乾 坤容我静 名利任人忙
(旧)教育基本法(1947〜2006) 改正に反対した文化人129 名の声明 憲法改正反対(九 条の会こちら

また眞理を知らん、而して眞理は汝らに自由を得さすべし。ヨ ハネによる福音書8章32節)

メ ディアはコミュニケーションの道具という素朴なイメージがあるが、もっともこの言葉は「中間」という意味であり、二つのものの間を取り次ぐという意味で はコミュニケーションの道具となるが、同時に最初は一つであったものを二つに分けるという効果ももたらす。メディアは、それがもたらす情報を共有し仲間意 識を持つグループと、そうしたものに無関心、あるいは反発するグループとの分裂をもたらす。メディアが発達すればするほどこの分化は進む。だから、メディ アの発達がコミュニケーションを豊かにするというのは幻想にすぎない。(佐藤卓己)

■ 富柏村の一連の写真画像はこちらで ご覧になれます。
■ 「はてな」の富柏村日剰・香港日記(テキストのみ)はこ ちらを ご覧 ください。
■最近のブログ化のご時世に敢へてブログ化せぬ日記を。の 心づもりでをります。敢へて全て讀むこと強ゐる日剩あつてもいゝのでは?と。
讀みにくいこと間違ひなきサイト乍ら今後とも御贔屓の程宜しくお願ひ申し上げます。
■香港の高級紙「蘋果日報」からの紙面、寫眞の無斷借用多し。同紙社主・黎智英氏自ら同紙の無斷借用轉用大歡迎と公言ゆゑ、それに甘えてをります。
 2000 年11月24日からおそらくあなたは番目の閲覧者です。


香港でドキュメンタリー映画「 ≒ 草間彌生 あたし大好き」10月から11月にかけ上映あり。不肖富柏村も上映実現に多少協力。請御高覧(URBTIX)。


九月卅日(火)早朝のニュースで米国下院が金融安定化法案否決。だう考へても「市場自由の原則に基づき国家政府が介入すべきでない」なんて高尚な理念に非 ず総選挙控へ議員は有権者の顔色伺ひ。ブッシュはイラクやアフガニスタンは平気で爆撃するが米国議会は空爆せぬらしい。香港時間では凌晨のこの米国下院の 法案否決は蘋果日報など香港時間午前三時半現在の紐育市場の動きまで伝へる新聞を午前六時過ぎには配達。信報が間に合つて一面記事と社説でこれを伝へたの も驚き。香港の新聞の優秀ぶり。IHT紙やFT紙は当然、まだ「議会で通る上で」の記事満載。FT紙といへば“In praise of free markets”と題する27日の社説を昨晩読み流してゐたが
Consider the Washington rescue package first. Why should taxpayers bail out millionaire bankers, and what should we force them to give back in return? Those are natural questions but not the only ones. We should also ask whether taxpayers will profit, directly or indirectly, from spending money to shore up the banking system. The answer is "yes".
とするのは何故かと言へば
The current crisis is routinely described as a symptom of deregulation, but it is equally the child of earlier, ill-fated interventions. Subprime mortgages grew because the prime mortgage sector was dominated by Fannie Mae and Freddie Mac, two institutions founded, regulated and effectively underwritten by the government. Securitisation was an effort to sidestep capital requirements. But it also created instruments that few could understand and, in Warren Buffett's prophetic words, really were " financial weapons of mass destruction".
Capital markets clearly need better regulation but policymakers should guard against unintended consequences. Markets are places of trial and, very frequently, error. Their genius is not perfect efficiency, but the rewarding of success and the weeding out of failure. No better alternative has ever presented itself.
This is a difficult time to defend free markets. Nevertheless they must be defended, not only on their matchless record when it comes to raising living standards, but on the maxim that it is wise to let adults exercise their own judgment.
Market freedom is not a "fundamentalist religion". It is a mechanism, not an ideology, and one that has proved its value again and again over the past 200 years. The Financial Times is proud to defend it - even today.
とかなり苦渋の選択として市場安定と自由市場の維持のため公的資金導入を選ぶ意味合ひを説く。それでも否決してみせた米国のいろ/\な意味での凄さ。自 由。それにしても今になつて渡辺美智雄の舌禍(日本人は真面目に借金を返すが、アメリカには黒人やヒスパニックなんかがゐて、破産しても明日から金返さな くても良いアッケラカのカーだ、の発言)が黒人やヒスパニックへの偏見を除けば(人種に関係ないのだから)妙に納得するところもあり(日本人は真面目に借 金を返す、も給食費支払ひ拒否の今の日本だが)。
▼公的資金の導入で無駄も無駄、は香港政府が香港鼠楽園に対して33億香港弗融資の由。融資だが瀕死寸前の鼠、担保もなく死んだらお終ゐ。呆れるばかり。
▼田中長徳師の広東詣で(アサヒカメラ08年10月号、還暦からの写真楽宣言)。広州での大沙头二马路の写真機材店探訪期待したが(アサヒカメラで読む限 りは)行き先は東莞。リコーのカメラ工場へ。福田和也氏同行。4年ぶりで訪れた同工場、東莞の近代化に驚き香港に戻り福田氏の案内で九龍城近辺の潮州料理 (どうしてか日本のこのテの業界人に創發は神話的人気)。東莞のリコー工場見学から香港に戻る話で東莞に向ふ部分の記述なし。チヨートク先生のことだか ら、香港から広東省に入る部分は(広州もきつと訪れてゐるかしら)別の雑誌にちやつかり書く小分けも充分にありかしら、と思ひもするがチヨートク先生の矜 恃?は、今回のリコーによるVIP待遇での3泊4日の招待旅行や雑誌に記事を書く場合は自らのブログなどへの記載を控へること。雑誌にそれが掲載された時 には初ネタであるところが編集者にとつては有り難い書き手だらう。ところでチヨートク先生の「猥雑雑多な」かつての広東への最初の旅は1982年に島尾伸 三夫妻(懐かしい……)とご一緒の由。

農暦九月初一。朝晩少し涼しくなり早朝は陋宅も窓を開ければ風も心地良し。諸事忙殺され晩に至り夕食の時間も惜しみ湾仔の再興焼樓店にて叉焼飯。やッつけ 飯でこれだけ上手いものが頬張れるのが香港の極み。この食肆の叉焼飯はHK$21、もし日本ならこれなら横浜の中華街で2,000円と言はれても「食べた いッ!」と思ふだらう。「外賣」の客もひつきりなし。客の「肥肉の叉焼を20ドルと豚足2つ、それに焼鵝の肝胆が3つと……」なんて細かい注文を受ける兄 さんが板場に出す符丁が「肥叉廿蚊、両猪手、三個鵝肝!」といつた具体で実にこれが職人らしい気風の良さに聴き惚れる。二更に帰宅。疲弊甚だし。
▼紐育時報のEdward Wong記者の記事“Doubt Arises in Account of an Attack in China”が秀逸(29日にネット版に掲載あり香港の新聞掲載は翌30 日)。北京五輪控えた新疆はカシュガルでの「イスラム教暴徒による」暴動騒ぎ、実は中国軍・公安の「やらせ」と。当時、旅行でカシュガルに滞在した目撃者 の証言によれば
"It seemed that the policeman was fighting with another policeman,"
"A lot of confusion came when two gentlemen, it looked like they were military officers - they were wearing military uniforms, too - and it looked like they were hitting other military people on the ground with machetes,"
"That instantly confused us," he said. "All three of us were wondering: 'Why are they hitting other military people?"'
等々、制服姿の者が互ひに殴り合つてみせる場景とは……。でもこの報道に驚くより「やッぱり」と思つてしまふから。厳冬から四川地震までの天災や事故続 き、でカシュガルのこの暴動騒ぎ、北京五輪に宇宙飛行と話題事欠かぬ中国、テロも起きぬどころか「やらせ」なら、今年の国慶節あたりこそ実は最も油断でき ない時期ぢゃないかしら。

九月廿八日(日)快晴。気温は朝で摂氏廿五度だが湿度低く風も心地よく秋めいた感あり。朝八時に坑口の地下鉄站でY氏、O氏と待ち合はせミニバスで西貢。 北潭涌に向ふバスに長蛇の列。秋のハイキング、トレイルシーズンの到来。私らは水浪窩(海 抜100m)に向ひ馬鞍山に向ひ歩き始め丁度一時間で馬鞍山の尾根(海抜560m)。北風に汗をかいた半袖シャツでは薄ら寒いほど。それにしても気持ちの 良い秋晴れ。尾根をゆつくりと走る。昴平で九龍まで歩き続けるお二人と別れアタシは独り大水井への下り茅坪新村よりミニバスで西貢。午前十一時過ぎでまだ 行列の出来てをらぬ松記車仔麺に食す。ジムにより昼過ぎに帰宅。暫し午睡。午後、尖沙咀に渡り科学館。増村保造監督の映画『盲 獣』見る。原作は乱歩だがモチーフだけで映画は異質。盲目の塑像家役が船越英二。軟禁される女が緑魔子。盲目の息子の悪巧みを手伝ふ母親役の千石 規子が見事。千石規子といふとやはり黒澤明監督の『酔ひどれ天使』の「ぎん」であり晩年は「男はつらいよ」のリリー(浅丘ルリ子)が再登場の「寅次郎 紅の花」だが、どうしても石立鉄男が出たテレビドラマの婆さん役といふ感じの千石の勝ち気な悪婆ぶりが良い。毒にも薬にもならない人の良いお父さん役のイ メージ強い船越英二が若い頃にはこんな猟奇的な役。物語は母(千石)が不意に亡くなるあたり迄がぐゐ/\と奇妙な軟禁の日々に引き込まれるが後半の「狂気 的な愛欲」は、乱歩の作品と異なり「これでもか、これでもか」とそのシーンばかり続き、しかもパゾリーニ監督みたいにお下劣に猟奇的シーンは見せないから 途中から鳥渡、食傷気味。それにしてもこんな映画、キョービでは「目の不自由な方たちへの偏見を助長する」といつたことで制作もあり得ぬか。帰宅して夕 食。珍しくテレビ。『篤姫』見て『エジソンの母』をビデオ録画で見るが二更になる頃には就寝。

九月廿七日(土)快晴。昼過ぎまで畑仕事続け肩痛ひどく按摩して帰宅。早晩にM夫妻来宅。三鞭酒はLaonsonの黒ラベル、白葡萄酒はDog Point(シャルドネの05年)と赤はRothschild系のオーメドックのCh. Peyre-Lebadeの03年。Z嬢の手料理を食す。「津」出身のM女史はかなりの知的な個性派、ご主人は「60〜70年代の日本映画の特集やつてゐ るでせう、西湾河のフィルムアーカイヴで。映画はどれも時代の背景がね……明日の『盲獣』は見たかつたけど用事があつて」とか「苺だと思つたら一期一会の 一期なんですよ」なんて日本語で語るカナダ人。歓談三更に至る。

