乾 坤容我静 名利任人忙
教育基本法の改「正」に 反 対! 反対はこちら。 文部科学省の基本法関連サイトはこち ら。憲法改正も反対(九条の会こちら) 
米国の理性Barack Obama氏(民主党、上院議員)を米国総統に推しま せう。                     

わかりやすい言葉が跋扈すると、みんな目をきらきらさせて連帯を始め、ボランティア精神が賞賛され、強要される。そしていつか来た道になる。

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2000 年11月24日からおそらくあなたは番目の閲覧者です。

九月三十日(土)晴。朝七時半すぎ、開け放った窓から「起来、起来、起来〜!」と中共国歌が風にのって聞こえてくる。眼下の小学校の校庭に児童整列し児童 代表による国旗掲揚をば直立不動の姿勢で眺めての国歌斉唱。全校朝会終わりクラス毎にきちんと並んで教室に向う迄を眺める。97年までは英国統治でこんな こと何もしておらなかった学校が今では愛国教育の装置として立派に機能。学校側にしてみれば「やっておけばいい」程度の国旗国歌の毎朝の儀式で「国家を認 識することはけして悪いことじゃない」程度の認識なのだろうが<国家の意図>を刷込まれる子どもにとってはたまったものぢゃないはず。だが愛国心の涵養の ために近代国家において公教育が誕生したと思えば当然の、わかり易い光景か。午前中ジムで一時間の有酸素運動。昼すぎから別のジムに移り一時間筋力運動。 午後遅く小雨あり。薮用済ませ尖沙咀。ペ ニンスラホテルのバーでハイボール二杯。先週末は維納フィル奏者が凭れていたバーカウンターもひっそり。他の客に気遣いもなくパイプ一服。 Z嬢と待ち合せ四、五年ぶりだろうか、でWein Stubeに。ワルシュタイナーの麦酒と腸詰、キャベツの酢漬。この店は地味な独逸酒場で簡単な料理も供す。バーには独逸のオヤジ多いが隣宅は偶然に日本 人家族。聡明そうな子どもの関心ある話題がJRの常磐線の特急で、そういえばこの店を紹介されたのもH製作所のM氏であったこと思い出す。HK Culture CentreのStudio TheatreでCCDC (城市當代舞踏團)の舞踏「ニジンスキー」観る。今回はこの舞踏団に長期にわたり客演する邢亮(Xing Liang)による振付でニジンスキー役は陳宜今(Chan Yi Jing)。精神を病むニジンスキーが回想する形でセルゲイ=ディアギレフとの運命的な出会いやBallets Russesでの日々、ストラヴィンスキの「春の祭典」初演での「記念すべき不評」など回想しながら更に病んでゆく態を描く。だが「二十世紀のバレエを二 十世紀初めの僅か十年で決定づけてしまった」ほどのニジンスキーを描くことがどれほど難しいことか。抽象的ではあるがニジンスキーの生涯をある程度知る者 にならわかりやすい舞台装置、全裸を含めかなりnudityを効果的に演出に加えたり、と配慮も見られるが<ニジンスキー>をテーマにすることはあまりに も大それたこと。バレエを踊る場面となれば、そりゃCCDCの踊り手がいくら鍛練してもバレエダンサーでないから踊りは雑になるし、この舞踏団の群舞は女 性陣はいいが男性陣はどうも群舞となると指先、爪先までの「踊り手全員の総意としての」神経の集中に欠けるところあり。今回は邢亮本人は舞台に上がらず、 ただし公演のポスターやパンフレットは邢亮による踊りの姿。邢亮の一人舞踏でも良かったのではないかしら。台湾の雲門舞集の林懷民ならニジン スキーをどう演出できるか、などと考えると面白いが彼は「手がけない」ことは確か。帰宅して1:1のウオツカレモン飲む。久々に「モンテ=クリスト伯」の 第三巻を少し読む。
▼巴里には千の単位で日本から応援に人が向っているディープインパクト馬の凱旋門賞について須田さんが「競馬から遠い媒体、特にテレビ番組で 「当然勝つ」くらいのムードが醸成されている」と書かれている。日曜深夜の終電も終わった時間の、後楽園での凱旋門賞中継で司会をする須田さんは「慣れな い馬場で走る海外遠征」なのだから「まずは無事に、というのが一番大切」であり「シリウスシンボリの頃、誰が「日本調教馬が3強の一角として凱旋門賞に出 る」なんてことを想像しただろうか」と思えば「良い着順はまぐれで手に入ることもあるが、良い人気順はそれまでの積み重ねでしか得られない」のだから「結 果に関わらずディープインパクトは既に賞賛されてしかるべきものを残している」と。須田さんといえば須田さんがこよなく愛する香港の太子(Prince Edward)地区も旺角に続いて地価高騰で「再開発」の波に襲われ老朽化進んだ建物がかなり解体の由。安くて美味いもの屋系の行く末案じられるばかり。

九月廿九日(金)快晴。昨日マンダリンオリエンタルホテル香港が九ヶ月休業経て改装開店。客室のまだ半分ほどのソフトオープンで十月十七日に飲食部門など 全面開業、西洋料理の主食堂は東京は南青山にもあるPierre Gagnaire氏の “Pierre”が入る由。少なくともこれまであった多国籍フュージョン料理?のVongよりマシな料理供されると思うが、97年だったかまであったフラ ンス料理のPierrotの、あの風格と味はもう過去のもの。本日、用達の途中このホテルのところ通りふらっと入ってみる。ロビーは重厚さが削り取られ多 少明るい雰囲気になりコンセルジュのジョヴァンニ氏はじめ旧来の職員多く働く。気 になるバーであるが「スエズ運河以東にチナリーあり」は恐る 恐る覗くと壁に染み込む莨の臭いまで昔のままの「全く変わってない」状態で思わずウェイターに「何も改装しなかった?」と声をかけると「いや、バーカウン ターの肘擡の皮だけは張り替えた」と誇りの笑顔。思わず誰もおらぬカウンターの昔のいつもの角席に坐りドライマティーニを注文する。檸檬皮と注文したのに ライムピールで供されたのがご愛嬌。外装はかなり「いただけない」が今回の改装が客室の拡充だけであったことはせめてもの幸い。またチナリーバー訪れる機 会少なからず、か。晩に帰宅して豚汁など。最近おかず多い日は米飯は食さず。明日帰国にて昨晩よりペニンスラホテルに泊る、が香港最後の食事が尖沙咀の錦 城韓国料理というケッタイなT君夫妻より電話あり。
▼NHKのNW9のキャスター柳澤某は「続発する」酒酔い運転が話題になると急に声を荒げ非難の言葉に勢いあるが政治関連では地味に冷静装い「会津の男」 らしからぬが、それに比べ伊藤敏恵キャスター秀逸。今晩は安倍内閣仕切る首相補佐官のうち高市早苗にインタビューで、本来であれば就任直後でヨイショ取材 のところ安倍三世の本日の所信表明演説など取り上げ「イノベーションなどカタカナ言葉が多くわかりにくい、具体的には何を」と尋ね高市先生の御説を引き出 せば高市先生「イノベーションこれがたんに技術革新かといえば、そうじゃなくて」と話し出すが話すうちになんだかわからなくなり(そりゃそうである、絵に 描いた餅の外来語政権)結局「イノベーションは……よーは技術革新なわけですが」とコメントしてしまい、完ぺきに伊藤キャスターの罠にハマった感あり。愉 快。ところで官邸主導で「大臣より重要視される」首相補佐官の存在はすでに文部、外務で省側の反発くらい始める。まぁ首相補佐官のなかで唯一「凄み」きか せられるのは北朝鮮拉致問題で、これはすでに外務省が手を引いたところ、補佐官中山刀自の活躍はすでに本日、拉致被害者の人たちの家族の人々の代表の方々 を首相官邸という補佐官らの牙城に招き会見するが「本来、会う予定のなかった安倍首相が急きょ予定を変更して」横田めぐみさんのご両親らの方々とお会いし て会合では横田めぐみさんの母の苦労話に「安倍首相は目に涙を浮かべハンカチで目頭を押さえながら」聞き入り拉致問題解決への積極的な姿勢を見せてくれた ことに好感をもったと横田めぐみさんの父母が会見後に語り安倍三世の好感度向上に一役買う。安倍三世の抽象的な「美しい国、日本」の国会演説は完全に原稿 の棒読み。演説かなり下手な印象与えたが、この拉致の家族の方々に対する涙で安倍三世は「演説の下手さよか地道な問題解決への誠意」でポイントゲット。そ れに一役も二役も買うマスコミ「報道」。

九月廿八日(木)晴。朝五時頃に目覚め昨日の新聞の残りなどぼんやりと読むうちに空も明るくなる頃に「ドサッ」と新聞が届く音でインクの臭いする朝刊届き 読み始め大量の新聞を持って家を出るが当然読み終わらぬうちに晩となり今晩は晩飯の機会すら逸し星巴珈琲でチョコレート菓子1つコーヒーで流し込み二更に 帰宅で午後十時以降に何か食すと翌日の胃凭れ甚だしく「せめてビタミンCだけでも補給」を口実に檸檬一つ絞り檸檬汁だけでは胃に刺激多かろうと割るのがウ オツカでは更に空腹の胃に悪いの承知でウオツカと檸檬汁が1:1のウオツカレモンを一杯やって空腹ではさすがに酔って睡魔に襲われ臥床で意識なし。
▼朝日新聞で安倍内閣支持率63%で、支持の理由は「政策」って具体的に何が政策なのかわからぬが(もしかすると「美しい国、日本」を政策と勘違いの輩も いるのでは?)その「政策」が28%、「なんとなく」27%、「首相が安倍さんだから」24%。朝日はこの支持の理由を「割れている」と言うが、割れてい るどころか「何も考えていない」人が安倍三世を支持しているわけで支持理由は結局「安倍さんに好感を持っている」ということで「割れていない」。教育基本 法については今国会での成立期待は22%、議論続けるべき66%で改正不 要はわずか6%。我が同志は百人中五人しかおらぬ孤独感に嘖まれる。朝日に「社会思想史の若手」であった京大の佐伯啓思教授が白髪も増えていたが(もうす ぐ還暦)「保守とはなにか」を語る。保守主義を明確に唱えた点では安倍三世は面白いし評価すべき、としつつ保守主義でも欧米でかなり異なるところを佐伯先 生強調。今ひとつ言わんとするところがわからぬが米国の保守主義を「欧州の保守と違って、理性や技術の力を信じる」「絶えざる革新、創造的破壊、進歩主義 をよしとする」とするが、そうかしら。米国にこそ進化論すら否定するカルト的な原理主義があると思うと「進歩と革新」なんて言っていられない気がするのだ けど。

九月廿七日(水)先週末の維納フィル。今回の来港が59年のカラヤン率いた以来の二度目と書いたが勘違い。11年前にも来港公演あり。日曜晩のアンコール でのヨハン=シュトラウスの曲は「南国の薔薇」の由。信報の劉偉霖による評は「けちょんけちょん」だが伯林フィルと比べてはいけぬし「熟した果樹の木から 堕つる、腐りかけ直前」のような良さを見てとるべき。早晩にFCCのバー。ドライマティーニ二杯。バーテンダーのD氏は余の顔を見るなり「ウヰスキーソー ダ?」と尋ねるが「今日はstraight upでドライマティーニ」と注文するとカクテルグラスでの場合、オリーブ抜きで檸檬皮だけ、という好みまで覚えていてくれるのがありがたい。新聞を数紙読 み、帰ろうとするとサッとウェットティッシュが出てきて、新聞のインクで汚れた指先をきれいにできるのがいいじゃないか(山口瞳に言えば)。中環の某伊太 利風料理屋でM氏の呼びかけでこぢんまりと香港に十数年住われたO女史の送別会。M氏はこの店のジャズバンドで今晩ライブもあり。朝五時に目覚める身は一 つステージ見て早々と帰宅。今晩の競馬、第2レース(どん尻のクラス5)で畏友A君の家族所有の「新英」がホワイト騎乗で一番人気。馬主C氏の Dashing Championは得意のハッピーヴァレイだがドゥルーズ騎乗で26倍と期待薄。でそれぞれに御祝儀賭けの結果、新英は沈んだが16倍でDashing Championは見事一着。天晴れ。
▼築地のH君謹製、野党連立内閣。民主党も影の内閣とかここまで間口を広げると面白いのだが。総理・小沢一郎、内閣官房・岡田克也、外務・加藤紘一、財 務・菅直人(副総理)、文部・梅原猛(亡霊という噂もあるが長老)、法務・福島瑞穂、総務・綿貫民輔、防衛・山崎拓、厚生労働・円より子、経済産業・野田 毅、国土交通・平岡秀夫、環境・岡崎トミ子、国家公安・河村たかし、農林水産・山田正彦というもの。AFP電が安倍首相誕生を“ 'Beautiful Country' ignores ugly income gap”と指摘するのは的確。蘋果日報など成蹊大学まで取材して学生時代の安倍三世のことまで記事にする熱心さは日本の新聞よりずっとマシ。大学のゼミの 記念写真でもいちばん後方で顔だけ出す地味なお坊ちゃまがまさか首相とは、の感。「街の声」も東京都で日の丸・君が代強制反対訴訟の原告である元教員に教 育基本法改正へ意欲的な安倍三世をどう思うか?と取材するなど日本の新聞が見習うべき、の報道の深さ。
▼WTO(世界貿易機構)の閣僚会合、結局の交渉決裂。昨年の、あの香港での「大騒ぎ」はいったい何だったのか。
▼上海の(市長より偉い)上海党委書記で中央政治局常委の陳良宇君社会保障基金の汚職事件に絡み解任。この汚職には江沢民夫人の甥で上海市公安局長(上海 市武警総隊第一政委も兼任)の呉某や上海市政協副主席で上海市統戦部長の沈某なども関与。中紀委(中共中央紀律検査委員会)は上海に百名の捜査員を派遣。 上海の全ての市、党幹部の逃亡未然に防ぐため彼らの旅券や香港マカオ通行証などは上級部署に預けられ、出国には中紀委の批准求められ、空港や駅などでは武 装警察が警戒。上海トップの汚職も大したものだが患癌が原因で最近は公の場に姿現わさぬと伝えられる副総理・黄菊君の妻もこの汚職に絡むと噂あり。黄菊君 は上海市長から市党委書記、中央政治局常委で副総理となり陳良宇もその洋々たる前途であったもの。この党地方幹部らの汚職、贈収賄は勿論、上海だけの話の はずもなく天津、福建省、広西自治区などにも捜査の手が延びる。福島県知事佐藤某の土建政治など比べ物にならぬ規模なのは、中国の社会保障基金、90年代 より整備始まるが近年は毎年2割規模での増長。すでに基金規模は中国のGDPの1割にあたる1.84兆元!。基金の管理運用は地方自治体には難しく半官半 民の基金管理会社に委託。ここが汚職の温床となり「公金横領はせぬが」で民間企業への資金流用などあり、のやりたい放題。

九月廿六日(火)首相選出では民主、社民、国民新党、新党日本、大地の5党連立に先の郵政選挙での自民党脱党組、それに今回、自民党反主流派、ハト派の大 量脱党で、共産党までが閣外協力し、そうなると公明党が何の疑問もなく寝返って、反自民連立内閣成立。小沢一郎首班で岡田克也官房長官、加藤紘一外務、枝 野幸男財務、山口二郎(北大教授)文部、福島瑞穂法務、綿貫民輔総務、山崎拓防衛、円より子厚生労働、野田穀経済産業、川村たかし国家公安なんて「まさか のサプライズ」内閣の誕生……なんて、気がつけば夢で朝五時すぎに起床。安倍さんが総理に選出され「美しい日本」となる、その始まりの日の朝を清々しい気 持ちで迎える……ってこれぢゃ「近代の超克」だが。諸事忙殺され疲憊甚だしく晩に帰宅。赤米の炊き込みご飯やかぼちゃなど食しビール飲みながら安倍三世首 相就任から組閣伝えるニュース番組を眺める。今回の安倍チョイスで誰よりも強烈な印象与えるのは大臣でなく首相補佐官「拉致担当」中山恭子様であろう。 「拉致担当」ってなんか拉致するのが仕事みたい。もう一人、教育再生担当の補佐官山谷えり子先生。歴史教科書の「作る会」系で自虐史観批判では 安倍三世と主張同じくするが「自虐史観否定という名の自虐感」の感あり。山谷先生、ジェンダーフリー教育は「過激な性教育」と噛みつき「家族、教育、国な おし」と威勢よい、元サンケイリビング編集長。晩に生中継で安倍三世の首相として初の記者会見。首相の初記者会見というのをまじまじと初めて見るが閣僚が 舞台の袖にずらりと並び三十分近く、ただの立ちん坊。可愛そうに。せめて椅子に坐らせるくらいしてやればいいのに。安倍三世の所信表明の記者会見は予想通 り「明日の未来、で意味不明」。小泉三世の「自民党をぶっ壊す」「郵政民営化」「痛みのある」「構造改革」のほうがいかに具体的であったことか。安倍三世 の、ただ一つ具体的なことへの言及が教育再生のための教育基本法の改正(直近の臨時国会で)。この 人を首相にしたことで教育基本法が改正されるなら国民の過半数となる安倍三世を支持したり安倍三世に好感度抱く人はあらためて教育基本法を通読すべし。そ の上で自らがこの憲法と同じく日本にとって最も大切な法律を葬り去る、その一翼を担うことを痛感せよ。外交では、日本は価値観を同じくするアジアの、自 由、民主主義、基本的な人権、それに「法の支配」が行われる国と共同で……と宣われる。「法の支配」が「専断的な「人の支配」を排斥し国家権力が正しい法 に拘束されるとする原理」とするなら日本が果たして今後、正しい法による法治なのか疑問だが、いずれにせよ気になるのは「自由がなく非民主的で基本的な人 権もなく党治が敷かれる」中国の存在。安倍三世は中国が著しい発展を続けており中国の繁栄は日本にっとっても、と言及するが、ただ間違いなく日中関係は是 正されよう。それにしてもNHKのNW9の報道の粗忽ぶり、はお得意の「街の声」が本来は「安倍首相誕生」についての国民の反応を問うべきところ内閣の布 陣を見せて「どう思われます?」と質問。そんな誰だかわからぬ「大臣になりたい人たち」の写真と名前見て、何を答えられようか。結局「安倍新首相」を質問 にしてしまうと当然、三人に一人くらいは「安倍さんでは不安」で「どれくらいもつか」「経験不足」といった声も当然あるはずで、それを意図的に避けたので は?とすら思える「街の声」取材。なにせNHKにとって安倍さんは怖い。それにしても、この「首相に対する期待感」。少なくともこれは小渕だ、森だ、の時 にはなかったもの。視線が「この人ならどんな未来が?」にばかり向いてしまい、本当にこの人でいいの?という基本的なところが欠落。マスコミの報道がまさ にその時流に乗っている感あり。加藤周一氏が朝日「夕陽妄語」で江戸の化政期の漢詩人柏木如亭が諸国遍歴で出会った美味い山海の珍味を紹介し、その背景を 叙述し美食讃美の詩を詠んだ『詩本草』なる書物について語る。この人が文藝作品を挙げた時はかならず強い政治的意図があるのだが、「私は蕎麦が好きで、あ なたはうどんが好きだ、二つの異なる意見は全くの平等の資格で存在する」という味覚の「味の好き、嫌い」は「良し悪し」や「上下」の問題ではないこと。 「好き嫌い」の還元主義と「善し悪し」の客観主義。この二つをつなぐものが「判断の普遍性」。具体的な例なら、二十世紀初頭の前衛絵画は「好き嫌い」で大 衆の評価は二分されたが(個人の好み)、ある程度まで絵画を見ることに慣れた人々の間では「かなり広い意見の一致」があったこと。これが判断の普遍性。別 の言葉でいえば憲法でいう普遍性も、樋口陽一先生が近著で説いている「共和制」の原理も、司馬遼太郎の「国のかたち」もこれ。だが明らかに「それ」の構築 もないままに政治が行われているのが日本。加藤周一翁曰く
時あたかもこの国では首相交替の議論がにぎやかである。政治家の評 価と基準はどういうものか。それは意図(心の問題)によらず、行動とその結果によって測る他ないものだろう。議論の現況は混乱のみ。
と。フィーリングで安倍三世が好感度を以て支持されることのいい加減さ。
▼朝日新聞「私の視点」に明治大講師で憲法学の清水雅彦という人の石原都知事批判とその暴言、蔑視、差別を黙認する社会の危うさ、の投稿あり。清水氏は都 知事の憲法否定宣言が憲法99条の公務員の憲法尊重擁護義務に抵触、と指摘する。首相ですら憲法が間違っている如き発言しても許されるのだから(首相が改 憲派なのは良いが現職の首相として憲法の内容に疑問呈すること)、最初から日本という国は法治の根本が全くもって理解できていないのかしら。で新首相は 「法の支配」なんて言及。

