六月二十九日(金)雨歇みて昨日より雲流れはやき中晴れ間もありしものの夕方驟雨に遭う。夜の宴席が先方の勘違いにて流れZ嬢に電話すれば丁度都合好く、中環にて落ちあい、雨宿りせしプリンスビルヂングのBaccarat舖にてZ嬢よりのtumblerぐい呑みを誕生祝ひにと頂戴し夕立に感謝す。スタンレイ街は閣麟街西入ルの埃及料理屋Habibiにて軽く夕餐、猫も杓子も葡萄酒ながら埃及にはちょいとねぇと思案しながら門を潜ればバーに香港には珍しくBoddingtonsの生麦酒の供酒機を見つけ冷菜を肴にBoddingtons、主菜はこの料理屋の名を冠るDolmasなる香米と羊肉のミンチの野菜詰め、美味、閣麟街の許留山にて菴羅mangoと椰子乳の甘味、帰宅して早速Baccaratに酒注ぎ式、まず盃を水で清め糠で澡い(嘘である)紙タオルにて脂気を拭い冷凍庫より瀞々なるAbsolutを注ぐとバカラに高純度のクリスタルを溶かして注いだ如し、盃が汗すらかかぬうちに呑み干し、Bowmoreの葡萄酒樽醸しClaretを喫めばヰスキーにしては丹色を帯びた酒は机上の灯クリスタルの盃に冴え見つめているだけにて微酔う心地。
六月二十八日(木)六月は百年にて最高の降雨量を記録。ここ数日溜まった雑誌を通読、『東京人』古本屋特集にては神保町の谷口書店の主人O氏の尊顔に拝し今読み続けし荷風日剩を谷口にて昨年の正月に購いし事を憶える。谷口の舖の絵に寺田寅彦、鴎外、志賀直哉、露伴と並ぶ全集の黄札眺め買い占めしたき衝動に駆らる。木楽舎の月刊誌『ソノコト』は特集よりも「エスケープルート」なる頁群にて(「かつて」平凡社時代のマガジンハウスが十八番とした)コラム型情報欄がかなり好し。富士通の伝説的親指シフトのワープロOASYSが春に生産中止となっていたことを今日知る。1984年に表示画面どころか文書記憶機能すらなくA4数頁の容量しかもたぬ、但し第二水準漢字を有し今で云うラップトップ型のOASYS LITE機を仙台丸善書店にて当時の大学生には高嶺の花の24万円の大枚を叩いて購いし事、数年後にOASYS30AF、かなり小型のOASYS Pocketと、ワープロとはここで縁が切れたもののOASYSの余波にてパソコンも富士通にてFMR30だか、続いて購いしCD-ROM搭載のFM Townsは使いものにならぬまま。これにて富士通との蜜月は終わるのだが、初期のワープロにて人間が頭中にて言葉を捻り文を綴りそれを指が打出す作業の鍛練となり、当時の親指シフトはそれを使わなくなり早12年経つ今も話す速度を追うように指は親指シフト配列にて鍵盤を空で叩くものなり。
六月二十七日(水)連日の大雨にジムナジウムにも行かず中環が埠頭、軍の駐屯地前より寶珊道行きの小巴にて急ぎ帰宅す。カザルスにて1939年のベートーヴェンのチェロソナタを聴きつGlenmorangie飲みつ雨雲濃深の海峡を眺むる。北京2008年が奥運誘致にてパバロッティら三大テノールなる男“唱”天安門広場にて誘致促進が為の演奏会、芸を売るが歌手の宿命とて金さえ成れば何処へとも樹下に走る拡声器使い、野暮。加藤周一朝日『夕陽妄語』にて姫路城主の弟にて琳派の絵師となりし塙抱一を語り「腐敗した支配層から脱出し社会の周辺的存在として芸術家文人の共同体に投じ和して同ぜず伝統の再発見と活性化によって文化的な価値の実現に貢献した」と抱一を讃めるを読み、丁度敢えて抱一と逆コースを歩み民主党に寄与し大橋巨泉を思ふ。巨泉は政治思想的は背景でいえば三波春夫か六輔巨泉という戦後芸能リベラリズムに在り余が中学生が頃の11PMにて粋に政治をさり気なく語りたるを拝み大人の世界を垣間見せて頂きしが、半ば引退しておいて何故に世上最も野暮な政界に躬を投ずか。巨泉独り躍り革まる政治とは所詮思えず。寧ろ野暮な連中からは距てるが賢明と思えつつ、石坂浩二を「兵ちゃん」ツービートの片割れを「たけし」と呼びつけにすることにて存在をアッピールする権威主義的な芸風にては、青島なき跡の芸人リベラルに祭り上げらるるも必然か。
