の新聞は一面トップに写真入りでデカ/\といふ報道「自粛」。北京日報は代りに?韓国で 建物崩壊で4人が下敷きになり死亡の記事が写真入り。“CCTV apologies for blaze, but coverage was often hard to find”と。さもありなむ、の中国の報道事情。
▼朝日新聞(衛星版)に故・加藤周一氏の追想連載始まる。第一回は当然のやうに樋口陽一先生。
『夕陽妄語』の筆者が「日本国憲法」が「『伝統』になるかどうか」 を「今後の問題」と書いたのは、二〇年前だった(一九九八・一二)。その間、“戦後レジームからの脱却”を掲げる政治の流れが加速するのに抗って、「日本 でも(政治の)伝統的原則の普遍性について語ることができる」ための人びとの営みに積極的にかかわることをやめなかったのは、「加藤周一」の「文学」に とって、必然のことだったのである。
と樋口先生。加藤周一は、アタシはこの人の戦前から戦中のレジスタンスの弱さがどうしても解せないが、戦後にとつて積極的に戦後日本にこの「伝統的原則の 普遍性」を据ゑようとしたことで樋口先生が加藤周一の名を「」にしたもの。その普遍性が未だにConstitutionとして形成されてをらぬことが戦後 の日本の不幸。この記事の下に島田雅彦氏の今週末で連載終了ださうな「徒然王子」の連載小説あり。物語佳境に入り霊となりし王子が老いた父母君の住まはれ し皇居に現れる。唯一のお世継ぎたる王子の失踪(死亡扱ひ)にて皇譜も絶えようかといふところ王子は自らの落胤あることを父君に継げ「王制を廃止し、この 国を外国に売り払はうとしてる者たち」に一矢を報はうと。戦後の美しきレジームの「伝統的原則の普遍性」を今や畏れ多くも今上天皇陛下にこそ頼らうとす る、我々の時代そのもの。
▼読売新聞に中谷巌氏が「構造改革路線の罪」と題し昨年末上梓の『懺悔の書』に続き小渕内閣での経済戦略会議への加担に始まり「私は、間接的な形であるも のの、小泉改革の片棒を担いだことになる」と自己批判は小泉三世や竹中平蔵君らに比べればフランシス=フクヤマ氏同様にご立派。だが一橋の経済学教授、現 職で三菱UFJリサーチ&コンサルティングの理事長務めるほどの碩学が、なぜ「小学生にもわかるバブルの生成と崩壊のストーリー」(中谷氏)の危ふさに 「我々「大人」には見えなかつた」のか。失礼ながら恥づかしいかぎり。これまでの贖罪で論壇での主張に期待したいところ。だが
貧困大国となった日本社会をもう一度「一体感」のある温かい社会に 戻すには何が必要なのか。このことこそ、われわれが今、真剣に問い直さなければならない喫緊の課題なのではないだろうか。
と言ふ、その「一体感」こそ曲者。それがチャチなナショナリズム、自民党政府的には教育でいへば「心のノート」的なところ に収斂されることの悲しさよ。

二月十日(火)恩が仇になる不愉快な一件あり。レベルが低俗週刊誌なみの客観性に乏しきセンセーショナリズムなのが悲しいかぎり。忘れよう。春節のあひだ 大いに心和ませてくれた桃の花もさすがに花でも草臥れたり。昨晩が元宵。桃の花も暦を知りにけり。ふ とZ嬢が春節の正月十五日が元宵なら、日本は新暦にしておいて太陽暦の一月十五日を「小正月」と、ありやなんてひどい発想かねぇ、と。御意。さう、幼きこ ろ「田舎では正月は十五日遅れで」と聞き、それが伝統的らしいが、なんだか今ひとつ理解できずにゐたが、今となつて思へば陰暦正月十五日の小正月まで太陽 暦に置き換へ、田舎ほど形だけの小正月に従順とはまるで頓珍漢なこと。晩にNHKのNW9いつものやうにキャスター田口某に呆れつゝ眺めてをれば「底を知 らぬ消費の冷え込み!」で「必要のない物は買はない若者つ!」と、アホか。不景気でとくに若者の賃金が抑制され梲も上がらない状況では、単に当たり前のこ と。このチープなるセンセーショナリズムよ。
▼話は旧聞に属すが七日の蘋果日報に「馬 英九核心幕僚 中大政治傳播溥儀堂弟:港民主路難走」なる記事あり。台湾の馬英九総統が台北市長時代に副市長に抜擢の腹心、金溥聰は愛新覚羅溥儀 の傍系末裔、副市長退任後に現在まで香港中文大学で客員教員の身。記事はこの台湾の政治中枢から身を退き香港に客居の日々、氏の村上春樹的なランニングの 日々を紹介は週末に香港マラソン参加、が記事。だが氏は馬英九が対中窓口として香港に遣つたといふ噂もあり未だに政治的キーパーソンといふ説もあり。蘋果 日報も敢へてマラソン記事にしたところが巧妙なり。