九月廿五日(月)日剰の記述だけでも「よくもまぁ書く」と呆れられるがもう一つの老人の日々の楽しみが20年近くご愛用のタイムシステムのA5版ダイアリーへの毎日の事細かな記載と、頁 の余白に音楽会、映画のチケットから航空券の半切れ、料理屋の明細から新聞のベタ記事まで切り取って貼って貼りまくりのスクラップ。この1年分のダイア リーは、翌年のリフィールを買うと、その箱が反対の背は今年の西暦が書かれており、つまり前年のリフィールをきちんと仕舞える仕組み。きちんと保管できる のは好都合だがスクラップをかなり貼るためにリフィールの厚みが約2倍となってしまい2004年より箱に納まりきらず。スクラップも植草甚一翁なら芸術品 であるが、それには足許にも及ばぬ事務的な「貼り方」だが、やはりきちんと保管したいわけで、どうしようかと悩んでいたら、香港は文房具屋で紙類をきちん とバインディングしてくれるサービスが簡便で、それに注文すると、1年分があまりに厚すぎるということで相談の結果、1年を半年分ずつに分けてバインディ ング。かなり上出来。満足。早晩にジムのトレッドミルで5kmほど走る。Taikoo Placeでダンヒルがアウトレット処分市開催中。ジャケットや革鞄などかなり食指動くが7割引きといっても15万円超える定価の7割引ではジャケットな ど安くても3万円代で手が出ず。シャツ四枚購入。帰宅してレモン丸ごと1個搾ってウオツカでロック。ウオツカ飲みながらポリポリって亀田製菓の柿Pを食べ てたんだ〜(あ、これぢゃ中田調)。その柿Pの袋に「けなげ組」とかいう意味不明のキャラ紹介あり。その会員番号48に「風見鶏」があり
ヨーロッパの屋根の上でクルクル回って風向きを知らせる少々ロマン チックな私、ま、強風の時は目が回って大変だけど……それが何ヨ!! 近ごろの日本じゃ成り行き次第の日和見な人のことを「カザミドリ」なんて失礼な言い 方だと思わないコト?……
って首相が風見鶏と言われたのももう廿年ほど前の話。近ごろの日本、っていつを指してるのかしら。確かに「風見鶏」の言回しは例えば大槻文彦博士の『大言 海』(昭和3年)にはないが。自家製牛丼。トリスのハイボール一杯。NHKのBSの「熱中時代」という番組でNHK紅白の舞台制作の虜の男性現われ紅白の 大トリの歌い手紹介する司会の科白まで諳んじてみせるのだが「古賀メロディーは日本人の心の故郷です」みたいな紹介に、演歌が日本人の心なら、その心にど れだけ朝鮮が流れているか、などと思っていたら睡魔に襲われ寝てしまう。
▼文楽の吉田玉男翁逝去。享年八十七歳。昨年来老耄と知人より聞く。病院から抜け出だし諸所捜索すれば休業中の文樂座樂屋内にぽつねんと一人をられた由。 それもとても越路大夫引退口上に長嶋茂雄君の言葉をモロに引き「永遠に不滅です」と真面目に賛辞を述べた、社会人としては全くの凡人、藝人としては絶後の 名人、と自然体なる面目躍如、と。ただ煙のように消えて行った、美事なる最期、の玉男。新聞の弔報は判で押したように「曽根崎心中」徳兵衛を当たり役に挙 げるが(確かに越路大夫、鶴澤清治の三味線で玉男の徳兵衛、蓑助のお初、先代勘十郎の九平次ってのは完ぺき)だが久が原のT君は「競伊勢物語・春日村」紀 有常、「菅原」菅丞相といった完璧の名演を何故挙げぬのか、と。あたくしが玉男翁で見たのは(香港に移り住む直前の昭和が終わる頃からの数年だけで、而も 東京ばかりで)曽根崎と菅丞相、それにひらかな盛衰記の梶原源太。「時雨の炬燵」おさん、「先代萩」政岡、「鏡山」尾上など女形もよかった、と聞く。T君 が昭和末年、奈良で見た政岡は「梅幸の鷹揚さを大成駒の強さで貫いたような独特の名演、と言う。桂米朝らと「九条の会 大阪」の発起人として護憲派として も活動とお亡くなりになってから知る。
▼民主党代表小沢一郎氏検査入院。安倍首相の誕生に何という偶然。日本の民主主義の最後の望みが……なんて書いていて、まさか小沢先生に日本の民主主義の 望み託すことになろうとは小沢君が田中派の奉行の一人で自民党内で暗躍していた頃には考えられなかった話。安倍三世は河口湖の別荘からの、昨日の大相撲千 秋楽での優勝トロフィー授与のため帰京の様子など、黒塗りのリムジンの隊列で「ここはモスクワか?」と思うほどの高速道路追い越し車線爆走。それを追いか ける馬鹿なマスコミ。この演出の怖さ。赤坂の料亭の奥座敷で組閣でもされていた頃のほうが、まだ「権力が演出されなかった」だけ、真っ当だった鴨。安倍三 世により幹事長に抜擢された中川秀直君(首の後ろの、香港では「猪頸」と呼ばれるお肉が目立ちすぎ)がNHKのNW9に出ていたが「なにをしゃべっている のかわからない」点では安倍三世以上。かつて竹下登君が「言語明晰意味不明」とか言われていたが安倍内閣は竹下君以上に「希望」だの「明日の未来」などイ メージにばかり言及する点では「感動明晰意味不明」だろう。自民党の運命共同体・公明党はまだ安倍政権の性格すら見得ぬうちから政策協力に署名。公明党は 代表が神崎君から冬柴君へ。神崎君がどちらかというと社会党左派の槙枝顔であったのに比べ冬柴君のデカい丸顔は「これぞ公明党」で中川君が並ぶと自公連立 の象徴の如し。
▼陳方安生女史が「政制核心小組」結成し李鵬飛(全人代香港代表)、任關佩英(政府環境食物局長で問責制導入の02年に依願退職)、陳文敏(前任香港大学 法学院院長、現弁護士)、Chandran Nair(研究組織Global Institute For Tomorow創設者)、Elizabeth Bosher(97年まで香港政庁の政務官、憲制事務司などの職で基本法の起草作業に従事}、陸恭蕙(前任立法会議員、環境問題に取り組む、今年4月より 香港証券取引所非執行董事)ら参加。この政策グループ、如何せんBosher女史など政庁高官であれ実務派でいわゆる政策決定の経験者がおらぬ点では陳太 の個人的なブレーン集団以上の内容は期待できまい。来年の行政長官選挙には自らは立候補せず、と陳太は表明。それにしても驚かされるのは李鵬飛君の参加。 この人、80年代には親英派と見られていたが地道に親中派となり当時ですら政治風刺漫画では(移り身の機敏な)カエルで登場していたが保守派の自由党は彼 が創設者で初代代表、その後自由党から離れ香港での彼の政治力低下は事実だが香港の全人代代表という美味しいポスト得て安泰。親中派土共親中から民主党ま で話が出来る点だけでは彼は調整役。今度は本来、北京中央にとっては愉快ではないマダム陳の政治グループへの参画。まぁこれも、マダム陳にとっては李鵬飛 が入ることで「革新政党ではございません」と言えるし、李鵬飛も北京中央には「自分がこの政治グループに加わることでバランスがとれる」と説明か。事実、 先週末にこの政策グループの設立記者会見に現われた李鵬飛君、すでに今日は己が身は行政長官Sir Donald君に同行で湖南省は長沙に在り呉儀副首相に謁見。この経済協力訪問団、長沙で未来のオリンピック体操選手養成の施設見学などして喜んでいる が、かつての東独やソ連と同じ、この社会主義国の国家のためのスポーツ選手養成の意義など理解できているのだろうか。
▼俳優丹波哲郎氏逝去。享年84歳。1980年頃、鈴木清順やATG映画、『十九歳の地図』や金田賢一『正午なり』など元気だった頃に丹波哲郎が監督の 『砂の小舟』という映画あり。異作。後に「丹波哲郎の地上(ここ)より大霊界」とかいう変なタイトルとなる。ドラマ「キーハンター」は当時、香港でも放映 され何度か香港舞台にした話もあり香港では陸恵敏や白彪など往年の俳優が出演していた由。香港の新聞も丹波哲郎の逝去大きく報じる。

九月廿四日(日)曇。昼過ぎ迄ジムで筋力運動と有酸素運動各一時間。ジムからぼんやりと繁華街眺めていると「大熊本」という「西洋料理」の店あり。奇妙。 「旺角の伊東屋」中南図書にて細々した文房具購う。MTRで中環。Dunhillでキーホルダー購う。素敵な新作のショルダーバッグあり。我慢。十年以上 前に製造発売中止になったはず(倫敦にはあるが香港では販売中止なの鴨)のダンヒルの傘も店頭にあり。新作らしいが一見してあまりにチープな作りで、太め だし布カバーもついておらぬし、何より傘の布の張りがあまりにも弱くて雨を跳ね返しも悪かろうHK$2,300とは呆れる。久々にFCCでドライマティー ニ一杯。一旦帰宅して早晩にZ嬢と尖沙咀。Jimmy's Kitchenに 晩餐。今 までに見たこともなき繁盛ぶり。中環の本店が三ヶ月だか改装中の煽りもあろうか。ハイボール二杯。蟹肉のラヴィオ リと鴨の腿肉の薫製はいずれも前菜だがこの二皿とオニオンスープをZ嬢とシェアして、それでじゅうぶん。アップルクランベルタルトとエスプレッソ。音楽会 の前はこれくらいが適量。香港文化中心にて維納フィル ハーモニー管弦楽団の二日間の香港公演の初日を聴く。指揮はValery Gergiev(ワレリー・ゲルギエフ)。昨晩ペニンスラホテルのバーで遭遇の方々は制作サイドか、と思ったが第1バイオリン2名、クラリネット 1名ともう一人の由。舞台に楽団員現われただけでやはり威風堂々。演奏前のチューニングの音からして音色が違う。モーツァルトのLa Clemenza Di Tito(皇帝ティートの慈悲)の序曲。ゲルギネフが指揮するショスタコーヴィッチの交響曲9番は秀逸。ピッ コロとファゴットの演奏冴える。この曲は1945年に第二次世界大戦でのソ連勝利祝賀にショスタコーヴィッチにとって「第9」であるからスターリン政府は 荘厳な合唱つきの歓喜あふれる壮大な曲を期待したのにショスタコーヴィッチの第9は橋本治的に「スターリン讃美なんて僕はしないもの!」で軽妙洒脱。これ も起因して3年後の1948年にジダーノフ批判でショスタコーヴィッチは反革命的芸術家の烙印押されてしまうのだが、このショスタコービッチの権力に対す るアンチテーゼ的な明るさをゲルギネフは見事に表現。後半はブラームスの交響曲第4番。ヴァイオリンが第1ヴァイオリンと第2で二部合唱に聞こえるくらい 美しい音色にただ茫然とする、が、この曲はウィーンフィルにとってゲルギネフのニンではない。バレンボイム指揮とかのほうがずっと引き立つ演奏だろう。ゲ ルギネフならウィーンフィルはやはりショスタコーヴィッチや当然のようにラフマニノフとか面白いだろう。アンコールは4番に続けてブラームスの匈牙利舞曲 5番。もう一曲はおそらくヨハン=シュトラウスの舞曲の一曲(だと思うが知らない)。ブラームスもそりゃウィーンフィルだから凄いがショスタコーヴィッチ の9番が今晩の収穫。明日はモーツァルトの交響曲36番Linzとチャイコフスキーの5番。ゲルギネフならチャイコフスキーのほうがモーツァルトよかずっ と面白いはず。ところで今晩のウィーンフィルは香港初、と思われそうだが実は1959年に、なんとウィーンフィルなのにカラヤンが指揮して香港で初演して おり今回は実は二度目。ウィーンフィルのカラヤンというのも好事家にはたまらないが、この1959年は日本でもカラヤンが指揮するウィーンフィル最初で最 後の来日あり(こちら)。どこか の飛行機会社(おそらく当時ならパンナム航空くらいだろう)が世界一周航路の宣伝でウィーンフィルが40日間で世界一周する大企画があり(ちなみに映画 『80日間世界一周』は1956年公開)、それでおそらく日本公演の次に香港に来たのだろうが、当然、香港は南回りの飛行機の拠点だったから、で、当時、 まだ中環の市大会堂もなく、なんと銅鑼湾の利舞台(The Lee Theatre)でカラヤン指揮でウィーンフィルが演奏した、というのだから物凄い話(この逸話は今回のパンフレットにも出ておらぬ逸話)。で半年ほど前 だったかのベルリンフィルに続く香港の実質上初公演に近いウィーンフィルであるからチケットも七月だか月曜日朝に発売数時間で売り切れ。今回確保できた席 は1階5列目の舞台に向って左から8番目くらいのA席ではかなり上席(一つ右隣はS席でHK$1800!)。この席であるからヴァイオリンの旋律が流れ落 ちてくるような感覚。ちなみにウィーンフィルは今回、ソウルで先週2日演奏あり、香港も2日、来週は中1日おいて豪州はシドニーだがウィーンフィルの豪州 での演奏はなんと今回が初の由。

九月廿三日(土)快晴。午前、ジムで一時間の有酸素運動。昼すぎ別なジムで一時間の筋力運動。午後遅く高座。尖沙咀。土曜早晩でペニンスラホテルのバーカウンターのいつもの隅席も酒飲み四人組あり。 馴染のバーテンダーも苦笑。ハイボール二杯。その酒飲み四人組、ドイツ語で話しているがどうやら維納フィルハーモニック交響楽団の制作監督者ら。話の節々 に音楽関係の固有名詞あり、そこだけは聞き取れる。明日からの二晩の公演にて来港の由。来週末に帰国のT君夫妻とペニンスラホテルの旧館屋上でのBBQビュフェに食す。も はや肉をむしゃむしゃと食すも厭われ、ほんの数切れ箸をつける程度。米国人の男女、前菜から魚介、肉類と次々と皿に大盛で「これぢゃ日本が戦争に負ける」 と思う。デザートはかなり堪能。美味しゅうございました。今日二度ほどタクシーで不快な思い。一度目は車内に持ち込んだキャリングケースが車内とはいえ大 きさが規定超過だとHK$5の超過料金取られ(縦横奥行き計120センチ以上の場合、のはずで帰宅して大きさ図ると110センチ以下であった)、もう一つ は、帰宅の際に尖沙咀より搭乗の香港島行きであるはずのタクシーに海底隧道の料金を往復請われる。香港に戻る車なら片道だろうがっ!と拒んだが「そんなこ と関係なく往復だ」と慇懃無礼な運転手を汚い言葉で罵りドアを蹴り開けると運転手「ヤヴァい客」と思ったらしく慌て降りてきてトランクよりキャリングケー ス出すのなど手伝う諂い。不愉快。
▼昨晩NHKの番組で「趣味の達人」紹介する薬丸君司会の番組(番組名失念)をぼんやりと見ていたら「新聞の号外」の蒐集家の御仁登場し何千という号外を 集めた氏にとって「幻の号外」が1939年1月場所4日目(1月15日)に双葉山が安藝ノ海に敗れ連勝が69節男に敗れるまで69連勝を記録。この日の号 外を探す氏が東京で当時の双葉山の連勝を見ている、という筋金入りの相撲好きの老人らに集まってもらい幻の号外の有無など確かめるのだが興味深い話は、そ こに集まった老人の一人が号外が配られていたのをあたしは見た記憶がある、という逸話。この日、その方は六代目の道成寺を見に父親に歌舞伎座に連れて行か れ、道成寺が始まると「聞いたか、聞いたか」の科白でお馴染の所化の坊主役の一人が「落ちた、落ちた、双葉山が落ちた」と即興で語り、これで歌舞伎座にい た客の間で双葉山の連勝の止めに「おーっ」とドヨメキがあがった、と。それで芝居が跳ねて歌舞伎座を出ると双葉山連勝止まる、の号外が配られていた、とい う話。本当にこの日に六代目菊五郎が歌舞伎座で道成寺を踊っていたか……まで調べないといけないのだろうが、「聞いたか、聞いたか」「落ちた、落ちた、双 葉山が落ちた」で銀座で外で号外配られる、はじつに絵になる話。
▼ローマ法王ベネディクト16世の講義での発言(12日)、イスラム教徒からの反発、という話。今ごろになり発言の要旨読む。14世紀末にビザンチン皇帝 がキリスト教とイスラム教について語りジハード(聖戦)を「ムハマンドが新たにもたらしたのは邪悪で冷酷なものだけ」と言及。これを引用し現法皇は「暴力 は理性に従わぬ行動であり、不合理で神の本性に反する」と述べ、それが反発招いた由。この発言読みこの部分以上に気になったのが「西洋では実証的な理性の みが普遍性を持つとしてきた。しかし世界の諸宗教は、理性の普遍性から神聖なものを排除することを、最も深遠な信念に対する攻撃とみる。理性を広げること で、私たちは諸宗教を対話の相手に招くことができる」というところ。このヴァチカン=理性、普遍性、神聖という至上主義。

九月廿二日(金)晩にQuarry BayのEast Endに て編集者S嬢と打ち合せ済ませエール2パイント飲みひとまず週末。帰宅して韮鍋。当初は和田エミのレシピであったがだいぶ進化して「たれ」は韮の葉の下半 身をミキサーでゲル状にして醤油や酒、出汁で味つけするのだが、この「たれ」が格別で、おそらく納豆なんてこれで食べたら最高に美味いはず。テレビつける とNHK映っており間違ってNW9が流れており安倍三世組閣構想のため今夜、山梨は鳴沢村の別荘に向う、と「報道」。組閣までして首相就任できないと最高 に面白いのだが……。別荘で組閣構想ねぇ、と考えると小泉さんの清貧ぶりも懐かしいが(とすでに小泉三世も「さん」づけの仲間入り鴨)、この安倍三世の別 荘行き伝える内容にNW9のキャスターは「会津の男」にもかかわらず「週末、どんな人事構想が……」などと口にしつつニヤニヤと楽しそうな表情。この柳澤 秀夫なる会津の男、戦場報道の硬派、と思っていたが意外と「安倍さんに親近感」で、意外と一本釣りなんかされると竹中平蔵的な意味のない役割を演じ切れる 鴨。内閣といえば文相には「北海道の子熊」中川昭一君という下馬評あり。教育改革も進展か……乎。その安倍別荘行き報道に続いたのが「相次ぐ飲酒運転での 事故」報道。昨日今日「激増」ぢゃないのに。飲酒運転に巻き添えで娘をなくした父親が「娘が結婚して、結婚式で涙流したかったのが、葬式を出すことになっ たとは」とカメラの前で号泣。その悲しさが本音で哀しみには何も言わぬがテレビで「娘の結婚式での父親の涙が葬式の涙に」がテレビ的に製作側にはどれほど 「おいしい」か。菊田一夫だよ、これじゃ。もしかすると、の想像だが、どんどんこうして演出が事実を凌駕する、ってのは、例えば、テレビの取材に「いいか ら、帰ってくれ!」の父親に「お父さん、お父さんがテレビで訴えてくれることで、凶悪な飲酒運転が少しでも減って、その犠牲になる人も命が助かるんです よ、娘さんもそれを望んでいますよ、きっと」なんてADに言われて、いざ収録始まれば素人の口から「娘の結婚式での父親の涙が葬式の涙に」という制作者サ イドが思ってもいなかった最高のコメントが取れる……のくり返しなもかもしれない。
▼東京都による入学式や卒業式での日の丸に向う起立、君が代斉唱の強要は不当とする都立高や擁護学校の「左翼な」教職員が東京都「ファシス都」教委など相 手に強制に従う義務なしと訴え東京地裁(難波孝一裁判長)は違反者処分とした都教委の通達や職務命令は「少数者の思想・良心の自由を侵害する」として違憲 違法と判断(廿一日)。石原ファシス都知事本日「控訴するのは当然」と語り都は方針を見直す考えはないと述べ知事に盲従の都教委も臨時の校長連絡会を開き 都立学校長約二百五十人に対し「これまで通り通達に従って指導してほしい」と改めて指示。司法による判断尊重などという常識もなく「たかだか地裁ごときが 俺たちのやり方に文句つけやがって」程度の認識かしら。杉浦法相など「個人的な一議員としての感想」としつつ英国旗「ユニオンジャック」を例に「血塗られ たユニオンジャック、という表現があるくらいだが、それでも英国民は国旗として変えない。そこを思い起こしてほしい」「一部報道では、日の丸・君が代が軍 国主義を連想させると言うが、戦争に至った経緯とは関係がない」と発言。法相はどうも日の丸に嫌悪感もたれること不服らしいが今回の裁判は国旗国歌への強 制に対する提訴であり「日の丸が日本の国旗としてふさわしいかどうか」の裁判ぢゃないのに。まるっきしわかっておらず、で法相とは。首相小泉三世に至って は「法律以前の問題じゃないですかね、人間として国旗や国歌に経緯を表するのは。人格、人柄、礼儀の問題とか」と。「……とかぁ」で打ち切るとかぁ首相的 にはちょっとヘンじゃないですかぁ、そのへんの女の子じゃないんだからぁ、だが小泉三世のこの発言、さすが当世日本の「とても一般的な常識」でこの程度か しら。これが「礼儀とかは法律以前の問題じゃないですかね」ならその通り。だが国家は、とくに近代国家は「こうしましょう」ということで成立するもの。そ の国家を維持するため法律(だから法律は国外には適用されないでしょう)。その国家の象徴としての旗であるとか歌は法律以前にあるはずもなし。国家の首相 たるものが近代国家の基本の「きの字」も理解せぬまま「あってあたりまえ」の如く骨の髄まで<国家>への親しみ。この客観性のなさ、が怖い。が「国旗や国 歌に親しみを感じるのは「日本人として」当たり前でしょう」は小泉三世と国民の多くの素直な感想か。国旗国歌への強制は強制と思わぬが憲法となると安倍三 世など現行憲法は「大きな強制の中で制定された」もので、それが「日本人の精神に影響を及ぼしている」とさらにカルト的な思考になるのだが、この安倍三世 の自民党総裁就任につき(朝日新聞の調査で)「よかった」が国民の57%で安倍三世に親しみを感じるが59%の結果。女性に人気、のばかばかしさ。戦後の 日本の「いい加減さ」享受しておきながら戦後憲法が日本人の精神にきっと「悪い」影響を及ぼしている、って「あなたには悪い霊が憑いています」の三流カル ト宗教のレベル。この教祖様に親しみ感じる人たちが自分の周囲で10人ちゅう6人もいると思うとぞっとする。
▼先週土曜日にホンハム市街をミニバスで通り抜けると工業ビルのまえに観光バス泊まり間抜け面の田舎漢旅行者がビルにある貴金属かの「特設売り場」に入っ ていく態を見たが、このあたりかつては日本人相手の「ファクトリーアウトレット」だったのが今ぢゃ大陸からの田舎者相手の貴金属屋。客寄せに、と商売人が 「純金のトイレ」など設けたのが数年前だったが、今度は純金のマンションまでビル内に設けての客寄せ。それに「へぇ……すげぇもんだべ」で見せてもらった んだから何か一つでも買ってくけ?の世界。田舎者といえば中国資本の招商銀行なる銀行集団が今日、香港で上場。この招商銀行の頭取が「山西省の山奥から出 てきたような」オヤジで、それが香港交易所でシャンペン片手に「上場、乾杯〜!」なんてやっている。見てるほうが恥ずかしい、が資本主義はすごい。