六月二十六日(火)首相が小泉君になりぬ由にて都議選自民党に復調、さすが石原君を知事に仰ぐ都民だけのことあり。ペルーより逃げ出でたる日僑・藤森君、同じく国外逃亡中の側近モンテシノス君ベネズエラ国にて逮捕さるる。高速道路の料金自動課金システムETCなるものが自動車への取り付け等に三、四万円かかる国、日本、ちなみに香港は装置は無料。国学院の阪本なる神道教授「神社神道は本来的に穏やかな宗教であり、海外神社も靖国神社もまさにそうです」(26日朝日)と、「神道は本来穏やかな宗教であり」までは容すが神道とて一木一草に宿りし神が神社なる祠に縛られた段階にて(つまり神社神道)すでに穏やかに非ず、ましてや国家神道として侵略戦争と一体となりし香港神社や靖国の何処が穏やかか、嗤う。日本の全てが理解できず。雨の中、愛猫の微細な毛が原因が目はショボつき鼻はグズつきフィリップス社製のアレルギー対応の空気清浄機を購う。夜また大雨。
六月二十五日(月)雨。週刊香港K氏を誘い彼が未踏のマクルホース1&2段、昨晩からの雨にて一瞬躊躇するが、これにH氏、Y氏加わり5名にて西貢北潭涌。西貢にて豪雨。どうにか時雨となり歩き始めれば84歳のマラソンランナー爺様のご尊顔に拝し、2段では大雨に見舞われるものの猛暑よりか随分とマシ。地場の悪き中25kmを6:40にて駈け歩く。一旦帰宅してI氏の提案にてトレイルのメンツにて灣仔は北京水餃皇に集うが端午節にて休みにて急遽、美利堅飯店、I氏、O氏にZ嬢加わる。美利堅飯店それまでのけして美味いわけではないが毛唐にウケる北京料理を供しサービスも悪くはなくそれなりに評価された店が数年前の改装を機にかなり拙くなったが、もはや死に体、料理も甘くぬるく精彩を欠き、給仕もかつての覇気などなく客も激減、南無阿弥。此処を提案し何故にせめて燕京樓にせぬかと悔やむ。
赤徑(ちぇっけん)の村の苔屋にしぐれ雨
六月二十四日(日)早朝寶珊道を駆く。午前昨夕に続き尖沙咀にて盂蘭盆藪用済ませジム、九龍公園にて水泳。夕方Y氏のビートルズバンド演奏会にて銅鑼湾、このバンドのあとにT氏のヘビメタのバンドもあり編集者、撮影関係の知古数名に邂逅。参観のH&M夫妻、T夫妻と灣仔は蜀家菜にて四川料理、秀逸、M太の提案にて四川省は錦竹の銘酒剣南春に酔う。
六月二十三日(土)明後日が端午節なり。日本の盲目的な新暦狂いにて陰暦が節句を太陽暦にて祝ふは滑稽なれど端午節のみは六月下旬では梅雨、風薫る五月が好し。快晴どころか猛暑警報に台風警報1号下寶雲道より黄泥涌道、陽明山荘から紫羅蘭山と上りは歩くが走り続け105分にて淺水湾、海にて林望『日本語へそまがり講義』読了、巽孝之『2001年宇宙の旅講義』(平凡社新書)を読了。巽はその視点、否、視覚がどこか記憶にあれば『世紀末ニューヨーク』の著者と本人の記載にて知る。アーサーCクラーク「卿」が「とかく年寄りというものは若者を狂ったように嫉妬するものだ」という言葉は意味深(笑)。嫉妬が愛に変化したのかクラーク卿は(笑)。SFに疎く小松左京も田中光二も大江のSFも知らぬ我には読むに勿体なき講義集。夕方尖沙咀にて盂蘭盆の藪用、帰宅して端午節にて粽。ここ数年節句が粽はI嬢が母のお手製と中環は庸記の粽が恒例、庸記は鮑魚裏蒸粽にて鮑魚、瑶柱、糯米、緑豆、鹹蛋、花菰、湘蓮、栗子が選料。酒は信州が喜久水。書斎の窓から雷の閃光九龍の山に天より走るを眺めるも夏の夜の乙、暫くせぬ間に雷雲南へと進み香港島も落雷の轟音と大雨。
落雷も若き叫(たけ)びか端午節
六月二十二日(金)快晴。数カ月前香港にて公開されし張揚監督『洗澡』、同志社大博士課程のK君と日本にてこの映画が掛かれば日本の野暮な邦題は何かと推笑となり『愛と悲しみの湯煙り』かと、Z嬢は『湯けむりの向うから』とこれも粋な邦題、いずれにせよせ「まさか」と思いしが『東京人』7月号の頁捲れば偶然にも本日東京にて試写会、邦題は『こころの湯』(嗤)、よくもこんな満点な邦題をつけしと開いた口塞がらず。せめて『風呂屋』が真っ当、かつての『自転車泥棒』とか『街の灯』といった秀逸なる邦題をつけし日本洋画界今何処に。邦題も邦題なら『東京人』編集部による映画評も下町の人情だとと『時間ですよ』と同じ視点にてとらえ、この映画のエロチシズムなど微塵も理解しておらず。『こころの湯』では中文では『心臓スープ』、これでは「北京の一見何気ない下町の風呂屋のキチガイ家族が風呂に来た客を惨殺し夜な夜な浴槽の熱湯にて煮こんでスープにした世にも恐ろしい物語」である。『噂の真相』一行情報には「沖雅也元愛人にて美少年評論家の日景忠男氏新宿二丁目にて経営の喫茶店放置し男と逃避行」との由、日景氏が若し女と逃避行すれば話題にすべし。