▼元NHKの米国御用掛、手嶋龍一君が「オバマ演説はケネディを超えた」とジェラルド=カーティス君(コロンビア大学)相手(文藝春秋三月号)。冒頭から 手嶋君曰く
カーティスさんと私は、思へば孤立無援の少数派でした。不動の本命 候補ヒラリーに挑んだ、無名の候補者オバマに掛け続けたのですから。選挙戦のさなかに「もうダメでせう。早く宗旨替へをなさい」と選挙戦のブログから幾度 も忠告されたのです。
と勝てば官軍、穴馬も勝てば、の言ひたい放題。小浜君はイリノイ州選出の上院議員の当時からすでに雄弁で慣らしビル=クリントンが田舎州の知事から大統領 選の民主党候補に名乗り上げた時などに比べれば充分の知名度あり。ヒラリーは「不動の」といふほど本命にあらず。民主党の候補者選で小浜君に賭けたことは 「孤立無援」とは言ひ過ぎも甚だし。
▼今日の信報、張五常教授の「人民幣滙率的科學觀」より。
佛利民曾經對我說,比較優勢定理是經濟學上最重要的。這定理簡單精 彩,經濟學行內沒有一個不認為是真理。定理說,原則上,像美國那樣財富與人材、知識皆雄視天下的國家,遇上國際廉價勞力暴升之際,會賺取巨大的收益。然 而,這定理假設的,是沒有最低工資的約束,沒有工會的左右,沒有關稅,當然也沒有什麼保護主義了。這些假設皆明確,這裡要分析的,是比較優勢定理的一個重 要但少人注意的假設:該定理是基於一個物品換物品的世界,沒有貨幣,因而沒有今天大吵大鬧的滙率話題。
フリードマン教授の学徒としての五常教授曰く経済理論はあくまで交易だの貨幣だのその事象のみ抽出しての理論の世界。それが現実の世界で政治だの様々な ファクター関はつた時に理論じたいの賛否を問ふことの不健全さ。フリードマンもさうして悪者扱ひかしら。

農暦一月十五。元宵。今宵の満月は半世紀で最大最圓の元宵月亮ださう。しかも月蝕つき。残念ながら朦朧と霞む空で月は愛でるに能はず。毎月読んで大半の記 事はデジイチ関連で読み流さざるを得ぬカメラ雑誌だが二月号はアサヒカメラが50mmレンズ特 集、縦・横の構図講座といつた使へる記事多く日本カメラも充実の「おこづかカメラ大捜索」など充実。後者は巻頭グラビアからドカン!と北海道の凄い白黒写 真を見せられ思はず森山大道!と叫ぶ。叫ぶしかない。日本カメラでデジタル画像を銀塩つぽくシュミレーションできるソフトの記事あり。DxO Film PackとNik Color Efex Proといふソフトを使ふとデジタル画像が、あら不思議、ベルビア50風とかエクタクロームE100風になるといふのだが……結果は素人が出来上がりの写 真を見れば一見して銀塩フィルムの勝ち。月とスッポンくらゐ違ふ。まもなく松屋銀座の中古カメラ市。出店するI.C.S.輸入カメラ協会加盟のカメラ屋が 目玉出品を広告に載せ垂涎極まりなし。カメラ屋の広告は一見、アサヒカメラも日本カメラも同じやうだが熟読せば後者の方がカメラ屋の広告が丁寧。銀座のス キヤカメラでライカLマウントのリコー GRレンズが広告にあり。極上品で135千円也。軍資金もないのに思はず食指動くが確認したらもう売り切れ。これを入手の御仁は幸せ者。Lマウン トといへばレモン社でニコンの50mmのf1.1あり。これも稀品だがお値段は155万円也。とても手は届かぬ高き空に浮かぶレンズたち。かうしたレンズ を日本のメーカーが製造してゐた時代の至福。かうした快感が同じカメラ雑誌でも後者の広告に多し。
▼数日前に「あのひと検索 SPYSEE」で我が名の検索を試みた結果がこ れ。実際に知己の方は故・月本裕さんと斉藤修、村上卓史のお二人だが前者は同姓同名の一橋大学経済研究所教授で、松井今朝子さんあたりが出てくる のは久が原のT君の流れかしら。董建華と陳方安生も可笑しいところ。あとは旧仮名遣ひで福田恆存先生あたりが富柏村に繋がつた。