九月廿一日(木)朝日新聞に「自民党の新総裁になった安倍氏が国会で首相指名受けるまで小泉首相と安倍総裁の動静を両方掲載します」とあり。唖然。「もし も」自民党の安倍不支持にまわった議員総数三分の一が「まさか」で民主党ら野党と結託し福田首相、小沢副首相、加藤紘一外相といった布陣で反安倍大連合と なり共産党までが福田首班にまわり「与党であること」が信条の公明党まで加わり安倍首相が誕生しなかった場合、朝日新聞は「安倍氏が国会で首相指名受ける まで」未来永劫ずっと安倍総裁の動静掲載するのかしら。まさに浅野史郎氏の指摘する「与党ボケ」。朝日新聞もすっかりこの<國軆>がからだに染み込んでい るらしい。本日が「小泉内閣メールマガジン」最終号の由。小泉三世曰く「話し合ったり、相談したり、専門家の知恵を借りたりすることは必要ですが、重要な 決断は一人でしなければなりません。時には、友情や好みを捨てて非情にならなければならないときもあります」と。国家の運命左右する重要な決断をこの人が 一人でしていたと思うと今更ながら恐怖覚ゆ。「24時間公人として、何かあったらいつでもすぐに対応できるように、5年間精一杯努力してきた」のだそうだ からプレスリーの真似に興じている時もモンゴルの砂漠の中でも危機管理の精神であったのか。「徳のある人は才能がない、才能ある者は徳がない、といわれま すが、私は自分では気の弱い普通の常識人だと思っています」と宣われ、普通の常識人?と一瞬思ったがある面では当世の日本の「非常識であるからに普通の 人」の象徴なのかもしれぬ。本当に、あれだけ危ない橋を渡りながら「いつも何かに守られている、運がいいな」の五年であったことだろう。首相退任の短歌は
ありがとう 支えてくれて ありがとう 激励 協力 只々感謝
だそうな。大学出たての新任教員じゃあるまいし……言葉もなし。宣長の「敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花」から
小泉の大和心を人問はばブッシュに媚びる山桜花
とでも贈ろうか。本日諸事忙殺され晩に至る。夕餉の機会すら逸す。湾仔新鴻基中心の星巴珈琲に寄り珈琲一杯喫しチョコ菓子流し込み遅晩に至る。深更本日の 新聞数紙捲り乍らBowemoreのモルトウヰスキー飲み柿の種にて空腹満たす。
▼泰国首相タクシン失脚させる政変につき朝日新聞は「タイ投資に冷や水」と見出しでトヨタ、日産自動車など「一部工場が停止」と伝える。が、よく記事読め ばトヨタは「20日は日中は通常通り工場を操業したが、夜間は停止」で21日は未定、で本田は20日の日中の操業中止で夜間は通常に戻る……とその程度。 紐育にて国連総会参加のところ国内の政変で首相の座を追われしタクシン君、タイ航空のチャーター機にて倫敦に飛び倫敦空港からは“THAI 1”というナンバーのベンツ高級車で3.2億バーツ(約10億円)の自邸に向う。この豪邸に普段住うは倫敦に留学中のタクシンの娘。自邸もありながら Dorchester Hotelに滞在という噂も。タイの銀行に預ける資産だけでも730億バーツ(2,000億円以上)でバミューダなどにさらに海外信託の財もあり。通信バ ブルで巨額の財産築き政界に進出とはいえ警察官僚出身でわずか二十年でここまで財産築ける世の中尋常でなし。信報社説曰く、群衆が市街での座り込みなどで 元首の失脚求めねばならぬ台湾と同じく、タクシンの政財界でのワンマンぶりこそあれ形の上では「民選」の首相が軍事クーデターで追われることの政治の脆 さ。この社説に興味深き話あり。今回のタイのクーデターに米国が「状況を見守る」といった程度の態度にあるは、実はタイこそ米国にとって反テロ対策のアジ アの旗艦拠点でバンコク郊外にはタイ国軍の反テロ専門部隊の精鋭基地もあり、とか。バンコクの米国大使館こそ華盛頓に次ぐ規模の対戦司令部、とか。言われ てみればバンコクでインターコンチネンタルホテルから見下ろせばバンコク市街の中心地に鬱蒼とした森に囲まれ米国大使館と大使公邸あり。
▼タクシンの財力も呆れるが香港の財閥、李嘉誠一族もかなり「きてる」ことには変わりなし。「李嘉誠の次男」のリチャード君、東京の汐留だったか国鉄跡地 の再開発で98年に900億円だかでビル購入し、このビルにあるフォーシーズンホテルの権益除き購入時の二倍額で売却の由。日本の地価上昇での濡手に粟だ が、この次男坊の所有する香港の電信電話独占企業体PPCWは梁某なる中国の中信集団の息かかる投資家にPPCWの発行株の20%余買収されているのだ が、その買収資金に李嘉誠がHK$5億だか資金提供の由。李嘉誠と嫡男たる長男の仲良しに比べ次男の鬼っ子ぶりも噂されるが(とくに李嘉誠夫人の90年 だったかの死去……自殺との噂もあり、以降のこと)李嘉誠の今回の息子所有のPPCWの敵対買収への資金提供にいったいどういう意図ありや。我が子可愛さ の星一徹的な策略か、財界人としての非常なビジネスか。いずれにせよ「金持ちすぎる」一家の奇妙なる業にただ唖然とするばかり。
▼信報の劉健威氏の随筆によれば旺角の活魚販売店が長年にわたりビルの水道施設より不法に「鹹水」用いて海水魚の水槽に水満たしていた由。上水道での真水 備蓄に難しい香港は上水道は台所など飲用か(といっても直に飲む人も少なかろうが)煮炊き、洗濯のため、として便所の水洗のためには海水をあまり浄化せぬ 「鹹水」を提供。各住宅には上水道とこの鹹水、二本の水道管が配られ、それでビルの壁に余計に水道管が目立つ。で、この魚屋、海水魚の販売に新鮮な海水用 いるには費用も嵩むという理由からか便所用の鹹水を用い、これは旺角ならさしずめ九龍の汚れた海水をちょいと浄化しただけだからバクテリアなど含有量高い わけで活魚も当然、汚染とはそりゃ恐ろしい話。
▼仙台の梅原市長は安倍三世の総裁就任にあたり「就任は個人的にもうれしく思う。新首相に就任後は、『日本丸』の新しい船長としてかじを取り、強力なリー ダーシップを発揮することを期待したい」と祝意表す。「地方が豊かであってこそ本当の先進国。新総裁は山口県の出身ということもあり、地方の思いを理解し てくれるはずだ。今後は、地方・国のために一緒になって働いていきたい」とエールを送るが、伊達藩たる者が長州に尻尾振るとは……。

九月二十日(水)晴。朝六時半RTHKニュース。タイで軍のクーデター発生、と流れるを聞き目覚む。「新空港が予定通り開港できぬため関心を空港から反ら すため」とか……まさか。タクシン首相国連総会出席にて在紐育、非常事態宣言発令。軍並びに警察幹部全権掌握し97年制定憲法停止、三権が解散。タイ全土 に戒厳令施行。首相発令の非常事態宣言無効となる。タクシン政権下タイ南部のイスラム教徒教化=弾圧、タクシン一派に象徴されしバブルな勝ち組とその他の 格差拡大等々。まさに「叛乱」派指摘せし「現政権が争いを引き起こし、過去にないほど国民の調和を乱した」ことの罰責。「平和と秩序のため」のクーデ ター。国王が動かれ事態掌握されるかぎりタイは安全。暫らくして権力は尋常な政府に返還される、のだろうが、明日の朝日新聞の社説に「このままでいいの か?」とタイで民主的な政治制度確立せむが為にはいつまでも国王の統率力、軍事クーデターでの政権交代に頼っていてはいけない、とか指摘かしら。産経新聞 は「日本大使館によると、在留届を出している日本人は約3万6000人に上り、大きな衝撃を与えた」と伝え、朝日新聞は「在バンコクの日本大使館にも、在 留邦人からの問い合わせが相次いでおり、大使館では「安全な場所での待機」を呼びかけている」と。香港でSARSの時の日本のマスコミの誇張報道(危機感 煽動)の経験あるがため、どうも「現地の日本人の困惑」が信じられず。バンコクのY氏に「どうせのんびりしてるんでしょう?」と失礼承知でメールで尋ねる と、やはりその通り、で街中は比較的平穏、但し不測の事態に備え日本人学校や日系企業等々は自宅待機。大きな交差点には銃を持って軍隊が立ち多少の緊張 感。テレビ局を軍隊が制圧している為、NHK、CNN、BBC、CCTV等々の海外放送は全てストップ。ローカル局はニュース以外の放送を午前中から再 開……と知らせあり。「その程度」が現実。いつもバンコクで航空券調達せし旅行代理店の社長氏も「クーデター見舞い」のメールにご返事で、スクンビットの オフィス周辺は平常通りで今朝もいつもと同じで自動車出勤、なのに日本の報道ではバンコクは大騒動で戦車が市内の中心を走っているような印象にされるので しょう、と懸念。それにしてもテレビ局占拠され放送中断でもネットでメールが正常は大したもの。タクシンがシンガポールに電信インフラ売却のおかげか。新 空港はいずれにせよこれで開港延期の大義名分が出来たであろう。バンコク在住で臨時休暇となった知人は午後から出勤との由。NNNのニュースではバンコク の日本人女性が「買い物に出かけられるか心配」と答えていたそうだが実際にはお買い物は「全然平気」だったようで、日本のニュースの偏向ぶりは呆れるかぎ り。 他人の心配するまえに今日、まるで自民党総裁=首相にワイルドカード選ぶ自分の国のこと心配しろっ!と。タイのクーデターよか安倍晋三先生の自民党総裁選 挙当選=首相のほうがずっと不穏当と思うのはアタシだけか。というわけで本日、午後、安倍晋三君自民党総裁に就任。晩 にハッピーヴァレイ。何年ぶりか萬興茶餐庁で鼓椒排骨炒麺食 す。秀逸。本当に美味。地味で高級なことでは異色の茶餐庁。一人でぶらり、という感じではおそらく二年ぶりかでハッピーバレイ競馬場で競馬観戦。一般席も かなりきれいになっており会員席は会員専用エリアが広くなり勝手わからずまごつく。具体的には会員にかぎらず「貸し切り」観戦席(レストラン)増え営業額 増を狙ったもの。いずれにせよ「かすりもせず」火傷ひどくなる前に5レース目で退散。バーSに寄りモヒートとハイボール数杯。近々、ウヰルキンソンの炭酸水が香港でも入荷するよ うな。シュヱップスの炭酸が「きつくて」苦手はアタクシには朗報。
▼先日、飛行機に詳しいY氏とO君の話を聞いてアジア系に比べサーヴィスは論外だがユナイテッド航空のマイレージがいかに使い勝手がいいか、と知りユナイ テッド航空のサイトでアカウントの確認をしてみたら91年が最後の搭乗!でサイトでの登録は6年前にしたっきり、であったのにちゃんとアカウントが活きて いて驚く。
▼連日、陶傑氏が蘋果日報で台湾の反阿扁運動に言及。今日は「施明徳不自焚阿扁不下台」(施明徳が焼身抗議でもしなければ阿扁は下野せぬ)の過激なタイト ル。台湾での反扁派と挺扁派の対立激しく、もはや台湾南部は高雄を首都に「南台湾共和国」として独立するが如き勢い。だが実は阿扁総統が辞職せぬことは中 台統一派と中国にとって有利なのは民進党内の反扁派と台湾独立急がぬ穏健派(薄緑)が国民党支持でも台湾人意識強い層(薄藍、王金平に象徴されよう)と結 合することで国民党vs民進党の二極対立のなかで中間の第三勢力になりかねず、台湾独立派は弱体化。かりに阿扁辞職などすると民進党内の穏健派がいっきに 独立急進派に飲み込まれる心配もあり。台湾の倒扁運動は「民主の勝利」の如く誉められるが実際には内部は曖昧模糊で魑魅魍魎割拠。ところで台湾が南北分断 される場合、一瞬、政治的には微妙な台中を境に、とも考えたが「台中は台湾の名古屋なので」(だからどう、という理由にはならないが)風土的にはちょうど 北回帰線であろう。台湾は明らかに北回帰線の北と南では風土が異なる。ちなみに製麺の際に鹹水(かんすい)を使うかどうか、も北回帰線でわかれるらしい。 北回帰線は日本でいえば小笠原諸島で南硫黄島の南。沖ノ鳥島が日本の最南端となっているが経済水域確保のため防波堤に囲まれた無人の岩。小笠原諸島の父島 も母島も大東島の諸島も宮古島、石垣島、西表島も見事に北回帰線のぎりぎり北にあり、台湾は玉山(3997米)と阿里山(2481米)が見事に北回帰線 で、中国では汕頭から広州。まさにちょうど風土が南北で見事に変わるのが実に興味深い。

九月十九日(火)晴。深更に『モンテ=クリスト伯』第2巻の読了でさすがに眠いまま目覚める。また多少汗ばむ陽気。諸事忙殺され一向に終わる気配もなく途 中で強制終了し帰宅。ドライマティーニ一杯。夕餉済ませ新聞や切り抜きなど読んでいるとあっとういう間に深夜。養命酒飲み寝入る。
▼一昨日日曜の朝日の読書欄に陣内秀信が粕谷一希の『作家が死ぬと時代が変わる』という書籍の評を書いている。戦後、天皇制批判厭わぬ『世界』やリベラル な『中央公論』に対して『文藝春秋』は「インテリ批判から出発して皇室記事を掲載し部数を伸ばした」、その雑誌の名編集長(粕谷)も「近年の雑誌全体のス キャンダリリズムと右傾化の傾向には危機感をもつ、という警告」がこの本に書かれているそうだ。かつては保守右翼反動雑誌のやり手編集長も「社会主義には 距離を置き、戦後民主主義には懐疑的」という点で後藤田先生らの流れの良質の保守であると今になって思えてしまう。また吉本隆明も今日の朝日のオピ欄で、 経済構造を中心とした下部構造と精神領域の上部構造が相互には全く関係ないとした、自らの共同幻想論でいえば、天皇制を含め日本社会がこれからどう変わっ ていくか、と問われれば「いかようにも変化する」と考えてしまってて、このへんは熱海以降の吉本ばななのパパらしい「おいおい……」の禅問答だが、吉本隆 明は「反動的な政治家が出てきてもう一度「神聖天皇制」を復活しようとしたら、そうなる可能性がある」のが今の、小泉ブームでの国民の感じだ、と指摘す る。粕谷、吉本の指摘に同じくあるのは、やはりテレビのインタビューに「安倍さんの若さと行動力に期待」なんてあっけらかんと答えているノーテンキな人た ちへの懐疑かしら。ところで前述でスキャンダリズムが悪く喩えにされているが、本来、スキャンダリズムとは権力者の醜聞を暴くもので、それがどうでもいい ことまでスキャンダルっぽく演出することで話題づくりに迷走していることが今の問題。
▼朝日新聞文化欄にモダニズム建築の代表格である東京と大阪の中央郵便局の建物が再開発のなかで保存か解体かの波に晒されている、と記事あり。東京中央郵 便局は1931年に逓信省の設計技師吉田鉄郎による設計で、とくに夜になって局内にあかりが灯ってからの、国電から眺める美しさ格別。それを安倍晋三は郵 政民営化されれば東京中央郵便局のある一等地が有効活用される、と昨夏の衆院選挙演説で宣ったのだ。祖父らが築いた栄光の1930年の象徴たる丸の内のモ ダニズム建築を保存することの意義すら理解できぬ安倍三世。が明日、自民党総裁に圧倒的過半数で選ばれ来週の火曜日には首相か。
▼台湾で台北中心とした反扁運動が南部の挺扁の波とぶつかり合い、いわば南北戦争ムード。民主主義の熟成のためには民意の政治的主張の高まりは必要という 見方もあるが陶傑氏は台湾が民主主義社会で民選で総統を選挙する制度があり阿扁も二度の総裁選挙で当選したのだから阿扁非難する前にまず非難されるべきは 選挙民の自責であろう、と。独裁なり非民主的な選挙制度で元首や首長が選ばれた場合(香港の行政長官の間接選挙のこれに該当しよう)なら抗議活動も根拠あ るが民選制度の場合は自らの責任をまず反思すること。それをただ阿扁下台!と叫ぶだけでは民主主義も立憲政治も成熟はしまい、と指摘。
▼行政長官の「自称政治家」Sir Donald君が香港政府の経済対策で積極的不干渉政策につき存続するのしないのと話題となるが今日の信報にSir Donald君本人の「大市場、小政府が我々が堅守する経済原則」という一文あり。内容の黒白はなんだか意味不明だが一つだけ明らかなことは「小政府」と はいえぬ香港特区政府の肥大化。これは97年後返還後に始まったことにあらず七十年代の誉れ高きMcLehose総督の治世に民生重視ゆゑの市政局である とか教育統籌局と教育署などの業務重複など問題多く寧ろ97年以降部局統廃合で整理されもする。が今日の特区政府が小政府といえるかは疑問。Sir Donald君は公共支出額を香港のGDPの一定の割合に抑えることで小政府が堅持されている、とするが特別行政区とはいえ地方自治体と思えば人口700 万人で昨年度の支出がHK$2,536億で、これを神奈川県と比較すると神奈川が人口883万人で平成18年度予算が1.4兆円であるから香港特区政府の 歳出は神奈川県の2.5倍と思えば(人口比加味すれば3倍であろう)香港政府が国庫交付金もなく財務、通商や福祉、司法など日本でなら国庫が負担すべき分 野まで自弁とはいえ、いかに大きな政府か、は明らか。
▼広州で新聞に風刺似顔絵画など描く画家、Kuang Biao氏(40)が胡錦涛君描いたことで停職。北京大学で過労が原因で死去した教授の娘宛に涙ながらに手紙を書く胡国家主席という絵柄で描き手はキャプ ションで胡国家の涙はこの娘だけにでなく薄遇で懸命に働く全国の教員への思い、と述べたというが、なぜそれが停職に値するほどの国家元首への揶揄と映るの か。国家元首の涙は禁物か。
▼昨日の信報に香港城市大学学長の張信剛教授の産業化と文明論に関する長文の寄稿あり。今日になって読んでみたが、今年四月の北京大学での「21世紀の東 南アジア……文化建設と文化交流」という、旧友M君のご尊父である張教授には失礼だが「ありがちな」シンポジウムでの基調講演。だがさりげなく
文化的には東洋と西洋の交じり合うシンガポールを見てみると、近年 ひとつ困難な状況にあることは、政府の権威が国民の創造性の高揚を熱心に鼓勵するのだが結果は今一つで、言えることは、人々が政府の話すことを聞いて創造 性を高めようとしても実際には創造力に欠けるわけで、むしろ人が創造性を持ち始めたら政府の話など聴かなくなるものだ。
と指摘。シンガポールには不愉快な話だが張教授はこれを北京で指摘したことの意味深さ。暗に中国に対する指摘とも取れよう。
▼女優で「エノケンの森の石松」で石松(エノケン)の相手役「お民」演じた竹久千恵子逝去。享年94歳。ハワイ在住。

九月十八日(月)快晴。愛機PowerBookG4が一週間以上かけて退院。HDDの交換。馴染みのMac店のためほとんどHDDの売値のみの支出で幸 い。早晩にジムで一時間の有酸素運動。帰宅して親子丼食す。先週土曜に杭州酒家で供された雲呑鶏の鶏半羽持ち帰りで、その鶏肉使っての親子丼。美味。 NHKのNW9は一切見ぬようになり晩はPearl局の英語ニュース、新嘉坡のChannel News Asiaに続きCable-TVの広東語ニュース、BBC WorldのAsia Tonightなど眺めていると2時間になるが日本のニュースも自民党総裁選から吉野家での米国産牛肉での牛丼販売開始だの日本のこともよく報道され「余 計な感情的コメント」や饒舌な「市民の声」などもなし。自民党総裁選では「若くて行動力がある」なんて安倍支持の「市民の声」が紹介されるが Newsweek誌は安倍晋三特集でタイトルは The Wild Card である。そのワイルドカードを用いようとしていることが、この安倍支持の市民はわかっていらっしゃるのかどうか。デュマ『モンテ=クリスト伯』第2巻一気 に読了。山内義雄訳は見事なのだが、ときどき「読みづらい平仮名書き」あり。すべて平易に、という書き方であるとか、具体的に名詞は漢字、動詞は平仮名と いった流儀の人もあるが、山内訳の場合かなり難しい言葉も漢字であったりするのに、突然、動詞が「もちはこばれ」となり「餅は、こぼれ」なんて読んでし まったりする。第2巻の挿話にハシッシュが登場し幻覚な作用のかなり詳しい描写が続くのだがハシッシュに関して「インド麻から取る魔睡財」なんて真面目な 訳者註も興味深い。デュマ自身は記述の明瞭さからしてハッパけっこう吸ってたのね、の感じだが山内義雄は見事な和訳完成させるためにハシッシュを取り寄せ 一服したりはしなかったのかしら。
▼沖縄県知事選で野党が統一候補として沖縄社会大衆党副委員長の糸数慶子・参院議員を擁立一本化。民主、社民に加え難色示していた共産党も同調。本来、野 党はこういう結束をして自民党に対抗すべき、の見本。これが「沖縄だからできること」なのは沖縄には基地問題や経済格差など具体的に県民に見える政治問題 があるから。「安倍さんの若さに期待」などと呆けた本土との違いか。自民党総裁選といえば朝日のオピ欄に宮城県前知事の浅野史郎氏が「新首相は即座に衆院 解散を」と卓見。自民党の総裁選に「国を挙げての与党ボケ」と浅野氏。新聞の読者投稿に「大事な自民党総裁選に我々一般国民が全くかかわれないのは不満」 という意見に自民党総裁=総理大臣という、「歴史的事実でしかないことが制度上のことであるかのように誤解されている」日本の現状を憂う。何回か前の総選 挙では自民党下野の可能性もあったのに或る自民党候補者は「政権とのパイプ役」を売り文句にしていたのも与党という名前の政党でもあろうかのボケだし (「自主憲法制定に全力を尽くす」なら下野しても通用するだろうが、と浅野氏)、社会党が野党第一党であった当時に三宅坂の党本部に垂れ幕で「憲法改正発 議阻止のために3分の1を死守しよう」とあったのも野党第一党として政権奪取を忘れた野党ボケ、と。内閣総理大臣は国民が選ぶ国会議員の多数が指名するの が憲政の常道なのだから新首相は直ちに衆院解散して国民の真意を問うべきなのだが国民から一向にそういった世論が盛り上がらないのを見ると浅野氏は「この 国に本物の民主主義が根づくにはまだまだ時間がかかる」と指摘する。御意。だが自民党の代議士の7割、国民の支持も小泉8割には及ぶまいが半数の支持が安 倍三世に集まると思うと衆院解散したら下手すると郵政選挙のとき以上に国民の支持があつまって三分の二議席で一気に憲法改正も冗談と否定できず。
▼銅鑼湾の三越閉業で意外な不便が出たのは「銅鑼湾の百佳超級市場、Park'n Shopの不在」だそうな。香港で最大スーパーチェーンのPark'n Shopであるが銅鑼湾の二大店舗はWindsor House(香港西武地下)と三越地下(かつては三越の売り場であったが事実上の店舗規模縮小で数年前にPark'n Shopを誘致)とも相次ぐ閉業。で香港有数の繁華街である銅鑼湾にPark'n Shop不在となる(Times SquareにPark'n Shopがあったがこれもずいぶん前に閉業)。それだけ、といえばそれだけの話だが香港市民にとってPark'n ShopとWellcomeは「あたしは松屋は行くけど松坂屋なんて入ったことありませんよ」に近いコダワリもあったりしてPark'n Shopがないことが死活問題に繋がる人もいるかしら。そのPark'n Shopの不在に比べ香港全体ではPark'n Shopに押され気味のWellcomeが銅鑼湾では24時間営業の旗艦店の成功(夜中に酒のつまみの乾き物買いに急ぐ飲み屋関係者や仕事帰りのホステス 嬢など夜中も賑わい)で優勢。それだけ、といえばそれだけの話だが(くどい)、Park'n Shopが李嘉誠財閥でWellcomeがJardine財閥資本であることを思うと、Jardineの百年来の基盤であった銅鑼湾は今でも JardineとHysan(三越のあったヘネシーセンターやThe Lee Gardenなど一帯所有)が主で、李嘉誠財閥があまり手を出しておらぬ事。Times SquareにPark'n Shopがあったのも、Times SquareがWharf財閥系であると思うと「あったのが不思議」でもある。そういった派閥力学が一概に銅鑼湾にPark'n Shopがない原因ではないのだろう、が「そう考えると面白い」のだ。
▼ローマ法王ペネディクト16世のイスラム蔑視とされる発言につきイスラム諸国で怒り、反発が強まっていることに法皇本人が「非常に残念」と語った、と報 道あり(見たのは朝日新聞)。この発言、英語では“Deeply Sorry”で確かに「非常に残念」と訳せなくもないが「残念」というのは「残り惜しく思うこと。未練。口惜しいこと。無念。遺恨。」(広辞苑初版)で、 ニュアンス的には本来「本当にごめんなさい」ぢゃなかろうか、訳すなら。「非常に残念」ではどこか他人事というか、まるで自分も被害者のよう。イスラムか らの反発を受け被害者という見方はとても出来まい。
▼香港の週刊フリーペーパーHK Magazineのバックナンバーかなりたまっておりパラパラと捲っておれば「香港のくだらない質問」特集あり、香港の地下鉄MTRで年がら年中 “Please mind the gap” とホームと列車の隙間にご注意、が自動音声と車掌の車内放送で流れるが、実際に列車とホームの隙間はわずか数インチで何故に注意が必要か、と。MTRの広 報担当者も話として、隙間がほとんどないこと、また事故も跌く程度の人が稀にいるだけ、との由。で結局、この地下鉄網が英国の倫敦地下鉄からのシステム導 入で、当然のように地下鉄駅ホームも婉曲しており実際に列車とホームの隙間が大きい倫敦から “Please mind the gap” の放送も輸入されたのだろう、が憶測でのお答え。