六月二十一日(木)快晴。携帯はMotorolaのV3688xを一年余使いしがHK$100のrefundも終れたれば食指動きかつての香港Telecom昨今のCable&WirelessHKT、つまり現PCCW下のCSL商店(同規格のGSMにて高級1010と低級One2Freeを抱えしPCCWが営業展開に困り1010和O2Fをドサクサにて一緒くたにしCSLと誤魔化す)にてNokiaの8250購い着信音にバッハ無伴奏チェロ組曲より首曲三小節入力す。
六月二十日(水)水曜日は競馬なり、但し先週にて終い、これより多少時間に余りある夏に入りたり。築地のH君より昨日『日刊スポオツ』紙に福助「早くても03年春」に7代目歌右衛門を襲名と記事ありとメールあり。「人気、実力からみて、いずれ福助が7代目に、という声が強かった」とは何処の話、嗤ひたり。福助が七代目、橋之助の芝翫、芝翫魁玉なる五代目の俳名襲名とも。H君曰く七代目菊五郎を嫡子九郎右衛門のほか、梅幸・勘三郎・松緑にて暗闘を繰り広げし事が再来か、御意、この福助説、誰が推考すも梅玉・松江より本流にて名跡を奪回せむとの神谷町筋からのリークの他思い当たらぬ話なり。六代目の喪も明けぬ内のこの見難い襲名過剰、亡き領袖の喪を厳かに果たせし北朝鮮すら見習ふべし。
六月十九日(火)快晴。水戸っぽM氏と尖沙咀の料理屋K、お任せにて串揚げ、上品なりし揚げ具合にて串すゝみしがお任せは規定の本数ありそれを越えし串は何時ぞやからか単品にて勘定されるを知らず麒麟麦酒を飲み続けしものの二人にてHK$1,200、いくら美味かろうが串揚げは所詮串揚げ、たかだか鮨が高値になりし悪例あれども生の魚(うお)おろすわけでなく季節が魚揚げし天麩羅でもなく、串揚げは串揚げ、遊廓大門の門前にてちょいとつまみし寿司が美味きものと同じく、大阪は環状線の停車場にて立ち食いにてキャベツおかわり随意にと麦酒にて流し込みしが串揚げの美味さ、気取った店にて背筋伸ばして食うものに非ず。気の張った店なれどオシボリが蒸されしどころか水が滴り落ちるほど濡れたればオシボリに閉口難儀、正に空いた小鉢にオシボリ絞り水を捨てし程にて(M氏とさういへば上方はおしぼり濡れ具合甚だしくはないかと文化論)、給仕缶麦酒は栓をきちんと開けぬため麦酒缶より床にドボドボと滴り落ちるも興ざめ。上方は粋と思へど江戸前にては天麩羅は客の具合みて「お好みはこのかき揚げにて最後になりますが」なり寿司も板前「もう少し握りますか」なり声をかければ、この客が止めねば延々と串揚げし様は上方の流儀か、天麩羅ほど具の味の活きぬ串揚げにて揚物が続くも閉口、されど揚げれば食うが坂東の野暮か。いずれにせよ揚げ方との心智合わぬまま店を去りぬ。串揚げといえば梅田は堂島の横丁が立ち食いにて昼より麦酒にて喉を潤し串揚げ二、三本ソース臭く頬張りキャベツにて満腹になるが享楽。帰宅して冷凍庫に凍るAbsolutがウォトカ、盃にて煽るも美味、最近市場に現れし胡椒味のウォトカも亦妙にて味わい深し。
六月十八日(月)快晴。室内にいるは悲しく涙も零れようかというほどの日和。昨日香港政府も加担し中環の広場にて九百名のオバチャンを集めてのParapara、これ邪教に非ず法輪功が邪教とは。ジムにてCNNのモニタはラリー・キングLiveにて95年がサッチャー女卿の雄弁、この時期に突然サ卿が姿とはすわサ卿逝去かとサ卿雄弁なりし80年代が大英帝国の再興を省みつつ鍛練を続ければ、これラリー・キング番組の単なる週末特番にて過去の大物インタビューの再放送と合点、サッチャー物故未だせぬ事を知る。惑わしき番組の構成せぬ事。鳥禽類がウイルス騒動収束し早一週間、巷も落ち着きを取り戻しかと、銅鑼湾は南亜餐廰にてHK$69.5が海南鶏飯、マンダリンオリエンタルホテルに次ぐ値段と美味さにて暫し鶏の再臨を歓びたり。この食肆が好さは海南鶏飯が美味さは言うに及ばず、給仕の信智といい飯の盛り具合といい筋骨類を捨てる小鉢といい絶妙。