二月八日(日)快晴。日値歳破、大事不宜と暦にあるが本日は香港挙げての香港マラソン。10Kからフルまで総勢55千人が参加の由。10Kのスタートは朝 五時で三万数千人が参加。八時のフルマラソンのスタートをテレビニュースで眺め忸怩たる思ひ。まだ癒えぬ腰痛が憎らしい。今日もご公務。マラソンの影響でハーバー沿ひの幹線道路規制あり市街路がかなり の混雑。夕方、銅鑼湾に出ればゴールはヴィクトリア公園で午後1時半に終了のフルマラソンで街頭にまだ参加者多し。早晩に尖沙咀。昨晩のJimmy's Kitchen隣りの釜山韓国餐廳でランニングクラブの香港マラソン打ち上げに参加も応援もしてをらぬが末席を汚す。かなりの暑さで走りはかなり過酷だつ た由。帰宅して朝日カメラと日本カメラ読みながら昨晩に続きマーラーの6番をゲルギエフ指揮のLSOで聴く。あの第4楽章が終はつたと思つたら突然 “Tangerine”が流れた。レッドツェッペインの三枚目の。意表をつくi Podならでは、のこと。曲順設定のためSymphonyの次にTの筆頭の曲がTangerineがため。それしても意外とあの悲愴的、の6番のあとに流 れるTangerineが合ふ。自然に。マーラーが聴いたらきつと感動してくれるかしら。中学1年の時にDeep Purpleのロイヤルフィルとの合奏に感動したとき以上に心が安らぐ。
▼朝日新聞の書評欄で新潮社の日本鉄道旅行地図帳のうち東京版をネットで注文。東京の市電なども含め網羅の由。面白さうだが表紙からして見事。敢へて東京 の高低差だけの地形図に国鉄と薄色で私鉄の鉄道路線のみ配したレイアウト。原武史先生なんてこれ見ただけで垂涎だらう。かうして見ると東京がいかに高低差 のある坂と谷の市街か、を納得。山の手が神田川と渋谷川の谷間を除くとずつと高台。恵比寿居住の若い頃に明治通で新宿だ、外苑東通りで神宮だ、麻布を抜け て赤坂だ、と自転車で走りまくつた頃、麻布あたりの坂の多さに辟易としたこと彷彿。
神宮に 急く朝 心の悸さ 逢ふ神々よ 
とか迢空先生風に色紙に柔らかく書いたら久が原のT君にとかはウケるかしら。

二月七日(土)快晴。昼の気温摂氏廿四度。初夏の如し。土曜だといふのにお針仕事終はらず。注文に間に合はせようと手を休められず。昼に独り跑馬地の寿司 澄に握り寿司頬張る。夕方の青空に見事な十三夜の白月を愛でる。早晩に九龍に渡り尖沙咀。Z嬢と「尖沙咀の」Jimmy's Kitchenに食す。この食肆が昨年、 同じ大廈の樓上より地面に新規開業して初めて。家賃は高かれど二階での営業ぢや客の目にも止まらず、で路面でバー広く集客に期待だらう、が成功したか早晩 よりかなり盛況。ところで同じAshley街の「京笹」も京子ママ、と言つてももう知る人も少なからう、が京子ママ時代からの店舗を出てAshley街の 突当りにかなり広めに新装開店。でJimmy's ではお決まりで名物のドライマティーニ注文したが今一つ、といふか今二つ。FCCのバー並みに水つぽい。食事は蟹肉とアボガドの前菜、オニオンスープと ビーフストロガノフ飯をZ嬢とシェア。好物の蟹肉とアボガドの前菜が、かつては半分に割つたアボガドに蟹肉がグラタンのやうに多少、火が通つて温菜だつた のが「あれ、これ注文と違ふんぢやない?」と思へるサラダ風の冷菜。でも蟹肉とアボガドには変はりないので丁重に「レシピを変へはりました?」と尋ねると 黒服の給仕慇懃に「さうどす」と答へ「いづれがお好みで?」と尋ねるから鳥渡困つて「以前のが……」と告げると笑顔で「次回は「以前ので」とご注文くださ いまし。ちやんと作らせていただきますので」と給仕氏。こんなやりとりが出来るだけやつぱり老舗の格。まだMTRの工事終はらぬ尖沙咀を歩きパイプ一服し つゝ香港文化中心。市俄古交響楽団の演奏会。 今晩のシカゴ交響楽団の演奏会入場料、香港にしては一昨年のベルリンフィル以来の高値。しかも香港芸術祭で公的支援あつても高値。昨年の紐育フィル の二倍近し。今晩はマーラーの6番の1曲でS席がHK$1,480ぢや、冗談ぢやねーよ、全く。ちなみに昨晩はモーツァルトの41番とストラウスの「英雄 の生涯」で2曲だから(笑)HK$1,680である。高い。がZ嬢の話では数日前の麻布谷町のサントリーホールぢや4万円ださう。今回のシカゴ交響楽団の この演奏旅行につき三日の信報(芝加哥交響樂團訪港險觸礁)に斯の如き逸話あり。