九月十七日(日)先週の大雨とここ数日の曇天嘘のごとく晴れ渡る。裏山からMount Parker Rdをのぼるとさすがの初秋の好天気に行山の輩多し。大 潭を下るが雲一つなき空に涼風心地よし。先週の雨で石清水豊かに流れる。海岸でじんまりと熱珈琲飲みながらアレクサンドル=デュマ(山内義雄訳)『モンテ =クリスト伯』岩波文庫の第1巻読み出すと小学生の時に少年向けに平易に書かれた『巌窟王』読んでいらいの、この物語。思わず木陰で読み耽り帰宅のバスの 車中でも、ジムにより帰宅して午後遅く第1巻読了。日本でいえば赤穂浪士の吉良邸討ち入りという事実があってすぐに歌舞伎で演じられたようにデュマ自身が 十代の頃にあったナポレオンのエルバ島脱出から百日天下などを背景に巌窟王の見事な物語にしてみせたのだから、祖父母の世代も『巌窟王』で読んだのでしょ う、いや〜何度読んだって面白い。早晩にZ嬢と尖沙咀。ペニンスラホテルで贈答用に月餅購う。ペニンスラホテルのバーでドライマティーニ飲む。十月下旬だかの中環側 の埠頭の移設移行はおそらく乗る機会もかなり減るだろうスターフェリーで中環。粗呆地区までエスカレータで上がり久々に La Piazzetta に伊太利料理食す。気さくな料理長に雲丹のパスタ薦められ、アスパラガス、鮹のサラダ、雲丹のパスタに茄子のラザーニャ風。雲丹は一旦湯がいたものにレモ ン汁加えるのだが料理長が「好みがあるから」と味つけの途中で現われ味見させて「レモンはこれくらいでいいか?、日 本人は雲丹の風味が強いほうがいいだろうけど」と細かい気配り。「雲丹はイタリア語で何と言うの?」くらいは尋ねられる伊太利語で暫し談義。ちなみに雲丹 はスペルはよく知らないがリッチョ di mare と言うそうな。ハウスワインで白一本と赤グラスに一杯。帰宅して『モンテ=クリスト伯』第2巻読み始める。
▼銅鑼湾三越閉業。1981年の開店にて88年には尖沙咀店(現DFS)開業の頃が全盛期。当時、大丸(銅鑼湾)、松坂屋(銅鑼湾、金鐘)、三越(銅鑼 湾、尖沙咀)、伊勢丹(尖沙咀、香港仔)、東急(尖沙咀)、西武(金鐘)に加え八百半、ユニー、ジャスコという時代。1998年の大丸閉業が象徴的。その 後百貨店の撤退と八百半の倒産あり今では香港の地場資本で「そごう」と「西武」の名前だけ残る。ジャスコとユニーは売上げ好調だが百貨店では三越(すでに 自店面積はかなり減ってはいた)が最後の日系百貨店。三越側は存続望んだが入居するヘネシーセンターの建て直しで追い出され今更日系百貨店で銅鑼湾など繁 華街での賃貸も望めずの事実上の撤退。

九月十六日(土)朝から旺角のジムで一時間の有酸素運動。ぼんやりとジムの窓から繁華街を眺めていて思ったのだが「現代教育」とか「A1学院」とか中学高 学年対象のGCSE対策予備校(日本でいえば高校生対象の大学進学予備校)の宣伝、ビルの外壁やバスの車体など「これでもか」と言わんばかりにKen KoだとかDick Sirといったちょっとヘンな通称で「講師の鉄人」が並ぶ。いつも不思議なのは、その鉄人な講師たちが誰一人として「頭が良さそうに見えない」風貌である こと。ほんとそのへんの携帯電話のセールスか松戸のホストクラブのホストみたいのまで。もっといかにも「頭が良さそうな」先生並べたほうがいいような気が するのだが「そのへんの兄ちゃん」であることに何か宣伝効果があるのだろうか。もう一つジムの窓から眺めて気になったのは(ひとつもジムでの運動に集中し ていない)日系の手広く支店網拡充するラーメン店。午前11時まで誰も出勤せず店内真っ暗なのに30分後には開店。いくら出来合で商売できるシステムで仕 込みも要らぬとはいえ掃除したり鍋に火をつけてスープを煮立てたりの手間すらないのだろうか。黄埔のジムに行き昼から一時間の筋力運動。又一城(九龍塘) 行きのミニバスに乗ってみる。紅碪カから土瓜湾、馬頭圍から九龍城をまわり九龍塘の手前、Shek Kip Meiでなんとなく下車。広大な、サッカー場が6つだかある大坑東運動場と警察体育倶楽部を通り抜け太子(Prince Edward)に出る。かつて英国が北京条約で獲得した九龍と中国領の境界となる界限街(Boundary St)で小さな公園の入り口、オバサンが糸で顏の幼毛を抜く伝統的なエステ?など開業しているが、この公園の入り口の石壁のやたら強固なること、これって 昔の国境線の遺物なのだろうか。ふ らりと炭焼焼肉で著名なる永合隆飯店に入り焼肉飯。秀逸。午 後遅く中年から老年のオヤジばかり。近所にはちょっと洒落た廣東焼味餐庁もあり、こちらも悪くないが永合隆は香港でも屈指の焼臘の店。帰宅の途中に按摩。 このところ肩痛激しくバリバリ、が少し回復。一旦帰宅して晩に外出。作務衣で出かけられるくらい涼しくなる。湾仔の杭州酒家。先週日曜日も偶然に同じ場所で昼に会合あり今晩はそれ以前に 余が予約していた偶然。所属するランニングクラブの隔月の定例会とT夫妻、O君の送別会。偶然に旧知のK姐がこの杭州酒家で調理師として修業中と前回知 り、今晩もいくつか珍しい料理供してくれるがどれもかなり美味。満足。26名ほどの参加者のうち16名ほどででれでれと銅鑼灣まで歩いてバーYで二次会。 それでも午前零時前には帰宅。
▼シンガポールで国際通貨基金と世界銀行総会開催で関連会合に参加認められた非政府組織や活動家の一部の入国拒否しIMFや世界銀行もシンガポール政府の 措置を非難。シ政府は呉上級相(前首相)が「テロの標的となっており参加者の安全を守る任務がある」とするがIMFや世界銀行の首脳がテロの標的になった としても、一部の組織や活動家の入国拒否で参加者の安全守られるとは詭弁。結局のところ国内で抗議デモ活動などシンガポール市民の教育上好ましくない事態 を見せられたくないだけ。外国企業誘致と海外からの投資で経済成長してきたシンガポールにとってデモや暴動で悪印象を持たれることを避けたい事情(朝日新 聞記事)というところだろうが寧ろシ政府のこの施政こそ悪印象そのもの。
▼昨日の新聞に「小学生の暴力最多2018件」という記事あり(朝日)。公立の小学校内で児童が起こした「暴力事件」の数で97年からの統計。「教師に対 して椅子を投げつけたり故意に怪我をさせたりといった一定水準以上の暴力について学校から上がった報告」の集計だそうな。学校での暴力が教師に向かうこと は社会史的には近代の学校の成立の背景や仕組みとして不思議でない。気になるのは、この暴力と判断される定義は97年から一定だとしても何を暴力とする か、報告の有無の感覚は「テロと暴力の恐怖」で年々感覚が高まりつつあり。それが「暴力の増加」の数字に影響すること。
▼中国の作家、賈平凹氏来港。小説『泰腔』が香港バプティスト大学文学部主催の文学賞第1回「紅楼夢賞」に選ばれ受賞パーティとそれに合わせたシンポジウ ムへの参加。三度目の来港。

九月十五日(金)最近の我が日剰「もう純ちゃんすらよく見えてきましたね」と築地のH君の指摘。確かに。まだ現役の総理が「あの人はヘンな人だからおかし なことを言う」で済まされるのも小泉三世の「お人柄」か。それほど次期総理の怖さ。小泉の「自衛隊の行くところが非戦闘地域」だの「人生いろいろ、会社も いろいろ」だの「フセイン大統領が見つかっていないからといって、フセイン大統領がいなかったことにはならない」だの、百歩譲ってご愛嬌としても安倍の先 日の対中観などただひどいばかりで「階級」のとらえ方の稚拙さなど笑えぬ。ふと思ったが、中国が小泉靖国参拝に対してあれだけ不快感示したのに対して安倍 三世への対応は首相就任前で様子見かも知れぬが意外と小泉なら対立煽ってもそれ以上には発展せぬが安倍だとマジに怖いという理解かしら。それにしてもH君 の言う通り、周恩来がせっかく苦労して捻出した「日本を許してやる」論理の修辞ひっくり返してどうするつもりか。「もう一度、日本の戦争責任を追及してく ださい」と言うようなもの。「ボクのお爺ちゃんは悪くない!」と言いたいだけなら「パパの無念を晴らすぜ!」イラクに戦争しかけたブッシュと好一対か。安 倍三世の発想ぢたい対中国どころか<戦後の世界秩序>に対する挑戦。常任理事国入りどころか旧敵国条項復活で「日本を旧敵国として扱ってください」」とア ピールしているようなもの。ただ憲法学の権威の某教授は「安倍政権で改憲は遠のく」と見る。極端な極右路線である以上、民主党はそれに対抗する路線をとら ざるを得ず憲法改正は「改正」という総論でたとえ一致しても各条文についてはガチンコの対決になり、とても3分の2で仲良く改正、にはならぬ、と。日本の 将来にとって民主党の前原某「いいタイミングで片づいたこと」は僅かな希望かしら。本夕、山沿いに居りにわかの暗雲に慌ててタクシー雇ひ自宅に向かへば驟 雨あり。地下鉄の站一つ違えば曇り空が香港。帰宅しドライマティーニつくり一口飲むと大雨。雨空に苫屋とはいへ雨水避けられるだけでも幸せと感じ入る。マ ティーニのベルモットのボトルが空になる。前回は確か三、四年はもったはずだが氷を漱ぐために数滴落とすだけのベルモットでボトルが空になる、というのだ から一年にいったい何杯のドライマティーニを飲んでいるのかしら。焼秋刀魚、里芋煮、天后に新しく出来た有機野菜の店の黄韮などで夕餉。今年初めて柿を食 す。Y氏よりいただいたバンコクの中華料理の名店・銀宮楼(シルバーパレス)のドリアンの月餅。H女史からずいぶんまえに借用の映画『東 京ギャング対香港ギャング』(1964年、東映)見る。監督は石井輝男、主演が鶴田浩二と高倉健、香港側の黒社会の親分を内田良平、石山健二郎がちゃんと 広東語で演じきり、マカオでは丹波哲郎が颯爽と現れ脇を固める役者も大木実や室田日出男。ヒロインの李淑華役は三田佳子。1963年の香港。スターフェ リーでカッコ良く煙草を吸う、ぴしっとスーツ姿の健さんが映っただけで「ほーっ」で中環から上環にかけての繁華街や裏通りでのロケ地の風景だけでも見てい て楽しい。が途中で少しうとうと。丹波哲郎演じる毛と名乗る謎のフィクサーが実は毛利という日本人で戦争でお国のために命をはって働いたのに終戦後に日本 に帰れば戦犯扱いで国に対する不信から日本を出て海外でこうして暮らしている、と、そういった時代的な社会派の要素もあり。もう一度じっくりと見てみたい ところ。
▼数日前に築地のH君に、六代目が亡くなった年齢がいまの菊五郎だと教えられる。六代目など五十くらいの時にはすでに老成し名優とされていたことか。今 晩、新潮社の『考える人』の06年夏号をぱらぱらとめくっていたら小津安二郎が和室の炉端で和服姿で背を丸めキセルを吸う写真があるのだが小津が亡くなっ たのは六十歳と思えば、それは五十代の姿。今なら八十代でももっと若々しくしているか。
▼台北で「阿扁下台!」と五十万人の抗議者が総統府や官邸など中心部をぶるりと囲む「圓城」というデモ集会あり。台湾が民主的な政党政治の確立された社会 であるならば本来批判されるべきは民進党であるべきだが倒扁に民意を集約した形で矛先が反らされている感あり。今回の倒扁活動では赤色のシャツが抗議運動 の象徴とされることで国民党の青、民進党の緑という対立が見られず赤色シャツで反扁が集約される。今回の倒扁活動が台湾独立を阻止する政治勢力に利用され ているものとする民進党の一部の阿扁擁護派は台湾南部を中心にとして、こちらが白色のTシャツ。民意を表す形態としてデモや「圓城」があるのはわかる。 が、反ブッシュでもブレア対陣世論でもデモしたところでブッシュもブレアも動かぬのは嘘でも民主的な政党政治で(米国大統領選挙が公正とはとても思えぬ が)制度に則り大統領なり首相を交代させる方法が保証されているから、であり、台湾も弾劾裁判制度が確立されていないようだが(そりゃ蒋介石に始まった台 湾の総統制であるから)、立法院の議員の三分の二が賛成し国民投票(といっては中国が怒るか、台湾省民か島民投票か)で半数の賛成があった場合に総統罷 免。だが民進党が国民党に応じて、この総統罷免に乗れるはずがなく、そう考えると今回の民衆運動を最も動かしているのは施明徳こそ壇上には上がっているが 実は背後には民進党がある、と考えるべきかも。デモや民衆蜂起というのは中国であるとか旧東欧諸国など一党独裁国家で政治的自由も国民になんら政治的主張 の権利もない場合に有効であり、香港も数十万人が「還政於民」で反トウ建華、反23条立法のデモがあるが少なくても香港の場合、行政長官選挙などで民意が 反映せぬ間接選挙であり、その民意の表示をデモに頼る部分もあり。台北では施明徳が台湾の人々の廉政、汚職撤廃への強い意志を世界に見せている!とステー ジで豪語。確かにそうであろう。が阿扁下台をさけぶことで台湾の一体感を強めることで民進党は党批判を避け、国民党も本来であれば政権獲得には好都合の倒 扁活動だが、これに乗ることは反民進党という最大の攻略が色あせることに複雑な心境のはず。中国も同じで反阿扁で台湾が一体化することに懸念あり「台湾の 人々の自主的な判断」と否定も肯定もできずに傍観。

九月十四日(木)毎週木曜朝のお楽しみ小泉三世のメールマガジンももはや「〜に行ってきました」の外遊見聞記ばかり。フィンランドのヘルシンキでアジア欧 州会合なるものに参加したそうだが
日曜日(10日)の昼過ぎから始まった会議の冒頭、私から、テロや 核の不拡散、海賊などの国際的な広がりをもつ非人道的な問題に対して、国際社会が一致して取り組むことが必要であると訴えました。
と小泉三世。海賊? 本晩、銅鑼湾の「いろり」にバンコクから来港のY氏、近々広州に引越すO君と食す。鼎談。Y氏先週末も在港で月曜日にバンコクに戻り 今日の来港で中2日なら香港にいたほうがよさそうだが実はバンコク〜香港の往復が6,500バーツ(約HK$1,300)で香港に三泊すると思ったらバン コクに戻ったほうが安いしマイレージも稼げる、と。納得。ここ二年近く月例会のように続いた鼎談も、三人でこうして飲むのは恐らくこれが最後かも知れず バーYに飲む。ハイボール二杯。O君とさらにバーSでグレンヴィレット21年のモルト酒飲む。晩に地震あった由。地震がないと言われる香港でも実は年に数 回は震度1以下のほとんど誰も気がつかぬ程度の地震あり。だが今晩はM3.5の有感地震。日本料理屋に食しており全く気づかず。日本では震度3程度では話 題にもなるまいが高層建築建ち並び耐震構造などあってないような香港ではマンションも47階とか60階に住む人には冗談ぢゃない話。
▼戦前の香港に生まれ育ったN氏より貴重な昭和12年12月の「南京陥落」での在港邦人による祝賀の宴会、その記念写真を見せていただく。写真も貴重では あるがN氏の回想によれば当時「敵の首都を占領したのだから、日本の大勝利に間違いなく、戦争もこれで終り、内地に引き揚げている級友たちも戻ってくる」 と子どもながらに楽観期待した、と。興味深い話。史実は南京陥落は国民党がまさかの開城で日本軍の南京入城を誘導してしまい、国民党軍は首都失うものの軍 力としての損失は多からず、それが泥沼化した長期戦へのきっかけとなり、また南京市民も城市陥落というもののまさか入城の日本軍が市民虐殺などするとは思 いもせず、の楽観。
▼米国前副大統領でフロリダ疑惑の大統領選挙で落選のゴア氏来港。環境問題の専門家となったゴア氏、香港で開催のAction Blue Skyのフォーラムに参加。政治家が政治経験を生かし様々な社会運動への参画。カーター大統領の平和活動だの首相経験者の大学での教鞭など。日本の政治家 の誰に想像できようか。ふと思い出すのは自民党の最リベラルであった宇都宮徳馬氏の軍縮研究所くらい。そのゴア氏破り大統領となり国民の不信を911で すっかり払拭しテロとの闘いで再選されたブッシュは911の五周年で
The war against this enemy is more than a military conflict. It is the decisive ideological struggle of the 21st century, and the calling of our generation. Whatever mistakes have been made in Iraq, the worst mistake would be to think that if we pilled out, the teroorists would leave us alone. They will not leave us alone. They will follow us. The safety of America depends on the outcome of the battle in the street of Baghdad. This struggle has been called a clash of civilisations. In truth, it is a struggle for civilisation. We are fighting to maintain the way of life enjoyed by free nations. And we are fighting for the possibility that good and decent people across the Middle East can raise up societies based on freedom, and tolerance, and personal dignity.
と宣う。なにが「文明のためのテロに対する闘い」だろうか。テロとの非文明的な野蛮な闘いであろうに。