話は旧聞に属せしが先週金曜に長く続く雨と低気圧に肩凝り骨の髓まで及び暦を見れば献血日和、銅鑼灣の捐血中心を訪れしが問診看護婦曰くここ一年の外遊記録にありし比律賓は何処へ何時の渡航か、と、答えて曰く比律賓はボラカイ島、看護婦比律賓はマラリア指定地域にてセブ島を除けば渡航から年内捐血を控えるべし、さもなくは血よりマラリア感染なき血清?のみ採り出だし他は実験等献血他用途に用いるが異存ありやなきや、と。余の目的は肩凝り解消異存なく合意、然れど何故にボラカイは高リスクにてセブは良しとするかと質せば看護婦のセブは清潔なりとの答えに余は思わず一笑、セブは国際的観光地にて外国人多くWHOマラリア指定地域にせず、と。外国人多かれば衛生的か、ボラカイとて著名な観光島、かりに余が面倒にてボラカイなる小島の名を上げず差無多とセブと言えばどうなるか、と矢継ぎ早に質すが、この偏見的措置全てWHOの決定にて我知らずと看護婦。折角の捐血もこのマラリア偏見にて肩凝りは癒えず。
六月十七日(日)快晴。今季競馬最終日。沙田。韋達Whiteが最多勝、調教師は簡炳犀、見習騎手は鄭雨填、第二レースにてお気に入りの華仁之星と昨年評価高かりしが今季未勝の新皇朝のQを外し今日はもうダメ、最終レースでは路路發(馬安東)と日照天河(余健誠)など来てしまいQがHK$4,800つく高配当に今季の負け越しを最終レースに賭けたオヤジたちはデューの音も出ぬ唖然。今季の反省。自信がないなら賭けるな、と。来季は自分の記憶にある馬、好きな馬にはオッズや予想と関係なく賭ける事、これに尽きる。それにしてもMarwinの半期での未更新とWhiteが出場停止での不安定な騎手具合に泣かされた今季。
六月十六日(土)浅田秀子『敬語で解く日本の平等・不平等』(講談社現代新書)、もう少し言語学的な言葉の政治性の分析を期待したのだが、渡辺昇一的な美徳語りに終始、仏蘭西人ならこの場合、とか、ユダヤ人は、とかの連発、「中国の学生は教師の与えた知識を記憶しようとするばかりで自分からテーマをみつけて資料を調べたり自主的に研究しようとする姿勢が希薄」と一刀両断に決めつけられてもねぇ。ましてや「日本は江戸まで上下の交流があった」という、これは所謂ビクトリア王朝的な、産業革命的な政治経済制度が生まれるまでは世界各地みな「思惟的には」そうなのだが、「日本は」と強調し、その例に古事記から倭建命や仁徳天皇の国見の逸話など持ちだされ「日本は古来」といわれても困るのである(笑)。というわけで一冊まるまるこの調子、そして最後「日本の未来はわれわれの使う敬語にかかっている」とは……。山本夏彦『完本文語文』以来のトンデモ本。続いて林望『日本語へそまがり講義』(PHP新書)、 凡河内躬恒の「こころあてに折らばや折らむ初霜のおきまどはせる白菊の花」を罵倒した子規の論を歌は文字ではく当時耳から入り句が進むこごに想像をかきたててゆくという観点から子規論を覆すあたりは読んでいて心地よくもあるが、林望の皇族の御製に対する陶酔、と国家言語的な感覚は不快。永井荷風の田舎漢嫌悪と言葉に対する鋭敏な感覚への同感はさもありなん、いずれにせよ浅田の『敬語で解く』よりは読むに値する一冊。昼に佐敦は麥文記にて姜葱撈麺。晩は赤柱Staleyに再建されたMaley Houseの洋館にあるEl Cidoなる西班牙風料理屋のバルコニーにてランニングクラブの月例会。陽明山莊住人I氏に誘われうさぎやのどら焼きを山荘に寄りいただき帰宅。