一脚踏兩船、二兎を追ふ者は一兎をも得ず、で今回のシカゴ交の中国 ツアーは香港に始まり上海、北京の旅。公演環境がまだ整備されぬ内地でシカゴ交のマネジメント会社はまづ上海東方藝術中心と談判。三年前にベルリンフィルが訪滬、当初の上海大劇院との交渉翻し新興の 東方藝術中心での公演決定。契約反古にして上海大劇院に再三致歉の同じ轍を踏まじ、の筈が歷史重演はベルリンフィルの公演から半年後の今から二年前、シカ ゴ交は東方藝術中心とさつさと今回の公演を決定。面子潰された上海大劇 院は勃然大怒、将来にわたりシカゴ交には会場は貸さぬ、と憤慨は当然。でシカゴ交は今度は北京での公演場所の選定。実は上海東方藝術中心の運営は北京に本 部ある大投資会社保利集團傘下の保利文化艺术有限公司によるもの。で保利集団にしてみれ ば首都も傘下の保利劇院(東京でいへば民営でサントリーホール) で公演あつて当然のところ、シカゴ交にしてみれば指揮者のBernard Haitinkはじめ北京ではそりや北京五輪に合はせ完成の国家最高級の国家大劇院で公演して当然。保利集団は保利劇院での公演実現のため出演料に一晩 US$3万の祝儀(二晩でUS$6万)までイロをつけたがシカゴ交は保利劇院での公演に首を縦に降らず。で怒つた保利集団は上海での東方藝術中心での公演 解約!と三行半突き付ける。中国ツアー暗礁に乗り上げたシカゴ交は平謝りで上海大劇院の門を敲き公演許可取り付ける一騒動。で足下を見られたシカゴ交は本 来、港滬京の三箇所六晩の公演でUS$60万×三都市=US$180ふんだくる筈が北京はUS$50万で調印、ツアー日程の関係で1泊分当地 主催者側が負担せねばならぬ上海は更に勉強してUS$45万とし香港も北京と上海に倣ひUS$55万に値下げ。で今回のシカゴ交が払つた授業料(収益損) はUS$30万也。
それでもざつと計算して香港の二晩US$55万なら一晩の公演がHK$2,145千、箱の収容人数が2,019人で平均すると1,062ドル。最安値の席 がHK$380ぢやS席が1,480となる。北京、上海でのトチリなければ更に入場料上騰してゐたか。それにしてもシカゴ交響楽団、アジアツアーでぼろ儲 け。でマーラーの6番。とにかく最近のシカゴであるから「音のデカい」「管が雄叫びをあげる」といつた勝手な印象強いが第1楽章の第1主題からその通り。 この小屋ぢやその大音響に応じるも能はず。この6番は完成度が高いと言はれるがアタシのやうな音痴には今一つ面白さがわからず80数分の演奏は正直言つて 少し飽きる。しかもBernard Haitinkの演奏はぢつくり、多少テンポも遅め。だいたいこの曲を演奏できる、演奏する、演奏して聴かせようと自信をもつて言へるオケは多からず、敢 へてこの6番をやつちまはう、といふのがシカゴらしい。アタシが6番で最近聴いたのはゲルギエフ指揮のLSOの実況録音版。スケルツォが後ろに回る最近風 だがハイティンクさんのシカゴは従来通り。別に愉しく演奏する曲ぢやないがシカゴの奏でる6番はLSOの喜びも悲しみも感情豊かに、に比べると音量豊かだ が「それぢやどうなの?」がアタシの勝手な「こじつけ」だがまさに米国的。この曲が「意志を持つた人間が世界、運命といふ動かしがたい障害と闘ひ、最終的 に打ち倒される悲劇を描いた」(パウル・ベッカー)としたら米国の今の悲劇的な経済状況そのもの。さういふ意味ではこの曲をシカゴが香港から上海、北京と 演奏して回るとしたら中国に対して暗示的で興味深いところ。いづれにせよヘヴィイな作曲家のヘヴィイな曲をヘヴィイなオケによる演奏に演奏終はつて「脂つ こいものを食べ過ぎ」の感じ。客席で劉健威ご夫妻に邂逅しご挨拶、尖沙咀のMTR站でも遭遇し今晩の演奏会のこと鳥渡立ち話。帰宅してLSOの6番を鳥 渡、聴く。今晩の演奏のアトだとこつちはポップスに聴こへるから。
▼多摩テック近々閉園の由。まだあつたの?と寧ろ驚き幼き頃に父に連れられし頃懐かしむ。多摩動物園と多摩テックで一日を満足の昭和40年代よ。

二月六日(金)快晴。ケーブルテレビで偶然、中央電視台のチャンネル11に戏曲频道あり24時間、京劇流すこと初めて知 る。晩に帰宅してドライマティーニ二杯。なんかこれだけが日々の愉しみ。菌類のパスタと豪州のSally'sHillのシャルドネの05年。