九月十三日(水)台風接近の上に熱帯性低気圧で早朝より大雨。赤雲警報発令され300ミリ超える豪雨となる。晩のハッピーヴァレイでの今季初競馬は中止決 定。馬主C氏のダッシングヰナー馬壮健なまま九歳迎え今晩最終レース参戦41倍のブービー人気で悪路得意で、ハ競馬場の展開見えない1000mで意外な結 果期待したが残念。午後遅く天気回復したが夕方にまた大雨。晩に雨止み安堵。中環粗呆のフランス料理Le Tire Bouchonに近々帰国(のはず)の畏友T夫妻、Z 嬢と集い晩餐。先日食したばかりだが再びフォアグラと胆やレバーの煮込み料理。美味。ブルゴーニュの白葡萄酒Macon Azeと赤は一人だけグラスでCh. Carcanieuxはこれがハウスワインとは立派。
▼中国語で大解、小解という言葉あり。大便、小便をするの意。なぜ「解」なのか、便意の解決、体内からの大便、小便の解放、などという意味かと勝手な解釈 したが釈然としないまま数年が過ぎる。で昨晩、蘋果日報の李碧華という人の随筆にこの答えがあり。日本語でも便所をご不浄、雪隠といい、お手洗いに行くと 言うのと同じ婉曲な表現で、大解、小解の大小は時の如く、で「解」はもともとは「解手」(手を解く)。でなぜ「解手」が「便所に行く」かといえば実に立派 な故事あり。明を興せし朱元璋(洪武帝)は朱棣(後の第三代皇帝、永楽帝)ら率え農業生産向上掲げ大規模な土地改に着手。全国規模で農民の強制移住を実 行。そのなかに山西洪洞大槐樹に向かわされた農民ら逃亡防ぐため縄で数珠繋ぎにされ小便催すも兵士に請いて縄を外してもらうの要あり。その謂われにて用便 を「解手」という口語が生まれた、と。更にそれが転じて小便が「小解」、大便をするのが「大解」となった由。
▼台北にて週末からの反扁静坐で数万人の反阿扁総統坐り込み続く。昨晩はロックの大御所・羅大佑氏舞台に上がる。総統府前が静坐の現場で総統官邸にも近く 静坐がいったん風雲舞い上がり混乱となれば阿扁総統は総督府もろとも圓山指揮所に緊急避難という噂もあり。圓山指揮所は台湾国防部背後の山の中腹に位置す る地下施設で昨年テロ対策のため地下壕を大幅改修して出来上った核爆弾にも耐える施設で政府中枢の司令部、総統らの宿泊施設もあり発電所や飲料水、食料な どの備蓄も豊富。テロ対策或いは中共による台湾侵攻に備えたはずの施設がまさか総統辞任求める抗議運動への避難所になろうとは。民衆デモに「そこまでしな くても」の感もあるが、なにせ総統府は戦前の台湾総督府の建物、台湾民衆の反日暴動など想定もしなかったのか非常にオープンで周囲に高い塀もなく、さらに 総統官邸=旧台湾総督官邸は「えっ、これが?」と思うほど旧・佐久間町の日本建築の古い住宅が並ぶ一角の高い塀には囲まれ中は窺いしれないが、巴里のエリ ゼ宮かロンドンのダウニング街10番地と同じく投石でもすりゃ縁側のガラス窓も破られるのでは?と思うほど。ここを取り囲まれもすれば確かに逃げ場もなく 邸内でずっと「阿扁下台!」のシュプレヒコールを聞いておねらばならず。で圓山指揮所への緊急退避の検討なのだろう。それにしても一期目は民進党ブームで 正々堂々と総統に当選したものの阿扁の二期目選挙はあの投票日前日の「狙撃」で辛うじて当選。あの段階でもはや二期目への疑念強まったが寧ろその薄氷踏ん での当選であったからこそ外交だの民生改善に奮闘すべきだったはず。それが身内の贈賄や株のインサイダー取引とは脇があまいとしか言いようもなく辞任要求 突きつけられ当然の結果。
▼競馬開幕日の特首盃について。特首盃というと余はいつも「京城之寶」(Kingston Treasure)という名馬を思い出す。香港の競馬史に残る「馬王」安田記念優勝馬の「蝦」Fairy King Prownが上り調子の時に唯一、しかも二度も負けた相手がこのキングストントレジャー馬。何といっても99年5月の沙田ヴァース(こちら)でスタートよ り飛ばし、追い上げるFairy King Prawn(蝦)を2+1/4馬身差で振切った(ちなみにFairy King Prawnと三着勝感が5+1/2馬身差、いかに京城之寶と蝦が並外れていたか)。その年9月の開幕、特首盃(こちら)での優勝も目に焼きついて離れぬの だが、その直後、不運にも故障。この開幕戦を最後に2年の療養。5戦4勝で1度だけ勝ちを逃したのも2着と好成績の名馬は2年後の01年開幕日の特首盃に 復活し香港のファンは一番人気に推したのだが2年ぶりの参戦に興奮したのかパドックでホワイト騎手騎乗抵み顛倒。まさかの退出。この9月の11日があの 日。同月22日の仕切り直し参戦で今度はゲートイン直前に覇気極まりホワイト騎手振り落とし興奮さめやらず復たもや退出。ジョッキークラブは裁定を下し今 後参戦不可にて事実上引退勧告。強敵を失った「蝦」の時代を迎える。……とこんな懐かしい話を思い出したのも昨日の新聞の競馬欄に10日の特首杯で「芙蓉 鎮」騎乗はFradd騎手、行政長官「自称政治家」Sir Donald御自ら優勝トロフィー授けたのだが、Fradd騎手は前任の行政長官董建華に続き2人の行政長官からトロフィー授かった後にも先にも唯一の騎 手、と小さな記事があったため。そう、99年9月のキングストントレジャーの最後の優勝、引退レースがフラッド騎乗だった。それにしてもフラッド騎手が 「後にも先にもとは、いや、そんなはずはなかろう」と思われるかも知れぬ。事実、1997年9月から始まったこの冠レースの記録を見れば
1997/98 Kowloon Pride (P Payne)
1998/99 Solid Contact (G Boss)
1999/00 Kingston Treasure (R Fradd)
2000/01 Billion Win (D. Whyte)
2001/02 Cliffhanger (W C Marwing)
2002/03 Smart Winner (G Schofield)
2003/04 Cheerful Fortune (C Williams)
2004/05 The Duke (P Payne)
2005/06 Able Prince (M Rodd)
2006/07 Town of Fionn (R Fradd)
で今期がSir Donaldにとって行政長官として初のこの開幕日。ならば香港で活躍中のダグラス=ホワイトは当然として、すでに2度優勝のPayne騎手、ディープイ ンパクト騎乗のグレン=ボス、マーヰン、スコフィールド、ウィリアム、ロッドとみんな現役で、今後もチャンスはあろうに、と思う。(話が長いが)ただし 2000年優勝のホワイト騎手以下に今後もチャンスのない理由があり、それは董建華がフラッド騎手でキングストントレジャー優勝の99年を最後に行政長官 カップでありながら競馬場に姿現さなくなったため。想像絶する董建華の不人気で競馬場などに現れようものなら罵声の嵐で唾吐かれるは必至。で代理に当時、 財務官であったSir Donaldなど寄越す。でフラッド騎手が董建華からトロフィー受け取った最後の騎手、は確か。ただ、だとすればパイン、ボスの両騎手は香港競馬に復帰す れば可能性としてフラッドに次ぎ初代、二代目の行政長官にトロフィーもらう可能性もあるはずだが。単純に記事の間違いか、両騎手はもう香港で開幕のこの レースに参戦はない、という前提か(ただ可能性は0とは言い切れぬ)、あるいは初回と第2回のレースは董建華が来臨しておらず99年がたった一度きりだっ たのか。余の競馬歴が99年からのためどうしてもそこがわからない。
▼ピークトラムの山頂站の展望台がまた改装されたようで「凌雲閣」なる威勢のいい名前。その広告に日本料理屋紹介あり「巨八」という。googleでも全 く引っ掛からぬ「巨八」だが漢字だけなら、もしかすると往年の巨人の名捕手・森昌彦氏がオーナーで「巨人の八番」で巨八なのかも知れぬから「巨八」はいい のだが、「きょはち」という読みがどこか不自然。「和民」を「わたみ」と読ませる「訓+音」のような無理に比べ「巨八」の「きょはち」は巨も八も音読みで 自然なはずなのだが辞典をひけば「なるほど」で「キョ」が漢音なのに対して「はち」は呉音。漢音だけで「きょはつ」か呉音だけの「ごはち」だと音の並びが 良い。「きょはつ」か「ごはち」ならどちらでもいいか、と思ったが日本語堪能なI嬢は「香港人は「つ」の発音は難しいから「ごはち」のほうが音もきれい」 と。なるほど。

九月十二日(火)涼。小雨。香港鼠楽園開業祝一周年。寒空に涙の如き雨。周年祝賀には香港鼠楽園の57%の株所有する香港政府からは高官の一人も来臨せ ず。新聞の一面広告で「哀心感謝」「奇妙的第一年」と、意味は哀心も「心より」で「奇妙」もマジカルでポジティヴな意味あいなのだがまさに哀悼に値すべき 奇妙な一年。晩に帰宅しレモン搾りジンを一杯。薯蕷芋と麦飯、豚汁。習慣でNHKのNW9を見そうになるが報道番組としてのレベルの低さに毎晩見て呆れ憤 慨するのならいっそ見ないほうがマシかBBCのAsia Todayでも見ていたほうがずっとタメになろう。それにしてもNews10の今井環君も頼りなかったが彼はまだ「ほんと人がいい」「他人を疑うことを知 らないのじゃないか」くらいの、ある面、好感度があったが現在の「会津の男」は「報道記者がなんだ、そのコメントはっ!」と不満募る。中井英夫「黒鳥譚」 の最後少し読み直す。この全集文庫本(第2巻)には英夫がまだ若い頃の終戦直後の短編がいくつか収められ、突然、「黒鳥譚」は三十年後に飛ぶのだが、その 三十年の習作と秀作の歴然とした違いが面白い。
▼昨日の信報、劉健威氏の随筆で中環の京菜、京味居が店を閉め半月、と知る。劉兄も京味居惜しみつつ麺は翡翠(太古城、銅鑼湾時代広場)のほうがマシと複 雑な懐念。京味居といえば唯霊氏が大のお気に入りでアルコールは麦酒だけの店で「唯霊」と専用の棚にウイスキーだの紹興酒だのマイボトル並べてほど。その 唯霊氏がこの閉業惜しむ文章目にしておらず。個人的には個性的な店ではあったが閉業惜しむほど美味珍味であったか、といえば疑問。
▼安倍三世が改憲は「五年近く」必要、と言及したと朝日新聞一面にあるが「五年近くのスパンも考えなければならない」という発言を五年近く必要、ととるべ きか改憲は五年以外が或は自らの首相在任期間を小泉三世と同じ五年に置いて目標、と考えられなくもなし。日本記者クラブでの自民党総裁選立候補者による公 開討論会での発言だが谷垣二世の「日中国交正常化をした時に中国は戦争指導者と一般の日本国民を分けて国民に説明した経緯があった」という指摘に対し「そ んな文書は残っていない。国と国とが国交を正常化するのは交わした文書がすべてなんだろう」と反論。この陳腐な発想では祖父も外相であった父もさすがに愚 息と呆れよう。政治には文書でなく文(あや)というものあり。侵略者である日本との友好関係の回復にあたり周恩来ら安倍三世とは違い頭のいい人たちが中国 の国内で「いいですか、日本人全てが敵ではないのです。悪いのは軍国主義的なる指導者であって、日本人民も被害者なんです」としてくれたことで、肉親を殺 された人たちに日本との国交回復を納得させた、謂わば相手の最大の修辞。当然、そんなもの外交上の公文書に残っているはずはなく、日中国交回復に努めた日 中双方の先達らがお互いにこれで決着をつけましょう、の政治の文(あや)。それをまぁよくもしゃあしゃあと外交文書に残っていないなどと宣えるもの。更に 安倍三世は「日本国民を二つの層に分けることは、階級史観風でないか、という議論もある」とまで言及し知力に乏しさも披露。小泉三世も「自衛隊の活動する 地域は非戦闘地域」などの詭弁には呆れたが少なくても「わかった上で言っている」植木等の無責任男的な確信犯、愉快犯であったのに比べ安倍三世のこの「階 級史観」発言はただの無知。高校生レベルでの赤点。これが首相とは。そもそも「階級」は(広辞苑による)確かに地位、官職、俸給などに基づく意味合いもあ るが、これはその「等級」を言う場合であり、通常「階級闘争」という言葉で用いられる場合の意味は英語のclassで「主に生産関係上の利益・地位・性質 などを同じくする人間集団。資本家階級・労働者階級・地主階級など」であってマルクスによる経済的な格差によるものであることは高校の政経で習うこと。日 本国民を戦争指導者と一般国民に分けることは階級とは全く関係ない。たんに反共主義者としての非難の意味で「階級史観」という言葉がインプットされている のだろう。さすがファッショの生粋。なんでこんな常識的な(知識以前の)基礎学力もないかしら。ブッシュほど非道くはない鴨しれぬが階級の意味も理解しな い、この程度のレベルの人を総裁に、と推す代議士が自民党の7割だかで、国民の半数近くもこの人の首相就任を望む、とは世も末。
▼先日の皇位継承に関する橋本治ちゃんの朝日新聞への「寄稿」について。某筋の情報など綜合するとやはり本来は寄稿=投稿であるべき。「寄稿」となければ 新聞社側が依頼したということ。朝日「私の視点」に池田大作先生の発言が載った場合「寄稿」とない=依頼と察する。では新聞の「寄稿」がすべて投稿か、と 言えば各界の著名な先生方が実際に採用される保証もない投稿を自主的にどれほどするか疑わしい。いずれにせよ橋本治ちゃんの場合ではどうも本来の寄稿とは 思えず何らかのエクスキューズで社会部あたりで入れてしまった「寄稿」の二文字らしい。内容が内容だけに朝日が敢て社と立場とは一線を画すと強調したい思 慮か、もし「著名人が投稿してきた」と思わせるためだとしたら虚実も虚実。いずれにせよ「寄稿」の二文字は新聞社が勝手に用いて、しかも読者からの問い合 わせには「寄稿とは新聞社が依頼して書いてもらったものです」などと、ジョージ=オーヱルの「戦争は平和だ」の如き二重思考すらしゃしゃと読者に説明して しまう新聞マスコミの独善となる。
▼仙台で作家・日向康(ひなたやすし)氏逝去。享年八十一歳。田中正造全集の編集に参加、正造の伝記「果てしなき旅」で大佛次郎賞受賞。友人らよる故人と のお別れの会の連絡先が勅使河原安夫弁護士の法律事務所。日向康、勅使河弁護士などと名前を聞くと仙台がいまのリトル石原的な梅原市政からは想像もつかぬ 島野武市長時代の革新市政、そして勅使河原安夫擁立での革新市政の継続に燃えた、まだ革新が元気であった時代懐かしく思う。歴史的社共共闘の勅使河原を 破って当選の保守系・石井亨はゼネコン汚職に有罪、実刑で服役する。

九月十一日(月)気温摂氏廿三度。早朝にいくつか窓を開けると涼風部屋を走り抜ける。さすがに沐浴も冷水厭う。T君より「読書鳴弦」の儀につき、因みに読 書は「とくしょ」と読むはず、で親王に日本紀を読みきかすのは明治以降の新案で古儀ではないだろう、と。大方我々は明治のそれも王政復古の頃にはなく明治 廿年代に新規創造された奇習?をば古来伝統などと勘違い。読書役は東京大學の国文の教授先生、鳴弦役は自衛隊幹部という話も聞く。虎頭を湯に映すなど本来 は故実もいろいろあれ多くが廃れる。Powerbook依然入院のまま。
▼昨日の補遺。忘れたわけではなく香港競馬開幕。夏休み終えての開幕戦は老馬が強いとは言うが特首盃(特別行政区首長つまり行政長官盃)では昨季後半絶不 調であった芙蓉鎮(Town of Fionn)がHK$137の高配当で勝ち期待もせずご祝儀で賭けていたからニンマリ。またクラス4の地味なレースだが飛象過河(Flying Bishop)も勝ち、やはりどんなデータよりも自分が馴染んでいる馬に賭けるのが基本か、と思う。毎年の競馬人気の指標となる開幕日の売上は前年比微 増。掛け金が1万ドル以上だと15%だかは外れても払い戻しという特典始まったそうだが低額投資者には関係もない話。
▼Z嬢の話ではNW9にて相次ぐ飲酒運転!の報道でキャスター氏が「飲酒運転は公務員だけではなく国民全てが……」云々と宣ったとか。冗談ならむしろ理解 できるが「当たりマエダのクラッカ〜」を真剣に言われても相方のキャスターのように「そ、そうですね」しか言葉もなかろう。
▼第63回ヴェネツィア映画祭で最高賞の金獅子賞(Leone d’Oro)に賈樟柯(Jia Zhang-Ke)監督の「三峡好人」が選ばれた。三 峡ダム建設により消えてゆく町を舞台にしたそうだが前作の『世界』は上海のリトルワールドな遊園地に働く中国各地から集まった若い芸人、その前の『站台』 は山西省の田舎の町で文革末期から解放政策への時代の変化で追いつけない若者たちを描き、とつねに舞台設定と登場人物の組合せが見事な人。賈監督は同映画 祭のOrizzonti(地平線)なる新鋭作品部門(こちら)に青山真治監督の新作「こおろぎ」(8月に「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」はショックだっ たが山崎努と鈴木京香主演のこの「こおろぎ」は是非見てみたい)やスパイク=リー監督“When the Levees Broke”と並び『東』なる同じ三峡ダムのドキュメンタリーも出典しており、詳細わからぬが『三峡好人』よりむしろこのドキュメンタリーがとても見たい と思う。

九月十日(日)早朝に窓を大きく開けるとすがすがしい涼しい風に身震いするほど。初秋の気配。明日で9・11から早くも五年。朝日新聞に米国の作家ノーマ ン=メイラー氏が米国の全体主義的状況に懸念を語る。アメリカンフットボールの会場で競技場被うような大きな星条旗が出現し上空を軍用機が飛んでみせる、 大リーグでの国歌、星条旗よ永遠なれ、の合唱にノーマン氏は「その国が全体主義になればなるほど国旗への愛情に執着する」と述べ保守主義は本来「中庸を尊 び謙虚で思慮深いもの」であるべきなのに「謙虚さと思慮深さを失った国旗保守主義者(Flag Con)」であるブッシュ大統領は「歴代の大統領で最も無知かもしれない」と。そのブッシュは民主主義の本質も理解できていないし、イラクでいえば「即席 の投票だけでは民主主義は成立しないということ」も理解できず(これは郵政国会で国民の信託得たと誤解する小泉三世にも言えること)。ノーマン氏曰く
次の世代のために、毎日の小さな変化を積み重ねていくのが民主主義 のやり方だ。その退屈さに耐えるには、判断力と意識をもった人々がいることが前堤になる。民主主義は常に育てていくものであり、再生させていかなければな らないのだ。
悲しいかな米国のこの大作家の言葉が少数派の意見の弁明のように聞こえる。本日、朝からジムで一時間の有酸素運動。昼に湾仔の杭州酒家で会食あり末席を汚す。午後にその流れでミーティングあり。早 晩FCCに一飲、と思ったが一週間前にカドーリー牧場で購った枝豆あるのを思い出して帰宅して枝豆で麦酒。なんとなく居間の壁にかかる1920年代の大き な北京市街図を眺めていたら、ふと1950年代に天安門前広場が出来る前の、その広場に具体的に何があったのか?が初めて気になる。今日の天安門前広場が 出来たのは1954年で、つまり1949年の中共による建国で毛沢東が天安門の楼上より「中国人民站起来了!」と宣った、あの光景で我々は勝手に天安門前 広場に数十万人の人民が終結して毛沢東のあの宣言に歓喜する場面想像しているが実際には東西に延びる長安街が天安門の前だけ多少広がっていた、にすぎな い。おそらく歴史的建国の場所で人民集結を期待しモスクワの赤の広場に倣い天安門前広場が建造されたのだが、で天安門前広場ができるまで其処に何があった のか。現在の人民大会堂のある一帯は北京にありがちな胡同の並ぶ住宅街、東側の中国国家博物館(旧歴史・革命博物館だが国家にとって歴史がいかに大切であ るか、ということ=政府の正当性、で歴史と革命の博物館が合体したことも興味深い)のあたりは天安門に一番近い角に消防署があり旧革命博物館のあたりが専 売公社。でその二つの役所の東側は各国列強の大使館区。英国大使館が最も広大な敷地を有しロシア(ソ連)、米国、オランダと大使館が並び一つ更に東の区域 に日本、独逸、仏蘭西と並ぶ。ここの義國とあるのは一瞬、白耳義(ベルギー)?と思ったが義太利(現在は伊太利と書かれるのが多い)。この大使館街が天安 門前広場建設のためそっくり建国門外に移されるのだが中共による人民広場建設のために中国支配目論んだ帝国列強の広大な大使館が城外に移転させられたとい うのは実に興味深い。晩に栗ご飯、山芋いれた豚汁。筍の煮物。すっかり秋めく。晩遅く中井英男『黒鳥譚』続き読む。
▼社会史の阿部謹也教授(一橋大学元学長)逝去。享年71歳。74年の「ハーメルンの笛吹き男」で中世社会が暗黒でないことを教えられ近年では「『世間』 とは何か」で中世の日本の面白さ語る。阿部先生の語る歴史の社会は国家が物語りする歴史とは全く異なるものであった。
▼香港鼠楽園開演一年。ふと今になって気づいた事。香港鼠楽園を米国鼠本社はもっと大きな施設にすれば営業成績良いことなど明らかなのに何故そうしなかっ たのか。この香港鼠楽園はおそらく今後アジアで展開するであろうミニマムな小鼠楽園の第一号だったのではなかろうか。人口一千万人圏であれば開園できる小 規模な形。日本は戦後四十年かけて絵本やアニメで徹底したディズニー化できたゆゑ米国と同じ規模の鼠楽園開業できたがアジアでは中国やイスラム圏など悠長 にディズニー化しておれず。香港鼠楽園の失敗で米国鼠本社も今後のアジア展開につき慎重にならざるを得ず。シンガポールへの鼠進出は結局暗礁に乗り上げた ままだそうな。今日の蘋果日報に香港鼠楽園開園一周年の記念「批判」記事あり。鼠楽園側の発表した500万人の入場者に27万人のプレオープン入場者や割 引、無料入場者含まれていることから試算すると実際の正規価格入場者は300〜400万人。鼠楽園が開園から40年で1480億ドルの経済効果と香港政府 謳ったが鼠効果で年間340万人増!が期待された訪港客数も今年7月までで前年比133万人で鼠効果などないことを証実。香港の小売業やサービス業になん ら鼠効果なし。逆に政府の公金拠出(224.5億ドル)の浪費。しかも経営が期待下回っても鼠本社は香港政府との契約で管理費(収入の2%)やローヤリ ティ(入場料、ホテル収入、飲食店やギフトショップの売り上げの5〜10%)に加えオプショナルで非固定の上納金などで開園1年で2〜3億ドルは上前を得 た模様。経営管理の専門家は香港政府が現有する香港鼠楽園の発行株式57%を民間投資家に売却し経営権を譲り(当然、この惨憺たる営業実績では株価はかな り安値になろうが、今後、鼠楽園経営での純利など期待できぬのだから))少なくとも売却益を得て政府拠出金をいくらかでも穴埋めすることを提言。
▼結婚しない人、少子化、出産も晩婚で高齢出産の増加、と思われるが実際に40歳以上の高齢出産は徐々に増えており昨年2万人超えたが実は2万人超えたの は1958年以来のこと。つまり昔は40歳以上の、といっても当時は若い頃からどんどん産み続けて、の高齢でも止まらぬ出産だったわけで、今日のような高 齢での第一子出産とは状況異なるが少なくとも高齢出産は昨日今日のことでないこと。