九月廿六日(金)久々の快晴。猛暑。所用あり中環はIFCの超高層ビルに香港金融管理局訪れる。総裁のジョセフ=ヤム氏の億 の単位の高俸も然る事ながら、この組織の立地とゐゝ贅沢極まりなき豪奢ぶりとゐゝ呆れて言葉もなし。香港金融紹介する展示室案内いただいたが香港金融史の 展示の中に1997年のアジア通貨危機も2001年だかのITバブル崩壊も表示なくパネルの最後は2008年にBanking Financial Crisisかね、と笑つてゐたら案内役の職員、笑つてをらず。晩に尖沙咀東の五味鳥に独り食し科学館で篠田正浩監督の映画『心中天綱島』見る。岩下志麻と播磨屋のこの 映画はアタシは初見。1969年のATG映画。寺山修司の『書を捨てよ町へ出よう』や大島渚の『儀式』あたりがアタシにとつてのATG制作の初期の映画だ と思つてゐたが調べてみると、アタシが見たATG映画では、この1969年には大島渚の『少年』あり、と言つても再放映で、の話。オンタイムでは1977 年の東陽一『サード』や78年の金田賢一主演の『正午なり』あたりから。それでももう30年も前とは。で、この近松物、抽象的で幻想的な「舞台」の造形、 武満の音楽、印象的な黒子(天井桟敷の面々)の役割など見てゐて飽きず。当時、20代前半の播磨屋の主人公・紙屋治兵衛の演技はまだ/\青く、やつぱり松 島屋贔屓のアタシは孝夫で見たかつた、と思ふ。遊女(小春)と治兵衛の妻(おさん)一人二役の岩下志麻、小春は太地喜和子や木の実ナナ、李麗仙で見てみた いと思つたが「おさん」の健気で多少狂気的でもある女房役になつたら岩下志麻に実にニンあり。脇を固める滝田裕介、藤原釜足、加藤嘉、河原崎しづ江、左時 枝、いづれもまぁ見事な演技、その中でも小松方正(太兵衛)の悪役ぶりは、そりゃ天下一品。銅鑼湾に独酌し三更半夜に帰宅。
▼三つ子の魂百まで、とは良く言つたもの。祖父の後ろに立つ麻生太郎少年。子どもの時のこの皮ジャン姿は今も雰囲気はまさにそのまま。The Economist誌9月27日号の"Grandfather's footstep"より。
▼金融危機について。いくつか覚え書き。
Ten short days saw the nationalisation, failure or rescue of what was once the world's biggest insurer, with assets of $1trillion, two of the world's biggest investment banks, with combined assets of another $1.5trillion, and two giants of America's mortgage markets, with assets of $1.8 trillion. The government of the world's leading capitalist nation has been sucked deep into the maelstom of its most calitalist industry. -from "What next?", The Economists 20 Sep o8
A banker is a fellow who lends you his umbrella when the sun is shining and wants it back the minute it begins to rain - Mark Twain
Banks are not to be trusted. This is not just the view of the public and policymakers, but that of the banks themselves. Spreads on unsecured inter-bank lending have reached unprecedented levels, particularly in dollars and, to a lesser degree, sterling. Such stresses cannot continue for long, without serious damage to both the financial system and the economy. Something has to be done. The question is: what? -"Need for action on the banking panic", Financial Times 26 Sep 08
http://www.ft.com/cms/s/0/b4956dba-8b64-11dd-b634-0000779fd18c.html

九月廿五日(木)倦怠感で抗体力も落ちてゐるところ除湿機能の冷房機の風に就寝中やられて多少、風邪気味。実家の母経由で ヨドバシカメラからのセコニック社の露出計(L-398A)届く。フィリピン製。ライカのM型と同じで手にして弄くつてゐるだけでも楽しい名器。ここ数日 帰宅して晩飯前の煙斗一服だけが楽しみ。晩は自宅で秋らしく栗の炊込み飯。連夜、有線電視でTBSのドラマ『エジソンの母』放映あり眺める。
▼いつの間にか首相は麻生君。海外の新聞が一面とはいへほゞベタ記事扱ひ。FT紙は見出しが「2年間で4人目の首相」と揶揄。日本政治への不信、期待薄。 小泉三世が代議士自慰、ぢやなかつた、それは首相在任中の話、で辞意(政界引退)を表明。郵政民営化だか構造改革だか、この人にさんざん踊らされたのが国 民よ。

九月廿四日(水)朝五時過ぎに目覚めれば台風は8号警報のまゝ。学校は休校、と流した後に六時半に8号警報解除で3号に。つまり労働者には「働け」との指 示。台風 の余波で昼頃に篠突く雨。こんな雨日は普段なら八百物売りは開店休業だが今日はかなり忙殺され昏刻に至る。いつ盥を引ッくり返したやうな雨が降るかしら、 と怯えながら帰宅。BBCラジオの第6曲は当然、先日逝去のリチャード=ライト追悼でピンクフロイドの音楽流れてゐようと気になつてゐたが、ここ数日多忙 で時間なし。やうやくネットでBBC-6開けば21日GMT午前9時!(日曜日の、だ)に番組で放送のWembleyはEmpire Poolの1974年のライヴが聴ける(聴取賞味期限はあと4日)。この音楽に狂気ならぬ驚喜でThe Balvenieの1973年を一飲、当時に浸る。酔つたらふと映画「カッコーの巣の上で」One Flew Over The Cuckoo's Nestが見たくなつたのは何故かしら。北角の嘉美鶏とキャベツの鍋。美味。いろ/\懸念だの気苦労続き のこゝ数日、鍋と日本酒でふと心和む。ピンクフロ イドのこの網上ライヴ盤をもう一度聴く。
▼李Baby國寶君が頭取のBEA東亜銀行にて破綻とデマ流され取り付け騒ぎ。預金者が銀行に殺到。で、誰がこのガセネタ流した張本人か。それがヤケおこ したリーマン兄弟社で職失ッた金融投資家だつたりすると物語性帯びるのだが。もう三、四年前かしらBaby李君の小指(れこ)との醜聞の方がずつと興味深 い話。
▼日本では麻生太郎君が主犯、ぢやなかつた首班指名で内閣発足。麻生君言ふところの「明るくて強い日本」つて昭和の戦前の日本も国内的には「明るくて強 い」日本だつたはず。それにしても麻生太郎君が牧野公の曾孫で吉田健坊の甥つ子と思ふと、なんだか……。NHKは麻生首相誕生に「街の声は?」と尋ねてみ せるが一人くらい「支持しません」とか「何も期待しません」がゐて当然なのに多少なりとも期待する声ばかり。安倍、中川が憂慮する迄もなく十分に体制派 の、マスコミと呼ぶには嗤へるNHKよ。その麻生君が町村派取り込みのために、と画策した森さん幹事長抜擢案。名案と思つて動いたのが安倍ださうで安倍は まだそんなに元気なのか、と呆れるが、さすが森さん、もはや自民党の最有力者の自負のあらうが出来レースぶりに「晩節を汚したくない」「私はそんな恥しら ずではない」と固辞。元首相を幹事長に抜擢してまでの政権奪取とは。自民党もひどいが、政権にしがみつく公明党、今日の朝日新聞の社説「なぜ「自公」なの かを聞きたい」は真ッ当。朝日の別の記事では創価学会の信者が次の総選挙では創価学会の3割くらゐの票が民主党に流れるのではないか、と懸念を口にする。 さもあらむ。ところで昨晩のNHKのNW9では王貞治氏のプロ野球チーム監督辞任を番組冒頭から10数分間流した由。新聞も「ON時代に幕」なんて伝へ る。プロ野球でON時代なんてとッくに終はつてゐたんぢやないの、と思つたが寺島実郎氏の表現を借りれば「革命も暴動も起きぬままに」、長島、王といつた ヒーローに夢も希望も託して「幸せに」暮らしてきたのが(或は「暮してきたはず」なのが)戦後の日本そのもので、朝日では西村欣也編集委員が「もう甘えら れない」と書いてる、その指摘こそ正しいが「もう」どころかここまでどつぷりとONだかなんだかに甘えてきたのがまさに戦後日本の脆弱さそのもの。戦後半 世紀も自立せぬ者が何を今更「もう甘えられない」か。人間50になつて気づくことぢやあるまいし気づいたとしても圧倒的に遅すぎ。

九月廿三日(火)台風接近。午後には大雨で風強し。午後六時に台風警報8号発令。晩に米国に転勤されるS氏送別会有志にて 企画し香港カントリー倶楽部で開催のところ惜しむべく中止となりA氏らと結果、城市花園の「自然や」に食す。剥きたての赤貝が美味。白身のきれいな鯛を焙 つてもらひ鯛茶漬け。大風のなか午後八時すぎに帰宅。

農暦八月廿三。秋分。寺島実郎氏が朝日新聞で曰く
1年間で首相が2人辞任する事態なのに、デモもなければ暴動もな い。海外からは、政治が機能しなくても何事もなかったように経済も社会も動いている不思議な国だといわれる。だが、そうではない。重大な国益の損失をもた らしていることに気づいてないということだと思う。冷戦後、各国が戦略を再構築し始めたときから、日本は政治の混迷が続いた。首相が10人以上代わり、外 交・経済ともに構造的な変革に一切手が打てなかった。いま世界で、米国やドルの一極支配と言う人はいない。求心力低下や多極化という言葉でも適切ではな い。無極化、米国なき世界の中で、戦略を議論しなければならない。(略)日本の昨年の食料とエネルギーの輸入額は26兆円にのぼる。自動車、電子部品、鉄 鋼の御三家の輸出額とほぼ同じだ。食料とエネルギーの輸入価格が上がる一方で、国内では次の産業基盤をつくれていない。それなのに、成果の分配の議論ばか りが先行する。どうやって次の世代を価値のある仕事に向わせるか。議論の視線を上げるべきだ。
と。全くその通り。最後に「しなやかで公共性の高いテーマに目覚めた若い人たちが日本を変えていくかもしれない」と結ぶが不幸と絶望の中での微かな漠然と した望みに過ぎない。敢へて具体的に考へれば下手すると平成の青年将校ら率いる革命軍か村上龍の「コインロッカーベイビーズ」的な組織の若者の台頭かし ら。それぢゃ期待より不安よ。