▼朝日新聞の声欄に「ガッツポーズ評価できない」と宇都宮の15歳の高校生の投書。
外国人力士がたくさん上位を占める今だからこそ、相撲の精神、日本 人の謙譲の美徳をしつかり教へていただきたいと思ひます。相撲が国内で斜陽化しつつあるので、なほさらこんな気持ちを抱いてしまひました。
とわかつたやうな書生論は若気の至りゆゑ赦すとして、これを載せて喜ぶ朝日新聞の見識こそ疑ふべき。
横綱のガッツポーズにいきどほり朝日に吸はれし15のこゝろ  富 柏村
相撲が本来、遠国の得体も知れぬ巨体をば招き裸体曝させ「あら、いやらし」と驚いて扇子の端から眺め楽しむものなら、敢へていへば見られることのまなざし への羞恥心こそ相撲のありさま。何が日本人の謙譲の美徳かしら。
▼雑誌Forbesが香港の富豪番付40位発表。昨年に比べ李嘉誠がUS$320億から162億、郭氏兄弟が240億から108億と押並べて資産半減。最 悪はマカオの賭王スタンレー=ホー君で昨年第4位のUS$90億から89%の下落でUS$10億となり19位に後退。安からう不味からうの「大家樂」経営 者がUS$5.6億で35位にランクインは不景気ゆゑ廉価食堂チェーン快進撃の結果。李嘉誠の次男リチャード王子はこのForbesの資産計算が1月23 日で、王子の所有するPCCWが株式上場廃止前の「買ひ」で株価上昇中につき24位から19位と上昇、資産下落も27.6%で他の富豪に比べれば火傷も軽 し。PCCWといへばSCMP紙のLaiSee氏もPCCW株所有で私有化決議の株主総会に出席のところHK$50のお食事券提供された由。9年前に PCCW株をHK$9.8で購入してからの配当の総額がこのお食事券HK$50と同じで、これから毎年、株主総会に出席でお食事券もらへば80歳で株価暴 落の埋め合はせ可能、と皮肉る。
▼蘋果日報で蔡瀾氏が「温 泉文化」語る。台湾は飲食文化で好きでも温泉はイマイチで自分の主宰する旅行団でも温泉は行きません、と。理由は
台灣的溫泉多屬硫磺泉,有一股強烈的臭味,台灣人以為有味才有效, 其實不然。日本人認為無味,無色,浸起來往自己身上一摸,有潤滑感覺的,才是上等泉。
と指摘。台湾人は硫黄泉をこよなく愛すが臭けりや良いわけでなく日本人は無味無色で浸かればお肌すべ/\が良いとする、と。大間違ひ。
▼その蔡瀾氏に比べると通常、誤認が少ない(と思はれる)唯靈氏が信報で「新潮壽司」とこれは新潮社の寿司屋に非ず「ニューウェーブの寿司」のことだが中 環は蘭桂坊の寿司屋を取り上げ
突然醒起朋友提過有家新派的日本料理Sushi Kuu相當不錯。此店原來就在威靈頓街口,漢字招牌是壽司喰,喰是日本字,讀如Kuu,據日本朋友說意即開懷大嚼的意思。
とこの寿司屋を紹介。日本人の友人によればSushi Kuuは「寿司喰」で「喰ふ」は日本語で……
とこれは大間違ひ。そも/\この寿司屋の名前は「鮨久」で英語は Sushi Qubeなり。鮨久はまだしもSushi Qubeといふ名前ぢや、ある程度の日本人ならこの寿司屋が銀座九兵衛のほぼパロディであることは察し易きところ。
▼駿河台のカザルスホール、1987年に主婦の友社により建設され2002年に日大に売却されたが日大キャンパスの再開発計画で来年3月に取り壊しの由。 バブルの産物ゆゑ泡沫の夢の如し。
▼朝日新聞の文化欄で加藤典洋氏の「文学地図 大江と村上の二十年」(朝日新聞出版)取り上げる。「大江健三郎を評価する評家のほどんどは、村上春樹を否定し、村上春樹を評価する評家のほとんどは、大 江健三郎を否定するか、低くしか評価しない」が加藤氏は通説に抗して両者の近似性を明らかにする、と。1987年に村上春樹が「ノルウェイの森」を、大江 健三郎が「懐かしい友への手紙」を発表し、前者はベストセラーとなり後者は文学の権威筋から高い評価受けたが、それに先立つ86年に大江が村上の「社会に 対して……野道的な姿勢をとらぬ」スタンスを批判。これがその後の評価の構図を生じさせたが加藤は「共に外国文学から強い影響を受けて自分の文体とスタン スを作り出した点からして、実は両者は似てゐる」とし、大江も最初の短編「奇妙な仕事」で能動的な姿勢への懐疑、抵抗を足場に小説世界を成立されたのに 1965年の「ヒロシマ・ノート」の前後から能動的な姿勢に転じ、方や村上は1995年の地下鉄サリン事件を題材に扱つた時期を境にデタッチメントからコ ミットメントへと態度を移行させ、この点で重なるだらう、と。日本の文壇=交流に対して「海外でよく知られてゐる大江、村上の間に全く対話がない」がこの 二人の普遍性を見ることの面白さ。興味深い指摘。だが大江と村上ではナルシズムにおいて同じ過ぎてお互ひ相手を敬遠だらう。