九月九日(土)毛沢東逝去三十周年忌。連日十時間以上酷使される我がPowerbookは最近発熱のきらいあり。昨晩は高熱を発し尋常に動くもののシャー と呻き始めシャットダウンは強制終了しか出来ぬ病状。これやマズイとTimes Squareにあるアップル社香港ご指定の外部委託の診療所にPowerbook連れてゆくが昨年5月購入で一年の保証期間切れたからと修理以前に診察だ けでHK$600と法外な事を言われ冷酷な対応に呆れ診療所出てヰンザーハウスにある懇意のマック屋「けーぶれくす」一年ぶりかで訪れると数年前まで骨董 品やの如く雑然としていた店が二年前かにずいぶんと「マックっぽい」内装に変えてはいたが昇降機から降りるとすぐ目の前の一等地に新規移転しけっこうな繁 盛ぶり。電源部分の問題で済めばいいね、とひとまず愛機預け診断を請う。当然診断だけなら無料。有り難い。昼前より雲行き怪しく午後大雨に落雷あり。とん だ土曜となる。いま手許にあり少しこれをアップロートしているのは2001年?だかに購入のPowerbook G3でOS9である。手始めにNetscape Communicatorで動かしてみたが「はてな」の日記ですら画面崩れて作動せず。IEのMacintosh Edition5.0という、おそらくAplle社とマイクロソフト社が和解して最初に出たくらいのMac版のIEでおそるおそる上網。ちゃんと読める文 章の体裁になっているのかしら。ほとんと暗中模索、手探り状態。午後秘密基地にて諸事片づけ早晩に独りFCCのバーに憩ふ。ハイボール二杯。数日分の新聞 読む。帰宅して昨日の、ピーター=ヰスペルヱのチェロでオーストリアチェンバーオーケストラとのショスタコーヴィッチのチェロ協奏曲1番を昨晩演奏会場で 買い求めたCDで聴く。いやー見事な演奏。これに踊りがつけば最高。それを聴きながらウォッカ檸檬など飲みながら中井英夫の「黒鳥譚」を読んでいたら、こ の短編の物語、そのまま舞台で黒鳥は美輪明宏、主人公はそうさね、往年の岸田森とか、で音楽はこのショスタコーヴィッチのこの曲で、最高の舞台になりそ う。日暮れ。余の拙家は照明がかなり暗い。本など読むには意識して灯りの近くに身を寄せる、それくらいの仕草がいい。日本の家も昔は部屋の四隅に小鬼でも 居そうに暗かったのだろうが高度経済成長のころに無節操に明るくなったが照明が煌々とした家ほど恥ずかしいものはない。余が暗い中にランプがぼんやりと灯 るような家の記憶といえば小学校の高学年の頃であったか近所のプロテスタント教会の牧師に英語を教わっおり日本人の牧師さんであったが傴僂(せむし)で奥 さんは絵に描いたように綺麗な確かドイツ出身だったか。殆ど真っ暗に近い家で居間にランプ一つ、廊下に薄暗い灯、キリスト教研究関係の書籍が沢山並ぶ書斎 で待っていると傴僂の牧師さんがすっと現れ「お待ちどうさま、さぁ始めましょう」と英語の勉強が始まり帰る時には奥さんが薄暗い居間で夕食、シチューにパ ン数切れとか並べているのだった。当時、乱歩を乱読していたので、小説の世界がそのまま現実になったようで怖いほどであった。秋刀魚を焼いて食す。
▼香港の公共放送の父、Jimmy Howthorne氏七日に逝去。享年七十六歳。BBC出身、1970年に香港に参りテレビ放送の黎明期に香港政庁電視総監となり電視部で駱友梅(信報社 主・林行止氏の妻、信報の現社長)や張敏儀ら有能な若手製作者起用し「家在香港」や「獅子山下」などの社会派名作ドラマ生む。72年に広播処長となり、マ クルホース総督の合意を受け、それまで政庁新聞処が一手に扱ってきた官製報道を公共放送局としての独自の取材と報道を確立。76年には教育司署が制作して きた学校向けの教育番組の制作も始め香港電台は英語名もRadio Hong KongからRadio Television Hong Kong(RTHK)となり76年の退任前にはFM放送も開始。離港後はBBCの北アイルランド局長務め89年に引退。
▼信報の日本の皇室の皇位継承紹介する記事。親王誕生で「日本の古式に則る伝統的な皇室独特の行事」と言われるが親王誕生に天皇が使者通して直刀を送る 「賜剣(しけん)之儀」も、愛子様の名が孟子の「愛人者人恒之愛、敬人者人恒敬之」に因むことも、赤子が始めての「浴湯(よくとう)」も「読書鳴弦」の儀 も赤子の無病息災祈る「破魔」の矢もみんな唐国のものだと思うと保守反動右翼の諸君の「支那嫌い」もシナフォビアとでも言っていい鴨。ところでこの記事に 「読書鳴弦」の儀が親王の一方で衣冠単の読書役が国書(日本書紀の推古天皇に関する一節)読んで聞かせ文運を、二人の鳴弦役が左足を一歩踏み出して掛声の もと矢のない弓の弦を二度引き放って武運を祈るそうな。日本書紀という本がここまでオフィシャルなものとは知らなんだ(日本の新聞にも出ているのだろう か)。今上天皇であるから読書鳴弦の儀で読書役が日本国憲法の前文を読む、というわけにはならぬのだろうが陛下がそっと憲法前文読み聞かせていたら、など と想像してみたり。ところで男児親王誕生で「おめでたい」論調ばかりが判で押したように並ぶなか、さりげに朝日新聞「私の視点」に「安倍晋三以上に主婦に 人気沸騰しそうな甘いマスク」で東京大学の文化人類学の大学院教授・船曳健夫氏が将来、天皇制にかわる民主的な共和制になった場合に天皇制をどう置き換え ていくのか今から議論が必要なのでは?と提言。皇位継承など皇室のあり方議論のなかで将来的に共和制への移行にまで言及とは。少なくとも天皇制存続が前提 の議論のなかに、あまりにも明白地に天皇が「普通の市民として生きる可能性」にまで言及とは突飛すぎて逆に目立たない鴨。赤旗とかにもこれくらいのソフト な天皇制議論ってあるのかしら。
▼英国のPlain-Words Mediaというメディア機関の編集長Kevin Rafferty氏が日本政治のナショナリズムについて文章ありSCMP紙で読む。小泉三世から安倍三世への首相交代にあたり靖国神社にとっては小泉三世 は首相就任までstrangerであったの対して(このStrangerは稀客とでも訳せばいいか)安倍三世は常連客。小泉三世のナショナリズムは首相と してのパフォーマンス的なのに対して安倍三世は心底ナショナリストであること。日本の政治のナショナリズムの高揚は英国だと二十世紀初頭のLittle Englanders(欧州からの英国の隔離を主張)のように映るが英国ではLittle Englandersが異端であり少数者の政治思想で大衆の支持を広汎に得られなかったのに対して日本の今日のそれが小泉三世の支持率に見られるように広 く受け入れられていること指摘。それに関連して言えば今日の朝日新聞で山口二郎教授が率直になんでこんなに阿倍人気が高いのかわからない、と述べている。 怖いのは保守は保守でも保守的とされてきた人が歴史の現実を踏まえて論を立てても聞く耳を持たない狂信的な人々がおり、そういた人たちが安倍三世のブレー ン化していること。最近の保守の内部での分裂はそうしたところにあるのだろうが従来の保守で故・後藤田先生、ナベツネさんや亀井静香チャン、山拓さんと いった人たちからしても、もはや対話不能と呆れかえる程のカルトな人たちがメジャーになろうとしている怖さ。そこに「何も考えていない」「ただ阿倍政権で 一歩でも中枢に近づきたい」金魚の糞のような代議士が自民党の7割もいるというのだから呆れるばかり。そんな7割を選んでいるのも国民の多く、か。
▼毛沢東逝去三十年。年に二百万人が毛沢東生家訪れる。南獄七十二坊峯の一つ韶峯山にある毛家の祖墳は四百メートルも麓より登山せねばならぬ高地ながら求 財求福求保佑と毎日千人超える参拝者あり。なにが共産主義か、まるで土着の神仏信仰の如し。1961年に毛沢東が長江を(確か武漢あたりだったか?)泳ぎ 渡りきったとされる時のウエスト42インチ!の水着(当然、紅色)もどこだかの毛沢東記念館に展示あり。毛沢東が泳いだ、とされる大河、湖水は中国各地に あり広州も六十年代に毛沢東が珠江泳いだそうだが当時すでに珠江は水質汚染と悪臭非道くとても泳げたものでない、というが毛沢東が泳いだのは神話となりも はや真偽うんぬんの話でなし。
▼台北にて阿扁総統辞任求める「倒扁静坐」あり三十万人坐りこみ。民進党元老でありながら苦渋の選択にて反扁選んだ施明徳氏(美麗島事件で無期懲役、李登 輝総統就任後に特赦)がこの反扁運動の象徴と化しているが、信報で誰だかが書いていたが、施明徳がここぞといふ時に出てきてキリストの如く人々の共鳴得る のは高雄事件の時といい今回といい自分が何処で舞台に上がれば最も拍手喝采か、を理解したこと、と。

九月八日(金)晩にZ嬢と中環の「札幌」にて味噌ラーメン (薄味お願いする)、餃子、麦酒でさっさと晩飯済ませ市大会堂にて香港小交響楽団(HK Sinfonietta)が指揮にDaniel Raskin、チェロにPieter Wispelwey招いての音楽会を聴く。香港フィルは年々も聞いたことないのに香港シンフォニエッタは今年三度目か。シンフォニエッタであるから当然で フルオーケストラ前提の曲の演奏では多少寂しいものあるがなかなか楽しいオケで、いつも演奏の序幕はガチガチの緊張で始まり今晩もロシアより招聘のダニエ ル=ラスキンなる指揮者でウェーバーの歌劇「オベロン」 の序曲は「おい、大丈夫か?」で始まる。まぁ腕馴らし、でピーター・ウィスペルウェイ登場しショスタコーヴィッチのチェロ協奏曲1番。この曲に大切なホル ンとフルートの演奏に不満あるが、このポーランド人のチェロ奏者、この難曲を義太夫のように巧みに聴かせる演奏。とくに第三楽章カデンッツァの長いソロは 見事で客席を魅了する。アンコールでバッハの無伴奏チェロ組曲から第3番ハ長調のサラバンド。美空ひばりが「悲しい酒」をアカペラで歌う時の、あの「た め」に近いものあり。演奏会の後半はドヴォルザークの交響曲7番。この曲、FMでは何度か聴いたことあるが演奏会では初めて。単調な展開が続きちょいと飽 きる。それにしても今宵どうすればこんなにホルン演奏が大切な曲を三曲も並べられたのかしら。大いなる疑問。幕間に眺めていた全日空の機内誌に英国の美味 そうなエールの記事がありZ嬢とらーめんで喉乾いた所為もあるがエールが飲みたい、という話になりバスで帰宅途中にQuarry Bayで途中下車してEast Endに向かうが金曜晩の凄い混雑で退散。帰宅。文藝春秋十 月号読む。
▼文藝春秋十月号は総力特集「紀子妃ご出産と皇室の運命」と題するが発売日が出産予定直後ということで記事はもっぱら秋篠宮家への好感度と皇太子殿下に対 する非道いバッシングで皇太子夫妻が離婚の場合といった事にまで言及。永六輔、黒柳徹子、久米宏の「テレビの品格を問う」という鼎談あり興味深く読むが三 人してこのメンツでテレビ番組作ったら面白いのに、という話題になり「でもテレビじゃ無理だ」と自分たちのテレビでは話せない辛辣ぶり自画自賛。だが実際 には鼎談の内容はけして放送できぬようなネタもなく、かつてのTBSだったかしら日曜晩の「すばらしき仲間」で北杜夫、遠藤周作に佐藤愛子が面白可笑しく 鼎談していた程度の当たり障りの無さ。今のテレビの制作者を嗤うが実際の現場にしてみたら「こっちから願い下げ」と言われかねず。黒柳刀自がテレビ番組制 作の時間に追われた状況でのチェック機能の甘さに言及し新聞ならば活字になるまで五段階くらいのチェック機能がある、と言われるが実際には新聞とて報道 の、とくに外報の内容のいい加減さは言うに及ぶまい。
▼週刊文春。猪瀬直樹が連載随筆で靖国問題を語る。保守は一枚岩だと思っていたが最近は「右翼にも左翼がいる」という書き出しで、てっきり一枚岩であった 保守も靖国問題であるとか対中姿勢であるとか例えば故・後藤田先生とかナベツネさんのように良識をもって極右の誤謬指摘する人たち、それを右翼中のリベラ ルという意味で言っているのか、と思えばさに非ず。靖国神社の遊就館を訪れた猪瀬氏が、その展示内容の極端さに呆れ、それを「左翼」と、つまりカルト的非 常識、と悪い意味で「左翼」と言ったもの(笑)。その猪瀬氏の偏向ぶりに驚いた。が、遊就館で上映される「日本はいかに対米戦争に追い込まれたか」の上映 番組は、まるで北朝鮮のニュース番組のようで、ただナレーションは櫻井よしこっぽいと表現したのは可笑しい。それにしても「日本は米国に策略で追い込ま れ」ってこの発想こそ自虐史観そのもの(笑)。
▼安倍三世村山談話根幹の戦争責任につき自らの判断明確にせぬ事につき朝日新聞社説は「村上談話を葬るな」と題し村山談話の踏襲をば安倍三世に求める。が 安倍三世の本音は知らぬが建て前上は安倍三世「基本的にその精神を引き継いでいく」として談話取り消す閣議決定せぬ考え強調、と社説の隣頁に記事あり。つ まり安倍三世は明確に村上談話を葬るとは言ってはおらず。この曖昧さ。それにしてもやはり気になるのは「閣議決定」。六月にNHKが報道番組にて「閣議決 定は内閣が変わっても引き継がれる最も思い決定」と説明しており法的に何ら既定もなく慣例にすぎぬ閣議決定の尊重に疑問感じたが、村上談話ほど自民党に とってありがたい閣議決定はないわけで(社会党首班の自民連立で戦争責任詫びてくれたのだから)閣議決定の「引き継ぎ」がいかにいいように使われるか、実 は内閣が何も拘束される事もなきいい加減で時の政権にとっては便利なもの、と納得。
▼朝日新聞の連載小説(たぶん日本では夕刊)に吉田修一の「悪人」という作品あり。新聞小説読まぬが挿し絵がモロに全裸の男女の濡場、それも女が股を開き 男がのしかかる完ぺきな正常位での結合シーンが鏡に写るもの。小説には
暖房の効き過ぎたラブホテルのベッドの上で、お互いのからだが汗で 滑った。祐一は美しい肌をしていた。美しい肌に汗を浮かべて、光代のからだを突いていた。(略)毛布がベッドの下に落ちて、裸のまま抱き合う二人が横の鏡 に映っている。先に起き上がったのは祐一で……
新聞の連載小説などこれまでに宮尾登美子の「きのね」くらいしか読んだことないが一般の新聞に中学生なら「抜ける」ほどのエロ描写があるとは驚いた。

九月七日(木曜日)昨日の国民挙っての晴れやかな気持ちに予定調和的に今朝、小泉内閣メールマガジン届く。小泉三世のお祝いの言葉があるものの小泉三世は 夏の外遊の亢奮醒めやらずお祝いは数行だけ。期待外れ。朝日の一面の片隅に安倍総理が大戦評価につき「村山談話踏襲明言せず」とあり。祖父の加担した戦 争、そう易々と「多大な損害と苦痛を与えた」などと「痛切な反省」と「心からのお詫び」など言えもせず「歴史家に委ねる」などと言葉を濁す。そういう人が 首相なのだ(まだ、だけど)。だが確かに間違いなく対中韓関係は政治は狡いから好転する。それで我々は「安倍さんで良かった」と安堵して近代を超克してゆ く……。小泉さんだの戦後生まれの安倍さんに昨日この日剰に綴った中井英夫の「実話」をば是非にと読んでもらいたい。
(以下、橋本治っぽく……)今日の朝日新聞に橋本治ちゃんが「天皇制ゆっくり考える好機」って、どうせタイトルは新聞社側がつけたもので味も素っ気もない のだけど(それにしても、せめて「天皇家と近代の天皇制の狭間で」くらい欲しいよころ)、橋本治「寄稿」、とある。寄稿というのは新聞社が「橋本先生、秋 篠宮での男子親王についてひとつ書いていただけませんか?」に応じたものじゃなくて治ちゃん自身が「書こう」と思って新聞社に寄したものが寄稿なの?と 思って朝日新聞広報部に電話で尋ねたら「寄稿は新聞社が依頼して書いてもらったものです」とのお答え(投稿とは異なる)。だけど辞書には「原稿を新聞や雑 誌に送ること」(岩波国語)、「原稿を新聞・雑誌などに載せるように送ること」(広辞苑)で、やっぱり意味的には筆者が能動的に送った場合だと思うのだけ ど新聞社が「ひとつ書いていただけませんか?」を「寄稿」としてしまうのは、そういえば大江健三郎とか江崎玲於奈とか入江昭とか、格の高い人にかぎってだ し、つまりは、新聞社にしてみれば「これは本社の見解ではありません」の逃げ口上にもなるし、新聞社の「こんな高名な人が寄稿してるのだぞ」という勝手な ハクづけ?なのかも。そういう意味では桃尻だった治ちゃんも文豪の仲間入りなのか、なんて考え込んでしまったのだけど、そういうことじゃなくて今日のテー マは皇位継承なわけで、テーマがテーマだから治ちゃんもいつものアロハシャツじゃなくて写真ではネクタイにスーツ姿だ。橋本治は<近代>を見据えている考 える人だから「問題は天皇制の存続を決定した「近代」の方にある」とか天皇制が乗り越えるべき課題は実は「国民の中の「思い込み」にも由来する」という指 摘はさすが。だけど橋本治ほどの人が、えっなぜ?と思ってしまう言葉の混同があって、例えば「1868年の明治維新に始まる近代よりも、天皇制のほうが ずっと古い」というのは本当は「1868年の明治維新に始まる近代よりも、天皇家のほうがずっと古い」でしょう。天皇<制>こそ明治の<近代>に作られた 制度であって昔からずっとあったのは天皇<家>というもの。「天皇制は明治より以前にはなかった」のだ。制度なんていうのはいつでもすぐに作れるけど <家>だから天皇家となると何百年も何千年もかけて紡がれてきたもの。だから勝手に編み直しができない。勿論、橋本治だから「皇位の継承とは、実は「天皇 家の存続」が前提にあってのこと」とか「天皇家とそれに連動する天皇制」なんてきちんと認識が出ている箇所もある。だけど皇統断絶の危機を「遠い昔に何度 かあって、天皇制はそれを乗り切ってきた」として「近代をそれを十分に学習していない」なんて指摘を読むと、朝日新聞の読者も「そうなんだ、天皇制は超歴 史的な実在なのだ」と思ってしまうかもしれない。橋本治なら、そういう誤謬を否定すべきだし、「天皇家よりも<近代>の方が問題で、そういう近代固有の天 皇家のあり方が天皇制である」と言わなければいけない。なぜ、あれほど言葉づかいに厳密な治ちゃんが、こんな思想的には初歩的な<家>と<制度>の混乱を したのか。治ちゃんに期待するのは「一人の男の子が生まれたこと」が<家>の紡ぎ、<制度>そして<国家>にどう作用するのか、ソコの醍醐味だし、その男 の子が生まれなかった時、その男の子が「僕は結婚なんてしたくないんっ!」って言い放った時に<家>はいいけど<制度>がそれにどう対応しなければならな くなるのか、それが読みたいと切に思うのだ。
新聞全般を眺めて、この男の子誕生と皇位継承については朝日も読売もさほど論調に違いもなし。産経も「東京の理性」都新聞も見るべき記事なし、と築地のH 君。ただし都新聞が皇室典範改正論議を「先送り」「当面回避」とするのに対し産経は「白紙に戻せ」と主張がせめてもの産経らしさ、か。一つ新聞で面白かっ たのは読売新聞の桜井よしこ女史の「女系容認は文明の否定」というもの。これは橋本治を「天皇制ゆっくり考える好機」で済ませてしまった朝日の安易さに比 べ、本文読まずとも「女系容認は文明の否定」で櫻井女史が何を言いたいのか明確にわかるのだが、それでも文章はやはり読んでみると「すげっ」の一言。「な ぜ天皇は男系でなければならないのか」という問いに「その伝統とは何かという答えは、神話の時代から男系によって脈々と受け継がれてきた点にこそ求められ る」として「天皇制が続いてきた何十世紀という歴史の中で、私たちの祖先は、男系天皇を軸とした価値観を積み上げ、日本の文化、文明を築き上げてきた。こ の伝統を否定することは、この国の文化や文明を否定すること」ともはや極めてカルト(笑)。掲載する読売も読売だが。神武天皇以来、今年は皇紀2666年 脈々と皇位が継承されてきたとカルトが信じるのは自由だが、例えば天智天皇の御世に親政あっただろうが甥と叔父の間で王権巡り内乱となるように、これが千 年を超える制度とはとても言えず。櫻井カルト女史曰く「民主主義国家では侃々諤々の議論を交わしながら物事を決めていくのは当然だ。しかし、国家の大事に 直面したとき、核になる存在がなくては、国民はバラバラになる」から「日本では政治にその役割を求めるのも難しい」ので「有事の際に、国民の精神的な支え となることが、昔も今も、万世一系の天皇に期待される点だ」と。この昔というのは昭和の軍国の時代のことか。それ以前に天皇が「有事の際に国民(こんな言 葉もなかったが)の支えとなる」なんてことは歴史上一度もない。明治維新とて薩長ら勤王派が京都の天子様をば担いだだけで東北だの九州だの「天皇って誰 だ?」で事実、明治になっても天皇御幸などより西本願寺の法主様ご来臨に人々がひれ伏し拝んだ事実。それを、たかだか明治20年頃からのたかだか120年 余の<近代>で、これほどのカルトが育まれ伝統だの文化だのとよくもしゃあしゃあと宣うもの。ただただ呆れるばかり。晩に秋らしく茸の炊込み飯など食し NHKのNW9を眺めておれば二十歳の女子学生殺害の十九歳の青年が山中にて自殺しており死体発見される、と報道あり。犯行直後の犯人は何処に逃走したの か?の大袈裟な報道に「もう自殺してるわよ」とZ嬢の一言思い出す。好いた惚れたか殺したいほど愛らしい、てな話か、はたまた猟奇的殺人か、は存じ上げま せんが、そりゃ肉親、親しい方にはお気の毒だが江戸の昔から近松、南北と相手を殺して自害する、こういう話はおゝございまして……と圓生。それをNW9の キャスター男女は「このやり場のない哀しみを」「加害者の死去で事件の真相を探し当てることは難しくなりましたが少しでも事実が解明し」だったか、結局、 事件の真相解明は、それが昔なら芝居で演じられ「へぇ、まったくまぁ可愛そうに」が今はテレビのニュース番組「報道」が実は芝居見物と同じ役割を果たす。 ケーブルテレビの他局で「料理の鉄人」放映されており早口な英語に吹き替えで英語で話す道場さん見ていたほうが気休めにはいい。晩遅く中井英夫全集2巻 『黒鳥譚』より小編「麁皮」(麁の字は正しくは「鹿」を3つ)と「蝿の経歴」読む。「麁皮」は英夫が急逝府立高校二年の時の戯作。
▼蘋果日報が毛沢東逝去三十周年で特集記事連載始める。米国プリンストン大学東アジア研究系のPerry Link教授の毛沢東論の紹介。70年代に左傾のLink青年は中国語を学び文化大革命の中国訪れ「為人民服務」の中国の政治的洗脳の実態に触れ る。その後、現代中国研究続けたが、現代中国研究=毛沢東とは何か?でありLink博士は最終的に毛沢東を1割の成功と9割の錯誤と判定しヒトラーがホロ コーストで600万殺したのに対して中国での毛沢東路線での死者が2000万人として、その独裁政治を断罪する。余は毛沢東政治をけして肯定せぬが、歴史 に「もし」が許されるのなら、かりに毛沢東が不在であったなら、もっと平和に繁栄したのか、それとも内乱的混乱続き2000万人以上の命が犠牲になってい たか。誰もわからぬ。かりにシュミレーションで後者だったとしても、それで毛沢東肯定はせぬ、がそう易く否定はできぬ。毛沢東という人の凄さは一つの例 が、北京で周恩来、梅蘭芳、宋慶齢、茅盾といった政治家、文人らの故居を巡ると何処の書斎にも壁にかかる書は郭沫若。郭沫若のその見事な筆にただただ見惚 れるのだが北京の四合院のなかでも美しさでは格別の、その郭沫若の故居の書斎、そこには郭沫若の書の見事さとは全く異なる竜神の如き書が掲げられ、それが 毛沢東。廿世紀の中国代表する知識人・郭沫若の筆は美しいのだが、その美しさも毛沢東の天を駈けるが如き書には太刀打ちできぬ。毛沢東は、長嶋茂雄と同じ く、我々が価値判断で解決できるような問いではないことだけ確か。
▼香港政府のCentral Policy Unitの政策立案顧問を革職され05年の6月に信報で返還後の香港政府の政策諸問題につき連載発表し話題となった練乙錚氏(http: //zh.wikipedia.org/wiki/練乙錚)。その後静かに読書人としての暮らし続けるとは聞いていたが久々に今日の信報に「讀梭廬記」と いう文章寄稿。米国の19世紀の作家Henry David Thoreau(http://ja.wikipedia.org/wiki/ヘンリー・デイヴィッド・ソロー)取り上げ田園文学について語る。ソローと いう作家の本は読んだこともないが日本の今でいえばC.W.ニコルであるとか玉村豊男だろうか。ソローという作家の生き方が喧騒さけひっそりと、まさに今 の練乙錚そのものなのかもしれない。練氏の文章は政治評論しか読んだことなかったが長文の田園文学譚もさすがの才人ぶり。