六月十五日(金)昼過ぎより久方ぶりの陽光に夕方外出したれば暗天に慣れた眼に陽ざし眩しくサングラス、サングラスと鞄を探せば机下抽斗に眠りたり。低気圧の憂鬱も今日まで。荷風日剩、震災のあと途端に饒舌なるは何故、江戸が焼けそれを失いし事への怨念か、作家として終焉し日記のみへの執念か、いずれにせよ饒舌は日常、寧ろ天気に雨風の具体のみ語りし日の心中の動揺を察し他人事とは思えず。天后は利休にてうどんすき、夏に鍋する野暮な我。
六月十四日(木)T君の経済波及効果はいったい何億円になるのか。防犯会社に保安設備器材会社、鍵屋と塀工事の土木会社、安全について宣う印刷物だけで日本中の教育委員会と学校でどれだけばら撒かれたことか。十日ぶりにか雨あがり陽光さす日和。
六月十三日(水)容疑者T君かなり基地外なりしが岩手県が某町の小学校、児童には抜き打ちで警官T君役にて教室に乱入し訓練と知る教員が「外に出たまへ」と立ち向かう<訓練>、教員たちその訓練を眺め何をば得る所存か、T君事件の直後子どもに与えし心理的影響も考えず筋書き通りに訓練のみすることで保安なる共同幻想を得ようとするこの学校と警察こそかなり基地外、唖然。快活谷の競馬今季最終日。仕事関係の連中6名にて某企業メンバーボックスにて大雨のなか晩餐し参戦、M君は31倍の財運寶が一着にはいる荒れたレースにて単THK$三千余を得、一人勝ち。翌日聴いた話ではB君はこのダブルTにて第4レースは押さえ、このレースも二着から五着まで押さえながら財運寶は外しHK$六十万を逸す無念。
六月十二日(火)未明に赤雲警報、06:15は香港にとり天気警報その日の運命を決めし時刻なりしが黄雲警報にて学校休校措置はなく学童登校にかかりしものの数分後教育署より休校措置発令され巷混乱甚し。役人の判断力が無さを世に示したり。衛星放送にて首相・小泉君の世論に訴えし情熱き談話を初めて拝聴、言葉を一つ一つ噛みしめるは単なるさういふ彼の口跡にすぎず、一瞬好人物に映る姿は幸福の黄色いハンカチか居酒屋兆治、どうのこうの讃めるほどに非ず。ビデオにてLove Love 愛してる、ゲスト小林幸子の巻、篠原ともえとのヂュエットにて唄へしAikoの「桜の時」は篠原共々天晴れの歌唱。ネパール王室殺戮、容疑王の自殺にて右手が利き手の彼が左手にてコメカミに銃弾の跡、容疑王がライフル撃ち殺戮のはずが4種の銃器跡と不審な点が顕れたり。容疑王はコカイン摂取にて医師団「コカイン使用あらば凶行に及びし事も納得」とコカインの不正理解まで登場する不始末。田中外相が北京にての一連の外相会談、外相に隣席せし外務省アジア局長(前・香港総領事)と外相並べば、外相と官僚の対立とは裏腹、お二人の形相といいお召し物のセンスといいまるで難波花月、夫婦漫才のようにてほほ笑ましきもの。
六月十一日(月)灣仔北京水餃皇、韮菜猪肉水餃麺、ちょっと麺がイマイチだけど「香港では」やはりここが屈指、か。かつて盧押道にあった屋台のような店の頃はもっと美味く、ふと湾景中心大廈にあった餃子屋(ここは北京水餃皇より美味かった)は健在か、と思う。でもやはり北京は大陸か台北の山東人の餃子屋にかぎる、と思う。荷風『斷腸亭日剩』ようやく第一巻読了(大正14年まで)。大阪の児童殺傷事件、容疑者の「エリート校のインテリの子どもを殺せば……」発言、たかだか教育大の付属小学校の児童をエリート校のインテリの子どもと思ったことが狂っているのか、たかだか教育大の付属小学校の児童でもそれだけでエリートになれる社会なのが事実なのか……。
六月十日(日)雨、黄雲警報。行政長官董君の夫人が首席の公益基金が政府高官を集めての慈善チャリティ、黎明と熱唱する財政司長・梁君、端午節にあわせ粽つくり競争する行政会議の面々、政務司長・曾君の弟である警務処処長・曾君が高級警官を引き連れての熱唱、馬鹿馬鹿しさでピカ一は政務司長・曾君が目隠しして競争相手は目隠しせず鏡を見ながら蝶ネクタイ結び競争……かぎりなく脳天気な香港政府高層、どうせなら芸人が高官に扮し律政司長・梁愛詩を被告にしての模擬裁判、機内でのワガママで定評の董夫人が扮するスチワーデス、董建華の唄う血染風采でもやれば面白いものを。