九月廿一日(日)多忙と疲労にて予定のマウンテントレイルに参加も能はず。スーパーで食料品買ひ物の際、一つだけ開いたレヂは行列。隣のレヂが開かうとし て順番的には直近のアタシがそのレヂに並ばうとすると傍らに企つてゐたのがアタシの後ろの客の女房でそのレヂが開くのを虎視眈々と狙つてゐた由。実際にそ のレヂに入つたのはアタシのはうが早かつたので女も不愉快さうながらアタシを睨みながらも譲る。これで済んだが、ふと、かりに苦情言はれたらだうするか、 と考へる。彼女にし てみれば自分はこのレヂが開くのを期待して待つてゐた。さういふ意味では彼女にしてみれば順番をとられた、となる。が彼女はレヂに直かに並んで開くのを待 つてゐた、でもない。さういふ意味では今回はアタシに分ががあらう。がこれが空港のイミグレのパスポートコントロールとなると、よくある光景だがカウン ターが一つ開くと早い者勝ちで列が出来て、当然、自分より後から来た客に先を越されることもある。そこでは「自分の方が長く待つてゐた」といふ理屈も通る まい。で今日のレヂで気がついたことは、此処の空港のイミグレとの違ひは、空港の入国審査では必ず全員が各自旅券を有して審査を通るのに対して、スーパー のレヂの場合は二人だが「レヂでの消費単位としては一つ」といふ意味(うーん、経済学者みたいw)で公平を期す為には二人で2つのレヂへのアプローチは正 しくない、といふことか。いろ/\仕事済ませ午後遅くにFCCで白ワイン二杯獨酌。中環の三聯書店を通りかゝり、ふと香港歴史博物館の丁新豹・前館長が 「香港歴史散歩」なる歴史書(商務印書館刊)上梓を思ひ出し「商務印の本ぢゃ三聯にはないか……」と思ひつゝ店内に入ると混雑で書棚に並ぶ本は叩き売り状 態で、この書肆が家賃高騰で急きょ閉店なのを思ひ出す。残り少ない在庫から慌てて歴史写真集など数冊購入。夕方の尖沙咀に渡り太空館で大島渚監督の映画『日本春歌考』見る。出演は荒木一郎、串田和 美、宮本信子、吉田日出子、伊丹一三と大したものだが60年代の左翼運動盛んな頃に大学生が主人公……ッてだけでつまらない(笑)。ふと思ひ出したが昨日 見た譚家明のドラマ『偉仔』が映画『イルカの日』のテーマソングを借用、思はずちよつと目頭があつくなる不覚。それに比べ「日本春歌考」見てもなぜ彼らに 全く共感もないのかしら。タクシー雇ひ馬頭角に急ぐ。白宮冰室で先に来てゐたА夫妻、Z嬢と軽く夕食。レトロさで最近また脚光浴びるこの食肆も日曜晩はガ ラ/\。今どき冷房のなく、窓が開けつ放しで扇風機がまはり、肆の内装ばかりかトイレまで数十年前のまま。歩いてすぐの牛棚劇場。流山児★事務所の公演「狂人教育」を見る。劇団主宰者の流山児祥さんがブログに 書いてゐるが、さすが寺山が上海異人娼館を撮り昨年は寺山修司のほゞ全作品の映画上映がされるだけの土地柄かマチネ含む5ステージだか100人収容の小屋 で爆満。寺山修司逝去から早四半世紀と言はれると「えッ、もうそんな?」と驚くが舞台はかなり観てはゐるが日本のこのテの芝居は20年前くらゐに唐十郎の テントを観て以来かしら。舞台が始まるまで牛棚のなかでビール立ち飲みで涼を得る。ちゃんとZ嬢が落花生、新潟出身A夫人が柿の種を持参してきたところが 良い。今回の作品は中国系の女優も揃へ「狂人教育」の中国語バージョン。字幕は中英文。言葉の氾濫にさすがについてゆくのがやっと。それにしても狂人の家 庭を舞台に家族がみな自分が狂人とされることを厭ひ家族の中で娘一人を狂人に見立て自分たちは皆同じ動作をすることで集団で自らを非狂人と括る、まさに現 代社会そのもの。寺山修司のこれが初期の舞台作品だと思ふとやつぱり素晴らしい。香港出身の女優、地元での公演の最後で感涙。舞台跳ね小屋の外に流山児祥 さん、照れ性のアタシは目礼で「今日は良い芝居を見せていただきました」と伝へるのがやっと。鳥渡、交通が不便さうだが牛棚の近くから香港島東に向ふ 106系統の路線バスで帰宅。
▼細川護煕君曰く「戦争や貧困、環境、エネルギー、教育など、政治がどうするのか非常に関心があります。でも政局にはまったく関心がない。自民党の総裁選 も興味ない。ただ、ときどき政権交代があるのが国にとってはいいと思いますね」と朝日新聞読書欄のインタビューに答へる。最初から世捨て人か粋人なら良 い。が政局を変へると日本新党なるものつくり首相にまでなつた人の台詞と思ふと呆れるばかり。それなら最初から政治に関はるな、と。この肥後の殿様や青 島、巨泉といつた方々は彼らに投じた票が無駄になるだけ政治家であることにしがみつく代議士の先生方より始末にをへぬ。
▼FT紙の先週末号で同紙の行楽担当のRahul Jacob氏が“The case for mass tourism”といふ記述のなかで昨今の、英国人旅行者の希臘でのご乱痴気騒ぎ(アタシはこの詳細知らず)やベトナムで少女売春で捕まり服役終へアジア での逗留企てた結果、失敗し英国に戻つたミュージシャン Gary Glitter(香港やタイで入境拒否され英国に送還)のことなどに触れ旅先での不徳、乱行続くことで
Paradises are being lost, again and again.
と書いてゐる。だが欧州にとつてのオリエントはゴーギャンやサマセット=モームの時代から、まさにかうしたご乱痴気の時代の賜物なのではないのかしら。

九月二十日(土)快晴。暑さ猛々し。今週終はらずの針仕事済ませ着物屋に届け秋の仕事の打合せもあり眼鏡の修理もして夕方にやうやく時間出来て按摩。昼食 もとつてをらず夕方に天后の華姐清湯腩。店の隅に置きッ放しの布に包まれた物体あり何かと思へ ば 簡易椅子倒して昏々と眠る華姐の巨体。ほとんどガルシア=マルケスの世界だね、こりゃ。西湾河。電影資料館で「熒幕新潮 ─ 譚家明的電視影片」が今日から始まる。70年代の香港テレビ界のドラマ全盛期。譚家明の「これがテレビで?」と思はせる大胆で深刻な映像世界。で1976 年のCIDシリーズ「偉 仔」見る。主人公の若い刑事役は任達華が若大将のやう(いまでもギラ/\に芸能人フェロモン発散してゐるが)。30分のドラマで、これに続き 1977年の「13」シリーズから『弒 父』。脚本が舒琪。 貧困家庭で酒に溺れた父と暮す健気な少女役は陳玉蓮が美しい。父に犯されて、の父殺し。いづれの作品も70年代の香港の市街が、これは彼処、これは此処、 と懐かしいかぎり。もう一本の短編は見る時間なくバスで海底潜り紅磡。鈴木清順の『けんかえれじい』の上映は科学館、と思つて ゐたら紅磡でバス降りて切符を見ると太空館。上映開始まで10分余、歩いてか、バスに乗るか、タクシーに乗るか、土曜晩とはいへ尖沙咀ぢや渋滞も、と思つ て、ふと東鉄(旧KCR)で此処(紅磡)から尖沙咀東に行けるのだッた、と紅磡火車站より1站区間の乗車で21時の上映に余裕で間に合ふ。高橋英樹が旧制 中学の少年演じるのに老 けすぎ、で、それでも実際に22歳と知ると余計に「なんて老けた22歳なのっ!」とおすぎ的に驚くが、昭和初期のバンカラの旧制中学生が喧嘩に明け暮れる のは自由だが映画冒頭の「昭和10年頃」といふキャプションが出ただけで「中国大陸的には」この若者の無鉄砲な、なんの根拠もない暴力がそのまゝ中国への 日本軍の侵略行為と同根か、と思へてならず。まぁ八紘一宇とか大東亜共栄圏とか言葉だけは踊つても英国のやうな植民地経営の青写真や哲学があるでもなく単 なる蹂躙、侵略。とにかく喧嘩がしたい、それも愛するカソリックのお嬢様の手を握るも躊躇し、自瀆をばせぬがための喧嘩、喧嘩。その無分別の喧嘩の行き着 くところが(原作にはなく映画では)北一輝で、高橋英樹演じる主人公・麒六は革命に参画すべく会津から東京へと向ふ。全共闘運動華やかしき当時はこれがウ ケただらうが結局は鈴木清順がどう考へたのか知らぬが暗喩的には「思想の欠片もない」こと。昭和10年といふのはすでに日本の中国侵略の時代で、その頃を 舞台にこの、ただ暴力だけ=純朴も罪である、の日本を中国側でかうして眺めると、いかりや長介的に「やッぱりこりゃダメだ」と思ふばかり。さういふ見方を 除けば鈴木清順の映画らしさ、といふ意味では面白く、北一輝役の緑川宏がやぱり凄い。土曜晩でもきちんと静寂なペニンスラホテルのバーに獨酌。週末の新聞 をぢつくりと読みつゝドライマティーニ二杯。手が新聞のインクで汚れるころに、さっとおしぼり供されたり、嬉しいねぇ。
▼厚生労働省の課長補佐が05年9月の総選挙前日に都内の警視庁職員官舎の集合ポストに新聞赤旗号外を配つたことで国家公務員法で在宅起訴され東京地裁は 罰金刑の判決。被告は国家公務員としての矜恃はあり休日の私生活上での政治活動として思想信条の自由を冒すもの、と考へる。怖いのはこの赤旗の号外配布中 の現行犯逮捕といふ行為。それぢや逆に国土交通省の課長補佐が自由新報の号外配つたり課長が自民党の先生の接待を受けたり、外務省職員が聖教新聞の販拡を 知人にしてゐたら、そこで警察が現行犯逮捕するかどうか。されないだらう。
▼金融危機の今週が終はる。いくつかスクラップの断片。18日のIHT紙でThomas L. Friedmanが There is no such thing as a risk-free return. When you reach too far for yield, sooner or later you get burned. と。今日の同紙には印度はデリーの読者からの投稿“American socialism”で米国は印度や中国の政府による銀行への資金提供を非難したが米国は今まさにそれに必死。社会主義が新だ、なんて嘘。米国で滔々と実 践されてゐる。但しこの社会主義は損失を国に集約し収益を国家が私有化するもの、と(言葉はヘンだが、But this socialism nationalizes losses and privatizes profits. といふこの文意では「国有化」とは異る)。週末を締めくくる記述としてはFT紙のPhilip Stephens氏による“Why global capitalism needs global rules”がお勧め。
Alan Greenspan brushed the evidence aside, courting applause and celebrity as mortgage lenders advanced billions of dollars to people who would never be in a position to repay the loans. I am truly mystified as to why people still listen to the former Fed chairman. For now, the only thing politicians can do is to ensure in so far as they can that just the bankers lose their shirts: that depositors and small businesses do not join the millions of homeowners already mired in mortgage debt as innocent victims.