二月五日(木)快晴。昨日にGuka Omarova監督の“The Recruiter”と本日Royston Tan監督の“15”がamazon.comより屆く。前者は香港映畫祭で、後者は劇場公開で見た作品。いづれも所有願望迄抱かせる作品。忙しく全編通し で見る時間もないが端折つて見ていくつかの印象も鮮烈なる斷章で思はず感淚も緩む。 晚におでん煮て食す。澤の鶴二合。

農暦正月初十。立春。ここ数日のばか陽気。早晩に帰宅し久々にドライマティーニ二杯。この冬の最後かしら、で雑煮食す。
▼温家寶首相が倫敦でダウニング街10番地訪問し英国首相と会談。ダウニング街10番地といへば路道の地味 な家屋でつとに有名だが外賓来訪でも降り積もつた雪さえ他の国なら徹底した除雪作業のところ、さつと掃き掃除した程度なのがご立派。公僕は公僕。公僕たる もの質素に、の伝統か。あるいは侘び寂びの世界観か。
▼信報で昨年、張五常と關愚謙の両氏が老いても筆盛ん、で投稿始まつた当時はその言論の妙にまさに「拝読」であつたがお二人とも北京五輪で地軸狂はれ…… なんて書くと「ブログで誹謗中傷」と訴へられる今日日この頃、物言へば唇寒し春の風、両氏ともほぼ毎週の連載なのだが読んでも正直言つて鳥渡、面白くな い。それだけ。
▼李嘉誠の次男、リチャード王のPCCW、大手通信企業と言はれるが人口700万人の市場の通信会社で何が大手なのかわからぬが、PCCWをリチャード王 が株式上場廃止の私有化。晩十時に至るマラソン株主総会で私有化可決。通信会社といふのは、殊に公共事業的独占会社に由来するものは企業であつても私有化 などさう易々と認められるものではない、と思ふが。通信、といへば旺角で最近おきた私娼殺害強盗事件で犯人の買春客逮捕。鳳姐=淫売婦から奪つた携帯電話 を二手店=中古携帯販売店に売りつけ店員がその携帯を使用。携帯のSIMカード入れ替へても電話機ぢたいのIMEI(Int'l Mobile Equipment Identity)が通話の度に通信会社の記録に残り警察がそれを元に利用者を特定、で犯人逮捕の由。

二月三日(火)快晴。早晩にTaikoo PlaceのButterfield's Clubのバーに二氏と麦酒飲み帰宅。春節の前晩には花が開くは九つ、十であつた桃の花が見事に咲ひてゐる。
▼仏元首相ドビルパン氏のインタビュー(朝日)より。仏外相としてイラク戦争の回避に動いた時、正義は通用すると思つてゐましたか。
イラク戦争を巡る私たちの闘ひは、結果がどれであれ遂行しなければ ならなかつた。もちろん私たちは戦争が起きないことを 望んだが、戦争が起きた時、それが国際的なお墨付きを得たものでないことを明確にする目的もあつた。国連が戦争に同意してゐたら、国連の信用は失墜してゐ ただらう。戦争の責任は米国とごく一部の国にとどまる必要があつた。世界を分断する争ひにしてはならなかつた。
日本はこのごく一部の国の一つかしら。正義そのものに聞こえるがちやんとイラク征伐後の米国の威信失墜を予想しての外交判断がこれ。実際にドビルパン君の 仕へたシラク師匠ではなく後任のサルコジ君ではあつたが欧州と地中海の中心国としての確固たる地位。
▼朝日の「大麻汚染—怖さ をもつと知らせねば」の社説。角界の力士の大麻所持の逮捕、解雇処分。「体に人一倍気をつけるべきスポーツ選手の大麻汚染は、大麻はたばこより害 が少ないなどといふ誤つた認識があるからに違ひない」と言つてみせる。社説は世界保健機関の検証=おそらく1997年の古典的大麻報告“Cannabis: a health perspective and research agenda”の受け売りだらう、大麻の害を紹介するが、このWHOの報 告は“Programme on Substance Abuse”の一連の研究の一つ。薬物の「乱用」。朝日新聞の