昼にZ嬢とRegal HK Hotelにできた伊太利はGenoaにある料理屋Zeffirinoのアジア初の出店、フレンドリーな給仕たち、暇があればフロアで客の食事ぶりを眺める伊太利人シェフ、そのシェフに熱心に料理の質問を続ける給仕、それにまた熱心に応えるシェフ、この環境で料理が不味いまずもなく、かなり安定した料理を供し見事。Regal HK Hotelには料理屋での集客力もなく4卓ほどの入りだが、この店はもっと評判になるべき。料理屋といえば山頂のPeak Cafe、あの瀟洒な建物が実は政府所有にて、その経営権が満了、落札にて別の飲食業者が経営権を得て、Peak Cafeは本日にて閉業。Peak Cafeは観光レストランでおかしくない立地にありながら地元の客にこれだけ定評なのだからなくなるのは惜しいもの。次の店が同じ質を維持できるとはとても思えず、観光レストラン化は必至。Zeffirinoより快活谷の競馬場、犬猫ショウのはずが豪雨警報にて延期、競馬博物館を参観、安田記念のFKPの雄姿など。ジム他。夜、7年ぶりで旧知のS氏が東京より来港、益新飯店にて美味い飯、話いろいろ盛り上がり銅鑼灣某所のビアガーデン、ホテルに戻りS氏夫人も加わり、Regal HK Hotelのロビーにて同行したS君も交え深夜まで物語りす。
六月九日(土)トレイル予定が黄雲警報に雷警報、ゆえに中止かと思いきや集合時間にI氏より電話あり三名集合にて実施。一時間もせぬうちに赤雲警報の土砂降り。合掌。雨夕方には歇み残すところ3開催日となりし競馬は沙田の夜場。今宵はPCCW盃と英国のEpsom Derby。PCCWとは何のことが合点のいかぬ方も多かろうが、旧香港テレコム、たかだか香港の電話会社が一旦は英国のCable & Wireless(大東電話局)傘下となりCWHKT、よって昨年はCWHKT盃だったのだが、李嘉誠の次男のRichard李が買収、今後海外が展開に「香港」の名は要らぬと、香港上海匯豐銀行が香港上海は土着臭いとHSBCなるイニシャルを正式名称にせしが如く、HKTの名を削り李が投資会社Pacific Century に、たかだか電話会社が今後情報全般を扱うからとCyber Worksなる語を用い、それにより誕生せしがPCCW、李の買収以降HK$18の株はHK$2.60に下落、昨年は豪華に沙田にてCWHKT同楽日を開催せしものが今年は地味、李も社長の陳某も現れず。我は昨年CWHKTのボックス席にお招き預かりCWHKT盃は新威王(New Trump)にて勝ち、しかもCWHKTの抽選でもお招き客のうち新威王を当てた十名だかから更に選ばれ特賞と天晴れ。今年は当然お招きもなく自宅観戦。英国ダービーは一番人気がGallileoよりGolanとなり、堅いが馬券としては面白みにかけ、困った時のDettori頼みで3番人気のTobouggをWinとPlace。TobouggとGallileoでQ購入。レースは1,800MでGallileoが余裕で抜け出し快勝となりしが、さすが天才騎手Dettori、Tobouggは1,800mで十番目より気合入り、抜け出でしGallileoを刺すは所詮無理なれど4馬身差ほどを縮めGolanに次いで3着に入る健闘。QPは香港にてHK$75となりQP買わぬ後悔。
六月八日(金)朝大雨なれど黄雲警報にて人々仕方なくズブ濡れにて出勤の刻、八時すぎて赤雲となり教育署は所有學校今天停課と放播するも時は遅し既に子どもらは学校に着きたれば流石役所の判断は見事と敬服。雨は歇み空は既に明るくなりぬ。大阪にて基地外(37歳元学校職員)小学校に乱入、児童と教員29名殺傷内9名の児童が死亡が事件、地域に開かれた学校は此にて閉ざされるか、小学校とて学校と思えば学問する場所は本来自治が原則、国家並びに野暮な世論は学問の自治を認めず言葉だけ開かれた学校だの創造的学習だのゆとりの教育だのと宣い乍ら教育そのものの自治を一切認められず、この事件にて門だけ閉ざし何か未来があろうか、基地外が立て籠っていたとはいえ児童が職員室に行かず学校を飛び出し外のスーパーに逃げ込んだは偶然とはいえ考えさせられる事少なくなし、飛び込んだ先がコンビニならばまさに時代を象徴せしものを。この基地外と同じ齢にて学校職員する知人K君はため息をつきたり。いずれにせよ村田某なる国家公安委員長の「この種の事件の発生の防止のため、政府、関係者があらゆる検討をすることが必要と考えます」なるコメントは事件より寧ろ怖きもの。Z嬢によれば品川の小学校にて事件警戒がために保護者が校門に立つ「自衛策」。夜、香港史を編む知人で灣仔の朝鮮料理屋順子(JungGo)、気楽に秀逸なる韓国居酒屋、所謂チヂミ(チヂムの方が正確か、ジョンとも言う?)が厚手の鉄皿にて焼かれ格別、Ballantine'sの17年がやけにチヂミと合い多飲。