九月十九日(金)早朝にJ-WAVEラジオ局のTokyo Unitedに5分ほど電話出演で小噺ひとつ。本日も朝、驟雨あり。早晩に中環。 諸事済ませ写真現像受け取り。露出計も使はず勘と言へば聞こえが良いが適当で撮つたM3での写真が思つたより上出来で、さすが写真機とレンズの良さ。八、 九年ほど前にアタシが土曜寄席でまだ弟子をとつてゐた当時の一人、O君が上海の複旦大学での学業済ませ香港で就職活動中。若者の話を聞くつもりがつい/\ 訓を垂れる年寄りの冷や水。今週は殊更疲労感あり一更のうちに帰宅。iTuneで快楽亭ブラック師匠の(ほぼ)月刊快楽亭ブラックをいくつか聞く。

九月十八日(木)朝、驟雨あり。諸事に忙殺され晩に至る。疲れかしら蕁麻疹が両腕に。
▼金融恐慌についてBank of AmericaのKenneth Lewis氏曰く
We've gone from a golden era of banking and financial services. It's going to be tougher. There are going to be fewer companies, and we are going to have to be better at what we do. (17 Sep IHT)
と。だが香港ばかりか倫敦や紐育の新聞も一面で深刻に報道は金融恐慌も然る事ながら中国の有毒粉ミルクの話題。そして金融恐慌では憂鬱で悲壮感漂ふ写真が いくつも並ぶなか新聞に唯一、嬉しさうに笑み浮かべた写真といへば小池某女の総裁選応援にかけつけた小泉三世。この人だけは浮世気分。自民党の総裁選を The NY Times紙は“Campaign for change or political kabuki?”と冷ややかに揶揄。歌舞伎といふよりは狂言のはうが正しからう。
▼歌舞伎で思ひ出したが京劇の「楊門女将」に対して歌舞伎で武将の寡婦、娘が活躍と云つた戦記物あるやなしや、久が原のT君に尋ねれば、と八月末に綴つた が早速その翌日だかにT君より返信あり。浅利与市の妻・板額(はんがく)御前の松ヶ谷御所の門破りで有名な『和田合戦女舞鶴』、並木宗輔作がござんす、 と。怪力無双の板額は、政岡と同じ片外しの大役の由。三段目の立ち廻りでも女らしく手に懐紙を当てて門柱を押すと門が倒れたり、で大成駒がずいぶん昔に一 度だけ、で故・宗十郎が上方でもやつてゐるさうだがT君ですら見てをらず。

九月十七日(水)諸事にかなり忙殺され早晩に至る。北角よりフェリーで紅磡。日本料理「三河屋」にバンコクより来港中のY氏と食す。三河屋のご亭主はかつ て尖沙咀東の名店「葵」のI氏。この三河屋は地元の殊に若い客相手の気軽な一品料理屋。予約など出来ず午後6時半には間口二軒弱の狭い店は曝満。十時くら ゐまで常に数名の客が店の外で待つ大繁盛。カツカレーやらーめんが地元の若い客にウケるのはわかるが意外にも焼き魚定食とか独りで黙々と食す渋い客少なか らず。Y氏との話題は自然と金融危機になる。米国系投資金融の脆さに比べやつぱり欧州系は堅実だねぇ、と。なにせ米国系の多くは大恐慌後の成立で911く らゐしか苦境を知らぬが欧州系だと19世紀のペスト禍すら知つてるものね、と。スイスの投資金融機関なんて下手するとフランスの市民革命すら知つてゐるん ぢやないのかしら。
▼今週はFT紙、IHT紙、信報をぢつくりと読むのが楽しみ。冷静な論調。FTもIHTも信報の曽仁超「投資者日記」もリーマン兄弟再建に公的資金導入が されずAIGにはされたことは、えうするに投資と保険は異るわけで、保険加入者の財産を守ることと年収数億の投資金融エリートの高所得を守ることは別。紐 育など市民の8%だつたかが金融関係に従事で所得は全市民の総額の25%を占めるとか。蘋果日報の陶傑氏曰く
美國政府應不應該出錢救雷曼?首先,什麼雷曼AIG,都是全世界的 金融貴族。太平盛世的時候,其總裁和高級行政人員,天天吃魚子醬、開紅酒、坐頭等機艙開國際會議。然後去地中海玩遊艇,只因為其企業是華爾街的大藍籌,雷 曼兄弟把華爾街、美國,以至全世界,都視同人質。他好景的時候,騎在閣下的頭上享受最高的利潤和薪酬,好了,現在他「周身唔掂」了,反過來向美國的納稅人 伸手,向美國聯儲局撲水呼救。也就是說,這種投資銀行,當規模「發展」到跨國經世的時候,不必負上任何「世界公民」的責任。
投資金融会社の浮れた人たちに神の鉄槌が下つた、といふことで。

九月十六日(火)金融危機。米国の住宅金融不良から始まり投資証券会社の厳しい経営状況はすでに認識されてゐたもので「近い将来いつかは」と予期されたも のゆゑBlack Mondayの如き突然の大混乱には至らず、と思ひたいところ。ただ具体的な破綻がリーマンブラザースであつた、といふこと。なにせアタシも最近5年の積 立完了した投資型生命保険や年金代はりの長期積立もいづれもAIAである(笑)。FT紙は社説“Kill or cure for the Wall Street malaise”で
The world has not ended. The international economy has not yet collapsed. But one thing is now quite clear: the banking system as we know it has failed.
御意。米国経済で投資金融の比重は大手投資会社のバランスシート上の扱ひ高はかつて(いつだか忘れたが)米国のGDPの3〜4%であつたものが今は20% 台の由。異常以外の何ものでもなし。実業不振のなか金融、而も投資といふ「虚業」に依存した、その虚業が幅をきかす経済社会がいかに脆いか。この金融危機 大きく伝へる今日の新聞から2つ。まづはIHT紙のPaul Krugman氏による“Financial Russian Roulette”より
The new system was supposed to do a better job of spreading and reducing risk. But in the aftermath of the housing bust and the resulting mortgage crisis, it seems apparent that risk wasn’t so much reduced as hidden: all too many investors had no idea how exposed they were. (略)
The real answer to the current problem would, of course, have been to take preventive action before we reached this point. Even leaving aside the obvious need to regulate the shadow banking system — if institutions need to be rescued like banks, they should be regulated like banks — why were we so unprepared for this latest shock? When Bear went under, many people talked about the need for a mechanism for “orderly liquidation” of failing investment banks. Well, that was six months ago. Where’s the mechanism?(略)
And so here we are, with Mr. Paulson apparently feeling that playing Russian roulette with the U.S. financial system was his best option. Yikes.
もう一つはFT紙のGillian Tett女史による“Fault lines expose financial system built on flimsy foundations”より
However, most financiers have been so busy creating their businesses that these safety checks have generally been perfunctory. And the people who were paid to monitor the foundations - namely regulators - found that task hard, amid the fog created by the frenzy of construction and innovation.(略)
More important still, mergers and failures are removing some of the excess capacity and leverage that have plagued the financial system. That is a crucial precondition for recovery. Indeed, there is now a good chance that when future historians look back, they may yet depict Lehman's implosion as the nadir of the great 2007-2008 credit shock.
However, before a true recovery can start, there is one more development required: investors must start believing that genuine clearing prices have emerged for the toxic assets sitting at Lehman Brothers (and elsewhere).
And while this week's events might hasten that cleansing process, that crucial moment has not arrived yet, on a wide scale. Too much uncertainty and opacity still hangs in the air, in relation to CDS workouts and much else.
Stand by to see more aftershocks. It could still take many more months before the rubble from a decade of financial over-reach is cleared away.
冷静になるべき。かういふ時に故・月本裕さんならどんなことを書かれるか、とふと思ふ。ちなみにNHKのNW9の「報道」によれば、この金融危機を受け日 銀と政府は会合を持ち「状況を注意深く見守つていく」ことを確認の由。そんなこと誰でもわかる。実際にはマスコミに聞こえないところで具体的な策でも検討 してゐる、と信じたいが……。NW9のキャスターは「私たちの生活にも影響のあることですから何らかの対策が必要と思はれますねつ!」と相変はらずどうで もいいベタなコメント。更にちなみに翌朝の朝日新聞天声人語も(本日は休刊日)
「フー イズ ネクスト(次はどこだ)?」と、ニューヨークの金融 街などは戦々恐々らしい。(略)株や投資に熱心な向きはなほのこと、対岸の火事を決め込める状況では、もうないやうである。
とどうにも悠長。世界で米国に次ぐ経済体でこれぢや鳥渡。
▼ピンクフロイドのキーボード担当のRichard Wright氏が逝去(1943〜2008)。

九月十五日(月)晴。新聞がかなり溜まつてゐたので海岸の木陰で新聞読み。さすがに中秋も過ぎて陽ざしも厳しからず風も心地よし。午後遅く湾仔に寄る。一旦帰宅し て早晩に筲箕灣。所属するランニングクラブ恒例のお月見トレイルで石澳は龍脊。雲一つない空に見事な満月。雲一つない空に浮かぶ月、石澳の海は静かで月の 光が水面に揺れて、そりやとても幻想的。持参の缶ビールとブランデーをポケットボトルに忍ばせ月を愛でつゝキュッとひッかける。極楽/\。土地湾のはうに 龍脊から下る足下は浅酔でちよつと覚束ず。筲箕灣の越華會で遅めの夕食会。この食肆も訪れるのはすつかり年に一度、月見の帰りだが味も手頃な値段もサービ スも文句のつけやうなし。
▼本日、今季の競馬開催。本日のメインレース・行政長官盃(芝、1200m)のみ祝儀で賭ける。二番人気のEnthused(Size厩舎、whyte騎 手)の単勝、これからScintillation、Norman Invaderに流したらEnthusedが期待に応へ二着にはScintillationが入り4番人気の8.2倍で配当は期待以上の21.5倍。あり がたい。これで次の競馬は12月の香港国際かしら。