世界保健機関によれば、大麻は脳に影響を与へ、記憶力や学習能力を 低下させる。空間がゆがんで感じられ、事故の原因になる恐れもある。無動機症候群と呼ばれる、やる気を失ふ精神障害にもなりかねない。
は実は(以下、邦訳引用はこちらよ り)「大麻使用の「急性の」健康への影響」の部分にある
大麻は連想のプロセスを含み、認知発達(学習の能力)を損なふ。学 習と回想の両方の期間において大麻が使用されたとき、以前に学習した項目の自由な回想はしばしば損なはれる。
大麻は、運動神経、注意の分配、および多くのタイプの作用してゐる タスクなど、さまざまなタスクにおける精神運動性の性能を損なふ。複雑な機械に関する人間の性能は、大麻に含まれるわづか20mgのTHCの喫煙の後、 24時間にわたつて損なはれる可能性がある。大麻に酔つて運転する人々の中には自動車事故のリスクが増加する。
と、つまりキメてハイな状態の時、どのやうな状態になつてゐるか、のこと。WHOは一服するとかういふ状態になるんですよ、と事実を書いてゐるだけだが朝 日の社説では「大麻をキメてゐる時は」といふ前提が隠されてゐるため、まるで大麻を吸つてゐると(大麻でハイになつてゐない時でも)こんな精神「障害」を 来すやうに読めるもの。でWHOの報告はこれに続き大麻使用が「慢性」の健康への影響を教へる。そりやアルコールなども含め精神的にも健康上にも慢性の乱 用で害のない薬物などあらうはずがない。朝日の社説は「キメてゐる時」と「慢性乱用」がごちや/\。大麻の是非は此処ではアタシは問はぬが、社説として論 説は正確にあるべき。それに比べ大麻力士(「大麻」といふ四股名もありか)を除名とせず「解雇」とした日本相撲協会は「弱腰」と批難されるのだらうが、な にせ力士暴行死事件に関与の親方が「解雇」処分なのだ。この判断の是非は別にして、処分が感情論に拠らぬやうに「量刑判断での判例の尊重」が大切なわけ で、その原則論なら大麻で除名は重すぎ。「除名と解雇には、打ち首と切腹の違ひがある。簡単に伝家の宝刀を抜くべきではない」と冷静なコメントした監事は 元警視総監なり。

二月二日(月)晴。今日のFT紙はまさにGrandpa Wen祭り。一面 トップで“Wen looks at fresh stimulus”と祭上げ5頁目一面割き“A mandarin's mandarin”と持ち上げる政治的言説と修辞。ロラン=バルトやフーコーが聞けばいつたい何と述べたかしら。「我らが」温家寶首相曰く“I want to makes it very clear that maintaining the stability of renminbi at a balanced and reasonable level is not only in the interests of China but also the interests of the world”と。まさか先進国が中国にご利益期する時代にならうとは。そして中国の自信。だが中国では春節後に働き先に戻れぬ労工の数二千万人と発表。深 刻な不況や英国での温家寶首相への抗議者による靴投げも報道するだけ中国もマシか。それにしても温家寶の周恩来以来か、の世界に安心感与へるあの大人ぶ り。確かに“A mandarin's mandarin”だが「日本になぜあんな指導者が現れるのか」と嘆くは易し。内田樹先生的には寧ろ「さういつた指導者に期待を委ねなくても良い政治的社 会環境を選ばなかつたのが日本人の選択」で「さういつた指導者を必要としなくてもどうにか間に合ふ社会であることは寧ろ幸せと考へるべきだらう」となるの かしら。
▼今日の朝日新聞に苅部直氏による西部遇氏インタビュー読む。
経済学の抽象化された論理が現実政策を支援することの危険性。
人間が効用、不効用で効用を選ぶといふ近代経済学の人間観はばかげ てゐます。
(マルクスの労働は人間を疎外するといふ論に対して)人間は生きて ゐるかぎり疎外される。
市場では、商品を売る側と買ふ側も、将来について一定の見通しが必 要になる。