九月六日(水)秋篠宮家に男子ご誕生。皇太子殿下夫妻の心中如何かと思ふばかり。(知己のN氏曰く)皇太子妃雅子様はこれまでその知性、教養、キャリアな どすべて否定されるが如く子作り求められ、それから解放されお健やかに、と。御意。(畏友M君曰く)まさか皇太子妃に来年、男子ご誕生で逆転サヨナラホー ムランってこともなかろう。これで「決まり」か。陛下、皇太子殿下、秋篠宮様のご長寿で今後皇位継承がどうなるかわからぬが(築地のH君曰く)今上天皇陛 下より皇太子殿下までは保守本流のいわば宏池会的なのに対して秋篠宮様に「皇室の小泉」的な改革路線の予感あり。皇室に詳しいT君は、昔なら新皇孫殿下は 即座に引き取られ東宮妃の正子として養育されるもの、さなくば帝王学は身に付かず。長子と次子以下との意識断絶が皇室そのもの。かつて有栖川宮からの高松 宮への祭祀をば継ぐ秋篠宮様は高松宮墓中の墓碑銘も御自ら揮毫するほど高松宮への私淑。兄へ、皇位へ対する特異な思ひもあろうものか。天皇皇后両陛下が戦 後の子育ての中で旧来の皇室の伝統にとらわれず三子にあえて隔てなく三子に接してきたことも何らかの形でお子様方の意識形成に影響あり。皇太子殿下より秋 篠宮、そのお子への皇位継承が今後どのような展開見せることか、と。この秋篠宮が高松宮、有栖川宮に遡るT君の話、興味深く聞いてふと覚えるは今回の秋篠 宮妃の親王出産は広尾愛育病院。この病院が皇室と縁深きは病院設立が昭和9年に昭和天皇が皇太子(今上天皇)誕生を祝し下賜金を基に設立の恩賜財団母子愛 育会により4年後に開設されたのが愛育病院。三笠宮妃百合子殿下が同財団の昭和23年より永く総裁を務められる(朝日の社会面の記事、一見、三笠宮妃が同 病院の総裁のようで紛らわしいが病院は同財団の一組織で代表者は院長)。ここまでは周知の事実だが興味深き縁(えにし)に気づく。愛育病院は有栖川公園に 隣接。旧有栖川宮邸の敷地の一部。しかも古い話ではあるが大正2年に有栖川威仁親王の薨去により男系後継者のおらぬ同宮家は断絶となったが威仁親王は明治 期に皇太子嘉仁親王(のちの大正天皇)の東宮賓友命ぜられ皇太子より17歳年上の威仁親王は明治帝と皇太子の親任得て東宮輔導役となり嘉仁親王の教育、人 格形成に大きな形跡を残し(このへんについては原武史『大正天皇』朝日選書に詳しい)、有栖川威仁親王の逝去を深く哀しんだ大正天皇は第三王子の宣仁親王 (高松宮)に有栖川家の祭祀継承させる。高松宮妃喜久子親王は有栖川宮威仁親王の娘實枝子女王が公爵徳川慶久に降嫁し生んだ娘、というわけで高松宮にとっ ては祭祀授かった有栖川家の末代威仁親王は母方の祖父にあたる。で、その有栖川宮邸の敷地は昭和9年(今上天皇ご誕生、恩賜財団母子愛育会創設の年)に高 松宮家より東京市に下賜され一般開放されたのが有栖川公園。偶然か否か有栖川宮から高松宮、秋篠宮と続くこの史実。更に有栖川宮家といえば末代となる威仁 親王の兄・熾仁親王は戊辰戦争から軍役に巧じて日清戦争で陸海軍の総司令官。熾仁親王は後継の子がなく(尊攘思想では名高き水戸藩主・徳川斉昭の娘・貞子 を妻としたが死別し旧越後新発田藩主・溝口直溥の娘、董子再婚)、異母弟の威仁親王は別の宮家創設か臣籍降下するはずのところ、熾仁親王は生前に、弟宮を 後継者にすることをば明治帝の許し得ており威仁親王が高松宮家継ぐ。この威仁親王も明治7年に皇族として初めて海軍軍人を志した人で海軍兵学寮予科に編入 学し10代で英国留学し海軍学をば修め18歳で帝国海軍少尉に任ぜられた海軍士官。後に大正天皇の指南役となるのだが、この宮様は息子の栽仁王をもうけた もの若君は海軍兵学校在学中二十歳の若さで逝去。で有栖川宮家は耐える。高松宮も海軍大佐で(昭和天皇は高松宮を主戦派と考えたようだが海軍的リベラル軍 人であったともいう)子どもに恵まれず。で喜久子親王の逝去により宮家断絶。世継ぎなき有栖川宮、高松宮の両家の念願がまさに秋篠宮で叶うが如し。で本日 の日本はそういった秋篠宮に至る明治からの皇室の因縁など考える暇人はおらず「晴れやかな気持ち」の国民さぞや多かろう。早晩に滑り込みで帰宅しNHKの 7時のニュース眺める。30分以上に渡り男子親王ご誕生。宮内庁の金澤一郎皇室医務主管の記者会見での多弁が印象的。お目出度という事もあろうが一見して 「神経質はダメよ」と描いたような表情の、どこか和む風貌のこの御仁、東大医学部教授、同付属病院院長、国立精神神経センター所長歴任。精神内科の権威と 言われ、下々の民草なら心身症になるであろう重圧ある皇室において皇后陛下の失語症からの回復に功あり、当然、皇太子妃の病からの回復にも深く関わる医師 であろうと納得。秋篠宮妃の分娩室から出た際の夫君への第一声が「帰ってまえりました」というのも意味深。まさに一億の期待担っての任務遂行からのご帰還 か。札幌にご公務中の陛下は国民に「どうもありがとう」と語り、壇上で一歩下がり深々と頭お下げになったことだけにはさすがのアタシも感極まる。それに比 べ巷では新聞の号外の奪い合いの喧騒(香港ディズニーランドの中国人観光客のマナーの悪さ非難できようか)、小泉三世は官邸入りの際に歩きながら片手挙げ 「よかったね」と宣いインタビューでは「赤ちゃんの誕生」と言ってのける。晩のNW9では安倍官房長官のインタビューが小泉首相に放映先行。失礼な話。 ニュースでは「学習院に近い目白の商店街や駅前では……」とお祭騒ぎの様子伝える。目白と耳にすると中井英夫『虚無への供物』読んだ所為かすぐに目白不 動、江戸五色不動、中国の五行説……と想像ばかり膨らむが秋篠宮夫妻と目白不動(真言宗豊山派金乗院)、五行まではさすがに関係も浮かばず。で明日は木曜 日。小泉内閣メールマガジンにまた一つ嬉しいトピックスとなる。世の中、本当にこの木曜日発行のメールマガジンに合わせたように吉事は水曜日までに起きて 凶事は木曜、金曜となる。
▼衆議院議員河野太郎君はメールマガジンで皇位継承に関する議論の活発化を求める。天皇が男系であること、祭祀が男でなければならぬ理由、祭祀続けること はどういう意味があるのか、やめてしまうことはどういう意味があるのか、科学的な調査の必要性、天皇陵墓もきちんと調査する必要があるだろう、と。言いた いこともわかるが、そう何事も明瞭にすればいいのか、できるか、という気がするのだが。かりにこんなことがすべて解明されたら、皇位継承の問題どころか天 皇制など根拠もなければ必要性もない、という結論にいたりゃせぬか。

九月五日(火)早晩にジムで筋力運動。帰宅して夕餉済ませ中井英夫戦中日記『彼方より』続き読む。短い期間ながら中井英夫が旧・水戸南飛行場(水戸市住吉 町)にあつた航空通信学校に在籍と知る。読了。昭和廿年八月九日より抜粋せば
日本國民の感じる、大きい愛情、といふものは由來たいした意味をも たないし、又かゝる邪宗的主教國家といふものは、規模こそ異れ、世界各地の蠻地に點在してゐる。唯ひとつ惜しいのは、折角めざめてきた日本人自身の手でk の邪宗をくつがへせないことだ。
と戦局押し詰りし日に市ケ谷の陸軍参謀本部、それも彼の居室の階下には三笠宮が執務したといふ、にて反戦の日記を綴りたる英夫。終戦の日の彼の記述読みた いと願うが英夫この頃より悪性の腸チフスにて入院し医者に危篤と宣告されるまま昏睡状態にて終戦の日を通り過ぎたるもいかにも中井英夫らしいこと。この日 記が戦後、何度か上梓されるなかで英夫は「まえがき」や「あとがき」のなかで貴重な証言残す(それが、この『彼方より』完全版には本多正一による「解題」 として(詳細に渡り収録されたことが貴重)。まず月刊総合紙『公評』1971年3月号に初めて日記の抄録が掲載され、その「まえがき」で
戦後二十五年を経て何より驚かされるのは、私たちいわゆる戦中派の 年代が、誰も彼も屠所の羊さながら、権力の命じるまま御両親様宛ての遺書をしたため、従容として死についた、と思われているらしいことで、僅か三十年も経 たないのに、もうそんな歪んだ神話や英雄伝説が出来上がってはたまらない。何も私たちの中には少数の眼ざめた人間がいて、私もその一人だなぞというつもり はない。いいたいのは、たかが三十年ぐらいで、学生気質と二十歳そこそこのころは、無我夢中で本を読む傍ら、徹夜麻雀に熱中し、強すぎる性欲に辟易とし、 知的な見栄っぱりをこととし、命令者の号令にそっぽを向くことをいさぎよしとしていた。陸士や海兵に喜びいさんで行く奴は、いくら勉強ができても馬鹿の一 言で片づけられたし、まことを明らかにしておかなければならない。そしてそんくせ、兵隊はいやだという発言を誰ひとりなし得なかったことも確かなので、戦 中派の戦後の沈黙は、かかってその恥nいあるといっていい。この次になにかあったら、そのときこそノオというつもりなのかも知れないが、あいにくその機会 は生きているうちにはきそうもないのが実情だろう。
と述べる。この英夫にとっての事実が戦後どれだけ歪められ愛国の物語、神話が構築されたことか。続く翌4月に中央公論社の文芸誌『海』にも日記抄録が多少 分量も増え掲載され、その「まえがき」でも
当時の学生のあらかたは、いま伝えられるようなものではなく、反戦 の気風は以外なほど強かった。
と綴り「あとがき」で終戦の時の昏睡について
それにしても、眠り続けている間に、日本には何が起ったというのだ ろう。その日々があんなにも待ち望んだ輝かしい戦後だったとは、到底私には信じられなかった。それとも私は、この日記を書いた青年と同一人物ではなく、た だ彼の記憶を脳の一部に移植されただけなのかも知れない。いずれにしろ私は、また違う罠の中に捉えられた思いで、再びひとりの手記を書き始めるほかはな かった。いずれまた二十五年経ったならば……といういい方はもう許されないであろう。そして、むろん私のささやかなタイムカプセルが、それらの時の腐蝕に 堪え得るともいまは思えない。
と結ぶ。英夫の記述は続く。戦争の最中、ただ大日本帝国陸軍なるものに対する「強烈な憎しみ」が英夫を支え
とはいえいまでも私は思う、あの当時に、たとえどれほど狂信的であ ろうと純粋無垢な愛国者がかりにいたというのなら、その人間こそ陸軍の横暴さを真先に憎み、徒らに眼を吊りあげて戦争完遂を叫ぶだけの職業軍人に心底から 反感を抱いた筈ではないのか。世界の大勢についに一度も眼を向けず、あきらかな侵略戦争を聖戦といい変える欺瞞に渾身の増悪を覚えなかったのだろうか。た とえ一冊の社会科学の本に手引きされずとも己れの皮膚感覚で、みずからの肌の灼けただれで彼らは間違っていると感じなかったものか。遠い記憶を嘆いている のではない、戦争が始まったらそれに協力するのが当然という、すり変った議論がいまもって通用し、多くの戦中派世代がいつの間にか“きけ、わだつみの声” 式の痛みで自分の痛みを代用させてしまっている、それが私には不思議でならないのだ。いかにも遺書という建て前にはどのようにも悲痛な文辞を残しただろ う。しかしわれわれの本音はもう少しダメでだらしがなくて、あまり時の政府が期待するような人物像ではなかった筈である。この日記の昭和二十年七月にある ように、若者はおおむね口笛を吹きながら下駄をひきずって歩いていたのが実情であり、日ソ開戦の報にひとりが「これやでェ」と両手をあげてみせれば、前線 で闘ってきた兵士たちでさえともに笑ったのだ。神州不滅もへったくれもあるけえとわめく手合いを非国民として許さぬ発想は、職業軍人とか翼賛壮年団にしか なかった、彼らこそあの時代の少数派であり、庶民の感覚はもうすこしまっとうで健康だったといえば、それもまた私の妄想として嗤われるだけだろうか。これ も一例だが、水戸の航空通信学校にいた同期の一人は、天佑ヲ保有シとかいう『大東亜戦争開始二関スル勅語』を暗誦させられたあと上官がいなくなると、あゝ あ、早く『大東亜戦争終結二関スル勅語』を読みてえなどと感想を洩らしていたが、学生兵の間ではそんな不謹慎な言辞も当たり前のことで、誰も咎めだてする 者はなかった。ところが数年前その彼に再会してそれをいうと「オレはあの戦争でりっぱに死ぬつもりだったんだから、そんなことをいうわけはない」と、頑な に首をふって私をおどろかせた。二十五年の歳月はいつか建て前と本音をすり変え、彼は自分で時の指導者の望んだとおりの理想像を自分に課したらしいが、そ れよりもすべては私の幻聴としておいたほうが収まりはいいにきまっている。この本はそういう私の幻視と幻聴の記録であり、先に記したように憎しみだけがそ れを支えた。(略)やみくもに戦争へ傾斜してゆく時代の風潮は、こういう私にとって格好の餌食だったが、さてようやく迎え得た日本の戦後が、ほとんどこの 憎しみをぬきにして始まり、その上に栄えるのを私はまたひどく奇異な思いでみまもった。(1974年、潮出版社刊行『増補新装 彼方より』の巻末小記)
と綴る。この記述の最後に英夫は、戦中と戦後の知識人の転向ぶりを挙げ
日本人の天皇観はいまも昔もほとんど変わっていず、その上に確かな 戦後が築かれてきたことを、いまは憎しみの代りに哀しむだけである。
と結ぶ。ここで英夫の言う「昔の天皇観」が、たんに戦前の、明治二十年代から構築された「近代の天皇観」にすぎないことを付記しておこう。
▼香港鼠楽園開業から十二日で丸一年。年間入場者数五百六十万人目標のところ五百万人に達したのみ。十月には一ヶ月遅れで五百六十万人達成と宣うが、この 人数には入場料優遇だの関係者通しての無料招待だの含み、それがいったい何割を占めるかは当然の如く言及せず。悲惨極まれり。香港鼠楽園は初年赤字でも潤 沢なる資金で運営問題なしと豪語するが融資銀行団の融資返済計画の見直し必至。鼠には震災予知の本能あり。安政の大地震、先の震災の如く将来閉園とならば 鼠は逃げればよいがHK$230億の巨額公的資金拠出の香港政府ばかりが大損。政府の政策決定者など個人にて無限にせよ有限にせよ責任を負う必要もなくた だただ我らが血税ドブに捨てドブネズミにくれてやったようなもの。
▼陶傑氏が蘋果日報の随筆に「小泉下台了」と秀逸なる一文寄せる。小泉三世の九月の首相退任は権力に固執することもなく引き際の見事さは中共首脳など見習 うべき、として日本の成熟を讃める。陶傑氏であるから小泉三世がアジアの隣邦を見下すが、見下される方も見下される理由があるでしょう、と(これは陶傑氏 一流の自卑であり、日本人が同調する必要はない)。で陶傑氏曰く、それぢゃ日本が「完全没有假大空的毛病」がないかと言えば安倍晋三を見れば「そうぢゃな い」と。「美しい日本。」について、これは小泉以前の日本は美しくなかったのか。もし安倍センセイが香港人相手にアンケート調査せば香港人の愛する日本と は、日本の秩序と和の美徳、清潔好き、京都の古都の幽静淡雅、北海道の露天温泉の湯気と雪花、神戸牛に成長ホルモンなど薬剤投入されておらず、刺身が使用 済みの生理用ナプキンで色付けされておらず(これは陶傑氏の好きな中国卑下、ここまでひどくないだろう)、温泉のお湯に小便や大便が混在しておらぬか心配 がなく、銀座で買い物すればコピー商品はつかまされず、富士山の美しさ、小樽の運河、公害など化学汚染も解消され……そんな日本の姿は日本人が日本を愛し ているから成り立っているもの、と。それを今さら美しい日本だの、愛国心だのと言うことの欺瞞を陶傑氏は指摘する。御意。日本で敢えて美しくない場所は、 と陶傑氏、大陸からの暴力団が跋扈する新宿歌舞伎町だろう、が、歌舞伎町だって皿うどんが美味いし(コマ劇場の、ちょっと区役所寄りのうどん屋?)、日本 にとって唯一足りないのは近隣の、中国との友好関係維持するような美しい姿勢でしょう、と。この「美しい日本。」につき知己のN氏が「日本は Discover Japanから始めるべき。Realize Japanと言ってもいい」と。本当の日本の現実をわかる努力。人々の願い、歴史、地方の美、世界観。内輪だけでうっとりと横山大観の富士と日輪かなんか 見つめ「美しい日本の憲法をつくるんだ、教育基本法をつくるんだ」と呪文を唱えているのが彼ら、と。まさに。いいねぇ、Discover Japanは。民主党に教えてあげようかしら。来年の参議院選挙のキャッチコピーに如何?、と。民主党内の旧社会党の労組出身議員とか(もう数人しかいな いかもしれませんが)、このDiscover Japanなんて聞いたら、国鉄再興!とか思うかも。
▼中国で映画『頤和園』制作の監督・婁華(華は正しくは「火」扁に「華」)氏に対し政府当局は五年の映画製作禁止の措置。『頤和園』は89年の天安門事件 を題材に而もポルノチックな色情的なる描写あるとして中国国内で審査批准されず上映禁止。それをカンヌ映画祭に出品し当局の怒り被る。婁華監督には 2000年に女優・章子怡抜擢し1930年代の上海の政治風雲をば描いた『蘇州河』などの作品あり。『頤和園』じたいは天安門事件扱ったとえ政治的主題は 浅く登場人物らの濡場含む恋愛物語もどう天安門事件に絡ませるか、ツメが甘いという風評あり。
▼田中真紀子女史、小泉三世をば「ドーンと上がってみんなが政治が変わると飛び出したら、5年たったら何だったの、の四尺花火」で安倍三世を「火がつくと 思ったら、すぐ落ちてしまうことに国民が気づく」線香花火と評す。ドーンとあがった四尺花火にしては5年にわたり輝くは長すぎ、安倍三世にはどうか線香花 火であってほしいと思いつつ消えたと思って火玉がいつまでも残るところが気になりゃせぬか。
▼『信報』に我が人類学の恩師・謝剣教授、信報が青年実業家の李澤楷先生に買収され継続することに祝福を、と。皮肉か、と思ったが本音。謝先生にしてみれ ば三十年前からの知己たる信報社主・林行止氏、すでに老齢に達しいつかは経営の一線から退くわけで経営継続することは喜ばしい、と。そう簡単に言っていい ものか、と疑問の李嘉誠財閥の取込みなのだが。