農暦八月十五日。中秋。十三年ぶりの暑さの中秋の由。朝八時に坑口。上海より来港のI氏ら五人で待ち合はせミニバスで西貢、タクシーで北潭涌。マクルホー ストレイルの1段と2段、25kmを歩く。暑いがすでに秋風が爽か。最近は毎年1度とはいへ、かうし て続けてゐると西湾山や大浪湾の峠越えなどもあまり苦にならず。西湾の海岸は知己の店が閉業して久しく海岸沿ひの一軒のみが店舗拡張で大賑はひ。大浪の集 落で水を買ひ求めた店も閉業。郊外の山あひ、海沿ひの集落の過疎化止まることを知らず。すでに無人村となつて久しい赤徑の村で廃屋、屋根も崩れた家屋の中 を見ると、崩れ落ちた瓦礫の中にどうみても棺が一つ。生前にお棺を誂へ屋 根裏にでも置いてゐたのが当人は離村して亡くなりお棺だけが廃屋に残され家屋が朽 ちてお棺が落ちてきた、といふところか。西貢に戻り、どうやらこゝもまた営業権が変はつたのか客層まですつかり変はり曾ての常連の姿なきThe Dukeにビールを飲み喉の渇き癒す。食事に行く同行者と別れ腹の足しに龍記桂林米粉で米粉を食す。この龍記も創業の家族とは異るヲバサン二人が切り盛 り。なんだかずいぶんと様々なものに変化あり。バスと地下鉄乗り継ぎジムで一浴し帰宅。Z嬢と東の空に上つた中秋の名月愛でつゝ北角の「札幌」にらーめん 食す。こゝはご亭主も息子もそのまゝ。Z嬢と別れバスで尖沙咀東。科学館で鈴木清順監督の映画『刺青一代』見る。清順映画で初めてみる作品。コテ/\の仁 侠映画、のやうだがどこかやッぱり清順ワールドでちよつと異質。日活の上層部が「わけがわからない」と思ふのも当然か。乱歩のやうな不気味な赤い靴の男、 そ の後の『ツィゴイネルワイゼン』に繋がるであらうカット割りなど散見されるのが面白い。美学生の弟(花ノ本寿)可愛がる仁侠の鉄(高橋英樹)のまぁ惚れ/ \する二枚目ぶり、で二人を庇ふ現場の組の頭を山内明が好演。松尾嘉代のカフェの女給、ワキを固めるのが小松方正、高品格、野呂圭介等々。ところで日本で なら素性怪しき連中が「満州に渡り一旗揚げて」も聞き流せるところか、ただそれがかうして大陸側で見てゐると「満州に渡り」がこちらにしてみれば「まった くもって迷惑千萬」な話で、いかに仁侠の鉄がナイスガイでも「お願ひだから大陸に渡らないで」と思へるから。中秋で繁華街に繰り出す市民多し。

九月十三日(土)晴。多少宿酔気味で昼前にジムのサウナ。散髪。土曜午後だといふのに会合一つ。尖沙咀。上海より旧知のI氏来港でランニング関係の知人で 食事でも、とIndia Placeで印度料理。だがI氏からまだ広州で香港に至らず、と電話ありZ嬢含む香港組5人でお食事。恐ろしい睡魔に襲はれ一更のうちに就寝。

九月十二日(金)夕立。島南の春磡角にお住まひのH夫妻の豪邸にA氏夫妻共々招かれ夕餐。氏のレクサスでお迎へいただく。春磡角から遠く南Y島眺める豪邸 の駐車場には週末用のフェラーリとマセラティ、奥様の車も。まづは、とDom Pérignon2本、Z嬢来る頃にVeuve Clicquotのロゼ、葡萄酒は氏の愛飲するSassicaiaが2本、ポン/\と抜栓され次はCh. Pichon-Longueville Comtesse de Lalandeの1988年が控へてゐたが食事も終はりウヰスキーですかね、と出てきたのがThe Balvenieの1973年のヴィン テージカスク。ハバナの葉巻も美味くていつたいどうしませう、つて感じ。日付変はる頃にお開きとなり氏のレクサスで(勿論、雇ひの運転手に)送られる。

九月十一日(木)晴。晴れ空続き高温でフィリピン沖から琉球に向ふ台風の影響でフェーン現象。無風で大気汚染甚だし。市街歩けば呼吸厭ふほど。晩に秋刀魚 焼いて食す。阪神が今夜も左様なら勝ち。復帰の今岡が頑張つたね、なんて珍しくプロ野球、もあまり興味もないが阪神が勝ち巨人が負けるのは嬉しい限り。小 学生の頃、巨人軍と自民党が当たり前な地域社会でアタシは野球は村山と田淵の阪神、政治は矢田部理さ んの社会党が贔屓だつた。
▼本日、911。当時はそりや動揺もあらうが「テロとの戦ひ」だのあれだけ大騒ぎした米国で今年の大統領選では負因、小浜の両候補とも「テロとの戦ひ」に は触れず。やうやく「テロとの戦ひ」の虚構性に気づいたか、それにしても米国人及び盲従者らにそれを悟らせるためにいッたいどれだけの人命が犠牲になッた か。911の紐育WTC大廈での犠牲者数の比ではあるまい。ブッシュ君のテロとの戦ひが間違つてゐたら当然、それを支援したブレア君だの小泉君も戦犯だ が、その小泉君は今回の自民党総裁選につき「5人の候補者の全員が小泉内閣の閣僚だッた。だから私も今の時点で誰をと言ふのは鳥渡、躊躇してる。北島康介 選手ぢやないけど、今のところは『なんも言へねえ』」と大はしゃぎ。幼稚極まりなし。ブッシュ、小泉といへば日曜日の朝日新聞(国際衛星版)で劇場国家論 の山崎正和先生が「現代は虚の政治テーマを作りうる人物だけが強いリーダーになれる時代だ。小泉さんは特異な才能の人だつた。今ふりかへると郵政民営化な んて大して重要な問題とはいへない。しかし当時、彼が「抵抗勢力」といふ敵を作りだし「闘ふ」といつたら、国民が熱狂した。彼は演出家であり俳優だッた」 と。「今ふりかへると」なら誰でも言へること。山崎オトーサンが評論家なら「当時」それを指摘すべきで小泉三世を演出家であり俳優だつたと四半世紀相も変 はらず劇場国家論で証言するのなら「彼は三流だが大衆芝居で見事に庶民受けする」演出家であり役者だッた、とくらひは言へないものか。この山崎発言と並ぶ のは「抜本改革には政権交代」と榊原英資氏。この人も旧大蔵省で間接的であれ(本人にとっては日本経済のため、なのだらうが)しッかり自民党政権支へ続け 退任したら民主党親派。「テロとの戦ひ」といへば自民党総裁選では石破君が今日の街頭演説でも「人はみんな911のことをもうすッかり忘れてゐる。テロ は……」と相変はらず、米国ですら大統領選挙でこの言葉がタブーなのに、全然お構ひなし(笑)。北朝鮮の重病説も流れる金正日氏は、とNHKの報道番組は 「西側の重病説に対して北朝鮮のテレビニュースは金正日主席が「シリア大統領に祝電を送つた」と動静を伝へてをり」と。本当にNHKは(民放は見られるの で知らないのだが)本当に真ッ当な思考回路があるのかしら。代表者名で電報送ることなど国ばかりか会社でも日常茶飯事、それを代表者の「動静」と言ふ、そ れほどの馬鹿たちが報道番組に携はッてゐるとは……。NHKと言へば気象情報で台風が石垣島に接近、と。明らかに台湾北部も暴風雨域。台湾でいッたいどれ だけの人がNHKの放送を見てゐるか、と思へば気象情報で台湾にも言及すべきだし、場合によつては受信料徴収すると日本より支払ひ率高い鴨。
▼何だか知らぬが宇宙のブラックホールの謎を解き明かす米国の実験で日本も138億円拠出。中国は北京五輪終はり国民の燃える躍動を、と今度は今月中に三 人載せた有人宇宙船だとか。単純に、カネは年金対策だの貧困解消にまはしや良いのに、と思ふ。

九月十日(水)晴。晩に久々に陋宅にて北角市場の嘉美鶏で親子丼を食す。
▼タイの首相、首相就任後にテレビ料理番組出演で5千バーツ(約1.6万円)受領につきタイ憲法裁は「雇用に当たる」と認定し閣僚の兼業禁止規定する憲法 に違反の判決で首相失職。この憲法裁がいくらタクシン政権崩壊の元凶となつた軍クーデター後に軍指導に よる暫定政権で任命された裁判官多く反タクシン的な色彩ありといへど先月タクシンに「民主主義への国へ」と英国亡命させただけの徹底した司法の正義。とこ ろで先日までタイの政治紛争、まるでバンコク市中が暴力沙汰のやうに報じた日本のマスコミは、この料理番組出演の5千バーツで首相失職といふ平和裡の動き に対して、当時の煽動過剰報道の誤謬をどう謝罪するのかしら(日本の馬鹿なマスコミにそんな良心などないだらうが)。
▼連日、張五常教授のことばかり綴つてゐるが、昨日の信報に五常教授が「最近、北京五輪のことばかり書いてゐたので」と「朝鮮必放説」と題し北朝鮮の経済 成長について語る。五常教授曰く、北朝鮮にとつて開放改革は容易、と(将軍様の健康状態についてはこの論では考慮してをらず)。五常教授、大胆にも、北朝 鮮は国民の生活が困窮し自由も制限されと言はれるが金正日の指導力は確固たるもので(評価は別として、だらうが)都市の清潔さや秩序、金日成・正日父子へ の信望など見れば、中国が(一党独裁と文革で疲弊した体制から)一気に経済改革を実施し経済成長を遂げたやうに「秩序のある国家は経済改革にも有利であ る」と指摘。さすが智利のピノチェト政権に加担したフリードマン先生の直弟子、とこの五常教授の大胆な、言ひ換へれば非常識とすらとれる発言には驚くばか り。だがこれを「馬鹿/\しひ」と言ひ捨てられぬのは、日本もさういふ意味では明治の近代国家化も戦後の経済成長も「清潔さと秩序」ではこの説に該当する だらう。最近つとに神がかりな五常教授のこの言を正確に言ひ換へれば、要するに「集団主義国家は国家主導による経済改革が容易である」こと。さう言はな い、言へない?、で北朝鮮を逆説的に評価してみせるところが五常先生の奇才、ある意味、変人ぶりなのかしら。