市場をシジョウと読んだときから、すでに経済学はゆがみ始めてゐ る。
価格に人間の関係性が表れる。市場とは元来、さういふもの。
といつた示唆は興味深いもの。これについて偶然、TBSラジオの「アクセス」で今夜隔週で出演の田中康夫氏のコメントをPodcastで聞く。田中康夫ち やんはこの西部&苅部対談を取り上げ、康夫氏は西部氏が自分と(主張は)同じくハイエクの自由主義が間違つてゐたのではなくて……と西部氏がハイエクを語 つたことを取り上げ、そこから西部氏も自分(康夫氏)も
ハイエクの自由主義が間違つてゐたのではなくて、ミルトン=フリー ドマンの暴走する弱肉強食の新自由主義が間違つてゐたのであつて、ハイエクが述べてゐたことは寧ろ……
と語り、思ひつきりのフリードマン悪者論。田中秀臣氏の指摘を思ひ出す。内藤克人、宇沢弘文といつた経済学者がフリードマンをきちんと理解せず、ただ誤解 と印象でネガティブに取り上げてゐることを指摘する秀臣氏。康夫氏のこれもフリードマンを語るのではなく他を語る際に悪しき例としてのみフリードマンを用 ゐる。なぜフリードマンは死後もこんなに悪者扱ひされるのか。私のやうな無学でもフリードマンの経済学が単なる「暴走する弱肉強食」とは思へず。フリード マンを所謂、新自由主義と括することすら疑問。実は康夫氏の言及に反して西部氏はインタビューで一言もフリードマンには言及してをらず(笑)。確かに苅部 氏が対談のあとのコメントで、
(西部氏が)市場原理主義の経済学の総帥、ミルトン・フリードマン の教科書を、かつて訳されたお一人であればこそ、経済学の論理の暴走に対する批判は、一段と真剣である。
と述べてゐる。が、これはフリードマンの市場原理主義=暴走する新自由主義とは全く言つてをらず、寧ろフリードマンの本来は効用ある市場原理主義があり西 部氏がその理解者であるからこそ、市場原理主義の狂ひに対する批判が真剣、と述べてゐるもの。西部氏もインタビュー最後でバブルでの日本的経営賛美、バブ ル崩壊でのグローバリゼーション礼賛に続く今度の危機での「市場原理主義批判の大合唱」に「落ち着きがない」と疑問呈される。ハイエクについて「ハイエク の「根本思想は」認める」とした西部氏は(これだけでも康夫氏の主張とは多少ニュアンスが異なるが)けしてフリードマンの市場原理主義を否定もしてはおる まい。

二月朔日(日)曇天。身体を思ひきり動かせぬ所為だらう、どうも気持ちが今一つすつきりせず人生何事にも鬱気味。中環を午前十時半のフェリーに乗りZ嬢と 久々に南Y島へ。榕樹湾。日曜の遊楽客で賑やかな集落漫歩。洪聖爺湾に近い建興亜婆の豆腐花食す。Bookworm Cafeなる所謂スローフー ドの食肆に昼餉。島の北端の北角の集落まで散歩する途中、畑で取り立て直売りの野菜購ふ。北角の集落よりまたぐるりと榕樹湾に戻り午後三時のフェリーで香 港仔へ。香港仔といへば山窿謝記だが旧正月でまだ連休中。さすが。年中無休の小肆でも流行る店ほど旧正月だけは一年の垢落としにしつかり休むもの。この春 節で見かけた最多連休は初十二啓市といふ粥屋あり。結局そのまま帰宅。晩に納豆入りの卵焼きを肴に熱燗。揖保乃糸茹でて食す。
▼昨晩食したるHollywood RdはClassifiedなるチーズ&葡萄酒の食肆。樓上は高級マンション。この建物建てられるまでかなりの時期更地ながら、此処はかつての華僑日報の 社屋、とふと思ひ出す。
▼匿名で12歳の少年がネットの掲示板に自らの顔とロセンの特写を出して買春で相手女性求め「如果又靚⋯⋯又有美腿,我畀450蚊1個鐘」と(蘋果日 報)。実在の少年とわかり学校や警察に連絡され少年は補導され反省中の由。ネットにお気軽な情報掲載もこゝまできたか、の感あり。だが援交で売春よりかま だ真つ当か。HK$100ならまだ可愛げがあるか、HK$1,000なら何も知らずに、と思ふがHK$450といふ微妙な価格が、偶然に小遣ひ貯めた全財 産なのか、それがあまりに旺角上海街から鳥渡北に上つての深水埗福榮街あたりで私娼相手、ちょんの間の相場の如し。少年は網上の耳学問で事情通にすら思へ なくもなし。

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