六月七日(木)豪雨、黄雲警報発令。西班牙ノパス隊が聖山Kailash登山、朝日に拠ればノパス隊登山界の強き反対に遇い登山を断念、国際山岳連盟(UIAA)遠征委員会が調査にてノパス隊マルティネス氏Kailash登山計画立てしものの許可得ておらず中国登山協会並びにチベット登山協会共々許可出したる事実もなしと声明発表、と。誤報ならば誤報が出元は何処か、ダライラマ訪米にてブ大統領に会見し日ゆえ怪しき話。昼、HappyValleyの吉祥、一見粗いようでデリカシーのある料理屋、親方の誠意に敬服。夕刻雨中、油麻地を歩さば無印良品の雨外套にDr.Martinの靴は見事水を弾き大雨の下を闊歩するは心地よきもの。廟街にて雨頗るひどく雨をしのぎ軒下に雨宿る男たち多かれば廟街にていつもは夜店を張る偽エロCD屋たちも軒下にて店開き、雨宿る男たち相手に店開き男たちも何時上るかも知れぬ雨に暇つぶしとエロCDを冷やかす光景もまた趣ありしもの。美都餐廰にて時間潰しに新聞読み競馬予想し排骨炒麺、凍檸檬茶は美味く、この店だと隣席から漂う煙草の煙も気にならぬ世界。
六月六日(水)不穏な天気、昨夕はこの夏一番の豪雨に雷鳴轟く。黄雲警報発令。六月六日に雨ざぁざあ降ってきて、のまさに唄どおりの雨模様。馬友S氏が日本にて結婚その香港での内輪のお祝にてS氏並びに夫人も競馬好き故に快活谷競馬場のボックス席にてビュッフェディナー、S氏がかつて働きしS社のS社長夫妻と邂逅。さっぱり掠りもせず最終8レースにて現場には不在の快活谷之虎F君連複にて149倍をHK$20購入の快挙。
六月五日(火)雨。個人情報保護法もかなりとんでもない立法化であるが、それと同時に気になるのが羽仁五郎翁の「真理がわれらを自由にするという確信に立つて、憲法の誓約する日本の民主化と世界平和とに寄与することを使命として、ここに設立される」と謳った国立国会図書館の国立国会図書館法であるとか、この法のかなりの影響を受けているのであろう日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」も初めて読んだがこれは普遍的な思想的自由についてのかなりの聖典であると知り、さっそく我がサイトにも掲げさせていただいたが(図書館をサイトと読替えて教典としたい)こういった戦後の自由も個人情報保護法では抵触する部分がかなりあり、これらが改悪されやしないかと憂ひ。おそらく次のターゲットは図書館の統制。インターネットがかなり整備されたことがまだ図書館という箱を占拠されてもレジスタンスできる方策でもあるが。
六月四日(月)曇。天安門事件十二周年。
中南の海のかなたに浮ぶ舟波の間に間に漂ふ浮子(うき)かな 富柏村
六月三日(日)晴。安田記念、昨年はトレイルにて西貢は西湾の茶屋のテレビにてFairy King Prawnの勇姿を拝み、今年は沙田の馬場にてメンバー席ボックスにてZ嬢と観戦。蝦は六着?に没み横山典弘騎乗のブラックホークが一着。勝ちタイム1.33.0。日本の競馬は全く知らず騎手で蝦名、岡部、福永、横山のみ知りしが酒でStingerは愛飲にて岡部幸雄でStinger、外す。2着にはブレイクタイムが入り馬連は120,600円の高配当。香港では黒鷹と歇息つまりブレイクタイムは同枠の一二着にて二着の位置、単T、三重彩は払い戻し。FKPはドバイでの霍達の騎乗にAllan調教師が怒り霍達を干したが安田記念はやはり昨年の黄金コンビで霍達とするべきと思うは結果論か、馬偉昌の1000mからの操行には多少疑問が残る。FKPは没んだがFKPの馬主劉錫康はFKPと同じDanehillを父とする正蝦王Jeune King Prawnにて8レース沙田新星錦標1600m(G3)を快勝、Jeuneはデビューから6戦5勝の快挙、来季早々にFKPとJKPの共戦が見られるか。劉錫康は府中にて彼の老母が栄誉を受ける。