九月九日(火)晴。早晩に北角。北京より来港中のDazhao君と食事でも、と北角 のホテルで待ち合はせ、こそ/\と最近調達の、感染の怖いブツお見せしたりしてから城市花園の「自然や」。この食肆はかつて香港芸能人ご用達で名を馳せた 順寿司なり。当初の順寿司のご亭主急逝から早十年。こゝにこの「自然や」開かれたご亭主は天后の「利休」に長く厨房を任された方で当然の如く利休のあの好 評の酒肴、うどんなど踏襲が嬉しいところ。Z嬢来てDazhao氏とは鉄道だの路線バスだの、とかなりディープな話題が続く。ベトナムの鉄道列車が中国か らの払ひ下げか?といふ問ひにDazhao氏曰く、あれはかつて昆明とハノイを結んでゐた国際列車(ハノイから見れば紅河を遡りラオカヒが国境)で現在は 貨物だけで旅客営業なく、その車輌を国内特急に転用したものでせう、と。ちなみにベトナムの鉄道線路は日本の狭軌より微妙に狭い1mゲージ。これはフラン ス基準。で中国国内は広軌だが昆明までの鉄道はフランスが敷設のため1mゲージの由。勉強になる。
▼先日、張五常教授の信報での文章で卓球について五常教授が香港出身で中国で活躍の卓球選手・容國團についての思ひ出を語つたことはこの日剰にも綴つたと ころ。先週末の蘋果日報に李怡氏の「乒乓三傑」と題して1950年代の「内地」の傑出した卓球選手三名の半生を紹介。新興中国が世界のスポーツ界に進出す る記念碑的第一歩は1959年に容國團による西独逸はドルトムントで開催の第25回国際卓球選手権大会で金メダル受賞。これに続き中国は卓球王国として世 界に君臨し対米ピンポン外交に至るのは周知の通り。文革は卓球界にもその影響あり。文革前夜、徐寅生なる卓球選手による卓球論は毛沢東思想の卓球への活 用。といつても卓球で打ち返す時は球を蒋介石の脳袋が跳ねてゐると思へ、といつた他愛ないものだが、これが毛沢東の目に留まり称賛を得たの云々、と。だが 文革が本格的に始まれば体育界にも反革命分子打倒の波押し寄せ体育界の重鎮も次々と拿捕され、卓球選手でも国民党の三青団の特務とされた傳其芳は1968 年4月16日、その一ヶ月後には日本のスパイとされた姜永寧、6月20日には修正主義分子とされた容國團と三人続けて首を吊り命を亡くす無惨。祖国に貢献 の優秀なる卓球選手らの国家による悲劇。

九月八日(月)晴。昨日の立法会選挙開票結果早朝に出る。港島区は公民党の新顔・陳淑莊が早々に当確、続き親中御用政党民建聯の曾鈺成、保守派の葉劉淑 儀、何秀蘭が善戦し四着、民主党はやうやくマーチン李柱銘引退を襲つた甘乃威が当選、で最後の1議席を公民党が2議席目獲得し党魁・余若薇が当選。前回、 泛民主派の票読み間違へで漁夫の利を得た福建女王・蔡素 玉は葉劉淑儀の保守票取り過ぎが災ひし落選。民主党長老の楊森も港島区で民主党二議席は昔の話で落選。港島区にては泛民主派4:保守派2、の均衡辛うじて 崩れず。新界東区で苦戦とされた現職の「長毛」梁國雄君当選。天晴れ。退潮明らかでかなりの議席失ふであらうとされた泛民主派、結果、1議席減の23議席 確保で立法否決に必要な三分の一(21議席)を維持。民建聯は議席こそ1増、13議席で依然最大与党であるものゝ土共、親中派団体の組織票頼みで「これし か取れない」為体。財界基盤の自由党は直選制に4人が立候補、現職含め当選なし、で風前の灯、ッてもう灯火は消えた、か。香港の政局は依然、親中派が安定 多数には遠く泛民主派も中央の嫌ひ受け「市民の良識」の保険か鎮痛剤の如く三分の一の議席確保が精一杯。均衡がとれてゐる、と思へばその通り。然れどこの 均衡は北京中央からすればまだまだ不安定(笑)。普選実施はまだ/\難儀かしら。晩に銅鑼湾。某メーカー香港現法社長の某氏より招飲のお誘ひ受けタイ料 理。その某社の製品につき利用しての感想などお話しして逆に貴重な話も拝聴。たゞいちばんお伝へしたかった事はその某社の香港のカスタマーサービスの電話 と窓口の対応の良さ。お世辞にあらず格別なもので是非、顧客の満足を現場にお伝へください、と某氏に請ふ。「そごふ」の旭屋書店にてカメラ雑誌受け取り バーSにほんの一飲して二更のうちに帰宅。カメラ雑誌は二誌ともニコンのD700特集。これがまだニコンでもFシリーズの時代なら雑誌で取り上げる情報価 値高かれどデジイチとか「きれいに撮れて当然」なのだから、それをいち/\記事にして頁を割かれてもつまらない。
▼週末のIHT紙に(紐育時報の社説転載で)“Will the real McCain please come back”といふ主張あり。一読に値す。基本的に民主党支持の同紙が共和党リベラルと しての負因氏への支持とまでは言はぬがリベラル的奮起促すのは小浜候補への一抹の不安か。だとすればアタシは同感。さう言へば、と思つてスクラップ漁れば The Economist紙も“Bring back the real McCain”と題した論説(8月30日号)で負因候補に対してブッシュ路線からの決別での奮闘期待。米国での小浜 候補への支持があまりにも容易なポピュリズムであることへの憂慮よね。

農暦八月初八。白露。快晴。朝のうちに立法議会選挙投票。前回四年前の選挙にて民主党の二議席確保困難の「急告」につい踊らされた結果、僅差で何秀蘭候補 (公民党)落選させ民建聯の蔡素玉当選させた粗忽票のうち一票が私のもの。で今回は無所属で立候補の何秀蘭候補に義理もあり。香港大学の民意研究計画が出 口調査実施中で親切に答へてあげるが出口調査の結果が投票時間中早い時間に出ることで投票傾向に影響大きいと問題視され今年は大学もメディアも投票時間中 の調査傾向の発表はなし。結果的にこの調査の回答率は前回までの実績大きく下回り5割の由。今後の実施継続も再検討、と。本来、世論調査であるはずがどう も香港大学のこの民意研究計画は主任の鐘先生のやり方に厳正中立と言ひつつ世論流動への方向づけに意図的なものを感じざるを得ず。同時に民建聯による出口 調査も票の動向見つゝ夕方以降に組織票でのテコ入れに利用されるため、これも中止。投票済ませ中環。来港中のY氏、旧知のP君らとフェリーでランタオ島は 梅窩に渡る。長沙の海岸のStoepにて軽く昼食。下長沙の海岸など八月にふらりと訪れた黄金海岸同様に(といつてもこちらは天然のはず)すつかり砂が潮 に渫はれ浜辺は狭く海水浴場が岩場と化すのを眺める。午後遅くバスで昴坪。東涌から地下鉄で香港の市街に戻るのに乗り物好きのY氏の発案で昴坪からケーブ ルカーで東涌に下らう、といふ嗜好。ランタオ島のトレイルも歩く機会少なく何年ぶりか、の昴坪は少なくてもケーブルカー開通後初めて。土産物屋並びすつか り陳腐な観光地化。ケーブルカーは眺めこそ確かにダイナミックだがゴンドラは峠で別のケーブルに乗り換へ(乗客が乗り換へる、ぢやなくてゴンドラじたい が、である)空港近くでは別のケーブルに今度は直角で乗り換へ、とこれぢや運行技術上の困難で運転中断や事故があるのも当然か、とへんに納得。東涌から地 下鉄で尖沙咀。尖沙咀に遊びY氏の所望で潮州料理、金島燕窩海鮮酒家に食す。香港に長年住み「どこかお勧めのレストランあります?」と尋ねられて鏞記だ の、金島だの、と旅行者でも香港に慣れぬ方でも最初に行くであらうような食肆にお連れすると「えつ?」と思はれようが、あちこち奇を衒つた食肆を訪れても 味がイマイチだつたり給仕の態度が粗忽、或いは慇懃無礼であつたり、で結局かうなる。