九月四日(月)晩にカレーライス食す。カレーライスに麦酒は合わぬのでハイボール。伝統の味、サントリーのトリスのハイボール。トリスはトリスでもスクエ アなるボトルが904円もする高級酒。トリスブラック(755円)と何が違うのか、といえば、トリスブラックが
ほのかに甘く香る選りすぎりのモルトとライトタイプのグレーンをブ レンドし、華やかな香りとすっきりした飲み口との微妙なバランスを実現しました。後口のキレのよさをお楽しみください。
なのに対してトリススクエアは
ほのかに甘く香る選りすぎりのモルトと、すっくりしたライトタイプ のグレーンをブレンドし、軽快な味わいに仕上げました。甘く華やかな香りと極力スモーキーフレーバーを押えた、飲みやすさが特長です。
なのだ。文章では具体的に何が違うのかわからない。ほとんど同じ。いずれにせよ往年のトリスウイスキー愛飲した世代には、2003年に登場のスクエアも翌 04年のブラックも旧来のトリスとは似て異なるもの、だがトリスはトリス。カレーライスにはちょっと濃いめのハイボールが合う。いつもNHKのNW9の話 題で恐縮だが(月額HK$150だかNHKのために払っているのでNW9くらいしか見ておらぬから文句でも言わないと損なのだが)福岡での飲酒運転での幼 児殺害事故で「あいつぐ飲酒運転」は「皆が心を一つにして地域、職場が一体となって取り組んでいく問題」であり、何処だかの飲酒運転防止大会で幼稚園児が 舞台から「大人の皆さんへ、飲酒運転はしないでください。わたしたちの命を奪わないでください」と呼びかけ、NW9のキャスターは「子どもたちの言葉を私 たちはどう受け止めるべきなのでしょうか」と結ぶ。もう報道通り越してセンセーショナルなバラエティ番組。今井環のNews10よりも社会面記事多し。岡 山で12歳の小学6年生が教室で同級生をナイフで刺した事件。少年がナイフで友だちを刺すなど少年犯罪の凶悪化、と報道するが12歳の少年のナイフでの殺 傷事件は戦前も、終戦直後も昭和30年代も数はそりゃ少ないがずっとあったのだろうし江戸時代も間違いなく果たし合いあり。ライブドアの堀江前社長の初公 判も2000人が傍聴券求めたことに裁判への「これまでにない関心」と勝手なことを。ちなみにこれまでの裁判での傍聴希望者数のトップはオウム真理教の麻 原被告の裁判で12,292人、ロッキード事件の田中角栄で3,904人で、ホリエモンはそれに及んでおらず「これまでにない関心」ではない。このライブ ドア裁判については「社会が自分が信じていたものか(をこの裁判から)いったい何なのか見きわめたい」と意味不明のコメントで結ぶ。世の中が狂う元凶は、 くだらないお笑い番組のせいではなく、実はこうした良識あるフリした報道番組の偏向(政治的な偏向でなく報道から絵空事念仏?への偏向)なのだろう。深夜 一時までかかり、ようやく中井英夫『虚無への供物』読了。文庫本で活字びっちり七百頁余もあり(幼き頃は横溝正史の金田一モノなど上下巻一晩で読みきり、 中山介山『大菩薩峠』ですら学生の頃は一日一冊読めたののが)ちょっと筋に食傷ぎみであることも読むのが遅れた原因か。第四章に入り少し面白み増したが、 やはり奇書というより、推理小説としては最高に讃美されるべき失敗作と思えてならず。とにかく著者の博識で古今東西さまざまな思考、陰陽などが事件に絡む し、推理小説として「誰が犯人か?」が最後には序章の「あ、あれが事件のきっかけ」と推理小説の定番のどんでん返しも面白くはあるのだが、とにかく大きな 話を中井英夫ですらまとめきれておらず。この作品が江戸川乱歩賞で次席となった際の乱歩先生らの作品評(巻末にあり)が言い得て妙。
▼「秋篠宮が友人に洩らした、第三子は男の子」が話題の週刊文春最新号。もはや男子誕生は既成事実の如く、この「報道」よか「靖国「A級戦犯合祀」最大の 根拠「祭神名票」を厚生省が取り消していた!」のほうが文藝春秋の立場、いわゆる「保守」と靖国神社との関係の微妙な齟齬が見え隠れして面白い。読んで 「やはり」と膝を叩いたが、靖国神社は神として祀る戦争による公務死につき「神社当局が勝手に判断し得るところではない」立場で、あくまで厚生省(旧)の 引揚援護局が作成の「祭神名票」に基づき合祀行う、それにA級戦犯も含まれていた、そうだが、そもそも問題は政府が「祭神名票」作成することぢたい政教分 離に抵触する違憲行為ぢゃないかしら、と思っていたが今回の週刊文春の記事によれば実は厚生省は昭和46年の全国都道府県知事宛の通知(原則は現在も公開 制限文書扱い)【旧陸軍関係戦没者身分等調査事務処理要領について】で靖国神社合祀事務処理に関する昭和31年4月から同45年8月までの諸通知は廃止、 とあり。戦後、厚生省内で省内別局扱いであった引揚援護局も戦後25年が過ぎて旧軍関係者らも退職してゆくなかで、いわば臭いものに蓋をした、というとこ ろか。この通知により、その期間の諸通知に含まれる「祭神名票」、昭和41年2月のA級戦犯も含む祭神名票もこれに該当する、も無効になったはずで、だと すると靖国神社側が頼る「祭神名票に基づき合祀行う」前提が崩れてしまう。極めて興味深き史実。
▼今日の蘋果日報は一面トップで「迪士尼性騒擾醜聞」と香港鼠楽園でセクハラ、は何かと思えば香港鼠楽園の恒例のパレード、ディズニーのキャラクターの 「お練り」だが、そ のお練りのフィリピン人男性キャスト4名が更衣室にてシャワー浴びて着替え中にタオルを外すだのふざけていたと ころを第三者にビデオ撮影され匿名で管理層に報告。ビデオ内容見た管理層は厳重なるセクハラとして4名を解雇処分。3名が標的となった1名のタオルを剥が そうと悪戯けたもので、セクハラだとしたら被害者の1名も同じく処分受けるも不適当、当時、更衣室には20数名がおり、その誰からもセクハラなどの指摘な し。回顧処分の4名は寧ろ勝手に更衣室のなかをビデオ撮影されてのプライバシー侵害、香港鼠楽園が匿名のそのビデオに拠っての不適当な解雇処分決定を不満 として政府労使裁判所に解雇異議申し立て。鼠楽園側の判断は米国的なホモフォビアか。ところで同記事によれば香港鼠楽園の雇用者差別は露骨で、欧米系の場 合Discovery Bayなどに住宅提供されるのに対してフィリピン人の場合は東涌の集合住宅に7、8名の同居もありの由。
▼蘋果日報の李八方氏による辛口の政治風刺の八掛頁「隔牆有耳」にこの夏、希臘大使に栄転の香港総領事北村隆則君につき八方氏離任にあたり北村総領事を満 点と評価。香港在任中は積極的に香港の大中小様々な社会活動に参加。八方氏が最後に北村総領事見かけたのは競馬場で政務司長の肥龍と一緒。北村氏、英語上 手で親しみ易く山頂の公邸でもさまざまな催し開き客を招き、惜しいかな在任中は中日関係緊張したが大学での講演したり関係改善にも尽力。希臘大使としてご 多幸を、と。歴代の香港総領事といえば紐育などと並び総領事クラスでは花形ポスト(今では上海にお株奪われただろうが)、真紀子大臣での人事混乱で経済畑 から異例の事務次官就任、真紀子大臣との刺し違えで次官辞任に追い込まれたが英国大使という外務省では名誉職に上り詰めた野上義二君(結果的には真紀子様 々)、同じく真紀子大臣当時にアジア大洋州局長で「ヒゲ、ヒゲ」と虐められた槙田邦彦君(現エジプト大使)だの個性派揃いだが北村氏が社交的で温和でス マートいう点では近年稀に見る好人物であったのは確か。

九月三日(日)曇。中国のネット事情、日刊ベリタに送稿。午前中、Z嬢と沙田。香港文物博物館。何度か訪れ、いつも特別展は着眼点はいいが展示内容が今一 つで期待に応えてくれず今日も半ば「やっつけ」で訪れたのだが今日はじゅうぶんな収穫あり。まずは「衆楽與独楽〜香港大衆娯楽的転変」展。香 港の大衆娯楽を競馬、ハイキング、蹴球、遊園地、テレビ、映画、借本といったジャンル毎に史料ふんだんに展示。「衆楽と独楽」というタイトルが示す通り娯 楽がかつては集団的であったものがテレビやネットに象徴される個人化するところを見事に突く。競馬も競馬場で観戦するものが、現代ではテレビの前で端末 使って馬券購入する態まできちんと実物で展示される徹底。19世紀からの競馬場の風景も、1950年代から60年代の新界郊外でのハイキング風景の写真や 当時の郊外地図も、愉園や利園、茘園といった昔の遊園地の光景も、つい見入ってしまう。続いて香港の設計家によるアート展「四頭家」を見る。家具商 G.O.D.の創業者・楊志超をプロデューサーに夏永康、胡恩威、陶傑、葛民輝といったクリエーターが作品提示するが、入り口の湾仔だろうか集合住宅の立 体写真に圧倒された以外は余り関心わかず。続いて3つ目の特別展は MERART STORE という作品展で会場を一つのショッピングセンターに見立て、香港のこの15年くらいのさまざまなアート作品を商品ジャンル別に展示するという企画。これが 発想よか、その展示作品の内容の濃さで期待以上の面白さ。写真撮影可とすることで参観者が展示物の中に埋もれた自分を撮影することで空間の一部となること も一興。ほんの30分もあれば見終わるだろう、とタカを括っていたが3つの展示見るには時間惜しいところ。これだけ見て、常設展もあるのだからHK$10 はお値打ち。正午にO君ファミリーと沙田の駅前で待ち合せ。龍華酒店に 昼食。七歳と四歳の子が「鴿が美味しい〜」と鳩の頭を平気で手づかみして、龍 井蝦仁なんて日本なら高級料理を「蝦〜」と食べる姿を見ているだけでも嬉しくなる。「日本人の好物」の印象しかない白灼蝦を食す地元客多いのが目につく。 この龍華の案内にこの店の贔屓である唯霊氏の
沙田翠谷映流霞、西風人痩過誰家、陶令風流鐘子意、黄花紅酒酔龍 華。
と詩があるのを知る。戯れ歌だが1968年って40年前で唯霊氏いったい何歳だったのかしら。かなり若いはず。KCRで大埔、タクシーに乗り Kadoorie農場。月に一度の有機野菜の即売に加え「動物に触ろう」なる企画あり。動物に触ろうが豚や兎、鹿かと思えば動物の頭骸骨や鷲の羽根の剥製 で見当違い。野菜かなり購う。バスでKCR西鉄の錦上路站。鉄道と地下鉄乗り継ぎ帰宅。農場で買ってきた枝豆で麦酒。ひやむぎ。NHK スペシャルで「ポスト小泉の300日」見る。安倍、福田、麻生、谷垣の四人を政治部記者がハンディビデオで密着取材し自民党総裁選への道のりを追うのだ が、誰が見ても、クールで頭脳明晰そうだが意外に感情的でコントロールきかなくなりそうな福田君、葉巻吸う態まで柄の悪い麻生君、真面目だが首相の器でな い谷垣君、と映り、結果、やっぱり安倍晋三が首相の器、と思ってしまう。自宅マンションでの安倍夫人の気さくさまでが好印象。全てが安倍首相誕生に向けて ベクトル集中といったところ。
▼朝日新聞の書評。OCSに月1万円!の購読料払うぶん罵詈雑言しつつ朝日の購読止めぬ理由の一つに読書欄あり。読書欄は読売ぢゃ話にならぬ。今日の朝刊 に柄谷行人氏によるSheldon S. Wolin 著『アメリカ憲法の呪縛』(みすず書房)の評あり。原題は“The presence of the past”という、ちょいとサイードっぽさ。憲法が国家権力を制限するはずが米国憲法では人民という名のもとに国家主権の無制約な拡張を齎す、ということ を米国の根底にある封建的な(この語彙の説明については柄谷評「あるいは」本書を参考すべき)風土に源流を求める、という、この本が面白いのだろうが柄谷 行人が書評というより見事すぎる要約、おそらく本書を読むよかずっとわかりやすい2分で読める内容にまとめてしまい(評論にはなっていない)これぢゃ本書 が売れぬ(笑)。みすず書房は朝日新聞と柄谷行人に抗議すべきかも。
▼昨日、ピアノの練習をしていたら、といっても老人のボケ防止でブルグミュラーの小曲程度なのだが土曜日の夕方でマンションの他の家からもピアノが聞こえ てきたのだが二軒ともブルグミュラーのタランテラ。今年は香港で普及しているOxford Method?だかの課題曲がこのタランテラで、そうなると、香港じゅうでこの曲ばかりが練習され、この曲さえ上手に弾ければ他は一切関係なく進級する、 という恐ろしい制度の由。で香港のピアノ教師は極端な話、Oxford Methodの課題曲だけ弾けて教えていれば商売になる、という。

九月二日(土)早朝から新聞、雑誌のスクラップ読み机まわりの片づけなどしていると快晴ながら何度か雷鳴轟き雨になるか、と中井英夫『虚無への供物』の続 き読む。夢野久作の『ドグラマグラ』、小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』と並び日本の推理小説の三大奇書というが、そのわりに平凡、なんか最初からわかって いるトリックを素人探偵にあれやこれやと邪推させて……の展開にちょっと飽きる。おそらく、江戸川乱歩賞に応募された、この版ではなくプロトタイプの序章 こそ、堂 本正樹氏の回想にあるような露骨な性描写など含み奇譚であったのかも。昼過ぎにもう雷雨の気配もない晴天となり 裏山を10kmほど走る。山中の英国軍の抗日戦でのキャンプ。半壊の混凝土の建物のなかに大きな樹木育つ。昨日日剰に綴ったジャック=エドワード氏は新嘉 坡で抗日戦に従い悪名高きチャンギ収容所に拘留されたのだが香港では、この山中で戦あり。帰宅して読書。晩にZ嬢とFCCに食す。ブロッコリーと山羊チー ズのパイ、それに珍しくピッザ。ウイスキーソーダ2杯と智利の赤葡萄酒。帰宅途中そごう旭屋書店に寄りアサヒカメラ受領。帰宅して『虚無』読む。
▼中国国内で作家、芸術家、新聞記者、弁護士、社会活動家など知名度高く政治的敏感な立場にある人たち、妬く20万人が政府のネット管理部門である信息産 業部の監視下に置かれており、hotmailやGmailなどでのメールも含め胡錦涛、江沢民、六四といった文言含むと「郵件存在敏感信息、拒絶発送」と メッセージ現われ送信能わず。余杰なる作家によれば一日に受信する約30通のメールの半数は受信不可ですでに開封済み。海外とのメールの往来には30分か ら1時間を要す」と。Yahoo!も信息産業部による陽光緑色網絡工程なる浄化運動でメールやブログなどがスクリーニングされている事実を認めており、大 公報は政府系の中国の最大規模のプロバイダー「新浪」に通信内容監視のための部門があり、非法活動や暴力行為といった不正常なメール処理が行われているこ とを(当然、肯定的に)紹介。個人のメールや発言内容の監視、検閲といったことが最も不正常な行為なのだが。
▼台北のChiang Kai-shek Int'l Airport「中正国際機場」(こちら)が「台湾桃園国際機 場」(Taiwan Taoyuan Int'l Airport)に改名の由。飛行機にて「本機はまもなく蒋介石国際空港に着陸……」と聞くと「乎、民国に着くのだなぁ」と思った時代も今や昔、蒋介石の 肖像など市街で探すのも能わぬほどの脱蒋家の風土にて飛行場からも蒋中正の名が消える。「台北国際機場」でいいはずが「台湾」に拘りあり飛行場所在地の桃 園が台北市内には松山空港あり空港に「桃園」の名を入れることへの民意への配慮とか。
▼香港市民で新嘉坡「海峡時報」記者・程翔氏の中国国内での取材活動に対する諜報罪での懲役5年の有罪判決について。程翔氏は記者生活32年のベテランで 香港大学卒業後に香港の左派紙「文匯報」の記者となり82年には同紙の北京特派員として香港返還に関する中英交渉を取材。同紙の主筆、副編集長にまでなっ たが89年の天安門事件に対して実質的な香港の共産党紙でありながら社説に、文章なしで「痛心疾首」と四文字を載せ中央政府に対しての学生鎮圧に対する抗 議の意志を示し、程翔氏は同紙の李子誦・社主とともに辞職。雑誌「當代」出版するが経営に行き詰まり96年より新嘉坡「海峡時報」記者となり98年より2 年間台湾駐在、その後、香港をベースに中国取材するが05年4月に広州で趙紫陽が生前に懇意とした気功師・宋鳳鳴による趙紫陽関連の手記を入手しようとし て公安当局に逮捕される。今回の諜報活動については、程氏が台湾の某研究機関(基金組織)に対して北京中央の国家機密文件を提供しHK$30万の報酬得て いたというもので程氏が公安当局に対して証拠にあたる記述やパソコンデータなど提供のため犯行認めた自首扱いとされ5年の求刑に「軽減」された由。今日の 蘋果日報で李怡氏(雑誌「九十年代」元編集長)は「程翔是以愛国獲罪」と述べ「愛国是一種病毒」と。然り。朔日の信報社説、今回のこの裁判につき、中国で は検察の求刑=裁判所の判決で開廷即自判決が当然のところ、今回は五月に裁判所に提訴され八月半ばにようやく開廷、わずか一日で閉廷、但し八月末日になっ てようやくの判決の公表……この黒箱作業の不見識。見方によれば中共の判断仰いでの神経使う扱いであったことか。

九月朔日(金)安倍三世自民党総裁選立候補正式表明、つまり総裁選当選=首相就任まで確約の出来レース。たかだか自民党総裁選への立候補表明が晩の報道番 組で安倍三世の生出演!と銘打つはTBSイブニング5、テレ朝Jチャンネル、NHKのNW9、テレ朝報道ステーションにTBS筑紫哲也NEWS23と安倍 三世出ずっぱり。フジのスーパーニュースにも出たのかもしれないし、日テレの「今日の出来事」も新聞のテレビ欄で「安倍氏直撃」とあるのだから全局制覇か も。NHKは会津の男、柳澤秀夫君のへっぴり腰、ある程度、安倍三世に苦言呈するが期待されるは筑紫哲也くらいか。よっぽど日テレの太田光の「太田総理」 で教育問題メッタ斬りのほうが政治報道よか骨があるかも。いずれにせよ、この安倍首相誕生の敷石は昨年の郵政選挙にて国民が自民党に与えし信託、野党当然 の如く安倍首相誕生ただ指を銜え眺めるばかりの、もはや大政翼賛体制。安倍三世の宣った「戦後レジームからの脱却」という言葉の、重さ、怖さ。広島でのこ の立候補表明で会場の客の何割が「レジーム」の言葉の意味を知っていたか、或いはテレビで観た国民の何割がregimeの言葉の真意を理解していたのか。 レジームは例えば米国でいえば第一次世界体制と共産主義国家成立以降の「悪に対して正義ある自由主義国家の導き手として世界に君臨する」ことがアメリカの レジームでありフランスならドゴールの第五共和制。日本はまさに戦後の、我々がこれまで享受せし(大事先送りは事実だが)自由で平和な社会、それが戦後日 本のレジーム。十分に「美しい国」であろうに、それをちやほやと育った若造政治家が「戦後レジームからの脱却」などとほざき、それを、まさに戦後レジーム =自民党のはずが党内も翼賛体制で支持。憲法、教育基本法も保守右翼反動の諸君には不満こそあれ、基本法としてこれを維持することで中道から左の取込みが 上手くいったのが55年体制の戦後レジーム。外交も「日本の国益を主張する外交」などと言うが、戦後レジームは外交は「日本の国益」を全面に出さぬことで 実質は「日本の国益」となる安定した対外関係での経済利益得てきたもの。そういった戦後の「美しい国」としてのレジームを脱却しよう、という安倍三世の 「わけのわからない」保守の再構築?に諸手挙げて賛同する現在の自民党……とは言っても郵政選挙で自民党の良識をば放逐し小泉チルドレンなどバカばかり当 選したのだから戦後レジーム背負ってきた自民党とは全く異なものなのだが、小泉三世首相就任の頃に「小泉さんなら何か変えてくれると期待して」と国民の8 割が小泉三世支持した盲従の民は今度は「安倍さんのさわやかさ」に期待とは。悲劇。民主党とて、実は松下政経塾出身の連中など「自分たちのやりたい戦後レ ジームの脱却を安倍さんに先にやられてしまった」と悔しがっているのが本音。パンドラの匣をひっくり返すような時代にある、ということを国民が理解できて おらぬのだから救われぬ。だが安倍賛成首相に就任の暁には、政治は狡いものだから、意外と安倍首相はソフトな姿勢でハト派の如く振るまい韓国、中国との関 係も間違いなく改善される。「安倍さんで良かった」と安心して、この「美しい国、日本。」路線に対して「戦前の国家体制の復活」だのと騒いだ朝日新聞や都 新聞、岩波っぽい「良識ある知識人」、それに飲み屋で「まったくバカな世の中になったもんだ」とクダをまく余の如き者が「何を言ってるんだろう」「よっぽ ど怖いよね、体制を破壊しようとするんだから」と烙印を押されるのかしら。この安倍三世自民党総裁選立候補正式表明の今日、秋篠宮家での新生児誕生は六日 午前、とまるで皆既日食の予定の如く発表される。男子誕生は安倍三世の「美しい国、日本。」に最大の贈り物か。それにしても、この「美しい国、日本。」の 「。」って「モーニング娘。」の「。」っぽくって(しかも二番煎じだと思うと)バカもいい加減にしろ、の浅はかさ。こんなダサさが国家の姿のキャッチフ レーズとは……電通?、今回の戦後スキームからの脱却、の代理店は? 電通だったとしたら満州建国以来の、あ、つまり安倍三世の祖父キッシーからの理想国 家建設の、孫の代での偉業達成か。
▼英国退役軍人協会の香港・中国分会の名誉主席、Jack Edwards氏逝去。享年88歳。本日、九龍のSt. John's 教会にて葬儀あり。英国総領事、香港の政財界の著名人ら参列し、Chris Patten君も倫敦より弔辞寄せる。八月半ばのJE氏逝去の報は数日前に映像家H氏通し羽仁未央さんから聞く。羽仁さんは今日の葬儀に参列の由。JE氏 はウェールズ出身。軍人となり英領シンガポールに駐在。1942年2月の日本軍によるシンガポール陥落で日本軍の捕虜となり台湾に送られ銅山での強制労 役。1945年の日本敗戦までにこの労役に従事の五百余名の英国軍人のいち生き残りはわずか64名。東京裁判での証人としゅて出廷。戦後、倫敦にて退役軍 人の恩給保証、生活保護などの活動に従事し1963年に香港に移り住み香港政庁で住宅部門に働く。政庁退職後は英国系Hongkong Land社に在職。香港の退役軍人協会の重鎮として退役軍人の福利、植民地徴用の軍人の英国居留権取得などに尽力。日本は戦時の敵国なれど軍人として戦後 は日本軍兵士の遺骨収集にも協力するなど気骨ある20世紀の人がまた一人逝く。

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