六月二日(土)曇。愛猫がベットにて漏尿ひどく半山診療所D医師、泌尿器系に問題なく精神的なものだろうと診断、投薬、環境を変える、他の猫を一緒に買う、薬殺のいずれかだと微笑んでいわれオイオイと思い投薬を選ぶと精神安定剤を渡される。寶馬道をランニング、身体が重い。乾燥機がやたら音うるさく星型ネジのドライバまで購い解体してみるとネジが緩んでいるのではなく内部に絨毯のようにこびりついた猫毛であろう綿屑、これを除去すると音は平静。夕方、灣仔のジム。夜、日本語教師のH氏宅にて宴会、H氏の同僚Y氏、U氏、M君とS君に学生のS君、80近いH氏の母が福建の潤餅(福建春巻)と米線を作ってくれるがかなりの美味、潤餅は砲台山の閔江春飯店にて食したことがあるだけだがH氏も閔江春を讃める。春巻とは春分の頃に食す節句料理、それで春巻と知る。明日の安田記念、Fairy King Prawnは三番人気で7.0倍くらいを推移。一番人気は蝦名正義のトロットスター。それにしてもFKPはFairy(優美な)は形容詞でありKing Prawnが蝦王という名前なわけだから「フェアリ連覇だ」と一面トップの大見出しはヘンだよ、東京中日スポーツ。
六月一日(金)曇。週刊香港の連載を書くのに資料調べもあり、実は最近はインターネットで済むのだが、せっかくだから愛機を携え行ってきました中央図書館。最悪。物見遊山の客が多いのは季節柄まだ仕方ないにしても、各机に電源とコネクションあり、さっそくMacの愛機をつないでみると反応しない(困った)。きっと何百分の一の確率で接触が悪いのだろうと別で試す。つながらない。なんと中央図書館が単なるサーバーなのではなく、中央図書館のシステムの端末としてつながるそうで、システムがWindowsだからMacがつながらないっ。よく見るとご丁寧に壁のコネクションの上にもそう書いてある。確かにそれならH画像も見えないわけだ。しかし結局、つながったところでメールが送れるでもなく、たんにインターネットが見られるだけ、くだらない。図書館なのにとにかくあちこちに電脳ばかり。みんな香港地産netとかYahooとか見てる。ここはインターネットカフェか。携帯電話は禁止なのに電脳にはヘッドホン完備で音楽聴いている奴もいる。すごい矛盾。図書館というのはいかに静寂な環境を提供するか、が大切なのに、何が驚いた、って人の動線と閲覧場所が区別されてない。エスカレータは野暮なデパートみたいにいちいちフロアをぐるりと回らないと乗れないので、その客がフロアを歩く動線上に閲覧机。しかも巨大な吹き抜けで全フロアで人が蠢くのが見える。HSBCの本店じゃないんだから。銀行ならそれも躍動感だろうが。こんな施設に自分の税金が使われたと思うとほんと冗談じゃない。結局、作った人間のおつむが馬鹿だったのでしょう。図書館という器だけ豪華で中身空っぽ。エレベータ扉に刻まれた市政局のロゴが阿呆さの象徴か。原稿仕上げて、恭和堂にて亀苓膏、店が新装なっていたが味はかなり大衆に融合してマイルドになってしまい、無糖で食えるが効能半減?、銅鑼湾なら亀ゼリーはやはりPennington街の樂製亀苓膏にかぎる。ジム。T氏にオヨバレで日本カレー&洋食のBeeの二号店にて何故かしゃぶしゃぶ。T氏がご主人と懇意だからだが、周囲の客がカレーとかコロッケ定食するそこそこ小奇麗な店にてしゃぶしゃぶするのはかなりシュール。何か悪いことをしているような、図書館でオイチョカブとかそういう感じ。しゃぶしゃぶする間に早いテーブルは三回転。14卓で5回転すれば280、昼は140として、小さめの一号店で昼夜で200で620人の客が単価HK$70として30日でHK$1.3m、地代を考えるとかなり繁盛しているがまあまあか。