九月六日(土)曇。昼に驟雨あり。寝室洗面所の換気扇毀れ取り換へ。動かなくなればテスターで電気は間違ひなく流れてゐるか、接触はだうかしら、と調べ換 気扇ぢたいの故障と確認して代替品購ひ自ら取り換へ……と香港に住んで多少の水電工程は業者に頼らず済ますやうになりぬ。昼にZ嬢と湾仔の伊太利料理 Al Dente に食す。従業員は厨房も含めネパール人ばかり。親切で陽気。ネパール語の響きはどこか東欧にも通じるところあり洋食屋にて耳障りに ならぬ。香港芸術中心で夏の映画祭の市川崑監督特集で1955年の日活映画『こころ』見る。漱石の原作にかなり忠実だが、あの小説が映像化されると崇高な 「はず」ものがバタ臭さあり。「先生」役は森雅之。さすがに40代での大学生役は、鳥渡。「梶」役の三橋達也が魅惑的。音楽がうるさいのは市川崑の当時の 特徴と言つて良いのかしら。二人が夏の避暑から戻つたあたりでZ嬢残して途中で小屋を出て西湾河に急ぐ。香港電影中心にて「日 本電影新浪潮」と題して戦後のニューウェーブ映画特集。中平康、増村保造、大島渚、篠田正浩、新藤兼人、今村昌平、吉田喜重、浦山桐郎、勅使河原 宏、鈴木清順の二十数本を今月三週間で一挙に上映、と大した企画。昨日の信報に「在日本社會的浪尖迴響」とこの戦後ニューウェー ブ映画特集に関する優れた評論があったが(小偉といふ書き手)折角の特集なのに上映が各作品たッた一回といふのがまことに残念、と指摘ある通り。大島渚の 『愛 と希望の街』見る。今更その筋を語る必要もなく川崎の駅前で少年(正夫)が鳩を売る場面から鳩が京子の兄(渡辺文雄)に猟銃で撃たれる有名な結末 まで、もう何度か見た映画だがやッぱり面白い。明治の帝大出の知識人のプラトニックな愛と苦悩描く漱石の「こころ」よりアタシはやッぱり素直に戦後の貧し さに基因する不条理を描いた後者の方が語る必要性を感じて評価する。主人公の正夫役の藤川弘志は出演映画は生涯この一本だけだが改めて見てゐて台湾の作 家・白先勇(の若い頃)にそッくりなのに驚く。この作品が「面白い」と言へば、映画を観てゐて思つたが、加齢臭充満の今日の観衆、隣席の婆アがこれが時々 笑ふ。この社会派映画で、だ。可笑しい場面ぢゃなくても香港の観衆がよく笑ふ、これがアタシにも今だに解せない彼らの習性なのだが、ふと今日思つたのは、 あの笑ひはアタシとは明らかにOSが違ふが、「可笑しい」のではなく、例へば悲愴な場面も含め「期待してゐた展開」になった時の「待ッてましたッ〜!」で あるとか悲哀が「そんなバカな……」と同情した時にもう笑ふし かないやうな心のやり場の無さ、であるとか、どうやらさういふ時に彼らは笑ふらしい。この大島作品は香港でいへばRTHKの社会派テレビドラマの「獅子山 之下」。貧しい時代だったが人々の心は美しかッた、と。続いて本日三本目は増村保造監督の『か らっ風野郎』。これは今日の三本の中で唯一初見の作品。三島由紀夫主演のこのヤクザ映画を香港で見られるとは。噂には聞いてゐたがマッチョのやう で貧弱な体躯の三島の下手だが実に楽しさうな演技ぶり。船越英二がその後の芸風からは想像できぬ、あんなニヒルなインテリヤクザ兼トルコ風呂の支配人役。 脇を固める役者がみんな上手いから余計、三島が浮くのはご愛嬌。老ヤクザ役の志村喬も良いが何といっても主人公を狙ふ殺し屋「ゼンソクの政」役の神山繁の 性格俳優ぶり、が絶妙。三島の出演映画はこれも「憂国」も、何よりも日本青年の生人形役で出演の「黒蜥蝪」も言ひ包めればファンタジーといふジャンルなの だらう。香港でこんな邦画三昧終はつて中環に急ぎ東京より来港中の旧友Y君と再会。Y君は1996年まで某銀行の駐在員で在港の人。鏞記。珍しくフカヒ レ、鮑なんて食す。葡萄酒はPouilly-Fuisséの07年。アタシの周りにはこんな人ばかりだがY君もスターアライアンスのゴール ド?の会員権獲得のため年間50フライト搭乗に「修業」が必要となり三月だかに一泊二日で羽田-福岡-対馬-福岡-福江-福岡(泊)-伊丹-羽田だったか で回数稼ぎの由。社用の出張ならまだしも個人となると国内線で回数稼ぐには年間50万円くらゐ最低必要なのだらうが「大学生になつた息子の授業料とかに比 べたら安いのかね」と話してゐたがよく/\考へてみれば小学生の年間の進学塾の費用程度なの鴨。
▼FT紙の週末版の看板連載となったTyler Brûlé氏のThe Fast Laneを読んでゐて思ふのだが、これつて21世紀の今の最先端のトレンドなのだら うが(少なくても本人や周囲はさう信じてゐる)田中康夫氏が東京ペログリ日記で1980年代から、すでにTyler Brûlé氏が今、関心をもつ東京なんて先取りしてゐたわけで、書かれてゐる事象はほぼ全て同じなのだが何が違ふか、といへば Tyler Brûlé氏のそれには残念ながら「批評精神」に欠けること。

九月五日(金)曇。驟雨あり。晩に夏の映画祭でHappy Fo Luckyなる映画見るつもりが鳥渡、風邪気味。歩いてゐると耳の平衡感覚の所為か元々苦手な傾斜のある地下道で眩暈続く。こりやたまら ん、と早晩に帰宅。
▼八月末の旺角の高層ビル火災で救助作業中に亡くなつた二人の消防隊員。気の毒だが香港の、その栄誉讃へる畏れ多き公葬と追悼の態。葬儀館には香港政府要 人参列し葬儀館から搬出のご遺体を霊柩車に載せるところで更に儀式、葬送の列は旺角の火事現場でネーザン道の車輌通行止めにして路上で更に儀式、遺体は最 後、公務中に殉死せし英霊祀る政府公墳に運ばれ更にそこで最後の葬送、で土葬。それぞれの場所に正装の消防員や公務員が集り、警備や交通規制などの警官な どまで含め、いったい何千人が、二人の警官それぞれ昨日と今日にこの大々的な儀式で動員されたのかしら。公務で殉死の故人への慰霊は勿論あらう、がこの規 模と格式となると葬儀はもはや慰霊の範疇を越え、その権威といふ装置の「死を光栄なものに転化する」作用そのもの。
▼米国大統領選挙は遠い昔に冷戦といふもの終結し敵は反米テロに収斂され実際の問題は破綻せし国内経済、で共和、民主の両党も具体的な政敵欠した結果が小 浜君なら
Friend -- Why would the Republicans spend a whole night of their convention attacking ordinary people?
といふ抽象的な語りかけとなり共和党の負因君の自分は自分のためでも国家のためでもなく「あなたのため」の政治を行ふといふ演説の口調はどこか軟らかさ。 負因君の口調で小浜君のこの Why the Republicans spend...を読むとポール柴門のやうに聞こえるから。

九月四日(木)曇。「ありがとうございました。福田康夫です。」とメール届く。昨年九月の首相就任から今日までホント面白さに欠けるメール続く。
日本の古人の好んだ言葉に、「永遠の今」という表現があります。「過去のものは古い と蔑み、今のものは新しいと愛でる、しかし今の新しさが真に新しければ、その新しさは必ず時間を貫いて、いつまでも新しい。」 1万年前の人類は、今と全 く同じ太陽を見ています。海辺へ打ち寄せる波は一つとして古いものはなく、常に新しい波です。千数百年前の日本人と今の日本人は、今も昔も変わることのな い、常に新しい伊勢神宮を見ています。太陽と海と伊勢神宮、この三つは、宇宙、自然、人が創ったもの、この違いはありますが、永遠の今です。私は、政策を 立案する際、この「永遠の今」を想ふうことがありました。
ともはや神懸かり。晩に商店街の集りあり末席を汚し談義、懐石料理いたゞく。会に参加の知己のお二人とバーYで鼎談。三更に至りバーSで独酌。
▼神懸かり、といへば経済学の奇才・張五常教授が二日の信報に寄せた「窮孩子的玩意與日本妹的前途」も出色。關愚謙さんと同じく北京五輪に関して欣喜雀躍 で信報に綴り続けた五常教授、とくに卓球に関する二度の寄稿に称賛とともに「教授が卓球?、何処までわかつてゐるのか」と懐疑もあり。五常教授それに答え るは、1951年のある日の黄昏、西湾河の太古ドック埠頭(現在のTaikoo Place)の工人倶楽部で五常教授がぶり/\いはせながら卓球で遊んでゐると隣の卓球卓にちよつと珍妙な動きで卓球する少年あり。そいつに何度か基本を 教へてやつたが三ヶ月もすると、その少年は自分を打ち負かすほどに。で親友になつたこの少年こそ後年、中国卓球で中国全土に名を馳せた容國團(1937〜 1968)。で西湾河の貧民区にそだつた自分たちの少年時代の話しから始まり「福原愛現象」について。五常教授曰く、先日「福原愛現象」に言及したら(8 月26日の信報)自分を嗤ふ反響、ネット検索で探れば凄まじいものあり、と。で教授復た、福原愛は誰が何と言はうと自分は彼女が幼い頃から今の今までずつ と、あの笑顔絶やさず、が可愛いのだ、と誉めちぎり。問題はあの活発さ、朗らかな心をずつと持続することがいかに難しいか。しかも卓球だけでなく流暢な中 国語といひ芸術への関心といひ、福原愛チャンは教授にとつて永遠のアイドル。で今度は自分の書法の話となり福原愛チャンも書道を嗜めばきつと立派な書家と ならう……ともう何が何だかわからない気持ちの高揚。すごすぎ。
▼タイの政変でニコンなど企業は「不要不急の出張は控へる」やう通達、つてSARSの時もさうだつたが、そも/\不要不急の出張なんて最初から出張しなけ れば良いのに。

九月三日(水)築地のH君から聞いたが今朝の下らないワイドショー、総裁候補として名前上がるのが麻生太郎、小池百合子、野田聖子、石原伸晃……とほとん どお笑ひ番組。H君指摘の通り自民党の人材不足の極み。小 泉三世が自民党をぶッこわして、の賜物。順当にいけば、加藤紘一、山崎拓、亀井静香、高村…あたり「派閥の領袖」が総裁選に立候補すべきところ。これらの 人なら「総理になッても簡単には辞めない」のだらうが安倍や康夫チャンだと「人からつけてもらッた地位」だから淡々として地位に執着もなし。美徳か (嗤)。安倍三世の力量不足は当然として安倍路線否定、軌道修正するために登場したはずの康夫チャンまで同じ辞め方をした末に、その後継が麻生、小池、野 田、石原ジュニアぢや、どうしやうもない。で興味深いのが石原慎太郎の「森君がやればよい」。石原にしては卓見、「最大派閥の領袖が本格内閣を組織する」 といふ本来の(といふかそれしかない)自民党のあり方ですよ。初心に返れ、と。H君の見立ては自民党としては本命は麻生としておいて、その本命を国民的人 気の伏兵小池百合子が破り、その勢ひで解散総選挙。この、森の後に小泉が登場したパターンで一挙、期待回復ッて、もう飽き/\だし手詰まり感あるが良識あ る国民の皆さんがこれに応へさう。それに比べ石原の森擁立論は「国民的人気」を敢へて無視して憲政の常道に復したところが新鮮か。そも/\考へてみれば、 森さんが首相になッたことがそのあと小泉、安倍……と続く「迷走の平成」の始まり。そのスタートまで戻してみる、は卓見か(なにせ森さんの。前任者は二人 もう他界)。だが石原都知事はほんとは自分が一番、首相になりたいのかしら。息子の名前が挙がり「冗談でせう」と吐き捨てた石原さんは「本当にいま/\し さうだッた」由。内心は「伸晃より俺だろ!」か。かうして考へると石原が都知事でゐることは不幸中の幸ひ、もし無役の陣笠代議士だッたら間違ひなく総理候 補の一人なのは「国民的人気」ゆゑ、今や「テレビに出て一般の人気はあるが、党内に基盤がない陣笠代議士」であることが総裁候補。さう考へると石原さんを 都知事に選んだ東京都民に我々は感謝すべきか。
▼蔡瀾さんが蘋果日報で数日前に二日に渡り「杭州菜」と題して述べるは最近、某雑誌でご本人が「杭州酒家は天香樓に遜色なし」と語つたとされるのは誤解招 く書き方で、と。湾仔の杭州酒家が人気なのは、その手頃な価格、とピシャリ。この食肆のオーナーシェフの父親が天香樓の主厨18年務めた御仁で引退後、息 子の開業扶け、であるから蔡瀾氏本人も湾仔での開業に出向き求められるまま揮毫もした、と。但し杭州酒家は依然評判だが「進歩がない」といふ意見もあり。 一理あり、は敢へて言へば……と前菜から醤鴨舌、東坡肉、煙燻大黄魚から炸臭豆腐に至るまで杭州酒家の天香樓に至らぬ点を綴る。天香樓は創業主も老い肆に 現れぬやうになり久しいが、後継の娘が奮闘、と誉める。杭州酒家初めて訪れた際に「吃得開心」と揮毫したが、もし天香樓に一筆求められれば即、「天下第 一」と認めるだらう、と蔡瀾氏。杭州酒家には手厳しい、が的確な評価。ある程度の常連の一人としてアタシも、いつまでも「父は、父は」と言ふな、と二世首 相、ぢゃなかッた二世シェフの甘さを感じざるを得ず。

九月二日(火)曇。この日剰の月初更新してゐて見ればベトナムで築地のH君よりのメールで福田内閣改造を知つたのが八月の月初。で一ヶ月でこれかと思ふ と、やはり安倍的な突然の辞任に比べ、今回の福田式はどうも策略ありの、下手するとプーチンの虎退治よりサプライズがあるやうに思へてならず。……と言ふ とそんなに福田贔屓?と嗤はれさう。晩のテレビニュース見て思ッたが自民党の先生方といふのは、なぜ「すわ総裁選」となると、かうもいき/\する生き物な のかしら。あの精気、覇気……結局これが好きで政治家やッてるのでせうけど。下品極まりなし。昭和の初めも政治家が本来の道義忘れ政治ゲームに現つをぬか す中で「昭和維新」になッたわけで国民が政治家に何も期待しなくなッたらお終ゐ。下手な政治取引きより「そのままんま東」首相擁立でもしたはうがよッぽど お国のため鴨。NHKのNW9は番組冒頭からその慌ただしい自民党の動き映像で伝へ、しばらくして飛び込んできたニュースが露西亜系力士兄弟が尿検査でマ リファナ陽性反応。どうでもいい、ッて。でも自民党の馬鹿/\しい総裁選びや民主党の「憲政の常道で野党に政権譲渡で選挙管理内閣のもと衆議院解散、総選 挙を!」より角界大麻疑惑の方がよッぽどニュース性ありか。一人の力士が財布を落として、のきッかけでとんだ大騒動、ッてのが面白いし、その力士が角界追 放されてもまだ一服つけてゐた仲間力士がゐた、ッて性懲りのなさ。大麻もこゝまで注目されると新聞にも大麻と他の麻薬の違ひや大麻関連法の詳細など紹介さ れるが「所持、譲り渡しや譲り受け、栽培は禁止だが、使用の規定なく吸飲の罰則もなし」ッて、これは珍問奇問で愉快。隣の友だちが一服してる煙を吸ッちま つてハイになッた場合はOKなのかしら。でニュースは福田辞任と総裁後継者選びに戻るが、NHKのニュースも「民主党の鳩山幹事長にお話をお聞きしまし た」とかの馬鹿ッ丁寧さが気になるし、鳩山君も「憲政の常道、憲政の常道」ッて、ありゃ明治の旧憲法下で政党政治がまだ未熟で不安定な時代、の産物で慣例 にすぎぬのに(さらに戦後は自民党が党内で「憲政の常道」で政権たらひ回しを継続してただらう)、そんな常套句を繰り返すばかりぢや、やッぱり民主党も力 不足と思はれても致し方あるまい。「町で聞きました」の国民の声も政治不信、懸念ばかり、だがそも/\こんな自民党に安定多数を与へたのは誰? 小泉郵政 解散総選挙での、その誰彼には今の政治不信を語る資格があるやなしや。
▼タイ王国の政変。首都バンコクでは激しい衝突が続き、と生々しい暴力場面の画像、非常事態宣言発令、日本人学校含む全ての学校が休校……とメディア(と くに日本の報道番組)眺め「あらまぁ、また香港のSARSの時と同じ」で一部の事態で市街全域が混乱のやうに見えるから。Z嬢によればNHKならNHKの 節操のなさ、はそんな混乱のバンコクを報道しつゝ、別なニュースでバンコクで今日から開催の国際ネットワークフェア、でNHKの地上波デジタル放送技術だ かの出展もあり?、で一般公開は明日から、とか。でマスコミのそんな報道過剰のなか香港の有線電視はバンコク市内での両派衝突を報道しつゝ、それのフォ ローでバンコク在住の香港人ジャーナリストが繁華街で「ご覧のやうに市街は平静を保ってをり、このデパートも銀行も平常通り営業、買物客も多く」と紹介。 現場はそんなもの。でバンコク在住のY氏に「非常事態宣言お見舞」で電話して聞いた話は、さらに事態悪化続けば電力、水道会社労組がストに入る可能性も多 少あり、それだけは回 避されることを願ふが(じつはタイ国鉄が先週からストしてゐるが鉄道など誰にも影響ないので(笑)海外で報道もされず)「雨期の最後の大雨の方が心配」 と。日本のバンコク政変報道眺め「私はこんな危険の渦中にゐるのかッ!」とそら恐ろしくなり(実際に混乱は王宮周辺のみ)、福田首相辞任知り「タイの首相 もこんなすんなり辞職してくれゝば」と苦笑して日本ではタイ政変の心配するよかみずからの国政を憂ふべきと感じる、と。御意。

九月朔日(月)毒入り餃子だのアタシも中国関連で鳥渡したニュースでは驚かぬが今日の蘋果日報トップ記事は「內地禁土葬 親人買遺體頂包火化 殺人賣屍 九兇徒落網 揭陽多人遇害」(土葬禁じる内地で土葬望む遺族が他人の遺体購入しての火 葬、これにメをつけ殺人犯して死体販売の凶悪犯9名逮捕、広東省揭陽で被害者続出)と。火葬にするご遺体価格は1万元。で商売になるから、と広東省の揭陽 市郊外の村で発生の連続殺人、蘋果日報は今年に入り少なくても四百人が殺害された、とする。日暮れ頃に帰宅してドライマティーニ二杯。安らかに週の始まり かしら。ニュースで見た露西亜のプーチン首相の虎退治、アンタは加藤清正公か、の出来過ぎ。夕食とりつゝNHKのNW9を見れば女性キャスターが今日から 夏休みで、と代理のキャスター紹介し、ニュースといへば「民主党が小澤君の代表続投でまとまる」だの(小澤民主党で自民党政権と何が変はるのか)、米国で ニューオリンズにハリケーン接近だの(なぜNHKの記者が敢へて現場から生中継せねばならぬのか)、アフガニスタンで亡くなつたNGOメンバーの「悲しみ の帰国」と告別式だの(メディアを前に両親がなぜあんなにきちんと名優のやうに語れるのかしら?)と思ってぼんやりテレビニュース眺めてゐれば突然の福田 首相辞任のニュース。八時半より緊急の首相記者会見の生中継。福田二世「民主党の度重なる審議拒否や引き延ばしだの」と苦情訴へるが審議拒否など旧社会党 でも対自民の常套手段。「次の自民党総裁のもとで体制を整へた上で国会運営」と言ふが実際には福田君の麻生嫌ひは明らか。と思へば実はこりや政界大編成の 始まりぢやないか、と思ふ。それを「含み」での辞任決意。記者会見での質問で朝日のイトウなる記者が「総理辞任こそ政治不信を招くのでは?」と突つ込んだ が、事実、いま辞めなければならぬ明らかな理由なし。記者質問の最後で中国新聞の記者がいみじくも質したのは「いつも記者会見でも総理は国政を他人事のや うに語つてゐた」といふこと。これについて福田君は「私は自分自身を客観的に見ることができる」と言ひ切つた上で記者に対して「あなたとは違ふ!」ともう 悲しいかな、こんな一言とは。福田君に対しては明確な政治意思や路線を示せずといふ不満が多いが、築地のH君やアタシらの感覚では今回の改造内閣でこれだ け明確に「反小泉・反安倍」路線を敷いただけでも自民党内のバランス感覚で「民主党にはさう易々と政権は渡せぬ」の決意と思ったが自民党には明らかに不利 なこの突如の辞任。福田内閣のまゝでの解散総選挙では自民党では福田路線で「反新自由主義」「反新保守主義」「アジア外交重視」の看板を挙げれば(それが 有権者には響かず)民主党が逆目をはって構造改革路線や前原的な極右路線の勃興など可能性なきしもあらず。それを回避できたのかも知れぬことを福田二世へ の最後のはなむけの言葉としよう。自民党が次は麻生、民主党は小澤、でこんな与野党対決ではかつての自民党の田中、福田、大平といった派閥領袖競走以下。 かりに小沢民主党政権実現でも何も変はらず。それなら自民党から主犯福田君、ハト派の大看板河野衆議院議長始め後藤田君らは出て、民主党から前原某だの右 派や旧社会党左派出身でも政権ゴロ的な連中は出て、および他野党含めた(公明党を除く……笑)政権の大再編成以外ないでせう、で実はこの首相辞任は福田君 の大芝居、政界大改編狙った「シャッフル」説、となる。さうでも考へないと、新総理にふさはしいのは?が構造改革右派の小池百合子といふことになり、お利 口な有権者の皆さんが安易なヒロイン待望論で彼女を圧倒的に支持しかねないのが怖いし、FT紙までもが社説(2日)“Japan changes to more of the same”
Mr Fukuda’s decision is probably the right one; if the LDP is to have a chance at the next election, it needs a more charismatic leader. A change in leader, however, will not mean a new manifesto. It will be more of the same. Change will need a rare event to take place: a change in ruling party.
なんて期待だかアキラメかわからぬ論評。どうであれそれにしても惜しまれるのは福田首相夫人の貴代子さん。もう少し妃殿下ぶり楽しみたかったところ。福田 首相辞任で「後任は妻に」も面白かった鴨。またNHKでもNW9の女性レギュラーキャスター某にしてみれば自分が夏休みとったら、こんな一大事で一世一代 の舞台をピンチヒッターに取られてしまって旅行先で地団駄踏んでゐるのかしら。ところでアタシ自身の在外選挙人証、平成12年6月の第42回衆議院比例代 表選出議員選挙に始まり7回まで投票記録欄のあるカードがあと1回残すばかり。国政選挙などいつ続いてあるかもわからぬのだから予め選挙人証の更新はでき ぬのか?と郷里の選挙管理委員会に問ひ合はせれば選挙人証は記入欄が使ひ終はらぬと更新できぬ、との回答。そんな事務的な理由で選挙の投票の機会を逃すと したら国内での通常投票ではあり得ぬのだから不公平ではないか?と指摘したが地方の選挙管理委員会レベルでは真ッ当な判断できるはずもなし。衆議院選挙を 待つばかり、だが政界的にはまだ暫く準備期間が必要だらう。

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